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301 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:48:00.14 ID:pAdjx2C6o

 

 

 

星の王「まさか本当に!?そんな制定以来一度も成功していない神法を本気でやろうと思っているのかい?」

 

勇者「……本気です。

   例え成功率が低くとも、やらなければ魔族は、こいつらは殺されるんですよ。人間の勝手な都合で。

   そんなの見過ごせるわけありません!!3カ月後に行われるのは――粛清じゃない、ただの虐殺だ!!」

   

竜人「お願いします。認定書を下さい。私たち魔族に生きる希望を下さい」

 

星の王「では、メリットとデメリットを考えてみよう」

 

勇者「……は?」

 

 

星の王「まずメリット。ゼロ」

 

勇者「いやいや!ゼロじゃないですよ!罪のない魔族たちが殺されずにすむんですよ!?」

 

星の王「それは魔族たちのメリットであって、僕たち星の国のメリットではないよね。

    では次。デメリット」

    

星の王「まず神の法執行失敗した場合、太陽の国の僕たちに対する風当たりは間違いなく強くなるだろうね。

    交易、外交、いろんな面で影響がでてくるだろうさ」

    

星の王「しかも神法はこれまで成功例がないときた。理由は分かってるよね。国王がそうむざむざと玉座から引きずりおろされるものか。

    なんとしてでも妨害するのさ。あらゆる手段を使って。大体君たちみたいな国の是正を目論む若者たちは暗殺されて、歴史の闇の中に葬り去られてきた」

    

星の王「こんな条件の下で、僕が認定証をだすと思うかい?

    魔族の君には同情するよ。でも頑張ってとしか言えない。悪いけどね」

    

竜人「……!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

302 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:49:59.87 ID:pAdjx2C6o

 

 

竜人「……ひとつだけ、いいでしょうか」

 

星の王「なんだい?」

 

竜人「……人と魔族。悪だとすれば、どちらでしょう?」

 

星の王「難しい質問だ。でも多分、人だろうね。罪深い生き物だよ」

 

竜人「……そうでしょうとも。私も今、そう感じているところです」

 

騎士「貴様っ!」

 

竜人「……」

 

 

勇者「…………待ってください!!あります。メリット」

 

星の王「ん?」

 

勇者「あ、ありますよたくさん!!えっと……」

 

勇者(くそ、こんなとき神官がいてくれりゃあいろいろと喋ってくれてるだろうに……!

   でも俺が考えなければいけないんだ。考えろ!この頭でっかちの王子様を納得させられるような案を思いつかないと……)

   

勇者(魔族……魔王城……あの島…… そうだ)

 

勇者「神の法が無事執行された場合、魔族たちも交易ができるようになります。魔王城のある島では、人間界にない農産物や資源がたくさんあります。

   もし魔族が自由の身になった暁には星の国を交易面で優先しますよ! な、竜人!」

   

竜人「えっ?あ、はい!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

303 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:51:12.39 ID:pAdjx2C6o

 

 

星の王「なるほど。でもそれだけかい?」

 

勇者「う……あ、あとは……」

 

竜人「……あともうひとつあります」

 

竜人「先ほど、あなたは『天文学ほどではないが、歴史学も盛んだ』と仰いましたね。

   学問の都であるここでは、歴史学、民族学、民俗学諸々最先端の研究がなされていると思います」

   

竜人「魔族という『滅びゆく種族』の語る歴史や文化、そのまま葬り去っていいのですか?

   あなたがたにとっては貴重な研究材料ではないのですか?私たちの仲間には、純粋な血族ではありませんが

   エルフ、ヴァンパイア、グリフォン、ハーピー、マーメイド、キマイラ、様々な種族がいます」

   

竜人「人体実験はごめんですが、認定書をくださればあなたがたに惜しみない協力をすることを約束しますよ」

 

 

 

 

星の王「……………………ハハ、やるじゃないか」

 

星の王「いいよ、認定書を差し上げよう」ニッコリ

 

勇者「!」

 

竜人「ほ、本当ですか……」

 

星の王「試すような真似をしてしまって申し訳ないね。まさか魔族に、本当に我々のような知性があったとは。

    いや恐れ入ったよ。どうやら君たちの話も真実みたいだ。僕は今日、また未知の真理に出会った。

    星に感謝をしなければ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

304 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:51:57.04 ID:pAdjx2C6o

 

 

竜人「有難うございます」

 

勇者「やったな、竜人!王子、有難うございます!!」

 

 

仮面「おい、ちょっと待てよ。なに和解ムードになってんだコラ。魔族だぞ!?

   なんで魔族は見逃して俺たちは牢獄行きなんだよ!」

   

星の王「ああ、忘れていた。罪人たちを牢へ戻せ」

 

騎士「ハッ」

 

仮面「待て待て!離せよ!!」

 

星の王「どうしてアステリオスを盗もうとなんてしたんだい?あれがなくなったら天球の観察に支障をきたす。

    我らの国の一番大切な宝石なんだよ」

    

仮面「ケッ!石がなんだ、星がなんだ!!んなもん、腹の足しにもなんねぇよ!」

 

仮面「いいかよく聴け!俺はこの国が大っきらいだ!この世界には朝食うパンにすら事欠く奴がたっくさんいるんだ!

   あんな宝石、すぐ金にしちまって食いもんにした方がよっぽど役に立つってもんだ!

   それを後生大事に塔のてっぺんに保管しやがって、この国は勉強しすぎてアホに成り下がった奴ばっかさ!」

   

勇者「……」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

305 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:52:42.79 ID:pAdjx2C6o

 

 

星の王「学問の発展がいずれ国の発展にも繋がる。そもそも僕は慈善活動にも積極的だけど」

 

仮面「あの宝石を売った方が、その高邁な精神による慈善活動とやらよりもよっぽど民のためになるね!

   結局口だけだてめぇらは!教科書だけ見て国の汚い部分を見てねぇんだよ!!」

   

星の王「ひどい言われようだ」

 

騎士「貴様ッ!黙れ!!」

 

仮面「ぐっ…!」

 

盗賊1「兄貴ー!」

 

盗賊2「兄貴、もうしゃべらん方がいいですって!」

 

 

 

勇者「王よ、もうひとつお願いがあります。あの者たちを俺にまかせてくれないでしょうか」

 

仮面「はっ!?」

 

竜人「え!?」

 

星の王「理由は?」

 

勇者「俺たちが結成してる同盟はまだまだメンバーが足りません。できるだけいろんなところに人脈をはりたいんです。

   盗賊団のメンバーはまだいませんし、こいつらかなり腕が立ちます。俺にまかせてくれませんか」

 

――――――――――――――――――――――――――

   

306 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:53:23.76 ID:pAdjx2C6o

 

 

盗賊2「はあああ!?なに言ってやがんだてめぇ!」

 

星の王「分かった、まかせよう」

 

盗賊1「ええええ!?なに言ってんだこのクソ王子!」

 

星の王「ほかならぬ勇者の頼みなのだから。星が僕に示してくれている。

    君は世界を導く者だって……」

    

勇者「は、はあ」

 

勇者(相変わらず、たまに訳分からないこと言う人だな)

 

星の王「じゃあその者たちを釈放しよう。では勇者、竜人、盗賊団よ」

 

 

 

 

星の王「――君たちの行く末に、星の導きがあらんことを」

 

 

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313 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:15:59.64 ID:aI/xHT7co

 

――その頃――

 

 

魔女「ぜっっっっ」

 

 

 

魔女「んぜんっ!見つからないじゃん!!どこ行ったんだよ君らの王子様!?」

 

神官「はあ……そんな簡単に見つからないとは思ってましたけど」

 

戦士「今日も成果がだせなかったな」

 

魔女「あ、あそこに座ってる人かっこよくない?もしかして王子かな?ねーねーそこの君!」

 

 

 

 

魔女「違いました」

 

神官「ていうかやっぱり手かがりがですね、少なすぎますよ。……あれ?なんですあの鷹、こっちに飛んできます」

 

戦士「文が結んであるぞ。どうやら俺たちあてのようだな。なになに。

   ……む?なんだこの文字は。暗号か?」

   

魔女「見して。……これ、竜人からだね。んーと」

 

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314 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:16:31.46 ID:aI/xHT7co

 

 

魔女「認定書ゲットしたって!!」

 

神官「ま、魔女さん、しーっですよ!ちょっと声小さくしてください!」

 

魔女「いけね。ごめんごめん」

 

戦士「なんと!よくやりおったな勇者と竜人の奴」

 

魔女「続けるね。しばらくあっちも都で王子の聴きこみしてから帰るってさ。

   ……おっ!星の王様があたしたちが探してる王子様と幼少の時に知り合いだったみたいで、話聴いたって」

   

神官「え、なんて書いてあります?」

 

魔女「髪は金で、左目の下に泣きぼくろがあって、鎖骨あたりに昔剣術大会で負った傷の痕があるはずだって」

 

戦士「ほう。容姿は大分絞れたな」

 

魔女「ふーん。剣はかなりの腕前らしいよ。大会で優勝したこともあるみたい」

 

戦士「貴族たちの剣術大会なら俺も一度見たことがある。実戦よりも型の美しさの方が重視されるような大会だったが、

   それなりに白熱しておった。かなり独特な構えでな、こう片手を前に突き出してもう一方を……」

   

魔女「あたしたちに言われてもちんぷんかんぷんなんですけどー。魔術師組だもん。

   なんならお返しに光魔法と闇魔法の比較考察について講釈したげよっか?」

   

戦士「む……結構だ」

 

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315 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:16:57.82 ID:aI/xHT7co

 

神官「それにしても、これからちょっとは人探しも楽になりそうですね!勇者様たちも探してくれているそうですし!

   明日は武器商人の方たちにお話窺ってみましょう」

   

戦士「そうだな」

 

魔女「早く王子様に会ってみたいなー。どんくらいかっこいいんだろ?噂になるくらいだから相当だよね。神官も気になるよね?」

 

神官「へ?いえ私は別にそれほどでも」

 

魔女「好きな男とかいないの!?」

 

神官「はい!?な、なに言ってんですか!? 魔女さん、今そういうことお話してる場合では!」

 

魔女「いいじゃん別に、もう今日することないし。教えてよーねえねえー」

 

神官「いやですっ、もう勘弁してくださいよ!私そういうの興味ありませんからっ!」

 

キャッキャ キャッキャ

 

 

 

 

戦士「…………」

 

戦士(早く勇者たちと合流したい……)

 

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316 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:17:24.25 ID:aI/xHT7co

 

 

星の都

 

 

勇者「なあ。こういう顔の男見たことないか?」

 

学生「なんですそれ、似顔絵ですか?……うーん、見たことないですね」

 

 

竜人「金髪で左目の下に泣きぼくろがある男の人、ここに泊まったことありますか?」

 

宿屋「んん?ごめんな兄ちゃん、覚えてねーや。なにせ一日に何十人も客が来るからな」

 

 

 

 

勇者「……なかなか、見つからないな。やっぱり」

 

竜人「人が多すぎることがかえって仇になってますね」

 

勇者「おおい、お前らどうだった?」

 

盗賊1「へい!成果なしです!」

 

盗賊2「全然だめでしたぜ勇者の旦那!」

 

勇者「そっか。あれ、あいつは?」

 

仮面「……気安く呼ぶんじゃねぇよ。チッ」

 

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317 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:19:34.90 ID:aI/xHT7co

 

 

勇者「いたのか。西の方の酒場と宿屋はどうだった?」

 

仮面「……」

 

勇者「おい、ちゃんと聞きにいったんだろうな。無視すんなよ」

 

仮面「言っておくがな、俺はお前の下についた訳でもなんでもねぇからな。今逃げたら即牢に戻されるだろうから、協力してやってるだけだ」

 

盗賊1「兄貴、でも俺たちこの人たちのおかげで助かったんですぜ?おまけに昨日飯奢ってもらったし」

 

盗賊2「竜人の旦那にも悪いこと言っちゃったな。すいません」

 

竜人「いや別にもういいですよ」

 

盗賊2「魔族がこんないい人だなんて知らなかったぜ。でもこの人の仲間が王国に殺されそうなんだろ?

    弱きを助けて強きをくじく!それが俺たちの信念じゃねえですか兄貴」

    

盗賊1「俺と弟は孤児でね、きたねえ路地裏で、泥棒の濡れ衣着せられて追いかけまわされて、餓死しそうになってたところを

    兄貴に助けてもらったんだ。だから、竜人の旦那の気持ちもちょっとばかし分かるんだ」

    

竜人「そうですか……大変でしたね」

 

盗賊2「兄貴、俺たちも協力しましょうよ!」

 

仮面「チッ! ほだされやがって馬鹿ども。まあいい、今だけだ。

   西は宿屋も酒場も目撃情報ゼロだったよ。このお前さんが描いた美青年像もちゃんと見せてやったぜ」

   

勇者「そっちもだめか」

 

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318 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:20:00.69 ID:aI/xHT7co

 

 

勇者「つーか、気になってたんだが」

 

仮面「あ?」

 

勇者「お前なんで仮面なんてつけてるんだ?怪しまれるだろ、とれよ」

 

仮面「うるせえな、いいだろ別に。ほっとけ」

 

勇者「まあ無理にとは言わないが……不便じゃないのか」

 

盗賊1「兄貴は俺たちと出会った時からこの仮面を愛用してんだ。よっぽど気にいってんですね!」

 

仮面「まあな。そんなことより、おいあそこの武具屋にはもう寄ったのか」

 

竜人「あそこはまだです。休憩してから行こうかと」

 

仮面「さっさと行くぞ。大きめの店だから客もいっぱいいんだろ。おーい親父、ちょっと話聞かせてくれよ」

 

盗賊2「あ、待ってくだせえ兄貴!」

 

竜人「急にやる気出しましたね。行きましょうか勇者様」

 

勇者「お、おう。……ん?こっちの狭い通りの奥……看板が見えるな。もしかして……」

 

勇者「悪い、先に行っててくれ」

 

 

竜人「え?あ、はい。……?」

 

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319 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:20:28.06 ID:aI/xHT7co

 

 

勇者「やっぱり武器屋だったか。目立たないところにあるし品ぞろえも悪いが、なかなかいい剣を売っている。市場じゃ見たことのないものばっかりだ」

 

鍛冶屋「おやいらっしゃい。見慣れない客だ。新しい剣かね?買い取りもやっとるよ」

 

勇者「ああいや、買いにきたわけじゃないんだ。人を探していて」

 

鍛冶屋「むっ!?お主、その腰の剣は……まさか神殿の……ふぉおお!ちょっと見せとくれ!後生じゃから!後生じゃから!」

 

勇者「ええっ!?あの、話聞、」

 

鍛冶屋「やはりそうか!!この美しい刀身……わしが何年修業を積んでも到達できんレベルだ。素晴らしい」

 

勇者(聞いてねえ……)

 

鍛冶屋「しかし、万人にとって扱いやすい剣という訳でもなさそうだな。この重さと刀の薄さ、しなり具合。なかなか扱いづらそうじゃ。

    そういえばこの間、店に何年も置いてあった業物を金髪の若者が買っていったわい。

    それも癖のある形でな、わしもなんであんなの作ったのか分からんのだが」

    

勇者「! 金髪の若者!?詳しく聞かせてくれ!そいつ、もしかして左目の下になきぼくろとかあった!?」

 

鍛冶屋「んなもん知らんわ」

 

勇者「ええっと、じゃあ、どんな剣買っていったんだ?」

 

鍛冶屋「こんな形の短剣だ。お前さんに使いこなせるのかと訊いたらな、わしが見たことのない構えをとってみせた。

    こう左手に短剣を握って、右手にサーベルを控えさせとるんじゃ。で足がこう」

    

勇者(これが貴族の剣術なのか?俺大会見に行ったことないんだよな……今度戦士に訊いてみるか)

 

勇者「あっ、じゃあ首元に傷跡はなかったか?」

 

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320 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:20:56.80 ID:aI/xHT7co

 

 

鍛冶屋「傷跡ねえ……おお、そう言えば若者が来た時には雨が降っておってな、天気が悪いと古傷が痛むだのなんだの言っとった」

 

勇者「本当か!そいつで間違いない。ありがとなおっさん!じゃあ剣返してくれ」

 

鍛冶屋「……」

 

勇者「……」

 

鍛冶屋「……」

 

勇者「……いや、早く返してくれよ」

 

鍛冶屋「……」

 

勇者「おい!!」

 

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321 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:21:22.96 ID:aI/xHT7co

 

 

* * *

 

 

竜人「勇者様。どこ行ってらしたんです? ここの店も手掛かりはありませんでしたよ」

 

勇者「ちょっと手こずったが……聞いてくれ、王子の手がかりを見つけたんだ」

 

竜人「えっ」

 

勇者「近々雪の国に発つと言ってたそうだ。間違いなく最近まで彼はこの都にいた。もう少し目的地を絞り込みたいから、聞きこみを続けよう」

   

仮面「雪の国だぁ?はーん、奴さん随分飛びまわるもんだ。俺は星の国だけの協力でいいだろ?

   お前ら2人は好きにしろ。この際盗賊から足を洗っちまえばいい。俺は俺で好きにやる」

   

盗賊1・2「そんな、兄貴~!」

 

勇者「だめだ。最後まで協力してもらうぞ。そういやさっきの鍛冶屋との話で出たんだが……

   俺の剣、一般人にはかなり使いづらい形状だそうだ。あの天文塔で、よくお前あんな身のこなしできたな」

   

竜人「確かに変わった剣ですよね。装飾用や鑑賞用とも思えるくらい」

 

仮面「剣と名のつくもんなら大抵使えるさ。生きるために手当たりしだい近くにある刃物で戦ってきたからな」

 

勇者「へえ……」

 

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322 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:21:48.82 ID:aI/xHT7co

 

 

しばらくしたあと 魔王城

 

 

シュンッ

 

 

盗賊1「おお~!ここが魔王城ですかい!?すげえ!でけえな!」

 

盗賊2「俺たちまで連れてきてもらえるなんてな!ラッキーだぜ!」

 

仮面(魔王城か……いい宝あるか?)

 

竜人「盗んだら殺しますよ」

 

仮面「!?」

 

勇者「結局あれから王子の目撃情報はチラホラあったけど、雪の国のどこに行ったかまでは特定不明だったな」

 

竜人「まあ、これでもちょっとは前進しましたよ。雪の国ではきっと見つけられるはずです。……おや」

 

 

シュンッ

 

 

魔女「あ。勇者に竜人と――え、横の人たち誰?」

 

神官「お久しぶりです!皆さん!」

 

戦士「おお、認定書のことは聞いたぞ。でかしたな二人とも」

 

勇者「おー久しぶり」

 

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323 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:22:34.63 ID:aI/xHT7co

 

 

神官「聞いてください勇者様!王子を見たって人、いましたよ!なんと、次は雪の国に向かったそうですっ!!!」

 

勇者「ああ、俺たちもそれ聞いた」

 

神官「エッ」

 

勇者「雪の国のどこに向かうかは特定できたか?」

 

神官「いや……ええと……いえ……。ごめんなざい゛……」

 

勇者「なんで涙ぐんでるんだよ!?」

 

神官「調子に乗りました……穴があったら地核まで掘り進めて埋まりたい……」

 

勇者「ナイーヴすぎだろお前!」

 

 

魔王「……いつまで城の外でおしゃべりしているつもりだ?」

 

竜人「魔王様。ただいま戻りましたよ」

 

魔女「魔王様ぁぁ!ただいま~!」

 

仮面盗賊1・2(魔王……??あれが……?)

            

                ↑

勇者「恒例の行事になってるな、これ」

 

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324 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:23:00.34 ID:aI/xHT7co

 

 

魔王「本当に認定書を……?すごい……まさか……。それに王子の行方もあと一歩というところだな。

   みんな、本当にありがとう」

   

勇者「あの国にもどうせ認定書をもらいに行くつもりだったしな。でもあと2カ月と少しで見つかればいいが……」

 

竜人「勇者様たちはこの後太陽の国に戻って、皆さまに報告なさってください。出版した本のこともあるでしょうし。

   表だって動けない私と魔女は、雪の国で引き続き王子探しをやりますよ」

   

魔女「はあ~……あたしあの国寒いから嫌い」

 

竜人「我がまま言うんじゃありません」

 

戦士「そうだな。それからこちらも落ち着き次第雪の国に向かって認定書を女王からもらおう」

 

神官「はい」

 

魔王「ところで、竜人たちも勇者くんたちもここを発つのは明日になるだろう?ぜひみんなに参加してほしいことがあるんだ」

 

勇者「ん?なんだ?」

 

魔王「ふふふ」

 

勇者「なんだよ、楽しそうだな」

 

 

魔王「明日は結婚式があるのだ」

 

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325 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:23:26.41 ID:aI/xHT7co

 

 

勇者「結婚式?ここでか?」

 

神官「わあ、素敵です!」

 

戦士「めでたいな」

 

竜人「ああ、あのニンフとノールのですね。間に合ってよかった」

 

魔女「大変!じゃあ明日のための洋服とメイクとヘアセットの準備して今日は早く寝なくっちゃ!おやすみみんな!」

 

勇者「はやっ まだ陽が沈んだばっかりだぞ」

 

魔王「式を執り行うのも魔王の役目なんだ。準備はもうばっちりしてあるから、勇者くんたちも楽しみにしててほしい。

   一緒にきたあの仮面の彼と盗賊たちにも伝えてくれ」

   

勇者「おう、分かった」

 

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326 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:23:52.58 ID:aI/xHT7co

 

 

翌日

 

 

仮面「なんで俺たちまで……」

 

竜人「あなた、夜中城の中をこっそり徘徊してたでしょう」

 

仮面「べっ、別になんもしてねぇけど!?」

 

竜人「……」

 

魔王「盗む価値のある芸術品なんかこの城にないぞ。物色しても無駄だ」

 

勇者「つーか、お前、結婚式くらいその仮面とれよ。一人だけ舞踏会の招待客だぞ。

   あとそれからいつもつけてるそのマフラーも。確かに今日は肌寒いけどおかしいだろ」

   

仮面「うるせぇな、ほっとけ。魔王のお譲ちゃんの言う通り、全然お宝ねえんだもんな。来て損した」

 

魔王「仲間の彼らはすごく楽しそうだが」

 

 

盗賊1「おお、ここが式場かぁ。俺結婚式にでるのなんて初めてだ」

盗賊2「俺もだぜ。花がたくさんあってきれいだなぁ!てか魔族ばっかだここ!すげえ!」

子エルフ「兄ちゃんたちも人間だー!人間いっぱい増えたー!すげえ!」

 

 

仮面「……はあ」

 

魔王「じゃあ先に私たちは先に中に入ってる」

 

魔女「またね~」

 

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327 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:24:19.04 ID:aI/xHT7co

 

 

ニンフ「魔王様、今日はよろしくお願いします」

 

ノール「よ、よろしくお願いします」

 

魔女「わああっ ニンフすごく似合ってるよ!きれい!ノールも男前じゃん!」

 

竜人「いやーやっぱりこういう行事は心躍りますねえ。幸せになるんですよ二人とも」

 

魔王「手順はこの間の言った通り、ここで婚礼の儀を終えたあと、外にでて島のみんなが作ってくれたアーチを潜って

   離れたところにある東屋まで歩いて行ってくれ。……そんなに緊張しなくていいと思うが」

   

ノール「そ、そそそそうなんですががっがね!」

 

ニンフ「やだもう、ノールったら……この人緊張しいなんです」

 

魔女「でも、ちょっと天気が心配だね―――あ、うそ……」

 

 

ポツ、ポツ……ザァアアア―――……

 

 

竜人「雨が……」

 

ニンフ「あら……どうしましょう」

 

ノール「これじゃ延期、かな?」

 

魔王「ああ、大丈夫。ちょっとこの荷物持っててくれ、魔女」

 

魔女「魔王様、えっ?なんで杖構えて」

 

竜人「ちょっと待ってください特大の風魔法発動して雨雲を吹き飛ばそうとかそういうの洒落にならないんでやめてくださいよ!?魔王様!?」

 

――――――――――――――――――――――――――

328 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:24:45.25 ID:aI/xHT7co

 

 

魚人「いよぉ、久しぶりだな勇者御一行」

 

ハーピー「こんにちは」

 

勇者「久しぶり」

 

グリフォン「認定書ひとつ手に入れたって本当かい?すごいなあ」

 

戦士「まことだ。もうひとつも必ず手に入れる」

 

キマイラ「それは頼もしい。いやはや、あなた方のご活躍と今日の結婚式のおかげで久しぶりに島に活気が戻りましたね。

     子どもたちも元気に振る舞ってはいるもののやはり一抹の不安を感じていたようですが、今日は元気いっぱいで安心しました」

     

魚人「俺はいつでも元気爆発だけどな!!!!!フゥッ!!!!式場から二人が出てきたら秘蔵の酒を新郎にぶっかけようと思ってな!!!ワインシャワーだ!!!」

 

ハーピー「頼むからやめてあげて」

 

神官「花嫁ブチ切れますよ、それ……」

 

勇者「そろそろ式が始まるかな……。ん?」

 

 

 

ポツ、ポツ……ザァアアア―――……

 

 

 

戦士「む、雨か」

 

マーメイド「大変!私はむしろ大歓迎だけど」

 

魚人「俺もむしろ大歓迎なんだけどな」

 

グリフォン「魚人族はそりゃそうだろうけどさ。これじゃ式は中止かな?」

 

子ヴァンパイア「ええー!俺結婚式見たいー!」

 

盗賊1・2「「俺も見たい!!」」

 

仮面「てめえらすっかり馴染んでんなぁオイ」

 

――――――――――――――――――――――――――

329 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:25:11.71 ID:aI/xHT7co

 

 

カッ!

 

神官「うわあ!?眩しい……これ、魔法の光じゃないですか?誰かが魔法を使ったんですよ」

 

勇者「魔法を?でもどうして。……あれ……雨が止んだ。代わりにあの白いの――雪か?」

 

戦士「いや、これは」

 

 

子エルフ「花びらだー!空から花びらが振ってくるー!」

 

仮面「……魔法でこんなこともできんのか」

 

グリフォン「僕も初めて見たなあ」

 

ハーピー「すごい……きれい」

 

勇者「これって――そうか、魔王か。完成させたんだな」

 

子ヴァンパイア「あ!お姉さんとお兄さんでてきたー!」

 

魚人「よおしお前らみんなでアーチ準備しろ!!あいつらを出迎えるぞー!!」

 

 

わいわいわいわい がやがやがやがや

「おめでとう!」 「おめでとうございます!」 「お幸せに!ニンフ!ノール!」

 

 

ニンフ「わ……す、すごいです。本当に雨が花びらになっちゃった……!」

 

ノール「こんなことが……」

 

――――――――――――――――――――――――――

330 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:25:37.69 ID:aI/xHT7co

 

 

魔王「ほら、みんな待ってるぞ」

 

ノール「は、はい!有難うございました!」

 

ニンフ「こんな素敵な結婚式を挙げることができて、私たち幸せです……ぐすん」

 

魔女「泣いたらメイク落ちちゃうよ?夜に宴会もあるのにさ」ニコッ

 

竜人「さあ、行ってらっしゃい」ニコニコ

 

 

わーわー

 オメデトー ……

 

 

竜人「はあ……なんか涙でてきた……魔王様もいつかお嫁にいくのかと思うと。うぅ」

 

魔女「でたよー竜人の親ばか」

 

魔王「……。心配せずとも嫁にはいかないよ」

 

竜人「え?いまなんか言いました魔王様?」

 

魔王「なんでもない。私たちも行くぞ」

 

魔女「はいはーい」

 

――――――――――――――――――――――――――

331 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:26:03.80 ID:aI/xHT7co

 

 

* * *

 

 

魔王城 鐘塔

 

 

魔王「……」

 

魔王「……誰だろう。ここに上ってくる足音が聞こえる。みんな宴会の準備をしているはずだけど」

 

勇者「なんだ、魔王。こんなところにいたのか。どうりで姿を見かけないと思った」

 

魔王「勇者くんか」

 

勇者「なにしてんだ?」

 

魔王「もうすぐ陽が暮れるなって」

 

勇者「ああ」

 

魔王「思ってた」

 

勇者「つまりサボリかよ。宴会の準備手伝えよ」

 

魔王「サボリではない。休憩と言う」

 

――――――――――――――――――――――――――

332 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:26:35.57 ID:aI/xHT7co

 

 

勇者「あの魔法完成させたんだな。以前言ってた魔法だろ?」

 

魔王「そうだ。私は魔王なのに城から出れない無能魔王だからな、魔法の研究か草むしりくらいしかすることがないのだ」

 

勇者「そんなに卑下せんでも」

 

魔王「最近は空から菓子を降らせる魔法の前に、魔力を自分の体から分離させる魔法を研究している。それが完成したら私もいろいろ役に立てるのに……」

   

勇者「そんな魔法が作れたら、魔術界が騒然とするな」

 

魔王「作るさ。絶対」

 

勇者「本当に作りそうだから怖いよ。……お前と図書室で魔法のことを話していた時から随分時間が経ったもんだ」

 

魔王「色んなことがあったけど、今のような状況になるとは夢にも思わなかった」

 

 

勇者「俺も。……そうだ。忘れてた。ほらよ、これお前にお土産」

 

魔王「? ブローチ?」

 

勇者「星の都で売ってたものだ。陰で見てみろよ、火が灯ってるわけでもないのに光るんだ。

   露店の商人は本物の星が入ってるって言ってたけど、まあ売り文句だろ。原理は分からないな。お前なら分かるか?」

   

魔王「これは……多分、月桂樹の葉とガラス球と……いや」

 

魔王「……本物の星が入っているんだな、きっと。だってこんなにきれいなんだから。ほら、ささやかな光だけど頑張って瞬いてる」

 

魔王「勇者くんが星をくれた。君は本当にたくさんのものを私にくれる」

 

――――――――――――――――――――――――――

333 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:27:04.02 ID:aI/xHT7co

 

タンッ

 

勇者「おい、そんなところに登ったら危ないぞ。ただでさえ運動能力ほぼゼロなんだから」

 

魔王「う、うるさい。少しくらいはある」

 

 

魔王「……この鐘塔は島で一番高いところにあるんだ。ここからなら島の全貌も、その向こうに広がる海も見える」

 

勇者「おー……。きれいな眺めだな」

 

魔王「勇者くんは死にたいって思ったことはあるか?」

 

勇者「なっ、なんだ突然。どうした。そんなことあるわけねぇだろ」

 

魔王「そっか。じゃあ勇者くんは強い人だ。実を言うと、私は昔何回も思ったことがある……早く死んでしまいたいって」

 

勇者「………………なあ、そこから降りろよ。そろそろ宴会も始まるんじゃないか?もう戻ろう」

 

魔王「竜人と魔女に会うまで毎日毎日毎日毎日そう思ってた」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

334 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:27:29.97 ID:aI/xHT7co

 

勇者「魔王。降りろって。手、貸してやるから」

 

魔王「……ん」

 

 

グイッ

 

 

勇者「ちょっ――馬鹿、落ち……っ」

 

魔王「でも、今は生きててよかったって思ってる。みんなと一緒に、勇者くんと一緒にこれからも生きたいって思ってる」

 

魔王「ありがとう、勇者くん……!」ニコッ

 

魔王「一緒に飛ぼう!掴まって!」

 

 

バサッ!!

 

 

勇者「わっ!?」

 

魔王「ほら、いま私たちは塔より高いところにいるんだ!」

 

魔王「夕陽に照らされて、空も私も勇者くんも、村も海も……全て金色に輝いている。なんてきれいなんだろう。そう思わないかな?」

   

勇者「風景を楽しむ心の余裕がないんだよっ!飛び降りたのかと思っただろ! ったく、お前に翼があるの忘れてたぜ……」

 

――――――――――――――――――――――――――

335 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:28:02.79 ID:aI/xHT7co

 

 

魔王「飛び降りるなんてそんなこと、しないよ」

 

勇者「まぎらわしいんだお前は」

 

 

 

 

 

 

ノール「……ん?あれは……」

 

ニンフ「あら」

 

子エルフ「えー!じゃあ兄ちゃんたち、とうぞく団なの!?宝石とか盗んだの!?」

 

盗賊1「まあな。星の都の宝石だって、あともう少しで手に入れられるところだったんだぜ」

 

盗賊2「そうそう!星の都の次は雪の国宝物庫のスノーダイヤ、その次は太陽の国の美術館の『ほほ笑む女』を狙ってたんだぜ」

 

子ヴァンパイア「俺それ知ってるー!本で見たことあるー!すげえな兄ちゃんたち!」

 

盗賊1「勇者の野郎のあの剣だって、一回は盗みに成功したしな!へへへ!」

 

子エルフ「じゃあ兄ちゃんたち勇者より強えの!?」

 

子ヴァンパイア「……あー!!勇者と魔王様が空飛んでるー!!」

 

 

魔女「ほんとだぁ。あたしも箒もってこよっかな」

 

竜人「ああ、帰ったら魔王様の服を繕わなくては……」

 

――――――――――――――――――――――――――

336 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:28:31.61 ID:aI/xHT7co

 

 

勇者「もう少し暗くなったら、ほんとに星まで手が届きそうだな」

 

魔王「うん……でもいらない。勇者くんがさっきくれたこのブローチがもうあるから。

   これから空が暗くなって、みんな旅立って、いつか私一人になったとしても」

   

魔王「この星がいつでも私を照らしてくれるから、さびしくないよ」

 

 

勇者「……。一人になんかなってる暇ないだろ? あのさ、お前雪を見たことないって言ってたよな」

 

魔王「うん、ない。でもいつか勇者くんが魔法で見せてくれるって言った」

 

勇者「あれやっぱり俺には難しい。無理だ」

 

魔王「えっ」パッ

 

勇者「ばっ!!おい手を離すな落ちる!!!」

 

魔王「ご、ごめん。……そうだな、難しいか。別に気にしなくていいぞ、勇者くんだって忙しいんだから……」

 

勇者「だから、代わりに!お前を雪の国に連れてってやるよ。俺たちが認定書を集めて、王子も見つけたら、

   魔族がこの島に留まる必要も、結界を魔王が張る必要もないだろ?

   そうしたら俺がお前を雪の国まで連れてってやる」

   

勇者「あそこに行ったら雪なんて腐るほどあるから、1日で見あきるだろうけどな。ハハハ」

   

魔王「私がこの島の外に……?」

 

勇者「そうだよ。鼻が真っ赤になるくらい寒いから覚悟しておけ」

 

――――――――――――――――――――――――――

337 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:28:57.65 ID:aI/xHT7co

 

 

魔王「うん……そうなったら、嬉しい。すっごく嬉しい」

 

勇者「じゃあ約束な」

 

魔王「うん。約束だ」

 

 

 

勇者「……もう陽が沈んだな。宴会も始まってるだろう。戻ろうか」

 

魔王「……………………勇者くん、」

 

勇者「ん?」

 

魔王「   」

 

 

ビュッ バササ…

 

 

勇者「わっ すごい風だ。悪い、聞こえなかった。もう一回言ってくれるか」

 

魔王「……いや。大したことを言ったわけではない。気にしないでほしい」

 

勇者「なんだよ、気になるって」

 

魔王「あ。やっぱり宴会もう始まってた。早く行かないと料理がなくなってしまうな。急ごう」

 

勇者「? お、おい、引っ張るなって」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

338 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:29:42.65 ID:aI/xHT7co

 

がやがやがや わいわいわい

 

 

魚人「はいはーい!俺一発芸やりまーす!!秘儀水提灯!!」

 

グリフォン「わぁ。すごいなあ。それ腹の中どうなってるんだい?かっ捌いて本の通りか確かめてみたいな」

 

竜人「魚人、今すぐ逃げなさい」

 

ハーピー「人間同士の結婚式と、魔族の結婚式ではなにか違うところあるんですか?」

 

神官「人間同士といっても宗教によってしきたりは異なるんですよ。我々太陽の国では――」

 

 

 

ニンフ「魔王様」

 

魔王「ん?」

 

ニンフ「それなんですか?不思議なブローチ……きれいな灯りですね」

 

魔王「星の灯りなんだ。勇者くんからもらったのだ。ふふふ」

 

ニンフ「まあ、素敵。……魔王様は勇者様をとっても慕っていらっしゃるんですね」

 

魔王「…………。…………聴いてくれ、ニンフ」

 

ニンフ「はい」

 

魔王「この世界が変わったら、勇者くんが私を雪の国まで連れてってくれるって言った。

   二人で一緒に旅をするんだ。見たことのない景色を見て、会ったことのない人に会って、アクシデントもないと……つまらないな」

   

ニンフ「ええ、そうですね」

 

――――――――――――――――――――――――――

339 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/12(木) 22:30:08.92 ID:aI/xHT7co

 

 

魔王「きっといつか勇者くんも誰か人間の女の子と結婚するだろう。それまででいいから……

   それまでずっと勇者くんと一緒にいたいな。いっぱい色んなものをくれたから、今度は私が返したいんだ」

 

ニンフ「魔王様と勇者様、すごくお似合いだと思いますのに、どうしてそんなことを言うんです?

    あ!姿かたちのことでしたら、私の一族に伝わっていた成長薬のレシピがあるので心配しなくとも!」

    

魔王「そういうことじゃない。というかそんな薬あったのか」

 

魔王「とにかく!いいんだ。絶対にこの世界を変えてみせる。全部うまくいく。魔族のみんなを救ってみせる。ニンフもみんなも何も心配しなくていい」

 

ニンフ「魔王様……」

 

 

魔女「ニンフちゃん、魔王様!主役と王様がそんな隅っこでなにしてんのー?こっちおいでよー!」

 

ニンフ「あ……」

 

魔王「行こう」

 

 

 

魔王(全部終わったら、雪を見に行く)

 

魔王(勇者くん。約束、忘れないでね……)

 

――――――――――――――――――――――――――

352 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 16:55:19.95 ID:8nPUf0/xo

 

 

 

勇者「じゃあ俺たちは王国に帰るぜ」

 

竜人「私たちは雪の国へ先に行ってます」

 

魔女「残り時間も折り返し地点に来ちゃってるし、ちゃちゃっと王子見つけないとね」

 

仮面「ちょっと待て。なあ!俺たちも雪の国に連れてってくれねぇか」

 

戦士「む?何故だ?お前は俺たちと一緒に王国に来る予定ではなかったか」

 

仮面「雪の国に同じ盗賊やってる奴らいるから、そいつにコンタクトとってやるよ。王子様探してんだろ」

 

竜人「有り難いですけど、急に協力的になりましたね?」

 

勇者「怪しいな……」

 

仮面「うるせぇな。この俺様がせっかく協力してやろうと思ってんだからゴチャゴチャ言うんじゃねぇ」

 

盗賊1「兄貴がいれば百人力ですぜ!」

 

盗賊2「兄貴は盗賊ギルドの中でも有名なんだ!」

 

仮面「そういうこった。いいだろ?」

 

勇者「じゃあまかせるよ。ところで魔王の姿が見えないがどこ行った?」

 

――――――――――――――――――――――――――

353 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 16:56:06.33 ID:8nPUf0/xo

 

ぱたぱた

 

 

魔王「……すまない、待たせた」

 

神官「魔王さん、どうしたんですそんなに息を切らせて」

 

魔王「昨日の夜、書庫で古い古い魔術書を見つけて。それを読んでたんだ……

   竜人、魔女。もし王子の持ち物を見つけたらここに持ってきてくれ」

   

魔女「え、なんで?」

 

魔王「この書に書いてある魔法を発動させれば、その持ち物から本人の居場所が特定できるんだ。

   まさか本棚の奥にこんな本があったとは思わなかった。もっと早く気付けばよかった」

   

神官「そ、そんな魔法あるんですか?」

 

魔王「勿論古い魔法だから準備もめちゃくちゃ面倒だが、なんとかこっちで用意しよう。

   ヤモリの子どもと3日間月明かりに照らしたムーンストーンと女子の生き血400ミリリットルなどなど」

 

勇者「もろ黒魔術だな!生き血とか久々に聞いた」

 

盗賊1「怖い」

 

盗賊2「怖い」

 

戦士「しかし、持ち物なら姫様に頼んで城から持ち出してもらえばよいのでは?」

 

魔王「それが本人が手放して1年以内のものでなくてはならないのだ。

   王子がいなくなったのはそれよりも前だろう?だから使えないんだ」

   

仮面「残念だったな」

 

――――――――――――――――――――――――――

354 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 16:56:41.52 ID:8nPUf0/xo

 

 

魔王「あと残り時間は約3カ月……そろそろあの魔族に敵意むき出しの王も準備を整えていることだろう」

 

竜人「ええ。一刻も早く王子を見つけ出さなくては」

 

魔女「ちょっとのんびりしすぎちゃったかなぁ。でも全然見つからない王子が悪いよねーまじ腹立つんですけど」

 

仮面「王子ねぇ。今までそんなに探しても見つからなかった奴頼りにする前にほかの方法ねぇのか?

   まあ俺はあんたらの目的なんてどうでもいいんだけどよ。さっさと自由にしてもらいてぇんだこっちは」

   

勇者「いいや、これしかない。俺たちも王国の様子を確認したらすぐ雪の国に行って認定書をもらう」

 

神官「そろそろ王様も勇者様を呼びだしそうですよね。戦争の準備しろーって言って」

 

戦士「だな。ボロを出さないように気をつけろよ勇者」

 

魔王「そうだ、十分気をつけてくれ、勇者くん。特に、勇者くん」

 

魔女「ついカッとして王様に喧嘩売っちゃだめだよ?勇者」

 

竜人「全て水泡に帰しますからね、勇者様」

 

仮面「お前が一番危ねぇよな勇者」

 

盗賊1・2「確かに」

 

勇者「おいおい!なんで俺にだけ注意するんだよ!?そんなに信用ないのか俺!」

 

魔王「まあ強いて言うなら」

 

勇者「傷ついた!俺傷ついたよ!あーもう分かったよ、気をつける。じゃあそろそろ行くわ俺たち。お前らも達者でな」

 

竜人「では私たちも行きますか。魔王様、私がいなくても規則正しい生活を送ってくださいよ」

 

 

シュンッ

 

――――――――――――――――――――――――――

355 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 16:57:33.00 ID:8nPUf0/xo

 

 

魔王「……行ったか。急に静かになってしまったな」

 

魔王「さて私は先ほど話した魔術の下準備でもしておこう。まずはヤモリ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕方

 

 

魔王「ああ、疲れた……。もう自分の部屋まで歩いてくるのも面倒だ。一人で使うにはこの城は広すぎる」

 

魔王「急に眠気が……いやでも今寝たら夜に眠れなくなってしまう……うぅ……」

 

魔王「ちょっとだけ、ちょっとベッドに横たわるだけ、ちょっとだkグーーーーーー」

 

 

バタンッ

 

――――――――――――――――――――――――――

356 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 16:58:08.80 ID:8nPUf0/xo

 

 

 

魔王(…………ん……?)

 

魔王(これは……夢か……。というか普通に1秒くらいで寝てしまったな。不覚だ。

   ここは、外? 行ったことのない場所だ。 あっちに人だかりが見える……なんだろう)

   

魔王(音は聞こえないな。この人間たちは一体何を見ているんだ?……誰かが両脇の騎士に剣を突き付けられている。

   手を後ろ手に縛られて……ああ、罪人か。処刑でもするのだろうか)

   

魔王(私たちの島にはこのような罪人がでたことないから助かるな。このような処刑を行いたくも見たくもない)

 

魔王(なんの罪だろう…………罪人の顔は…………)

 

魔王(あれ……おかしいな。見覚えがある……彼は……勇者くん?)

 

魔王(そんな。どうして勇者くんが捕えられて……。いや落ち着け、これは私の夢だ)

 

魔王(私が不安がっているからこんな夢を見るんだ。早く覚めよう。早く早く……)

 

魔王(夢であっても、こんな光景見たくない……!早くしないと剣が振り下ろされてしまう……)

 

魔王(早く夢から覚めなくては……っ)

 

 

 

魔王「…………ッ!!」

 

 

ガバッ

 

 

魔王(……はぁ……やっぱり夢だった。嫌な夢だ……。

   部屋が真っ暗だ。こんな時間まで寝てしまうとは。灯りを……)

   

魔王「……!? そこにいるのは誰だ?」

 

――――――――――――――――――――――――――

357 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 16:58:52.35 ID:8nPUf0/xo

 

 

男「……貴様が今の魔王か」

  

魔王「村の魔族ではないな。人間……でもない。誰だ?そもそもどうやってここに入ってきたんだ?」

 

男「まさかこのような娘が魔王を名乗るとは……随分魔族も落ちぶれたものだ」

 

魔王「質問に答えろ」

 

男「こんな、部屋にぬいぐるみ置いていたり、リボンをあしらった天蓋付きベッドで寝るような娘が魔王なんて片腹痛いわ」

 

魔王「勝手に入って勝手にじろじろ部屋を見るな。なんて失礼な奴だ。やめろ馬鹿そこはクローゼットだ開けるなっ」

 

男「馬鹿だと?口のきき方を誰かから教わらなかったのか、無礼者」

 

魔王「無礼なのはお前の方だ!捕縛魔法……あれ?捕縛魔法!……ん?」

 

男「無駄だ、ここも貴様の夢の中だ」

 

魔王「夢……?じゃあさっきのは……」

 

男「それも夢だ。これも夢。まあそうカッカするな。一度貴様と話をしたかったから夢に介入させてもらった」

 

魔王「夢に介入なんて私でもできないぞ。何者だお前は」

 

男「自惚れるなよ。それに口のきき方に気をつけろと先ほど言ったはずだ。俺は魔王……貴様からすると先代の魔王にあたるか」

 

魔王「えっ?」

 

男「ふん、貴様も俺と同じ赤い瞳か。100年たっても受け継がれるものは受け継がれるのだな」

 

魔王「ええっ?」

 

――――――――――――――――――――――――――

358 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 16:59:32.15 ID:8nPUf0/xo

 

 

男「なにを驚いておる」

 

魔王「先代魔王……お前が私の祖先なのか?」

 

男「なんだ、知らなかったのか。あとお前と言うな。

  正確には祖先と言うより、血族というだけだ。俺の妹がお前の祖先だ」

  

魔王「えっ……ええ?そうだったのか?」

 

男「本当に知らなかったのか。随分とぼけた奴だ。それで魔王をやっていけてるのか貴様。

  まあいい。些細なことだ。それより貴様に話がある」

  

男「何故勇者を殺さない?魔族が危機に瀕しているこの状況で貴様は一体なにをしているのだ。

  貴様と今の勇者なら、苦戦はするだろうが貴様の方が力はあるだろう」

  

男「さっさと殺して勇者の肉を食らえ」

 

魔王「食らう……?気持ち悪いことを言うな」

 

男「勇者の肉を食らえばあいつの魔力も手に入る。そうすれば魔族を脅かす人間どもも一掃できるだろう。

  同胞を守れるばかりか人間どもへの復讐もできるのだぞ。なにを迷うことがある?」

  

男「情けを捨てろ。憎しみだけ心に抱いておけばよい。貴様らを散々虐げてきた人間どもが憎くないのか?」

 

魔王「…………私はこの魔力をそんなことのために使いたくない。

   傷つける魔法じゃなくて、誰かを幸せにできるような魔法を使いたい」

   

魔王「私は勇者くんも人間も殺さない。魔族のみんなだって殺させない。私は、お前と同じ道を辿らない」

 

男「そんな世迷言が通用すると思っておるのか」

 

魔王「通用させてみせる」

 

男「……ふん。せっかく忠告しに来てやったのに、親不孝な娘だ」

 

魔王「だれが親だ」

 

――――――――――――――――――――――――――

359 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:00:00.29 ID:8nPUf0/xo

 

 

男「その頑固なところ、あいつによく似ておる。……ならばやってみるがいい。後悔しても知らんぞ」

 

魔王「……」

 

男「では俺はそろそろ行こう。ではな」

 

魔王「あっ、待ってくれ。訊きたいことが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

ガバッ

 

 

魔王「………………」

 

魔王「誰もいない……今度こそ、現実か」

 

魔王「寝たのに疲れがとれてない……あれが先代魔王、か。まさか血がつながってたとは」

 

魔王「……全然私と似てないじゃないか」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

魔王「似てない。……うん」

 

魔王「……ん?ベルの音。誰か城に来てる」

 

 

 

ケット・シー「……あ、こんばんは魔王様。どうしたの?なんか顔色優れないよ」

 

魔王「いや、なんでもない」

 

ケット・シー「今って竜人様いないんだよね?うちのお店に食べに来ない?魔王様も一人ぼっちで食べるのなんてさびしいでしょ?」

 

 

グゥゥゥ

 

魔王「……」

 

ケット・シー「……お腹すいてるみたいだし」

 

魔王「腹の虫が鳴ったぞケット・シー」

 

ケット・シー「ナチュラルになすりつけられた!?さすがだ魔王様!」

 

魔王「行くぞ」

 

ケット・シー「あー待ってくださいよー」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

360 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:00:27.89 ID:8nPUf0/xo

 

 

太陽の国

 

 

カランカランッ

 

女主人「いらっしゃ……おや勇者たちかい。やっとお帰りなすったか」

 

勇者「よう。なんというか、賑わってるな」

 

 

ざわざわざわ

 

「この本ほんとうに魔族が書いたってのか?」

「魔族って字書けるのか!?流石に嘘じゃないのか」

「例え嘘だとしても、変わったストーリーだな。魔族と人間がねぇ……本当にそうなれば、平和が一番なんだけどさ」

「しっ。宮殿の騎士が通るぞ、本を隠せ」

 

 

神官「本、出版できたんですね。私たちの居ぬ間に、どうも有難うございます」

 

戦士「ここに来るまでもそこかしこでグリフォンの書いた本を読んでる連中を見たぞ。なかなか話題になってるようだな」

 

勇者「後で本屋の主人にも礼を言いに行かなくちゃな」

 

女主人「ちょっと店の倉庫で話をしないかい。今は客もあんまりいない時間帯だし」

 

勇者「ああ」

 

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361 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:00:59.34 ID:8nPUf0/xo

 

 

女主人「さて、と。ここなら普通に話をしていいだろう。あんたらがいなかった間のことを話しておこうと思ってさ。

    とその前に成果を聞いておこうか。認定書はどうだったのさ?」

    

勇者「ふっふっふ」

 

神官「えっへっへ」

 

勇者「刮目せよ!これが星の国の王子からもらった認定書だ!」

 

神官「わー!」パチパチ

 

女主人「うっ!眩しいー!認定書から謎の後光がぁ!?」

 

戦士(この茶番、俺も乗らねばならないのだろうか)

 

 

勇者「認定書はもらった。うちの王子はまだ見つかってないんだけどな。全くどこにいるんだか」

 

女主人「やったじゃないか。さすがさね」

 

戦士「してそちらは?」

 

女主人「こっちはねぇ、結構大変なことになってたよ。まず本が売られて、すぐ禁書指定されたよ」

 

神官「ええっ!?だめじゃないですか!」

 

女主人「いや、かえってよかったよ。禁書指定なんて滅多にされないからさ、どんな本なんだろうって逆に人気が出たらしくって。

    あの胡散臭い本屋も珍しく客でいっぱいだよ」

    

勇者「おお、あの主人が言ってた通りだったな」

 

女主人「それから王様の魔族殲滅について色んなとこでみんな本を片手に語り合ってるってわけ。

    うちの店でも御覧の通りだ。で、よさそうな客には同盟加入しませんか~?って声をかけて仲間を増やしてるとこ」

    

女主人「こんな感じで仲間は結構増えたよ」

 

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362 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:02:13.45 ID:8nPUf0/xo

 

 

女主人「でも、いっこトラブルがあってさ。いつものようにあんたら抜きでここの地下で集会を開いていたときに、

    突然王様直属の騎士団がやってきてね」

    

戦士「なに?」

 

勇者「なっ、ここがばれたのか!?」

 

女主人「どうしてあいつらが嗅ぎつけたのかは分からない。なんとか全員逃げのびたんだけど、あいつら完全に納得してる空気じゃなかったね」

 

神官「ひえぇぇ……っ」

 

女主人「王様もちょっと街の空気が変わったことに気付いたのかもね。あんたらが戻ってきてくれてよかったよ。

    5日後に王様が住民に向けて、演説をするらしいよ」

    

勇者「そうか……。ここが正念場だな。流れを持ってかれたら仕舞いだ」

 

神官「で、でもどうするつもりですか?表だって反論できたらそれが一番ですけど、そしたら私たち逮捕されちゃいますよ」

 

勇者「俺にひとつ考えがある」

 

 

女主人「へえ……あんた脳筋タイプかと思ったけど、ちゃんと考えてるんだ。まああんたらも旅で疲れてるだろう。

    今日は奢りで御馳走してあげるよ。テーブルにつきな。そろそろ私も店に戻らなくちゃ」

    

勇者「そりゃ有り難いが、前半でさらっと失礼なこと言わなかったか。

   俺のパーティは脳筋、非脳筋、半脳筋の俺というバランスがいいパーティだぞ」

 

戦士「おい聞き捨てならんぞ勇者よ……」

 

勇者「いってぇ!!叩くなよ!!冗談だって」

 

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363 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:02:43.16 ID:8nPUf0/xo

 

 

がやがやがや

 

勇者「相変わらずここの飯はうまいな」

 

神官「それにしても……」

 

 

「俺は魔族に会ったことねえが、やっぱり殺すのはかわいそうじゃないか?そもそもそれがきっかけで戦争につながるかもしれんぞ」

 

「魔族がどうのこうのは分からないけど、税が重くなったのには困ったよ。私も王様には反対だね」

 

「本当に王様の言ってることは正しいのか?大体なんで魔族が書いたからと言ってこんな普通の本が禁書指定されるってんだ」

 

 

 

神官「……ここまで反響を呼ぶとは思いませんでした」

 

戦士「成功と言っていいだろうな」

 

勇者「王様の言うことを全部鵜呑みにすることが一番まずいからな、国民たちがちょっとでも疑うようになったらそりゃ大きな進歩だ」

 

 

 

「はあ?あんたら何言ってるんだ?俺は田舎の村出身だが、昔魔族の奴らに畑を荒らされたぞ!!それに奴ら妙な魔法を使いやがる!気持ち悪い連中だ!」

 

「そうよ。私の村なんて、人間に紛れて吸血鬼が住んでたのよ!!犠牲者は出なかったけど、もし誰かが殺されていたらと思うと!ああおぞましい!」

 

「あんな底知れない不気味な者たちと仲良くなんて、冗談でも無理だ。お前らは実際に会ったことないからそんなこと言えるんだよ」

 

 

勇者「……」

 

――――――――――――――――――――――――――

364 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:03:18.10 ID:8nPUf0/xo

 

 

戦士「……まあ、ああいう意見もゼロではないのだな」

 

神官「悲しいですね……あんなにいい方たちなのに。きっと誤解ですよ」

 

勇者「誤解じゃないとしても、本当に悪い奴がいたとしても、それで全員殲滅しようっていうのは極端な話だ。

   うーん……なんて言えば伝わるんだろうな。俺は舌戦なんて得意じゃないんだ」

   

神官「舌戦?え、勇者様なにするつもりですか」

 

 

バサバサッ

 

 

戦士「む、この白い鳩……宮殿からの伝達ではないか」

 

勇者「俺宛てだ。明日戦士と神官と、王に会いに来いってさ。さっそくお呼び出しだぜ」

 

神官「なんか緊張しますっ……きゅ、宮殿に入った途端に捕まえられたりしませんよね!?」

 

戦士「もしかしたら罠かもな。それで明後日の演説の代わりに俺らが処刑されるのだ」

 

神官「ひぃぃぃ!!縁起でもないこと言わないでくださいよ戦士さん!!!」

 

戦士「先に言ったのは神官だろう」

 

勇者「しっかし、ここの地下で集会をやってることあっちが感づいているとしたら、もう集会やらない方がいいかもしれないな。

   これからは大っぴらに集まることもできない……できても少人数でだ。大人数じゃいざというとき逃げられないし」

   

戦士「なに、あと俺たち3人が集中すべきなのは認証書と王子のことだけだ。同盟管理に関しては、女主人がかなりのやり手だしな」

 

神官「確かに……ビラとかいつの間に作ったんでしょう」

 

戦士「姫様も、彼女にお付きの騎士もなかなか頼りになる。王室司書や歴史家も頭が回るし、本屋の主人も曲者だ」

 

勇者「曲者って」

 

戦士「彼らの頑張りに応えるためにも、絶対に目的を達成しよう。俺たちパーティの真骨頂を見せるときだ」

 

勇者「ああ!そうだな!いける気がしてきたぜ!神官もそろそろ震えを止めろ!」

 

神官「むっ、武者震いですっ!!」

 

――――――――――――――――――――――――――

365 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:03:51.71 ID:8nPUf0/xo

 

翌日 王宮

 

 

神官「はあ……はあ……ごくり……」

 

戦士「大丈夫か神官」

 

神官「実は昨日寝れませんでした……あああ、胃が痛いっ。単体治癒魔法……!」

 

戦士「魔法使うのか!?胃痛で!?」

 

勇者「おい大丈夫か?そろそろ謁見の部屋につくぞ」

 

 

 「殿下、勇者様、神官様、戦士様をお連れしました……」

 

国王「御苦労だった。下がってよい」

 

 「はい」

 

 

国王「さて勇者、神官、戦士よ。魔族侵攻まで3カ月をきったが、お主たちの調子はどうかね。日々鍛錬を重ねているか?

   魔族殲滅ではお前たちの鬼神のごとき活躍を期待している」

   

戦士「はい、心得ております」

 

神官「ひゃい!……し、失礼しましたっ……はい!」

 

国王「そう緊張するな。魔族に恐ろしさを感じるのは仕方のないことだ。だが案ずるな、我々も着々と準備を進めている。

   我々の全軍力、そしてお主たちの力をもってすれば例え魔王と言えど恐るるに足らん」

   

勇者「……」

 

国王「勇者?先ほどから口を閉ざしたままだが、どうかしたのか。まさか今更戦うのが怖いなどと申すでないぞ。

   お主の戦力も既に計算に入れておるのだからな」

 

――――――――――――――――――――――――――   

366 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:04:21.64 ID:8nPUf0/xo

 

 

勇者「……そうではありません」

 

神官「(勇者様?ど、どうしたんですか?)」

 

戦士「(勇者、こらえろ)」

 

勇者「……っ、いえ、申し訳ありません。全身全霊をかけて……魔族を討つ、ことを約束します」

 

国王「それでよい。勇者よ、迷うな。敵に情けをかけるな。期待しておるぞ」

 

国王「さて本題だが、近頃この国で不穏な動きが見られるのだ。どうやら同盟を組んで国に楯突こうという不遜な輩がいるらしい」

 

神官「」ギクッ

 

勇者(やっぱり感づかれてる……でも首謀者が俺たちとはまだ思ってないか。本人に言うってことは)

 

国王「テロやクーデターなど起こされては敵わん。国民の安全にも関わることだ。

   勇者、神官、戦士。お主たちにその者たちの正体を突き止め捕えてほしいのだ」

 

勇者「ええ……勿論です」

 

国王「頼むぞ。それからあともうひとつ……」

 

国王「4日後王宮の前で、国民に向けて私自ら演説を行う。

   勇者よ、国民の期待を背負う者として、彼らの志気を上げるためにお主にも演説をしてほしいのだが」

   

勇者「すいません。4日後から星の国に向かう予定なのです。どうしても外せない用事がありまして」

 

国王「そうか。残念だが強制はすまい。ではこれからも修練に励んで、いずれ訪れる戦いの時まで己を磨くがいい。

   下がってよいぞ」

  

勇者「はい」

 

 

 

 

 

国王「………………」 

 

――――――――――――――――――――――――――

367 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:05:01.51 ID:8nPUf0/xo

 

国王「……待て勇者よ。これを持ってゆけ」

 

勇者「これは?」

 

国王「魔除けの札だ。お主を魔の者から守ってくれよう」

 

勇者「どうも有難うございます。では」

 

 

 

 

 

 

 

宿屋

 

神官「緊張した……寿命が5年縮んだ……」

 

戦士「同盟のことやはり感づかれていたな。流石にあの時は心臓が止まった」

 

勇者「俺、魔王城でみんなが言ってたことが分かったよ。俺が一番ボロ出しそうだ」

 

神官「ひやひやしましたよ、もう。ところで、星の国にまた行くんですか?」

 

勇者「いや行かないよ。この大事な時に行く訳ないだろう」

 

戦士「ではどうしてうそを?」

 

――――――――――――――――――――――――――

368 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:05:28.69 ID:8nPUf0/xo

 

 

勇者「……これだ」

 

戦士「引き出しから出した……いつかのひょっとこの面か。それがどうした」

 

勇者「これを……こうだ」

 

神官「顔につけましたね」

 

勇者「そして、このローブを羽織る」

 

戦士「うむ」

 

勇者「これでどっからどう見ても俺には見えまい。俺は正々堂々国王の前に姿を表わして議論で勝負してやる!」

 

 

戦士「神官」

 

神官「はい、戦士さん」

 

勇者「?」

 

 

スパーーーンッ!!

 

 

勇者「いった!!!なんだよ両脇からビンタって!!!?ああっ面が!飛んでいった!!」

 

戦士「お前は馬鹿か」

 

神官「それでばれないと思ってるんですか。声は勇者様そのものですよ」

 

戦士「姿はただの怪しい変質者だがな。大体演説と言ったら騎士たちも王の周りにいるだろう。

   戦えば強さで勇者と分かる。逃げるのも転移魔法は使えないんだぞ?」

   

勇者「いや、分かってるけどさ。つーか今のビンタで顔が腫れて面いらずだよ畜生」

 

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369 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:05:56.24 ID:8nPUf0/xo

 

 

神官「とにかく、やめてくださいよ!?だめですからね!戦士さんだってこう言ってるんですから」

 

戦士「勇者、気持ちは分かるが危険すぎる。今は動くときではない」

 

勇者「あーはいはい。分かったよ……。じゃあまた明日な」

 

 

 

 

ガチャ バタン…

 

 

 

勇者「……でも、だったらどうするんだよ?」

 

勇者「認定書や王子探しも勿論大事だけど、もっと根本的に変えなくちゃいけないこともあるんじゃないか?」

 

勇者「とにかく、もう寝るか……明日、危惧したようなことが起きなければいいが……」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――  

370 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:06:25.04 ID:8nPUf0/xo

 

* * *

 

 

 

時の女神「さて……」

 

女神「ここが運命の分かれ道」

 

 

 

女神「一方はいずれ破滅に至る道。一見勇者たちの目的が完遂されたかのように見えるけど、じわじわと破滅へと至る道」

 

女神「もう一方は光の道。犠牲は少なくないけれど、勇者が守りたいものは守れる、彼が望んだ道」

 

女神「彼はどちらを選ぶのでしょう」

 

女神「…………どちらも、私にとっては悲しい結末しか待ってませんけどね」

 

 

* * *

 

――――――――――――――――――――――――――

371 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:07:06.80 ID:8nPUf0/xo

 

 

 

翌日 宮殿前広場

 

 

ざわざわざわざわざわざわざわ

  がやがやがやがやがやがやがや

 

 

神官「わ、すごい人だかり」

 

戦士「これじゃ帽子やフードを被って顔を隠さなくとも、俺たちのことを気にする者もいないだろうな」

 

勇者「まあ念のためだよ。……あ、国王と姫様が出てきたぞ。姫様すごい不機嫌な顔してるなぁ」

 

神官「勇者様、絶対、ぜーったいこらえてくださいよ?」

 

勇者「分かってるって」

 

 

 

 

 

国王「国民たちよ、よくぞ集まってくれた。今日私が皆に告げたいのは、後に控えた魔族侵攻および殲滅についてだ」

 

 

王様―! 国王様!

 

国王「皆には税を増やして申し訳ないと思っておる。しかしそれも無駄にはせん。

   100年前の戦争で、我々太陽の国は辛くも成功をおさめた。それから魔族は絶滅の道を辿ったかのように見えた……」

   

国王「戦争から100年、我々は勝ち取った平和を享受して過ごしていた。永遠にこの平穏が続くと思っていた」

 

国王「が、しかし。魔王の復活したという知らせは皆の耳にも届いただろう。我々の平和なる時は今にも崩れ去ろうとしている!」

 

――――――――――――――――――――――――――

372 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:08:15.14 ID:8nPUf0/xo

 

国王「このまま放っておいては、戦争の前の状態……人々がただ魔族に搾取され、虐げられて疲弊する悪夢の時代に逆戻りだ」

 

国王「国民たちよ、今こそ立ちあがるべき時が来た。我々は戦おう、そして再び自らの手で勝利をつかみ取ろう」

 

国王「我々には伝説の勇者がついている。案ずるな、恐れるな。魔の者をこの世から排除し、偉大なるあの太陽のような栄光を!」

 

国王「今こそ、この手に!!」

 

 

わーーーーーー!! 王様ーーー!!

 今こそ魔族を殲滅する時だ!! 今やらなくていつやるんだ!! 

人類に偉大なる栄光を!!

 

 

ざわ… ざわ…

 

 「でも……本当にいいのかしら? 魔族にも家庭があって子があって……避けられる戦いなら……」

 

 「俺はちょっと王様には賛同できない……かも」

 

 「戦争が今やるべきことなのか?もっとほかにあるんじゃないのか?」

 

 「戦いに税を使うなら私たちの孤児院に少しでも寄付をして頂きたいです……」

 

 

勇者「(おっ……!いいぞ!)」

 

神官「(もっと声を大きくです!流れを変えましょう!!皆さん!)」

 

姫様「(皆さん……!)」

 

 

 

国王「ふむ……やはり毒されておる者たちが少なからずおるようだな」

 

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373 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:08:43.47 ID:8nPUf0/xo

 

国王「なにやら私の知らないところで、あることないこと嘯いてる輩がおるようだが、騙されるな」

 

勇者(嘯いてるのはあんただろうが!)

 

国王「魔族が書いたという本を出版したり、私への不信を煽ってよからぬことを企む輩に唆されてはいかん」

 

 

ざわざわ… ざわざわ……

 

 

  「でも……」  「俺は反対だ」

  

  「やっぱりおかしいよ」 「魔族は戦いなんて望んでないんじゃないか?」

  

 

 

国王「ならばこう言おう。今我々が魔族を殲滅しなければどういうことになるか」

 

勇者(……?)

 

国王「いずれ魔族と人が共に同じ土地で生活するようになる日が来るかもしれん。ある者が言うように、魔族に戦いの意志がないならば」

   

国王「そしていずれ、人と魔族の血は入り混じってゆくことだろう。だんだんと純粋な人の血を持つ者は減ってゆく。

   想像してみるといい、自分の娘や息子の結婚相手に魔族の者を連れてくる光景を。

   魔族の血が流れている自分の孫や子孫を、本当に愛せるか?」

   

国王「人とは違う肌の色、目の色、体質、寿命、全て受け入れられるのか?

   私の息子や娘がそのようなことを望んでいたら、なんとしてでも目を覚まさせようとするだろう」

   

   

ざわざわっ! ざわざわ…

 

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374 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:09:10.53 ID:8nPUf0/xo

 

「そんなこと……想像してなかった」

「本当にそんなことが起きてしまうのか?」

 

 

国王「起きる。絶対に」

 

姫「お父様……っ!」

 

国王「人類の尊厳を守るためにも、今我々は行動せねばならん。国民たちよ、皆はただ私を信じてくれればいいのだ」

 

国王「国を信じ、私を信じ、私にただ着いてきてくれればいい。私は常にこの国を一番に考えておるのだから」

 

 

「そうなのかな?」

「俺馬鹿だから、なんかよくわかんなくなってきちまったよ。やっぱ王様の言うこと聞いてた方がいいのかも」

「そうよね……王様は間違いなんてしないもの。私なんかが頑張って考えるよりずっと素晴らしいことを思いつくはずね」

 

 

国王「そう……それでよい。流石は我が国の民だ。賢く強い。それでこそ、我が太陽の国の民」

 

 

わーーーー!!王様万歳ーー!!

  わーーーわーーー!!!太陽の国万歳!!

  

 

女主人「なんだいこりゃ……!ねえみんな!どうしちまったんだい!」

 

本屋主人「ぬかしおるわい」

 

司書(これでは……私たちの今までの地道な努力が……)

 

姫(だめ、このままみんなを解散させてしまっては挽回することができないわ。

  ここで何かアクションを起こさないと!でも、どうやって?……私がやるべきなの?)

  

  

――――――――――――――――――――――――――  

375 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:09:37.68 ID:8nPUf0/xo

 

 

勇者「このぉっ……!」

 

神官「勇者様、だめだって言ったじゃないですかー!危ないですよ!おさえてください戦士さん!」

 

戦士「やってる!!落ち着け勇者、頭を冷やせ!こいつ、ちゃっかり面を持ってきおって!」

 

勇者「じゃあどうするんだ!?このまま国民たちが王の言いなりになったままじゃ、いくらクーデターを起こせたって何も変わりはしない!」

 

勇者「同じことの繰り返しになるだけだ!今ここで俺が出なくちゃ皆の考えを変えさせることができない。もう時間も残されてないんだぞ!」

 

神官「うっ……それは分かってますけど!!」

 

 

 

わーーーーわーーーー!! 国王様ーーー!!!

 

 

国王「有難う。では」

 

勇者「国王が壇上から降りていっちまう!離せよ戦士!!!」

 

勇者「待っ―――」

 

 

 

少年「王さま、まってください」

 

 

 

勇者「!?」

 

国王「ん……?」

 

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376 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:10:04.40 ID:8nPUf0/xo

 

 

だれだあの坊主?  確かパン屋の息子の…… ああ、あの知恵遅れの?

 

 

少年「ぼくは戦いなんてしないほうがいいと思う。だって戦いって自分がころされたり相手をころしたりするんでしょ?

   だれかがしぬのは悲しいよ。だから戦いなんてしない方がいいよ」

   

少年「ぼく、本読んだ。まぞくの人が書いた本。ぼくそれ好きなんだ。まおうとゆうしゃさまがなかよくなるはなしなんだ。

   読んじゃだめって言われたけど、こっそり読んじゃった」

   

母親「こらっ!!あ、あんた王様になに言ってんの!!」

 

国王「坊や、君はまだ小さいから色んなことが分からないのだよ。君は母親の言うことをきちんと聞いていい大人になりなさい。

   そのような胡散臭い本は読むべきではないよ」

   

少年「うさんくさい……本当かうそか分からないってことだ。でも、じゃあ、王さま。

   王さまは、まぞくの人に会ったことがあるんですか?」

   

母親「こらっ!!!!」

 

国王「…………」

 

少年「会ったことないのに、悪いって決めつけるのは、うさんくさいってことじゃないんですか?」

 

国王「随分と……」

 

母親「黙りなさい!!この子ったら!!」

 

少年「ぼく、お母さんに“この世にはうそがいっぱいある”って言われた。

   だからぼくみんなにバカって言われてるけど、いっぱいいつも考えてる。

   どれがうそか、どれが本当か。ぼくは……王さまより本を信じる!」

 

少年「ねえ、お母さんもそこのおばさんもおじさんも、それでいいの?」

 

少年「いっぱい考えなくて、本当に、それでいいの?」

 

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377 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/17(火) 17:10:36.58 ID:8nPUf0/xo

 

 

少年「ぼくは……ムグッ」

 

母親「す、すいません本当にうちの子馬鹿たれで……ハハハ」

 

 

ざわ…

 

 

「なんだあの坊主、生意気な」

「でも……じゃあどうしろって言うんだ?俺はなにを信じれば?」

「王様を信じてれば間違いなんてないのよ!」

 

 

国王「……なかなかおもしろいことを言う子だ。子どもはそれくらい元気な方がいい。

   しかしいずれ君も大人になった時に分かるだろう。絶対的に正しい存在があるということを」

   

   

神官「あ、あの子……!すごいですねって あれ!?!?戦士さん、勇者様はどこに!?」

 

戦士「ぬ!?おらんぞ!!どこいったあいつ!?」

 

神官「ああああっ!あの少年に注目してるうちに逃げられましたっ!早く見つけないと!!」

 

戦士「!! 神官、あそこの屋根の上だ!」

 

神官「え!?」

 

 

 

 

ひょっとこ「よく言ったな、少年!」

 

 

神官「あああああああああああああああああああああっ!!!」

 

戦士「あのバカ……」

 

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384 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:07:03.19 ID:0/gixNDzo

 

 

「なんだあの変質者!?」

「だれだ?」

 

姫「なにあれ……」

 

国王「……?」

 

 

神官「いやーー!変な感じに広場がどよめいてるーー!もうあんなに止めたのに勇者様の馬鹿ー!」

 

戦士「無駄だったな……」

 

 

ひょっとこ「あることないこと嘯いてるのは一体どっちだろうな?みんな……」

 

ひょっとこ「少年の言う通り、本当にそれでいいのか!?国の言うことをなんでも鵜呑みにして、信じて」

 

ひょっとこ「ああ、そうして自分の意見を誰かに委ねてれば、もしその選択が間違いだったとしても

      自分が責任を負わなくていいから楽だよな」

      

 

「……!」

 

「なんだあいつ!知った口を!」

 

 

国王「貴様が主犯か。……捕えろ」

 

傭兵「ハッ!」

 

 

ひょっとこ「だからみんな選択肢がひとつだって思いこみたいんだろ?王様だけを信じてればいいって」

 

ひょっとこ「でもそれじゃだめなんだ!!いま、みんなの前には二つの選択肢がある」

 

ひょっとこ「王様を信じて魔族殲滅に賛同するか、俺たちを信じて殲滅に反対するか、二つに一つ」

 

ひょっとこ「選ぶのはみんなだ。王様が言うからとか、誰かが賛成してたからとかじゃなくって、自分で真剣に考えてほしい」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

385 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:08:22.85 ID:0/gixNDzo

 

 

ひょっとこ「自分の気持ちを大事にしてほしい。どんな小さなことでも下らないことでもいいよ。

      それは誰にも否定されていいものじゃない、例え……国王であっても」

      

国王「蛮族めが……たわごとを。さては貴様も魔の者か!?」

 

ひょっとこ「そうやって悪い奴はなんでも魔族にしちゃうから、魔族は悪って思われてんじゃないのか?」

 

傭兵「覚悟しろー!!うおおおおお!!」

 

ひょっとこ「チッ! いいかみんな!俺たちは国王に対して戦うぞ!この世に絶対的存在なんていないんだ!

      考えを放棄して自分の言うこと全て信じろなんて宣う王について行く気なんてさらさらないからな!!」

      

ひょっとこ「うおっと」

 

傭兵「おい!逃げたぞ!!追えー!!」

 

 

 

わーわー! なんだなんだ!? どよどよ……

 

 

神官「……」

 

戦士「本当に正面きって喧嘩売りおった……あいつ」

 

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386 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:09:01.72 ID:0/gixNDzo

 

 

 

 

宿屋

 

 

勇者「すいませんでした」

 

神官「もー!なにやってんですか!?勇者様の頭にはもしかして馬糞が詰まってるんですか!?」

 

勇者「ひどい……でもさ!声色だって変えたし、俺だとはばれてなかったろ?」

 

神官「ドヤ顔しないでくださいっ!ばれてた、かも!しれないんですよ!?どうしてこう向こう見ずなんだか」

 

戦士「まあ……落ち着け神官。結果よければすべてよしとしよう。

   勇者の言葉の後では、かなり広場の空気も変わっていたではないか」

   

神官「確かにあのちょっと怖いくらいの王様盲信ムードはなくなったからいいんですけど……もうあんなことしないで下さいよ?

   冷や汗だっらだらだったんですから、私」

 

勇者「ごめんって。でも、これで少しは流れをこっちに持ってこれたろ。この勢いのまま、雪の女王のところに行こうぜ」

 

戦士「街の同盟メンバーに話を聞いて、準備を整えたらすぐに発つか」

 

神官「分かりました。……あの女王様、素直に認定書くれますかね」

 

勇者「俺の予想だと、拍子抜けするほどあっさりくれるか、めちゃくちゃ難易度高いかのどっちかだと思う」

 

戦士「同感だ」

 

神官「ああ~……はい」

 

勇者「前者であってくれることを祈ろうか。 じゃ、明日はそれぞれ行くところがあると思うし、別行動だな」

 

戦士「ではまたな、勇者、神官。無茶するなよ」

 

神官「私も勇者様に念を押したいですね…… ではまた」

 

勇者「はいはい」

 

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387 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:12:21.09 ID:0/gixNDzo

 

 

 

 

数日後

 

 

 

勇者「あーよく寝た。今日は本屋の主人と武器屋と露店商人に会って……あとは姫様にも会えたらいいんだけどな、難しいか」

 

 

コンコン

 

 

勇者「こんな朝早くに誰だ?」

 

兵士「おはようございます、勇者様。国王様より言付けを預かって参りました」

 

勇者「王様からっ? なんて?」

 

兵士「本日正午過ぎより軍で勇者様方を含めた全体訓練を致しますので、宮殿隣の訓練場までお越しください」

 

勇者「全体訓練……分かった。ありがとう」

 

兵士「よろしくおねがいします」

 

 

 

 

勇者「まあ、仕方ないか。本当ならやるつもりもない戦いに向けての訓練なんてのに時間を割いている場合じゃないんだが」

 

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388 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:14:53.13 ID:0/gixNDzo

 

 

翌日

 

 

勇者「よし、今日は昨日こなせなかった用事を済ませるぞ」

 

コンコン

 

 

勇者「まさか…… どうぞ」

 

兵士「おはようございます勇者様」

 

勇者「おはようございます……」

 

 

 

 

 

 

 

そのまた翌日

 

勇者「今日は!今日はないだろう!よっし出かけるぞ!」

 

コンコン

 

勇者「あわわわわ」

 

兵士「おはようございます勇者様。どうかなさいましたか?」

 

勇者「な、なんでもない」

 

 

389 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:17:22.03 ID:0/gixNDzo

 

* * *

 

 

昼のバー

 

 

勇者「どーなってんだ、おい!!」

 

女主人「荒れてるねぇ勇者」

 

神官「最近訓練訓練訓練訓練、訓練ばっかりで筋肉痛です」

 

戦士「おかげでこっちの用事が全然こなせないな。まかせっきりで済まない」

 

司書「いえ大丈夫ですよ。しかしまさかバッタリ勇者殿たちとここで会うとはね。このあとの用事は?」

 

神官「今日もこれから訓練場に呼び出されているんです。訓練は夜までミッチリ行われるので、全然暇な時間がないんですよ」

 

勇者「もしかして……俺ら疑われてたり……?」

 

女主人「……あはは」

 

戦士「ははは」

 

神官「うふふ」

 

司書「……ハハ」

 

勇者「そそそそそんんんなわけないよな!!」

 

神官「そそそそそそうですよ!」

 

戦士「おいお前ら、コップから飲み物零れてるぞ」

 

女主人「でもすぐ捕えないってことは、疑われてるとしても『怪しいなこいつら』くらいじゃないの?」

 

司書「それ以上疑われないように気をつけて下さいね。あなたたちが要なんですから」

 

勇者「ああ……」

 

――――――――――――――――――――――――――

390 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:18:03.77 ID:0/gixNDzo

 

 

訓練所

 

 

将軍「今日はこれで終いだ。勇者殿たちもお疲れ様でした。次の訓練は一週間後となります。

   大事な全体訓練ですのでくれぐれもご欠席なさらぬよう。殿下からのお達しです」

   

 

勇者「(一週間後!? よし、チャンスだ)」

 

神官「(これまで毎日訓練強制参加でなにもできませんでしたからね。この機を逃す手はないですよ)」

 

戦士「(ふむ。雪の国に行くのか)」

 

将軍「? なにか?」

 

勇者「いやなんでも!」

 

 

 

勇者「よし、やっと訓練が終わったぜ!明日の朝雪の国まで出発するぞ!二人とも準備しとけよ」

 

神官「了解です。……ってあれ?こっちに歩いてくるの姫様じゃないですか?」

 

 

騎士「姫様、ちょっ待ってくださいよ~」

 

姫「いた!勇者!こっちよ騎士!」

 

勇者「姫様?訓練場にいらっしゃるなんて珍しい」

 

戦士「というかお久しぶりです」

 

姫「あなたたちに会いに来たのですよ。ところでその前にひとつ確認したいことが」

 

姫「……ひょっとこ?」

 

勇者「イエス、ひょっとこ」

 

姫「馬鹿!!」

 

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391 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:20:35.13 ID:0/gixNDzo

 

 

 

騎士「やっぱり勇者さんだったんですかあれ。大胆なことしますね!」

 

姫「大胆どころの話ではないわよ!お父様もあれからピリピリしてるし、もうちょっと慎重な行動を……

  と言いたいところですが、……ごめんなさい」

  

勇者「どうして姫様が謝るんです?」

 

姫「あの場でああするべきだったのは、王族である私だったのに。

  私がなにもできなかったせいで、あなたを危険に晒してしまって、申し訳なく思っているわ」

  

騎士「姫様……」

 

勇者「いや、あなたが気にすることではありませんよ。あれは俺が勝手にやったことですから」

 

姫「……ごめんなさい。それから、ありがとうございます。……それで、これをあなたたちに渡したくて」

 

勇者「手紙?」

 

姫「ほかの方からお話を聞きました。なんでも魔王さんがお兄様の居場所を特定する魔術を発見したとか。

  その手紙、お兄様からのはずです。この間お父様のお部屋にこっそり侵入した時に発見しましたの」

  

騎士「侵入!?いつの間にそんなことを、姫様!?」

 

姫「ただそれが、いつ頃の手紙なのか分からないの。1年以内のものでないといけないのよね」

 

勇者「そうですか。でも、大事な手掛かりですよ。一応魔王のところに持っていこうと思います。

   それから雪の国に認定書をもらいに行くつもりです」

 

 

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392 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:22:46.72 ID:0/gixNDzo

 

 

 

 

姫「お願いしますね。……いけない、そろそろ戻らなくては。では、ご武運をお祈りしてます」

 

騎士「王国の方は僕たちにまかせて下さい。……あ、あの最後に……魔女さんはお元気ですか?」

 

戦士「今は雪の国にいるぞ。寒いのは苦手と言っていたが、まあいつも通り元気だろう」

 

騎士「そっ、そうですか。よかった。いや別に大した意味はないんですけども」

 

姫「あっずるいわ!私は聞かなかったのに……!」

 

神官「ふふふ、竜人さんも元気でしたよ」

 

姫「誰もあの方のこととは言っていないでしょう!なんですその生温かい微笑は。やめなさいっ」

 

姫「本当に本当に私たちもう行きますわ。ほら騎士」

 

騎士「ええ。では」

 

 

 

 

 

勇者「竜人も魔女も幸せ者だなー」

 

神官「ふふふふ」

 

 

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393 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:24:06.21 ID:0/gixNDzo

 

 

 

翌日 朝

 

 

勇者「準備はいいか?二人とも」

 

神官「ええ、バッチリです」

 

戦士「雪の国に行くのに随分予定から遅れてしまったな。もう残りあと2カ月しかないぞ」

 

勇者「無駄な時間を過ごしちまった。まず魔王に昨日の手紙を渡すために魔王城に行くぞ」

 

 

 

シュンッ

 

 

 

勇者「よし到着っと。ん?なんか島の様子おかしくないか?」

 

神官「なんでしょう。今日はお祭りですかね。提灯と旗がいっぱい島中に……夜になったらきれいでしょうね」

 

戦士「変わった紋様が描かれているな。不思議な印だ」

 

 

子エルフ「あー勇者だ!久しぶり!」

 

魚人「おっお前ら元気だったか!!今日来るたぁタイミングばっちりじゃねえかよ!!さては狙ったな!?ハッハッハ!!」

 

ケット・シー「こんにちはー」

 

勇者「なんだ、今日は祭りなのか?」

 

ノール「そうなんですよ。一年に一度の魔族の祭り、今日は月祭りです」

 

 

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394 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:28:17.11 ID:0/gixNDzo

 

 

 

勇者「月祭り?なんだそれ」

 

子ヴァンパイア「月明かりの道を通って死んだ人が帰ってくるんだよー」

 

神官「へ……?」

 

ハーピー「こんな時にお祭りなんて不謹慎かもしれませんが……ずっと続いてきたお祭りなので」

 

魚人「夜からやるからよ、お前らも参加しろよ!うまいもんいっぱい用意してるからよ!!

   この祭りも最後になっちまうかもしれんと思うと盛大にやらなくっちゃな!!」

   

キマイラ「おや、そんなネガティブなこと言うなんて、魚人さんにしては珍しい」

 

魚人「ハハハ!いっけね!!うそうそ!!じゃあまたなお前ら!魔王様のところに行くんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

神官「死者が蘇るお祭り……ってあのあの、本物の死者じゃないですよね?ね?」

 

戦士「……」

 

勇者「……」

 

神官「黙らないで下さいよ!」

 

勇者「さあ……未知の世界だからな。まあ魔王に直接聞いてみよう。おーい魔王、いるか?」

 

 

シーン

 

 

勇者「あれ?城にいないのか?」

 

神官「おかしいですね。探してみましょうか。私は庭を見てきます」

 

戦士「じゃあ俺は大広間へ」

 

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395 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:28:49.47 ID:0/gixNDzo

 

 

 

勇者「自室にでも行ってみるか」

 

 

 

 

 

勇者「おーい魔王、いるか。……ノックしても返事がないな。……あ、開いてる」

 

勇者「魔王?」

 

 

ビュンビュンッ!

 

 

勇者「ファーーーッ!?なんだこの矢のトラップ!?」

 

勇者「げっ なんか魔法陣踏んじゃった!これ一体なんの……」

 

 

バリバリバリバリッ!!!ビシャァァァン!!!

 

 

勇者「ぐあっぁあああああああ!!!」

 

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396 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:31:35.71 ID:0/gixNDzo

 

 

プスプス…

 

 

勇者「おい……なんで自室にこんな罠しかけてんだよ……ここはダンジョンか。もう満身創痍だよ」

 

魔王「……」スヤスヤ

 

勇者「寝てるし。よくあの大騒音の中で起きないな……。」

 

勇者「寝顔だけ見てれば本当ただの子どもだな。 おーい、魔王。朝だぞ」

 

魔王「…………ん……牛?」

 

勇者「俺のどこらへんを牛と見間違えた?言ってみろこの野郎」

 

魔王「あれ?勇者くんか。来てたのか。いらっしゃい。ところでなんでそんなボロボロなんだ?」

 

勇者「お前のせいだよ!なんなんだよあの入り口のは!」

 

魔王「ごめん。この間不法侵入されてな。一応しかけといたのだが勇者くんが引っかかるとは。ところで何か用事でも?

   あ、別に用事がないと来るなという意味ではないぞ。いつでも歓迎するが。お腹はすいているか?

   一緒に朝食を食べよう。この間パンケーキの作り方を習ったから作れるぞ」

   

勇者「え、なに!?畳みかけるように喋るな! お前ってそんな饒舌だったっけ!?」

 

魔王「だって久しぶりに会ったから仕方ないじゃないか。では着替えるので先に広間に行っててく……」

 

勇者「どうかしたか?」

 

魔王「なんか……変な感じがするな。勇者くんから」

 

勇者「え?」

 

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397 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:36:33.50 ID:0/gixNDzo

 

 

 

魔王「君から知らない魔力を感じる。勇者くんのものではないな。赤ん坊でも身ごもったか?」

 

勇者「どういう発想だそりゃ」

 

魔王「では何か魔術具でも身につけているのか」

 

勇者「もしかして……これか?国王からもらったっていう魔除けの札だ」

 

魔王「ああ、きっとそれだ。なんだかすごく嫌な感じがする」

 

勇者「へえ。じゃあちゃんと効いてるんだな。ほれほれ」

 

魔王「や、やめろ。それを近づけないでくれ。鳥肌が立つ。やめろったら。」

 

勇者「ちょっと楽しくなってきた。はっはっは」

 

魔王「わーーーーーっ気持ち悪い気持ち悪い!それ以上近づけるなーーーっ」

 

魔王「……は」

 

 

勇者「……」

 

魔王「……」

 

魔王「いま何か悲鳴のようなものが聞こえたな。神官が虫でも見つけたのかもしれない。早く行こうか」

 

勇者「お、おう……なんかすまんな」

 

魔王「なにが?」

 

勇者「いやそんな下手な嘘つかせて……いたいっ!杖で殴るな!ごめんって!」

 

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398 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:38:05.46 ID:0/gixNDzo

 

 

 

大広間

 

 

神官「かくかくしかじかってわけで、これが王子からの手紙らしいのです。ただ条件に合致するかは分からないんですけど」

 

魔王「なるほど。ではさっそくやってみようか。準備は整えてある」

 

戦士「ほう、用意がいいな」

 

魔王「大分頑張ったのだ。全身全霊で褒めてほしい」

 

勇者「よしよし」

 

魔王「勇者くんの全身全霊はそんなものか。がっかりだ」

 

勇者「よぉぉぉぉしよぉぉぉぉぉぉぉし!!!!」

 

魔王「そういうことじゃなく……もういいや。もういい、いいから。髪の毛ぐっしゃぐしゃになる。さて、あとは女子の生き血だけ採ればすぐに儀式を始められる」

   

戦士「そうか。よし神官」

 

神官「えっ!?わ、私!?」

 

魔王「? 別に私の血を採るつもりだったから平気だ。ではいくぞ、……はぁ……はぁ……いくぞっ……! うっ……くぅ……!」

 

戦士「神官!」

 

神官「うぅぅぅ、魔王さんのこんな姿見せられたら立候補するしかないじゃないですかー!!いいです私やりますぅぅう!!」

 

魔王「わっ…… あ、」

 

 

ザクッ!!

 

 

神官「っきゃーーーーーー!? 魔王さん大丈夫ですか!?ごごごごめんなさい私が大声あげたから!!」

 

魔王「わーーーーーー!? い、いたいぞ!」

 

勇者「そりゃ痛いだろ!なにやってんだ! 神官、治癒魔法!!」

 

神官「え、あ、はい! でも魔族の方って教会の魔術効くんでしょうか!?」

 

戦士「ええいそれより先に血を採取だ! そんなに大けがじゃないから落ち着け3人とも!」

 

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399 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:41:04.78 ID:0/gixNDzo

 

* * *

 

 

魔王「ではこれより儀式を始める」

 

神官「うわああ、この部屋の禍々しさすごい」

 

勇者「そのいかにもな黒いローブは必要なのか」

 

魔王「当たり前だ。ふう、じゃさっさと終わらせてしまおう。手紙を魔法陣の中心において……」

 

 

 

 

 

魔王「……どうやらこの手紙は1年以内のものではないな。魔法が発動しない」

 

勇者「なんだ……じゃあ無駄足だったか。せっかく貴重な一週間を割いてきたのに」

 

神官「残念でしたね」

 

魔王「ところで、この王子からだという手紙には目を通したのか?もしかしたら何か手掛かりをつかめるかもしれないぞ」

 

勇者「ばか、そんな倫理に反すること、勇者がするわけないだろっ!」ガサガサ

 

戦士「といいつつ手紙を封筒から出しているお前の手はなんだ」

 

勇者「いや居場所の手がかりがつかめたら見ないつもりだったんだけどな。もう時間も多く残されてないし、ちょっとくらいは許してくれ、王子様」

 

勇者「えーどれどれ」

 

勇者「…………これと言って……特筆すべきことは書いてないな。至って普通の内容だ」

 

戦士「ふむ。内容を見るに、なかなか素直で親思いの青年のようではないか」

 

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400 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/09/19(木) 21:43:26.70 ID:0/gixNDzo

 

 

 

魔王「ん?待ってくれ、これ、行の文頭だけ見ると……『くたばれじじい』」

 

勇者「oh」

 

戦士「ぬ……」

 

神官「あ、あれれー?私の王子様像がガラガラと音をたてて崩落していく」

 

勇者「なんか居場所特定するの、自信なくなってきたわ俺」

 

魔王「まあそう憂慮せず、前向きにいこうではないか。今日は泊まっていくのだろう」

 

勇者「もう今日は転移魔法使えないしな」

 

魔王「外の様子を見て分かったかもしれないが、今日は祭りの日だ。ぜひ楽しんでいってほしい」

 

神官「あ、それ村の方に聞きました。あああああの!本当に亡くなった方がいらっしゃるのですか……?」

 

魔王「怖いのか?」

 

神官「いえ、そんなことは決してありませんけど!」

 

魔王「それは……参加してからのお楽しみ、だ」ニッコリ

 

神官「そんな魔王さん……意地悪しないでくださいよ~!」

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