top of page

201 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/15(木) 01:20:23.16 ID:cbnp4tI4o

 

 

戦士「罰は何にするか」

 

勇者「一日語尾に『にゃん』をつけて話すのはどうだ?かなり恥ずかしいだろう。いい年した俺たちが『にゃん』とか」

 

神官「いやですよ!何言ってんですか!?」

 

戦士「フッ いいだろう。俺が負けたら娘と妻にそのまま会いにいって『パパ帰ってきたニャン』と開口一番告げてやろう」

 

神官「離婚嘆願されても知りませんよ!?」

 

勇者「じゃあ明後日、楽しみにしてるぜ!あばよ!!」ダッ

 

戦士「それはこちらの台詞だ!!」ダッ

 

神官「ああ~もう!こうなったら絶対負けられない!!」ダッ

 ――――――――――――――――――――――――――

202 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/15(木) 01:21:32.28 ID:cbnp4tI4o

2日後

 

 

神官「3人が集めてきたメンバーを合わせると、結構な数になりましたね!まだ一週間も経ってないのに、かなり順調ですよ!」

 

勇者「おい」

 

神官「…………かなり、順調ですニャン……」

 

戦士「うむ。これで冒険者ギルド、兵士、神殿、宮殿……それなりに反戦同盟の種をまけたな」

 

神官「ええ。それなりに実力も影響力もある人々が集まったので、

   私たちが動くと共にこれからその人たちが同盟の輪を広げていってくれれば、支持者集めも楽になりますね」

   

勇者「おい」

 

神官「とりあえず同盟の基盤はできたと思いますニャン!!幹部メンバーも集まりつつあると思いますニャン!!!これで満足ですか!?」

 

神官「なんで私が罰ゲームうけなくちゃいけないんですか!!完全にとばっちりじゃないですか!!

   ここは最年長で厳つくて妻子がいる戦士さんがニャンニャン言って周りにドン引きされる展開が一番おいしいじゃないですかニャン!!」

   

戦士「ふざけんな」

 

勇者「お前が一番集めてきたメンバーが少ないんだよ。なんだ8名って。俺24名、戦士19名だぞ。ひとけたってなめてんのか」

 

神官「だって神殿って宮殿と繋がり深いですしぃ……ていうか頭固い人多いですしぃ……

   勇者様が勧誘した冒険者みたく『魔族も国王もどうも思ってないけど、勇者に着いてくぜ!』みたいな人滅多にいないですよ……ニャン」

   

勇者「お前の人徳がなかったんだろ」

 

神官「割と心に刺さります!!やめて!!」

 

――――――――――――――――――――――――――

203 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/15(木) 01:22:04.46 ID:cbnp4tI4o

 

 

戦士「そういえばそろそろ昼時だな。話の続きはここの喫茶店でしないか」

 

勇者「ん?こんなところに店なんてあったのか。……結構いい雰囲気だな。入ろう」

 

神官「うう……なんで私だけいっつもこんな役割……」

 

 

カランカラン…

 

 

女主人「いらっしゃい。空いてる席に座りなよ」

 

勇者「おう」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

204 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/15(木) 01:23:00.16 ID:cbnp4tI4o

 

 

勇者「そう言えば竜人と魔女は今どこにいるんだろうな。王子が星の国に興味を持ってたってこと、伝えないといけないのに」

 

神官「場所が分かれば一気に転移魔法で行けるのに、残念ですニャン」

 

戦士「少ししたら魔王城に行ってみてはどうだ?報告もかねてな」

 

勇者「だな。もうちょい落ち着いてからだけど」

 

神官「魔王さんも寂しがってるでしょうしねニャン」

 

戦士「おいだんだん雑になってきてるぞ神官」

 

勇者「ああ……最後まであいつ駄々こねてたなー。それにしてもこの店の飯うまいな」

 

 

ガタ

 

女主人「そりゃどーも。ちょいと話に参加させとくれよ」

 

勇者「お、おい?」ギク

 

神官(いつの間にそばに……さっきの話、聞かれてなかったですよね……)

 

女主人「あんた、勇者だろ?王都に戻ってきてたんだ」

 

勇者「ああ、そうだけど」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

205 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/15(木) 01:23:46.61 ID:cbnp4tI4o

 

 

女主人「噂の勇者が、随分きな臭い話をしてるもんだね」

 

勇者「……きな臭い?……なんのことだ?」

 

戦士・神官「」ギクッ

 

女主人「私は耳はいいんだ。客で賑わった店内でも、おもしろそうな会話が聞き取れるくらいにはね」

 

勇者「おもしろそうな会話か。確かに神官が語尾にニャンとつけて話してる姿はかなり滑稽だろうが……」

 

神官「誰のせいだと思ってるんですか」

 

女主人「すっとぼけんじゃないよ。……魔王とかなんだとか聞こえたけどね?」

 

「「「!」」」ギクギクッ

 

女主人「詳しい話、聞かせておくれよ。今日の夜12時、また店で待ってる。

    勇者が魔王と手を組んでるって言いふらされたくなきゃあ ちゃんと店に来るんだね」

    

勇者「なっ……なんのつもりだ?」

 

 

客「おーい!オーダー頼む!」

 

女主人「はいはい。 じゃあ、夜にね」ガタン

 

勇者「お、おい。…行っちまった……」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

211 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 22:51:59.26 ID:yj+guR+Jo

 

 

 

 

神官「どどっどどどうするんですか勇者様。さっそく処刑の危機じゃないですか」

 

勇者「あ、慌てるな。まだ焦るような時間じゃない!あの女主人が国王にチクるとはまだ決まってない!」

 

戦士「二人とも落ち着いてくれ。とりあえず部屋をうろうろするのをやめてくれ」

 

神官「もう夜ですし……約束の12時まであともう少しですよ」

 

勇者「女主人、なにを考えてるんだ?俺たちを店に呼び出してなんのつもりなんだ」

 

戦士「俺たちの弱みを握ってることをちらつかせて取引に持ち込もうとしてるのだろうか」

 

勇者「くそ。なんだってんだ。とりあえず行くしか…ないか。よし、行くぞ!!」

 

神官「はいぃ……うう なんでこんなことに」

 

 

ギィッ カランカラン…

 

 

勇者「……」

 

女主人「ああ、来たか。待ってて、ちょっと後片付けあるからさ。この店、夜はバーをやってるんだ。さっき閉店したばっか」

 

勇者「……おう」

 

――――――――――――――――――――――――――

212 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 22:53:15.04 ID:yj+guR+Jo

 

 

勇者「で、なんだ?話って。……金か?それとも別のものか?」

 

女主人「は?何のことだい?」

 

勇者「何のことって、昼間の続きだ。あんたの目的はなんなんだ?俺たちが……魔族と関わりがあることを知ったんだろ?」

 

女主人「……ああ!別に私はあんたらを告発するつもりなんかないよ。

    ただ魔族の話をちょっと聞きたかっただけ。銀髪の女の魔族にあんたらは会ったことある?」

    

戦士「銀髪?」

 

神官「もしかして村にいた方じゃないですか?ほら、定食屋で働いてた」

 

勇者「ああ……確かケット・シーの血が入ってるとかの。会ったことあるが、それがなんだ?」

 

女主人「そうか。生きてたのか。よかった……」

 

勇者「あんた、魔族に会ったことがあったのか」

 

女主人「ああ、私は地方の田舎生まれでね。昔、その魔族の女の子に命を助けられたことがあったんだ」

 

神官「え?」

 

女主人「小さい頃、山に山菜を取りにいった帰りさ。うっかり道に迷っちまってね。

    陽も暮れ始めて、真っ暗な森の中でうろうろしてたら腹をすかせた狼に遭遇しちまった」

    

女主人「もうこりゃだめだって思ったね。そしたら茂みから女の子がでてきてさ、私を助けてくれたんだ」

 

戦士「ほう」

 

女主人「その子は傷だらけになりながらも狼を撃退した。私はびっくりしたんだ。

    狼に勝てるその強さもだけど、よく見たら明らかにその女の子の姿は人間のものじゃなかった。

    村では魔族に出会ったら食い殺される前に逃げろって言われてたんだけど……魔族に会ったのは初めてだった」

    

女主人「その子の体さ、狼にやられた傷より、もっとたくさんの傷跡があったんだ。古傷が大きいのも小さいのもたくさんあった」

 

女主人「……その後。真っ暗な森の中、その子が森の出口まで案内してくれたんだ。おかげで私は自分の家に帰れたんだけどさ」

213 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 22:55:18.69 ID:yj+guR+Jo

 

女主人「その子は家がないって言ってた。別の村を追い出されて、逃げてる途中だって言ってたんだ」

 

女主人「それなら私の家に来なよって誘ったら、すごい悲しい顔して笑ってた。その顔が今でも忘れられないんだ」

 

女主人「いつか生きてたらまた会おうって約束して別れたんだけど。そっか……生きてたか。よかった……」

 

勇者「いっつもにこにこして明るい娘だったよ。幸せそうだった」

 

女主人「そうか……フッ 安心したよ。

    で、あんたら何企んでるんだい?協力させてくれないか?魔族のために動いてんだろ?」

 

女主人「私はあの時の魔族の女の子に、恩返しをしたいんだ」

 

勇者「勿論、大歓迎だ」

 

――――――――――――――――――――――――――

214 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 22:59:31.70 ID:yj+guR+Jo

 

女主人「ふーん、なるほどね。おもしろいじゃん。その反戦同盟とやらに入れとくれよ」

 

勇者「魔族に会ったことがある奴に初めて会った。さらに魔族に友好的な人間って、かなりレアだ」

 

女主人「はん、大体私以外のみんながおかしいんだ。会ったこともない魔族をそんなに憎むかフツー?」

 

神官「やっぱり先入観とか、嘘か本当か分からない噂とか、大きいですよね」

 

戦士「国王自身がそういう噂を流して魔族のマイナスイメージを作ってる、という線もなくはないな」

 

勇者「そういう噂とか風潮を逆に俺たちも利用できたらもっと大多数の市民を味方にできるんだがな。

   何か効果的な方法ないかな……」

 

女主人「ま、小難しいことは分かんないから何もできないけどさ。ここの店の地下、結構なスペースあるんだよ

    そこを同盟の集会場所に貸してやらないこともないよ」

 

勇者「えっ 本当か!?」

 

女主人「聞いたところ結構人数も集まってるみたいだし。ひとところに集まって話する場って必要だろ?」

 

勇者「そりゃ有り難い話だ。さっそく会合の日を決めよう」

 

神官「うわーうわー!なんか本格的に秘密結社って感じですね!」

 

戦士「一気に状況が好転したな。首が飛ばなくてよかった」

 

女主人「店に入ってきたときはあんたら青ざめた顔してたね。勇者パーティの名折れさ、ハッハッハ!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

215 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:00:40.26 ID:yj+guR+Jo

 

数日後 深夜 街

 

 

姫「……」コソコソ

 

姫「今なら人がいないわね。よしっ!城を抜け出すわよ、騎士!」

 

騎士「ちょっと……本気でやめてくださいよ姫様……夜中に街にでるとか正気じゃないですよ…」

 

姫「なに言ってるの?今日は勇者たちとの第一回会合ですよ。私が参加しなくてどうするの。

  それに私に何かあったらあなたが守ってくれるから大丈夫でしょ。弱気なこと言わないで」

  

騎士「そんなこと言ったって……ああもうこの我がまま姫め」ボソ

 

姫「何か言った?」ギロ

 

騎士「いえ何も。ほらもっとフード深くかぶってください。そろそろ例の店が見えてきます」

 

姫「そうね。ここのお店かしら……?」ギィ

 

 

カランカラン…

 

 

女主人「ああいらっしゃい。うちはもう閉店の時間だよ」

 

姫「あの…その」

 

女主人「ああ……『フラッシュ』」

 

姫「! 『サンダー』」

 

女主人「入りな。地下の扉そっち」

 

姫「ありがとう」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

216 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:01:33.56 ID:yj+guR+Jo

 

 

ギィ……

 

ガヤガヤ ガヤガヤ

 

騎士「わ。すごい人ですね」

 

姫「あら本当。これだけもう人が集まったのね。さすが勇者パーティ」

 

勇者「姫様!本当にお城抜けだしてきたんですか……まじすか、大丈夫なんですか」

 

姫「大丈夫よ」

 

騎士「大丈夫じゃないですよ…」

 

 

宮殿司書「私は前々からなんとなくおかしいと思ってたんですよ……」

 

歴史研究家「ええ、誠にそうです。第一100年前の人魔戦争についても普及してる説に私は違和感がありましてですな……」

 

傭兵長「些か強引すぎると思っておりました……あのときも……」

 

冒険者「つーか冒険でてもモンスター全然でねーのなwwwwwwwwレベル上げしんどかったwwww」

 

ザワザワ ザワザワ

 

女主人「やーっと仕事終わった。随分賑やかだね」

 

勇者「これでみんな揃ったかな」

 

――――――――――――――――――――――――――

217 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:02:29.74 ID:yj+guR+Jo

 

勇者「みんな、今日は集まってくれて有難う。知ってるもいるだろうけど……てか大体知ってると思うけど、俺が勇者だ。

   今日は第一回目の集会ってことで、顔合わせの意味合いが強いからさ、気楽にやってくれよな」

   

ざわざわ

 ざわざわ

 

 

戦士「ふむ。意外と……教養人が多いようだな、見た限り」

 

神官「ですね、国の政治方針や教育方針に疑問を感じてた人も少なくなかったってことでしょうか。私たちがいい発破になったのかも」

 

 

勇者「……」

 

姫「勇者?何か考え事を?」

 

勇者「……ん、ああ。この間話してたことについてちょっと考えてまして……」

 

 

 

 

『やっぱり先入観とか、嘘か本当か分からない噂とか、大きいですよね』

 

『国王自身がそういう噂を流して魔族のマイナスイメージを作ってる、という線もなくはないな』

 

『そういう噂とか風潮を逆に俺たちも利用できたらもっと大多数の市民を味方にできるんだがな。

 何か効果的な方法ないかな……』

 

 

 

勇者「なんかうまい方法……か」

 

司書「そういうことなら、勇者様。私に考えがあるのですが」

 

勇者「え?」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

218 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:02:59.18 ID:yj+guR+Jo

 

 

~~~~~~

 

 

勇者「……なるほど。いいな、それ」

 

司書「ただの思いつきなのですが……やってみる価値はあるのではないかと」

 

勇者「うん、俺もそう思うよ。協力してくれそうな奴の心当たりもある。

   そうと決まれば俺は明日にでも魔王城に行ってみよう。色々報告したいこともあるし」

   

 

勇者「そういやぁ、魔王の奴元気かな?」

 

勇者「しばらく会ってないけど……」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

219 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:07:46.93 ID:yj+guR+Jo

 

 

* * *

 

魔王「……くしゅっ」

 

魔王「……なんだ……誰か噂でもしてるのだろうか」ブチブチ

 

魔王「……」ブチブチ

 

魔王「ふう。ここら一帯の草は刈れたか。一仕事した後は気持ちがいいな」

 

魔王「ガーデニングなんで今までしたことなかったけど、これを機に始めるのも悪くない」

 

魔王「……ん? 裾に葉でも入ったかな。なんかもぞもぞする」

 

 

蜘蛛「」モゾモゾ

 

 

魔王「」

 

魔王「わーーーーーーーーーっ!!」ブンブン

 

――――――――――――――――――――――――――

 

220 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:09:57.27 ID:yj+guR+Jo

 

 

庭師「うおっ なんじゃあ!?今の叫び声は……!?」

 

 

魔王「叫び声?叫び声なんて聞こえたか? はぁはぁ…」

 

庭師「ま、魔王様!?お庭にいらしてたんですかい!?……ちゅーか草むしり!?え!?」

 

魔王「ああ、暇で」

 

庭師「そんなこと魔王様がしなくていいんですよ!私めにお任せ下さいって!ほら、お洋服もこんなに汚れちゃって。もうお城に戻ってください」

 

魔王「別に私は…… うう、追い出された……」

 

 

魔王「もう夕暮れか。今日も一日が終わってしまった」

 

魔王「……戻るか」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

221 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:10:33.58 ID:yj+guR+Jo

 

魔王「竜人と魔女はいまどこにいるんだろう。あれからずっと会ってない。勇者くんたちも」

 

魔王「……」

 

魔王「誰かと一緒に見る夕日は素直にきれいだって思えるのに、一人で見る夕日はなんでこんなに寂しいのだろう……」

 

魔王「みんな頑張ってるのに、私だけこう……暇なのは申し訳ないな…」

 

魔王「何かできることはないのだろうか。せめてみんなが帰ってきたときに、疲れをいやせるようなことは……」

 

 

 

魔王「……料理だ!」ピコーン

 

――――――――――――――――――――――――――

 

222 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:11:53.09 ID:yj+guR+Jo

 

翌日

 

ハーピー「まずお料理する前に手を洗って下さいね」

 

魔王「うん」

 

ハーピー「で、今日はアップルパイを作るんですよね」

 

魔王「ああ。アップルパイはすごいんだ、あれこそ天上の神々が食しているものに違いない。

   それに甘いものは疲労を癒す効果があると聞くし、リンゴはこの島でたくさんとれるし」

   

ハーピー「いい考えだと思いますよ。さて材料も揃えてきましたし……さっそく作りますか!じゃあ最初はリンゴをカットしましょう!」

 

魔王「そうだな……で、包丁はどうやって持ったらいいんだ?」

 

ハーピー「そっ、そっからですか?ええとですね……」

 

 

ガランガラン

 

 

「おーい、魔王いるか?俺だけど」

 

 

魔王「!? この声、勇者くん?」ダッ

 

ハーピー「あっ……魔王様!包丁もったまま走ったら危ないですって!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

223 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:14:11.38 ID:yj+guR+Jo

 

 

魔王「勇者くん?」タッタッタ

 

勇者「おう、久しぶりだな。魔王」

 

魔王「勇者くん!」タッタッタ

 

コケッ

 

魔王「あっ」

 

ヒュンッ!

 

勇者「うあああああああぁっ!あぶねーー!!包丁投げ飛ばすなよオイ!!」パシッ

 

魔王「いてて。流石勇者くんだな、見事な包丁キャッチだ」

 

勇者「流石、じゃねーよ、冷や汗すげぇ出たぞ。つーか何もないところでコケんなよ」

 

魔王「ドレスにつんのめってしまったのだ。私じゃなくてドレスが悪い」

 

勇者「無機物に責任押し付けようとするな。それより包丁なんて持って、なにしようとしてたんだ?」

 

魔王「あ、ああ。料理を始めようとしていたところだったんだ。まだできてないから、ちょっと時間をつぶしてきてくれ」

 

勇者「RYOURI……?COOKING……?お前が?」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

224 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:15:05.41 ID:yj+guR+Jo

 

 

魔王「そんなあからさまな反応されると傷つくのだが」

 

勇者「いやだって魔王って、魔法以外の才能まったくないように見えるから」

 

魔王「勇者くんって意外とデリカシーがないな?それにそんなことはないぞ。

   今日は草むしりを極めたのだ。褒めてもいいぞ」

   

勇者(草むしりほんとにやったのか)

 

勇者「……ま、じゃあ期待しとくな。俺はちょっとグリフォンの家に寄ってくる」

 

魔王「せいぜい期待しておくがよい。頬が腐り落ちても知らないぞ、ふふん」

 

勇者「こえーよ!腐り落ちるとか初めて聞いたよ!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

225 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:19:24.57 ID:yj+guR+Jo

 

 

勇者「まともな料理ができあがってることを願うぜ。

   おーいグリフォン、いるかー」

   

グリフォン「んー? なんだ勇者か。なんか用?」

 

勇者「あのさ、前、本書いてるって言ってたよな?あれもう完成した?」

 

グリフォン「ああ……ちょうど昨日完成したんだ。読んでみるかい」

 

勇者「サンキュ。……」パラパラ

 

 

勇者「うん、やっぱいいなこれ。これをな、王国で出版しようと思ってるんだけど、どうかな」

 

グリフォン「は?出版?なに言ってんの?」

 

勇者「勿論匿名でな。人々の間にある、魔族のイメージを改めるキッカケにならないかと思って。

   話題性も作れたらなおよし!」

   

勇者「あんたのこの本、おもしろいよ。

   魔王が悪で勇者が善っていう勧善懲悪物語に慣れ親しんでる俺みたいな人間からすれば

   かなり意外性があってうけると思うんだよな」

   

グリフォン「ふーん……そううまくいけばいいけどね。まあ、その本は好きにしてくれていいよ。

      もともと君か魔王様にあげようと思ってたものだから」

      

勇者「ありがとな」

 

――――――――――――――――――――――――――

226 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:21:07.37 ID:yj+guR+Jo

 

 

 

 

勇者「…………………で」ドキドキ

 

魔王「アップルパイだ。切り分けよう……うっ、テーブルが高いな……」

 

ハーピー「あ、私やりますよ」ザクザク

 

勇者「おお なんか意外といい感じじゃないか。うまそうな匂いしてる」

 

魔王「そりゃあ、ほとんどハーピーが手伝ってくれたからな」

 

ハーピー「あははは……あ、私そろそろ仕事に戻らないと。ごめんなさい、失礼しますね」

 

魔王「もう? そうか……有難う、助かった」

 

ハーピー「いえいえどういたしまして。ごゆっくりどうぞ」ニコ

 

 

……パク

 

 

魔王「……おいしい」

 

勇者「ん、うまいな」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

227 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:24:42.95 ID:yj+guR+Jo

 

 

魔王「そうか。それはよかった」モグモグ

 

勇者「ありがとな」モグモグ

 

魔王「……順調に進んでいるのか?そちらは」

 

勇者「おい、口の端にパイの欠片を大量につけながら真面目な話に突入するのやめてくれ」

 

魔王「ん?うわ、本当だ。失礼。テイク2だ」

 

魔王「……順調に進んでいるのか?そちらは」

 

勇者「ええと、まあ、順調だな。ほら、これ。今のところ集まったメンバーのリスト」ペラ

 

魔王「……! こ、こんなに……?」

 

魔王「本当に……人間が……これ、みんな……私たちの……味方に?」

 

勇者「そうだ。人間も一枚岩じゃないってことだな。魔族と一緒でさ。少しずつこうしてメンバーを増やしてけば……

   クーデターも成功するし、いつかこの城の結界も必要なくなる世界になるかもな」

   

魔王「…………なんだか……笑いたいような泣きたいような、不思議な気持ちだ」

 

勇者「笑うのはいいけど泣くのはまだ早いぞ。 それからさ、竜人と魔女に会う機会ってあるか?」

 

――――――――――――――――――――――――――

228 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:26:02.64 ID:yj+guR+Jo

 

 

魔王「いや……ない。二人とも、城を旅立ってからずっと帰ってきていない。いまどこにいるのかさえも分からない」

 

勇者「そっか。じゃあ次帰ってきたら、王国の王子が星の都に興味をもってたって伝えてもらっていいか?」

 

魔王「星の都だな。分かった。それにしても二人は今どこらへんにいるのだろう」

 

勇者「今頃くしゃみでもしてんじゃねーのかな」

 

魔王「古典的な表現だ。ところで、その本は?童話……?」

 

勇者「ん、ああ。これはグリフォン作の絵本だよ。勇者と魔王の物語。王都の人たちの世論操作に使えないかと思ってさ」

 

魔王「ふうん……?これは、もしかして私と勇者くんがモデルなのか?」

 

勇者「そう言ってた。俺は明日王都に戻るつもりだから、それまで読んでていいぞ。グリフォンもお前に読んでほしいだろうし」

 

魔王「いや、いい」

 

勇者「え?」

 

魔王「今日の夜、勇者くんに寝物語として読んでもらうから、いい」

 

勇者「お前……また勝手に決めやがって……」

 

――――――――――――――――――――――――――

229 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:27:27.69 ID:yj+guR+Jo

 

 

 

 

魔王「早く早く」バフバフ

 

勇者「こら、枕叩くな。てかお前文字読めるだろ?なんで俺が」

 

魔王「読めない。難しい単語とか読めない」

 

勇者「うそこけ!!お前が訳分からん古代文字すらすら解読してたの見たぞ俺は!!」

 

魔王「ゆ……うしや……ま、ま……お」

 

勇者「今更わざとらしく文字読まなくていいよ!分かった分かった」

 

勇者「えーと……『その年、勇者は人々に見送られて魔王を倒す旅に出ました』」

 

魔王「ふむ」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

230 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:28:42.53 ID:yj+guR+Jo

 

 

『真ん丸な月を背負った荘厳な城の中で、勇者は魔王にとうとう出会いました。

 勇者は魔王に斬りかかろうと、背中の剣を抜きかけて、それからハッと息をのみました。

 月明かりに照らされて自分に微笑む魔王の姿が、あまりにも美しかったからです。』

 

 

魔王「なんだ、あのとき勇者くんはそんなことを思ってたのか。照れるなぁ」

 

勇者「あのときには、なんでこんな子どもが魔王城にいるのかと目を疑ってたよ。

   こんな劇的な出会いじゃなかったよな。竜人はエプロンつけてでてくるし、魔女はひとりで料理先に食ってたし」

   

魔王「でも物語らしくていいじゃないか。このくらいの演出過多の方が私は好きだ」

 

勇者「そうかよ」ペラ…

 

 

――――――――――――――――――――――――――

231 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:29:53.20 ID:yj+guR+Jo

 

 

『すると、いつのまにか大勢の敵たちが二人を取り囲んでいました。逃げ道はどこにもありません。

 「勇者、狙われてるのは私一人だけです。私を置いてあなたは逃げてください」魔王が涙を目に湛えて言いました。

 

 しかし勇者は魔王の手を離そうとはしませんでした。

 むしろより強く握りしめて、こう言いました。』

 

 

勇者「『僕があなたを守ります。絶対に、傷一つつけさせません……』 おい、聞いてるのか?」

 

魔王「……~~」バフバフ

 

勇者「あのー」

 

魔王「この勇者くんは随分かっこいいな……はぁ」バフッ

 

勇者「このってなんだ、このって!?今朗読してる俺はかっこよくないってのか!?」

 

魔王「ふう なんだか顔が熱い。グリフォンはすごいものを書いてくれたな」パタパタ

 

勇者「さっきの聞き捨てならないんだけども」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

232 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:31:24.84 ID:yj+guR+Jo

 

パラ…

 

勇者「これで最後のページみたいだ」

 

魔王「笑いあり涙ありのいい物語だったな。こんなふうに現実もうまくいけばいいのだけど」

 

 

『こうして世界に平和が訪れました。

 魔族と人間は手を取り合って、ずっとこの平和な世界を保っていこうと誓い合いました。

 勇者と魔王はと言うと、その年の終わりに式をあげ、二人で末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし』

 

 

魔王「ん!?」

 

勇者「はい、終わり。……っと、もうこんな時間か。今日は自分の部屋に戻って寝ろよ?」

 

魔王「えっ?え?」

 

勇者「どうした?」

 

魔王「け……結婚とは」

 

勇者「お前結婚知らないのか?」

 

魔王「いや知ってるとも。知ってるけども。……その本、本当にそのままで王都の人々に配るのか?」

 

勇者「そうだけど、何か不都合があるのか?」

 

――――――――――――――――――――――――――

233 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:32:21.94 ID:yj+guR+Jo

 

 

魔王「い、一応私たちが実在してる訳だから、色々とまずくはないのか?別に私は構わないけれど、勇者くんは……」

 

勇者「? 俺も別に構わないけど」

 

魔王「えっ……」

 

勇者「だって、魔王。お前、」

 

魔王「えっ えっ!?」

 

 

 

勇者「まだ子どもだろ?」

 

魔王「………………………」

 

勇者「お前がそれなりの年だったら、まあ、本の中でも結婚とか書かれたら恥ずかしいんだけどな。ハッハッハ」

 

魔王「………………………」

 

勇者「さ、そろそろ寝ようぜ。転移してきたから俺もう今日は疲れたよ。おやすみ」

 

 

バタン

 

――――――――――――――――――――――――――

 

234 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/17(土) 23:34:18.87 ID:yj+guR+Jo

 

魔王の部屋

 

 

魔王「だから……私は……勇者くんと同じ年だと言うのに……!」

 

魔王「なんで私はこんなに成長が遅いんだ……っ

   生きてる年数で言えば、四捨五入したら20だぞ。ぎりぎり20なんだぞっ」

   

魔王「魔族の長寿がこんなに恨めしいなんて。別に勇者くんと結婚とかは全然考えてないけども。

   全然全くこれっぽっちも、一瞬も頭をかすめたことはないけども」

   

魔王「……」

 

 

『僕があなたを守ります。絶対に、傷一つつけさせません……』

 

 

魔王「~~……っ」ボフボフ

 

魔王「勇者くんかっこいいな!……はっ」

 

 

 

 

枕「」ボロボロ

 

 

魔王「……何やってるんだ私は」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

244 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:05:46.45 ID:+SsGWOIOo

 

 

 

勇者「さて、そろそろ出発するかなー」

 

魔王「……ん?」

 

ヒュッ!

 

 

竜人「ただいま戻りました」

 

魔女「うぅぅぅぅ、寒かったぁぁ」

 

魔王「竜人、魔女……久しぶりだな」

 

勇者「なんだ、偶然だな。俺もちょうど魔王城に寄ってたところなんだ」

 

竜人「そうだったんですか。なら少し現状報告し合いません?」

 

勇者「だな、せっかくだし」

 

魔女「魔王様も勇者も久しぶり!雪の国付近まで行ったから超寒かったよー、先にお風呂入ってきていい?」

 

魔王「だめ。報告が先だ」

 

魔女「魔王様つれないっ!かわいくないっ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

245 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:06:35.55 ID:+SsGWOIOo

 

 

竜人「なるほど。……ふむ」

 

勇者「だから王子探しは星の国優先でやってくれ。頼んだぞ」

 

竜人「そのことなんですが、王子探しの前に、勇者様が集めたその同盟メンバーに私を会わせて頂けませんか」

 

勇者「えっ?」

 

魔女「あー私も会いたいかも」

 

勇者「いやいや、お前らが王都に入国するなんて危険すぎるだろ」

 

魔王「……」

 

竜人「その点は大丈夫ですよ、よっぽどの魔術の使い手に遭遇しなければ私たちを魔族だとは見破れませんし」

 

竜人「目的は何にせよ、私たちの力になってくれる方々に顔も見せないなんて二天王の名が廃ります」

 

勇者「二天王ってマジだったんだ」

 

魔女「そうそう!組織っていうのは結束を固めて心を一つにしないと、いざという時にすーぐ崩壊するからね。仲良くしなくっちゃ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

246 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:07:05.75 ID:+SsGWOIOo

 

勇者「まあ、そういうことならいいけど」

 

魔王「私の分までよろしくな。気をつけて」

 

竜人「ええ、そりゃあ勿論」ニッコリ

 

魔女「魔王様の魅力ぶっ続け3時間語りとか人間相手にやらかすのやめてよねー」

 

勇者「やりそうで怖いな。じゃあ、直接俺がとっている宿にテレポートするから、掴まってくれ二人とも」

 

竜人「はい」ギュ

 

魔女「うん」ギュ

 

魔王「……」ギュ

 

勇者「……なあ、魔王、お前はテレポートしてきちゃだめだろ」

 

魔王「分かっている。冗談だ。……行ってらっしゃい、みんな」

 

竜人「魔王様!!またすぐ絶対帰ってきますから!!お菓子食べすぎないでくださいね!?歯もちゃんと磨くんですよ!?」

 

魔女「あーうるさいうるさい。さっさと行きましょ勇者」

 

勇者「お、おう」

 

 

シュンッ

 

魔王「……はぁ」ショボン

 

――――――――――――――――――――――――――

247 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:09:43.03 ID:+SsGWOIOo

 

* * *

 

王都 宿

 

勇者「じゃあ俺、昼間のうちに出かけてくるから、この部屋から出ないでくれよ。

   お前らの顔覚えてる兵士が街にいたら面倒なことになるからな」

   

魔女「わーかってるわ―かってるぅ」ゴロゴロ

 

竜人「さすが王都、人が賑わってますね」

 

勇者「……ほんとに出ないでくれよ?じゃあな」

 

 

 

 

 

神官「勇者様!こっちです。……本、持ってきました?」

 

勇者「よお神官。ああ、ばっちりだ。これ」

 

神官「わあ!後でじっくり読ませてくださいね。王室の司書さんから紹介してもらった本屋は、ここの角を曲がったところです」

 

勇者「その本屋が、魔族が書いたこの本を出版するのを頼まれてくれるといいんだが」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

248 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:10:13.73 ID:+SsGWOIOo

 

 

神官「……ええと、このあたりのはずなんですけどね」

 

勇者「もしかして……この廃屋みたいなボロい建物か?

   よく見りゃ本屋の看板があるぞ」

   

神官「えー……」

 

勇者「うーん……」

 

神官「俄かに不安になってきましたが……とりあえず行きましょう。

   あ、聞くところによると主人はかなりの変人らしいです」

   

勇者「えー……さらに不安になってきた」

 

 

ギィィィィッ

 

 

勇者「うるせっ…… おーい、主人いるか?」

 

神官「す、すごい埃っぽい店内……本が雑に積み上げられてる。ここお客さん来るのかなぁ」

 

本屋「は~い。んおっ!珍しいねえ。勇者サマに神官サマじゃないか。こんなインチキ本屋になんの用かね。ところであんたいい体しとるな」ジロジロ

   

神官「うっ。なんか私この方苦手ですぅ……」ササッ

 

――――――――――――――――――――――――――

 

249 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:11:05.85 ID:+SsGWOIOo

 

 

勇者「1つ頼みがあってな。この本を出版してほしいんだ」

 

本屋「ん?ん~~。ほっほ、こりゃこのご時世だと出版してすぐ禁書指定を受けそうな本じゃの。

   作者名は、なしか。まあ珍しくないわい」

   

勇者「作者は魔族だよ」

 

本屋「……ほ?」

 

 

* * *

 

 

勇者「というわけ」

 

神官「勇者様、いいんですか?この怪しげな人に全部話しちゃって……」

 

本屋「ブァッハッハッハッハ!!おもろいことに手ぇだしとるのぉ!いいぞ、のった。出版しちゃる」

 

勇者「助かるぜ」

 

本屋「なーに、この店はもともと明るみに出せないような本ばかり扱ってるのさ。魔族が書いた本なんてのよりもっとすごいのもあるぞ」

 

神官(なんでそんな怪しいお店を、王室司書さんが知ってるんでしょう……)

 

――――――――――――――――――――――――――

 

250 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:11:49.91 ID:+SsGWOIOo

 

本屋「発行部数はどうするね?」

 

勇者「うーん。すぐ禁書になりそうなんだろ?少なめがいいのかな」

 

神官「ですかねえ」

 

本屋「お主らてんで素人じゃのぉ。こういうのは……禁書指定されてからの方が売れるんじゃ。禁じられるほど見たくなるのは人間の性じゃからの」

 

勇者「そ、そうなのか?じゃあそこらへんはあんたに一任するよ」

 

本屋「そうしてもらえると助かるね。出版自体は2週間あればできる。またそのころにここにおいで」

 

勇者「おう、頼むぜ。ありがとな」

 

本屋「ま、横の姉ちゃんは今夜あたりにでも来てもらって一向に構わんがの!」ニヤ

 

神官「ひぃぃっ お断りですよ!」

 

 

ギィィィィッ… バタン

 

――――――――――――――――――――――――――

 

251 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:12:20.96 ID:+SsGWOIOo

 

勇者「2週間っていうと、ちょうど俺たちが同盟結成を考えたときから3カ月経つ頃か」

 

神官「早いですね。もう半分ですか」

 

勇者「人集めっていう地道な作業だったからな。でも、そのおかげで着々と基盤は固まりつつある。

   でもそうだな。そろそろ次の段階に進むべきかもしれないな」

 

神官「次って言うと、星の国か雪の国に、認証書をもらいに行くんですか?」

 

勇者「ああ。本を配ってもらったり、ほかの普及活動は同盟のみんなに任せられるだろうし」

 

神官「そうですね。今夜の集会でそのこと皆さんに話してみましょう」

 

勇者「あ、そういえば。一週間後の集会に竜人と魔女も参加するから」

 

神官「ええ分かりました、竜人さんと魔女さんも―――って、ええぇぇぇ!?」

 

 

勇者「ばっ 声が大きい!注目されてんだろうが!」

 

神官「す、すいません!で、でも。なんでお二人が!?」

 

勇者「ちなみに今、俺の宿に二人ともいるから」

 

神官「えええぇぇっぇ!!」

 

勇者「だからいちいちリアクションでけーよ!!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

252 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:12:49.66 ID:+SsGWOIOo

 

一週間後 夜 バーの前

 

神官「まさか本当に王都に滞在するなんて……ほんと無謀というかなんというか」

 

竜人「一回来たところでないとテレポートできないところが不便なんですよね。でも無駄な時間を過ごしてた訳じゃないですよ」

 

魔女「そうそう、あの後勇者と話してからちゃんと王子探しにまた出かけたしー」

 

勇者「結局王子の手がかりは掴めないままか……どこにいるんだろうな。案外この王国に戻ってたりして」

 

 

カランカランッ

 

 

 

 

ざわざわざわざわ がやがやがや

 

勇者「おお、今日も集まってるな。みんな暇なんだな」

 

姫「暇じゃないわ、もう。忙しい中時間を縫ってきてるの」

 

騎士「私も姫様がもっと城で大人しくしてくれれば、よりお暇頂けるんですけどね」

 

司書「おや勇者様。本の件はいかがでした?」

 

勇者「滞りない。出版は2週間後だそうだ」

 

歴史家「2週間後ですか……その前に原本を見てみたかったな。待ちきれん。なにせ魔族の書いた本など前代未聞だからな」

 

冒険者「だよなー!早く読んでみてーなー!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

253 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:13:18.85 ID:+SsGWOIOo

 

 

戦士「……む?勇者、横のフードを被った2人はもしかして」

 

勇者「ああ。気づいたか。 おい、みんな、魔族の話なら本じゃなくて直接いま聴けばいいさ」

 

姫「どういうことですの?」

 

 

バサッ

 

 

勇者「今この場に魔族2人がいるからな」

 

竜人「初めまして。竜族の者です」

 

魔女「魔女ちゃんでーす!」

 

 

 

「!?」

 

「ま……魔族!?」

 

ざわざわっ

 

――――――――――――――――――――――――――

254 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:14:49.50 ID:+SsGWOIOo

 

 

姫「なっ……!?」

 

騎士「姫様、念のためお下がりください!」

 

冒険者「うっひょー!魔族初遭遇なんすけどー!」

 

 

勇者「落ち着けよ、みんな。まあ俺も同じようなリアクションとっちゃったんだけどさ、最初」

 

戦士「この者たちに敵意はない。俺が保障しよう」

 

神官「お二人ともいい方たちなんですよ!ほんとに!」アワアワ

 

 

 

司書「……た、大変失礼しました。初めて違う種族の方にお会いしたので、少々動揺してしまいました。情けない……」

 

歴史家「無礼をお許しください、魔女殿、竜人殿」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

255 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:15:20.31 ID:+SsGWOIOo

 

 

魔女「あはは、そりゃーちょっとびっくりするよねー。いいよ全然気にしてないから。私の心は海並の広さを持ってるから」

 

魔女「でも、剣を構えるのは警戒しすぎなんじゃないの?騎士さん」パチン

 

騎士「う、あ、も、申し訳ない……///」

 

姫「えっ、なに貴方、ちょろすぎないかしら。ウインクひとつで真っ赤ってどれだけ初心なの」

 

竜人「もしかして貴女がこの国の王女様ですか?私たちのためにお力を貸して下さって、本当にありがとうございます」

 

姫「私?いえ……むしろ私は謝らなければ……あなたたち魔族に」

 

竜人「謝るなんて、よしてください。これからよろしくお願いしますね、王女様」

 

姫「あ、あ……そうね。ええ……勿論です。こちらこそ///」

 

 

 

勇者(あれー?)

 

――――――――――――――――――――――――――

256 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:16:06.20 ID:+SsGWOIOo

 

冒険家「いろいろ話聞かせてくれよ!魔族のオニーサンオネーサン」

 

歴史家「ぜひ詳しい話を私にも!いっそこうなったら私も本を書いてみるかな」

 

小説家「それなら私も。匿名なら問題なかろうて」

 

 

神官「あら……大人気ですね」

 

勇者「盛り上がってるとこ悪いが、しばらくこっちでの活動はあんたらにまかせていいか。

   俺と神官と戦士、竜人、魔女はこの国以外で活動するからさ」

 

戦士「む、ついに認定書入手に動き出すか」

 

勇者「ああ、そろそろいいだろう。王子探しのために、雪の国より星の国を優先しようと思う」

 

竜人「私も星の王に謁見させてほしいのですが」

 

勇者「……いやいやいやいや。それは流石にまずいだろ」

 

竜人「ではどうやって勇者様は王を説得なさるつもりで?」

 

勇者「そりゃーまあ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

257 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:18:34.22 ID:+SsGWOIOo

 

 

勇者「戦争はよくないから」

 

竜人「あちらは魔族を害獣か何かと同列に見なしてるんですよ。害獣駆除はなされるべきであって、いい悪いでは語れません」

 

勇者「じゃあ、こう言うさ。このまま戦争になれば、星の国もうちの国の軍力増強に協力させられるだろう、と。あちらさんはそういうの嫌いらしいしな」

 

竜人「それではどうして勇者様が神の法を使って無血クーデターを起こそうとしてるかの理由になってません。怪しさ満点ですよ」

 

勇者「うっ……」

 

神官「勇者様が押され気味だ!」

 

竜人「つまり、説得力を持たせるためにはやはり私が王に直接会わなければ。魔族は害獣なんかじゃないとはっきり認めさせるのです」

 

戦士「しかし、かなりの危険が伴うのでは?」

 

竜人「それも承知の上ですよ」

 

魔女「あ、ちなみにあたしはパスね!うまく敬語とか使えないから!」

 

竜人「それは元から期待してないから大丈夫です」

 

魔女「ひでーや!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

258 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:19:09.17 ID:+SsGWOIOo

 

 

勇者「じゃあ王に謁見組が俺、竜人。星の国で太陽国王子を探す組が魔女、神官、戦士、って感じでいいか」

 

魔女「いいよー」

 

戦士「承知した」

 

神官「あの、謁見組は二人で大丈夫なんですか?」

 

勇者「俺も竜人も転移魔法使えるし、やばくなったら逃げるよ。大丈夫大丈夫」

 

竜人「まかせてください」

 

魔女「がんばってねー」

 

 

 

姫「……」チラチラ

 

騎士「あの……なにさっきからチラチラ向こう盗み見てるんですか、姫様。ばればれですよ」

 

姫「なっ……あなただって、さっきから聴き耳立ててるのばればれです!」

 

騎士「べべべべつに俺は!なにも!姿だけじゃなく御声も美しいだなんて、おおお思ってませんよ、ええ!///」

 

姫「あらそう。その割には耳が真っ赤だわ」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

259 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/30(金) 03:19:46.49 ID:+SsGWOIOo

 

* * *

 

 

勇者「よっしお前ら!準備はいいか!」

 

神官「ええ、ばっちりです!薬草に、魔水に、気つけ薬も十分持ちました。あとお菓子とお弁当とお金と――」

 

戦士「張り切っておるな」

 

勇者「神官、菓子と弁当はいらないだろ」

 

神官「え?でも長い道中暇じゃないですか」

 

勇者「あのな、テレポートで行くに決まってんだろ?時間が節約できる時に節約しなきゃ」

 

神官「へあ!?あ、そっか!」

 

竜人「私たちも準備万端ですよ」

 

魔女「張り切っていこー」ダルン

 

勇者「行くぞ」

 

 

シュンッ

 

 

――――――――――――――――――――――――――

260 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:20:13.06 ID:+SsGWOIOo

 

 

星の国 

 

がやがやがやがや ざわざわざわ

 

シュンッ

 

勇者「よし、うまい具合に路地裏に出たな」

 

戦士「なんだか不法侵入みたいで気がひけるな」

 

神官「で、でも竜人さんと魔女さんいますし、正規ルートはまずいですよね」

 

勇者「大丈夫だろ。前に俺たち一回きたし、勇者パーティだし」

 

魔女「あれれ、意外と大雑把」

 

 

 

勇者「俺たちは王宮がある都をここから目指そう。馬車ですぐだ」

 

神官「私たちはいろんな村や街を回りながら情報収集しましょうか」

 

魔女「なんかもっとキラキラしたところ想像してたんだけど、森とか畑ばっかりだね」

 

戦士「天文台のある都はすごいぞ。特に夜は身惚れるほど美しい」

 

魔女「ええっ!あたしも都に行きたいなぁ。宝石とか洋服とかみたい~~」

 

戦士「だめだ。そら行くぞ」

 

魔女「ああ~~」

 

神官「じゃあ、勇者様も竜人さんも、頑張ってくださいね!」パタパタ

 

――――――――――――――――――――――――――

261 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/30(金) 03:20:40.25 ID:+SsGWOIOo

 

 

がやがやざわざわ 

 

 

竜人「うわ……すごいですね。建築物のデザインが全て幾何学的に統一されてて、きれいな街並みです。それにあの王宮より高い塔は一体……?」

 

勇者「ありゃ天文台だよ。ここは別名、学問の都だ。ありとあらゆる分野の最先端をいく研究がなされてて、その中でも特に天文学が進んでるんだ」

 

竜人「それにしても高いですね。雲を突き抜けそうだ。魔王様にも見せてあげたいです」

 

勇者「夜はもっとすごいぜ。王宮に行くより先に宿をとっとこう」

 

竜人「ええ、分かりました」

 

 

 

宿屋

 

主人「いらっしゃい。2人かい?」

 

勇者「ああ、2部屋頼む」

 

主人「毎度あり。2階の部屋使ってくれ。1階の奥は食事処になってるから、よかったら食ってってくれよな」

 

竜人「食事ですか。先に腹ごしらえしていきます?勇者様」

 

主人「都限定、星入りスープが人気だぜ!」

 

勇者「それ一回食ったけど、何が原材料なのかさっぱり分かんないんだよな……。先に食事するか」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

262 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします :2013/08/30(金) 03:21:35.91 ID:+SsGWOIOo

 

 

がやがや がやがや カンパーイ

 

 

竜人「……このスープのこれ、本当に何でできてるのか分かりませんね。まさか本当に星じゃあ……」モグモグ

 

勇者「だよな。俺もよくわからん」

 

料理人「栄養バランス完璧だぜ!栄養学も発展してるからな、この国は!タンパク質27%、ビタミン16%、それから……」

 

勇者「あーあーいい、いい!そういう話は聞かせてくれなくていいから!俺頭痛くなるから!」

 

 

 

 

 

 「おやっさん、肌荒れにきくいい食事よろしくっ!」

 

 「あ、ああ、構わねえが――あんたが食うのか?」

 

 「コラーゲンたっぷりのカクテルももらっちゃおうかな?」

 

 

勇者「! (この声……どこかで聞いたことあるような?)」

 

勇者「野太い掠れた声で甘ったるく女子みたいなことを喋る奴、どこかで会ったことがあるような」チラ

 

竜人「勇者様?」

 

勇者「!!!!!!」

 

――――――――――――――――――――――――――

263 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:22:03.14 ID:+SsGWOIOo

 

勇者「竜人、今すぐこの店を出るぞ!」ガタッ

 

竜人「はい?まだ食べ終わってないのですけど」

 

勇者「いいから!この世界で一番の危険人物が背後にいるから!」ヒソヒソ

 

 

旅人「ん?あら?あらあら~!?やだ!!勇者ちゃんじゃないのぉ!?偶然ね!」ガタッ

 

勇者「Noooooooooo」

 

竜人「えっ……と。こちらの男性は、勇者様の知り合いですか」

 

旅人「例えて言うなら、ベガとアルタイルってとこかしら」

 

勇者「チガウ!チガウ!」

 

竜人「ああ。そういう愛の形もありますよね。私は応援してますよ、勇者様。安心してください」ニコ

 

勇者「誤解が加速して止まらないよ!俺を置いてけぼりにしないで!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

264 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:22:31.56 ID:+SsGWOIOo

 

 

旅人「で?星の都になにしにきたの?勇者ちゃん」

 

勇者「あんたにゃ関係ないだろうが……おい!頼むからすり寄ってこないでくれ」

 

旅人「つれないわー。そんなところも好きだけど。でもあたし、これでも情報通だから役に立つかもよ?」

 

竜人「あの、私席はずしましょうか」

 

勇者「余計な気回さなくていいよ!ああ、もう。星の王にお願いしたいことがあって来たんだよ」

 

旅人「お願いしたいこと?へえ~ だったらいいこと教えてあげる」

 

勇者「いいこと?」

 

旅人「あ、別にやらしい意味じゃなくてね」

 

勇者「知ってるわい」

 

旅人「盗賊団の噂きいたことない?最近猛威を奮ってるらしいわよ、3国を股にかけて」

 

竜人「ああ、そういえば少し聞いたことがあるかも」

 

旅人「少数精鋭でかなり腕っ節の強い連中みたいよ。で、そいつが今狙ってるのが、この都の天文台のてっぺんに飾られてる宝石!っていう噂」

 

勇者「ふーん」

 

――――――――――――――――――――――――――

265 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:2013/08/30(金) 03:23:00.75 ID:+SsGWOIOo

 

 

竜人「なら、その盗賊団を捕まえて王に差し出せば印象良好って訳ですね」

 

旅人「そーゆーことね。どう?いい情報じゃない?」

 

勇者「確かに試してみる価値はあるな。盗賊団のアジトとかも知ってんのか?」

 

旅人「さすがにそこまでは知らないわ、ごめんなさいね。でも最近都ではその噂でもちきりだから、色んな人に話を聞いてみたらいいんじゃないかしら」

 

勇者「そうしてみるか。よし、食事も済んだし、行こう」ガタッ

 

旅人「あら?まだ情報料もらってないんだけど」

 

勇者「あ。……いくらだ?」

 

旅人「お金じゃなくても構わないわよ?」

 

勇者「い く ら だ」

 

旅人「つれないわね」

 

竜人(この人どこかで見たことあるような……)

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

275 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:22:16.22 ID:pAdjx2C6o

 

旅人「……」

 

竜人「……!? な、なんでしょう。私の顔に何かついてますか?」

 

旅人「ん~。あなた、あたしと会ったことなぁい?見覚えがあるようなないような……」

 

竜人「! それが、私もそんな気がしてt……ハッ!」

 

竜人(この人、以前魔王城に流れ着いてきた人だ!やばい! それにしても、私が覚えているのはいいとして、

   忘却呪文かけられたはずのこの人がなんで私の顔を覚えているんだ?)

   

竜人「き、気のせいじゃないですかね、ハハハ……」

 

旅人「怪しいわね」

 

勇者「お、おい。もう俺たちは行くからな。じゃあ世話になったな!」

 

 

 

旅人「あ、んもう。逃げ足速いわね」

 

――――――――――――――――――――――――――

276 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:23:08.42 ID:pAdjx2C6o

 

 

 

* * *

 

盗賊1「兄貴!兄貴ー!」バタバタッ

 

盗賊2「大変ですぜ兄貴!」

 

 

仮面をつけた男「んだよ……騒がしいな。天文台への侵入ルートでも割れたか」

 

盗賊1「それはまだですけど、もっとすごいこと聞きました!」

 

盗賊2「この星の都に、勇者が来てるそうです!!」

 

仮面「なに?勇者が……。確か勇者は神話級の剣を持ってるって噂だったな?」

 

盗賊1「時の神殿から持ち帰った『時の剣』ですね!さっき宿屋の窓を覗いてみたんですが、ばっちり持ってましたよ。

    大層高そうな宝石が柄に埋まってやした!」

    

盗賊2「しかも連れは一般人の男のみみたいですぜ!こりゃあ千載一遇のチャンスだ兄貴!」

 

仮面「ふん……そいつは本当なんだろうな?だとすると『時の剣』……いくらで売れるかね。

   よしお前ら。ターゲットを変更だ。勇者の剣を盗み取るぞ!!」

   

盗賊1・2「おっす!!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

277 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:24:22.12 ID:pAdjx2C6o

 

 

勇者「うーん。いろいろ聞きこみしてみたけど、やっぱ盗賊団のアジトを知ってる者はいなかったな」

 

竜人「噂はそこここで聴くんですけどね。相当有名な盗賊みたいじゃないですか。悪い噂ばかりじゃないですし」

 

勇者「変に民衆に人気のある盗賊っているよな。義賊ってわけでもなさそうだが。で聞いた話によると……

   今回星の都で狙われているのは、この街の天文塔の頂点にある“アステリオス”という宝石だ」

   

勇者「いくら民に人気がある盗賊っていっても、アステリオスが狙われてると知ったら天文学者たちは怒髪天だろうな」

 

竜人「その宝石にどんな価値があるんです?」

 

勇者「そいつには魔力が宿ってるとされてる。別名「星の王」とも呼ばれるアステリオスは、星空を守護してるんだ。

   俺も神官から昔聴いた話だけど、天球を観察するのに邪魔なものはたくさんある。

   汚れた空気や街の灯り、人里と切っても切り離せないそれらをアステリオスは退けてくれるんだとさ」

   

竜人「なるほど。確かにそれは学者からしたら生命線とも言える代物ですね」

 

勇者「今日の夜から天文台に護衛に行こう。話はつけておいたからな」

 

勇者「あーあ、盗賊狩りならもっとこっちに人数いれりゃよかったな。神官、魔女、戦士のうち誰か一人でもこっちに入れてれば……

   そういえば、竜人って竜に変身しない場合、どれだけ戦えるんだ?」

   

竜人「それなりに剣術は嗜んでます。勇者様には負けますけどね。私も頑張りますよ」

 

勇者「そうか。頼りにしてるよ」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

278 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:25:35.75 ID:pAdjx2C6o

 

 

竜人「辺りが暗くなるまであと1時間ってところでしょうか。先に休みます?」

 

勇者「だな、今のうちに飯を食っとこう。今度はあいつに会わないといいが」

 

竜人「同感ですよ…… ん?」

 

 

ガシッ!!

 

 

男1「よお兄ちゃん二人でなにしてんだ!?これから飯かい? ならあそこの角の定食屋がオススメだぜ!」

 

男2「看板娘がとびきりかわいっくってな!……ん!?その姿……まさかオメェ勇者か!?」

 

勇者「あ、ああ」

 

男1「こいつぁすげえ!!まさかこんなところで勇者に会うとはよ!聞いたぜオイ、昔、北の大盗賊団を壊滅させたってマジか!?」

 

勇者「(あのころ魔物に全然遭遇しないから盗賊狩りばっかしてたんだよな……) 本当だ」

 

男2「かぁ~!かっくいいね!よしきた旦那、今日は俺の奢りだ!一緒に飯食わせてくれや!」

 

竜人「どうします、勇者様……って、ああ、ちょっと。引っ張らないでくださいって!」

 

勇者「お、おい。俺たちあんまり時間がとれないんだが」

 

男2「かまわねえかまわねえ!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

279 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:26:29.43 ID:pAdjx2C6o

 

 

がやがやがやがや

 

 

男1「勇者様とそのお仲間様にかんぱーい!! 遠慮せずに飲んで食ってくれや!!」

 

男2「ここの葡萄酒は格別でね、俺も毎晩呑みにきちまってるのさ!おかげで酔ってるのか素面なのか誰にもわかんねえ有様だ!」

 

勇者「奢ってくれんのは有り難いけど、食事だけにさせてもらうよ。悪いな」

 

男1「なんだ勇者、お前下戸かい!?んなこと言わずに!!ほれほれ!!男なら一気に呷っちまいな!」

 

勇者「ちょっ!?ごぼごぼ……」

 

竜人「ああ、なにしてるんです。お酒は……」

 

男2「ほら兄ちゃんも呑みな!!!奢りだ奢りだ!!」

 

竜人「いや私はいいですって、ごぶっ!」

 

男2「はーはっはっはっは!!いい呑みっぷりだ!さすが伝説の勇者パーティだな!!」

 

 

 

 

半刻後

 

 

 

勇者「うっく――くっそ、なにしやがる。人の話も聞かずに――うぐっ。ああクラクラする」

 

男1「おいおい、もう終いかい?顔が茹だこみたいになっちまってるぜ!!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

280 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:28:15.21 ID:pAdjx2C6o

 

 

竜人(これじゃ天文台に行くのは明日からになりそうですね。まあ仕方ありません。今日盗賊が来ないことを祈りましょうか)

 

竜人「勇者様、大丈夫ですか?」

 

男2「あんたは随分酒に強いんだなあ!呑んでも呑んでもしらーっとしてる」

 

竜人「まあ体質でして」

 

男1「ここの上は宿屋になってるんだ。俺が勇者を連れてってやるよ。お前らはまだ呑みたんねぇだろ?そこにいろよ」

 

竜人「いえいえ、私が連れてきますよ」

 

男1「呑ませちまった俺に責任があるからよ。気にすんなって。よいしょっと」

 

勇者「うっ」

 

竜人「そうですか……じゃあお願いしますね」

 

 

……バタン

 

 

男1「ふう、ふう。重いなくそったれ。おい勇者」

 

勇者「……」

 

男1「完全に寝入ってやがるな。しめしめ。これが、『時の剣』……。生きて出てきた者はいないという時の神殿の奥に眠っていたという……

   へへっ!すげえや!!それじゃこいつを失礼して!」

   

盗賊1「兄貴のところに持ち帰るか!!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

281 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:29:22.31 ID:pAdjx2C6o

 

 

男2「あんたの出身はどこだい?」

 

竜人「太陽の国の北あたりですよ」

 

男2「へえ。あの国のか。それじゃさぞかし星の国の住民は奇妙に映るだろうな。周りを見てみろよ」

 

竜人「……」

 

 

「東洋から伝わった学術書をもう読んだか?あれに書いてある惑星の平均運動について疑問があるんだが……」

 

「天体の位置計算の補足表、最新のものがでたらしいね。これで私の研究も一歩前進といったところだ――」

 

 

 

竜人「……まあ、酒の肴に学問の話とは、結構変わってると思います」

 

男2「だろ?どこを見ても勉強のことばっかで、学のない俺らにとっては居心地悪いったらねえや」

 

竜人「ところで、お連れの方遅くないですか?ちょっと見てきましょう」

 

男2「あーあー!待て待て、俺が行ってくるよ!」

 

 

ガタッ!!バタバタ……

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

282 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:30:01.73 ID:pAdjx2C6o

 

 

男2「よう。どうだった」

 

盗賊1「へっへ、見てみろこれ」

 

盗賊2「うおおおお!すっげえな!こりゃ高く売れるぜ!あいつらが気づく前に、兄貴のところに行こう!」

 

盗賊1「ああ!」

 

 

 

 

盗賊のアジト

 

 

 

盗賊1「兄貴ー!!盗んできやしたぜ!!時の剣だ!!」

 

仮面「おお、よくやったな。俺の方も朗報だ。天文塔への侵入ルート見つけたぜ」

 

盗賊2「さっすが兄貴だ!」

 

仮面「これから盗みに行くぞ。「星の王」――アステリオスを」

 

仮面「勇者が邪魔に来たとしても、この剣があれば無敵だ。丸腰の勇者と、伝説の剣を手にした俺、果たしてどっちが勝つだろうか」

 

盗賊1・2「兄貴だ!!」

 

仮面「そうとも。勇者が酔いつぶれた今がチャンスだ。行くぞ!!」

 

盗賊1・2「おう!」

 

――――――――――――――――――――――――――

283 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:31:02.67 ID:pAdjx2C6o

 

 

「…………ま……う……さま、勇者様!!」

 

 

勇者「ん……!? な、なんだ?竜人?」

 

竜人「起きてください勇者様。腰に差してた剣はどちらに?」

 

勇者「へっ?どこにも置いてないけど――あれっ!?ない!!どこいった!?」

 

竜人「もしかして、さっきの男たち……私たちが追っていた盗賊団のメンバーだったのでは?」

 

勇者「なに!?っつ、頭いてぇ!あいつらどこ行ったんだ?」

 

竜人「勇者様を連れてった一人も、様子を見に言ったもう一人も、全然戻ってこないので見に来たらこのありさまですよ。多分もう逃げたかと」

 

勇者「あいつら!!最初っからそのつもりだったのか!くっそ!!急いで天文台へ行くぞ、竜人!」

 

竜人「天文台へ!?でも勇者様、足元ふらついてますけど」

 

勇者「俺から奪った剣を手にしてて、俺が体調万全じゃないこの今こそ、奴らにとって最大のチャンスだ!急ぐぞっ!」

 

竜人「勇者様そっち扉じゃなくて――」

 

 

ガターーン!!ゴシャァァァン!!!バタバタッ ゴトッ!

 

  おいなんだ!?上からなんか落ちてきた!  人!?

 

 

竜人「開け放たれた窓です――って、ああもう。遅かった……」

 

――――――――――――――――――――――――――

284 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:31:38.46 ID:pAdjx2C6o

 

 

ダッダッダッダッ

 

 

守衛「止まれ、職員の印か推薦状は――ああ、勇者殿か……え、勇者殿!?なんで血まみれ!?」

 

竜人「さっき窓から落ちて……」

 

守衛「大丈夫ですか!?」

 

勇者「だいっ、だ、大丈夫だ!!気を抜くと吐しゃ物まき散らしそうな状態だが、大丈夫だ!」

 

守衛「それ大丈夫って言わないんじゃあ!? あ、行っちゃった……」

 

 

ダッダッダッ ズルッ バターーーン!!

 

 ユウシャサマー!!

 

 

 

 

守衛「……大丈夫だろうか……」

 

――――――――――――――――――――――――――

285 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:32:18.10 ID:pAdjx2C6o

 

 

竜人「ここが最上階、宝石が保管されてる階ですね。!! 護衛の人たちが倒れてる!?」

 

勇者「俺も倒れそう…… おい、あんた! 気絶してるだけか。息はある」

 

竜人「まずいですね。もしかしたら宝石はもう……急ぎましょう」

 

勇者「ああ!」

 

 

 

 

勇者「この部屋か!開けるぞ竜人、準備しろ」

 

竜人「ええ」

 

 

バタンッ!

 

 

盗賊1「げっ!?誰だ」

 

盗賊2「勇者とその仲間!もう追いついてきやがったか!」

 

勇者「お前ら、やっぱり定食屋の男ども!!盗賊だったのか!!俺の剣を返せ!!」

 

竜人「全く、まんまと騙されてしまいましたよ。そして奥の、仮面をつけたあなたが親玉ですか?」

 

仮面「まあなぁ。でもそれがなんだってんだ?」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

286 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:33:23.76 ID:pAdjx2C6o

 

 

竜人「捕えます。剣は返してもらいますし、宝石もあなたたちに渡しません」

 

勇者「覚悟しろよ、お前ら」

 

竜人「勇者様、どこ向いてんですか。そっちただの柱ですしっかりしてください!!」

 

 

仮面「ッハッハッハ!剣も持たず、酒で千鳥足、そんな様で俺らと戦おうってのか?お笑い草だ。

   おい、お前ら、戦闘準備しろ! 俺も……」

   

   

スラッ――ジャキッ!

 

 

仮面「このお前から頂戴した剣の試し斬り、したいと思ってたところだ」

 

勇者「ハッ。強さってもんは剣で決まるんじゃない!本当に強い奴ってのは例え剣が鈍らだとしても立派に立ち振る舞えるもんさ」

 

仮面「いや、俺はこっちだ。どっち向いて構えてんだよ」

 

勇者「あーくそ!!もう!!いいからかかってこい!!」

 

仮面「じゃあ遠慮なくっ!」

 

 

ガキンッ! ギンッ! ガッ!

 

――――――――――――――――――――――――――

 

287 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:34:19.15 ID:pAdjx2C6o

 

 

 

盗賊1「俺たちの相手はあんたか!?」

 

盗賊2「あんたみたいなひょろい野郎、10秒で地に臥せてやるよ!!」

 

 

ヒュッ―― ガッ

 

竜人「うっ、流石に速いですね!これは骨が折れそうだ……」

 

竜人(勇者様は大丈夫だろうか。あの仮面の男、相当な使い手だと思うのですが……)

 

 

 

 

仮面「ほらほら!どうしたよ勇者様!?防ぐのすらできなくなっちまいやがったかぁ!?」

 

勇者「くっ!ベラベラうるせーな!!」

 

仮面「すげえな、お前の剣。こんなに切れ味が鋭いのに、羽のように軽いぜ。ちょっと本気出せば――」

 

 

スパッッ

 

 

仮面「――お前のその鈍らも、真っ二つだ」

 

勇者「……ですよねー」

 

仮面「ハハハッ!ついに虚勢すら張れなくなったか。終いだな」

 

勇者(くそ、後ろは窓か!もう逃げ場がない)

 

――――――――――――――――――――――――――

 

288 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:35:13.04 ID:pAdjx2C6o

 

 

仮面「こっから落ちたら、さすがの勇者様も命の危機ってやつじゃあねえのか?ん?」

 

勇者「ぐ……てめぇ……。一日に二度も窓から落ちてたまるか」

 

 

ヒュォオオオオオオ……

 

 

勇者(……さすが世界一の天文塔、てっぺんとなると雲も突き抜けてるのか)

 

仮面「どうだい、上半身まるまる雲の上に浮いてるってのは、どんな心地なんだ?なんなら落ちてみるか?」

 

勇者「…………その前に、ひとつだけ教えてくれよ」

 

仮面「なんだ?」

 

勇者「今――何時だ?」

 

仮面「あぁ?変なこと聞くな、お前。ちょうど12時を回ったところだ。時間がそんなに気になんのか?」

 

勇者「そうか。ありがとよ」ガシ

 

仮面「おい、なに剣掴んで―――――ばっ!離せオイ!!落ち――――」

 

勇者「一緒に夜空の散歩と洒落こもうぜ、仮面野郎!」

 

 

ヒュッ……

 

――――――――――――――――――――――――――

289 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:35:56.38 ID:pAdjx2C6o

 

キンッ ガッ ガキン!

 

竜人「すばしっこいですね、本当っ…… ってあれ?勇者様たちはどこに?」

 

盗賊1「よそ見してる暇はねぇぞ!」

 

竜人「その様ですね……!さすが盗賊、評判になるのも分かりますよ」

 

盗賊1「へへっ!だろ!?」

 

盗賊2「双子の俺たちは息もぴったりさ!」

 

盗賊1「どんな野郎も二人で倒してきた!」

 

盗賊2「あんたも食らいな!!ほらよっ!!」

 

盗賊1「背中がガラ空きだぜ、おいっ!!!」

 

 

ザクッ!

 

竜人「いっ……」

 

盗賊1「ハハハ!食らったな!」

 

竜人「かすり傷ですよ」

 

盗賊2「かすり傷でも傷は傷。俺たちのナイフには象でも動けなくなるほどの痺れ毒が塗ってあるのさ!」

 

盗賊1「どんな猛者もひとたまりもないくらい強烈な毒だぜ!あんたも今にぴくりとも動けなくなるね!」

 

竜人「毒ですか……」

 

――――――――――――――――――――――――――

290 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:36:55.40 ID:pAdjx2C6o

 

 

ヒュッ!!キィンッ!

 

 

盗賊1「なっ!?なんで動けるんだこいつ?」

 

盗賊2「この毒を食らって動ける奴なんて初めて見たぜ!」

 

盗賊1「なんなんだお前……?ただもんじゃねえな!?」

 

盗賊2「この毒を解毒できんのは、貴重も貴重、ドラゴンブラッドだけだ。でもあんなの実在してるかどうかも怪しいね」

 

竜人「そうですね……。竜の血はどんな病も治し、どんな毒も解毒するってあなたたちの間では伝えられてますね。

   もっとも純粋な竜族なんてもうこの世にいないので、万能の秘薬はもう作れなくなってしまいましたけど」

   

竜人「そんなもののために、私の母も父も……」

 

盗賊1「ああん!?なにブツブツ言ってんだぁ!?」

 

竜人「いえいえ、話しすぎましたね、すいません。では勇者様のことも気になりますし、そろそろカタつけましょうか」

 

盗賊2「フン、毒が効かないからって調子に乗ん―――」

 

竜人「オラァァァァ―――!!!」

 

 

バキッッ!!

 

 

盗賊1「拳!?ぎゃぶっ!」

 

盗賊2「っがぁ!?」

 

 

 

盗賊1・2「」

 

竜人「さて、勇者様とあの仮面の男はどこに……」

 

――――――――――――――――――――――――――

291 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:37:40.99 ID:pAdjx2C6o

 

ビュォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ

 

 

仮面「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!馬鹿かテメェ!!!馬鹿か!!!本当に飛びおりやがって!!しかも俺も道連れとかふざけんなよクソ野郎!!!」

 

仮面「酒で脳もイカレたか!?テメェなんかと心中する気さらさらねーんだよッ!!!」

 

勇者「ぎゃあぎゃあうるせえな!落ち着け!」

 

仮面「これが落ち着いていられるか!!!死ぬんだぞ俺ら!!!」

 

勇者「まあ聞け!俺は転移魔法を使える」

 

仮面「はっ!?」

 

勇者「でもそのためには、お前が持ってるその剣が必要だ。俺に剣を返すか、このまま墜落死するか」

 

勇者「どっちにする?」

 

仮面「……ッ!!!剣でもなんでも返すから、さっさとその魔法とやらを使えクソ勇者!!!!!」

 

勇者「はいよ!」

 

 

 

シュンッ

 

――――――――――――――――――――――――――

292 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:38:10.79 ID:pAdjx2C6o

 

 

シュンッ

 

 

勇者「……ふう」

 

仮面「はーっ、はーっ、はーっ、気狂いかテメェ」

 

竜人「勇者様!ご無事でしたか。びっくりしましたよ、気がついたらいないんですから」

 

勇者「ちょうど時間が12時過ぎててよかったぜ。この魔法は一日に一回しか使えないからな。おら、返せよ宝石」

 

 

ジャキッ

 

 

仮面「くっ……この野郎」

 

 

勇者「剣も取り戻せたし、宝石も守れたし、盗賊団も捕えたし。一件落着……あれっ?」

 

竜人「あっ」

 

バタンッ

 

 

竜人「勇者様!」

 

――――――――――――――――――――――――――

293 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:38:45.28 ID:pAdjx2C6o

 

 

* * *

 

 

勇者「うーん……まぶし……。ん?朝か。ここは……宿?」

 

勇者「あれ、俺確か昨日盗賊と戦って、その後……」

 

 

ギィ バタン

 

 

竜人「お目覚めですか」

 

勇者「竜人!俺、どうなって?」

 

竜人「盗賊団のリーダーを倒した後、倒れたんですよ。まああれだけケガした後ですからね。体調はどうです?」

 

勇者「もう万全だ」

 

竜人「……この国の王から、召集がかかってます。勇者様が目覚め次第、体調が良好なら城にきてほしい、と」

 

勇者「国王から?そうか。じゃあ、行くか。お前、本当に来る気なんだな?」

 

竜人「ええ。もちろん」

 

勇者「ふう、じゃあ気を引き締めていくぞ。俺たちの本来の目的――認証書をもらいに行くんだからな」

 

竜人「はい。魔族と人の未来のために」

 

勇者「……」

 

勇者(魔王、見てろよ。認証書を絶対持ち帰ってやるからな)

 

――――――――――――――――――――――――――

 

294 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:39:20.00 ID:pAdjx2C6o

 

魔王城

 

 

魔王「……」

 

ニンフ「魔王様、どうかしましたか?」

 

ノール「さっきから上の空ですけど」

 

魔王「……いやなんでもない。えっと、日付はこの日でよいのだったか」

 

ニンフ「ええ。でも……魔族が危機に晒されているこの状況で、本当にいいのかしら。その……」

 

魔王「いい。こんな状況だからこそ、何か皆を明るくさせるようなことが必要なのだ」

 

ノール「そう言って頂けると救われます」

 

魔王「私も楽しみにしている。竜人や魔女、勇者くんたちも来られたらいいのだがな。で、もう決めたのか?」

 

ニンフ「はい」

 

ノール「もう村のみんなにも伝えましたし衣装も準備しました」

 

魔王「そうか。もうすぐだな」

 

ニンフ「魔王様、どうぞ宜しくお願いしますね」

 

ノール「お願いします」

 

魔王「うん、分かってる。楽しみにしているぞ」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

295 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:40:01.64 ID:pAdjx2C6o

 

 

 

魔王(勇者くん、神官、戦士、竜人、魔女……元気にやっているだろうか)

 

魔王(やはり私だけ何もできないというのも歯がゆいものだな)

 

魔王(なんとか私の魔力と私の体を分離できれば、結界を維持しつつこの島以外で私が活動できる。

   その魔法を先日から研究しているのだが……一向に完成しない)

   

魔王(……はあ。いまごろみんなはなにしているのだろう……)

 

――――――――――――――――――――――――――

 

296 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:40:48.62 ID:pAdjx2C6o

 

 

* * *

 

 

ゴゴゴゴゴゴ……バタ…ン

 

 

星の王「やあ。久しぶりだな勇者。横の彼は初めて会ったね」

 

勇者「お久しぶりです。星の国の王子よ」

 

竜人「初めまして……」

 

星の王「僕の国に来ていたのなら、言ってくれればよかったのに。盗賊団を捕えてくれて感謝しているよ。

    なにせ狙われてたのは天文台のアステリオスときたもんだ。盗まれていたらと思うとぞっとしないよ」

    

星の王「今盗賊たちは地下の牢につないで――」

 

騎士「失礼します!謁見中申し訳ございません、囚人どもが奇妙なことを口走ってまして、ぜひ王の耳にお入れしたいことがあるとか……」

 

星の王「僕の?そうか、じゃあここに連れてきてくれ」

 

騎士「よろしいのですか?」

 

星の王「ああ、いいよ」

 

勇者(王の耳に入れたいこと?なんだ?妙なことを言わないといいが……)

 

297 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:43:00.61 ID:pAdjx2C6o

 

 

仮面「チッ 離せよテメェ!」

 

騎士「暴れるな!!」

 

星の王「罪人たちよ。僕に言いたいことがあるって言ってたけど、なんのことだろう」

 

盗賊1「王子様!聞いてください!そいつらは、少なくとも勇者でない方のそっちの男は!!人間じゃありません!!!」

 

 

勇者「!?」

 

竜人「……」

 

星の王「……なんだって?」

 

 

盗賊2「おかしいんですよ!人なら間違いなく効くはずの毒薬を食らってもピンピンしてやがったぜ、そいつは!!

    あり得ないかもしれねえが――そいつは!!」

    

盗賊2「人間じゃない!!魔族だ!!!」

 

勇者「なっ……!」

 

 

ざわざわざわざわ

 

 

騎士1「……っ!」

 

騎士2「魔族だと!?太陽の国が魔族との戦争を目論んでるとは聞いていたが、我が国にまで!?」

 

298 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:44:16.78 ID:pAdjx2C6o

 

勇者(くそ!場の空気がもってかれた。交渉を有利にするために盗賊団を捕えたってのに、これじゃ逆効果だ)

 

星の王「騎士たちよ、剣をおさめなさい。ここにいるのは、私の友人だ」

 

勇者「!」

 

星の王「どういうことだか説明してもらってもいいかい?勇者……そして、お隣の彼は、なんて名前なのかな」

 

竜人「星の国の王子よ。素性を明らかにせず、あなたの御前に現れた無礼をお許しください。

   私は正真正銘、魔族の――竜族の血をひく者です」

   

 

ざわざわっ

 

騎士「貴様!!一歩たりともそこから動くな!宮殿にまで入り込んできおって!!」

 

勇者「俺たちは!!あなたに危害を加えようとしてここに来た訳ではありません!!どうかお話を聴いてください、王子!」

 

仮面「魔族だと!おいおい牢獄にいれる相手を間違ってるんじゃないか王子様!!俺たちを釈放してあいつらを牢にぶちこめよ!!」

 

盗賊2「どうりで毒がきかねぇわけだ!薄汚い魔族の血め!!」

 

騎士「動くな蛮族!!!」

 

 

星の王「……静かに」

 

星の王「我が国らしく、理性をもって物事を判断しようじゃないか。そのためにまず勇者と竜人の主張を聴こう。

    なぜ魔族の者が僕の国に?人間の希望たる勇者、君は何故魔族と共にいる?」

    

勇者「……有難うございます。ではお話しましょう。俺が魔族と共にここにいる理由、そして」

 

勇者「俺たちここ星の国に来た理由を」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

299 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:45:27.83 ID:pAdjx2C6o

 

勇者「俺は太陽の国の王に命じられて魔族討伐の旅に出ました。そしてついに魔王城の居場所を突き止めたのです。

   でも、そこで出会ったのは、想像していた魔族とは全く異なる者たちでした」

   

勇者「そして聴かされた魔族の歴史、境遇。俺たち人間に伝えられてきたものと全然違います。

   100年前の人魔戦争、その原因についても人間と魔族では伝えられてきたものが異なっています。

   俺は、何が正しいのか分からなくなりました」

   

勇者「歴史の曖昧さは仕方のないことです。でも1つだけ、分かっていることがあります。

   魔族は、俺たちが思っているよりずっと善良で、人間と性質が一緒だってことです」

   

星の王「一緒?どういうことだろう」

 

勇者「一緒です。気性の荒い者もいれば、血を見るだけで卒倒する者もいます。大体は、俺らと一緒です、平和な世界が好きなんです」

 

竜人「勇者様の仰る通りなんです。私たち魔族は戦争を始めて人間たちを脅かそうなんてこれっぽっちも思ってません。

   100年前の戦争で我らはどんどん種を減らし、今では純粋な魔族もほとんど残ってません」

   

星の王「……」

 

竜人「聴いてくれますか。私たちの歴史を」

 

星の王「……」

 

騎士「惑わされないでください、王よ!王宮の奥に魔族が入り込んでいるこの状況が既に危険ですよ!」

 

星の王「……聴かせてほしい。ぜひ」

 

騎士「王よ!!」

 

勇者「……!」

 

竜人「……! 有難うございます……!」

 

――――――――――――――――――――――――――

 

300 :以下、新鯖からお送りいたします [saga]:2013/09/11(水) 00:46:24.10 ID:pAdjx2C6o

 

 

星の王「騎士たちよ、少し黙っていてくれ。僕の身を案じてくれるのはいいが、それではなにも新しい見聞など得られないのだから。

    真実とは常に思いもよらぬ方向から我らを導く。僕たちはそれを拒んではいけないのだ」

    

騎士「……っ! 仰せのままに、王よ」

 

星の王「さあ、聴かせておくれ。魔族の話を聴くのは初めての経験だ。歴史学も、天文学ほどではないが、この国では盛んなのだよ」

 

竜人「……はい。では……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

星の王「……なるほどね。実に興味深い話だ。それで、君たちは僕に何をお願いしたいんだい。

    盗賊たちを捕えたのも、交渉をスムーズに進めるための交渉材料のつもりだったんだろう?」

    

竜人「ばれてましたか……」

 

勇者「さすが王子です。太陽の国が魔族を殲滅しようという動きがあるのはご存じですよね」

 

星の王「ああ、確かあと3カ月後くらいだったかな。また軍隊要請の文が届いていたよ」

 

勇者「俺は、俺たちは、それを阻止しなければなりません。でも国王は聴く耳を持っておらず。

   よって、神の法を執行させるために貴方様の認定証を頂戴しにまいったのです」

   

星の王「神の……法?」

 

星の王「………………フフ」

 

竜人「?」

 

星の王「あーっはっはっはっはっは!!」

 

竜人「!?」

bottom of page