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50 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:44:07.94 ID:W1tAHp8so

 

 

 

泉の村

 

 

妹「……」

 

妹(水面に映っている私……帽子をかぶって角を隠していれば、人と同じ姿なのに)

 

妹(どうして魔族と人は争うのかしら?種族が違ったって、仲良くなれるはず)

 

 

 

青年「っご、ごめん!待った?」バタバタ

 

妹「あっ!ううん!さっき来たところ……」

 

青年「師匠の自慢話が長引いちゃってさ。見習いの身分だから、僕も強くは言えないんだ」

 

妹「お疲れ様。……あはははっ」

 

青年「な、なんだい?顔に何かついてた?」

 

妹「鼻の頭に汚れ、ついてるわ。とってあげる」

 

青年「え、あ、ははは……かっこわるいな、僕」

 

妹「ねえ、今日はどんなお話する?」

 

 

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51 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:46:03.45 ID:W1tAHp8so

 

 

 

妹「それでね、兄さんったら、私が作ったケーキを食べたら白目剥いて倒れちゃったの。

  起きたら涙目になりながら、もうお前は厨房に立つなって言ってきて。失礼しちゃう」

  

青年「あははは。君とお兄さんは仲がいいね」

 

妹「よくないわ。いっつも意地悪ばっかりするんだから」

 

青年「会ってみたいな、君のお兄さん」

 

妹「今日も一緒に行こうって誘ったんだけど、断られちゃった」

 

青年「前も聞いたかもしれないけど……君はどこの村に住んでいるの?この近くなんだろう?」

 

妹「え?あ、えっと。ここから、ちょっと北に行ったところ……かな?」

 

青年「北、か。もしかして風の村かな?」

 

妹「う、うん。あ、ごめんなさい、そろそろ帰らなくちゃ」

 

青年「送っていくよ」

 

妹「いいの!大丈夫。あの、あの……またここで待ってていいかしら?」

 

青年「それは、もちろん!でも、やっぱり送ってくよ、あ、待って!」

 

妹「大丈夫だから!じゃあまたねっ!」

 

 

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52 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:48:17.85 ID:W1tAHp8so

 

 

 

妹(……今日もいっぱい話せた)

 

妹(……ふふふ。だめだわ、顔が勝手に笑っちゃう。また兄さんにからかわれるわね)

 

妹「えへへ……」

 

 

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53 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:50:05.28 ID:W1tAHp8so

 

 

 

* * *

 

 

<大蛇の攻撃!剣士はかわした!>

<剣士の攻撃!大蛇はひらりとかわした!>

 

 

剣士「ああああーもおおお!」ブン

 

 

<勇者の火炎魔法!>

<大蛇は逃げ去った!>

 

 

勇者「ふう……」ボロ

 

剣士「な、なんかすごい威力だね」ボロ

 

勇者「ありがとう……。でもそろそろ魔力が尽きそうだ。えーと、地図を見る限りもうすぐ村が見えてくるはずなんだけど」

 

剣士「ちょっと待ってて」スタッ

 

勇者「剣士?」

 

剣士「木に登って見てみるよ」

 

勇者「だ、大丈夫?」

 

剣士「村にいたとき、勇者より私の方が木のぼり得意だったの忘れた?よいせっと」

 

剣士「……あ!あったよ!村!!」

 

勇者「あー助かった」フラフラ

 

 

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54 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:52:56.82 ID:W1tAHp8so

 

 

 

日の出の村

 

 

 

勇者「よ、よし。とりあえず宿屋を探そう。目がかすんできた」フラフラ

 

剣士「勇者大丈夫!?魔法って結構疲れちゃうの?」

 

勇者「まあ使いすぎると少しだけ…… ああ、あった。宿屋」

 

 

勇者「すいませんとりあえず至急2人分お願いします。大至急」

 

宿屋主人「あいよ。2人分ね~。兄ちゃん随分疲れとるみたいだけど平気かい」

 

勇者「は……はい」ガクッ

 

剣士「勇者ぁぁぁあ」

 

宿屋主人「本当に大丈夫かいね、……ん?んん!?お前さん、肩のその、王国の紋章はもしかして?

     それにお嬢ちゃん、いまなんて呼んだんだ?」

     

剣士「え……勇者だよ」

 

宿屋主人「勇者!?!?あの!?よっしゃ助かった!!!」ガタッ

 

宿屋主人「村の皆ぁ!勇者様が助けに来て下さったぞおおお!!」

 

 

ブオォォォォォォォン

 

 

勇者「ホラ貝!?」

 

村人「うおおおおおお!!本当かあああ!!助かったぞおおお!!」バタン

 

村人「いやあどうなることかと思ったが勇者様が来てくれたとあれば安心じゃあああ」バタン

 

村長「勇者様!!誠に勇者様でおわしますか!!その王国の紋章!!よく見せて下され!!!」ガクガク

 

勇者「ちょ……待って……首もげっ…… ガハッ」

 

剣士「うわーーーーーーっ!おじさんやめてよ勇者死んじゃうよーーーーーっ!!離れてーーーっ!!」グイグイ

 

村長「いやああああああああ!離れるからわしの残り少ない大事な毛を引っ張らないでええええええええ!」

 

 

 

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55 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:55:24.95 ID:W1tAHp8so

 

 

 

* * *

 

 

 

勇者「洞窟……ですか」

 

村長「いかにも。最近村の外れの洞窟に何かよからぬものが棲みついてしまったようでしてなあ。

   どうもコウモリの群れらしいのですが」

   

剣士「コウモリ駆除?」

 

村長「ただのコウモリだったら村の若い衆が何とかできるのですがねえ、どうにも魔物みたいなんですよ。 

   そこで!!王都よりいらっしゃった勇者様に!!我らの村を魔物よりお助け頂きたいのです!!」ガシ

   

勇者「わ分かりました、分かりましたから。明日の朝に様子を見てきます」

 

村長「おおなんと頼もしい!いやー流石ですなあ。頑張ってくださいませ!」

 

勇者「ハハハ……」

 

 

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56 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:59:02.97 ID:W1tAHp8so

 

 

宿屋

 

 

剣士「じゃあ勇者、おやすみ」

 

勇者「おやすみ」

 

剣士「……」

 

勇者「?」

 

剣士「いや、なにも言わないんだなって思って。明日のこと。またついてきちゃだめだーって言われるかと思ったのに」

 

勇者「言って聞く君じゃないなって思ったのさ」

 

剣士「アハハ、その通りだよ。明日頑張ろうね!おやすみ」

 

 

勇者(……なんてな。明日は剣士が起きる前にさっさと洞窟に行って魔物かどうか確認してこよう)

 

勇者(早く寝て魔力回復させないと。よし、寝よう……)

 

勇者(……)

 

 

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57 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 21:01:58.23 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

 

剣士「勇者?勇者、いるの?」コンコン

 

剣士「……入るよ」ガチャ

 

剣士「…………」

 

剣士「勇者、起きて。洞窟行かなくちゃ」

 

勇者「……う……ん。行く行く……行きます……」

 

剣士「朝弱いの変わってないね。でも昨日すごく疲れてたみたいだし、仕方ないのかも」

 

勇者「……」

 

勇者「ん!?」ガバ

 

剣士「うわっ 急に起きた」

 

勇者(なんで剣士がここに?…………あれっ。僕もしかして寝過ごした?)

 

剣士「ほら、よだれ垂れてるし髪ぐしゃぐしゃだし、まず顔洗ってきて」

 

勇者「あ……ああうん」

 

勇者(うわあああ……完全に寝過ごした……ハァ)

 

 

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58 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 21:06:50.60 ID:W1tAHp8so

 

 

 

剣士「髪、縛ってあげるよ。はい、鏡の前の椅子に座って」

 

勇者「髪なんて適当に括るからいいよ」

 

剣士「私がやりたいのっ。……ねえ、髪伸ばしたんだね。最初見たときちょっとびっくりしたんだよ」

 

勇者「願掛けだよ。魔王を無事倒せるようにってさ」

 

剣士「ふうん。おまじないみたいなもの?」

 

勇者「剣士は……髪切ったんだね。長くてきれいな髪だったのに」

 

剣士「だって剣で戦うのに邪魔でしょ?だから思い切って短くしちゃった」

 

剣士「……変かな?」

 

勇者「いや。そんなことないよ」

 

剣士「…………」

 

剣士「……じゃあじゃあ、どう思う?似合ってる?かわいい? ちゃーんと言ってね!ほらほら早く!」

 

勇者「似合ってるし、かわいいよ」

 

剣士「え」

 

剣士「…………………はいもうおしまい!できたよ!完成!」クルッ

 

剣士「もーーっ!なんで私がこうなるのっ。意味わかんない!ばか!」

 

勇者「ええっ なんで怒ってるんだ。本当にそう思ってるって。かわいいよ」

 

剣士「うあああーーーーっもういいから全部忘れて!なんでもないのゴメンね!じゃあ宿屋の外で待ってるから着替えしてきてね!」ダッ

 

 

ドタバタ ドンガラガッシャン バリーン ドタンバタン バタン

 

 

勇者「うわっ 音から察するにまた窓ガラス割ってる!早く行かないと」

 

 

 

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66 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/15(日) 13:41:26.00 ID:sFf3By1Ho

 

 

 

村の北の洞窟

 

 

剣士「ここが魔族かもしれない生き物が棲みついてる洞窟だね」

 

勇者「うん……まあ」

 

剣士「よし、気合い入れてかなくっちゃ!行くよ勇者!」

 

勇者「あのさ」

 

剣士「うわあ真っ暗。ちょっと不気味だなあ」

 

勇者「……。もうついてくるなとは言わないから、せめて僕から離れないでね」

 

剣士「うん分かった!」

 

勇者「あれ?その木刀どうしたの?」

 

剣士「村長さんに貸してもらったの。武器屋さんで買った剣重くって全然攻撃当たらないんだもの」

 

勇者「そっか。確かに木刀の方が軽いし振りやすいかもね」

 

剣士「今日は私も活躍するから!」

 

 

 

 

勇者「結構大きい洞窟だね。今のところ何も見当たらないけど……奥までどれくらいなんだろう」

 

剣士「……本当に魔族がいるのかな?」

 

剣士「だって、私たちの国はまだ塔が魔族に占領されてないんでしょ?

   女神様がまだ国を護ってくれてるはずなのに、どうやって魔族がここまで入ってこれたの?」

   

勇者「女神の守護はそもそも3つの塔で完成するものらしいから、一つでも欠けた時点で完全な守護とは言えないけど」

 

勇者「なんでも、力の強い魔族ほど女神様の聖なる力に阻まれてこっちの国への侵入が困難になるらしいよ。

   逆に言うとあんまり力のない魔族は意外とすんなり入り込めてしまうんじゃないかな」

   

剣士「そういう仕組みなんだ。じゃあ、この洞窟にいるかもしれない魔族も、そんな強くないんだね。よかったー!」

 

勇者「油断はしない方が……、あ」

 

 

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67 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/15(日) 13:47:30.79 ID:sFf3By1Ho

 

 

 

バサバサッ!

 

<吸血バットABCDEが襲いかかってきた!>

 

 

 

剣士「うわ……! なに……!? コ、コウモリっ?」

 

勇者「いや」

 

 

<吸血バットの超音波攻撃!>

<剣士は平衡感覚を失った!>

 

 

剣士「あれっ……?」フラフラ

 

勇者「剣士! いまの攻撃、やっぱりこの洞窟にいるのは魔族なのか」

 

勇者「じゃあ殺さないと」

 

勇者「剣士は下がってて」スッ

 

剣士「勇者?」

 

 

<勇者の全体火炎魔法!>

<吸血バットABCDEは死んだ。>

 

 

勇者「まだ奥にもいるな。入り口から一本道で助かった。一匹も逃がさず消さないと」

 

剣士「えっ……?」

 

勇者「魔族だったなら全部殺さないと……そうしないとあの村の人たちが安心して暮らせないしね」

 

剣士「あ……うん、そうだよね」

 

勇者「どうかした?」

 

剣士「ううん。……ちょっとびっくりしちゃっただけ。

   村にいたときは勇者ってあんまりそういうの好きじゃなかったじゃない」

 

勇者「そういうの? よく分からないけど、死体を見たくないなら今のうちに引き返した方が」

 

剣士「ううんなんでもない。……私も一緒に戦うよ」スッ

 

剣士「勇者、伏せて」

 

勇者「えっ?」

 

剣士「おりゃあっ!」

 

 

バット「ギャッ」

 

<剣士の攻撃!>

<吸血バットFGを殺した。>

 

 

勇者「いつの間に後ろに――」

 

剣士「さっ、奥に進もう」ニコ

 

勇者「……ああ」

 

 

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68 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/15(日) 13:48:42.36 ID:sFf3By1Ho

 

 

 

……

 

<勇者の全体火炎魔法!>

<吸血バットGHIJは死んだ。>

 

……

 

<剣士の攻撃!>

<吸血バットKLは死んだ。>

 

……

 

<吸血バットMNOPは死んだ。>

 

……

 

……

 

 

剣士「魔族って言っても、本当にあんまり強くないね。あの変な鳴き声さえなければ普通のコウモリと変わらないよ」

 

勇者「そうだね。もう随分奥まで進んだし、そろそろ終わりかな」

 

 

ギギギギギギ……

 

 

剣士「……」

 

勇者「……」

 

剣士「なんか今奥から聞こえた?」

 

勇者「気のせいじゃないかな」

 

剣士「絶対違うよ!!聞こえたよ!!コウモリにあるまじき鳴き声が聞こえたもんね!!

   ねえ、一旦引き返そうよ!嫌な予感しかしないよー!」

   

勇者「剣士だけ先に帰っててくれ」スタスタ

 

剣士「もうそればっかじゃん!ねえ勇者ってば…………」

 

剣士「~~私も行く!置いてかないで!」

 

 

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69 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/15(日) 13:54:05.56 ID:sFf3By1Ho

 

 

 

勇者「ここが最奥……広い空間にでたな。上の方に何か蠢いてるのが分かるけど、ランプの灯りが届かないせいでよく見えないな」

 

剣士「『蠢いてる』時点でヤバイ香りがぷんぷんするよおおお 字面が既にこわいよおおお」

 

勇者「火炎魔法で辺りを照らしてみよう。ちょっと下がっててくれないか」

 

剣士「ええっ……そんなことしたら怒らせちゃうんじゃ……」

 

 

<勇者の火炎魔法!>

<吸血バットのボスが勇者たちに向かって飛んできた!>

 

 

ボス「ギギギギギギギギギギ……!」

 

剣士「いやあああああああああ!コッココココココウモリっていうレベルの大きさじゃないいいい!」

 

勇者「普通に僕たちくらいの大きさがあるな……これに血なんて吸われたら一気に出血死だ」

 

剣士「そうだね!!死んじゃうね!!」

 

 

<勇者の火炎魔法!>

<ボスバットはひらりとかわした!>

 

 

勇者「避けられるな。せまい道におびき寄せて戦った方が有利か。剣士、こっちに!」

 

剣士「えあっ、あ、うん!」

 

 

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70 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/15(日) 13:57:15.15 ID:sFf3By1Ho

 

 

 

 

<勇者の火炎魔法! ボスバットにダメージを与えた!>

<ボスバットの超音波攻撃!>

 

 

剣士「うっ……また……」

 

 

<勇者は異常回復魔法を唱えた!>

 

 

勇者「大丈夫?」

 

剣士「あ、治った。うん平気!よ、よよよっし、勇者は下がっててね!私が前衛やるからね!」

 

勇者「えっ いや別にいいよ!?ていうか木刀じゃあ……」

 

ボスバット「ギイイイィィィィィ!!」バッ

 

剣士「ひえええええええええ顔怖いぃぃぃぃぃぃぃっうわああああああああ」

 

 

<剣士の渾身の一撃! ボスバットにダメージを与えた!>

<ボスバットは動かない>

 

 

剣士「や……やった?やった!倒したよ勇者!み、見た?」

 

勇者「う、うん、見た」

 

剣士「あーんめちゃくちゃこわがっだぁぁぁぁなにこれぇぇぇ」

 

勇者「すごいじゃないか。ありが――、!」

 

勇者「危ない!」グイ

 

剣士「え?なに?」

 

 

ガブッ

 

 

<ボスバットの吸血! 勇者にダメージを与えた!>

<ボスバットは体力を回復させた!>

 

 

剣士「なっ……、え!?まだ生きて……」

 

剣士「こ……この!化け物っ!!勇者から離れて!!」ブン

 

ボスバット「ギッ」

 

勇者「よし」

 

 

<勇者の火炎魔法!>

<ボスバットは炎に包まれた!断末魔が洞窟に響いた!>

<ボスバットを殺した。>

 

 

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71 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/15(日) 14:00:03.21 ID:sFf3By1Ho

 

 

 

勇者「終わったな」

 

剣士「勇者、腕……大丈夫!?貧血になってない!?」

 

勇者「ちょっと目眩がするくらいだからだいじょモガッ」

 

剣士「しっかりして勇者!!薬草食べて!!いっぱい持ってきたからっ!死んじゃだめだよ勇者あああ」

 

勇者「いや薬草はもういモガッ 息できなガフッモガ 死っ……」

 

剣士「勇者ーー!!!! いやーーーっ!!!!」

 

 

 

<GAME OVER...>

 

 

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72 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/15(日) 14:01:19.24 ID:sFf3By1Ho

 

 

 

村長「勇者様?勇者様どうなさいましたかの!?」

 

勇者「ハッ…… という夢を見たんだ」

 

剣士「洞窟にいる魔族は全部倒したから、もう大丈夫だよ」

 

村長「いやあ有り難い!!どうもありがとうございました!!これで村の皆も魔族に怯えずに安心して暮らせます!

   お礼にコレ、村一同から勇者様と剣士様に!!」

   

勇者「なんですかこれ?」

 

村長「村の特産品のたばこです!!!風呂敷にいっぱい包んだので勇者様もどうぞ嗜まれてみては如何でしょう!!

   一本吸えば嫌なことも辛いこともすぐに忘れられますよ!!」

 

勇者「え? あ、あー……ありがとうございます」

 

剣士「ねえ村長さん。この木刀ありがとう。返すね」

 

村長「いえその木刀もよろしければ差し上げますよ」

 

剣士「本当?いいの?」

 

村長「ええ、ええ、どうぞどうぞ。剣士様に使って頂けるならば木刀も嬉しいでしょう」

 

剣士「ありがとう!」

 

 

 

<勇者と剣士は「ちょっと怪しい煙草」と「木刀」を手に入れた>

<二人は村を発った>

 

 

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76 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 19:31:59.26 ID:7fl1MAfAo

 

 

勇者「なんか変な村だったなあ」

 

剣士「そう?おもしろい人たちばっかりで楽しかったよ」

 

勇者「う、うーん……そう?」

 

剣士「次はどこに行くの?この道まっすぐかな」

 

勇者「確かそのはずだと思うよ。次は確か……弓使いの里だ」

 

剣士「へえ。誰か仲間になってくれるといいね」

 

勇者「ほんとにね」

 

 

 

剣士「ねえ、ところで。その煙草どうするの?」

 

勇者「どうしようか。次の村で売ろうか」

 

剣士「えーーっ 売っちゃうの!?」

 

勇者「僕も君も煙草なんて吸わないだろう。それにちょっと……なんか……危ない気配を感じたし」

 

剣士「せっかくだから吸ってみる?」ワクワク

 

勇者「僕の話聞いてた? 絶対だめだからね」

 

剣士「ちえ。勇者のケチ」

 

 

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77 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 19:37:45.85 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

 

* * *

 

 

泉の村

 

 

妹「はあ…はあ…」タッタッタ

 

妹(ちょっと遅くなっちゃった……。あ、青年さん。もう泉で待ってる)

 

妹「ごめんなさい!遅れてしまって……!」

 

青年「あ……。大丈夫だよ、僕もさっき来たばっかりさ」

 

妹「あの、今日はアップルパイ焼いてきたの。甘いものって好き?」

 

青年「え!!だ、大好物だよ。食べていいのかい?」

 

妹「もちろん。城の料理長に聞いていっぱい練習したから、おいしいと思うの……たぶん」

 

青年「城?料理長……?」

 

妹「あっ……」

 

青年「君って、もしかして貴族のお譲さんなのかい?」

 

妹「やっ違……あの……冗談よ冗談!そういう冗談なの!えへへ」

 

青年「はは、なんだ。驚いちゃったよ」

 

妹「ふふふ……」ダラダラ

 

 

 

 

 

 

青年「あのさ。この間……うちの親に君のことを聞かれたんだ」

 

妹「私のことを?」

 

青年「いろいろ話したら、君に会いたいって盛り上がっちゃって……よかったら、今度僕の家族に会ってみないかい」

 

妹「あ、うん。えっと……」

 

青年「い、嫌なら全然いいんだ、断ってくれて!ごめんね、急にこんなこと言いだして!」

 

妹「嫌じゃないの!ええとね……夕暮れ時、なら大丈夫だと思うの」

 

青年「夕暮れ時、か。すごく嬉しいんだけど、いつも僕たちがここで会うのも夕暮れの時だね。

   なにか昼に用事でもあるのかい?」

   

妹「ちょっとね。えへへ」

 

妹「あっ、もう時間だわ。帰らないと」

 

妹「お父様とお母様に会える日を楽しみにしてますね。じゃあ、また今度!」タッ

 

青年「僕も楽しみにしてるよ。ありがとう……って、速いな……彼女」

 

 

 

タッタッタ……

 

 

妹「ここらへんでいいかしら…… 転移魔法」シュン

 

 

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78 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 19:42:35.24 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

 

魔王城

 

 

 

妹「ふう。 なんだかあっという間だったわ…… もっとお話できたらいいのに」

 

妹「でも夕暮れ時じゃないと、私の目が赤いってことばれちゃうし。

  赤目の人間なんていないものね……あーんもう!変身魔法が得意だったらよかったのにぃぃ」ガンガン

  

兄「なに一人で壁を殴ってるんだ。やめなさい」

 

妹「兄さん!」

 

兄「父上の部屋には行ったか?この間伝えただろう」

 

妹「あ、うん。行ったけどお父様体調が悪かったみたいで、お話聴けなかったわ」

 

兄「なら今日は体調が優れてるみたいだから会いに行くといい」

 

妹「そうする……。……ねえ兄さん。お父様大丈夫だよね?病気治るよね」

 

兄「だといいが……あんまり楽観視はできないな。……」

 

妹「お父様がもし亡くなったら、兄さんが魔王を継ぐのよね」

 

兄「そうなるだろうな」

 

妹「……そう。……に、兄さんは」

 

兄「なんだ?」

 

妹「……ごめんなさい。なんでもないわ。じゃあお父様のところに行ってきます」

 

兄「おい? なんなんだ……」

 

 

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79 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 19:47:40.67 ID:7fl1MAfAo

 

 

バタバタ

 

 

兄「……ん?」

 

ハーピー「あ、王子様。こんばんは」

 

兄「どうした?そんなに慌てて」

 

ハーピー「それが、秘薬をつくるための月下草の在り処が分かったんですよ!!!」

 

兄「秘薬?一体なんの……」

 

兄「……ああ。お前の息子のためか。確かあいつは……」

 

ハーピー「ええ、不治の病に冒されております。でも、月下草が見つかればまた元気な姿を見せてくれるはずです。

     ああ、本当によかった……これから草を取りに行こうと思ってるのですよ」

     

兄「そうか、それはよかった。月下草はどこにあるんだ?」

 

ハーピー「太陽の国の山奥です」

 

兄「なに?人間領に草を取りに行くのか? 危険だろう」

 

ハーピー「雲の上を飛んでゆくから大丈夫ですよ。

     人も住んでない山にあるそうですから、人間に見つかることもないでしょう」

 

兄「あの塔を制圧するまで待てないか?そうしたら俺がとりに行ってやろう」

 

ハーピー「もうあまり時間がないのですよ。最近あの子の体調はどんどん悪くなるばかりで……早く治してあげないと。

     心配しないでください。私なら大丈夫です」

 

兄「そうか?」

 

ハーピー「魔王様のご病気も、秘薬で治ればいいのですが……」

 

兄「父上の病を治す手立てはない。気にせず息子のためだけに使え」

 

ハーピー「ありがとうございます。ではさっそく行ってまいります」

 

兄「気をつけろよ」

 

ハーピー「はい。息子のために必ず月下草を持ち帰ってみせますよ」

 

 

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80 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 19:52:48.84 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

妹「お父様……?」

 

魔王「ああ、来たか。入れ」

 

妹「今日はお身体大丈夫なんですか?」

 

魔王「ああ……」

 

魔王「そこに座れ。お前に話がある……」

 

妹「は、はい」

 

魔王「いいかよく聴け。私がいなくなった後はお前の兄と力を合わせて魔族を護り抜くのだぞ」

 

魔王「お前は魔力は兄に及ばぬが、夢見の力がある……遙か未来を見通す力がな……

   お前の母、私の妻ももっていた力だ。その力をもってして必ずや我らの悲願を達成しろ」

   

魔王「人間を全て我らの支配下におくのだ。お前は魔王の娘だ……そのことを一時たりとも忘れるでない。

   私亡き後もお前の使命をまっとうしろ」

   

妹「わ……私、私……そんなこと……できません」

 

魔王「何故だ。何を迷っている」

 

妹「私は……わ、私……人が好きです」

 

魔王「……」

 

魔王「……ハァ……」

 

妹「……ぅ」

 

 

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81 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 19:55:47.42 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

 

魔王「……娘よ」

 

妹「……っ!」

 

魔王「私も人には感謝しておる……」

 

妹「……えっ?」

 

妹「じゃあ……!」

 

魔王「人間の存在があったおかげで魔族を統一できた。魔族同士に向かう敵意の矛先を束ねて全て人間に向けることができた……

   人間どもには憎しみと蔑みと同じくらいの感謝の念を持っておる」

   

妹「……」

 

魔王「この戦争の始まり……あいつらが火蓋を切らなければ私がそうしていただろう。

   しかし事実戦いを挑んできたのは紛れもなく人間どもだ。それでもお前は人間が好きか」

   

妹「でも……」

 

魔王「……ハァ。これでは私もまだ妻に会いにいけないな。

   ゴホッ……戦争の始まりを、お前の兄に聴け。人間がなにをしたのかをな……」

   

魔王「そうすればお前も考えを改めるだろう。もうよい、下がれ……」

 

妹「……は」

 

妹「はい……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

82 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 20:01:32.09 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

* * *

 

川沿い

 

 

剣士「ん~~~~~」

 

勇者「うーん……おかしいな?地図によるともう弓使いの里が見えてもいい頃なんだけど」

 

剣士「ねえ!私たち毎回道に迷うよね!!」

 

勇者「なんだろうね、これ」

 

剣士「よし、私にまかせて。こうやってね、棒を道に立てて」

 

勇者「あ。地図これ北と南を逆に見てたな」

 

剣士「ねえ聞いてよ無視しないで」

 

勇者「僕たち真逆に進んでたみたいだ。あはは」

 

剣士「あははって……笑いごとじゃないよ、もー」

 

 

 

 

数時間後

 

 

剣士「あ!あった!!見て勇者、あの崖の上!町がある!」

 

勇者「よかった……野宿にならなくて。行こうか」

 

剣士「うん、―――あ」

 

 

ビュオッ

 

 

剣士「ああっ、風で地図が飛んでっちゃった」

 

勇者「平気平気。風魔法」ヒュッ

 

剣士「便利だね、魔法って」

 

 

 

 

 

 

??「……」ジッ

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

83 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 20:07:18.75 ID:7fl1MAfAo

 

 

弓使いの里

 

 

勇者「やっとついた……けど、なんだかあんまり旅人を歓迎してない町みたいだね」

 

剣士「すっごい厳つい門だね!木の壁でぐるっと町が囲まれてるし。これ、どうやって町に入ればいいのかなあ」

 

勇者「とりあえずノック?」コンコン

 

剣士「門に!? そういう次元じゃないと思うんだけど」

 

勇者「すみませー……」

 

 

ドスッ!!

 

 

勇者「ん!?」

 

剣士「え、なにっ!?」

 

 

ドスドスドスッ!!

 

 

勇者「矢だ。どこから……とりあえず『風の壁』!」ビュオ

 

??「その魔法……やっぱり魔族……」

 

剣士「だれ!?」

 

狩人「去れ。魔族。去らなければ射る」

 

勇者「ま、魔族?違うよ、僕たちは……」

 

狩人「射る。五臓六腑に叩きこむ。ハリネズミも真っ青の剣山状態にする……」

 

剣士「なんかめちゃくちゃこわいこと言ってるよ!!」

 

狩人「じゅう……きゅう……はち……」

 

剣士「ええっ!?いきなりなに!? やばいよ、勇者、私たち剣山になるよ!」

 

勇者「お、落ち着いて。話せばわかるはずだ」

 

狩人「なな……飽きた……いち……ぜろ」

 

勇者「君カウントダウンの意味知ってる!? うわっ!!」ドッ

 

狩人「宣告はした。猶予も与えた。お前たちを敵とみなす」

 

 

<狩人が襲いかかってきた!>

 

 

剣士「猶予与えられてないんですけど」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

84 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 20:12:52.28 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

勇者「待ってくれ!さっきの魔法は僕が勇者だから使えるってだけで……」

 

狩人「勇者?」

 

狩人「……」

 

勇者「……」

 

狩人「勇者には見えない。あり得ない」

 

勇者「うっ……」

 

剣士「あーっ!勇者が気にしてることをさらっと言った!いけないんだー!」

 

狩人「ここらへんは獣も強い。魔族じゃない人間が、二人だけで徒歩でここまで来れるわけない。よってお前たちは魔族」

   

勇者「じゃ、じゃあこの王様から頂いた紋章を見、」

 

狩人「ごちゃごちゃうるさい」

 

 

ヒュッ パキン!!

 

 

勇者「……すごいな。あんな遠くから紋章を射るなんて」

 

剣士「のんきに関心してる場合じゃないよー!!」

 

 

<狩人の攻撃!数多の矢が勇者と剣士に降り注ぐ!>

 

 

勇者「だから人間だってば!!」

 

剣士「いやーーーっ」

 

 

里長「むっ!?あれは!?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

85 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 20:14:49.53 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

里長「いやはや、若いもんが失礼したね。大丈夫だったかい」

 

勇者「……はい」ボロッ

 

剣士「こわかった……魔族より怖かった」ガタガタ

 

里長「本当に大丈夫?」

 

勇者「里長さんが来てくれて助かりました……」

 

 

勇者「この里は魔族に襲撃されたことがあるのですか?随分警戒されてるようですが」

 

里長「いや、幸いなことにまだないよ。

   ただ夜更けなんかに空を飛んでいる魔族の姿が度々目撃されているんだ」

   

里長「この里でなく、里を越えた山にどうやら用があるみたいなんだが……一体何が目的なのやら。

   化け物の考えることはよく分からん」

   

里長「おかげで狩猟を生業にしている俺たちは、森奥まで獲物を追えなくなっちまって困ったもんさ」

 

剣士「狩猟が生業? だから弓使いの里なんだ」

 

里長「そうさ。俺たちの弓術は王国一!さっき君たちが苦戦した彼女が、今の里でナンバーワンの実力者だな」

 

勇者「そういえば、彼女はどこに?」

 

里長「えーと……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

86 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 20:16:10.37 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

 

狩人「……」ギュ

 

狩人「……」パッ

 

 

ガッ!!

 

 

剣士「すごーい、百発百中!」

 

勇者「君が里一番の弓の使い手なんだってね」

 

 

パチパチ

 

 

狩人「……ああ。……あの」

 

剣士「え?なに?」

 

 

パチパチパチ

 

 

狩人「さっきは……その」

 

勇者「ん?なんだい」

 

 

パチパチパチパチパチパチ

 

 

狩人「だ、から」

 

剣士「え。全然聞こえないよ。なに?」

 

 

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 

 

狩人「うるさい」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

87 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 20:21:03.73 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

狩人「だから。悪かったと言っています。さ……さっきは」

 

勇者「もう気にしてないよ」

 

狩人「勇者がいることは長から聞いてた。けど。本当に勇者だと思わなかった。あなたが」

 

狩人「強そうに見えません。あんまり。だから嘘だと思った。ごめんなさい。勇者には見えません」

 

勇者「あ……うん……」

 

剣士「狩人ちゃーん、謝るフリして勇者の心にダメージ与えるのやめて!歯に衣着せよう、ねっ!」

 

狩人「……」ジッ

 

勇者「……?」

 

狩人「筋肉が足りない。と思います。多分強いから。魔王は。もっと鍛えた方がいいです」ペタペタ

 

勇者「ええ? ちょっと……」

 

剣士「……」

 

狩人「とくに腕の筋肉。重要です。あと、こことここ、まず鍛えるべき」

 

勇者「わ、分かったから」

 

剣士「……なんで顔赤くしてるのかなっ勇者は。勇者のエッチ」

 

勇者「してないだろ!?ちがうよ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

88 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 20:23:35.69 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

 

狩人「あなたは」

 

剣士「あ、私は剣士だよ。よろしくね狩人ちゃん!」

 

狩人「よろしく。剣……」

 

剣士「今は木刀なんだけどね、これからちゃんとかっこいい剣持つ予定なんだよ」

 

狩人「二人は強いですか」

 

剣士「強いのかなあ?私たち」

 

勇者「どうだろ。どうしてそんなこと聞くの?」

 

狩人「強いなら、頼みたいことある」

 

剣士「なあに?」

 

狩人「人助けしてほしい」

 

勇者「いいけど、だれの?」

 

狩人「私の」

 

勇者「? いいよ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

89 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 20:24:31.59 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

 

狩人「言ってた。長が」

 

狩人「勇者と言えば人助け。いわばパシリ。雑用係……無料のなんでも屋と」

 

剣士「えーーっあのおじさん裏でそんなこと言ってたのか!大人ってこわいね!」

 

勇者「知っちゃいけない面を知っちゃった気分だよ」

 

勇者「まあ、聞かなかったことにしよう。僕はなにも聞いてない。

   で、狩人が頼みたいことってなんだい?」

   

狩人「森に一緒に入ってほしい」

 

剣士「森……って、魔族がうろついてて危険なんだよね」

 

勇者「どうして森の中に入りたいの?」

 

狩人「ほしいものがある」

 

狩人「森の奥に生えてるという、ある草がほしいです」

 

狩人「月下草が」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

90 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 20:28:11.42 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

勇者「月下草?それって万病を治すっていう……あの?森の奥に月下草があるの?」

 

狩人「ある。らしい」

 

狩人「お母さんの病気を治すために必要……もう時間がない」

 

剣士「君のお母さん病気なの?」

 

狩人「……」コク

 

剣士「勇者の治癒魔法で治せないのかな?」

 

勇者「外傷はある程度治せるけど、病気は無理だ。神官もそうだと思う」

 

狩人「……」

 

勇者「そういうことなら、月下草をとりに行くのを手伝うよ」

 

剣士「私も手伝う!」

 

狩人「……恩に着る」

 

狩人「本当は森の奥に入るのは禁止されている。だから明日。日の出とともにこっそり一緒にきてほしいです」

 

勇者「分かった」

 

剣士「がんばろーね!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

91 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/16(月) 20:28:50.14 ID:7fl1MAfAo

 

 

 

バッサバッサ……

 

 

ハーピー「はあ……はあ……けっこう遠いのね」

 

ハーピー「ずっと雲の上を飛べば人の目につかないのはいいけれど、休めないからちょっと辛いわ」

 

ハーピー「でも、月下草さえ手に入れば……あの子もきっと元気になってくれる」

 

ハーピー「待っててね。お母さんが早く薬を作ってあげるからね」

 

ハーピー「そうしたら一緒に空を飛びましょうね。下から見る青空もきれいだけど、雲の上の空もとってもきれいなのよ」

 

ハーピー「ふふ。楽しみ」

 

ハーピー「待っててね」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

94 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/17(火) 15:17:42.99 ID:nnxKpSqzo

 

 

* * *

 

 

勇者「……」

 

剣士「勇者。目閉じながら歩くのやめて。ちゃんと起きてっ!

   これから森に入るんだよ、魔族と遭遇するかもしれないんだよ。しっかりして!」

   

勇者「おきてるよ……」

 

剣士「起きてないでしょ!焦点合ってないからね?虚ろな目しすぎ。

   あ。おはよう狩人ちゃん」

   

狩人「おはよう」

 

勇者「おはよう。じゃあ、森に入ろうか」ゴン

 

剣士「ちゃんと前見て!それ木!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

95 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/17(火) 15:19:30.35 ID:nnxKpSqzo

 

 

 

ザカザカ ザカザカ

 

 

勇者「もう森の半分くらいまで来たかな」

 

狩人「多分」

 

剣士「そろそろ魔族が出てくる頃かな。大分奥まできたよね」

 

狩人「……!」ピク

 

狩人「伏せて」サッ

 

剣士「え? っうあわあああああ!?」

 

 

ビュッ  ――ドッ!

 

 

狩人「魔族……!!」ニヤ

 

 

<ゴブリンABCが襲いかかってきた!>

<魔鴉が空から襲いかかってきた!>

 

 

 

狩人「あはっ……」

 

剣士「うわっ!敵だ!よし、行くよっ」

 

狩人「……」ビュッ

 

剣士「はぁ!――っあぁぁぁ!?」サッ

 

 

<狩人の攻撃!ゴブリンにダメージを与えた!>

 

 

剣士「わ、ああ、今、矢が頬を掠めたよ!あ、あ、危ないじゃん!ななななにするの?」

 

狩人「問題ない。当たらないように射った。剣士には」

 

剣士「で、でも今びゅって!びゅって聞こえた!耳元でっ。避けなきゃ当たってたよお」

 

狩人「避けなくてもよかった。ちゃんと剣士の1cm横を通過するように射った」

 

剣士「1cmって!!近いわ!!」

 

 

勇者「二人とも……敵を背にして喧嘩をしだすのはやめてくれ」

 

剣士「あっそういえば魔族は!?」

 

勇者「もう片付けた」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

96 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/17(火) 15:20:50.48 ID:nnxKpSqzo

 

 

 

勇者「それにしても狩人の弓術はすごいね。王都の弓兵にも劣らないんじゃないかな」

 

狩人「本当に!?」

 

勇者「え!? う、うん。嘘じゃない」

 

狩人「……私はお母さんの病が治ったら、王都に行って弓兵になる。つもり」

 

剣士「へー!そうなんだ」

 

狩人「それで……魔族を一匹残らず串刺しにするのが、夢」ニッコリ

 

剣士「へー!すっごいいい笑顔!眩しいや!」

 

 

勇者「どうして?」

 

狩人「……?」

 

勇者「どうしてそう思うの?」

 

狩人「……理由なんて、ない。強いて言うなら敵だから。それだけ」

 

狩人「先を急ぐ」スタスタ

 

 

――――――――――――――――――――――――――

97 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/17(火) 15:23:44.65 ID:nnxKpSqzo

 

 

 

山頂

 

 

狩人「あ……あった! これがあれば……」

 

剣士「これがゲッカソーなんだ。きれいな草だね。苦そう」

 

狩人「月下草」

 

剣士「ゲッカソー」

 

狩人「……」

 

勇者「無事見つかってよかった。じゃあ、山を降りよう」

 

 

ザッ……ザカザカ……

 

 

勇者「……?なんだ?村の人か……?」

 

狩人「それはない。魔族がでるのに、こんな森の奥まで来る無鉄砲で無謀な人間は私たちだけ」

 

剣士「ええー」

 

勇者「とすると」

 

 

 

ハーピー「…………!!」

 

勇者「……魔族か」

 

ハーピー「ewakgw! fjewoi!!」

 

剣士「な……なに??」

 

狩人「魔族だ。ふふ」サッ

 

勇者「下がって二人とも」

 

剣士「勇者こそ下がって。わわっ私が守るから!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

98 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/17(火) 15:30:18.69 ID:nnxKpSqzo

 

 

ハーピー「kfoepaf! jiwofmslkv!!」

 

勇者「……? 狩人、ちょっと待ってくれ。なんか様子がおかしい」

 

勇者(なんだ?威嚇じゃない……。どこを見ている? 月下草を見てるのか?)

 

狩人「何故止める?勇者」

 

剣士「あっ 来るよ!」

 

 

<ハーピーが襲いかかってきた!>

<ハーピーは空高く舞い上がった!>

 

 

勇者「!」

 

 

<ハーピーの かまいたち!>

<勇者たちにダメージを与えた!>

 

 

剣士「いたっいたたたたっ」

 

狩人「くっ……目が」

 

 

<再びハーピーの かまいたち!>

<勇者たちは動けない!>

 

 

勇者「ぐ、この……っ!」

 

 

<勇者は風魔法を唱えた!>

<かまいたちを相殺した!>

 

 

ダッ タタンッ!

 

 

狩人「よし」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

99 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/17(火) 15:38:16.06 ID:nnxKpSqzo

 

 

 

 

ハーピー「jfrioe!」

 

勇者「また来るぞ。もう一回僕が相殺するからその間に狩人、君が――」

 

勇者「あれ!?いない?一体どこに……」

 

剣士「あ……あの木の上」

 

狩人「勇者が魔法を使う必要はない。もう終わる。目を潰す」

 

狩人「……あはっ」

 

 

<狩人の攻撃! ハーピーの右目に矢が突き刺さった!>

 

 

ハーピー「ギャアアアァァァァァッ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

100 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/17(火) 15:45:03.06 ID:nnxKpSqzo

 

 

 

 

 

<ハーピーは大きくよろめいた!>

 

 

剣士「!! 今なら届く……っ!」

 

 

<剣士の攻撃!>

 

 

剣士「………………っう……!?」ピタ

 

剣士(涙…………!? まさか……)

 

狩人「剣士っ なにをして……」

 

ハーピー「ギャアアッ!ギャアアアア!」バッサバッサ

 

勇者「危ない!」グイッ

 

 

<勇者の風魔法! ハーピーの首を斬り落とした!>

 

<ハーピーを殺した。>

 

 

剣士「あっ……!」

2 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:21:18.95 ID:W1tAHp8so

 

 

 

プロローグ

 

 

 

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3 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:22:04.77 ID:W1tAHp8so

 

 

ザザーン……ザザーン……

 

 

 

子ども「…………」

 

子ども「すこし風が冷たくなってきたな」

 

 

ザッ…ザッ……コツン

 

 

子ども「……ん? いまなにか足にあたった……」

 

子ども「これは……? ビンかな?」

 

子ども「ふると音がする。なにかはいってるみたいだ」

 

 

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4 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:22:47.46 ID:W1tAHp8so

 

 

カチャカチャ……ゴリゴリゴリ

 

 

祖父「ふう。やっと今日の分の調合は終わりじゃな」

 

 

 

 

子ども「おじいちゃーん!」

 

祖父「ん? これ、そんなに走るな。また転ぶぞ」

 

子ども「さっき海でなんか拾った!なにこれ?」

 

祖父「ん……おお。これは。珍しいのぉ」

 

子ども「なになに?」

 

祖父「これはの、漂流ビンじゃ。中に手紙がはいっとるんじゃよ」

 

子ども「だれから?おじいちゃんの知り合い?」

 

祖父「さあ、わからん。この手紙を書いた者も、だれの手に渡るかはわからんかったろう」

 

子ども「? じゃあなんのためにこのてがみは書かれたの?」

 

祖父「遊びみたいなものじゃ。手紙をこうな、ビンにいれて海に流す。

   いつの日か、遠く離れた土地の誰かに読んでもらえることを祈ってな」

 

子ども「ふーん」

 

祖父「この手紙をお前が拾ったのもなにかの縁じゃ。どれ、読んでやろうか。眼鏡眼鏡……」

 

子ども「はい、ここにあるよ。お爺ちゃん」

 

祖父「ありがとう」

 

 

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5 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:23:16.47 ID:W1tAHp8so

 

 

 

祖父「しかしこりゃあ……随分古い手紙のようじゃのう。触ってごらん、紙がこんなにボロボロになっておる」

 

子ども「ほんとうだ。わくわくするね!」

 

祖父「ずいぶん長い間海を漂っておったんじゃな、この手紙は」

 

子ども「おつかれさまだね」

 

祖父「もしかしたら字は読めんかもしれん…… む?」

 

祖父「不思議じゃのお。紙はこんなにボロボロなのに、インクは全然薄くなっとらん」

 

祖父「えー、どれどれ……差出人は……」

 

 

 

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6 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:25:35.86 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

 

『はじめまして。

 

海に手紙を流すのも4度目となりました。

 

この中の2通だけでも同じ人が受け取る確率ってどれくらいだろう?多分すごくすごく少ないですよね。

 

毎回自己紹介しますが、私は剣士です。勇者といっしょに魔王を倒すための旅をしていました。

 

していましたという変な言い方をしたのは、もうすぐその旅が終わるからです。

 

私たちの長く続いた旅もようやく明日で終わりそうです。明日、魔王を倒しに行きます。

 

ちょっとドキドキです。

 

でもがんばります。

 

 

 

いまこの手紙を読んでいる君の世界は平和でしょうか。

 

大事な友達が突然殺されたりするような世界ではないですか。

 

家族は、故郷は、ただいまと言えるような場所は、ずっとそこにありますか。

 

未来の世界がそんな風になっているとしたら、私たちは明日の戦いに勝ったのでしょう。

 

そんな世界にして見せます。絶対に。誰も自分の大切なものを奪わないし、奪われないような平和な世界に。

 

 

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7 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:28:28.24 ID:W1tAHp8so

 

 

 

あの日青空の下、勇者と二人で旅立ってから色々なことがありました。

 

いま私の目の前に広がる空は、血を零したような緋色に染まっています。

 

本当の血の色はもっとどす黒いけども。比喩表現です。

 

旅に出る前漠然と村の外に憧れを抱いていた昔の私はそんなことも知りませんでした。

 

でも後悔はしていません。私が選んだ道です。

 

私が勇者を守りたかったからただそうしただけです。

 

 

あ。いま勇者は隣でうたたねしています。

 

海を見ながら真っ白い砂の浜辺でこの手紙を私は書いていたのですが、ぼんやり海面を見つめていた勇者は

 

ふと気がつくと木にもたれかかりながら目をつぶっていました。

 

最近夜眠れないことが多いようなので、きっと波の音に眠気を誘われたのでしょう。

 

勇者の寝顔はちょっと幼く見えます。(気にしてるみたいなので言いませんが)

 

もう辺りが暗くなってきているからそろそろ起こさないとな。

 

というわけでこの手紙もここで終わりにしようと思います。

 

 

五通目の手紙は、私たちが魔王を倒してから。

 

それではさようなら。

 

あなたの毎日がこれからも幸福に満ちたものでありますように。

 

 

               愛をこめて    Nina 』

 

 

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8 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:33:10.51 ID:W1tAHp8so

 

 

 

ザザン…… ザザン……

 

 

 

剣士「これでよしっと……」

 

剣士「えい」

 

 

ポチャン

 

 

剣士「いつか誰かに届くかなぁ」

 

勇者「書き終わったの?」

 

剣士「えっ!? ゆ、勇者起きてたの!?」

 

勇者「いや、いま起きたんだ」

 

剣士「なんだ、そっか」

 

勇者「でもその反応……もしかして僕のこと変な風に書いた?」

 

剣士「かか書いてないよ。変な風には。変な風には!」

 

勇者「慌てるところが怪しいな」

 

剣士「だめだめ!ボトルとりに行こうとしないで!なんも書いてないってばっ」

 

剣士「ていうかほらもうこんな暗いし、宿に戻ろうよ!ね!」

 

勇者「あ、本当だ。そうだね、帰ろうか」

 

 

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9 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:33:38.47 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

勇者「……」

 

勇者「ずいぶん遠くまで来ちゃったね」

 

剣士「……うん。ほんと」

 

勇者「明日晴れるかな」

 

剣士「晴れるよ多分。私、晴れ女だし。勇者は晴れ男でしょ」

 

剣士「旅立ちの日のこと覚えてる?雲ひとつないきれいな青空だったな」

 

勇者「そうだったね」

 

勇者「確かに……見事な青空だった」

 

勇者「あの日も」

 

 

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10 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:38:58.04 ID:W1tAHp8so

 

 

 

第十章 旅立ちの空

 

 

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11 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:39:25.34 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

 

大樹の村

 

 

母親「あ……」

 

ビュオッ

 

母親「大変、洗濯物が飛んでっちゃったわ」

 

母親「ハル!ハロルド! ねえ、ちょっと来て」

 

少年「どうしたの母さん」

 

母親「洗濯物が風に吹かれてあの木に引っ掛かっちゃったの。いつものお願い」

 

少年「ああ……」

 

 

フワッ

 

 

母親「ありがとう。ほんと便利ねえ」

 

少年「どういたしまして。これからニーナの家に行くんだけど、もう行っていい?」

 

母親「ええ。庭の木になってる桃、食べごろだからもっていきなさい」

 

少年「うん」

 

 

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12 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:45:04.03 ID:W1tAHp8so

 

 

少女「……あ」

 

少女「ハル!遅いよー!」

 

少年「ごめんごめん」

 

少女「今日は森の奥の小川に遊びに行こうよ。お魚釣りしよ」

 

少女母「ちょっと、ニーナ。あんた宿題は終わらせたの?」

 

少女「げっ…… いいんだもん、あとでハルに教えてもらうから……」

 

少年「またっ?」

 

少女「帰ったらやるもんね! ほら、行こうよハル!早く行かないと暗くなっちゃう!」タッ

 

少女母「あーーこら、待ちなさい!!もーあの子ってば本当……ごめんねハルくん!」

 

少年「だいじょうぶですー!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

13 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:45:35.54 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

 

少女「ねえねえ、またやって見せてよ、アレ!」

 

少年「ま、また?さっきも母さんに頼まれて使ったんだけど……」

 

少女「お願い!」

 

少年「もう分かったよ……えい」

 

 

フワッ

 

 

少女「わあ、すごーい!花びらが飛んできたー!どうやってそれやるの?わたしもやってみたい!」

 

少年「どうやってやるのかは分からないんだ」

 

少女「うそ言ってない?ほんとうに?」

 

少年「ほ、ほんとだよ」

 

少女「不思議だね。なんにもないところから風とか水とか火とかだせるの、村でハルだけだよ」

 

少年「もしかしたら、村の外にはもっと僕みたいな人間がいるのかもしれない……」

 

少女「……村の外、行きたいの?」

 

少年「え、あ、いや…その。あはは」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

14 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:51:33.61 ID:W1tAHp8so

 

 

 

村長「ハロルド!ハロルドや……ここにいたか!」

 

少年「村長?」

 

村長「わしの家に一緒に来ておくれ。いま、王都から騎士様が、お前を尋ねにいらっしゃった」

 

少女「騎士?なんで?」

 

少年「……?」

 

村長「なんでも、お前が……伝説の勇者だとお告げがあったらしいのじゃ」

 

少年「…………へ?」

 

 

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15 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:52:02.59 ID:W1tAHp8so

 

 

* * *

 

 

勇者「じゃあ、行ってくるね。みんな元気で。母さんも父さんも」

 

母親「しっかりやるのよ……ご飯食べて、ちゃんと毎日夜更かししないで、怪我しないようにね」

 

父親「まさか、お前が勇者だったなんて……不思議な力を使えるのはそのせいだったのか」

 

騎士「ええ。自然界の力を自在に操れるのは勇者の証。それに預言も彼が勇者だということを示しています」

 

村長「この村に古くから伝わる伝説は本当じゃった。世界が闇に包まれようとするとき、この地から勇者が誕生し魔王を討ち滅ぼす、と」

 

母親「あなたなら必ずできるわ。でも、無理だけはしないでね」

 

父親「遠く離れても、ここから母さんも父さんも、村のみんなもお前を応援しているよ」

 

村人「がんばれよ、ハル!」

 

村人「すげえなあ。ほら、うちの野菜もってけ!」

 

村人「うちの果物も!」

 

勇者「あ、あはは。ありがとう。頑張るね」

 

騎士「勇者様は必ず私たちが王都まで安全にお連れします。では、そろそろ」

 

少女「待って!」

 

 

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17 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 03:55:32.65 ID:W1tAHp8so

 

 

勇者「ニーナ……」

 

少女「わたしも!わたしも連れていって!」

 

少女母「こらこら、なに言ってるの」

 

少女「離れ離れなんていやだよ!お願い……」

 

勇者「ニーナ、すぐまた会えるよ。僕、必ず強くなって、魔王を倒して、この村に帰ってくるから」

 

勇者「それまで待っててね」

 

少女「…………うん。絶対……すぐ帰ってきてね。約束だよ」

 

勇者「うん。約束」

 

少女「すぐだよ……」

 

勇者「うん。すぐ」

 

 

 

少女「……一週間後くらい?」

 

勇者「ちょっとそれは無理だけど……」

 

 

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18 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:01:39.93 ID:W1tAHp8so

 

 

2年後 王都

 

 

 

勇者「……。晴れてよかった」

 

勇者「よし。王様に挨拶してこないとな」

 

 

バタン

 

 

魔術師「おはよう勇者。準備できた?」

 

勇者「ああ、おはよう。もう出ようと思ってたところだよ」

 

魔術師「王様に挨拶しに行くんでしょ?一緒についてってあげる」

 

 

 

 

 

魔術師「勇者が王都に来てから2年経ったんだね。髪そのまま伸ばし続けるの?あいつ……副団長の奴、適当なことばっか言うから真に受けない方がいいよ。

    東洋のまじないとか言って、目的を達成するまで髪を切らないとかさ。絶対嘘だって、からかってるんだよ」

    

勇者「願掛けって言うんだよ確か。髪があんまり長くならないうちに魔王を倒せればいいんだけどね」

 

魔術師「相変わらず勇者だって言うのに弱気ね。私より魔法が上手くなっちゃったくせにそういう態度ムカつくなー あー腹立つなー」

 

勇者「いたたた、別にそういう意図はないってば」

 

魔術師「大体自信がないならもっと王都で修業を積めばいいのに」

 

勇者「いや、もう学ぶべきことは学んだよ。あとは実戦で経験を積まなきゃね」

 

魔術師「ふ~~ん。ここで学べることはもうないってわけね、ふ~~~ん」

 

勇者「だ、だからそんなこと言ってないって……。それに、魔王軍だってそんな悠長に待ってくれないだろうし。

   僕たちの国の塔はまだ占領されてないけど、隣の星の国と雪の国の守護塔はもう魔族の手に落ちてるんだろう」

 

 

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19 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:02:30.37 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

魔術師「まあね。塔は国を護ってくれる女神様のものなのに、魔族の奴らなかなか手練れだね。

    この国も塔があるうちはまだ安心できるけど、それも魔王軍に占領されちゃったら王都もこんなにのほほんとしてられないだろうな」

    

魔術師「……ま、でもうちの塔はまだ当分大丈夫でしょ。塔の護衛には噂の三勇士がついてるんだもの」

 

勇者「ああ、彼ら」

 

魔術師「勇者は会ったことあるんだっけ?」

 

勇者「あるよ。確かに強かったな……性格はともかく」

 

魔術師「ええ、なにされたの勇者――おっと、続きが聞きたいけどもう王様のところについちゃったね」

 

勇者「ありがとう。少し緊張していたけど話したおかげで気が紛れたよ」

 

魔術師「どういたしまして。王様に挨拶が終わったら、下の兵舎まで来て。

    騎士団副団長が勇者のために仲間を募集してくれてたの。きっと何人か集まってるはずだよ」

    

勇者「えっ、仲間?副団長が?初耳なんだけど」

 

魔術師「あいつなかなか勇者のこと気に入ってんのよ。今日だって旅立ち見送りたかったぜーって言いながら任務行ってた」

 

勇者「そっか。今度会ったら礼を言っておくよ。じゃあ、またあとで」

 

魔術師「がんばってね」

 

 

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20 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:09:52.47 ID:W1tAHp8so

 

 

 

国王「お主が勇者のお告げを受けて早2年……ついに旅立ちの時が来たか」

 

勇者「はい」

 

国王「勇者ハロルドよ、これをお主に」

 

勇者「この石板は……?」

 

国王「勇者の伝説について古代語でこう書いてある」

 

国王「『その者、大樹の村より現れ弱き者たちを守らん。太陽の守護塔より力を、雪の守護塔より知恵を、星の守護塔より――を授からん。』」

 

国王「『それらを手に、彼の者人の世を光に導かん』」

 

国王「星の塔より何を授かるのかは残念ながら判別できんが、勇者よ。石板の通りまずは太陽の塔に行くがよい。

   魔族どもは驚くほど強い力と人を惑わす魔法を使う。塔の女神より奴らに対抗し得る力を手に入れるのだ」

   

勇者「石板……大樹の村、僕の故郷……こんなものがあったなんて。……分かりました。太陽の塔にまず行きます」

 

国王「今は太陽の塔も国境も守れているが、徐々に来襲する魔王軍の数が増えている。

   このままでは我らの国も隣国と同じような苦境に置かれるだろう。

   勇者はわしらの希望じゃ――年若いお主に頼らざるを得ない情けないわしを許してくれ」

   

勇者「いえ。必ず僕が……。……」

 

国王「どうしたんじゃ?」

 

勇者「すみません。正直に言うと、何故僕が勇者に選ばれたのか……その理由を神様に訊きたいと思う時が時々あります。

   僕より剣が立つ人も、魔法ができる人もたくさんいると思います」

   

国王「お主がそのようなことをわしに言うのは初めてじゃな」   

   

勇者「……弱気なことを言ってすいません」

 

 

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21 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:10:49.71 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

国王「いや、咎めたわけではない。むしろ本心を言ってくれて嬉しいとさえ思う。

   勇者。お主は優しく聡明な少年じゃ。どれだけ魔法が使えるか、とかそういうことではなく、な。その目を見れば誰でも分かる」

   

勇者「……」

 

国王「不思議な色の瞳じゃ。秘めたる力強さを感じさせる。そういえば最初わしに会った時も物怖じせずにこの謁見の間に来たのう。

   随分肝の据わった子どもじゃと思ったわい。ハッハッハ」

   

勇者「そうでしたっけ……」

 

国王「臆するな勇者。お主は確かに『勇者』じゃよ。国王のお墨付きじゃ」

 

勇者「……はい。ありがとうございます」

 

勇者「魔王を倒し、この国……いえ人類の平和のために、この身全て捧げる覚悟はできています。僕が何者であっても、必ず皆の期待に応えてみせます」

 

国王「その意気じゃ。さて、お主は剣ではなく杖を選んだのじゃったな」

 

勇者「はい。剣はあまり好きではないので」

 

国王「ではこの『光の杖』をお主に。旅の心強き供になってくれよう」

 

勇者「ありがとうございます」

 

国王「まだまだお主とここで話をしたいとは思うが、これ以上旅立ちを遅らせるのは無粋じゃな。勇者よ、気をつけるのじゃぞ。魔族は強いぞ」

 

勇者「ええ、十分用心します。では国王様、行って参ります。2年間お世話になりました」

 

国王「うむ……」

 

 

 

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22 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:14:33.15 ID:W1tAHp8so

 

 

 

スタスタ

 

 

勇者「……そうだ、弱音を吐いてる暇なんて今もこれからもないんだ。早く魔王を倒さないと」

 

勇者「約束……したしな。あの村で待ってるあの子のためにも。せっかちだから今頃怒ってるだろうな……」

 

勇者「おっと、ここが兵舎か」

 

魔術師「あーきたきた勇者」

 

勇者「ここに仲間になってくれる人が?」

 

魔術師「そのはずだよ。私もいま来たんだけど」

 

勇者「そっか。なんか緊張してきたな」

 

魔術師「勇者が後衛だから、前衛タイプの戦士とか剣士とか集めてもらってるはずだよ」

 

勇者「助かるよ。……じゃあ、扉を開けるよ」

 

魔術師「うん」

 

 

勇者(この扉の奥にいる仲間と、今から魔王を倒す旅が始まるんだ。……いい人がいてくれればいいんだけど)

 

勇者(よし……!)

 

 

 

ガチャッ

 

 

魔術師「ん~ どれどれ?」

 

魔術師(……うぎゃあああああああああああああっ!!)

 

 

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23 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:19:04.02 ID:W1tAHp8so

 

 

 

シーーーーン

 

 

魔術師(ひぃぃぃぃ!!まさかの0人!!圧倒的無人!!やばい!!!!まずい!!!!)

 

魔術師(…………勇者、は……)

 

魔術師(うがああああああああああ!!すげえ遠くを見つめてる!全てを諦めた目をしてる!アカン!)

 

魔術師(なにやってんだよあの馬鹿!あの阿呆副団長がッ!やることなすこと全て裏目にでるミスター裏目野郎!!

    旅立ちの日にこんな精神的にきつい経験勇者に積ませるなよ!!どーーすんだよ、これっもおおおお!!)

    

魔術師「あ、え、え~~と。勇者?」

 

勇者「ハハ……いいよ、僕は一人で大丈夫だから……」

 

魔術師「あ、あ、あのさ!私がじゃあ仲間になるよ」

 

勇者「次期魔術師長って噂されてる君が王都を離れて旅してたらまずいよ」

 

魔術師「こ、これ何かの間違いじゃないかなあ。きっと部屋を間違えたかなにか……」

 

騎士「いえ。間違えてません」

 

魔術師「どういうことなのコレ?」

 

 

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24 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:20:19.42 ID:W1tAHp8so

 

 

 

騎士「副団長に言われ数週間前から騎士や兵士、はたまた酒場にいる戦士や剣士に声をかけて回ったのですが。結果はこれです。ゼロです。

   騎士兵士は位が低い者は魔族と少人数で戦う自信がなく、位が高い者はそれなりの役職についている者が多かったので軍から抜けるわけにもいかず」

   

魔術師「なっさけないなあ。でも酒場の戦士剣士は結構血の気あるのが多いじゃないの」

 

騎士「ちゃんと声かけましたよ。どうやら彼らはあまり勇者殿のことを高く評価していないようなのです」

 

勇者「そっか……」

 

騎士「どちらかと言うと三勇士に肩入れしているようでして。彼らに比べて勇者はなんかなよっちいというか、オーラがないというか」

 

勇者「そ、そう」

 

騎士「そもそも選ばれた勇者なのに、ひょろいやら頼りないやら童顔で女っぽいやら」

 

勇者「うん、泣きたくなってきたな」

 

魔術師「ちょっと、外見に文句言うのはやめたげて!!気にしてることみたいだから!!」

 

騎士「というわけなんです。すみません」

 

魔術師「つーか君が仲間になってあげればいいじゃない。なりなさいよ、ほら。なれよ。魔王倒したら一躍出世街道間違いなしだよ」

 

騎士「えっ 自分はいいです」

 

魔術師「そんなこと言わずに、ほら、飴あげるから」

 

騎士「いらないですし、おちょくってんですか」

 

勇者「もういいよ魔術師。というかそんな罰ゲームみたいな感じで仲間になってもらえても空しいだけだよ。

   大丈夫、仲間は旅の道中で見つけるさ」

   

勇者「いろいろありがとう。そろそろ僕は行くよ」

 

魔術師「ええっ 本当に一人で行くつもり?危ないよ。やっぱり私が」

 

勇者「大丈夫だよ」

 

 

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25 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:25:45.12 ID:W1tAHp8so

 

 

 

剣士「…………うーん。迷った」

 

剣士「『勇者の仲間求む 我こそはと思う者は兵舎へ』……チラシを見て来たはいいけど、王都広すぎだし建物大きくて全然方向が分からないしですごい時間かかっちゃった」

 

剣士「兵舎ってここかな?……どこから入るの?これ」ウロウロ

 

剣士「…………!!」

 

 

勇者「本当に大丈夫だって。じゃあね」

 

魔術師「心配だなあ」

 

 

バリーーーン!!!

 

 

剣士「ハル!!!」

 

騎士「うおおお!どっから入ってきてんですか!!そこドアじゃなくて窓!!」

 

魔術師「えっなになになに!?だれ!?」

 

剣士「このチラシ見て来ました!勇者の仲間になりたいんです!よろしくお願いします!剣士です!」

 

騎士「自己紹介してくれてるところ悪いんだけど窓ガラス弁償お願いしますね」

 

剣士「ガラス?…………うわあああ!?なにこれ!なにこの惨状!私がやったの!?ごめんなさい!」

 

魔術師「とんでもない子きたね。でも、よかったじゃない勇者。剣士だって」

 

勇者「…………」

 

魔術師「勇者?」

 

 

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26 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:26:38.85 ID:W1tAHp8so

 

 

 

勇者「君…… えっ?」

 

剣士「久しぶりだね、ハル。じゃなくて、勇者か」

 

勇者「…………ニーナ……?」

 

剣士「うん!!」

 

勇者「なんで王都にいるの!?それに剣士って……ええっ!?」

 

剣士「だって、勇者、すぐ魔王を倒して帰ってくるって約束したのに、遅いんだもん。だから来ちゃったよ」

 

勇者「いやまだ旅立ってすらいなかったよ!」

 

剣士「うん、これから旅に出るんでしょ?いっしょに連れてって」

 

勇者「だめ」

 

剣士「ありがとう!私、剣の修業してきたから役に立つと思うよ!よーしじゃあ出発、って」

 

剣士「えええええええっ なんでだめなの!?!?」

 

勇者「いや……普通に」

 

剣士「普通に!?普通にだめってどういうことなの、よくわかんない!」

 

勇者「君は村で待ってて。あーびっくりした……とにかく連れていけないからね。じゃあね」ダッ

 

剣士「ちょ、ちょっと待ってよ!置いてかないでってば!」ダッ

 

 

 

魔術師「……行っちゃった」

 

騎士「あの……ガラス代」

 

魔術師「……ま、楽しい旅になりそうで安心したわ」

 

騎士「あのおお!いい感じに締めに入ってるところ悪いですけどおお!ガラス代!弁償!」

 

魔術師「二人の旅路に幸多からんことを」ダッ

 

騎士「おい逃げんな!」

 

 

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27 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:35:23.83 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

ダッダッダッダッ

 

 

 

剣士「ねえ待ってよーっ」

 

勇者「だからっ 危ない旅になるんだから君は連れていけないんだって!」

 

剣士「危ない旅だからこそ一人より二人の方がいいじゃん!」

 

勇者「ていうか足速いね?僕けっこう本気で走ってるのに全然ひき離せないんだけど」

 

剣士「修業したからね。待てーい」

 

勇者「くっ……――うわ!?」

 

 

ドン

 

 

戦士「んああ? なんだなんだあ」

 

勇者「いてて……あ、すいません」

 

斧使い「おお!こりゃ勇者の坊主じゃねえか。ヒック」ガタ

 

戦士「今日が旅立ちだってえ?仲間はどうだい、集まったのか?」

 

勇者「いや。一人で行くよ」

 

斧使い「だはははは!やっぱ集まんなかったかー!」グビグビ

 

勇者「ハハ、まあね」

 

剣士「違うよ!私がいっしょに行くもんね。ねえこのお酒臭いおじさんたち、勇者の知り合いなの?」

 

戦士「ブハハッ 酒臭いおじさんだってよ。言われてんぞ斧使い」

 

斧使い「いやオメーもだよ」

 

戦士「なんだあ、お嬢ちゃんが仲間?見たところ剣使いみたいだが……ハハハ!」

 

斧使い「やめとけやめとけ。俺あ一回だけ魔族を見たことがあるが、魔族ってのはあんたみたいなお嬢さんの手に負えるもんじゃないよ」

 

戦士「勇者の坊主もな。魔族見て怖くてションベン漏らすなよ。ま、無理でしたーって王都に逃げ帰ってきても誰も責めねえからよ」

 

斧使い「みんな予想してたことだから驚きゃしねえ!ダハハハ!こんなチビ助に魔王が倒せるかってんだ」

 

勇者「ご心配どうも。じゃあ僕はもう行――」

 

斧使い「んおお?おい、お嬢ちゃん、それは俺の酒瓶……」

 

 

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28 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:40:11.28 ID:W1tAHp8so

 

 

 

バチャアッ!

 

 

勇者「えっ……」

 

戦士「……」ボタボタ

 

斧使い「……」ボタボタ

 

剣士「失礼な人たち。

   誓って言うけど勇者はそんな弱虫じゃないし、昼間から酔っ払ってるおじさんたちは勇者をそんな風に言えるほど立派なの?」

 

戦士「て……てめえ」

 

剣士「なに?」

 

斧使い「ガキだろうが女だろうが、そんな生意気な口きく奴にゃ容赦しねえぞ」チャキ

 

勇者「ちょっ 君一体なにやってんの!?」

 

剣士「……」チャキ

 

勇者「待って待ってストップ!ごめん、シャツも酒も僕が弁償するから武器をしまってくれ」

 

戦士「あああん? んなことできっかよ!!それに俺たちに勝てない奴が魔族に勝てると思うか!?旅立ちの前に腕試しでもしてけよ!!」

 

剣士「望むところだ!」

 

勇者「剣士は黙ってて!ていうか君は旅に出ないし、村に帰ってもら――」

 

 

<剣士の攻撃!>

<戦士はガードした!>

 

 

勇者「聞け!」

 

 

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29 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:42:30.95 ID:W1tAHp8so

 

 

 

剣士「いたっ」

 

 

<剣士はダメージをうけた!剣を落とした!>

 

 

勇者「ど、どういうことだ……!?」

 

剣士「うぐぐぅ」

 

戦士「おいおい、俺はまだガードしかしてねえぜ?」

 

斧使い「ははは!そんなんで魔王なんて倒せるのかあ!?」

 

 

――ガッ!

 

 

斧使い「……おっ……? お? なんだ、坊主……短剣一本で俺の斧に対抗するたあ結構やるじゃねえか」

 

勇者「……」

 

 

――キィン!

 

 

斧使い「ぬお! 俺の斧、俺の斧……あったあった。テメーなにしやがるこのクソ勇者!!!」クルッ

 

戦士「……」

 

斧使い「いねえ」

 

戦士「追うぞ!!」

 

斧使い「おお!!」

 

 

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30 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:45:14.64 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

勇者「はあ……はあ……」

 

剣士「はーっ……はー」

 

勇者「逃げてたら王都の門の外まで来てしまった。それに剣士……君、なんであんなことしたんだ」

 

剣士「あのおじさんたちホントなんなんだろうね。失礼しちゃうよね」

 

勇者「……。どうしよう。王都に剣士だけ戻したらあの人たちにまた会っちゃうかもしれないし、かと言って徒歩で故郷まで帰すわけにはいかないし」

 

剣士「え?魔王城まで一緒に行こうよ?」

 

勇者「僕だけね。僕はそんなに強いわけじゃないから、君を守りながら旅できないよ」

 

剣士「自分の身は自分で守るから大丈夫だよ」

 

勇者「どの口が言ってるのかなあ!?さっき攻撃したのにダメージうけてたの誰かな?」

 

剣士「わ……私だけど……私だけども!!加速度的に成長するから大丈夫なんだもん!」

 

勇者「そもそも、修業したって言ってたけど、どこで?」

 

剣士「村だよ」

 

勇者「村に剣の使い手なんていたっけ?誰に稽古つけてもらったの?」

 

剣士「お父さん」

 

勇者「……君の家、農家だよね。僕の家もだけど」

 

剣士「うん。だから剣より鍬の方が強いって何回も言われた。村に剣とかなかったから鍬で修業してたの。

   まず、こうね、畑で、敵が前方にいると想定して鍬を振り下ろす修業。ちゃんと地面まで振り下ろさなきゃだめなの」

   

勇者「それ修業って言わないよ。多分畑を耕すって言うんだと思うよ」

 

勇者「……足は速いし腕力も多分そんなに弱くないと思うのに、どうしてさっきダメージうけてたんだろうね。

   剣にまだ慣れてないのかな。それか……この剣、ちょっと剣士には合ってないのかもね」

   

 

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31 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:47:06.37 ID:W1tAHp8so

 

 

 

剣士「一番安い剣、武器屋さんで買ったよ」

 

勇者「重すぎるのかな。剣士だったらもっと軽い片手剣の方が…… ハッ」

 

勇者「連れていかないけど」

 

剣士「えーっ もう、相変わらず融通利かないんだから」

 

勇者「でも戻れないし……うーん……じゃあ故郷の村まで馬車を出してくれるような大きな町につくまで、一緒についてきてくれる?」

 

剣士「大きな町までっていうか、正直何が何でもどんな汚い手を使ってもずっとついてくつもりだけど、うん、いいよ!やったー!」

 

勇者「なんか怖いこと聞こえた」

 

剣士「気のせいだよ!あ。村からいろいろお土産持ってきたんだ」

 

剣士「はいこれ、うちの畑で獲れたスイカとドリアン」

 

勇者「やけに荷物大きいなと思ったらそれか……」

 

 

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32 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:48:11.70 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

 

魔王城

 

 

鬼「でぇぇぇぇぇい!!」

 

兄「脇が甘いぞ。それから腰を落としすぎだ」

 

鬼「うぐ!ま、参りました。参りました~!」

 

 

 

狼男「次は俺に稽古つけてください!」

 

兄「おう。……ん?」

 

兄「……すまない。少し待っててくれ」タッ

 

狼男「え?ああ、はい」

 

 

 

鬼「はぁ、また今日も王子に勝てなかった」

 

狼男「さすがは次期魔王様だよな。剣を持った時のあの気迫たるや、既に王の風格がにじみ出ていらっしゃる」

 

鬼「なー」

 

狼男「魔王様が病床に臥せられたときはどうなるかと思ったが、あの方がいれば今後も魔族の未来は明るいな」

 

鬼「うむ」

 

 

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33 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:49:20.46 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

妹「……」コソコソ

 

兄「こら」

 

妹「きゃっ!」

 

兄「どこに行くんだ?」

 

妹「に、兄さん。えっと……その……花畑に」

 

兄「手をもじもじさせるのは嘘をついている時の癖だ。また人間の村に行くんじゃないんだろうな?」

 

妹「そそそ、そんなわけないよ?行かないよ?」

 

兄「……」

 

妹「……」

 

兄「……」

 

妹「……お、お願い!お父様には言わないで?ね?」

 

兄「……はぁ……やっぱりか」

 

妹「お父様に言う?」

 

兄「……分かった言わないからそんな青ざめなくていい」

 

妹「ほんと!兄さんありがとう!」

 

 

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34 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:49:54.20 ID:W1tAHp8so

 

 

 

兄「しかし、ほどほどにしておくんだぞ。父上も最近怪しがってるんだからな。そろそろ俺も庇いきれない」

 

妹「ええ……。じゃ、じゃあ兄さんも一緒に行かない?人間って、お父様が言うような人ばっかりじゃないわ」

 

妹「あの村の人たちはとっても優しいの。兄さんもすぐ好きになるわ。ね、ね!行こうよ!」

 

兄「ばか、俺を共犯にしようとしても無駄だ。行かないからな」

 

妹「いじわる」

 

兄「その帽子、とるなよ。角を見られたら魔族だってばれるからな」

 

妹「分かってますよーだ!」

 

兄「まったく……」

 

 

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35 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:50:55.98 ID:W1tAHp8so

 

 

 

狼男「ほあちゃああー!」ガキン

 

兄「おい、気の抜けるような掛け声はやめてくれ」

 

狼男「すいません、癖でして。しぇああああああーっ」

 

兄「おいやめろ!笑ってしまうだろうが!!俺の笑いの沸点の低さを知っててわざとやっているんだろう!」

 

狼男「これも作戦のうちなんですよ!んごおおおおっ!」

 

鬼「おいテメーずるいぞ!」

 

兄「バッやめろ! ハハ……ククク……ハーハッハッハッハ!」

 

鬼「おお笑い方にまで魔王の風格が」

 

 

 

炎竜「ずいぶん楽しそうだな、王子」

 

兄「ああ炎竜か?いや、狼男がだな……」

 

炎竜「今日この後なにがあるかお忘れか?」

 

兄「この後?………………あ」

 

炎竜「四天王会議だ。次期魔王のあなたには出席して頂くことになっていたはず」

 

兄「あ……ああ。しまった、忘れていた。すぐ行く!」

 

 

 

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36 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:52:09.19 ID:W1tAHp8so

 

 

 

バタン!

 

 

兄「すみません父上、遅れました!」

 

魔王「なにをしていた、息子よ」

 

兄「部下に稽古をつけておりました」キリ

 

炎竜「部下の奇声に腹抱えて笑っておったぞ」

 

兄「炎竜っ」

 

魔王「全く……まあよい。席につけ」

 

兄「はい」

 

 

魔王「では始めるぞ」

 

 

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37 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 04:59:00.95 ID:W1tAHp8so

 

 

 

――竜族代表――灼熱の炎竜

 

 

 

炎竜「四天王がこうして集まるのも久しぶりだな」

 

 

 

 

――魔女・魔男族代表 星の国侵略軍将軍――人形使いの魔女

 

 

 

魔女「皆さんお元気でしたか?って、この子が言ってます。私はテメーらの体調なんてクソどうでもいいです」

 

 

 

 

――鬼族代表 太陽の国侵略軍将軍――逆さ十字の吸血鬼

 

 

 

吸血鬼(相変わらず魔女さんコエーッ……この子って人形ジャン……つーか100歳以上生きて人形持ち歩くとか正直どうなの」

 

 

 

 

――水魔族代表 雪の国侵略軍将軍――毒霧のヒュドラ

 

 

 

ヒュドラ「途中から声にでてるけども」

 

 

 

 

 

吸血鬼「ヤ、ヤベ」

 

魔女「フフ、あら魔女さんにそんなこと言える立場?まだ塔も占領できてないのに?謝れば許してあげるってこの子が嗤ってるわよ。

   私はむしろ死んで詫びやがれ若造って思ってるけど」

   

ヒュドラ「馬鹿……年齢のことに口を出したからマジ切れだぞ、魔女の奴…… どうせ不死身なんだからここで死んで詫びとけ……」

 

吸血鬼(ええ~~っ!?不死身だからってそんな無茶ぶり俺よくわからない。これだから老害ばっかの四天王はさあ……」

 

ヒュドラ「だから途中から声にでてるっつの。お前そんなこと言ってたら、お前が死んだときに『四天王最弱』って墓標に掘るぞコラ」

 

炎竜「私語が過ぎるぞ」

 

魔女「怒られちゃった。全員死ね」

 

ヒュドラ「死ねって言った奴が死ね」

 

吸血鬼(口げんかの程度低すぎだろ……もうみんなムカツクから死ね」

 

炎竜「全員仲良くしろとは言わんがせめて敵意を隠せ」

 

 

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43 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:14:54.01 ID:W1tAHp8so

 

 

 

兄「前会ったときから全然変わってないな。相変わらず仲よさそうで安心した」

 

ヒュドラ「これのどこを見たらそう見えるんですかね」

 

魔王「ふむ、では大陸の侵攻状況を聞くとするか。魔女からだ」

 

魔女「星の国はベガ、プロテオン、ハダルの街まで戦線を進めました。占領した街の人間はすでに魔界に送ってあります」

 

炎竜「さすがだな魔女。手際のよいことだ」

 

魔女「私の担当のあの国って兵器は強いけど人間が弱すぎなの。ね、人形ちゃん。頭でっかちばっかりだから楽だわ」

 

ヒュドラ「雪の国では霰の街、凍雨の村まで侵攻しました。次は初雪の都を落とせば首都陥落も遠い未来の話ではないでしょう」

 

兄「初雪の都か。あそこは兵士より自警団が厄介だと聞いたが」

 

ヒュドラ「ま、なんとかします」

 

魔王「各々滞りなく進めているようだな。それで、吸血鬼。太陽の国はどうなんだ」

 

吸血鬼「うっ……」

 

魔王「塔制圧はまだか」

 

吸血鬼「……イヤーアノー、……ていうか!!!ひとついいですか!?」

 

吸血鬼「俺、吸血鬼!!ヴァンパイア!!日の光が苦手なヴァーンーパーイーア!!

    なんっでよりによって俺が3つあるうちの太陽の国担当なんですかー!?」

 

吸血鬼「俺だってほかの2国のどっちか担当してたらすぐに塔なんて落としてるっつーの!」

 

 

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44 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:25:02.27 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

魔女「だって私、どうせなら星のきれいなところを占領地にしたいし。暑いのも寒いのもイヤです」

 

ヒュドラ「水魔は水の清いところでこそより自由に戦える。雪の国以外あり得ないな」

 

兄「って二人が言うからな」

 

吸血鬼「く……」

 

吸血鬼(どうせ俺は四天王の中でも一番の年下だよ……年功序列なんて概念この世から消えてしまえばいいのに……ファッキン年功序列」

 

吸血鬼「あ、なら炎竜さんが太陽の国担当すればいいジャン」

 

炎竜「儂か……」

 

魔女「炎竜は息子が生まれたばっかりだから」

 

ヒュドラ「あ 生まれたんですか。おめでとうございます」

 

炎竜「ありがとう」

 

吸血鬼「はあ?息子?」

 

兄「竜族の子どもは成長が早いからな、少しでも子どものうちにそばにいてやりたいという親心を分かってやれ」

 

炎竜「すまんな」

 

吸血鬼(ええーー?そんな理由だったのかよぉ)

 

 

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45 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:28:39.59 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

炎竜「まあそれもあるがな、儂は年若いお前に活躍の場を譲ってやっているのだぞ。さっさと手柄を上げろ吸血鬼。儂の心遣いを無駄にするな」

 

吸血鬼(言葉巧みに仕事押しつけられた上にジジイの説教だよ……まじついてない……」

 

魔王「……三勇士などという人間どもはそんなに手ごわいのか?」

 

吸血鬼「……」

 

魔王「ならば息子よ、手伝ってやれ」

 

兄「俺ですか?……分かりました」

 

魔女「ずるい」

 

ヒュドラ「ずるい」

 

吸血鬼「わーホントですか!!すっげえラッキー!王子がついてれば塔なんてすぐに落とせるぜ!」

 

兄「魔界での仕事が粗方片付いたらでいいか?」

 

吸血鬼「そりゃ勿論!いつまでだって待ちますよ!」

 

 

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46 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:32:04.56 ID:W1tAHp8so

 

 

 

 

炎竜「儂自身は今あんまり動けんが、もし何かあればすぐ部下をよこそう」

 

魔女「まあ、このままだったらあんまり貴方の出番はないんじゃないのかなって私もこの子も思ってます。

   私の活躍を大人しく指咥えて見てればいいってことですね」

   

炎竜「ふ、それならそれでよい」

 

魔王「ところで、例のものはまだ見つかっておらんのか」

 

魔女「占領した区域の遺跡も城もどこも調べたけどありませんでした」

 

ヒュドラ「同じく。塔にもなかったし、あるとしたらやっぱり宮殿かな」

 

魔王「もしくはまだ捜索していない太陽の塔、か……」

 

兄「魔剣と禁術書ですよね。遙か昔、人間に奪われたという」

 

魔王「そうだ。強大な力を持つ故に人どもに扱えるとも思えぬが……もしそれを操る輩が現れたら厄介だ」

 

魔王「あの二つは元々我ら魔族の宝……人間に奪われた我らの剣と書、そして尊厳を今こそ取り戻さん」

 

魔女「……」

 

炎竜「……」

 

ヒュドラ「……」

 

吸血鬼「……」

 

魔王「時は来たり。我の下に集いし戦士たちよ……我が物顔でふんぞり返っておる豚どもから全て奪い返すのだ」

 

魔王「剣も書も、大地も森も……踏みにじられた誇りも何もかも」

 

魔王「強い者が勝つこの世界で、強靭な肉体と巧みな魔術を持っている魔族が何故これまで人間という劣悪種族を支配下に置かなかったのか。

   それは魔族が志を共にしていなかったからだ」

   

 

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47 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:34:00.78 ID:W1tAHp8so

 

 

 

魔王「竜は亜人族と戦い、エルフはヴァンパイアと戦い、魔族の歴史は常に同胞との戦いで積み重ねられていた。

   しかしそれは間違いだ。真の敵は同胞ではない、人間だ」

   

魔王「異なる種族同士、武器を捨て手を取り合い、真の敵に立ち向かうのだ。殺しつくし、血に濡れた手で勝利を掴み取り、望むがままに一切合財奪い取れ」

 

魔王「……祖先たちが人どもにされたようにな。雪辱を晴らすのだ。今こそ歴史を変える時……」

 

 

炎竜「……必ずや、魔王様」ニイ

 

魔女「ウフフ」

 

ヒュドラ「歴史を変える時ですか。いいですね」

 

吸血鬼「クククク……俄然やる気がでてきた」

 

兄「…………」

 

 

魔王「……期待しているぞ……戦士たち。さて……では解散だ。……ゴホゴホ」

 

兄「父上、部屋までお供致します」

 

 

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49 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/12/11(水) 20:42:45.32 ID:W1tAHp8so

 

 

魔王「すまないな」

 

兄「何がです?」

 

魔王「このような情けない姿をお前に見せてしまって」

 

兄「……そんな。情けないだなんて思ったことありません。

  俺も妹も父さん――じゃなくて父上のこと尊敬しています」

 

魔王「……む……そういえば娘はどうした?姿が見えぬが」

 

兄「あ……ああ、妹なら……あー厨房で料理でも練習しているのではないでしょうか。多分」

 

魔王「ふむ、そうか」

 

 

魔王「……息子よ」

 

兄「はい」

 

魔王「私は恐らくもう長くない……大陸制圧という悲願を達成するまで何とかこの世に留まりたいとは思っているが」

 

魔王「魔王の名を継ぐのはお前だ。しっかりやるのだぞ」

 

兄「父上……」

 

兄「……はい」

 

魔王「うむ。よくぞ言った」

 

魔王「では私はもう休ませてもらう。娘に会ったら明日私の部屋に寄るように伝えてくれ」

 

 

 

パタン

 

 

 

兄「……俺はいいが」

 

兄「妹がどう思うか……」

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