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701 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:28:29.13 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

近衛騎士「!?」ピタ

 

国王「なに……!?」

 

戦士「ぬ!?」

 

神官「あ……!!」

 

勇者「!?……王子……!?」

 

勇者「と……竜人……魔女!?」

 

 

 

 

 

バッサバッサ…

 

 

竜「間に合った……!!」

 

魔女「連れてきたよ!!王子っ!!」

 

 

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702 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:34:03.54 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

ざわざわざわざわ ざわざわざわざわ

 

 

 

「ありゃド、ドラゴンか!?」 「王子だってー!?」

 

 

王子「神の定めし法により、星と雪の国両国から持ち帰った認定書と、この国の唯一なる王位継承者、第一王子の私の存在をもって」

 

王子「これより、この国の近衛騎士団、騎士団、兵団、魔術師団の最高指揮権は私に移ることになる!」

 

王子「近衛騎士、勇者から刃をのけよ。騎士よ、広場の民衆と争うのをやめ、剣を鞘におさめよ」

 

近衛騎士「……」スッ

 

騎士「……はっ」スッ

 

王子「国民たちよ、私は魔族殲滅に乗り出すつもりはない。勇者もその仲間も処刑するつもりはない」

 

王子「得心がいったら武器をおさめてくれ」

 

 

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703 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:34:56.09 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

ざわざわ… ざわ…

 

 

王子「……遅くなってすまなかった。勇者、久しぶりだな」

 

勇者「いや……え……」

 

勇者「だれ!?」

 

王子「やっぱり分からないかな?スッピンで会うのは初めてだからか」

 

王子「こう言えば分かるかい?」

 

 

 

 

王子「久しぶりねぇ~ 勇・者・ちゃ・ん」

 

勇者「!?!?!?!?」

 

勇者「おまっ……お前……旅人か!?!?」

 

王子「そうだ」

 

 

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704 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:44:15.91 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

国王「お前……認定書と神法のこと、本気なのか?」

 

王子「はい。本気です。お久しぶりですね父上」

 

国王「たわごとを言うな。こんな方法……実の父に!許されんぞ……!!」

 

王子「父上……認めてください、潮時です。もうあなたのように強引に国を導くやり方じゃあ通用しないのですよ」

 

王子「いまこの国は変わろうとしています。そして王たる者がいますべきなのは……

   強引にその変化を止めようとするのでなく、一緒に変わろうとすることです」

   

王子「これから私が父上に変わって、この国の上に立ちます。少し早いですが、御隠居なさって下さい」

 

国王「…………ふ、ふざけるな……今まで国政に微塵も関わっていなかった貴様が!!!」

 

国王「理想だけでは国は動かせん!!」

 

王子「……」

 

国王「何故分からん!?ここに私以上にこの国を案じている者がおるか!?

   私こそ!!私だけが!!この王国内で国の繁栄に、真に腐心しておるというのに!!」

 

国王「はぁ……はぁ……」

 

国王「……そもそも……全て貴様のせいだ」

 

国王「息子と娘が私に反抗するのも、民衆が私に従わないのも……全て貴様のせいだ、勇者……!!」チャキ

 

勇者「!」

 

 

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705 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:45:49.92 ID:ikyh7zHDo

 

 

国王「貴様さえ……いなければ!!騎士の手を借りるまでもないわ!!私がこの手で……!!!」

 

勇者「……てめぇ……いい加減にしろ」

 

 

戦士「勇者!!今度こそ、この剣を!!!」ヒュッ

 

勇者「!!」パシッ

 

 

 

 

 

 

 

――『ほう。魔族の血も……赤いのだな。』

 

 

 

勇者「…………ッ」ギロッ

 

国王「覚悟ッ!!」

 

 

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706 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:47:03.67 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

―――チキッ…

 

 

勇者「王様……あんたの血は何色だ?」

 

国王「ぬうぅぅ!!」

 

勇者「俺は……あんたを、許さない……!!」

 

勇者「っああああああああああああ!!!!」

 

 

―――ズパッッッ!!!

 

 

国王「かっ……」

 

 

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707 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:51:58.07 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

姫「っお父様……!!」ギュ

 

そばかす「……大丈夫ですよ、姫様。勇者さんは……踏み留まりました。目を開けてご覧ください」

 

姫「え……」

 

 

 

国王「剣が……真っ二つ、か」

 

勇者「…………」

 

勇者「……あんたは見方によっちゃ、いい王様だったと思う。

   自国の民を第一に考え、民にとって危険なものは何がなんでも排除する、あんたのやり方は」

   

国王「……」

 

勇者「でも悪いな。……俺はあんたのやり方が個人的に気に食わない。

   自国の民以外の声を無視して聞こうとも、理解しようともしないのは間違ってる」

 

勇者「数多の犠牲の上に成り立っている安全なんて、この国のみんなが喜んで享受すると思うのか」

 

勇者「そこまで俺たちは落ちぶれちゃいない。あんたに思考も信念も全て委ねて安穏と日々を過ごすほど愚かじゃない。人間をなめるな」

 

勇者「王座から降りろ。あんたの時代は、もう終わりだ」

 

国王「…………く」

 

 

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708 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:53:30.87 ID:ikyh7zHDo

 

 

ざわざわざわざわ

 

 

王子「私が事態の収拾にまわる。君は……彼女のもとへ」

 

勇者「すまない、あとで必ず礼をさせてもらう」ダッ

 

 

 

勇者「神官!!魔王は……!?」

 

神官「…………ッ」

 

魔女「魔王様、魔王様、魔王様……っ 目を開けてよ……ねえ……!!」

 

竜人「…………」グッ

 

勇者「おいおい……うそだろ!?神官、お前はどんな傷だって今まで治してくれたじゃないか!魔王のこんな傷くらい……」

 

神官「先ほどから……高位神官の方にも協力してもらって……治癒魔法かけてます……」

 

神官「でも……どうしても息を吹き返さないんです」

 

神官「この……『聖なる短剣』のせいだと思います」

 

戦士「どういうことだ……!?」

 

 

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709 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:55:34.55 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

魔女「うっ……うぁ……魔王様ぁ……やだよぉ……」

 

竜人「魔族にとって……いえ、魔力ある者にとって、魔力が完全に尽きてしまうことは死を意味します……から」

 

神官「この短剣で致命傷を受けたせいで、魔王さんの魔力は全てこの剣に吸い取られてしまったのだと……」

 

勇者「吸い取られたなら、いま剣から戻せないのか!?」

 

仮面「無駄だ。俺もその短剣について調べたことがあるが、一度吸われた魔力は二度と戻らない」

 

盗賊1「魔王の嬢ちゃん……」

 

盗賊2「こんなのって、ねぇよ……」

 

勇者「そんな……なんとか……ならないのかよ……。

   魔力水は?魔力が0なら、足せばいいだろ?ほら、神官もよく俺たちの旅の途中に飲んでたじゃないか」

   

竜人「魔王様は遙かに大きな魔力をお持ちでしたから……少しの魔力を回復しただけでは、どうにもなりません。

   どちらにせよ、魔王様の心臓が動かないことには……」

   

神官「でも、心臓を動かすためには魔力が足りないのです。だから八方ふさがりで……」

 

 

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710 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:56:26.30 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

勇者「大きな魔力…… そういえば、これは?」

 

神官「なんです?その小びんに入った液体……」

 

勇者「月祭りの夜に変な男からもらったんだ。魔王は男から分断された魔力だって言ってたけど」

 

竜人「……なんだか、魔王様の魔力に近いものを感じます。それにすごく大きな力が秘められている。もしかして……これなら」

 

竜人「でも……どっちにしろ手遅れです。魔王様は……お亡くなりに……なりました」

 

魔女「ひぐっ うっ こんなの……ひどいよ…… せっかくあたしたち、認めてもらえたのに……魔王様がいないなんて……っ」

 

仮面「……」

 

神官「ごめんなさい……もう……」

 

 

 

勇者「もし時が巻き戻って、魔王の心臓が止まる前に戻れたら、この小びんの魔力も役に立つんだな?」

 

勇者「そうしたらこいつの魔力が尽きることもなく、命を落とすこともないな?」

 

 

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711 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 22:57:32.68 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

竜人「……勇者様……?」

 

魔女「そんな、もしの話なんてしたって……意味ないじゃん!!もう……もう、魔王様死んじゃったんだよぉ……生き返らないの、もう!!」

 

戦士「……お前」

 

神官「あ……まさか!?」

 

 

勇者「よかった」

 

勇者「なあ、戦士、神官。 伝説の剣っていくつかあったよな。どれを武器にしようかあれこれ迷ってさ……」

 

戦士「稲妻の剣。三日月の聖剣。神剣グラム。そして、時の剣……だったな」

 

勇者「あのときは一番近いところに時の剣があったからそれを取りにいっただけだったが

   きっとあのときから決まってたんだ。俺はいまこの瞬間のために、時の剣を選んだ」

   

 

 

 

勇者は、時の剣を天高く掲げた。

 

 

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712 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:02:17.41 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

勇者「魔王の時間を巻き戻す」

 

魔女「えっ……?そんなこと……できるの!?」

 

勇者「あんまり長い時間は巻き戻せないと思う。でもぎりぎり魔王の心臓が止まる前まではできるはずだ」

 

勇者「これ、頼むぞ。……その魔力、一体だれのなんだろうな」

 

神官「勇者様!!女神が言ったこと……覚えてるんですか?」

 

神官「時を巻き戻す代償は、あなたの――命なんですよ」

 

竜人「……!?」

 

勇者「勿論覚えてるさ。でも、いいんだ。いま使わなくて、いつ使うって言うんだ?」

 

戦士「勇者」

 

魔女「勇者……!でもそれじゃ君が……」

 

 

 

勇者「旅人……いや王子か。あいつに礼を言いそびれた。誰か俺の代わりに言っといてくれ」

 

 

勇者「全員今までありがとうな」

 

 

勇者「……あと。魔王が目を覚ましたら謝っといてくれ」

 

 

勇者「――じゃあな」

 

 

神官「勇者様っ!!」

 

 

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713 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:03:28.42 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

 

眩い光が勇者の体を包み込んだ。

 

全員が再び目を開けたとき、そこに……彼の姿はなかった。

 

 

 

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714 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:03:54.88 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

 

 

 

 

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―――――

 

 

 

 

 

勇者「……ん。ここは……」

 

時の女神「来てしまいましたか、勇者」

 

勇者「あんたは…… 久しぶりだな」

 

 

 

 

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715 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:06:02.35 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

女神「こうなることは分かってましたが……やはり、寂しいものですね」

 

勇者「分かってたのか?」

 

女神「私は過去未来全てで起こり得る事象が見通せます。

   あなたが選び取った現在は、起こり得る事象の中で最善のものでした」

   

勇者「最善ね……なににとって最もいいって判断しているんだ?」

 

女神「より多くの生きとし生ける者にとって、ですよ」

 

勇者「……なら、よかった」

 

女神「あなたが自分の命を犠牲に時を巻き戻すことも、本当は……見えていました。

   でも、そうならない未来も数多あったのですよ」

 

 

女神「……いいのですね?いまなら向こうの世界に引き返せますけれど」

   

勇者「そんなことしない。いいよ、俺の命をあんたに捧げる。だから魔王の時間を巻き戻してくれ」

 

女神「…………分かりました」

 

 

スウゥゥゥゥ

 

 

勇者「体が、足から……消えていく」

 

 

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716 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:06:50.25 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

女神「さようなら。勇者」

 

勇者「そんなに悲しそうな顔しないでくれよ」

 

勇者「俺は満足してるんだ」

 

勇者「誰かを守れた。誰かを救ってあげられた。世界を変えることができた」

 

勇者「……勿論、いろんな奴の手助けがあって、だけどな」

 

女神「ええ……」

 

勇者「まあ。できれば、変わった世界をもう少し見たかったってのもある。

   王子の奴にもいろいろ質問したかったし……でも」

   

勇者「ずっと10年あの島で魔王として頑張ってきたあいつにこそ、新しい世界を見せてやりたいんだ」

 

勇者「雪だけじゃない。星の国も太陽の国も、この大陸外のことだって……

   全部全部、俺よりあいつが見るべきだ。……見てほしいんだ」

   

勇者「あいつのために死ぬんなら、そんなに悪くないって思える。不思議なほど今は心が落ち着いてるんだ」

 

勇者「おっと……そろそろか」

 

 

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717 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:07:44.34 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

勇者「さようなら、女神様。ありがとうな」

 

女神「……さようなら、勇者」

 

 

 

 

スウゥ…………

 

 

………

 

 

 

 

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718 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:08:15.13 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

魔王「……………………ん」

 

魔女「!!!」

 

竜人「魔王様!?」

 

魔王「…………んん……あれ……?」

 

魔女「ま゛お゛う゛ざま゛ああああああああああ!!!」ガバ

 

竜人「よかった……!!本当に……!!」

 

魔王「ここは……」

 

竜人「魔王城です。2週間、ずっとあなたは眠ったままで……本当にどうなることかと……」

 

 

神官「あ!魔王さん、お目覚めになられたんですね……!よかったあ」

 

戦士「具合は悪くないか?どこか痛いところは?」

 

魔王「いや、どこもない。……私は、ええと。頭の中がぐちゃぐちゃで、よく思い出せない」

 

魔王「なにがあったんだっけ」

 

 

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719 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:09:23.92 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

魔王「そうだ。勇者くんは?神官と戦士殿がいるということは、勇者くんも来ているのだろう?」

 

戦士「……」

 

神官「……えと」

 

魔女「……」

 

竜人「勇者様は」

 

魔王「?」

 

竜人「……っ」

 

魔王「…………?」

 

 

 

 

 

魔王「え?」

 

 

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720 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:19:39.43 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

魔王「…………なんだ?みんなして黙り込んで……」

 

魔女「……」

 

神官「……」グス

 

戦士「……」

 

竜人「……」

 

魔王「はは……。まるで……勇者くんが……死んじゃったみたいな、顔してる」

 

魔王「………………」

 

神官「ゆっ……勇者様、は…………勇者様はぁ……っ」

 

 

 

 

 

 

魔王「え…………?」

 

 

 

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721 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:21:37.80 ID:ikyh7zHDo

 

 

* * *

 

 

 

王国暦×××年

 

第――代目国王、神法により即位す。

 

また同日、

 

神に選ばれし勇者XX、神の御許に招かれ、この地を旅立つ。

 

 

 

 

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722 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:22:17.53 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

ザアァァァァァ……

 

   ザアアァァ……

 

 

 

魔王「…………」

 

魔王「…………」

 

魔王「…………」

 

魔王「ひどいよ」

 

魔王「…………」

 

 

 

ザアアァァァァァァ……

 

   ザアァァァ…………

 

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723 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:23:27.45 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

 

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―――――

 

 

一カ月後

 

 

太陽の国 王都 宮殿

 

 

神官「……それにしても」

 

戦士「まさか旅人が王子だったとは……世の中わからんものだ」

 

王子「はは。すまないね」

 

竜人「どうしてあんな格好と……えっと、態度を?」

 

王子「家出同然で旅に出たとき、騎士団の追跡がうざったくてね。髪型を変えても、服装を変えても必ず私だってばれてしまうから、

   いっそ度肝を抜くような変装をしてやろうと思ったら、ああなったんだ」

   

魔女「度肝抜きすぎ」

 

王子「凝り性だから化粧も服装も態度も口調も全部変えた。

   王族としてきちんとした身なり立ち振る舞いをずっとしてきた自分にとっては、結構楽しかったけれどね。

   いまも気を抜くとオネエ言葉がでちゃうわぁ~」

   

仮面「なんだこいつ……」

 

姫「もう。お兄様、今日就任式と、その後パレードがあるのよ?ちゃんと自覚持ってるの?」

 

王子「勿論持ってるさ。ただ政治に関しては僕も素人同然だからね、努力はするけど手助けしてくれよ、我が妹」

 

姫「しょうがないわね……お兄様がきちんとした王様になるまでは、手伝ってあげるわ」

 

 

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724 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:24:35.93 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

姫「ねえ、どうして家を出たの?私……寂しかったわ」

 

王子「うん。すまない。実を言うと……王位を継ぎたくなかったんだ。

   私が旅先で失踪すれば、王位継承権は必然的に君に移る……正直、私より君の方が向いていると思うんだよね」

 

神官「なんか仮面さんと似てますね」

 

仮面「やめろこんな奴といっしょにするな」

 

王子「まあそんなことを薄ら考えながら根なし草の生活をしていた……それなりに気にいっていたんだよ。

   父は次の王になる私に、自分と同じような考えを植え付けようとするのに必死だった。意識的にか無意識的なのかは分からないけれど」

   

王子「そんな風に何かを押し付けられて生きてくのは苦しかったし、自分が何なのか分からなくなっていた。この宮殿にいるときは」

 

姫「…………そんなこと考えてたなんて、知らなかった」

 

王子「君は私より強かった。あの父のそばにいても、自分をしっかり持っていたから。だから向いているって言ったんだ。

   旅に出て、自由に生きてると、型に嵌められて埋没した自分自身を少しずつ解放していってるような気がした」

   

王子「このまま、生きていくのもいいと思った」

 

王子「でもそこで竜人と魔女にあの話を聞かされたんだ」

 

王子「私が自由に生きていく裏で、苦しんでいる人がいる。見ないフリして逃げてた事実を目の前に叩きつけられたんだ。

   もう逃げていられないと思って、腹を括ったよ」

   

 

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725 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:25:34.53 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

姫「私は、私よりお兄様の方が王様に向いていると思います。

  そんな風に色んなことを考えられる繊細な心をもったお兄様の方が、よい政治を行えると思うの」

  

王子「ありがとう。精進するよ。……もう逃げない。自分からも、国からも」

 

 

 

 

竜人「あなたが旅人として魔王城に漂流してきた時。魔王様が忘却呪文を施したにも関わらず、記憶を思い出したのは

   宝物庫から盗んだ、忘却呪文を跳ね返すという『忘れじの鏡』のせいですね?」

   

王子「鏡?ああ……あれそんな名前だったんだ?鏡がほしかったから適当に取ってきたんだけど」

 

神官「えええ……」

 

戦士「それからその左目の泣きぼくろと首元の傷……俺たちがお主に会ったとき、気づかなかったのは、お主が化粧をしていたからか」

   

王子「まあね。首まで化粧しないと、顔と首の色が違ってしまうじゃないか?常識だよね」

 

神官「そうでしょうか……」

 

魔女「金髪碧眼の時点でちょっとは気をとめればよかったのかもしれないけど……それ以上にインパクトありすぎてありすぎて」

 

王子「あっはっは」

 

魔女「確かにこうして見るとイケメンだけどさー。あんなの気づかないよ。まったく」

 

 

 

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726 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:26:17.10 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

竜人「雪の国で、あなたの宿のシャワールームを開けてしまったときがありましたね」

 

王子「やだーもう。恥ずかしっ!エッチ!」

 

姫「お兄様」

 

王子「すみません」

 

竜人「あのときは『この世で最も汚いものを見てしまった…』と思ってすぐに記憶から抹消したのですけど」

 

王子「ひどくない?」

 

竜人「思えば、何か引っかかるところがありました……きっと、泣きぼくろと首の傷をそのとき視界に入れてたからですね」

 

魔女「ああ。確かに……あったかも」

 

竜人「でも、まあ、あのとき魔女があなたからもらった顔パックが後のち役に立ったから、よかったですけど」

 

魔女「王子の居場所を特定するための材料としてね」

 

 

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727 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:28:09.50 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

仮面「しかし、お前らほんとあのときギリギリだったな。よく間に合ったもんだぜ」

 

竜人「ああ。あれは本当にギリッギリでしたね」

 

魔女「本当は間に合わなかったはずなんだよね。予定では、えーと。

   処刑宣告から3日目の正午、つまり処刑が早まる前の本来の時間ギリギリに王都に到着することになってたんだもん」

 

竜人「太陽の国→星の都→王子拾って→雪の首都→太陽の王都 で、全部で30時間かかる計算でしたから」

 

神官「じゃあ、どうして?転移魔法は使えなかったんですよね?」

 

魔女「王子が雪の国の認定書を取ってきてくれてたからねー」

 

戦士「ほう?」

 

王子「竜人と魔女から話を聞いたあと、私は雪の国を旅立ったんだ。いろいろ準備しなくちゃいけないことあったし、国王になるための後ろ盾も必要だったし。

   でもその後……しばらくして、勇者が処刑されるとの噂が耳に入った」

   

王子「父が嗅ぎつけたんだと思った。当然認定書も消されてるはず――だからまた取りに行ったんだ。

   でも馬で走るとどう頑張っても星の都に行った後、太陽の国まで時間内に辿りつけない。

   どうしたもんかと思いながら馬を走らせてた時に、大きな竜が飛んでくるのが目に入った」

   

王子「正直ちびったよね」

 

姫「お兄様」

 

王子「はい」

 

 

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728 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:30:42.81 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

竜人「私たちが無事に星の国の認定書を手にしたあと、星の国と雪の国の中継地点で王子と合流しました。

   それから王子が認定書もう一枚持っていることが分かったので、すぐに王都に引き返したんです」

   

魔女「処刑は次の日のはずだったからさ、一日休んで転移魔法でぴゅって行っちゃおうって考えたんだけど。

   王子が絶対王様は処刑を早めるはずだから急いだ方がいいって言うからさ」

   

仮面「さすが親子だな。あたってるじゃねーの」

 

王子「こういうときの勘はあたるからね」

 

竜人「それから死に物狂いで飛びました。で、なんとか王都に辿りつけたってことです。

   でももし王子が星の国の認定書をもらっていなかったら、確実に間に合いませんでしたね」

 

神官「ほえー……ギリギリでしたね」

 

王子「もう少し……早く、私も動いていれば、未来も違ったのだろうけどね」

 

王子「すまない。この通りだ」

 

戦士「……いや、お主はよくやってくれたと思ってる。それにあいつは、自分でああなることを選んだんだ。

   後悔はしてないだろうさ」

 

神官「……はい、私もそう思います。きっと、今も神様の近くで……私たちを見守っていてくれているはずです」

 

 

コンコン

 

 

騎士「失礼します。そろそろ……」

 

王子「もう時間か」

 

 

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729 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:32:09.80 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

王子「さて。これから私は就任式だ。では行ってくるよ」

 

竜人「はい。私たちもぜひ見させてもらいますよ」

 

魔女「パレードもね」

 

仮面「……あいつはどこ行った?あのちびっこ魔王」

 

魔女「…………多分、お墓かな」

 

竜人「迎えに行ってみます。転移魔法で」

 

 

王子「そういえばさっき、旅人としての私は変装だと言ったけど、何から何まで嘘じゃないんだ」ガタッ

 

神官「へ?」

 

王子「男も女も愛することができる、いわゆるバイというものだね」

 

姫「お兄様」

 

王子「今のは普通の発言だろ?」

 

 

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730 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:33:35.11 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

王子「ということで、私は男も女も人も魔族も、自国民もそれ以外も愛するよ。そんな政治を行いたいと思っている」

 

姫「なにを言いだすかと思えば」

 

王子「この国も、あの勇者に託されたようなものだからね。やるからには半端な政治はしないつもりだ」

 

魔女「期待してるよ、王子様」

 

竜人「……ええ」

 

神官「できますよ。きっと」

 

戦士「ああ。俺たちだって、何かできることがあればすぐに手を貸す」

 

王子「……ありがとう。じゃあ行ってくるよ」

 

 

バタン

 

――――――――――――――――――――――――――

731 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:34:14.23 ID:ikyh7zHDo

 

 

小さな村

 

 

ザアアァァァァ……

  ザアアアアァァァァ……

 

 

『勇者XX ここに眠る』

 

 

魔王「眠る、か……」

 

魔王「みんなが言うには、勇者くんの体は光に包まれて消えてしまったらしい」

 

魔王「ならばこのお墓の下にはなにも埋まっていないのだろうな」

 

 

 

魔王「……」

 

魔王「……」

 

魔王「風が気持ちいいな。勇者くん」

 

魔王「君の育った村を初めて見た…… 小さいけれど、いいところだ」

 

魔王「風車があるんだな」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

732 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:35:02.81 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

 

 

ザアァァァ……

 

 

魔王「風の音を聞いてると、いろいろ思い出すよ」

 

魔王「君と出会ったときのこと。一緒にご飯食べたこと。夕焼けの中を二人で飛んだこと」

 

魔王「絵本を読んでくれたこと……頭をなででくれたこと……」

 

魔王「雪を見せてくれるって言ってくれたこと……」ゴシゴシ

 

魔王「約束したのに……」

 

魔王「勇者くんのばか」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

733 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:35:57.24 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

魔王「……」ゴシゴシ

 

魔王「……泣いてないよ」

 

魔王「君が変えてくれた世界に、君がくれた命。どちらも大切にするから」

 

魔王「いつか、また。どこかで会おうね」

 

魔王「そのときは覚えていてくれ。私は……まだほんのちょっとだけ、怒っているんだぞ」

 

魔王「…………」

 

 

 

シュン

 

 

竜人「……魔王様。王子の就任式とパレード、そろそろ始まりますよ」

 

魔女「いこ……」

 

魔王「……うん」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

734 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:36:32.32 ID:ikyh7zHDo

 

 

魔王「勇者くん」

 

魔王「ごめんね」

 

魔王「…………ありがとう」

 

魔王「……じゃあね。また来るね」

 

 

タッタッタ……

 

――――――――――――――――――――――――――

735 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:40:50.56 ID:ikyh7zHDo

 

 

魔王(もう泣かない)

 

魔王(泣いてるひまなんてない)

 

魔王(それに……絶対またいつか、会えるって信じてるから)

 

魔王(いつか、なんでもないような顔して……「元気だったか」とかなんとか言って)

 

魔王(私が怒ったら、いつもみたいに「ごめんって」って言って笑いながら謝るに違いない)

 

魔王(そしたら……許してあげるよ。約束破ったことも、勝手に死んじゃったことも……だから)

 

魔王(………………)

 

魔王(ずっと信じてる。また会えるって)

 

魔王(ずっと……)

 

 

 

魔王「いつまでだって……待ってるよ、勇者くん」

 

 

 

 

おわり

 

 

――――――――――――――――――――――――――

736 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:41:22.06 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時の女神「あら」

 

時の女神「なんでしょう。これ、『おわり』?」

 

時の女神「こんなところにおいたら邪魔です。えい」

 

 

おわり 「あっちに蹴っちゃいましょう」ドカッ

 

わり 「えいえい」バシッ

 

り 「よいしょ!」ゴスッ

 

 

女神「ふう」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

739 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:42:30.72 ID:ikyh7zHDo

 

 

女神「え?」

 

女神「だってまだ、終わりじゃないですよ」

 

女神「むしろ始まりです」

 

女神「なにがなんだかわからないって感じですか」

 

女神「ですよね」

 

女神「じゃあ、少しだけ時間を巻き戻しましょうか」

 

女神「命?代償? いえいえ、私は女神なのでいいんですよ。自由自在に過去未来見れますから」

 

女神「では時の歯車をまわして……」カラカラ

 

 

――――――――――――――――――――――――――

740 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:43:43.95 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

* * *

 

 

 

 

勇者「さようなら。女神様」

 

女神「……さようなら、勇者」

 

 

 

 

スウゥ…………

 

 

………

 

 

 

 

女神「…………」

 

女神「…………あら……お客さんなんて珍しい」

 

??「こんにちは」

 

――――――――――――――――――――――――――

742 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:45:19.59 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

 

女神「あなたは……先代の勇者ですね。どうやってここに来れたのですか?」

 

先代勇者「さあ。自分でもよく分からないよ」

 

女神「そうですか」

 

先代勇者「いまのが今の時代の勇者だよね」

 

女神「ええ。時を巻き戻した代償として、消えてしまいましたけれど」

 

先代勇者「……」

 

 

先代勇者「知ってる?先代の魔王と勇者は、相手にできるだけの苦痛を味あわせて殺したかったから、ほとんど剣術で闘ったんだ。

   魔力を使ったのは、せいぜい己の身の治療のみ」

   

先代勇者「だから二人ともほとんど魔力を残して死んだんだ」

 

女神「ええ。見てましたから」

 

先代勇者「先代魔王……あいつの魔力は、いまの魔王の命を救ってたね」

 

先代勇者「はい。これ使ってよ。さっきの彼、助けてあげて」

 

女神「魔力、ですか。でもこれは契約なのです。魔力ではだめなのです……命でなければ」

 

先代勇者「意外と面倒くさいんだね」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

743 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:46:58.43 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

先代勇者「魔力ある者にとって、魔力の枯渇はすなわち死を意味する。ってことは、魔力=命ってことなんじゃないの?」

 

女神「屁理屈です」

 

先代勇者「君だって、彼に生きてほしいくせに」

 

女神「見ていて飽きませんからね」

 

先代勇者「頼むよ。先代勇者として、世界を無茶苦茶にした功績を称えてよ」

 

女神「意味が分かりません」

 

先代勇者「……先代勇者が成し遂げられなかったことを、やってのけたんだ。彼にはご褒美が必要なんじゃないの?

   ほら、受け取っちゃいなよ。ほらほら」

   

女神「もう…………分かりました。一応理屈が通っているってことで、大目に見ましょう」

 

先代勇者「やったね」

 

女神「ただし、あなたの魔力で購われるのは、彼の命の半分だけですね。結構消費してるじゃないですか」

 

先代勇者「そう?ごめんごめん。ま、命があるだけいいよね」

 

 

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744 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:51:32.77 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

女神「でも……不思議ですね。私が見ていた未来に、あなたがここに来るルートはなかったのですけど」

 

先代勇者「神様だって予測できないことのひとつやふたつ、この世には起こるんじゃないかな。

     それに、ほら、勇者だし。仕方ないよ。嬉しいサプライズでしょ?」

 

女神「まあ。本音を言えば……そうなりますね」ニコ

 

 

 

 

女神「では、もう一度彼の魂を呼び戻しますよ。あなたの魔力を使ってしまえば、あなたは既にここに存在できなくなります。

   よろしいのですね?」

   

先代勇者「よろしいよ。覚悟はできてる」

 

女神「そうですか。…………では」

 

女神「……あなたも、長い間お疲れ様でした。どうか向こうの世界ではお幸せに」

 

先代勇者「……」

 

 

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745 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:52:14.31 ID:ikyh7zHDo

 

 

* * *

 

 

少年「…………んあ」パチ

 

 

 

 

農夫「お!起きたか坊主!!」

 

少年「え……だれだ?ここは……?」

 

農夫「オメーよお、あの時の神殿の前で倒れてたんだっぺ。ずーっと眠り続けてっから、死んだかと思ったっぺよ」

 

少年「時の神殿?……あれ!?なんで俺、生きてんだ……?」

 

農夫「でーじょうぶか?あの神殿は危険だっつーことで有名なのよ。坊主まさか入ったわけじゃねーな?」

 

農夫「ま、顔でも洗ってきな。扉を出てすぐに泉があるからよ」

 

少年「え、え?あ、……おう」

 

 

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746 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:53:19.75 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

少年「………………なんっじゃこりゃあああああああああああああ!!!」

 

農夫「うおおお!? どーした坊主!?熊か!?それとも猪か!?!?」

 

少年「お、お、俺……なんで子どもになってんだ!?」

 

農夫「なあに言ってんだ?オメーもとから子どもだっぺ」

 

少年「違うっぺ!!こんなんじゃなかった!!絶対!!」

 

農夫「そういやオメーの名前まだ聞いてなかったな。なんつーんだ?」

 

少年「俺は……!!」

 

 

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747 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:54:07.69 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

* * *

 

 

ピューピュー!

 

新たな太陽の王、ばんざーい! ばんざーい!

 

 

王子「ありがとう!」

 

 

がやがや わいわい

 

 

 

竜人「華々しいパレードですね」

 

魔女「わああ、すごーい」

 

魔王「うん。それにすごい人だ……」

 

 

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748 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:55:18.76 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

魔王「あ。あそこにいるのは、神官と戦士殿だ」

 

魔女「本当だ。話しにいこうよー」

 

竜人「……ん?誰かほかの方と話し中のようですね」

 

 

 

 

神官「……う、うぅぅ、本当に……勇者様そっくり……」

 

戦士「見れば見るほど似てるな……まさか隠し子か……?いやまさかな」

 

少年「だーかーら!!俺がそうだって言ってるだろ!?」

 

 

 

魔王「……………………」

 

魔王「…………ゆ」

 

 

 

竜人「なんだかあの少年、彼に……すごく似てますね。そんなはずないのに」

 

魔女「変だね。あたしもすっごい見える。ちょっと目が疲れてるのかも」

 

竜人「あっ、魔王様!?」

 

 

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749 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:56:46.41 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

少年「いい加減信じろって!!だからな、何度も言ってるけど――」

 

神官「ええ。あなたが勇者様に憧れる気持ちも分かりますよ。本当に……すごい方でした……うぅっ」

 

戦士「ところでお父さんかお母さんはどこにいるんだ?迷子か?ん?」

 

少年「お前ら……いい加減にしろよ、ほんっ―――」

 

魔王「勇者くん!!!!!」

 

少年「うわっ!?!?」

 

 

ドサッ!

 

 

魔王「勇者くん……勇者くん勇者くん勇者くん勇者くんっ……わぁぁぁぁぁぁん!!ばか!ばかばかばか!!」

 

少年「ま……魔王? よかった、無事だったのか」

 

魔王「無事だったのか、じゃない!!それは……私の台詞だっ……ばか!!!」

 

 

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750 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/22(火) 23:59:00.68 ID:ikyh7zHDo

 

 

 

勇者「そ、そんな泣くなよ。ごめんって本当」

 

魔王「うるさい泣いてない、よだれだっ!」

 

勇者「よだれの方がアレじゃない!?」

 

魔王「私が……私がどんな気持ちで一カ月過ごしたと……っいままでどこにいたんだ!言え!言えったら!」

 

勇者「わーーーっ 一旦落ち着け!!深呼吸しよう!なっ!!」

 

 

神官「魔王さん……え!?ほんとうにこの子勇者様なんですか!?」

 

勇者「だから何度もそう言ってんだろ」

 

戦士「お前は時を巻き戻した代償で命をとられたのではなかったのか!?」

 

勇者「なんか知らないんだけど、時の神殿の入り口で倒れてたらしいんだ。

   何故子どもの姿に若返っているのかも全然分からん」

   

魔女「君、本当に勇者なの? 生きてたんだ……よかった!!!!今日は宴会だーーーっ!!!」

 

竜人「勇者様!? まさか、……え!?本当に!?ご……ご無事で何よりですが……え、本当に?」

 

勇者「こんなナリだが正真正銘勇者だ」

 

戦士「本当に無事で何よりだが……まずいな、葬儀もやったし墓も建ててしまった」

 

勇者「墓!?俺の墓があるの!?」

 

 

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751 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:00:36.16 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

 

勇者「あー。にしても、みんな無事でよかった……俺もここに来るまで気が気でなかったんだ」

 

魔王「……勇者くんも私と同じくらいの背の高さになったな」

 

勇者「ぐ……言っておくが、すぐ元の姿くらいに大きくなってやるからな」

 

魔王「どうかな。私の方が先に大きくなるかも」

 

勇者「なんだと!」

 

 

戦士「どちらも今は子どもの姿なのだから、喧嘩はやめろ」ヒョイ

 

勇者「う、うわ。離せよ。子ども扱いするな。中身は普通に俺のままだからな!?」

 

魔王「わっ……」

 

神官「勇者様が死んで悲しんだ方、たくさんいたんですよ。皆さんに顔を見せに行きましょう!」

 

勇者「このまま!?」

 

魔女「ほらほら、いこーよ!!」

 

 

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752 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:01:03.36 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

 

 

数か月後

 

 

 

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753 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:03:16.90 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

魔王城

 

 

 

魔王「……では新たな太陽の国国王就任と、『ようこそ人間たち魔王城へ記念日』を祝して」

 

勇者「これからの人と魔族の明るい未来を願って!」

 

「「「「かんぱーい!!!」」」

 

 

 

王子「ここが魔王城か。なかなかいいところだね」

 

魔王「君の国の歴史ある宮殿には及ばない。しかし、あんなに探していた王子が、まさかあのとき海から助けた漂流者だったとは」

 

王子「そうだ、あのときは命を救ってくれてありがとう」

 

魔王「前は泣きぼくろも傷跡もなかった気がするのだが?」

 

王子「それは、あれさ。ウォータープルーフの化粧品を使っていたからね」

 

魔王「うぉーたーぷる…… え?」

 

勇者「なあ、あんた……いや、ええっと。貴方様、……王子様?国王様?」

 

王子「そんなに畏まらなくていいさ。今まで通りの態度で頼む」

 

勇者「なんか慣れないんだよな。そういうことなら俺も普通に話すけど」

 

王子「なにかさっき言いかけた?」

 

勇者「ああ。あんた、雪の女王に正体ばれてたろ。俺、あの人にまぎらわしいヒントもらったぞ」

 

王子「そうなんだ。以前雪の国をぶらついているときにバッタリ顔を合わせてしまってね。1秒で正体が露呈してしまったよ。

   まあ、おもしろいからという理由で見逃してもらえたけどね」

 

勇者「女王も相当な変わり者だな」

 

 

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754 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:04:38.21 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

竜人「今日は公務はお休みですか?王に就任してからお忙しいと聞いてましたが」

 

王子「忙しいさ。文字通り忙殺されそうだ」

 

姫「今まで王としての勉強を怠けてフラフラしていたのだから、自業自得よ」

 

王子「ひどい妹君だろう?全く。 でも勇者と魔王も相当多忙だそうじゃないか?」

 

勇者「まあな。あんたが王になってくれて、魔族を脅かす直接的な要因はなくなったが……それだけで終わりってわけにはいかないからな」

 

魔王「うん、魔族と人の相互理解がないと、いつなんどきまた衝突が起きないとも限らない。

   だからそのためにお互い種族を越えて手を取り合えるように、いろいろと取り図っている最中だ。私と勇者くんで」

   

魔女「そーそー、俺たちの戦いはまだこれからだぜっ!って感じかな! 神法は成立させられたし、次の目標はー……」

 

竜人「魔族と人の本当の意味での共存関係を築くこと、ですね。……って、もう一瓶空けたんですか、魔女」

 

勇者「まだまだ時間はかかりそうだけどな。王都はまだしも、地方の田舎へは今回俺たちはまだ何もアプローチしてないし。

   ……ま、焦っても仕方ない。じっくりやってくさ」

   

王子「悪いな、私もそちらに力を貸せたらいいのだが。法の整備だけやって、地道な仕事は君たちに押し付けてしまって」

 

魔王「なにを言う。十分だ。本当に王子には感謝しているんだ」

 

 

王子「まあ、私は大変だとは言っても、彼らがいてくれるおかげで随分助かっているよ」

 

戦士「久しぶりだな、勇者。まだ子どもの姿のままか。ははは、ちんまいな」

 

神官「お久しぶりです。ぷふっ」

 

勇者「笑うな!抱き上げるな!ちくしょーほんっと数年後覚えてろよお前ら!!」

 

 

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755 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:05:53.41 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

魔女「戦士と神官は勇者についていかなかったんだね」

 

仮面「オッサンはあれだろ? 近衛騎士。ハッハッハ!騎士ってガラかぁ?あんた」

 

戦士「うるさいわ」

 

王子「私が彼に頼んだんだ。就任の仕方が仕方だったから、国の内部もごたごたしててね。信頼に足る部下の一人くらい、身近にほしかったのさ」

 

そばかす「あ。ちなみに僕も近衛騎士に昇格しましたよ!やった!」

 

魔女「だれ?君」

 

そばかす「ひどい!!何回か会ってるじゃないですかぁぁぁ」

 

 

魔王「神官は、神殿を抜けるのだったな」

 

勇者「意外だったな、それ。本当にいいのか?神官長昇格への誘いが来てるんだろ?」

 

神官「ええ。もう少ししたら本格的に神官をやめます。……歴史の先生になろうと思ってるんです!えへへ」

 

キマイラ「ほうほう。教師ですかな。教職はいいものですよ」

 

神官「はい……私、今回のことで歴史教育の重要さを知りました。私たちが魔族への偏見を持ってたのって、

   何も知らない白紙の状態の子どもの心に、周りの大人たちのそういう魔族への考えが植え付けられたから、というのもあると思うんです」

   

盗賊1「やべえ……話が難しすぎてついていけねえ」

 

盗賊2「俺もだ」

 

神官「えっと、だから!もちろん過去あった事件を知識として学ぶのは大事だと思いますが歴史の不確かさをいつも頭の片隅に置いて自分で正誤を判断する力をいまの子どもたちに身につけてほしいと私は!!!」

 

仮面「おい盗賊らが泡吹いて倒れたぞ!!嬢ちゃん、難しい話をこいつらにこれ以上聞かせないでやってくれ!!」

 

 

 

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756 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:09:47.03 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

がやがやがやがや がやがやがやがや

 

女主人「あ……あんた!!あのときの……!!よかった、生きてたんだね!!」

 

ケット・シー「あなた……まさか、森で会った女の子……?うそっ……!また会えるなんて信じられない!」

 

 

キマイラ「教師たる者うんぬんかんぬん…」

 

神官「教育とはうんぬんかんぬん…」

 

戦士「俺も頭痛くなってきた」

 

 

司書「じゃああなたがあの本を書いた魔族の方なんですね!はじめまして。王国で司書をやっております」

 

本屋「あんたのおかげでひと儲けさせてもらったよ。ヒッヒッヒ」

 

グリフォン「え、あ、ああ……はは、なんだか照れるね」

 

 

魚人「よおよお!お前さんが新しい王さまなんだってぇー!?いいガタイしてんじゃねえの!!呑み比べすっかあ!?」

 

ハーピー「ちょっ……魚人さん!その方えらい人なんだから勢いで絡むのやめた方が」

 

王子「いいよ。よっしゃ樽ごともってきてくれ」

 

姫「お兄様明日も公務なんだからやめてちょうだい!!」

 

 

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757 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:10:59.15 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

仮面「……」

 

勇者「よお」

 

仮面「話しかけんなチビ」

 

勇者「……」ボグッ

 

仮面「いってえええ!脛蹴るのやめろマジで!!俺の扱いだんだんこんな感じになってるけどそろそろやめてくれ!!」

 

勇者「ごめんごめん」

 

仮面「チッ 何の用だよ……チッ」

 

勇者「2回も舌打ちせんでも……。あー……前に雪の国の、森の遺跡で話したことがあっただろ?あのことについて、俺なりにいろいろ考えたんだ」

 

仮面「あ?」

 

勇者「俺が勇者になるのに抵抗はなかったのか、とかそんな話だよ」

 

仮面「ああ……それが?」

 

勇者「やっぱり、何度考えても、俺は勇者になることに対して全然戸惑いも躊躇もなかったんだ。

   そういう意味ではお前とも王子とも真逆なんだよな」

   

勇者「……でもさ!多分、俺が勇者という身分だろうがそうじゃなかろうが……

   例え魔法が使えなくて、剣も全然できなくて、勉強も……勉強は今もあんまり得意じゃないが、頭もよくないとして」

   

勇者「それでも、そんな風に生まれてたとしても。何の力もないただの一般人だったとしても、俺は今と同じことをしていたと思う」

 

 

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758 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:14:12.34 ID:QcYhGkyeo

 

 

仮面「んなことできるわけねーだろ。なんの力もなかったら、認定書をもらうことも王子を探すこともできなかっただろうが」

 

勇者「どんなに不可能に思えてもやったよ。やらずにはいられないと思う。俺は思いついたらすぐに行動しないと死ぬ男だからな」

 

仮面「恐ろしい持病だな」

 

勇者「だって俺は俺なんだ。力や剣や魔法があってもなくても、俺は俺だ。勇者だろうがそうじゃなかろうが、俺は俺!」

 

勇者「だからお前が、仮面被った変な男だろうが、元貴族だろうが、盗賊団のリーダーだろうが、お前がお前であるってことには変わりない」

 

勇者「俺やお前だけじゃない、この世界の誰もがそうなんだよ。多分。本当に大事なのは身分でも種族でも肩書でもなんでもない、自分が自分をどう捉えるかだ。

   だから未来に迷ったお前や王子だって、迷わなかった俺だって、どっちが間違いとかないんだ」

 

勇者「どっちも正解なんだから」

   

仮面「……へっ。勇者様の有り難いお言葉どうもありがとうございますっと」

 

勇者「おい、真剣に話したんだから茶化すなよな……。俺が恥ずかしいだろうが」

 

 

 

 

魔王「…………」

 

魔女「魔王様なにやってんのー!?」

 

魔王「わっ……! ばか、静かに!」

 

魔女「なになになに!?!?あーー勇者と仮面君じゃん!!おっす!」

 

魔王「堂々と出て行くなっ」

 

 

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759 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:15:58.74 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

仮面「なにやってんだお前ら」

 

勇者「いたのか?」

 

魔女「うん!あたしはさっき、そこの影に身を潜めてた魔王様の後ろから来たばっかだけどねー」

 

魔王「魔女……わざとか?」

 

魔女「え?言っちゃだめだった?」

 

魔王「いや……盗み聞きをしていたわけでは……これはその……偶然。……すまない」

 

勇者「いるなら出てきてくれればよかったのに」

 

 

 

魔女「あー そういえば言いたかったことあるんだけどさ。君のあの耳飾り、お母さんのじゃないの?」

 

仮面「ブッフ!!!ガハッオゥエッ!!ゲホゲホ!!」

 

魔王「大丈夫か」

 

仮面「な、なにを……ちげえ、あれはいざとなったら質屋にいれようと……」

 

魔女「会いたいと思ってるなら、会いにいけばいーじゃん?」

 

 

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760 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:16:53.58 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

仮面「……簡単に言うなよ、一度殺されかけた女だぞ? なんで俺が……」

 

魔女「じゃあなんで耳飾りをずっと持ってるのかなー。ま、別にどっちでもいいけどね。

   ただ一生なんて短いんだから、会いたいなら早く会いに行った方がいいと思うよ、あたしは」

   

仮面「……チッ 余計のお世話だっつの。酔いが醒めちまった、おーーい!酒どこだ酒」

 

魔女「あ。逃げた。ていうかあたしもお酒おかわり」

 

魔王「ほどほどにしておけ、魔女……って聞いてないな」

 

勇者「ははは、あいつらも変わらないな。そりゃそうか。まだ出会ってそれほど時間も経ってないんだよな。

   なんだか初めて魔王城に来た時から随分時が過ぎたように感じるが……まだ1年も経ってないんだった」

   

魔王「不思議だ。ずっと前からここにいるみんなとは知り合いだった気がする」

 

勇者「俺も」

 

魔王「……さっきの話だが」

 

勇者「む、蒸し返すのかよ。結構恥ずかしいこと言ってた気がするから流してくれよ」

 

魔王「もし、勇者くんが勇者くんでなかったとして……私が魔王でなかったとしても……」

 

 

 

 

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761 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:18:00.16 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

魔王「それでもきっと、私は勇者くんのことを好きになってたと、おも……っ」

 

魔王「いや……もちろん、仲間として!」

 

魔王「友人として、という意味だけども……!」

 

勇者「お、おう!?」

 

魔王「えっと、だから……えー……なにを言いたいのか忘れてしまったな」

 

勇者「しっかりしろ」

 

魔王「……まあいいか」

 

勇者「よくねえよ、俺が気になるだろ!なに諦めてんだ、がんばれよ!」

 

魔王「いいじゃないか。思いだしたらすぐに言う」

 

魔王「だってこれから、ずっと一緒にいられるんだから」

 

勇者「……それもそう……なのか?」

 

 

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762 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:23:55.39 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

姫「可愛らしいですね」

 

王子「あの二人はいいコンビになるだろうね」

 

神官「魔王と勇者のコンビって、なんですかそれ。最強じゃないですか」

 

戦士「こうして見ていると、ただの子ども二人なんだがなぁ」

 

魔女「結局、なんで勇者があの姿になっちゃったのかわかんないままだよね」

 

仮面「まあ、姿が元のままじゃあ勇者が変態ロリコン野郎になっちまうからよかったんじゃねえの」

 

姫「ロ……なにを仰ってるの、あなた」

 

そばかす「同い年、同じ日に生まれたそうじゃないですか?あの二人。運命ですねえ」

 

竜人「ハァァァ……魔王様を嫁にもらいたくば私からの4つの試練をクリアして頂かなくてはなりませんね……」バキャッ

 

魔女「竜人、グラスグラス。割っちゃってるから」

 

仮面「嫁って気早すぎだろオメー」

 

 

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763 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:25:29.82 ID:QcYhGkyeo

 

 

* * *

 

 

あれから数年の月日が過ぎ去った。

 

王子は時々いまだ姫様にひっぱたかれながらも、順調に国王の風格を身につけつつある。

 

もともと素養はあったのだろう、外交でも内政でもすぐに辣腕をふるい始めた。

 

ただ時々旅人時代の話し方が出てきそうになるのを抑えるのに苦労しているらしい。やめてくれ、マジで。

 

 

元国王――王子と姫様の父は隠居して、今は王都から離れた東の湖畔地方にて、近しい家臣とともに静かに暮らしているようだ。

 

王子と姫様はときどき彼の元を訪れるそうだ。権力に対しての野心や固執は見られないらしい。

 

毒気が抜けたように穏やかになったと二人から聞いた。

 

 

神官は教師の免許をとって、いまは王都の初等学院にて教鞭をとっている。

 

少し緊張するがやりがいのある仕事だと言って笑っていた。教職も板についてきたようだ。

 

 

戦士は宮殿にて毎日王子の近くで近衛騎士として働いている。

 

王都から離れることが基本的になくなったので、都に住んでいる娘と妻に毎日会えるのは嬉しいと親ばか丸出しで言っていた。

 

 

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764 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:26:56.35 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

女主人はいままで通り昼も夜もあそこで店を開いている。

 

本屋の爺さんも、司書も、歴史研究家も、冒険家も、姫様も、近衛騎士に昇格したそばかすの青年も、

 

いつも通りの日常に戻った。

 

ただ、俺たちが結成した反戦同盟はまだ解散しちゃいない。

 

集まって何かをするということはとりあえず今のところないが、各々魔族と人の歩み寄りのために活動をしてくれている。

 

本当に有り難く、頼りがいのある仲間たちだ。

 

 

仮面のあいつと、双子の盗賊は、驚くべきことに盗賊業から足を洗った。

 

美術鑑定師として店を構えていると聞いたときはまさに青天の霹靂だった。

 

なんでも美術品を盗品か本物かチェックしたり、闇市に流れた美術品を探し出したりと、そういう仕事を専門に請け負っているらしい。

 

……得意分野は仕事として生かすべきだよな。うん。

 

店がもっと大きくなったら、実家に行って母と兄に会うつもりだと、あいつは俺に話した。

 

ちなみに実際はもっと冗長で言い訳めいて回りくどい言い方だった。もう面倒だから素直になれよ……。

 

 

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765 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:29:06.81 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

 

ここ数年でいろいろ変わったことがある。

 

魔王の発案で、魔王城と王都の中間地点に、魔族と人のどちらも住める街をつくった。

 

花が年中咲いていて、住民ものどかで仲のいい、いい町だ。

 

それから魔王城の結界は消えた。もう存在を隠す必要もないからな。

 

あの島には毎日船で人々が観光に訪れている。珍しい果物や美しい海、魔族独特の文化が人気を呼んでいるらしい。

 

 

竜人と魔女は、魔王城や、魔族と人の住む共存都市において細々した仕事をこなしてくれている。

 

魔女は観光PRをするのが楽しいと言って、意気込んで作ったらしいパンフレットを見せてくれたが……うーん。

 

デザインは向いてないみたいだ。ただそれ以外の仕事についてはかなり実力を発揮してくれている。

 

竜人はなんでもそつなくこなしていて、本当に安心できるというか、頼れる……のはありがたいのだが、

 

俺に会うたびに『魔王様に手ぇだしてねぇだろうな?』という無言の圧力をかけてくるのが怖い。とても怖い。

 

だすか馬鹿。親ばかも大概にしろ。親でもないしな。

 

 

まあ、癖はあるが、なんだかんだ言って、信頼できるいい奴らだ。

 

……世界は変わろうとしている。でもまだその途中なんだ。完全には変わっていない。

 

だから今でも魔族と人の衝突は、規模は小さいといえどどこかで必ず起こる。

 

俺と魔王だけじゃあカバーできないところも、竜人と魔女が手助けしてくれるからかなり助かっている。

 

 

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766 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:33:34.94 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

そうそう、俺の背丈もやっと以前くらいの高さの戻った。

 

これで誰にもちびっこだのチビスケだのと馬鹿にされずに済む。全くなんだったんだ、あれは?

 

もう時の女神に会うことはできない。あの剣はなくなってしまった。

 

俺を保護してくれたあの農夫にも聞いたが、俺のそばにあのとき剣など落ちてなかったらしい。

 

だから何故魔王も俺も生きているのか、真相は永遠に闇の中だ。

 

まあそのうち分かる時がくるだろうと楽観的に考えている。

 

 

 

魔王も出会ったときと比べると随分成長した。

 

俺の肩と自分の頭のてっぺんに手のひらを合わせて比べては、満足げに笑う。

 

もうそんなことを20回くらいされた。どんだけ背が伸びたことが嬉しいんだよ。

 

 

ああ、俺と魔王がいま何をしているのかを書いていなかった。

 

俺たちは……―――。

 

 

 

767 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:35:05.43 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

* * *

 

 

雪の国

 

 

 

絵描きの青年「…………。…………ふぅ」

 

絵描き「あとは灰色と空色で……」

 

魔王「……」ジッ

 

絵描き「うわっ!? き……君、いつから僕の背後に!?」

 

魔王「こんな雪が降り積もっている中でよく絵が描けるなと思って。失礼した」

 

絵描き「あ、ああ……そうだね。正直手が悴んで描くのがつらいよ」

 

絵描き「でもこの景色を見ていたらどうしても今描きたくなって……気づいたら外にキャンパスと絵具をもって出てきていた」

 

絵描き「雪って、色がないから風景画の題材としてどうしても海とか空より人気がないんだけど、僕はとても好きなんだ」

 

絵描き「雪の降らない土地で育ったからかな……って、僕しゃべりすぎだな。ごめんごめん」

 

魔王「私もそうだ。初めて雪を見たとき、びっくりした。世界が死んだのかと思った」

 

絵描き「……。すごい捉え方だね。でも分かるよ。一面真っ白な雪に覆われた風景って、きれいだけど少し不気味だね」

 

 

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768 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:36:34.71 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

魔王「少し想像していたのと違ったから怖かった。一人でこの国に来ていたら余計不安だったろう」

 

絵描き「誰かとこの国に?」

 

魔王「ああ」

 

絵描き「……あれ。もしかして、君って魔族かい?」

 

魔王「そうだ」

 

絵描き「ああ、そうなんだ。あんまり魔族と会ったことがないから分からなかったよ」

 

魔王「……くしゅっ」

 

絵描き「大丈夫?そういえば、何故君は外に?」

 

魔王「連れを待っていたんだが……遅いな。まったく、昔からそうなんだ」

 

魔王「もう辛抱ならない。では、私は行く。ぜひその絵を完成させてくれ。楽しみにしてる」

 

絵描き「あ……よかったら連れの人を待つ間に、どこかでお茶でも……! って行っちゃった……」

 

 

 

花売り「振られたね、おにーさん」

 

服屋「どんまい、兄ちゃん」

 

絵描き「うぐ……、見てたのか」

 

 

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769 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:39:57.86 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

花売り「あんたにゃ高嶺の花ってやつじゃあないの? ずいぶん別嬪のお嬢さんだったじゃない」

 

絵描き「うるさいな……そういうつもりじゃなくて、ただ僕は魔族の方と異文化交流を図ろうとしてですね。けっしてやましい気持ちは……」

 

服屋「なんだ、お前ら知らないのか?」

 

絵描き「へ?」

 

服屋「さっきの彼女、魔王だぞ」

 

絵描き「ほあッ!?」

 

花売り「へえ?あの子がねぇ。噂には聞いてたんだけど、雪の国に来てるっていうのは本当だったんだね」

 

服屋「だから兄ちゃんには無理無理。高嶺どころか幻の花だよ」

 

絵描き「ひどい……そこまで言わなくても。ってだから僕は!!」

 

花売り「ってすると、連れっていうのは……」

 

服屋「……ああ。そういえば勇者と二人で旅してるんだっけな」

 

絵描き「……まだ昼だけど、一杯飲み屋でひっかけてこようかな」

 

花売り「涙ふきなよ。次があるって」

 

 

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770 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:41:48.64 ID:QcYhGkyeo

 

 

タッタッタッタ…

 

 

魔王「勇者くん!」

 

勇者「……ん!? 魔王? 時間がかかるから宿で待ってろって言っただろ」

 

魔王「こんなに時間がかかるなんて聞いてなっ、」ズボ

 

魔王「はぶっ!」ボフン

 

勇者「おおおい!!どうしたらそんなにきれいに雪道でこけることができるんだよ!!」

 

魔王「う……顔が冷たいし痛い」

 

勇者「その異常なまでの運動神経の無さは昔から変わってないな……。よし、雪が積もってたせいで怪我はないな」

 

魔王「そんなことより、遅いぞ。待ちくたびれてしまったではないか」

 

勇者「仕方ないだろ。こっちの国の人と話し合いが長引いてさ」

 

魔王「……」

 

勇者「ごめんって。睨むな」

 

 

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771 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:43:53.64 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

勇者「今さっき終わったから戻ろうと思ってたんだよ。お前……まさか外でずっと待ってたわけじゃないよな?」

 

魔王「そんなことはしてないが?」

 

勇者「おい、本当だろうな。なんか目が泳いでないか。大体さっきの話し合いに魔王を欠席させたのも、

   こっち来てからお前がくしゃみばっかりしてるから、風邪でも引いたんじゃないかと思ってだな……」

   

魔王「外で待ってなんかない。本当だ」

 

勇者「そうか、ならいいんだ。外にいる間、なにしてた?」

 

魔王「雪だるまをつくって、絵を描いてる青年と話をしてた」

 

勇者「ガッツリ外で待ってんじゃねーか!なにやってんだ!宿にいろっつったろ!!」

 

魔王「あ……」

 

勇者「……ハァ、もう宿に帰るぞ。これ以上寒空の下にいたら余計体調崩すだろ。ほら」

 

魔王「うん」

 

 

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772 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:52:48.47 ID:QcYhGkyeo

 

 

魔王「勇者くんの手はあったかいな」

 

勇者「魔王の手が冷たいだけだ」

 

魔王「ちがう。君が子ども体温なんだ、きっと」

 

勇者「お前の方が子どもだろ」

 

魔王「もう背も伸びたし、子どもじゃないぞ。お酒だって飲めるようになったんだから」

 

勇者「はいはい」

 

魔王「……。勇……っくしゅ!」

 

勇者「ほら、やっぱ風邪ひいてるじゃないか」

 

魔王「…………大体、待たせる君が悪い。全面的に圧倒的に弁明の余地もないほど勇者くんが悪い」

 

勇者「さすがに言いがかりじゃないか!?」

 

魔王「いっつも私ばっかり待っている。いい加減待ちくたびれた。疲れた」

 

勇者「そんな怒るなよ」

 

 

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773 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2013/10/23(水) 00:58:17.06 ID:QcYhGkyeo

 

 

 

 

魔王「でも、もういいんだ」

 

勇者「ん?」

 

魔王「待ちくたびれたなら、私が迎えに行けばいいということにさっき気づいた」

 

勇者「なんか、それ、俺がかなり情けなくないか」

 

魔王「いいんだ。私が、早く勇者くんに会いたいだけだから」

 

魔王「……いや、もちろん仲間としてだぞ。ええと……そうだ、一人より二人の方が戦闘力的な意味で安心だろう。うん」

 

勇者「魔王一人で大概のことはなんとかなると思うが……」

 

魔王「とにかく。決めたんだ。勇者くんがどこにいても、どんなに離れていても」

 

 

魔王「これからは待ってばかりいないで、迎えに行く。もう私は、城で待つことしかできない子どもじゃないんだ」

 

魔王「私はもうどこにでも行ける。君が自由にしてくれたんだ。……だから」

 

 

 

 

魔王「今度は、私が君を迎えに行くよ。勇者くん!」

 

 

 

 

 

 

おわり

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