601 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:42:26.36 ID:7+gijod6o
魔女「ちょ……橋、燃え尽きちゃったんですけど」
仮面「なんつー火力だよ!!こりゃあやべえんじゃねえか!?」
魔術師長「うふふふ、焦ってるわ。焦ってる。でもまだまだこれからよ」
召喚師長「成功か……知能のある幻獣を召喚できたのも、全て君たち魔術師の協力のおかげだ」
魔術師長「私たちもいい研究データが得られてメリットばかりよ。例には及ばないわ」
――――――――――――――――――――――――――
602 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:43:12.72 ID:7+gijod6o
召喚師長「さて、次は彼らの退路を断つように伝えてある」
魔術師長「進むことも戻ることもできなくなって逃げ場がない状況で、あの不死鳥が橋をも溶かす炎を吹いたらどうなるかしら」
召喚師長「大人しく燃えてくれるのもおもしろいけど……」
魔術師長「いやね。そんなの興ざめだわ。――きっと彼らは、空に逃げるはずよ」
召喚師長「本当にあの中に竜族の生き残りが?」
魔術師長「そのはずよぉ?私は参加してないけれど、以前兵士たちとともに魔王城を襲撃したときに、
王国軍と戦ったのはたった3人の魔族……魔王に魔女、竜と聞いてるわ」
魔術師長「その魔女の姿を見た者が騎士の中で何人もいるわ。なら竜の方もこっちに来てるって考えるのが妥当でしょ?」
召喚師長「へえ……にしてもまさか本当に魔族が勇者を助けにね……」
魔術師長「私自身は勇者に恨みも何もないし、むしろ好感を持っていたのだけどね。あなたもでしょ?」
召喚師長「まあ、ね。でも……仕事だからね」
魔術師長「しょうがないわよねぇ」
――――――――――――――――――――――――――
603 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:43:41.39 ID:7+gijod6o
バサッバサッ
魔術師Z「……竜だ!本物の……」
召喚師S「すごい……データとらなきゃ」
魔術師長「ほらほらぁ、ね。言った通り。竜がみんなを背に乗せて逃げるはず、あたったわ」
召喚師長「不死鳥と大きさは互角か。思ったより大きい竜だな」
魔術師長「うふふ、でもあの竜、手負いなのよねぇ。あの暑苦しい騎士団団長と交戦したときの傷……まだ治ってないはずよ」
召喚師長「彼らはここから逃げて一旦体勢を立て直そうとするだろう。でも逃がしはしない。
追ってくれ、不死鳥。絶対にここから逃がすな。あの竜を空中にとどめるんだ」
不死鳥「了解した……」
魔術師長「うふふ、全部計算通りね。空中戦をできるのはあの竜と、箒にのって飛べる魔女だけ……あとの5人はただの人間。
でも彼らが仲間だって言うなら、飛ぶことのできない人間を背に乗せて空に留まるしかない」
召喚師長「既に橋はほぼ壊されて、地上であの不死鳥の炎から逃れる術はないからね」
魔術師長「彼は手負いでいつまで飛べるのかしら?いつまで不死鳥の攻撃をかわせるかしら?」
召喚師長「せっかくなら賭けるかい? ははは…」
魔術師長「遠慮しておくわ……あなた強いんだもの」
――――――――――――――――――――――――――
604 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:44:19.80 ID:7+gijod6o
不死鳥「いつまで逃げるのだ? 我が炎を受けてみよ!」
竜「…………ッ」
魔女「はあ、ぎりぎりで箒召喚できてよかった……けど、どうすんの!?こいつ!弱点とかないわけ?」
神官「弱点……炎を纏った鳥……や、焼き鳥……?」
戦士「しっかりしろぉぉ神官!!焦るのは分かるが冷静になって考えてくれ!!」
仮面「おいおい、こんな怪獣相手にするなんて聞いてねーぜ!剣で攻撃しようにも、近づいただけで全身燃えちまう!!」
盗賊1「絶体絶命のピンチ……って、わああ!?竜の旦那、ち、血が……」
盗賊2「大丈夫なんですかい旦那!!」
竜「……」コクン
魔女「危ない!来るよ!!」
ゴオォォォォォッ!!
――――――――――――――――――――――――――
605 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:45:31.03 ID:7+gijod6o
魔女「沈黙呪文!!麻痺呪文!!」
不死鳥「ふん…」
魔女「混乱呪文!!」
不死鳥「無駄だ…………む!? ぐぐ……」
神官「!!効いた!?」
不死鳥「……一瞬囚われてしまったが、もって数秒。どの道無駄だ、逃しはしない!」
魔女「ちっ 混乱だけ効くみたいだけど、ほんの少しの間だけみたい。
竜人……あんたそろそろ限界なんじゃないの?大丈夫!?」
竜「……」ギロッ
仮面「やせ我慢してんじゃねーよ、うざってぇなあ。お前らと一緒にこのまま燃えカスなんて、俺ぁごめんだぜ」
神官「ちょっと、そういう言い方はないんじゃないですかっ!」
戦士「よせ、……なにかほかに言いたいことがあるのだろう?仮面」
仮面「……魔女、またあの焼き鳥野郎に呪文をかけろ」
魔女「数秒しか効き目ないけど、いいの?」
神官「魔女さん、前!!」
ゴオォォォォォォッ!!
ゴオォォォォォッ!!
――――――――――――――――――――――――――
606 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:46:33.91 ID:7+gijod6o
戦士「魔女!!!」
盗賊1・2「姉貴ぃぃぃぃ!?」
魔女「ここ! 間一髪、転移魔法で避けたから平気……じゃない!!」
魔女「っぎゃー!あたしのローブの裾燃えたああああああぁっ!!」
戦士「竜人も、翼が……」
仮面「魔女、ローブぐらいでぎゃあぎゃあ騒いでないで、早くしろ!」
魔女「っるさいな、やってやるわよ!!こんのぉぉぉっ、本物の魔族なめんじゃないわよ!!混乱呪文!!!」
不死鳥「む……っ」フラフラ
仮面「よし!」ヒュッ スタッ
神官「仮面さん!? な、えっ!?地上に降りたら……!」
仮面「俺があいつをなんとか引き留める。あいつが混乱している間にさっさと宝物庫に行け!!」
戦士「お前……とことん素直じゃないな」
仮面「へっ、まあな。でも長くはもたねえだろうから、俺が燃やされる前に早く勇者の剣と武器とって戻ってきてくれよ」
盗賊1「兄貴!俺たちも手伝いやすぜ!!」スタッ
盗賊2「もちのロンでさぁ!!」スタッ
魔女「本気?どうやってその剣で……」
仮面「うるせー!!やろうと思えば人間……いや、生物はなんだってできんだよ!!早く行けっ」
魔女「ありがとね! 行こう竜人!!今の内に!」
神官「必ず勇者様の剣を取り戻してきます!!仮面さん……あの、さっきはすいませんでした!」
――――――――――――――――――――――――――
607 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:47:42.84 ID:7+gijod6o
不死鳥「……む?竜と女……!!宝物庫には行かせぬぞ!!待て!!」
仮面「待つのはテメーだ、焼き鳥野郎。おーいこっちこっち」
仮面「(おい、お前ら。ありったけの罵詈雑言であの鳥を挑発しろ)」
盗賊1・2「(? 了解っす!)」
盗賊1「やーいやーい焼き鳥野郎!味付けは塩か?たれか?」
盗賊2「そんなチンケな炎で俺たちに勝てると思ってんのかぁ?俺たちゃ天下の大盗賊団だぜ!!」
仮面「てめぇみたいな鳥なんか、飽きるほど相手してきたってんだ。遊んでやるからかかってこいよ、チキン野郎」
不死鳥「貴様ら……我を愚弄するのもいい加減にしろ……」
不死鳥「骨さえ燃やしつくしてくれるわ!!」
ゴオォォォォォォ
召喚師長「うわ、まさか人間3人を囮にするなんて。読みが誤ったな」
魔術師長「不死鳥サン、そっちの人間じゃなくて宝物庫に向かってる竜と魔女を追ってちょうだい!」
不死鳥「ちょこまかと逃げおって!!さっさと燃え尽きてしまえ!!!」ゴオオ
魔術師長「ちょ……聞いてる?」
召喚師長「おーーい!そっちじゃなくって!!あっち追って、あっちーー!!」
不死鳥「死ねぇぇえぇええええ」ゴオオ ゴオオ
召喚師長「……知能つけない方がよかったかな……」
魔術師長「かもねぇ」
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608 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:49:59.34 ID:7+gijod6o
ガチャガチャ
神官「あ、開きました!」
戦士「武器がごちゃごちゃしていて分かりにくいな。2階まであるぞ」
神官「! 私の杖!よかった……竜人さん、いま治癒魔法かけますから!魔女さんは怪我ありませんか?」
魔女「あたしはローブが焦げただけだから大丈夫」
神官「……はい、終わりです。大丈夫ですか?」
竜人「すごい……あっという間ですね。聞いてことのない言語の呪文でしたが、あれは?」
神官「あれは古代の言葉ですよ。神への祈りの言葉です。
私たちが使う魔術はあなたたちとは根本的に違うんですよ。私たちが使う魔法は全て『神の奇跡』ですから」
竜人「神……」
神官「神様の偉大なる力を祈りによってお借りしてるに過ぎません。私自身は何の力もないんです」
竜人「神は実在していると考えているんですか?」
神官「え?」
竜人「いえ、神官なのですからそうに決まってますよね……すいません。なんでもないです。私たちも勇者様の剣を探し……」
戦士「見つけたぞ!勇者の剣だ!!」
魔女「戦士の大剣もここにあったよー。ほい」
――――――――――――――――――――――――――
609 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:50:40.43 ID:7+gijod6o
神官「よかった!これで勇者様を牢から救えます!」
戦士「それより前に仮面たちのことが気になるな。早く行こう。竜人、もう平気なのか?」
竜人「ええ。今ならあの不死鳥とも空中戦をやり合えますよ。さあ、では……」
カシャンッ!
魔女「わ、ごめん。なんかひっかけて落としちゃった。割れてるし」
竜人「国宝割るとか、恐ろしいことしますね」
魔女「やばいかな。なにこれ……『忘れじの鏡』?」
神官「……変ですね。これ、偽物じゃないですか?本物だったら落としただけで割れませんよ」
神官「忘却呪文を一切跳ねのけるっていう鏡です。古くからここに保管されてると聞きますが……」
竜人「………………ん?」
魔女「………………忘却呪文を?」
――――――――――――――――――――――――――
610 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:52:00.26 ID:7+gijod6o
竜人「…………え。ちょっと待ってください。…………」
魔女「………………ここにあるのが偽物だとしたら、本物は誰かが持ち去ったってことだよね…………」
戦士「どうかしたか?二人とも」
神官「この鏡がなにか?」
竜人「……」
魔女「……」
竜人「……」
魔女「……」
竜人「…………イエ、ナニモ……」
魔女「…………ハ、ハヤク、カメンクンタチ ノ トコロニ……イカナイト……ネ」
戦士「お、おい。どうした本当に。汗がすごいぞ」
――――――――――――――――――――――――――
611 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 02:52:37.93 ID:7+gijod6o
神官「…………」
神官「ほかにやるべきことが見つかったんじゃないですか?」ニコッ
魔女「でも……」
神官「勇者様のこと、それから仮面さんたちのこと、私たちにまかせてください。ね、戦士さん」
戦士「よく分からんが、お前たちがほかにやるべきことがあるというのならそちらを優先してほしい」
竜人「しかし……空を飛べる私や、混乱呪文を使える魔女を抜かしてどうやってあの鳥に……」
魔女「みんなを見捨ててあたしたちだけ助かろうなんて、できないよ……。
魔族のあたしたちと一緒に戦ってくれた、大事な人たちだもん」
神官「大事な人たちじゃないです」
魔女「えっ」
神官「私たち、仲間です!」
戦士「仲間に必要不可欠なのはお互いを信頼する気持ちだ。俺たちを信じろ、魔女、竜人」
神官「そうです。私、勇者様と戦士さんと旅してひとつだけ学んだことがあります……
『やけくそで思いきってやってみたら、案外なんでもできる』ってことですよ。あはは。私たちのパーティらしい」
戦士「それで全部乗りきってきたんだ、俺たちは。 行け、二人とも。あとはまかせろ」
神官「私もお二人のこと、信じてますから。神のご加護があらんことをお祈りしています!」
魔女「……ありがと!絶対王子連れてくるからね!!」
竜人「信じてますから、絶対後でまた会いましょう。仮面さんたちにもよろしくお伝えください」
竜人「転移魔法!」
シュンッ
――――――――――――――――――――――――――
614 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:00:36.23 ID:7+gijod6o
神官「……行きましたね」
戦士「俺たちも、仮面たちのもとに。橋は溶けてしまったが、なんとかして向こうへ行こう」
神官「はい。よいしょっと」
戦士「……神官、それは『神殺しの大弓』では?」
神官「ええ、そうですよ。一応遠距離攻撃用の持っていった方がいいかと思いまして」
戦士(神職が神殺しって……)
神官「ふふ。私の神学校時代のあだ名、知ってますか? CHの鬼ですよ」
戦士「CH……まさか!?」
神官「そう、私のクリティカルヒット率は95%です。攻撃力は弱いですけどね」
戦士「俺より高いだと!?」
神官「…………ふふっ」
神官「昔の血が騒ぎますよおおおおおおおおおおおおおっっ!!行きますよ、戦士さん!!!!!!!!」
戦士「お…おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!??」
――――――――――――――――――――――――――
615 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:04:07.87 ID:7+gijod6o
魔王城
竜人「うかつでした……盲点でした。いえ、言い訳なんてできません。もっと早く気づいていれば!!アホか自分は!!」
魔女「すぐに魔王様にあの魔術を使ってもらおう。この、彼……でいいんだよね?からもらった顔パックを使って、王子の居所を教えてもらわないと」
竜人「……魔王様! 魔王様?おや……城にはいないみたいですね。魔王様がやるより時間がかかってしまいますが、自分たちでその魔術を発動させましょうか」
魔女「急がないといけないもんね」
竜人「……ふう……なんとかうまくいった」
魔女「ええと?彼は雪の国と星の国の中間地点くらいにいるみたい……ていうか移動中?」
竜人「今は午前4時……処刑まで約32時間ってところですか。
今日は私も魔女も転移魔法を使ってしまいましたし……飛んでいくしかなさそうですね」
魔女「えーと。太陽、雪、星の三国って上から見ると、それぞれ三角形の頂点になってて
国同士は、あたしたちが飛んでいくと10時間くらいかかるよね?」
竜人「馬で走ると倍以上かかりますけどね。ええ、10時間」
魔女「じゃ、その王子がいまいるところに一直線に行けば、7、8時間くらいでいけるからー。
往復16時間くらいで帰ってこれる。よっしゃ、余裕だね!」
竜人「いや……まず、星の国、王子の場所、雪の国という順番で行きましょう」
魔女「はっ!?なんで!?」
竜人「なんでもなにも、忘れましたか?神官さんと戦士さんが言ってたでしょう。認定書が燃やされてしまったんですよ。
もう勇者様たちも私たちも助かるには、王子に今日か明日、王位を継承してもらわないといけません。
彼には突然の話で悪いと思ってますけどね」
魔女「あ、そっか。そうだよね、もうあっちの王様、今回のことでカンカンだろうし。勇者たちもずっと危ないし」
――――――――――――――――――――――――――
616 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:05:06.27 ID:7+gijod6o
竜人「星の国まで10時間。認定書をもらって、王子を見つけて、雪の国まで10時間。そこでまた認定書をもらって、太陽の国に帰ってくるまで10時間」
魔女「合わせて30時間かー……ギリギリ処刑には間に合うね」
竜人「ええ」
コンコン
竜人「ん?来客ですね。どなたでしょう」
キマイラ「すいません、失礼します。竜人様も魔女様もお戻りになられてたんですね」
子エルフ「大変だよ!聞いて聞いて!」
魔女「大変て、なにが?」
――――――――――――――――――――――――――
617 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:05:56.51 ID:7+gijod6o
竜人「え!?魔王様が王都に!?でも……結界は張られたままですよね?この結界は術者が結界内にいないと発動しないはずですが……?」
子エルフ「ほんとだよ、バサバサって飛んでったの見たよ!」
魔女「……魔王様の部屋と、結界の魔法陣がある部屋、見てきた。自分の魔力を切り取って、独立して結界を発動させてるみたい」
竜人「そんなことが……!?」
魔女「しかも、結構な量の魔力がここに残ってたよ。結界が何年も張れるくらいの膨大さ。
魔王様に残ってる魔力は微々たるものだと思う」
キマイラ「……魔王様……それなら我々のことを気にせず、結界を解いてくださってよかったのに」
グリフォン「本当にね」
子エルフ「グリフォンさんいたの……」
竜人「そんな僅かな魔力で王都なんて行ったら、魔王様といえど危険ですよ!まさか……。……いや、なんでもありません」
魔女「…………ッ!!」
竜人「魔女!どこに行くつもりです」
魔女「どこって……決まってんじゃん!王都に魔王様を連れ戻しに行くの!」
――――――――――――――――――――――――――
618 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:09:30.35 ID:7+gijod6o
竜人「…………………王都に行ってる時間はありません。星の国の都の方向とは大分違いますから」
魔女「王子を連れてくるのも、どっちか一人がやれば十分じゃないの?」
竜人「空を飛んで移動するんですよ。ということは、どう頑張っても人の目に止まります。
なにがあるか分かりません。一人より二人の方が確実でしょう」
魔女「……じゃあ!竜人は魔王様を見捨てるって言うの!?絶対あの子死ぬ気じゃん!
そんなの絶対許さない!竜人がなんと言おうと、あたし魔王様を止めてくるから!!」
竜人「魔女、」
魔女「魔王様がいない世界でなんて、生きのびても意味ないもん!!そんなの絶対絶対だめ!!!」
竜人「……」
パチンッ……
魔女「……」
キマイラ「……子エルフくん、ちょっと外で一緒に遊ぼうか」
子エルフ「お、おねえちゃ……」
キマイラ「さあさあ」
――――――――――――――――――――――――――
619 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:10:15.86 ID:7+gijod6o
竜人「少し落ち着け。神官さんと戦士さんと約束したこと、忘れたのか?
魔王様が心配なのは私だって……この村の魔族みんながそうです。あなただけじゃない」
魔女「……」
竜人「魔王様だって何も考えずに王都に向かった訳じゃないはずです。もう、子どもじゃないんですから。
彼女が考え抜いて思い悩んで、その結果の行動のはずです」
魔女「……」
竜人「それをあなたがふいにする気ですか?私たちには私たちのやるべきことがある。
それを為すことが、いま、魔王様のためにできる唯一のことですよ」
魔女「…………」
バキィィィィィッ!!!
竜人「がはっ!!」ガシャーン
魔女「いっったいなぁぁ……なにすんの?お返しだよ」
竜人「いや、全然威力ちが……!!」
――――――――――――――――――――――――――
620 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:11:33.99 ID:7+gijod6o
魔女「あんたのさぁ!!そーいういい子ぶったところ大っきらい!!あとそのまどろっこしい喋り方!?なんなのそれ!?普通に喋れよ!!」
竜人「……はい?じゃあ私も言わせてもらいますけどね!!みすぼらしい体のくせに露出度の高い衣服選ぶのやめてもらえますか!?」
竜人「それにあなたが何でもかんでも面倒事を私に押し付けるから、私がそういうブレーキ役に甘んじてたんですよ!!あなたがしっかりしてくれればですね……!」
魔女「はあ!?責任転嫁やめてくれます?つーかみすぼらしい体ってなによ!!!この猫かぶりドラゴンが!!」
竜人「だれが猫かぶっているんです、だれが!!言ってみろゴラ!!」
魔女「やっぱかぶってんじゃん!」
魚人「……えーなにこれ?」
グリフォン「かくかくしかじか」
魚人「ほー。グリフォンさんバケツ2個貸して」
――――――――――――――――――――――――――
621 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:15:52.38 ID:7+gijod6o
魔女「このエセ紳士!!世話焼きオカン男!!」
竜人「黙れ馬鹿魔女!!いい加減にしろ!!」
バッシャアアアアアアアアアアアアアア
魔女「……」ポタポタ
竜人「……」ポタポタ
魚人「……目、覚めたかい?」
魔女「…………うん」
竜人「…………すいません」
魚人「仲間割れしてる状況じゃないって、二人とも分かってんだよなぁ?ん?」
魔女「…………ふー。ごめん。……王子、探しに行かないと……だよね」
竜人「魔王様のことは、もういいんですか」
魔女「ちょっと頭に血が上ってた。そう、だよね。あたしはあたしのやるべきことを……しないとね」
竜人「……多分、魔女が言いださなければ私が言いだしてましたよ。頬叩いてすいませんでした」
魔女「あたしも、顔ぶん殴って鼻血出させたし、おあいこだよ。気にしないで」
竜人「……。……………ええ、そうですね」
――――――――――――――――――――――――――
622 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:16:19.31 ID:7+gijod6o
魔女「魔王様、きっと大丈夫だよね。だって、魔王様なんだから」
竜人「ええ。私たちのかわいくて強い一番の王様ですから」
――――――――――――――――――――――――――
623 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:16:49.99 ID:7+gijod6o
王都 入り口
兵士I「勇者が処刑なんて、世も末だよなあ」
兵士H「だよなあ。つーかさっき、噂で、魔族が国に侵入してるって聞いたけど」
兵士I「なんだそりゃ。朝から酔っ払っちまってんじゃねーの?」
兵士H「騎士様の言うことは分からんわ。ハッハッハ」
兵士I「……ん?なんだあれ……鳥?」
兵士H「でけえなあ。鷹かなにかか?ここらじゃ珍しいな」
兵士I「どんどん近付いて……あ、あれ?ありゃ人じゃねえのか?」
兵士H「ま、まさか。人って背中に翼が生えてんのか?いるとすりゃ、そりゃ魔族だよ、魔族」
兵士I「だよなあ。魔族だよなあ」
スタッ
魔王「…………」
兵士I「…………魔族だああああああああああああああああ!!魔族が来たぞおおおおおお!!」
兵士H「橋を上げろおおおおおおおおお!!門を閉ざせえええええええええええええ!!!!!大至急だあああ!!!」
――――――――――――――――――――――――――
624 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:17:59.57 ID:7+gijod6o
ギイィィィィィ…
兵士長「魔族!?本当にか!?」
兵士I「はい!!確かに見ました!!」
兵士長「すぐに将軍をお連れしろ!!お前は宮殿に報告を。橋は上げたな!?門は!?」
兵士J「いま完全に閉ざしました!!」
兵士長「第一隊は暇そうな魔術師・兵士・射手を片っ端から連れて来い!!
それ以外は城壁から投石機と大砲と弓で魔族を迎え撃つぞ!!」
兵士長「よし!!ってえーーーい!!」
ビュンビュンビュンッ!!
魔王「……土の防壁」
ズドドドドドドッ
兵士長「なっ……あ、あの魔族……もしやあのとき、海で巨大なイカの怪物を作り出した奴か?」
魔王「―――……―――」
魔術師「何か呪文を口にしています!気をつけて」
――――――――――――――――――――――――――
625 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/20(日) 03:19:01.89 ID:7+gijod6o
魔王「――…。」
―――カッッ!!
兵士長「…………」
兵士I「……門が……一瞬で、木っ端みじんに」
兵士G「こ、こんな魔法……食らったら、ひとたまりも……」
兵士長「信じられん……やはり化け物か。くそ!!なんとしてもここは守りきれ!!奴を王都に入れるな!!!」
魔王「化け物ではない。魔王だ。さっきの魔法は人にあてるつもりはないので安心しろ」
兵士長「…………フッ。そりゃあ有り難い。魔王が……王都になんの用だ?」
魔王「勇者たちを助けに」
兵士長「は?」
魔王「彼らを……解放しろ!」
処刑宣告から2日目、午前6時
勇者処刑まで、残り30時間。
――――――――――――――――――――――――――
634 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:08:19.73 ID:ikyh7zHDo
宮殿
「勇者処刑をとりやめろー!!」「国王がでてくるまでここから退かんぞ!」
騎士「こら!いい加減にしろ!!立ち去れ!!」
「いてっ!なんだよ、暴力で解決か!?」 「私たちはただ抗議しに来ただけよ!」
「処刑を取りやめなさい!」 「魔族のことも、王様の言うことは信じないことに決めたぞ!」
国王「……まだ宮殿前の民衆は片付かないのか。うるさくて敵わん」
大臣「申し訳ありません……。何分彼らも武器を持っているわけでもなく、ただ主張しているだけなので、
騎士たちに武力制圧させることもできず……」
大臣「しかもその数は刻一刻と増えてきております。王都各所の暴動も収まるところを知らず、いやはや……」
国王「………………愚かな民衆め」
騎士「国王様!大臣様!失礼します……緊急事態です!!」
国王「どうした。脱獄した戦士・神官、そして国に侵入した二人の魔族は捕えられたのか?」
騎士「い、いえ。それが……!!」
騎士「魔王が!魔王が王都の中央門に現れたとの連絡が警備兵より入りました!」
国王「なに……!?」ガタ
――――――――――――――――――――――――――
635 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:09:24.81 ID:ikyh7zHDo
大臣「それは確かなのですか!?」
騎士「はい。今も城壁で魔王と兵士たちが交戦中です。しかし、こちらの戦力不足は否めません。
奴は一瞬で王都を閉ざす大門を吹き飛ばしたとか……」
騎士「『勇者たちを解放すれば、王都に侵入することもなく立ち去る』と主張しているそうなのですが」
国王「…………」
国王「……フッ……おもしろい。勇者らを助けに来たというのか。魔族が」
大臣「どうなさるおつもりですか、殿下」
国王「戦える者を全て中央門へ。魔術師長と召喚師長にも伝えろ。絶対に王都への侵入を許すでないぞ」
騎士「では……魔王の主張は」
国王「飲むわけがなかろう。むしろ魔王が一人で我が領地に赴いたのを好機とも捉えられる。
奴が落ちれば残りの魔族を制圧するのも容易かろう。……随分勇者に執着しているようだしな」
国王「今の時点ではこちらが有利だ。さあ、行け」
騎士「ハッ!」
――――――――――――――――――――――――――
636 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:10:25.58 ID:ikyh7zHDo
バッサバッサバッサ…
不死鳥「どこだ……どこに逃げた……」
仮面「あ゛ーーーもう、なんでお前ら竜と魔女をどっかにやっちゃったんだよ!!
あいつらなしでどうやってあれから逃げるって言うんだよ!!」
盗賊1「今俺たちが隠れている岩陰も、いつか見つかっちまいやすぜ」
盗賊2「死ぬ……まじで死ぬ……」
神官「うう……もう薬草も魔力も残り少ない……」
戦士「この状況、どうやって打破したものか……」
仮面「……ん!?」
神官「あれ? 不死鳥、方向転換してどっか行っちゃいました……?」
盗賊1「どういうことだ?」
盗賊2「もう俺たちを探すのを諦めたってのか?」
仮面「……なんにせよ、御の字だな。勇者の剣は手に入れたし、ひとまずどっかで少し休息していこうぜ」
戦士「全員ボロボロだしな。よく生き残ったものだ……」
――――――――――――――――――――――――――
637 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:11:09.10 ID:ikyh7zHDo
ドーーーン……!
ズドーーン!
女主人「ハッ!騎士も兵士も鈍い奴ばっかさね!重たい鎧なんか着てるからさ!
次は騎士駐屯地に殴りこみに行こうか」
冒険者「やりますね姉さん!!俺も久々に血沸き肉躍るぜーー!!」
司書「しかし……なんだかおかしくないですか?さっきから全然我々を追ってきませんよ。
なんかあわただしい様子ですし、もしかして何かあったのかも」
本屋「そういやあ、さっき中央門の方で大きな音が聞こえたのお。
てっきり同胞の仕業かと思ったが、それにしちゃ規模が大きかったのが気になったのでな」
女主人「んー、確かに中央門の方向に向かってるね。こりゃ本当になんかあったのか……?」
――――――――――――――――――――――――――
638 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:13:15.35 ID:ikyh7zHDo
中央門
将軍「……久しぶりだな、魔王」
魔王「で、勇者たちを解放するのかしないのか、どちらなんだ。
言っておくが、私はそれなりに強いぞ。人間たちを傷つけるのは本望ではないが」
魔王「もし私の出した条件を呑まなければ、建物や道路は甚大な被害を伴うだろうな。経済的被害は尋常じゃないぞ」
将軍「脅しのつもりか?…………答えは、ノーだ。我々は貴様に屈しない。ここで討つ!!王国軍の名にかけて!」
魔王「……」
将軍「魔術師長、召喚師長、どうだ?」
魔術師長「ええ。整ったわ」
召喚師長「いやーやっぱり知能無い方が扱いやすいよね。じゃあみんな、行くよ。陣について」
魔王「……!」
不死鳥「ピィィィィィィィィッ……」バッサバッサ
将軍「兵士隊は指揮に従って大砲で、射手隊はおのおの石弓で、遠距離攻撃で援護しろ」
将軍「相手は魔王だ!!油断するな!!しかし怯みもするな!!国王軍の意地を見せてやれ!!」
「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」
――――――――――――――――――――――――――
639 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:14:33.60 ID:ikyh7zHDo
魔王「炎を纏った鳥……いや、鳥の形をした炎? 魔族ではないな」
不死鳥「スゥ……」
魔王「! 氷水魔法」
ゴオォォオォォッ!
魔王「……結構分厚い氷柱を立てたつもりだったんだがな。一瞬で水蒸気にさせられるとは」
ヒュウゥゥゥウ…
魔王「おっと、土の壁! ……飛んでくる砲撃と矢と、あの鳥を一緒に相手するのは骨が折れるな……」
魔王「さて……どうしようか」フラッ
――――――――――――――――――――――――――
640 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:15:42.17 ID:ikyh7zHDo
将軍「……」
魔術師長「なんか、変ね。魔王って海戦のときに、すごい大魔法連発してたのよね?」
将軍「ああ」
召喚師長「不死鳥の炎を相殺したり、大砲を防いだり……魔法の質はかなり高い。詠唱時間も短いし。
でも、正直言って聞いてたほどじゃあないね」
魔術師長「それによく見てれば足元がたまにフラついてるし、顔色も悪いわ」
将軍「様子が変なのは俺も気づいている。しかしそれがなんだというのだ?」
魔術師長「別に?ただチャンスねって言いたかっただけよ。あなたはどう問われてると思ったのかしら?」
将軍「婉曲な言葉を俺は好まんぞ」
召喚師長「はいはい。これだから戦士とか剣士って……」
――――――――――――――――――――――――――
641 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:17:00.54 ID:ikyh7zHDo
魔王(私が出した脅しという名の交換条件を跳ねのけられた今、勇者くんたちを助けるには牢獄に直接手助けに行くしかない)
魔王(さっさと王都に侵入したいんだけど……空を飛んで無理やり城壁を越えてしまおうか?)
魔王(いや、牢獄がどこにあるのかも分からないし、それなら思う存分戦える広いスペースのあるここで始末をつけた方がいいか)
魔王(とりあえず……あの鳥をどうにかしたい)
不死鳥「ピィィィィィィイイイイ!」ゴォォォ
魔王「『氷の矢』、『氷の刃』……はあ、全て奴の体に触れただけで蒸発してしまうか。なんて温度だ」
魔王(……仕方ない、あの術で動きを止めよう。詠唱時間が長いし魔力消費も大きいからあまり使いたくなかったんだが)
魔王「とりあえず分身を2体作り出して……本体の私は隠れよう」
――――――――――――――――――――――――――
642 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:20:43.73 ID:ikyh7zHDo
魔王(詠唱をしている間……分身がどうにかばれずに、かつ消されずにすめば御の字だ)
魔王「―――……―――…――――――」
ゴオォォォッ ドーーンッ!! ズドッズドッ…!
魔王「―――…………―――……!」
魔王「…―――…――――――」
不死鳥「ギイイイイイイイィィィ!!!」スウッ
ゴオォッ!!
魔王「っ!……――――――……。詠唱完了っ…」
魔王「地に伏せろ!重力魔法!!」
不死鳥「ギ……ッ」
ゴシャアァッ!!
不死鳥「ピ……ギ……ッ」ミシミシ
召喚師長「あああああ!僕の不死鳥がっ!!」
魔術師長「重力を操作して不死鳥を地に縫い付けたの……!?まさかそんな魔法まであったなんて」
魔術師長「うふふふふ……おもしろいわね!でもその子、ただの火の鳥じゃなくってよ?うふふふ」
将軍「相変わらず気味の悪い女だ。おい!!魔王が消耗している間に畳みかけろ!!」
兵士「はいっ!!」
召喚師長「気を付けた方がいいよ?将軍。畳みかけようとしているのはあちらも同じかもね」
将軍「なんだと?」
――――――――――――――――――――――――――
643 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:22:06.81 ID:ikyh7zHDo
兵士「砲弾装填かんりょ……」スパッ
兵士「へっ!?」
ビュオォォォォオッ
兵士長「将軍!!ぜ……全大砲、今の風によって破壊されました!!」
将軍「全て、だと? クソッ……」
魔術師長「風魔法ね。でも不思議……いまの風、私たちを傷つけることもできたはずなのに、どうして大砲だけ?」
将軍「フン。目測を誤っただけだろう!
射手はそのまま遠距離攻撃を!兵士はそれぞれの武器を持て!突撃の準備をしろ!!」
将軍「俺が……先陣を切る。橋を下ろせ」
魔王「はあっ……はあっ……はあっ……げほげほ」
魔王「あとはこの鳥を……重力魔法の効果を上げて、圧死させる」
不死鳥「ギギ……ギ……!!」メキメキメキメキ
バキッ!!
魔王「はあ…はあ……」
魔王「は……?」
――――――――――――――――――――――――――
644 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:24:44.13 ID:ikyh7zHDo
召喚師長「不死鳥って、何故不死なのか知ってるかい?その身が朽ちたとき、炎に包まれて、その灰から新たに生まれ変わるのさ」
パキパキ……パキ……
魔王「それは……厄介だ」
魔王「だけどやりようがないわけじゃない。土の壁をつくって、それでこいつを密閉してしまえば……」ズドドドッ
魔王「炎は空気がなければ燃え続けることはできない。さっきの完全体になる前に閉じ込めれば、不死鳥もさしたる脅威ではない」
召喚師長「……ほう」
魔術師長「確かに」
将軍「納得しとらんで、お前らも俺たちの援護をしろ!まだ魔力は残っておるな!?」
将軍「よし、今だ!!奴の首を国に捧げるのだ!!勝負の女神は我らに微笑んでいる!!行くぞ!!」ドドドド
兵士「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
魔術師長「うふふふふ。効くか分からないけど、捕縛魔術もう少しで発動できるわよ」
召喚師長「大型幻獣10体召喚完了!行け!」
魔王「…………チッ」
――――――――――――――――――――――――――
645 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:26:45.90 ID:ikyh7zHDo
将軍「なんだ……!?この霧は……これも魔王の魔法なのか!?」
兵士長「前が見えないほどの霧ですね。これでは……」
将軍「くそ!!奴を逃すな!!まだ近くにいるはずだ!!探せ、なんとしても!!」
兵士「どわ!?」ブンッ
兵士「ば、ばか!!俺だよ俺!味方だ!!」
魔術師長「あなたの召喚した幻獣で、匂いで追えないの?」
召喚師長「探らせてるのですが、だめだね。匂いも消してる。あなたの方は?」
魔術師長「対象が視認できないと発動できないのよ、私たちの魔法って。これは一本とられたわね」
――――――――――――――――――――――――――
646 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:27:32.64 ID:ikyh7zHDo
射手「霧が……晴れましたね」
兵士「いない……」
将軍「くそ!!!奴は王都に侵入した可能性がある!!血眼になってでも探し出せ!!
俺は騎士団に話をつけてくる」
将軍「魔術師長。お前の魔術で王都内にいる魔王の居場所は割り出せんのか?」
魔術師長「さすがに疲れちゃったわ。でも、ほら……魔王城の在り処をつきとめたあの預言者なら可能なんじゃないかしら」
将軍「最近音沙汰を聞かないが、まあいい。合わせて尋ねてくる」
魔術師長「がんばってね」
――――――――――――――――――――――――――
647 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:30:25.07 ID:ikyh7zHDo
騎士団副団長「将軍殿!」
騎士団団長「魔王はどうであった?こちらは一応住民の避難は……全員に呼びかけた」
団長「素直に従わない連中も多かったが。そういう奴らは大体宮殿前に集まっている……
散らそうと奮闘しているのだが、なかなかままならん。武器で脅す訳にもいかぬのでな」
将軍「そうか。俺たちは……魔王を逃した。恐らく王都に侵入していると思われる」
副団長「なんですって!?」
将軍「すまない。俺たちは魔王を探し出す。騎士団も余力があれば協力してくれ。
それから、宮殿にいる預言者様のことは知っているか?」
団長「確かいまは病床に臥せられているが……魔王の居場所を占ってもらうか?俺が話をつけにいこう。
現場の指示は副団長にまかせるぞ」
副団長「はい」
将軍「助かる。では」
――――――――――――――――――――――――――
648 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:31:49.48 ID:ikyh7zHDo
路地裏
魔王「あー……はあ……はあ…」ズッ ズッ
魔王「疲…れた」ドサッ
魔王「ここまで来るのにも魔法をかなり使ってしまった。火傷した足も治したいが……
勇者くんたちを脱獄させるために魔力を残しておかないと……」
魔王「……いまは……ええと、もうすぐ正午か。随分戦ってたんだな」
魔王(処刑まで時間はある。焦らずにここは傷をいやそう。どこかの空き家に入って薬を頂戴しようかな。
はしたないとどこかの竜に怒られそうだが、緊急事態だし仕方ないのだ、うん)
魔王(仮面や竜人、魔女たちはどこだろう……合流したいが、無理そうか)
魔王(とりあえず傷の手当てをして……体力と魔力の回復を待とう。それから牢獄の位置を探りだして……ええと)
魔王(疲労で頭が回らない……)
――――――――――――――――――――――――――
649 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:32:31.13 ID:ikyh7zHDo
午後3時
預言者「申し訳ありません……なにぶん高齢のため、体調が常に万全というわけにもいかないのです」
団長「いえ。こちらこそお身体の調子が悪いときに無理を言ってすいません」
預言者「やっと、視えました。魔王は、王都南東区。民家のひとつに留まっているようです」
団長「南東区……分かりました。ありがとうございます。ご協力感謝いたします」
団長「南東区……か」
団長「すぐに兵団、騎士団ともに知らせねば」
――――――――――――――――――――――――――
650 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:33:46.57 ID:ikyh7zHDo
午後4時30分
宮殿前
わーーーーわーーーーー
わーーーーーわーーーーー
国王「魔王を仕留めることも、追い払うこともできず、あまつさえ王都への侵入を許してしまうとは
我が国の兵士はなにをやっているのだ?騎士団といい兵団といい、魔術師団といい……」
大臣「宮殿前に集まっている民衆の数も、まだ増え続けてます。
魔王が侵入したから避難するように言っているのですが、全く聞く耳持たずでして」
大臣「むしろ勇者とともに魔王を応援するような輩もちらほら……」
国王「…………」
国王「愚民め」
国王「一人だと自分で考えることもしない……
そんな人間たちがただ単に騒ぎに浮かれて、心地のいい言葉に便乗して、それが自分の意志だと思いこんでいるだけのこと」
国王「そのような愚かな国民たちを導くのが王たる役目よ」
大臣「では、どうなさるおつもりですか?」
――――――――――――――――――――――――――
651 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:34:55.91 ID:ikyh7zHDo
国王「いま宮殿の前にいる民衆は、ただ誰かが唱えた力強い言葉に引きずられているだけだ。
ならば、正気に戻してやればいい。より大きな、より正しい何かを見せつけてやればいい」
国王「……こんなことを言うと、私が悪役のようだな。フッ……」
大臣「殿下……?」
国王「……」
国王「勇者の処刑を、予定より18時間早める」
国王「明日の正午に執り行う予定だったが、変更だ。今日の18時、今から1時間と四半刻後に」
国王「宮殿に集まっている民衆の前で。彼らが信じる偶像を処刑してみせよう」
国王「神の加護など、彼には備わっていないことを……本当に信じるべきなのは誰なのかということを」
国王「盲目で無知たる民たちに見せてあげよう」
大臣「……では準備を」
国王「ああ、頼む」
――――――――――――――――――――――――――
652 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:35:52.98 ID:ikyh7zHDo
午後5時
魔王「……ようやく牢獄の場所が分かったな。そこらを騎士と兵士がうろちょろしているから煩わしいことこの上ない。
しかし無駄な魔力を消費するわけにも……いかないし」
魔王「傷の手当てはできたが……魔力はほとんどまだ空だ。でも、何もできないわけじゃない。うまくやれば、どうにか」
将軍「……!!!(魔王……!!)」
兵士「しょ、将軍……!」
将軍「待て……焦るな。まだ奴はこちらに気づいていない」
魔王「……ん…?」
子ども「ふえぇぇぇ……ママぁぁ……みんな どこ行っちゃったの……」
――――――――――――――――――――――――――
653 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:37:35.17 ID:ikyh7zHDo
兵士「あ!子どもが……避難し忘れたのでしょうか。魔王があんな近くにいますよ!助けないと!!」
将軍「…………奴は……なにをしているんだ?」
兵士「え?」
魔王「……ええと、大丈夫か?」
子ども「だれ……?」
魔王「立てるか?あっちに騎士がいるから、保護してもらえばいい」
子ども「さっき足くじいて……いたくて立てない……ぐす」
魔王「けがをしていたのか。見せてみろ。……これでもう痛くない?」
子ども「うん。もう痛くない!すごいね……神官様なの?神官様って君みたいな子どもでもなれるの?」
魔王「こ、子ども……いや、私は神官ではないが」
母親「ああ!!こんなところに!!よかった……!」
子ども「ママ!」
――――――――――――――――――――――――――
654 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:38:18.99 ID:ikyh7zHDo
母親「あなたは娘のお友達かしら?とにかく、一緒にここから避難しましょう。
魔王が王都に入ってきているらしいの。騎士様たちに保護してもらっ……あら?」
魔王「いや……私は、ええと……」
母親「あなた……その目と……耳……ま、魔王……なの?」
子ども「違うよ、神官様だよ。わたしの足、治してくれたもん!」
母親「え……!?本当なの?」
魔王「私は、人を傷つけるつもりはない。勇者くんたちを助けに来たんだ」
母親「処刑されるっていう……あの……?」
魔王「! 騎士がこちらにもうすぐ来る。私はこれで」タッ
母親「あ、あの!!娘を助けて頂いて……本当にありがとうございました!」
子ども「ありがとう、神官様ー!」
魔王「……」
――――――――――――――――――――――――――
655 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:38:53.96 ID:ikyh7zHDo
タッタッタッタ……タ
将軍「待て、魔王」
魔王「! ……く……」
将軍「杖を下ろせ。我らも剣を抜いておらんだろう」
魔王「なんのつもりだ?」
将軍「聞きたいことがある。さきほどのあれは、どういうことだ?」
魔王「……見ていたのか」
魔王「君たちが初めて魔王城に来たときからずっと言っている。
私たちは人間に敵意も持ってないし、ただそっとしておいてくれれば何も望まないと」
魔王「いや、むしろ、手を取り合って共存関係を築けたらとさえ思っている」
将軍「まさか……魔族が本当にそんなことを思っているというのか。それを信じろというのか。
……と、数時間前の俺なら言っていただろうな」
将軍「俺の信条は『己の目で見るまでは何も信じない』。つまり言いかえれば、見たものは信じるということだ。
いま俺は人の子の傷を癒す貴様の姿を見た。それは俺にとって何にも勝る情報だ」
魔王「……?」
――――――――――――――――――――――――――
656 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:40:19.96 ID:ikyh7zHDo
騎士「いたぞ!!魔王だ!!!」
騎士「将軍殿もいる。囲めー!!!」
将軍「……この通りを右に曲がり、大通りを北にずっと進め。宮殿につく」
将軍「勇者の処刑が早まった。処刑は午後6時、いまから1時間後だ」
魔王「なに!?処刑は明日の正午だって……!」
将軍「だから早まったと言っただろう。早く行け。勇者を助けに来たのだろう。ここは俺が受け持つ」
兵士「わー……将軍まじっすか……」
将軍「お前らはどうする?己が信じる道を行け。俺の敵になろうとなるまいと、好きにするがいい」
兵士「じゃあ、味方で」チャキ
騎士「なっ、将軍殿!!どういうおつもりですか!!?」
将軍「ここを通りたくば俺を倒してから行け!!!」
魔王「……あ……ありがとう」
将軍「礼には及ばん」
――――――――――――――――――――――――――
657 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:40:55.32 ID:ikyh7zHDo
午後5時30分
牢獄 地下7階
仮面「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!やっとここまで辿りついたあああああああああああ」
神官「なんか以前より警備が薄いですね?いや助かりますけど」
戦士「行くぞ!!最下層!!」
バターン
盗賊1「勇者の旦那あああああああああああっ!!」
盗賊2「お待たせしやしたあああああああああああ」
神官「勇者さ…………まッ!?」
戦士「い、いない……?」
仮面「どういうこったぁ……?」
――――――――――――――――――――――――――
658 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 03:42:00.40 ID:ikyh7zHDo
午後5時45分
勇者「…………」
勇者「夕日がきれいだな」
処刑人「最後の夕日です。とくとご覧ください」
勇者「そうだな」
勇者「……俺は死ぬなら、魔物にバッサリ切られて死ぬか、旅の途中に谷に落っこちて死ぬかだと思ってた」
勇者「まさか処刑されるとはな。ハハ……笑ってくれていいぜ」
処刑人「…………自分もまさか勇者様の首をギロチンにかける日が来るとは思っておりませんでした」
勇者「ギロチンで処刑してくれる部分がまだ良心的か?」
処刑人「…………そろそろ時間です。断頭台へ」
勇者「……。ああ」
――――――――――――――――――――――――――
669 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:30:34.73 ID:ikyh7zHDo
午後6時
――――――――――――――――――――――――――
670 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:31:33.26 ID:ikyh7zHDo
ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ
「勇者様!」 「処刑をやめろー!」 「本当にここで……?」
「王様ー!」 「なにがどうなってるんだ」 「ちょっとおさないでよ!」
国王「……これより勇者の処刑を行う」
国王「彼の罪状は、魔の者と共謀し、我が国を滅ぼそうとしたこと。すなわち国民に対する裏切り行為である」
国王「この者の罪が、いま死によって贖われようとしておる。みな心して見よ」
勇者「…………」
国王「最後の言葉として言いたいことはあるか?反逆者よ」
勇者「ああ……あるね」
勇者「俺がいなくなったって、俺みたいに考える奴はどんどん出てくるぞ。
あんたは俺を処刑することで俺の考え自体をこの国からなくしたいんだろうが、無駄だ」
勇者「人ってのはそんなに単純な生き物じゃない。ただ誰かの意見を聞くだけじゃなく
自分で考えて、時には以前の間違いも認めて、迷いながらも答えをだすことができるんだ」
勇者「国民全ての意志とか信じるものを掌握して操作するなんて、いくら国王のあんたでも無理だよ」
勇者「なあみんな!!俺が死んだら……あとは頼むぞ!!!」
ざわざわざわ……
――――――――――――――――――――――――――
671 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:33:27.79 ID:ikyh7zHDo
国王「引かれ者の小唄か……」
処刑人「勇者様、こちらに……お首を」
勇者「よいしょっと」
処刑人「では、綱を切りますよ。……一瞬で刃が下まで落ちます。痛みを感じる暇もないはずですから」
勇者「……ああ」
――――――――――――――――――――――――――
672 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:36:24.33 ID:ikyh7zHDo
勇者(…………終わりか)
勇者(……あんなに偉そうなことを言っておいて、俺はなにもできなかったな)
勇者(魔族を守るとか……いろいろ。出鱈目言っちまって悪かった)
勇者(魔王に雪を見せるって、雪の国に連れてってやるっていう約束も、破ることになるな)
勇者(…………)
勇者(………………ごめんな)
処刑人「では、切ります……」
――ブチッ!!
勇者(……ごめん)
――――――――――――――――――――――――――
673 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:40:01.24 ID:ikyh7zHDo
「きゃああああああああああ!!」 「うわ……っ!!」 「勇者あああ!!」
ヒュッ……!
勇者「……」スッ
魔王「やめろっ!!」
――ガシャァァァァァァァァァァァァァン!!
――――――――――――――――――――――――――
674 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:41:15.96 ID:ikyh7zHDo
国王「なに……!?」
国王「まさか……貴様が、魔王か!?」
処刑人「ギ、ギロチンの刃が粉々に!?」
「なんだなんだ!? なにが起こった!?」
「ギロチンが大破してる……勇者様のお力!?これが神のご加護?」
「いや違うぞ!女の子の声が聞こえたんだ!どこだ!?」
勇者「……お、俺の首……まだある……!?え!?」
勇者「つーかさっきの声って、まさか…………」
勇者「お前…………」
勇者「魔王!!」
魔王「遅くなってごめん。助けに来たぞ、勇者くん」
勇者「どうしてここに!?」
――――――――――――――――――――――――――
675 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:42:23.57 ID:ikyh7zHDo
魔王「……はあ……、うっ」ドサッ
勇者「魔王!」
魔王「大丈夫だ……」
騎士「ま、魔王だ!!すぐにここから出て避難してください!さあ早く!」
男「魔王だって……あ、あれが?でも……」
騎士「早くしてください!一刻を争うのですよ!!」
女「あの子が……本当に?」チラ
魔王「……」
母親「待って下さい!!」
騎士「ちょ、ちょっと奥さん……危ないですから!」
母親「その子、確かに魔王だって言ってましたけど、さっき私の娘の傷を治してくれたんですよ!!
わ……悪い人じゃないと思うんです!!」
魔王「さっきの……」
――――――――――――――――――――――――――
676 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:46:35.22 ID:ikyh7zHDo
男「…………あの馬鹿正直な勇者が、本当の悪党と仲よしこよしだなんてできるわけねぇんだ!あの子だっていい子にちげぇねえ!!」
女「そうよ!!人間を滅ぼしたいと思ってるはずの魔王が、子どもの傷なんて癒さないわ!!」
「僕は勇者と魔王を信じる!!処刑と魔族侵攻をやめろー!」
勇者「みんな……!」
魔王「……ありがとう」
魔王「……国王!!私と取引をしよう」
国王「…………」
魔王「勇者を解放しろ。さもなければ、私はこの場でお前の身の安全を保障できない。
距離が離れていようとも、私ならお前の全身至るところ任意で狙うことができる」
国王「……その割には顔色は青ざめて、立つのもやっとという具合に見えるが?」
魔王「命を危険に晒すか、勇者を解放するか、二つに一つだ」
国王「よかろう。勇者の処刑を取りやめよう。ただしこちらも条件を一つ提示したい」
ヒュッ……カランッ
国王「いま貴様の足元に投げたそれは『聖なる短剣』。刺した者の魔力を吸いつくす聖剣だ。
魔の者にとって魔力を奪いつくされるということは死と同義なのは、分かっている」
国王「その剣で自分の心臓を刺せ」
――――――――――――――――――――――――――
677 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:48:25.35 ID:ikyh7zHDo
勇者「はっ……!?なに言ってんだ!!」
魔王「………、………」スッ
勇者「おい!!!魔王!!なにをする気だ……!?」
国王「賢明だな。もう魔力もほとんど残っておらんように見える。
自分も勇者も死ぬか、自分だけ犠牲になるか……後者の方がはるかに賢い」
魔王「本当に勇者くんを解放するんだな」
国王「処刑人。彼の枷を外してやれ」
勇者「おい、よく考えろ!馬鹿な真似はやめろ、魔王!!」
騎士「動くな!」ガシャ
勇者「離せ!!」
国王「貴様がここで命を断つというのなら……残りの魔族には手を出さんと約束しよう」
魔王「いきなり親切だな」
国王「魔王がいまここに一人で来ているということが、残りの魔族は取るに足らん存在だということを示しているからな」
魔王「……そうか。そうしてくれ」
――――――――――――――――――――――――――
678 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:50:30.69 ID:ikyh7zHDo
ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ
魔王「ならば喜んで私は……」
魔王「魔族の平和のためにこの血を捧げよう」
勇者「う、うそだろ? やめろ……、今からでも遅くない!すぐ逃げろ……魔王!」
魔王「勇者くん…………。…………だめだな」
魔王「次に会ったら言おうと思っていたことがたくさんあったのだけど、……なんだか言葉が出てこない」
魔王「でも、これだけ。私たちのために戦ってくれてありがとう。私たちを信じてくれてありがとう。
私たちに未来を、夢をくれてありがとう……君は伝説の通り、世界に光をもたらす存在なんだって、いま改めて思う」
魔王「ここにいる人たちも、歴史上の私たちではなく、いま存在している私たちをちゃんと見てくれて嬉しかった。ありがとう」
魔王「残った魔族をよろしくお願いします」
ざわざわ……ざわ………
――――――――――――――――――――――――――
679 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:57:21.39 ID:ikyh7zHDo
魔王「人間とか魔族とか、そういう考え方じゃなくて、もっと一人ひとりが向き合って話し合ってみればいいんじゃないかって……そう思ってます」
魔王「そうすれば、宿敵のはずの魔王と勇者だってこんなにお互い分かり合えました。ね、勇者くん」
勇者「…………っ」
魔王「勇者くん。君はどう思っているか分からないけど、私は」
魔王「君に出会えてよかった……!」
スッ……
勇者「やめろっ!! 頼む……魔王!!おい!!」
騎士「くっ……動くな」
勇者「魔王!!!」
魔王「…………もういいんだ」
――――――――――――――――――――――――――
680 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:57:57.71 ID:ikyh7zHDo
――ドッ
魔王「…………っ」
――――――――――――――――――――――――――
681 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:58:38.84 ID:ikyh7zHDo
――――パタッ……ポタタッ……
魔王「……―――」
ドサッ……
国王「……ほう」
国王「魔族の血も……赤いのだな」
勇者「…………………………」
――――――――――――――――――――――――――
682 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 21:59:55.55 ID:ikyh7zHDo
勇者「……魔王」
魔王「 」
勇者「おい……うそだろ」
魔王「 」
勇者「…………」
魔王「 」
勇者「なんで……」
魔王「 」
勇者「なあ……」
魔王「 」
勇者「魔王…………ッ!!!」
――――――――――――――――――――――――――
683 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:00:34.33 ID:ikyh7zHDo
――魔王様!
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684 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:01:42.89 ID:ikyh7zHDo
「え?だって王様なんだから様をつけるのが普通じゃない?」
「確かにそうですね。こういうのは形から入るのが一番ですし。私もそう呼びましょう」
「あっはは、すごい嫌そうな顔してるー。いいじゃん、魔王サマー」
「そうそう、堂々としてればいいんですよ」
「喋り方も少し変えてみれば?魔王っぽく。なんかちょう偉そうな感じで」
「……うーん、ちょっとぎこちないですね……いや、いいんですよ。これから慣れていけば」
「え、あたしか竜人が魔王をやればいいのにって?むりむりむりむり!!」
「こういうのは器っていうのがあるんですよ。少なくとも魔女みたいなだらしない魔族には魔王は務まりませんね」
「はあ?竜人にだって魔王なんか1日も務まらないね!あんただって無理無理。べーっだ」
「はい?…………あ。い、いえ、これは別に喧嘩じゃないですよ、魔王様」
「そ、そうだよ。あたしたちめちゃくちゃ仲良しだから、だからそんな泣きそうな顔しないで!!ね!!」
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685 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:02:37.66 ID:ikyh7zHDo
「魔王様ぁ!おはようございます!」
「魔王様だ!」
「え?いや竜人様と魔女様がそう呼んでるの聞いたんで。いやですか?」
「……ならよかった!じゃあまた!」
「いたっ!いてて……ちょっ なんですか魔王様!?私なにかしました!?」
「……ああー。広まっちゃいましたか。まあいいじゃないですか。魔王様は魔王様なんですから」
「自分が子どもの姿だからなんか申し訳ない?……ははは、そんなの気にしなくていいんですよ」
「魔王様はそのままでいいんです。そのままのあなたが、みんな大好きなんですから」
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686 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:04:30.43 ID:ikyh7zHDo
「ねー。魔王様」
「一緒に寝ていい?……うん!ありがとっ」
「ん?んー。あたしも、怖い夢見て眠れなくなっちゃったから」
「『も』ってなんだって?」
「だってなんかすすり泣く声が魔王様の部屋から……わわ、ごめんねって!うそうそ何も聞いてないです」
「……うん、だから一緒に寝よ。二人でいれば大丈夫、いい夢見れるよ」
「羊数えてあげようか。それともあたしが睡眠魔法かけてあげようか」
「羊でいいの?本当に?魔法の方が効果あるけど?本当にいいの?」
「……ちぇ。えーと、羊は一匹ー……羊が二匹……って」
「もう寝てるし……寝付きよすぎでしょ魔王様」
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687 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:05:22.83 ID:ikyh7zHDo
「魔王様、ハンバーグおいしいですか?……よかった」
「ていうかね、聞いてよ二人とも」
「なんです?」
「今日村で買い出ししてる時に小耳に挟んだんだけど、勇者が魔王城を探して旅してるみたいだよ」
「ファ!?勇者って……100年前に魔王を討ったっていう!?この時代にもいるんですか」
「でも結構間の抜けてる勇者みたい。薬草1こで遺跡潜って血まみれで帰ってきたりとか」
「カジノに行ったら身ぐるみはがされて、裸で雪の国の狼と戦ったとかなんとか」
「それ本当の話ですか?尾ひれが随分ついてそうですね」
「……あ、魔王様が笑ってる。おもしろそうな勇者だよね。でもこの城に近づいたら容赦しないけど」
「迷いの森にすら辿りつけないでしょう。大丈夫ですよ」
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688 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:06:44.70 ID:ikyh7zHDo
「ねえ、この間勇者の話したよね?今日も噂聞いたんだけど」
「いやー。なんでか知らないんだけど、勇者たち迷わずこっちに向かってるらしいんだよねー」
「え?どうしてでしょう。ここの場所は誰も知らないはずなのですが……どうします、魔王様?」
「森で始末しちゃう?あ、別に物騒なことじゃなくて、忘却呪文ぱぱっとかければあと10年は思いだせないはずだよ」
「え……招き入れる?ちょっと待ってください。本気ですか?」
「…………なるほど。……はい、分かりました」
「魔王様も結構賭けにでるねー。あたしはそっちの方がおもしろそうだから賛成!」
「じゃあいつ来てもいいように準備しときませんとね」
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689 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:08:45.07 ID:ikyh7zHDo
「また窓の外を見ているのですか?まだ勇者たちは来ませんよ」
「……そんなに会うのが楽しみですか。いい方たちだといいですね」
「いやいや、顔に出てますから。隠しても無駄ですよ。ははは」
「……あまり夜風にあたっていてはお体を冷やします。もう窓も閉めましょう」
「ええ。ちゃんと魔王様が寝てるときに来たら、すかさず起こしますから」
「はい。おやすみなさい」
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690 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:10:05.04 ID:ikyh7zHDo
「うわ!」
「連れてきましたよー魔王様ー」
「ま……魔王!!俺は貴様を倒しにきた、勇者だ! 」
「貴様に苦しめられてきた人々のために、今日俺はお前を討つ!!覚悟しろ!!」
「……?おい、魔王の姿が見えないが……?」
「待ちくたびれたぞ……勇者」
「ようこそ我が城へ」
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691 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:13:08.03 ID:ikyh7zHDo
国王「死体を処理しておけ。聖火にて浄化するのだ」
騎士「はっ」
国王「国民たちよ。王都に訪れた危機は去った。安心したまえ」
国王「さて……貴様はもう自由の身だ。しかし、二度と我が国の土を踏むことは許さぬ。
国家転覆を図って単なる追放で許されるなど、貴様が初めての例だ。感謝しろ」
勇者「……」
国王「一番恐れるべき魔王は消えた。これで数カ月後の魔族殲滅も楽になるだろう……」
勇者「……」
勇者「あ……?」
国王「なんだ?」
勇者「……あんた、何言ってんだ?」
国王「何とは……?」
国王「私が魔族風情とかわした約束など、守ると思っているのか?」
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692 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:15:27.04 ID:ikyh7zHDo
勇者「…………て」
勇者「てめぇぇっ!!ふざけるなッ!!!」
騎士「ぐあっ!」ドッ
勇者「このっ!!!」
国王「やれ」
近衛騎士1~10「……」スッ
ジャキッ!
国王「そこから一歩でもこちらに踏み出せば、騎士たちの剣が貴様の身を引き裂くぞ。
せっかく魔族に救ってもらったその命、大事にしてはどうかね」
勇者「てめえは……魔王のあの言葉を聞いてなかったのか!?
聞いてたなら、なんであんなことが言えるんだ!!この、下衆がッ!!!」
国王「おかしなことを言う……まあ貴様もあと何十年か年をとれば分かるようになるだろう」
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693 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:17:18.35 ID:ikyh7zHDo
男「……っ お前なんか王じゃない!勇者を離せ!」
女「魔族はきっとあんたが思ってるような生物じゃないわよ!間違ってるわ!」
母親「魔族も人間も……そんなに違うところなんて、ないって……!!そう彼女は言ってました!!」
子ども「ママ……あの子どうなっちゃったの……?」
母親「……っ」
男「そうだそうだー!!」
ヒュッ…… コン
国王「いま誰か石を投げたな?」ニヤ
国王「武力をもって国家権力に仇なす者として、いまこの広場に集まっている者たち全て、制圧しろ」
騎士「……」ジャキ
国王「武力制圧を……許可する」
国王「怪我をしたくない者は両手を上げて、騎士たちの誘導に従うのだ」
「ひ……!」「ちょっと!離しなさいよ!」「大人しくしろ!!」
わーーーーーわーーーー!
ざわざわっ ざわざわ
勇者「この野郎……!!」
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694 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:18:14.26 ID:ikyh7zHDo
騎士「頼む、大人しくしてくれ……さもないと」ジャキ
母親「そ、そんな危ないもの子どもに向けないでちょうだい!!」
騎士「仕事なんだ……ガハッ!?」
女主人「へ、フライパンでも結構いい攻撃力してんのよね」
母親「あ、ありがとうございます……?」
女主人「子どもは危ないからあんたはその子連れてこっから離れな。あとは私たちが頑張るからさ!!」
男「いててててててっ!!肩外れる外れる!!勘弁してくれー!」
司書「はあああああああああっ!!」
冒険者「おらああああああああああああ!!!」
騎士「なにっ!?」
女「こんなの横暴よ!!私たちは自分たちの考えを主張しているだけじゃない!!」
本屋「大丈夫かい、お譲さん」ゲシッ
騎士「な、なんだこのジジイ!!」
本屋「古書アターック!!」
勇者「女主人、司書、冒険者、本屋の爺さん……!」
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695 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:19:09.54 ID:ikyh7zHDo
騎士「抵抗をやめろ!これ以上抵抗すれば、痛い目に遭うことになるぞ」
??「痛い目に遭うのは、貴様だ!」
ドッガァァァァン!!
人「き、騎士を一気に3人!あんた……戦士か!」
戦士「どんどん来い!!」
神官「どいてください!!!」ゴシャッ
騎士「ぐっはあ!?」
神官「魔王さん、魔王さん!!しっかりしてください……!!いまっ、いま治療しますから!!!」
神官「勇者様、魔王さんは私にまかせてください!!」
騎士「ぐあああ!き、貴様ら何者だ!?ただの一般人ではあるまい……」
盗賊1・2「「え?一般人ですよ?」」
仮面「ったく、処刑の時間早めるとか反則じゃねーのかよ?せっかく死に物狂いで剣とってきたのによ!!」
勇者「戦士、神官、仮面、盗賊……」
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696 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:20:01.41 ID:ikyh7zHDo
騎士「こら、おとなしく……って、え!?姫様……!?」
姫「はああああああ!……あれ?」スカッ
騎士「なにをなさっているのですか!いますぐ宮殿に!!」
姫「きゃ!ちょっと離して!!」
そばかす青年「てやああ!!」ドカッ
騎士「な!?」
そばかす「全く、姫様。無茶しないでくださいよ」
姫「あら。いまのはたまたまよ」
戦士「……なんだか、見覚えがあるな」
そばかす「僕ですよ、僕!!元騎士です!僕、騎士団今日限りでやめるんで!!」ヒュッ
姫「私だって、姫やめてやるわ!!民衆の声に耳を傾けなくて、なにが王族よ!!」ヒュッ
仮面「すげえ姫もいたもんだ」
国王「馬鹿娘が……」
勇者「姫様……元騎士も」
――――――――――――――――――――――――――
697 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:23:58.08 ID:ikyh7zHDo
女主人「私らは戦うよ!王様、あんたの思い通りになんてなってたまるか!」
「お…俺も戦ってやる!!おい、フライパン貸してくれ!!」
「あたしだってこの箒で騎士様相手に戦ってやるよ!!もうやけくそだ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!!」
国王「……騎士団長はなにをしている? 国の誇る騎士たちよ、この暴動を必ず鎮めよ!!」
仮面「おい、勇者!! 受け取れ……っ てめえの剣だ!!」
国王「! 剣を奴に渡すな!」
近衛騎士「はあぁっ!」キイン
カランカラン…
仮面「!? チッ…」
戦士「なにやってる仮面!」
仮面「うるせーーーな!!ごめん!」
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698 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:26:23.85 ID:ikyh7zHDo
国王「近衛騎士団!!もうよい……奴の、この反逆者の首を掻っ切ってしまえ!!」
国王「こ奴が全ての元凶だ!!首謀者がいなくなれば民衆の気勢も削がれるだろう」
近衛騎士「……」スッ
勇者「!」
近衛騎士「許せ…!」ブンッ
勇者(全方位から囲まれてる……逃げ場がない……!)
神官「勇者様ぁーーーー!!!」
戦士「勇者っ……!!」
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699 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:27:23.17 ID:ikyh7zHDo
国王「フッ……呆気ない最期だな。魔王も勇者も」
国王「もう邪魔も入るまいて……!」
―――ヒュッ……!
勇者「ぐっ……!!」
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700 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:28:00.11 ID:ikyh7zHDo
バサッ!!
??「太陽の国第一王子が命ずる!!!」
??「全員その場から動くな!!!」
勇者「!?」