501 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 18:34:30.93 ID:o74a0MbXo
グリフォン「前向きだね」
魔王「当たり前だ。私が前向きじゃなくてどうする。一応これでも魔王なのだぞ」
グリフォン「分かってるよ、マオウサマ」
魔王「ふふん」
魔王「それから、城にいるときは勇者くんたちが使えるようなアイテム合成とかしてみた」
グリフォン「へえ、どんな?」
魔王「例えばこれだ。この青い粉末はただの粉ではない。ものすごい辛さの青とうがらしを粉にして呪いをかけた。
これを敵に振りまけば、相手はあまりの刺激に発狂して『ウニョラー』『トッピロキー』しか喋らなくなる」
グリフォン「どっかで聴いたことあるようなアイテムだね」
魔王「あとはこれ。魔法陣が描いてあるこの紙に、魔力をこめると……腰みのをつけた中年男性がでてきて、
敵を魅了するダンスを目の前で踊ってくれるのだ。その隙に使用者は逃げることができる」
グリフォン「それもどっかで聴いたことがある話だね」
魔王「そうだったか」
グリフォン「うん」
魔王「とまあこれは全部冗談だが」
グリフォン「君の冗談は分かりにくいね」
――――――――――――――――――――――――――
502 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 18:37:21.30 ID:o74a0MbXo
魔王「いつか魔族と人が住む街をつくろうと思うんだ」
グリフォン「どうしたの突然」
魔王「城でやることがないので、これからのことやこれまでのことについて考える時間が多いんだ。
グリフォンは100年前の戦争以前、本当に人と魔族は完全な対立関係にあったと思っているか?」
グリフォン「思ってないよ」
魔王「……理由は?」
グリフォン「そうじゃないと半魔半人の僕たちのルーツがどこにあるのか分からなくなってしまう」
魔王「そうか……。私も同じ意見なんだ」
魔王「魔族の住む大陸と人の住む大陸は大河で隔てられていたけれど、本当に全く交流がなかったのか疑問が残る。
証拠はないから完全に推測だけど、川沿いの村にでも魔族と人が共存している、なんてことがあったのかもしれない」
グリフォン「そこで僕たちの先祖が生まれてたのかもね」
魔王「勿論大っぴらに交流が行われていたとは思えないけど。
だから私たちが、魔族と人が堂々と交流できるような街をつくるんだ」
魔王「港と、学校と、教会と、図書館と、店と、広場と、川と、橋と、畑と、家をつくって」
魔王「活気のある街にしたいんだ」
――――――――――――――――――――――――――
503 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 18:42:56.46 ID:o74a0MbXo
グリフォン「名前は?」
魔王「ん?」
グリフォン「街の名前」
魔王「それはまだ決めてない。私はそういったセンスがないから」
グリフォン「君の名前をつければいいんじゃないかい?」
魔王「魔王村って? 嫌だ。そんなんじゃ人が寄りつかないだろう」
グリフォン「いや、そっちじゃなくて。君の本当の名前だよ」
魔王「……その方がもっと恥ずかしくて嫌だ」
グリフォン「街に人の名前つけるのって結構あると思うけどなぁ」
魔王「どうせ先の話だ、それまでじっくり考える」
グリフォン「僕が老衰で死ぬ前につくっておいてね」
魔王「まだ若いくせに、何を言う」
魔王「……じゃあ、邪魔したな。本は借りてくぞ。多分また分からないところを質問に来る」
グリフォン「僕もあんまり詳しくないけど……まあ、待ってるよ」
ガチャ
グリフォン「魔王様」
魔王「ん?」
グリフォン「『魔王』は楽しい?」
――――――――――――――――――――――――――
504 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 18:48:36.72 ID:o74a0MbXo
魔王「……」
魔王「楽しいよ」
魔王「なってよかった」
グリフォン「そう」
魔王「魔王と言ったって……ただ今の魔族の中で最も魔力が強かったことだけが理由だったけど」
グリフォン「まぁ、10年前は今よりいろいろひどかった状態だしねぇ」
魔王「だから勇者と魔王の伝説なんて、今は効力を失っているだろうな。なにせこっち側の選別が適当だ。
『魔王は勇者にしか討ち滅ぼせない、勇者は魔王にしか討ち滅ぼせない』っていうアレだ」
グリフォン「あ~……」
魔王「勇者くんじゃなくても私は殺せるし、私以外の者でも勇者くんは殺せるだろう」
魔王「神の啓示も先代からの指名も何もない魔王だけど……楽しいよ。だから心配しないでくれ」
グリフォン「心配は別にしてないけどね。君がそう思うのならよかった」
魔王「全部うまくいくよ」
魔王「おやすみ、グリフォン」
グリフォン「……おやすみ、魔王様」
――――――――――――――――――――――――――
505 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 18:51:33.66 ID:o74a0MbXo
魔王(本当に、伝説の通りだったらいいのに)
魔王(そうだったらこの世界の誰からにだって勇者くんは殺されたりしない)
魔王(伝説も神も運命も、きっと存在しないと思うけど……)
魔王(……あ。勇者くんたちは時の女神に会ったことがあるのだったか)
魔王(神が実在しているのなら……ほかだって、存在しているのかもしれない)
魔王(……)
魔王(そうだといいな)
――――――――――――――――――――――――――
506 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 18:56:37.33 ID:o74a0MbXo
朝
魔王「……ふーむ」
魔王「やっぱり貿易というものは私にはよくわからないな。商人とやらを尊敬する」パラパラ
シュッ
魔女「まおうさまーーーっ!!」ガバッ
魔王「まっ……!?」
魔女「元気だった!?久しぶり!ほんと久しぶり!さびしくて泣いてなかった!?大丈夫!?」
魔王「泣いてないし大丈夫だ」
竜人「お久しぶりです。ほら魔女、魔王様が苦しさからの涙を浮かべてますから、離しなさい」
魔女「ごめんごめん」
魔王「二人とも、元気だったか?」
魔女「元気元気!」
――――――――――――――――――――――――――
507 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 18:58:56.18 ID:o74a0MbXo
魔女「てかねー、いい知らせと超いい知らせがあるけど、どっちから先に訊きたい?」
魔王「じゃあいい知らせから」
魔女「はい、これ。雪の国で王子様の手がかり入手しましたー!魔術で居所調べて!」
魔王「耳飾りか」
竜人「最近の落し物だそうです。金髪碧眼、やけに羽振りがいい、首元を隠した男の」
魔王「羽振りがいい……か。王子のように身分が高ければそれも頷けるな。首のことも条件と一致する」
魔女「で、次の超いい知らせっていうのが、認定書二つ揃いました!あとは王子を見つけるだけ!イエーイ!」
魔王「本当か。すごいぞ」ナデナデ
魔女「えへへへ」
竜人「認定書の件は完全に勇者様たちの成果ですからね」
魔王「よし。後は王子の居所だけなら私の腕の見せ所だな……!さっそく魔術の準備をするぞ」
魔女「魔王様がんばれー!」
――――――――――――――――――――――――――
508 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:01:59.08 ID:o74a0MbXo
魔王「あと一回分くらいの魔術の用意をしといてよかった。あとは……また血の採取だけだ」
魔女「ああ、女の子の血だっけ?いいよ、あたしやる」
魔王「何を言う、それくらい私にもできる。この間もできたんだ」
竜人「えっ……いや。私がやりますよ。はいどうぞ」
魔女「どうぞって、あんた男だろーが。なに言ってんの?大体なにその、性別がまぎらわしい一人称」
竜人「丁寧な口調を心掛ける私の意気込みを見習え」
魔王「……」スパッ
竜人「ってちょっと!!魔王様は魔王様で何無言でリストカットしてんですか!!」
魔王「大丈夫だ、二度目だしもう慣れた。じゃあ魔法陣発動させるから離れてくれ」
竜人「いやめちゃくちゃ涙目じゃないですか!?全然大丈夫じゃないように見えるんですが!」
魔王「うるさい、そこは見ないふりをしろ」
――――――――――――――――――――――――――
509 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:08:13.56 ID:o74a0MbXo
魔王「……この耳飾りにはちゃんと魔法陣が作動したが……おかしいな」
魔女「なにが?」
魔王「これによると、耳飾りの持ち主、王子は太陽の国にいるらしい」
竜人「え?久しぶりに里帰りでしょうかね。でも居所が分かってよかった。
今は太陽の国は少し混乱している状況ですが、行くしかないでしょう」
魔女「だよねー、あたしまだ今日転移魔法使ってないし、さっさと行っちゃお」
魔王「魔力回復する薬草、そっちの棚にストックが、ある―― え?」
パキッ
魔王「……」
竜人「どうかしましたか?」
魔王「勇者くんからもらったブローチが」
魔女「あれ?ヒビがはいってるね。急にどうしたんだろ?魔王様握りしめすぎたんじゃないのー?」
魔王「そんなわけあるか。一体どうして……」
魔王「…………」ギュッ
――――――――――――――――――――――――――
510 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:14:55.94 ID:o74a0MbXo
勇者「訊きたいこととは何でしょうか」
国王「……」
勇者(……なんだ?何故俺は汗をかいている?)
勇者(嫌な予感がする……まさか?)
国王「今日までどこに行っておった?」
勇者「……雪の国です。雪山に住む動物が凶暴化して困ってると人づてに聴いたので」
国王「ほう、では……その前はどこへ?」
勇者「どこへ、と言われましても……この国に、いました」
国王「嘘をつくな。本当のことを申せ」
国王「魔王城に行っておったな?」
神官「えっ……」
戦士「何……?」
勇者「……!」
――――――――――――――――――――――――――
511 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:16:35.85 ID:o74a0MbXo
国王「お主がどうも魔族のことを気にかけすぎておるように思えてな。悪いが魔術師に動向を探らせてもらった」
神官「……大陸全土に渡って対象者の位置を把握できる魔法なんて」
国王「そんなに高度な魔術ではない。勇者に『魔除けの札』と言って渡したあれのおかげだ」
勇者「……」
国王「魔除けの効果など、あの札にはない。宮廷魔術師が現在研究中の魔術アイテムだが、どうやら成功のようだな。誤作動などではなくてよかった」
国王「さて……お主が我らの宿敵たる魔王の根城に、何故行っていたのか……。
それを何故先ほど私に告げなかったのか……」
国王「何か申し開きがあるのなら言ってみるがよい」
国王「勇者……いや。国に仇なす反逆者よ」
騎士「……」チャキ
騎士「……」スッ
勇者「くそっ!」
――――――――――――――――――――――――――
512 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:18:48.06 ID:o74a0MbXo
神官「わわ……!」
戦士「チッ……」
勇者(王の周りに10人、扉の前に10人)
勇者(腕が立ちそうな奴もチラホラいるが、俺と戦士ならゴリ押しでいけるな)チャキ
国王「この場で剣を抜いたということは、認めたと考えていいのだろうな?」
勇者「その通りですよ。俺たちはあなたについていけません。悪いが反旗を翻させてもらう」
国王「愚かな真似を……貴様には悉く失望させられたわ」
勇者「愚かなのは――あんただ」
勇者「戦士!」
戦士「ああ!」
騎士「ウオォォォォォォ!!!」
騎士「覚悟っ!!」
勇者「はあぁぁッ!」
戦士「――フンッ!!」
――――――――――――――――――――――――――
513 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:21:38.47 ID:o74a0MbXo
――ドサッ……ドサドサッ
騎士「ぐ……」
騎士「がっ」
国王「……腐っても元勇者か」
騎士「扉の前の騎士が一瞬で……!?」
勇者「退くぞ!」
神官「は、はい……っ!」
戦士「どけっ!」ガィン
騎士「ぐあ……ッ」
国王「待て。この者たちを見殺しにするつもりか?」
勇者「!?」
――――――――――――――――――――――――――
514 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:26:52.51 ID:o74a0MbXo
女主人「離しなっ このクソ野郎が!」
本屋「全く老体にひどいことをしおるわい……」
司書「皆さん!私たちのことは気にしないで、早くここから逃げてください!」
神官「えっ……!!ど、どうして……!?」
戦士「人質か。こすい真似を」
勇者「なっ、なに捕まってんだお前ら!」
女主人「うるさいね!あんたらこそほいほいここに来てんじゃないよ!ちったぁ疑いな馬鹿!」
司書「喧嘩してる場合ではないですよ、早く逃げてください……!!」
勇者「……っ」
国王「私の言いたいことは分かるな? 抵抗をやめ、武器を捨てなさい」
勇者「…………ほらよ」ガチャン
国王「身柄を拘束しろ」
騎士「はっ」
――――――――――――――――――――――――――
515 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:28:39.65 ID:o74a0MbXo
神官「いたた……」
戦士「……」
女主人「馬鹿……あんたらまで捕まってどうすんのさ!」
司書「申し訳ありません……皆さん」
国王「貴様らがなにを企んでいたのか、大方の予想はついている。
認定書はもう受け取っているのかね?」
勇者「!」
勇者「……そこまで察しがついていたとは。ハッ……情けないが、まだどっちの国からも受け取ってない」
国王「魔術師……」
魔術師「は、承知しております」
勇者「(げっ……)」
魔術師「『我が言葉に従い、真実を示せ』」
勇者「うっ……やめろ!」
神官「勇者様!」
魔術師「『認定書はどこにある?私に差し出しなさい』」
戦士「勇者……!」
勇者(手が……勝手に……!!くそ……!)
国王「ほう。あの偏屈屋の王子と、高慢な女王、どちらからも認定書を持ち帰ってきていたとはな。
全く、侮れんものだ。しかし……私の放蕩息子の行方までは掴めていまい」
勇者「……」
――――――――――――――――――――――――――
516 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:34:00.29 ID:o74a0MbXo
国王「図星のようだな。あれの行方はいまだに私ですら掴めんのだ。今どこで何をしているのやら」
国王「……これはもう必要ない。暖炉にでもくべてしまえ」
騎士「はい」
ビリビリ……
勇者「……! やめろ!」
ボォッ パチパチ……
神官(……あぁ……。あんなに苦労して手に入れた認定書が……灰に、なって……)
勇者「……ッごめん」
戦士「お前のせいではない」
――――――――――――――――――――――――――
517 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:35:12.56 ID:o74a0MbXo
国王「残念だが――クーデターを企み、国王である私を陥れようとし、民を無意味に惑わしたその罪」
国王「死をもって償ってもらうほかない」
国王「三日後。計画の首謀者である三人の処刑を行う」
国王「それまでその者らを牢獄に繋いでおけ」
騎士「ハッ」
大臣「やれやれ、ひと段落ですな。まさか勇者が魔王と繋がっていたとは……。
あのような若者が、何故……疑問が残りますな。魔族に惑わされていたのでしょうか?」
国王「それはないだろう。彼奴の目を見れば分かることだ」
国王「しかし、まさかあそこまで彼奴らが動いておったとは。
これはあの放蕩息子の捜索もいよいよ本格化させんとな」
国王「またこのようなことが起きたら面倒だ……。あいつもそろそろ満足したろう。
未だ王座を譲る気は毛頭ないが、私もいい年だしな」
大臣「仰せのままに」
――――――――――――――――――――――――――
518 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:36:24.15 ID:o74a0MbXo
ガンッ!
勇者「くそ!剣さえあれば、こんな牢……」
戦士「落ち着け、勇者。こういう時にこそ冷静になることが重要だ」
勇者「冷静になんかなってられるか。畜生、あと一歩だったってのに!」
神官「私たち、三日後に処刑、ですよね。どんな処刑方法なんでしょうか……」
戦士「重罪人だからな。そりゃあ国民の前で首をスパッと……或いは磔にされて内臓を下から串刺しに」
神官「いやぁー!血みどろスプラッタ!神よ、哀れな子羊をお助け下さい!」
勇者「おぞましいことを言うのはやめてくれ!吐きそう!」
勇者「はぁ……二人ともすまなかった。全部俺のせいだ」
神官「気を落とさないでください。勇者様だけの責任じゃありませんよ」
勇者「認定書も……昨日受け取りたてほやほやだったのに。
灰になったら流石に無効だよな。つーか王子もまだ……いや」
勇者「あいつ、そうだ、あいつはまだ俺たちの仲間ってことがばれてない!」
戦士「うむ。しかし……なあ」
――――――――――――――――――――――――――
519 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:41:27.18 ID:o74a0MbXo
神官「そ、それに、魔王さんや魔女さん、竜人さんなら、もしかしたら灰から認定書を再生できる魔法が使えるかもですよ」
勇者「ああ、あいつらならもしかして……って思えてしまうことが恐ろしいな。
仮面も捕まってない。まだまだ諦めるには早いってことだな」
戦士「しかし、どうも俺は仮面と王子を結びつけるのは早計だと思うのだが……」
勇者「でもあいつがそうでないとしたらもう希望が見えないぞ」
神官「王様に私たちの目論見が露呈してしまった以上、国を挙げて何が何でも阻止しようとするでしょうね」
神官「もう……こうなったら、祈るしかありません」
戦士「祈る、か……」
神官「きっと、信じる者は救われます。最後まで信じましょう――運命を」
――――――――――――――――――――――――――
520 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:42:39.07 ID:o74a0MbXo
魔王城
魔女「じゃ、ちゃちゃっと行ってくるね。王都」
魔王「待て」
竜人「?」
魔王「……」
魔王「今、魔女の転移魔法で王都に行ったら、二人とも今日は転移魔法が使えなくなる……」
竜人「それは分かってますけども、急ぎませんと。時間はもうたくさんは残されていないのですから」
魔女「大丈夫だよー、心配しなくても」
魔王「……そうだな。余計なことを言った。でも、くれぐれも気をつけて」
竜人「ええ。これまで振り回してくれた王子様の首を絶対にとっ捕まえてやりますよ」
魔女「どんな人なのかなぁー王子って。ついに会えるのかー」
魔王「だから気を引き締めろと……まあいいや。行ってらっしゃい」
――――――――――――――――――――――――――
521 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:44:22.46 ID:o74a0MbXo
王都
魔女「ふう。到着」
竜人「……? なんだか、いつもより騒がしいですね。何かあったんでしょうか」
ザワザワザワザワ……
男性「号外!号外!!大ニュースだよ!!」
男性「あの伝説の勇者とお仲間の二人が、反逆罪で三日後に処刑だ!!!」
ザワザワザワザワ……
魔女「はぁ!? どういうこと!?」
竜人「一部下さい!」
男性「毎度あり!!さあさあ皆も買った買った!!今年一番の大ニュースだ!!」
竜人「ええと……勇者様たちが捕まったのは……私たちが来るほんの1時間前ですね」
魔女「魔族と裏で繋がり、国家転覆を謀ったため、死罪って!?なんでばれちゃったのかな?」
竜人「とりあえず、なんとか助けださないと。三日間のうちに彼らを助けだして、
あとは旅人さんの言う一週間後まで逃げ延びられれば、まだチャンスはあるはずです」
――――――――――――――――――――――――――
522 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:46:25.48 ID:o74a0MbXo
ザワザワ
「あの勇者が魔王とつながってたなんて。俺たちは裏切られたのか」
「どうなっちまうんだ、この国は」
魔女「! 竜人、顔隠して」
竜人「あれは……騎士団か。どこに向かって……」
女性「……な、なんです騎士様。うちに何か用ですか?」
騎士「ここの主人に用がある。悪いが入らせて頂きますぞ」
女性「ちょ、ちょっと!なんなんですか!」
騎士「来い!魂を穢した売国者め」
男性「離せ!畜生!」
女性「やめてください!主人は何もしてません!連れてかないで!」
子ども「パパー!」
「かわいそうに……今日で何件目だ?」 「自業自得だろ」
竜人「…………」
――――――――――――――――――――――――――
523 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/11(金) 19:52:10.22 ID:o74a0MbXo
塔の上
竜人「くっそ、街中騎士だらけだ」
魔女「って、何も塔の上じゃなくても、ほかに隠れられるところあるんじゃないの」
竜人「ここなら地上からの目は届かないでしょう。しかし困りましたね。
勇者様たちのほかにも、どんどん味方の人間が騎士たちに捕えられてしまっています」
魔女「こんな空気じゃあ、あたしたちの格好悪目立ちだね。ろくに歩けないよ」
竜人「あ~~~~もう!王子も見つけないといけないし、勇者様たちも助けないといけないし、
魔王様にもこのこと知らせないと……ああ、そうだ。鳥を今のうちに飛ばそう」
魔女「できるだけ急いでね、鳥くん。緊急事態だから」
鳥「ピィー」バッサバッサ
竜人「もうなんなんですか、この状況!胃が痛い!思考回路が焼き切れ寸前ですよ全く!」
魔女「やばい、竜人が発狂し始めた。あんた本当追い詰められるとすぐ胃が痛くなるよね。
もーめんどくさいからしっかりしてよ。早く作戦考えて」
竜人「丸投げよくないと思います。少しは私のストレス軽減してくださいよ……。
……とりあえず暗くなるまでここで待ちましょう」
竜人「で、まずは魔王様が特定してくれた場所に行って、王子に会いに行く。
勇者様たちを解放するためにも、地の利がある王子を仲間につけておいた方が得策でしょうしね」
魔女「りょーかい」
――――――――――――――――――――――――――
534 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 00:45:00.72 ID:loQvPbLEo
ドンドンッ!
姫「どういうつもり!?出して、出しなさい!」
大臣「申し訳ありません、姫様。王都中が混乱しています故、いまは自室にてお待ちください。
国王様からのご命令でございますので、恐れ多くも鍵をかけさせていただきます」
姫「鍵……? どうしてそんなことを。お父様に会わせて!!ここから出しなさいよ!!」
大臣「姫様、貴女様は王族の自覚をもって、慎重に行動して頂きたいものですな」
姫「この、分からず屋ポークヘッド!」
大臣「どうやら魔族の暗示にかかっているご様子……後で神殿の者を呼びましょう」
姫「肉壁大臣!髭面眼鏡!豚!!!」
大臣「随分強力な錯乱の呪いにかかっているご様子ですなぁ!?ええ!?あーあー聞こえない!」
兵士「大臣殿、ご報告に参りました。
東の民衆による暴動は既に鎮圧されましたが、今度は王都の南と西で暴動が起きて、ただいま鎮圧にあたっています」
大臣「南と西でも、か。分かった、私から殿下に伝えましょう。
現場での指揮は引き続き、将軍に任せます。牢の警護は騎士団長にまかせるので」
兵士「ハッ」
――――――――――――――――――――――――――
535 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 00:45:58.09 ID:loQvPbLEo
姫「あっ……行っちゃったわ。もう!」
姫「勇者たちが捕えられてしまったなんて、一体どうしたら……。
それに、暴動って……何が起こっているの?」
姫「このままじゃ全ておしまいよ」
姫「お兄様……いまどこにいらっしゃいますの……!?」
――――――――――――――――――――――――――
536 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 00:51:50.06 ID:loQvPbLEo
夜
ドゴーン…… ワーワー
いたぞー!捕まえろぉ! やれるもんならやってみろー!
竜人「……そろそろ動きだしてもいいような暗さになりましたが、あちこちで聞こえる爆発音は一体……」
魔女「よくわかんないけど、あたしたちにとっては好都合じゃない?」
竜人「確かに混乱に乗じて騎士の目を引かずに移動できるのはいいですけど。
……気にしても仕方ありませんね。行きましょう」
魔女「そうそう。利用できるもんはよく分からなくても利用しなくっちゃ」
タッタッタッタ…
竜人「もう少しです。この通りを真っ直ぐ行って……ここだ!」
魔女「ここ?こんなボロっちぃ廃屋に王子様がいるっていうの? うそでしょ」
竜人「確かに魔王様に告げられた場所はここのはずなのですが」
バタバタッ そっちにいたか!? 虱潰しに探せ!
竜人「うわ、人が来ます。とりあえず中に入りましょう!」
魔女「なんか汚そうだしやだよー」
――――――――――――――――――――――――――
537 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 00:53:35.69 ID:loQvPbLEo
ガサガサ
竜人「一応人が住んでたらしき痕跡はありますね。ソファーや調理道具も……ボロボロですけど」
魔女「でもホコリだらけだよ?普通に廃墟レベル」
竜人「誰かさんの部屋も似たようなもんですけどね」
魔女「こんなに汚くないもーん」
魔女「ていうかまさかの本人不在? いい加減あたしもイライラしてきたんだけどな」
竜人「……」
魔女「なに見てんの?」
竜人「壁に貼ってあるメモ、見てください。全部どこかの建物の見取り図です」
魔女「ほんとだ。変な趣味だね!」
竜人「趣味……なんでしょうか。 ん!?」
竜人「これ、双子の盗賊さんのバンダナじゃあ……?」
魔女「あれ。なんでこんなところにあるの?ここって、あいつらの家ってこと?」
竜人「っていうより、仮面さんと双子の盗賊さんの……アジト、と言った方がいいですかね。
ここに葉巻の吸い殻があります。双子は葉巻を吸ってませんでしたし」
竜人「とすると見取り図は盗みに入る前の事前調査でしょうね」
竜人「……もしかして」
竜人「王子って……まさか」
――――――――――――――――――――――――――
538 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 00:57:36.33 ID:loQvPbLEo
魔女「あ。ねえ!ゴミ箱にビリビリに破かれたメモ入ってるよ」ゴソゴソ
竜人「意味深ですね。つなげてみましょう。……これも見取り図ですか」
魔女「これってさあ……王都の牢獄のじゃないの?」
竜人「何故そう思うんです?どこの見取り図なのかは何も書いてありませんよ」
魔女「だってさ、窓がどこにもないよ。これを見ると7階建ての建物だと思うけど、
そんな高い建物、さっき私たちがいた時計塔くらいしか王都にはないよね?」
魔女「だとするとこの見取り図の建物は地下7階建てってことでしょ?
窓がなくて、そんな大層な地下の建物って、牢獄くらいしかなくない?」
竜人「なるほど。確かに説得力がありますね」
竜人「牢獄の見取り図が破かれてゴミ箱に捨てられてたってことは……
王子、いや仮面さんは勇者様たちを脱獄させに牢獄に向かったのか?」
魔女「はあ?なんで王子=仮面?テンパりすぎでしょ、竜人。プッ」
竜人「さっきあれだけ鋭い考察したのに、何故そこは気づかないんですか。
あり得ない話じゃないですよ。現に魔王様の魔術が、ここに王子がいたと示したんです」
魔女「だって王子って……金髪碧眼イケメンハンサム王子様って……もっとさあ……もっと!!!」
竜人「言いたいことは分かります!完全に同意しますが、今はおさえて!」
――――――――――――――――――――――――――
539 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 00:59:06.37 ID:loQvPbLEo
竜人「多分、この家に誰もいないってことは、彼らは牢獄に向かったんでしょう。勇者様たちを助けに」
魔女「仮面君、結構情に厚いところあるんだね」
竜人「私たちも行きますよ。この見取り図を覚えれば、裏口からこっそり侵入できます」
魔女「よっしゃ、行こうか!みんなを助けに!」
――――――――――――――――――――――――――
540 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:00:27.29 ID:loQvPbLEo
牢獄 地下1階
仮面「……」チラ
騎士A「今日は随分城下が騒がしいな」
騎士B「なんでもあちこちで暴動が……」
騎士C「すまん、ちょっと便所に行ってくる」
騎士A「早めにすませろよ、今日は特別重警護をしなければならないのだから」
騎士C「へいへい」スタスタ
騎士C「はぁー……誰が囚人を脱獄させに来るってんだ。そんな奴ここ10年来たことねーっつの」
仮面「じゃあ俺が記念すべき10年来の脱獄補助者だな」ダスッ
騎士C「ぐむっ!?」
仮面「……騎士装備、似合うか?」
盗賊1「似合ってますぜ兄貴」
仮面「じゃ、ちょっと待ってろよ」
――――――――――――――――――――――――――
541 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:02:46.61 ID:loQvPbLEo
仮面「待たせたな」
騎士A「ぶはっ、お前、なんで兜被ってるんだ?」
騎士B「……? 待て。そいつ……」
仮面「遅えよ」
* * *
仮面「おら、これ着ろ」
盗賊2「すげー。騎士団の鎧なんて一生着る機会ねーや」
盗賊1「おもっ……重いッス!!これじゃまともに戦えねーよ兄貴!」
仮面「戦う必要はねーよ。さっき倒した騎士三人組の異常に、誰かが気づく前に勝負を決める」
仮面「いちいち出会う騎士全て相手してたら時間が足らん。盗賊らしくコソコソしながら勇者たちの牢に行くぞ」
盗賊1「なるほど」
盗賊2「でも、勇者の旦那たちはどこに捕まってるんだろ」
仮面「どうせVIP待遇の最下階、地下7階だろうさ。さっさと行くぞ」
――――――――――――――――――――――――――
542 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:06:36.17 ID:loQvPbLEo
地下3階
仮面「ん? なんかここの階は騒がしいな」
盗賊1「あ、あれって、街の人たちじゃねぇですかい?」
女主人「こっから出しな!おいこら聞いてんのかい馬鹿騎士!」ガンガン
騎士「……」
本屋「静かにしてくれんかのう、わし寝たいんじゃが」
司書「よくこんな状態で寝れますね」
女主人「全く、頭が固い連中だよ」
歴史家「同感です。なんとか脱獄できませんかねぇ」
男性「帰してくれよ~妻と子が待ってるんだよ~」
盗賊2「どうするんで?」
仮面「どのみちあそこを通過しねぇと地下4階に行けねえ。仕方ねぇな……」
仮面「見張りは6人か。多いな。少し博打にでるか」
――――――――――――――――――――――――――
543 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:09:07.78 ID:loQvPbLEo
仮面「大変です!」
騎士D「どうした?」
仮面「先ほど当番を代わりに地下1階に赴いたのですが、見張りをしていた騎士が全員倒れていました!
もしかしたら脱獄者が出たのかもしれません!」
騎士E「なんだって!?まさか……あり得ん!」
騎士F「どこの牢から脱獄者がでたのか、確認せねばなるまい」
盗賊1「私たちがここの牢を見張ります。皆さまは地下1階をお願いします!」
騎士G「分かった!」
仮面(よし……)
騎士隊長「なんだ?どうかしたのか」ヌッ
騎士H「隊長、大変です。地下1階の見張りが倒れていたようで、脱獄者が出たかもしれません」
騎士隊長「なんだと!?しかし、それをどうやって知ったのだ?」
仮面(……)ダラダラ
――――――――――――――――――――――――――
544 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:13:17.60 ID:loQvPbLEo
騎士D「この3人の騎士が知らせに来ました」
騎士隊長「お前らか。どこの部隊の所属だ?言ってみろ」
仮面(部隊!?)
騎士隊長「どうした……?まさかド忘れしたわけじゃあるまいな」
盗賊1「えぇと……あの……」
騎士隊長「……ハァッ!」
盗賊2「うわぁッ!?」
カランカラン……
盗賊2「うわわ、兜がっ」
騎士隊長「貴様、見ない顔だな。それに随分鎧に着慣れていない様子も気になる」
騎士隊長「我ら騎士団の名を騙る賊め。構えろ!こいつらも牢に入れるのだ!」
騎士「「「はい!」」」
仮面「チッ ばれちゃあしょうがねえな!!」
――――――――――――――――――――――――――
545 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:17:17.90 ID:loQvPbLEo
騎士F「はぁ!せいっ!」ザッ
盗賊1「うぐぐ……鎧が重くて……! どわッ!!」
騎士D「なんだ、口ほどにもないじゃないか」
盗賊2「いってて……!!」ドサッ
仮面「お前らしっかりしろ!盗賊の根性見せつけろ馬鹿!」キィン ザシュッ
騎士隊長「よそ見している暇があるのか!?」
騎士H「うおおおお!!」
仮面「おいおい、俺一人で6人はさすがに手こずるぞ……!」
??「全体睡眠魔法!!!」
仮面「……!? だ、……れ……だ……」バタッ
――――――――――――――――――――――――――
546 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:20:47.96 ID:loQvPbLEo
??「仮面さんたちまで眠らせてどうするんですか」
??「あんだけ入り乱れてたら区別なんてできないっしょ。まあいいや、叩き起こそう」
??「そうですね」ユサユサ
仮面「うぐ……む……」
??「だめだよ、あたしの睡眠魔法なんだから、そう簡単に起きないよ。これくらいやらなきゃ」ドスッ
仮面「いっ……うぅ……」
??「仕方ない、時間がないので許してくださいね」
??「そんな振りかぶっちゃっていいの?」
??「っらぁ!!」
仮面「ぐえぇぇ!!?」
竜人「よかった、起きましたね」
仮面「うっぐゲッホ、ゲホ、ゴホゴホッ!!」
魔女「時々ほんとにあんたが怖くなるよー」
――――――――――――――――――――――――――
547 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:23:32.59 ID:loQvPbLEo
仮面「てめぇぇ、なにしやがんだゴラァ!!殺すぞクソドラゴン!!」
竜人「彼らも起こしましょう」
魔女「っていうか、あたしが状態異常回復魔法かければよかったねー」パァァ
盗賊1・2「……あれ?俺なんで眠ってたんだ?」
仮面「もっと早く気付けよ!!わざとだよなお前ら!!」
竜人「失礼しました。大丈夫ですか?」
仮面「てめーのせいで腹がいてーよ。死ね、5回死ね」
盗賊1「なんで竜の旦那と魔女の姉貴がここに?」
魔女「そりゃ、勇者たちを助けに来たに決まってんじゃん!君たちもでしょ?」
盗賊2「そりゃあ心強いや!」
竜人「そこの牢に入ってる人たちも起こして、ここから逃げてもらいましょう。
裏口までの最短距離にいる見張りは全て魔女が眠らせました」
竜人「今なら誰にも見つからずに逃げ出せるはずです」
――――――――――――――――――――――――――
548 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:26:56.91 ID:loQvPbLEo
女主人「助かったよ。恩に着る」
司書「ありがとうございます……!」
女主人「私たちは牢の外でやれることをやるよ。勇者たちによろしくね!がんばんなよ!」
本屋「グッドラックじゃ」
タッタッタ……
竜人「私たちも先を急ぎましょう!」
魔女「そんなに呪文の効果、長いわけじゃないからさ」
盗賊1「全員眠らせちまうなんて、魔法ってすげーっすね」
――――――――――――――――――――――――――
549 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:31:50.35 ID:loQvPbLEo
地下4階
タッタッタ
竜人「すいません。あなたたちのアジトに入らせてもらいました」
仮面「は!?」
魔女「ちゃんと掃除した方がいいよ」
仮面「るせー。てか何勝手に入ってんだよ。
ああ、見取り図を見たんだな?だからここの裏口を知ってたってわけだ」
竜人「二つ訊きたいことがあります。走りながらでいいので答えてください」
竜人「昼から続いてるあちこちでの暴動、あれはあなたが?」
仮面「まあな。って言っても俺がしたのは人家がない路地裏とか空き家に少しばかり火薬を仕込んで爆発させただけだ」
魔女「テロじゃん」
仮面「一応近隣の住民に許可とったよ。何気にノリノリな奴が多くてな。
あちこちで騒ぎを起こして、牢獄に集中してる騎士兵士を分散させたかったんだ」
仮面「でも俺が起こしたのは最初の数件だけだぜ。後は勝手に民衆がやってくれた」
竜人「今逃がした人たちも加わって、さらに苛烈になるでしょうね……騎士もお気の毒に」
魔女「今夜は眠れないね」
――――――――――――――――――――――――――
550 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:34:16.25 ID:loQvPbLEo
騎士「なんだおm」
魔女「死ねぇぇぇ!」
竜人「違うでしょうが!睡眠睡眠!」
老女「ありがとうございます……この恩は忘れません」
商人「外でド派手な花火あげてやるぜ!俺は勇者やあんたらを応援する!がんばんな!」
バタバタ……ドタドタ……
盗賊1「順調に国民を解放できてますね!」
盗賊2「こんなに多くの人が捕まってたなんて、驚きだ」
仮面「牢も広いから面倒だな……。が、もうここまで来たら意地でも全員逃がすか。
その方が後に有利になりそうだしな」
竜人「しかし意外ですね」
仮面「あん?」
――――――――――――――――――――――――――
551 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:37:30.35 ID:loQvPbLEo
魔女「仮面君が勇者を助けるために、こんなに頑張るなんて、ね。 君ツンデレ?」
盗賊1「兄貴はクールに見せかけて、内に燃えたぎる魂をもつ熱い男だぜ!」
仮面「別にただの乗りかかった船だ。それにまだ、あいつに報酬をもらってねぇからな。
人探ししたり、雪山に獣退治しに行ったり、いくら請求してやろうか今でも楽しみだ」
魔女「素直じゃないんだからー」
仮面「ニヤニヤするんじゃねぇ!!」
仮面「で?竜男、お前のもうひとつ俺に訊きたいことってなんだよ?」
竜人「ああ……」
地下6階
竜人「あなたの正体は――……」
??「止まれッ!!」
竜人「!?」
――――――――――――――――――――――――――
552 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:38:40.04 ID:loQvPbLEo
仮面「だれだ!?」
騎士団長「貴様らこそ、何者だ!!この先は通さんぞ」
騎士副団長「こいつら、どうやってここまで!?」
竜人「今までいた騎士たちとは装備が違う。見るからに手ごわそうですね」
盗賊1「こ、この二人、騎士団長と副団長だ」
盗賊2「に、逃げて別ルート探した方がいいっすよ!!」
魔女「大丈夫、まかせてよ。全体睡眠魔法!」
団長「なっ……!? この呪文……貴様、魔族か!!どうやってこの国に入りこんだ!?」
魔女「あ、あれ?効かない?」
団長「副団長、お前は国王様にこのことを知らせに行け。ここは俺が受け持った」
副団長「はい!」
竜人「それは……まずい。とてもまずい!待て!」
団長「貴様らの相手は俺だ」
竜人「くっ」
――――――――――――――――――――――――――
553 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/15(火) 01:40:46.99 ID:loQvPbLEo
魔女「混乱魔法!麻痺魔法! あーもーなんで全然魔法が効かないの!?」
団長「俺に呪いは効かない。『破魔の指輪』を装備しているからな」
魔女「そんなのアリ!?」
団長「まとめてかかってこい! 一網打尽にしてくれる」
仮面「フン……いいぜ。一度その高い鼻へし折ってみたかったんだ」
盗賊1「魔法が効かないなら!」
盗賊2「レベルをあげて物理で殴れ!」
仮面「相手は槍使いだ。リーチが長いが、懐に入り込めればこっちの勝ちだ」
竜人「数の利を生かしましょう。連携が大事ですよ!」
団長「推して参る!!」ゴォッ
――――――――――――――――――――――――――
558 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:10:32.23 ID:M3l9gFzjo
竜人「数の利を……」
ブォンッ!!
竜人「生かし……」
ブォンブオンッ!!
竜人「連携が……」
ブォンブオンブォンッ!!
竜人「ええい! できるわけあるか!!」
盗賊1「つ、つええ」
盗賊2「うわぁあ!」ドサッ
団長「自ら牢獄に侵入してきたことを後悔するがいい。今に貴様らの背後にある牢にぶち込んでやる」
仮面「はぁ……はあ……薙ぎ払いが厄介だな。4人で囲い込めればかなり有利になるはずなんだが」
団長「うおおおおッ!」
ガッ!!
盗賊1・2「ぬわーっっ!!」
――――――――――――――――――――――――――
559 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:13:19.78 ID:M3l9gFzjo
魔女「ひゃっ……君たち大丈夫!?」
盗賊1・2「」
仮面「おい、しっかりしろ!!」
魔女「気絶してるだけみたいだけど……」
竜人「なんて馬鹿力だ……戦士さんに勝らずとも劣らずですね」
団長「他愛もない。あとは3人か」ブンッ
竜人「!」
仮面「うおっ!!」
竜人(このままじゃ防戦一方だ。ここで時間をとられるわけには……っ)
団長「終わりだっ!!」
――――――――――――――――――――――――――
560 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:15:00.16 ID:M3l9gFzjo
竜人「…………っ!」ブンッ
仮面「お前なにしてんだ!!?頭沸いてんのか!」
団長「なにっ!? 剣を投げ……っ!?…………が」
団長「避けられぬとでも、思ったのか!!」
ズブッ!!
竜人「ぐっ……っげほ……」ガクッ
魔女「竜人!!」
団長「…………。……!?」グッ
竜人「……死んでもこの槍、離しませんよ。仮面さん!今のうちに!」
団長「貴様……!まさかそのために……!」
仮面「うおおおおおおっ!!」
団長「ぐああぁ!!この……賊めが……!!!」
――――――――――――――――――――――――――
561 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:17:20.76 ID:M3l9gFzjo
団長「……っ」グラッ
団長「……ならん!!」グッ
仮面「しぶてぇ野郎だな……!!」
団長「この程度の傷で……俺は倒れん……ここは通さん!!!」
団長「槍がなくとも、この身ひとつで事足りる!!」
仮面「こちとらもたもたしてる時間なんてねーんだよ、……!?」
団長「……?」
盗賊1・2「「おりゃああああああああああああああああ!!」」スパッ
団長「貴様ら……!?」
団長「しかし虫けらが一匹だろうが三匹になろうが、変わ……」
団長「か……k……!?」ガクッ
団長「n……に……を……」
――――――――――――――――――――――――――
562 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:18:29.81 ID:M3l9gFzjo
盗賊1「痺れて動けねぇだろ?象でも動けない痺れ毒だ」
盗賊2「竜には効かないみてぇだけどな」
団長「…………!!」
盗賊2「魔法がだめなら物理で状態異常だ」
盗賊1「騎士団団長撃破!!」
仮面「お前ら……たまには役に立つじゃねぇか!さすが俺の子分だぜ!」
魔女「大丈夫?無茶しないでよ、もう」
竜人「ええ……」
仮面「おい、死んでねえか竜男!」
竜人「……平気ですよ。竜族は生命力強いので、これくらいなら……いてて」
魔女「あたし治癒魔法あんまり得意じゃなくって……ほんと応急処置くらいしかできないんだけど」
竜人「十分です。さあ、いつ追手が来るとも限りません。行きましょう……」
仮面「……次がいよいよ最下層だな」
――――――――――――――――――――――――――
563 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:19:19.94 ID:M3l9gFzjo
地下7階
仮面「オラァー!てめぇら助けに来てやったぜ、跪いて感謝しろ!!」
神官「ひえ!?」
戦士「仮面!?盗賊も……竜人と魔女も!?お前ら、どうして」
竜人「助けに来ました……って、何故二人だけ……?」
神官「さっき騎士団長さんと副団長さんが来て、勇者様は最下層の地下牢に移されてしまいました。
街で暴動が起きているから、用心のために特別な牢に入れると……」
魔女「えー」
竜人「地下7階が最下層では……?」
仮面「おかしいな……ここより下なんてなかったはずだが」
盗賊1「解錠ならまかせてくだせえ」カチャカチャ
盗賊2「ピッキングなら誰にも負けねえ」カチャカチャ
戦士「助かった。心から礼を言う」
神官「ありがとうございます……!」
魔女「よっし。で、勇者の牢にはどうやって行けばいいの?」
戦士「この通路の奥に連れていかれていた。行ってみよう」
――――――――――――――――――――――――――
564 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:20:31.49 ID:M3l9gFzjo
仮面「あぁ!?行き止まりじゃねぇかよ」
戦士「一体どこに階段が……」
盗賊1「ここまで一本道だってえのに、どこに消えちまったんだ?」
魔女「どーなってんの??」
竜人「…………」
神官「竜人さん?」
竜人「……そこの床だけ、音の反響が違います……恐らく空洞になっているのではないかと」
仮面「よく分かったな。全然違いを感じねえよ」
魔女「でも取っ手なんかないし、床を壊せそうもないし、万事きゅーすだね」
神官「うーん、きっとどこかに仕掛けがあるんじゃないでしょうか……」キョロキョロ
戦士「目に留まるのは燭台くらいか……。む」
戦士「ほかの燭台は埃で汚れていたり錆びているのに、この燭台だけ妙に新しいな」
神官「あ、ちょっと待って……」
盗賊2「お、右に回せる」ガチャ
ガコン
盗賊2「ぎゃあああああああああああああああ」ヒュー
神官「落とし穴!わ、罠です!」
戦士「うおおおおおおおおおおおお」ガシッ
盗賊2「はあ……はあ……死ぬかと思った……」
――――――――――――――――――――――――――
565 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:21:29.54 ID:M3l9gFzjo
神官「さ、さすが最下層への扉ですね。意地悪なトラップです。
……目立たないですけど、この壁の石だけダミーでずらせるのをさっき発見して……」
神官「多分この窪みに手の平を合わせれば、階段が出没するのかと思います」
盗賊2「先に言ってくれねぇか」
神官「ごめんなさい! えっと……じゃあやってみますね。一応気を付けてください」
神官「……えいっ」
ゴゴゴゴ……
神官「あ、開いた!」
戦士「暗いな……用心して行こう」
竜人「……私は夜目がきくので、先導しましょう」
魔女「どきどきするね」
――――――――――――――――――――――――――
566 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:24:08.10 ID:M3l9gFzjo
勇者「………………はぁ」
勇者「俺、なにやってんだろ……、ん?」
キサマラ ナゼココニ
ウギャアアアア アベシッ
勇者「……なんだ?」
神官「勇者様!大丈夫ですか!?」
勇者「え……!?お前ら……!」
魔女「勇者!完全に姫ポジションの勇者!助けに来たぜっ!」
勇者「情けなくて泣きたくなるから姫ポジションとか言わないで!自覚してるから!」
仮面「この檻……なんだ?扉も鍵も何もねぇ。どうやってお前、この牢に入れられたんだ?」
竜人「なんだか変な感じがします。ただの金属でできていないのかも……いたたッ」バチッ
勇者「それ以上近づくな。この牢は特別製らしくてな、魔法で結界が張ってあるんだ」
勇者「術者が解錠するか、死亡するかしないと俺は出られない」
神官「術者って、宮廷の魔術師のことですよね……ええええ、どうしましょう」
竜人「斬り続けたら結界が壊れたりは……」
仮面「しねぇな。実体がないものはいくらなんでも斬れねえよ」
――――――――――――――――――――――――――
567 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:30:21.69 ID:M3l9gFzjo
魔女「竜人が竜に変身してブレスかましてみれば?」
竜人「こんな地下で竜に戻ったら全員生き埋めです……もう少しここが広かったらよかったんですけど」
仮面「んだよ、せっかくこんな地下深くまで来たってのに!!」
勇者「……みんな、本当にありがとな」
勇者「でももういい。俺は牢に残る。すぐに騎士たちが来るだろうし、早くここから逃げるんだ」
神官「なに言ってるんですか、このままじゃ処刑されちゃいますよ!」
竜人「諦めないでください。何か手はあるはずです」
勇者「情けないけど、お前らに全部頼んだ。俺のことは気にせず、認定書をまた取りにいってくれ。
国王は俺の処刑まで王都に目を配るだろうから、その隙にこの国を脱出しろ!」
魔女「馬鹿言わないでよ。君が死んだら魔王様泣いちゃうよ」
勇者「ここで全員捕まったら魔族はどうなる?……俺のことは本当に気にするな」
勇者「魔王によろしくな」
竜人「……」
勇者「それから、仮面。お前の事情も知らずに、いろいろ巻き込んでごめん。無礼を承知で、恥も忍んで言うけど」
勇者「どうか、みんなを……魔族を、俺の仲間を頼みます」
仮面「……なんで急に畏まった言葉なんて使ってんだよ」
――――――――――――――――――――――――――
568 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:31:02.74 ID:M3l9gFzjo
勇者「だってお前、」
勇者「この国の王位継承者だろ?」
――――――――――――――――――――――――――
569 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:31:32.60 ID:M3l9gFzjo
仮面「……………………」
仮面「………………は?」
勇者「! おい、後ろだ!!」
仮面「くっ!?」バッ
カランッ……カランカラン……
騎士「動くな!!」
射手「頭をカチ割るつもりだったのに。割れたのはその変な仮面だけか」
神官「もう追手が……!」
竜人「え?」
魔女「……君、それ……」
勇者「…………お、前」
勇者「その顔の傷跡、なんだよ?」
仮面「なんで俺なんかを王子と勘違いしたのか知らねえが、的外れだぜ」
仮面「俺は王子じゃない」
勇者「はあああああ!?!?」
――――――――――――――――――――――――――
570 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:36:37.05 ID:M3l9gFzjo
勇者「左目の泣きぼくろは!?」
仮面「見ての通りそんなもんねぇ」
勇者「首の傷は!?いつも巻いてる布、傷跡を隠すためだろ!?」
仮面「ちげーよ。ただ不格好な痣があるから隠してるだけだ」
勇者「だっ……お前……ふざけんなよ!!!紛らわしいんだよ!!!」
仮面「勝手にてめぇが勘違いしたんだろうが!!」
騎士「ごちゃごちゃと騒ぐな!全員でかかれーっ!」
「「「うおおおぉぉ!!」」」
神官「もうだめです!これ以上ここにいられません!」
戦士「ぬ……!!勇者ぁ!!!」
勇者「なんだ!」
戦士「お前の剣があれば、その牢も断ち切れるのではないか!?」
勇者「え!? でも、剣は宮殿に保管されてるはずだ。取りに行く時間なんて」
戦士「できるのか、できないのか、どっちだ!!!」
勇者「…………ッ」
勇者「……ああ、できる!やってやるさ!!!」
戦士「そうか!ならば待っていろ!!すぐに持ってきてやる!!」
――――――――――――――――――――――――――
571 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:39:07.64 ID:M3l9gFzjo
戦士「よし!!地上まで駆け抜けるぞ!!」
仮面「武器のないオッサンと神官は下がってろよ。俺たちが切り開く!」
戦士「いや、俺が先を行く。竜人、剣を貸してくれ」
竜人「……どうぞ」
戦士「俺にまかせろ。行くぞ、仮面!盗賊!魔女!!」
盗賊1「おお!!」
盗賊2「邪魔だああああどけぇぇぇ!!」
魔女「あたしも出来る限りサポートするよ!」
神官「勇者様、待ってて下さい!!必ず戻ります!!」
勇者「ああ……悪いな。気をつけろよ!」
――――――――――――――――――――――――――
572 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:39:47.45 ID:M3l9gFzjo
宮殿
国王「まだ牢に侵入した人間と魔族は捕えられていないのか?」
大臣「はい……騎士団が健闘しているのですが、まだ報告はありません」
国王「まさか魔族が、私の国にな……なめられたものだ」
国王「必ず捕えろ。殺しても構わん。しかし問題は魔族のことだけではない……」
大臣「はあ……暴動が、鎮圧しても鎮圧しても次から次へと起きてまして……
明日の朝には宮殿の前に詰め掛けかねない勢いです」
国王「……何故わからん。私こそ国民のことを第一に考えているというのに。
やはり群衆は愚かだ。理性ではなく感情や情緒で判断する生き物だ」
大臣「殿下、もう夜も更けます……。そろそろ休まれては」
国王「……」
――――――――――――――――――――――――――
573 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:40:57.49 ID:M3l9gFzjo
草陰
竜人「」
魔女「はーっ はーっ しんどいまじしんどい」
仮面「全員生きてるか……儲けもんだな」
盗賊1「体中いてえ」
竜人「」
盗賊2「ってちょっと!!竜の旦那がしゃべってねぇ!!生きてますか旦那ぁぁ!!」
竜人「ぎ、ぎりぎり……少し体力を消耗しすぎました……ぜえはあ」
神官「うう、すいません……杖があればすぐ治療できるんですけど。
竜人さんだけじゃなくて皆さんも傷だらけですし……ごめんなさい私役立たずで!生きる価値のないゴミクズで!」
魔女「ちょっとここで休もうよ……」
――――――――――――――――――――――――――
574 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:43:24.89 ID:M3l9gFzjo
戦士「……やはりお前は王子ではなかったか」
仮面「勇者も言ってたけど、とんでもねぇ勘違いしてくれるな。んなわけねーだろ」
盗賊1「兄貴の素顔初めて見たぜ!男前だ!」
魔女「でもイケメン王子って感じじゃあないかな」
仮面「うっせ」
神官「あの……首の痣って?」
仮面「あぁ、……まあいいか。これだよ」
盗賊2「な、なんですかい?それ。手の形がくっきり残ってら」
竜人「まるで誰かに、首を絞められたみたいな痣ですね」
仮面「その通りだよ。母親に首を絞められた時の痣が、何故かずっと消えねえんだ」
――――――――――――――――――――――――――
575 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:45:17.77 ID:M3l9gFzjo
神官「その顔の傷も、首の痣も、あなたは一体……」
仮面「聞いておもしろい話でもねぇけどな。まあ、息を整える間に与太話として聞くか?」
仮面「実はな、俺は貴族の息子として生まれたんだ」
盗賊1「はえっ!?」
盗賊2「えええ!?兄貴が!?」
魔女「じょ、冗談としか思えないなぁ」
仮面「そんなに驚かなくてもいいだろーが。今はこんなんでも昔はお坊ちゃんだったんだよ!」
仮面「……よくあるだろ?貴族の世継ぎ問題。俺の母親は後妻でな、前妻と父親の間には俺と同じくらいの息子がいたんだ。
俺の兄だな。前妻は俺が生まれる随分前に亡くなった」
仮面「ま、それなりに兄とも仲が良かったんだけどな。そこで親父が逝っちまった。
そうなると俺と兄でどっちが後を継ぐかで周りの大人がやいのやいのとうるせぇ」
仮面「人一倍俺に跡を継がせたがってたのが俺の母親だ。
俺は社交も勉強も着飾るのもあんまり好きじゃなかったし、兄の方が出来が良かったから
普通に兄に継いでほしかったんだがなあ……」
仮面「で、その母親の頑張りが報われたのか跡継ぎは俺に決まった。
だがやっぱり兄の方が適任だと思ってたんでな、その意思を母親に素直に告げたらこのザマだ」
神官「母親が実の子どもを、跡を継がないからって殺そうとするなんておかしいですよ!そんなの……」
仮面「今思うと俺の母親も貴族として生きてくにゃあ、ちょっとばかしメンタルが弱かったな。
自分の立場と俺の立場を考えて、ノイローゼ気味になってたんだろ」
仮面「くっだらねえ世界だ、貴族も社交界ってやつも。どいつもこいつもにこにこ笑いながら腹の内では自分の評判と外聞のことだけ考えてる」
仮面「だから俺は家と国をでて、盗賊界のトップに立つことにした!!」
――――――――――――――――――――――――――
576 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:46:57.57 ID:M3l9gFzjo
仮面「世界中の埃被ってる宝物を、欲すがままに盗み去る!それが俺の正義だ!!どうだ、恐れ入ったか!!」
盗賊1「まじっすか……」
盗賊2「兄貴にそんな過去があったなんて……」
神官「な、なんかすいません……詮索するような真似をしてしまって」
仮面「おいおい、湿気た面すんなよ。なんか語っちまって恥ずかしいな」
仮面「そろそろ体力が回復したか?宮殿への侵入口を探しにいかねぇとな」
竜人「人間もいろいろ大変なんですね……」
戦士「勘違いしていて悪かったな。仮面の言う通り、そろそろ動くか」
コソコソ……
戦士「俺たちが脱獄したことは既にもう知れ渡っているだろう。
あれだけ派手に出てきたんだからな」
神官「でも、まさか宮殿に侵入しようとしてるとは思ってないんじゃないですか?」
魔女「見当違いのところ捜してくれてればいいけど」
盗賊1「兄貴、宮殿の見取り図とか知らねえんで?」
仮面「さすがに知らねえよ。宝物庫には興味あったけどな」
竜人「じき、夜が明けます。できれば暗いうちに剣を入手したいのですが……」
――――――――――――――――――――――――――
577 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:48:21.34 ID:M3l9gFzjo
竜人「あ。そういえば……この耳飾り、仮面さんのですか?雪の国で見つけたんですけど」
仮面「なんでお前がそれを持ってんだ!?」
竜人「あああぁ……。自分の頭の残念さが悔やまれます」
竜人「金髪で首元を隠してて、やけに羽振りのいい男って、あなたですか……」
仮面「羽振り……ああ。お前らと別れた後、ちょっと……な、いいもん拾ってな」
戦士「どうせ盗んだんだろう」
仮面「盗んだと書いて拾ったと読むんだよ」
神官「めちゃくちゃな」
魔女「でも君、耳飾りなんてつけてなかったよねー」
仮面「別に……値打ちがありそうなもんだったから、いつか売ろうと思ってただけだ」
魔女「ふーん……」
竜人(しかし、仮面さんが王子じゃないとすると、本物の王子は一体どこに……)
竜人(確か勇者様の処刑は――今から60時間後の正午12時)
竜人(それまでに、見つけられるのでしょうか……)
――――――――――――――――――――――――――
578 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:49:06.13 ID:M3l9gFzjo
魔王城
魔王「今日は曇りか。雨が降り出さないといいが」テクテク
子エルフ「あ、魔王様だ。おはようございまーす」
キマイラ「おやおや、今日は早起きですね」
魔王「もう一人は?」
子エルフ「今日は風邪で休み!魔王様、一緒に勉強する?」
魔王「いや、今日は……」
魔王「ん……?」
鳥「ピィーッ」バサバサ
魔王「なんだ?……竜人からか」
魔王「…………!」
子エルフ「魔王様?どうしたの?」
キマイラ「顔色が悪いようですが……?」
魔王「…………いや、なんでもない」
魔王「急用ができたので城に戻る」
子エルフ「あっ……行っちゃった。魔王様どうしたのかな、先生」
キマイラ「様子がおかしかったですね……」
――――――――――――――――――――――――――
579 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:50:49.04 ID:M3l9gFzjo
魔王「処刑……勇者くんたちが」
魔王「…………」
魔王「…………」
魔王「助けに、行かないと」
魔王「1日……いや、半日で完成させてみせる」
魔王「……待ってて。すぐに行く」
――――――――――――――――――――――――――
580 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:52:23.89 ID:M3l9gFzjo
宮殿
騎士「そっちには!?」
騎士「いや、いない」
バタバタバタ…
戦士「……行ったか」
神官「仮面さんが無駄に部屋の宝を物色してるから姿見られちゃったじゃないですか……」
仮面「あまりに見事なダイヤのネックレスだったからな」
魔女「同感」
竜人「二人とももっと緊張感を持って臨んで頂けますかね!?」
仮面「けが人なんだから大声でツッコミ入れんなよ。うるせえし」
竜人「自分でも己の立ち位置が忌々しいですよ……!」
盗賊1「しかし宝物庫ってどこにあるんですかねい」
魔女「じゃあ聞いてみよっか」
神官「え?」
――――――――――――――――――――――――――
581 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:53:11.59 ID:M3l9gFzjo
兵士「宝物庫は……西と東にそびえる双塔の……東の方……」
魔女「そっ、鍵はかかってないの?鍵はどこ?」
兵士「わ……わからん……」
魔女「オーケー、もういいよ」
兵士「」ガクッ
魔女「魔女ちゃんお得意の自白呪文でした!」
仮面「便利なもんだな、オイ」
戦士「東の塔、あれか……。しかし鍵は一体どこに?」
竜人「心当たりがない以上、虱潰しでいくしかないですね……」
神官「仕方ない、ですよね。頑張りましょう!」
数時間後
兵士「てやぁー!」ブン
戦士「しつこいぞ!!」
神官「あっ、あっちの角からも援軍が来ます!!」
仮面「埒があかねぇ!やっぱ逃げるぞ!」
魔女「この部屋、入れるよ」ガチャ
――――――――――――――――――――――――――
582 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:54:35.85 ID:M3l9gFzjo
戦士「……気づかず通り過ぎたな……
しかし、敵の数の多さと我々の体力の消耗がネックだ」
盗賊1「昨日からずっと寝ずに戦い続けでへとへとですぜ」
盗賊2「鍵も全然ないし」
仮面「少しここで休憩するか。このままずっと動き続けてたら逆に効率が悪ぃ」
魔女「ねえ、あんた本当に大丈夫なの?顔色悪いよ」
竜人「お荷物にはなりませんよ」
神官「いくら竜族だと言っても、流石に無理しすぎです」
神官「ここ、倉庫みたいですし、包帯か何かありませんかね……」ゴソゴソ
魔女「仮面君の言う通り休もう。……あたしも疲れちゃったよ」
魔女「…………なんか、目閉じたら……急に眠気が……」
盗賊1「扉の鍵……閉めてねえ……うーん」
??「……ん……」
??「……み……さ……!」
魔女「なによぉー……うるっさいなぁ……」
??「起きてください、みなさん。大丈夫ですか!?」
魔女「うーん……?」
――――――――――――――――――――――――――
584 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:56:45.95 ID:M3l9gFzjo
魔女「わ!?」ガバッ
姫「きゃ!?」
魔女「え……お姫様?」
姫「大丈夫ですか?ケガはない?驚いたわ……扉を開けたらみなさん座りこんでるんですもの」
仮面「……うおおぉぉ!?!?」ガバ
騎士「ギャー!なにするんですか!!僕です、僕!!姫様お付きの騎士ですよ!!」
仮面「あーびっくりした。思わず首に剣突き付けちまった」スチャ
姫「皆さん、無事でよかった!神官と戦士も」
神官「姫様もご無事でなによりです。でもどうしてここが?」
姫「私も部屋に閉じ込められてたのですが、彼が部屋から出してくれて。
戦士と神官が脱獄して、勇者がまだ囚われていると盗み聴いたとき、
あなたたちは絶対勇者を助けるために、宝物庫の勇者の剣を取りにくると思ったの」
姫「で、宝物庫の鍵をこっそり取ってきて、私もあなたたちを探してたのだけど、
何の気なしに倉庫を覗いたらみんな死んだように眠ってて……
ていうか死んでるのかと思ったわ。卒倒しそうになったわよ、もう」
――――――――――――――――――――――――――
585 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 22:59:25.14 ID:M3l9gFzjo
竜人「しまった、私たちいつの間にか眠ってしまったみたいですね。
窓の外がもう暗い。ざっと2時間経過したところでしょうか……」
魔女「でも、お姫様とすれ違いにならなくてよかったじゃん!結果オーライ!」
盗賊1「体も軽いっす!腹は減ってるけど!」
騎士「だと思って、わずかばかりですが厨房から食料も持ってきました。パンや水ばかりですけど、よければ」
仮面「うお!気がきくなぁ!」
姫「それから、怪我してる方もいるだろうと思って、いろいろ医療室からかっぱら……拝借してきましたわ。
とりあえず竜人さん、あなたのお腹の傷診せて下さい。出来る限り治療して見せます」
竜人「……助かります」
姫「これから宝物庫に?」
竜人「ええ」
姫「気を付けてくださいね。私も鍵をとった直後に、こっそり宝物庫に侵入しようと思ったのですけど、
多くの魔術師が塔への道に集合して何かやってて、見つからずには通れなかったの」
騎士「何か仕掛けてるのかも」
仮面「かもっていうか、ぜってえ仕掛けてんだろ」モグモグ
魔女「だるいねー」モグモグ
戦士「しかし、行くしかなかろう……俺と神官の武器もそこにあることだし」
――――――――――――――――――――――――――
586 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/16(水) 23:00:49.40 ID:M3l9gFzjo
姫「……はい。とりあえずですけど、傷の手当てはこれで終わりです。
造血剤の効き目はどうです?」
竜人「ありがとうございます。大分楽になりました」
盗賊1「顔色も少し戻ってきてるみてぇですね」
姫「魔族の方にも効き目があってよかった……。でも無理は禁物ですわ。
私も専門の知識を持っているわけではないので、応急処置の域をでませんもの」
竜人「本当に助かりました。ここでへばるわけにはいきませんからね」
竜人「姫様が来てくれてよかったです」
姫「そ……そう言って頂けると……そっそんなの当然ですわ!感謝してくださいまし!!嬉しくなんてありません!!」
騎士「姫様、キャラがブレブレです」
魔女「そんなイチャイチャしてると、宝物庫で死亡フラグ回収~なんて事態になってもしらないよ~」
竜人「誰と誰がイチャイチャしたって言うんです。さて、じゃあ準備を整えたら宝物庫に向かいますか」
仮面「面倒なことにならなきゃいいがな……」
――――――――――――――――――――――――――
596 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:27:22.76 ID:7+gijod6o
魔王城
魔王「…………よし!できたっ」
魔王「私の魔力を分断してここに留める魔術。
これで結界を私から独立して張り続けることができるから、王都に私も勇者くんたちを助けに行ける……」
魔王「さて、問題はどれくらいの魔力を私から切り離すか、だ」
魔王「…………私が無事帰ってこれるとしたら、残しておく魔力は数日結界を張るくらいの量でいいわけだが」
魔王「…………」
魔王「そういうわけには、いかないだろうな」
魔王「一応……1年分……いや3年分くらいの魔力をここに残しておいた方がいいかな」
魔王「すると私の身に残る魔力は半分のそのまた半分以下くらいになってしまう……けど、
無駄な消費を避ければ十分戦えるだろう」
魔王「よし、魔術発動」
パアァァァ……
魔王「……う……なんか変な感じだな。一気に魔力が減ったせいで、めまいが」
――――――――――――――――――――――――――
597 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:28:08.44 ID:7+gijod6o
魔王「……処刑まであと40時間弱か。急がなければ」バサッ
バサバサバサ…
窓の下
子エルフ「……」ヒョコ
子エルフ「魔王様、今日元気なかったからおやすみって言いに来たんだけど」
子エルフ「処刑って??だれがだろ……」
子エルフ「魔王様、どっかに飛んで行っちゃった。先生に知らせた方がいいかな……」
――――――――――――――――――――――――――
598 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:28:38.53 ID:7+gijod6o
王都
神官「あれが宝物庫のある塔です。あそこに行くには、この橋を渡るしかありません」
竜人「暗くて足元が見えにくいですね。気をつけないと」
魔女「結構大きい橋だねー。さっさと渡っちゃおうか」
戦士「しかし……姫様たちと別れてから、橋の前に来るまで、全く騎士や魔術師に遭遇しなかったな。
不気味なほど静まり返っていた」
仮面「ラッキーだったじゃねぇか」
戦士「ただの幸運で済ませられればいいがな」
神官「姫様が言っていたことも気になりますね。見たところこの辺りに人はいないと思いますが……」
仮面「いないならいないでいいっつの。さっさと行こうぜ」
――――――――――――――――――――――――――
599 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:29:21.23 ID:7+gijod6o
魔術師X「……来ましたよ、魔術師長」
魔術師長「来たわね。うふふふ」
魔術師Y「発動させますか」
魔術師長「まぁだ。まだだめよ。もっと橋の中央に来てから……うふふふふ。楽しみね」
魔術師長「私とあなたが一緒に研究したこの魔術。早く発動させたいわぁ。ねえ?召喚師長サン」
召喚師長「うまく発動すればいいけどね。これだけの魔術師、召喚師を動員して発動させる魔術なんて、初めてだよ」
召喚師W「尽力しますよ、僕たちも」
魔術師長「さあ、そろそろね。みんな、配置について」
召喚師長「……普段でかい顔している騎士団を見返してやろうじゃないか」
魔術師長「うふふ、あいつらって真正面から剣を振り回すしか脳がないんだから、野蛮よねぇ」
召喚師長「戦い方などいくらでもあるというのに。相手の弱点を探り、その弱点をさらけ出すしかない状況を作り出す」
魔術師長「それから罠にかけて追い詰めて、じわじわ弱らせていくのよ。うふふふふふ。楽しみ」
召喚師長「それじゃあ、やろうか。みんな集中してくれ」
――――――――――――――――――――――――――
600 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:30:23.87 ID:7+gijod6o
魔女「……ん……?」
神官「…………あれ……なんか……竜人さんか魔女さん、いま魔法使いましたか?」
竜人「いえ?」
魔女「気をつけて……なんか来るかも」
仮面「なんか、ってなんだよ。もっと具体的に――あ!?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
不死鳥「ここは……通さぬ!!」
盗賊1「!? ほ、炎がしゃしゃしゃべ……!?なんだこりゃ!!」
盗賊2「め、めちゃくちゃでけぇぇ!!ま、魔物っ!?」
魔女「いやあんな魔族知らないんだけど」
神官「これは……幻獣です!
宮廷の召喚師が作り出す魔法生物……でも、人の言葉を話すほどの知能をもった幻獣だなんて」
神官「しかもこんな大きな生物、初めて見ました。恐らく魔力も攻撃力もケタ違いのはずです!気をつけてください!」
戦士「やはり仕組まれていたか……戦うより宝物庫まで突っ切った方が速い!駆け抜けるぞ!!」
不死鳥「させぬ!!」
ゴオオオォォォォオォッ!