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256 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:56:41.01 ID:0fEikvQ3o

 

 

ザッ……

 

男「チッ どこ行った」

 

髭男「見失ったか。くそ、あと一歩だったって言うのに。仕方ない、諦めてまた別の子探すか……」

 

 

ザッ……ザッ……

 

 

 

剣士「……」

 

勇者「行ったか……よかった。ハァ」

 

剣士「勇者ぁーーーーっ」バタバタ

 

勇者「雪の国恐すぎる……大丈夫だった? なんもされてない?

   そもそもなんでこんな街の外れまで来てるんだ。ここは歓楽街なんだから危ないよ」

   

剣士「あの髭生えたおじさんがカジノまで案内してくれるって言うから……。

   ……あ!そういえばあの人が言ってたけど、カジノよりお金稼ぐいい方法あるって!

   でも若い女の人しかできない仕事らしいんだけど」

   

勇者「いやだめだ。しなくていい。絶対だめだ」

 

剣士「え、でも」

 

勇者「だめ!」

 

剣士「なんで!?」

 

 

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257 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:58:17.64 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

 

勇者「なんでって……その……後で狩人にでも訊いてくれ」

 

剣士「わ、分かった。そういえば勇者はなんでここに?ゲームはどうなったの?」

 

勇者「剣士がいないことに気づいて、なんか嫌な予感がして追いかけてきて……

   ゲームは……ゲーム、は」

   

勇者「………………………………あ」

 

 

 

 

 

~~~

 

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258 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 22:01:00.95 ID:0fEikvQ3o

 

 

支配人「はいもう閉店ですからねーまたのご来店をお待ちしてますー」ニヤニヤ

 

 

 

僧侶「くそ、腹立つ」

 

狩人「……雨……」

 

勇者「うわ、本当だ。まずい」

 

狩人「雷……」

 

勇者「やばい女神様もしかして怒ってるのかもしれない、やばい。困った」

 

僧侶「とにかく明日の朝まで雨を凌がねえとな。空き家とかないのか、ここらへんには」

 

勇者「なさそうだね」

 

剣士「空き家……あっ」

 

剣士「あの、『幽玄の館』ならいま人が住んでないって!!」

 

僧侶「あそこに見える城か?」

 

剣士「うん、でも、その、えーと、……幽霊が出ても大丈夫なら……」

 

勇者「幽霊?」

 

 

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259 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 22:03:23.07 ID:0fEikvQ3o

 

幽玄の館

 

 

ピシャーン!……ゴロゴロゴロ……ビチャビチャ

 

 

勇者「……すごい雨と雷だ。城の中、正直ものすごく不気味だけど、外よりはましか」

 

剣士「やっぱり女神様怒ってるんじゃないのかな、これ」

 

勇者「い、いやでもここは雪の国だから……多分大丈夫だろう、多分」

 

 

狩人「奥の方に寝室ありました。……ベッドも……食べ物はなかったですけど」

 

僧侶「それにしてもひどい有様だな。蜘蛛の巣だらけで床には皿とかが割れた破片が散らばって……

   誰かここで暴れたとしか考えられん。灯りもないときた。雷があって逆によかったかもな」

   

勇者「盗賊も幽霊もいないみたいだし、案外住めば都になるか」

 

剣士「住みたくはないけど」

 

僧侶「でも怖かったら剣士ちゃんも狩人ちゃんも俺に抱きついてきていいぜ!!いつでもどこでも構わんぞ!!」

 

勇者「とりあえずここで朝まで休もうよ。お金のことは明日また考えよう。

   いざとなったら僕が内臓売ってでもまとまった金つくるから」

   

剣士「こっ怖いこと言わないでよ! 大丈夫だよ、なんとかなるって!!」

 

 

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260 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 22:08:19.05 ID:0fEikvQ3o

 

 

勇者「見張りはいっか。じゃあ、おやすみ」

 

僧侶「じゃあ寝る前に……怖い話するか?」

 

勇者「なんでそうなる?」

 

剣士「はい!断固反対します!!それに怖い話したら幽霊が集まってくるって聴いたことがあるのでいやです!!」

 

狩人「でも……そもそも幽霊とは何なのですか。亡くなった人の魂は冥府に送られるのでは?」

 

剣士(かかかか狩人ちゃん!?)

 

剣士「ねえ勇者は怖い話したくないよね?ね?」

 

勇者「……」

 

剣士「ってもう寝てるー!!早い!!さすがっ! 今日疲れたもんね、そうだよね!!ごめんね!!」

 

 

僧侶「幽霊は冥府に導かれるのを拒んで現世に留まった霊魂だ」

 

狩人「導き……」

 

僧侶「冥府には番人がいるらしいんだ。この世界の二人の創始者のうち一人がそれだと言われている」

 

僧侶「肉体の呪縛から解き放たれた魂は、冥府に送られて番人の手に委ねられるが……

   番人を拒絶した魂が肉体を伴わないままこの世界にいると、俺たちの言うところの幽霊ってなるわけだ」

   

剣士(ひいいいなんか結構真面目な感じで始まってるう)

 

 

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261 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 22:13:18.58 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

狩人「……創世者の一人が冥府の番人なら、もう一人はなにをしているの?」

 

僧侶「俺たちが住む大陸の守護神や、あーあと……時の女神?だっけ、あと諸々の神様を統率する、

   神様軍団の大ボスみたいな感じか。具体的になにをしてるかは聖典にも載ってないんだよ」

   

僧侶「伝説も神話もほとんどないし、概念的な存在かもな。

   あ、いや。でも勇者とする者を人の子から選別するのは……その神か」チラ

   

勇者「……」

 

僧侶「その勇者は今アホみたいに熟睡してっけどな」

 

剣士「へええ、神様ってたくさんいるんだね。神様すごーい!!じゃあ寝よ!!おやすみ!!」

 

狩人「……?」

 

剣士「どうしたの?狩人ちゃん」

 

狩人「……何か……今……下の方から聞こえました。人の声のようなもの……」

 

剣士「んえ゛」

 

 

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262 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 22:16:01.34 ID:0fEikvQ3o

 

 

* * *

 

剣士「ねえ本当に行くの?本当に?」

 

狩人「盗賊だったら大変……」

 

剣士「幽霊だったら!?」

 

僧侶「まあ、迷いし魂に、冥府に続く道しるべを照らしてあげるのも神職の役目だからな」

 

剣士「珍しく僧侶くんが僧侶っぽいこと言ってる!」

 

僧侶「だろ? 剣士ちゃんはそこで寝こけてる勇者と一緒にいてくれよ」

 

剣士「うう……二人は怖くないの? わ、私も幽霊なんか怖くないけど」

 

僧侶「はっはそんなの全然怖くなっ……」

 

 

ガタン

 

 

僧侶「オゥワーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

剣士「きゃあああああああああああああああああっ!?」

 

狩人「ひゃっ……!」

 

 

僧侶「ぜ、ぜ、ぜ、全然怖くないな。いまのはちょっと持病がなッハッハッハ」

 

剣士「わ、私も、別に怖がってなんかないけどさ!?」

 

狩人「……幽霊よりあなたたちの方に驚く……驚きます」

 

 

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266 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/04(火) 21:40:59.83 ID:ZEePks+po

 

 

 

剣士「……二人とも行っちゃった……」

 

剣士「…………別に幽霊屋敷なんて全然これっぽっちも怖くな」

 

 

ゴロゴロゴロピシャーーン!!

 

 

剣士「ひっ!! べべべべべ別に全然全くこれっぽっちも滅茶苦茶超怖いよーーーー!!!」

 

剣士「わーーん!早く朝になってよーーーっ!!」

 

 

 

* * *

 

 

僧侶「はあ、ほんとすげえ天気だな。これじゃ明日の天気もどうなることやら」

 

狩人「……あの……もうひとつ……訊きたいことある……のですけど」

 

僧侶「ああ、恋人なら今いないぜ」

 

狩人「それはどうでもいいです」

 

僧侶「彼女なら募集中だが」

 

狩人「それは心底どうでもいいです」

 

僧侶「さすがに二度言われると凹むな…… で、何が?冥府のこと?僧侶ちゃん食いつくな」

 

狩人「はい。冥府とは……どんなところなんですか?里にいた神職の人は……とても美しいところだと言ってました。

   でも、何故見たこともないのにそう言いきれるのですか。それは生者への……気休めではないか」

   

狩人「……あなたは一般的な聖職者と違って……」

 

僧侶「かっこいい?」

 

狩人「誰かに気休めとして嘘を言う優しい人ではないと思いました」

 

僧侶「喜んでいいのか微妙なラインだな」

 

狩人「あなたは冥府をどんなところだと……思う……ですか」

 

僧侶「俺も見たことないから何とも言えねえなぁ」

 

僧侶「冥府の番人は鍵を守っているらしい。死者が導かれる扉の鍵だ。

   冥府の先の世界……扉の先は誰も知らない。俺たち生者は知ることを許されていない」

   

僧侶「でも、ま、生きてる間に苦労して、そんでやっと死ねたかと思ったらまた辛い世界だなんて

   それこそ生きる気力も死ぬ気力もなくしちまうな。だから冥府と、その先は、いい世界だって俺は信じてるぜ」

   

狩人「……。そう」

 

僧侶「おう」

 

 

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267 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/04(火) 21:42:37.77 ID:ZEePks+po

 

 

 

僧侶「まあこれも気休めになっちまうか」

 

狩人「いえ」

 

 

ガタ……、…… ……

 

 

僧侶「! 物音と人の声だな。階段の下……奥の方から。こりゃ本当に幽霊か盗賊だな。

   剣士ちゃんにはああ言っちまったが、もし幽霊だった場合、どう倒せばいいと思う?」

   

狩人「……さあ……」

 

僧侶「攻撃効くのかね。 ……それにしてもたくましいな。幽霊怖くねーの?

   おおおおおお俺は怖くないけどな」

   

狩人「死者は怖くない。……そして、死も」

 

狩人「戦いの中で死ねるなら、本望です」

 

僧侶「…………。なんだか君は現世よりあっちの世界を見据えてる気がする」

 

僧侶「狩人ちゃんの亡くなった婚約者だって、君がそんなこっ―――」

 

 

ガタンッ

 

 

狩人「……?」

 

狩人「僧侶? …………? どこに行ったのですか?」

 

 

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268 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/04(火) 21:43:42.19 ID:ZEePks+po

 

 

* * *

 

 

シクシクシクシクシクシク……

 

 

勇者「うーん…………ん……ん?」

 

勇者「け、剣士。どうしたの?」ビクッ

 

剣士「起きたんだ……ぐすっ……おはよう」

 

勇者「まだ夜だけど……。あれ?二人は?」

 

剣士「実はかくかくしかじかで勇者が寝てる間に一階に……。

   でもまだ帰ってこないのーーーーーー!!けっこう時間経つのに二人とも帰ってこないのっ!!!」

   

剣士「どうしよぉぉぉぉぉ 幽霊に遭ったのかもしれないよぉぉぉぉ……」シクシク

 

勇者「僕が寝こけてる間にそんなことがあったとは。大丈夫、僕がちょっと探しに行ってくるよ。

   君はここで待ってて――」

   

剣士「……」

 

勇者「……じゃなくて、いっしょに行こうか」

 

剣士「うん」

 

 

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269 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/04(火) 21:45:14.76 ID:ZEePks+po

 

 

 

勇者「窓のないところは暗くて前が見づらいな。はあ……魔法が使えたら」

 

剣士「まだ杖は質屋だもんね!早く取り返せるといいよね!」

 

勇者「……そんなにしがみつかれると歩けないんだけど……」

 

剣士「し、しがみついてないじゃん! 勇者は方向音痴なんだから迷ったら危ないかなって思ったの!」

 

勇者「さすがに室内では迷わないよ。昔から暗いところとかお化けとか怖がってたけど

   幽霊なんて死んでるだけじゃないか?そんなに怖い?」

   

剣士「は、は、はあー!?なに言ってんの? 生きてたら斬れるけど死んでたら斬れないんだよ?

   滅茶苦茶怖いよ!!!!! 一方的にこっちがやられるだけなんだよ? こわっ!!!」

   

勇者「あ、そこなんだ」

 

剣士「っわーーーーーーーーー!!!」

 

勇者「わああああああ!? なに!? どうしたの!?」

 

剣士「今、階段下から話し声がっ」

 

剣士「狩人ちゃんたちの声かどうかは分からなかったけど、いま絶対絶対声がしたよっ……!

   ……ねえ、聞いてるの勇者?? ゆう……」

   

剣士「…………!?!?あ。あれ? 勇者? ……え? いない?」

 

 

剣士「ちょっと……勇者ぁぁ! 室内では迷わないって言ったくせに!! どこ行ったのよぉぉっ」

 

剣士「……ねえぇ……グスッ……もうやだーーーっ!!」

 

 

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270 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/04(火) 21:46:27.48 ID:ZEePks+po

 

 

 

ドタンドタンッ!!

 

 

勇者「うわっ! い、一体……ここは?」

 

勇者「廊下で手すりを掴んだ瞬間、横の壁がぐるっと回転して、あっという間に変な場所に来てしまった。

   これって隠し扉かな。何のために……。あっ戻れない」

   

勇者「ていうか前にもこんなことあったな。こんなのばっかりか」   

   

勇者「剣士の声も聞こえないな。結局バラバラになってしまった……大丈夫かな。

   急いで出口を探さないと」

   

 

 

勇者(細い階段がある……屋根裏部屋? とにかく行ってみるしかなさそうだ)

 

 

ミシ……ミシミシ……ミシ

 

 

勇者(うわ、館自体すごい古かったけど、ここの床は相当だな。いつ抜けてもおかしくない。

   というか抜けそう。いや絶対抜ける。そして僕は階下に落ちて腰を強打する予感がある)

   

勇者「……? 何か見え………… あ、あれは」

 

勇者「宝箱!?」

 

??「………………」スッ

 

勇者「まさか財宝が……  !!」バッ

 

??「チッ!気づかれたか」

 

勇者「誰だ? いきなり背後から斬りつけようとするなんて無礼だな」

 

盗賊男「そいつぁ失礼……へっへ」

 

盗賊女「その宝はあたしらんだよ。どきな」

 

 

 

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271 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/04(火) 21:47:34.36 ID:ZEePks+po

 

 

 

勇者「宝だと!?」

 

盗賊男「そうだあ!お前もそれ目当てにここに探しに来たんだろ? 巷じゃ最近噂だもんな」

 

盗賊女「この館に今なら金貨1000枚相当の宝が眠ってるってね!

    あたしらはそれで魔族が襲ってこない安全な土地に引っ越すんだ」

    

盗賊男「そうさ、歓楽街の酒びたりどもは楽観的だが、ここもそう長くないだろうしな。

    だからさっさとその宝もらってトンズラすんだよ、オラどけ小僧」

    

勇者「き……金貨1000枚!?!?」

 

盗賊女「こいつ、あたしらの話何一つ聴いてねえな!!」

 

盗賊男「目が宝箱に釘つけになってやがる……大人しくしときゃあ痛い目合わずに済んだのによ」

 

 

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272 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/04(火) 21:49:41.06 ID:ZEePks+po

 

 

 

盗賊男と盗賊女が襲いかかってきた!

 

金に目が眩んだ勇者は攻撃力・敏捷性ともに2倍になった!

 

 

盗賊女「ああ!?おいなんだそれずるくねーか!」

 

勇者「金貨金貨金貨金貨……」

 

盗賊男「ひいいいい なんだこいつ!?強っ きもっ――ウギャッ」

 

 

盗賊男を倒した!

 

 

勇者「…………」スタスタ

 

盗賊女「ちょ、ちょっと、えええ? な、なんなんだお前は……こっち来るな!」

 

勇者「じゃあ宝は僕のものということでいいかな」

 

盗賊女「わ、わかった。持ってきなよ」

 

勇者「助かった……!!これで雪原を越えられる」

 

盗賊女「……なんちゃってな!背中を向けたな小僧っ!!」バッ

 

 

ミシミシミシミシ…………バキッ!!

 

 

盗賊女「はえ」

 

勇者「あ」

 

 

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273 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/05(水) 00:32:16.17 ID:8Twj8RMgo

 

 

 

* * *

 

 

剣士「もう信じられない!あんな自信満々に迷わないって言ったくせに、僅か数秒で姿消すってどういうこと?」

 

剣士「……だ、大丈夫。多分女神様にもらった剣>幽霊 のはずだよね。うん。一人でもできる。階段を降りよう」

 

剣士「階段を降りようってば!!!なんで動かないの!!…………………………怖いからだよーーー!!」

 

剣士「わあああああああん!怖いよおおおお……勇者どこ行っちゃったのーーー!!」

 

 

 

剣士「……」

 

剣士「……一人にしないで……」

 

 

 

 

ミシミシミシミシ……バキャ!!

 

 

剣士「え?」

 

盗賊女「ひゃあああああああああああ!!……あうっ!!」ドサ

 

盗賊女「キュウ」

 

剣士「え?」

 

勇者「やっぱり抜けると思ったんだよ……絶対こうなるって思ってた。イテテ、あ、剣士」

 

剣士「え?」

 

 

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274 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/05(水) 00:34:06.03 ID:8Twj8RMgo

 

 

 

勇者「見つけたよ、金貨。これで大雪原も渡れるし、明日から宿の心配をしなくてもいい。

   さっきいたところが隠し扉になってて、この上の階に宝箱が、」

   

剣士「黙らっしゃい!」ペチーン

 

勇者「ええええ?なんで?」

 

剣士「もう……目を離すとすーーぐどっか行っちゃうんだから馬鹿ーーーーっ!!」ギュッ

 

勇者「けっ剣士!?」

 

剣士「……」ギュー

 

勇者「……ごめん」

 

 

 

僧侶「はいはい、いちゃついてるところ悪いんですけどね!!!

   1階にいた盗賊どもひっ捕まえて訊いたらここに財宝があるっぽいですよ!!!」

   

狩人「ここ……隠し通路たくさん……」

 

剣士「僧侶くん!狩人ちゃん! よかった、無事だったんだ……!!遅かったから心配したんだよ」

 

勇者「1階にも盗賊がいたのか。間一髪だったな」

 

僧侶「1階『にも』?」

 

勇者「宝なら見つけたよ」

 

 

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275 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/05(水) 00:34:48.86 ID:8Twj8RMgo

 

 

* * *

 

 

男「ええっ? なんだ、本当に金持ってきたのか!! さすが勇者御一行……毎度ありぃ」

 

男「でも、ほんと、これでも安いくらいだぜ。最近雪原も物騒で、獣も魔族も出放題。走るソリ自体減ってるからな」

 

僧侶「安いくらいだってよ。この国は物価が高ぇなあオイ」

 

剣士「いくらなんでも高すぎだよー」

 

男「その分速さと安全性は保証するぜ! さあ、さっそく出発だ。乗った乗った」

 

 

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281 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 00:30:20.20 ID:5O8t92t/o

 

 

ソリの上

 

 

剣士「ひゃー!寒いけど楽しい!すごい!」

 

勇者「剣士は元気だなぁ」

 

僧侶「ジジイかお前は?」

 

男「あんまり窓開けるなよー。丸一日このソリに乗ることになるからな」

 

勇者「次の町はなんでしたっけ?」

 

男「初雪の町だ。のどかでいいところだぜ。雪に咲く花畑が有名だよ」

 

狩人「雪に咲く……」

 

剣士「ちょっと見てみたいね!」

 

僧侶「女の子はそういうの好きだよなぁ。いいね、花畑に女の子の絵面。至高だな!!!!!」

 

勇者「僧侶も元気だね」

 

男「……ん?」

 

 

ガタタン

 

 

勇者「うわ、どうしたんですか?」

 

男「いやあ……なんか急に犬の様子がおかしく……一体どうしたってんだ?」

 

勇者「一旦外に出て見……」

 

 

ドゴーーーーーンッ!

 

 

剣士「なんの音!?」

 

勇者「魔族か獣に人が襲われているのかもしれない。行ってみよう!」

 

 

 

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282 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 00:32:30.40 ID:5O8t92t/o

 

 

 

 

* * *

 

 

女エルフ「はーーー……くしゅっ」

 

女エルフ「さむぅ……。鼻水出てきたぁ……」

 

女エルフ「でも鼻水なんて出してる場合じゃない。勇者はどうやら今ヒュドラ様のいる雪の塔に向かってるらしいのね」

 

女エルフ「太陽の国から雪の塔まで行くにはこの大雪原を通らないといけない。

     だったら待ち伏せしない手はないってことよね」

     

女エルフ「私自身はとっても魔力が弱くて非力だけど……いくらだってやりようはあるのよ。ふふん。

     例えばこうして待ち伏せして不意打ちしたり、『道具』の力を借りたりぃ」

     

女エルフ「……ね! 『失敗作』ちゃんたち。期待してるから、頑張ってね」

 

××「ォアァァァ……」

 

××「ウウウゥゥゥア」

 

女エルフ「グリフォン博士は君たちのこと『失敗作』だなんて言ってたけど

     ……まあ見た目はともかく、攻撃力だけはすごいじゃない?

     君たちが一緒にやっちゃえば、勇者だって容易い容易い!」

     

女エルフ「勇者を倒せたら私は一気に昇進だ。えへへ。魔王様に認めてもらえる。

     もしかしたら王子様ともお近づきになれるかも!

     それに魔族の中のエルフ族の地位も上がるだろうしいいことづくめだね!」

     

 

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283 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 00:36:07.66 ID:5O8t92t/o

 

 

 

女エルフ「勇者の仲間はいらないから全部殺して、勇者だけ生かそうかな。

     手足もいで部屋で飼おうっと」

     

××「ヴアァァァ……ガァァ」 ゴンッゴンッ

 

女エルフ「あーもーうるさいな。なにしてんの? でかい図体してるんだから暴れないで、うるさいよ」

 

女エルフ「しかし本当に大きいし、醜い体だね。白日の下で見ると余計気持ち悪い……うえ。

     博士の趣味はやっぱり理解できないな」

     

女エルフ「人間の姿って耳も顔も元から不格好だけど、よりひどい姿にされちゃったね。かわいそ」

 

××「アアアアアアアアァァァァ」

 

女エルフ「だからぁ、うるさいって。待ち伏せしてるんだから、静かにしててよ」

 

女エルフ「『失敗作』ちゃん」

 

 

ドゴッッ!!

 

 

女エルフ「……え?」

 

 

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284 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 00:39:06.24 ID:5O8t92t/o

 

 

 

××「ギヤァァァァァァ!!」ダンダンッ

 

女エルフ「ちょ、…………きゃっ!!」

 

××「アアアアアアアアアアアアア!」

 

女エルフ「いた……っ! い、痛い痛いってば! なに、急にどうしたの!

     なんで私の命令聞けなくなっちゃったの? 道具なのに……

     もしかしてグリフォンさんのミス!? あの変態め!!」

     

××「アア……ァアアア……」

 

 

ズシン……ズシン……

 

 

女エルフ「待って! 落ち着いてよ、もう。……来ないで!来ないでってばぁ」

 

女エルフ「……っ もう勇者のことはこの際いいや、逃げよう」パッ

 

××「ユ……ルサナ……」グッ

 

女エルフ「いっ!? は、離し―――」

 

 

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285 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 00:40:42.33 ID:5O8t92t/o

 

 

 

……ゴォォォォォォ!

 

 

××「ギャアアアアアアアアアァァァッ!!」

 

女エルフ「ひっ……?」

 

 

 

 

 

勇者「なんだ、あの化け物は……? ……魔族か?」

 

剣士「人がいる!ほら、あそこ! 白いフードの外套を着てるから見えにくいけど……助けなきゃ!」

 

狩人「化け物は複数いる。気をつけて」

 

僧侶「おう!」

 

 

 

女エルフ「え?え?何今の?……炎……?魔法?」

 

女エルフ(えっ……あ、あれって……勇者!! うそぉこんなタイミング悪い時に!

     四面楚歌どころじゃないっ!あああ、どうしよう!)

     

××「ウァアアアアアアッ!」

 

女エルフ「!? う、後ろに……!」

 

 

――ズパッ!!

 

 

剣士「大丈夫?」

 

女エルフ「へぁ……!?」

 

剣士「足を怪我してるの? 待ってて、今離れたところに連れていってあげるから。

   勇者たちがあの化け物を倒してくれるから、もう安心していいよ!」

   

女エルフ(あ……フードと外套で外見が見えないから、私を人だと思ってるのね)

 

 

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286 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 00:41:41.87 ID:5O8t92t/o

 

 

 

女エルフ「は、はい」

 

女エルフ(人間なんかに助けてもらうのなんて屈辱だけど、とりあえずここは勘違いさせとこう……)

 

 

勇者は風魔法を唱えた!

辺りに強風が吹き乱れた!

 

 

――ピラッ

 

 

女エルフ「…………あ」

 

剣士「え……? その……耳と目……それに羽根は…… まさか君、魔族なの?」

 

勇者「ん?魔族?」

 

僧侶「なんだと?」

 

狩人「……!!」ギラッ

 

 

女エルフ(オワタ)

 

 

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287 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 00:45:52.82 ID:5O8t92t/o

 

 

 

 

僧侶「剣士ちゃん、右から来てるぜ!」

 

 

××が剣士と女エルフに殴りかかった!

 

 

女エルフ「……!!」ギュ

 

剣士「こっち!」グイ

 

女エルフ「え!?」

 

 

剣士と女エルフは攻撃をかわした!

剣士の攻撃!××の右手らしきものを断ち切った!

 

狩人の攻撃!××にダメージを与えた!

 

 

狩人「……急所が全然分からない……それに痛みで動きが鈍る様子もない。

   これではいつまでたっても……」

   

勇者「それなら丸ごと焼こう。まかせて」

 

 

勇者の火炎魔法!××の巨体は火柱に覆われた!

断末魔はしばらく空に響き渡った後、雪に溶けて消えた。

 

××を殺した。

 

 

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288 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 00:47:40.10 ID:5O8t92t/o

 

 

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――――

 

 

僧侶「なんだったんだ、こりゃあ。焼死体になってもまだ薄気味悪い」

 

勇者「やっぱり魔族かな。……魔族と、言えば」チラ

 

女エルフ「……」

 

狩人「殺しましょうか」

 

勇者「待ってくれ」

 

 

勇者「……エルフ族か。どうして魔族同士で仲間割れを? ……って、僕の言ってること分かるかな」

 

女エルフ「…………馬鹿にしないでよね」

 

勇者「さっきも気になってたけど、君は人間の言葉が通じるんだね。

   いや、前に塔で戦った吸血鬼とも話せたけど。魔族の中には人の言葉を理解する者もいるのか?」

   

女エルフ「逆に訊くけど、人の中に魔族の言葉を理解する者はいるの?」

 

勇者「え……? それは、いないと思うけど」

 

女エルフ「だろうね。人間ってそうよね、いつも自分たちのことを中心に考えてるんだから」

 

女エルフ「君たちがそんなんじゃ、私たちだって君たちの言葉を学ぼうとすることなんてないよ」

 

剣士「でも現に今、君、人の言葉を喋ってるじゃない」

 

女エルフ「魔族の中にはとっても高度な、言語に関わらず意思疎通する魔法を使える者がいるの。

     エルフ族みたいなね。

     今私は人の言語じゃなく魔族の言葉を話してるけど、魔法でそれを互換してあげてるのよ」

     

勇者「そんな魔法があるのか」

 

 

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289 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:19:42.30 ID:5O8t92t/o

 

 

 

 

勇者「……」

 

女エルフ「……はあ……しくじった。もういいわよ、早く殺しなさ、」

 

狩人「じゃあ遠慮なく」

 

女エルフ「ちょっと最後まで聞いてよ」

 

 

僧侶「しくじったってことは、俺たちを待ち伏せしてたってことか」

 

女エルフ「悪い?」

 

僧侶「悪くはないな。戦いに卑怯もクソもねえし」

 

狩人「…………」ギリ

 

 

ヒュッ!

 

 

女エルフ「……!」ギュッ

 

女エルフ「…………?」

 

狩人「どういうつもりですか……勇者」

 

勇者「……このエルフは、別に殺さなくても害は……ないんじゃないかな? 力も弱いようだし」

 

狩人「正気ですか。敵ですよ。あなたの命を狙って、さっきの化け物を従えてここで待ってたのです」

 

勇者「それは、分かってるけど」

 

女エルフ「……勇者。馬鹿じゃないの?」

 

狩人「馬鹿って言われてますけど」

 

勇者「う」

 

 

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290 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:20:50.13 ID:5O8t92t/o

 

 

 

 

 

女エルフ「……そこのあんたも」

 

剣士「え?私?」

 

女エルフ「どうしてさっき、私がエルフだって分かってたのに助けたの」

 

剣士「え、うーん……分かんない」

 

女エルフ「ほんっと馬鹿みたい。そんなんじゃいつか全員死んじゃうよ。

     そんな甘い考えで勝てるほど私たちは軟弱じゃないんだからね!」

     

勇者「僕たちだってそんなに弱くない。 …………治癒魔法」

 

女エルフ「……敵の怪我まで治して、最初見たときから思ってたけど、勇者ってほんとヤサシイんだね。

     ばっかみたい。こんなことされても私は人間なんて大嫌いなんだからね」

     

勇者「もう僕たちを襲わないって約束してくれるなら、ここから逃がしてあげるよ」

 

女エルフ「分かったわ。約束――するわけないでしょ! ばーーか!」パッ

 

勇者「ええっ……」

 

剣士「あ、飛んだ」

 

女エルフ「私に情けをかけたことをいつか後悔することね。じゃあね」ヒラ

 

勇者「ちょっと待って!最後に教えてくれないか。さっきの……僕たちが倒した化け物は……

   あれは、本当に魔族なのか? 種族は?」

   

女エルフ「ああ、あれ? いいよ、教えてあげる……。……」

 

女エルフ「やっぱ嘘。……知らない方がいいんじゃない? じゃあね、ばいばーい」

 

 

パッ……

 

 

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291 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:21:31.56 ID:5O8t92t/o

 

 

女エルフ「人間に情けをかけられるなんて最悪。最悪最悪最悪!」

 

女エルフ「こんなのおじい様に報告できないよ……あーあ……いい作戦だと思ったのに」

 

女エルフ「……魔族を助けるなんて馬鹿みたい。敵なのに」

 

女エルフ「ばっかみたい!私のことなめきってるのね! きーっ」

 

女エルフ「今度は、私が……絶対……!」

 

 

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292 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:22:57.17 ID:5O8t92t/o

 

 

 

* * *

 

 

 

男「あともうちょいで初雪の町につくぜぃ」

 

剣士「はーい」

 

 

剣士「わーい、町にもうすぐ着くってさ!一日中ソリに乗ってたから腰が痛いや。

   お腹もすいちゃったしね!今日の夕食はなに食べようかなぁ!」

   

僧侶「寒いから早く風呂にも入りたいよなー。見てくれよ剣士ちゃん、寒すぎて俺の鼻も髪の毛も真っ赤だろ?」

 

剣士「あはは本当だー、って僧侶くんの髪の毛は元々赤毛じゃん!」

 

勇者「はは……」ダラダラ

 

狩人「………………………………」

 

勇者「……」ダラダラ

 

剣士「……」

 

僧侶「……」

 

 

 

剣士「あのー……ね?ほら……狩人ちゃん……僧侶くんのボケおもしろくなかった?

   元々赤い髪の毛なのにさ……あはは!変なのー!!」

 

僧侶「勇者お前早く狩人ちゃんに土下座しろ!!!おらっ!!床に頭をめり込ませるレベルまでだよ!!!」ゴンッ

 

勇者「痛い痛い!骨砕ける!」

 

勇者「……えっと……その、ごめん。狩人」

 

狩人「…………謝るということは、今後同じ状況になったとき、違う行動をとれるということですか?」

 

勇者「そ、それは……」

 

狩人「あのエルフが言ってた通り、あなたは甘い。……と思います!」ダンッ

 

僧侶「おお珍しく狩人ちゃんが大声を! そうだそうだお前が全部悪いぞ勇者!!」

 

狩人「僧侶はしばらく静かにしていてください!」

 

僧侶「ええッ」

 

 

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293 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:26:28.94 ID:5O8t92t/o

 

 

 

 

 

剣士「二人とも喧嘩しないで仲良くしようよ……」

 

狩人「そういうわけにはいかないです。勇者、……それから剣士も。

   戦いに関してそんな甘い考えでいたらだめです」

   

狩人「今殺さない敵はいつか力を蓄えてより強大な敵になります。殺せる時に殺さなければ。

   誰かが……大切な人が、いなくなってから後悔しても遅いです」

   

狩人「……遅いんです」

 

勇者「でもやっぱり僕は……敵だとしても、殺す必要がないのならそうしたくはない」

 

勇者「勿論、王都を勇者として旅立ったときから、戦いの末に敵の命を奪うことになるのは覚悟してたよ。迷いはない。

   狩人の言ってることも分かる。今日僕がしたことはいつか自分の首を絞めることになるかもしれない」

   

勇者「だけど、もしかしたらそうじゃないかもしれないじゃないか。

   その可能性を捨てて、必要性のない殺しをするのなら、それは…………。……」

   

狩人「魔族と一緒だと、言いたいのですか?」

 

勇者「……」

 

狩人「あんな奴らと一緒にしないで……!」

 

剣士「あ、あ、あのさ? わ……私も、勇者に賛成かも。

   強くて悪い魔族だけ倒せばいいんじゃないのかな? 弱い敵は……殺さなくっていいなら、殺さなくていいと思うけれど」

   

剣士「そうだ、私たちがもっともっと強くなったら無問題なんじゃないかな!」

 

狩人「楽観的すぎます……。死んだら、もう終わりなんです。

   死んじゃったらもう会えないんです。二度と……」

   

狩人「だから、殺される前に殺さなくてはいけない……!

   それが戦場を生き残るたったひとつの術なのだから……」

   

勇者(確か狩人は婚約者を魔族に殺されて……)

 

勇者「でも彼らにだって僕たちみたいに、自分の言語や文化、歴史があるように家族や友人がいると思うんだ。

   できればそれを不用意に奪いたくない……できれば」

   

狩人「……」

 

 

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294 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:28:10.80 ID:5O8t92t/o

 

 

 

剣士「僧侶くん……、どうしよう。二人とも一歩も譲らずって感じなんだけど」ヒソ

 

僧侶「まあ、あれだな。勇者も狩人ちゃんもどっちも考えを変えるつもりはないわけだ。

   これ以上は話し合いも平行線だな」

   

僧侶「別に違う考えを持ったままでいいんじゃねえか?

   無理してひとつにまとめなくても。元々性格もバラバラな俺たちなんだ、いいだろそんくらい」

   

勇者「え? ああ……確かにそうかもしれないね」

 

剣士「あ、そうだよね。僧侶くんいいこと言うじゃん!」

 

僧侶「それにもうすぐ町に着くし、早く風呂入って寝たいんだよな、俺。女湯も覗かなくちゃいけないし」

 

剣士「前言撤回するね!」

 

狩人「……私はやっぱり勇者と同じようには考えられない。でも、あなたもそのつもりならば、

   あなたがその意思を持ちながらどこまでいけるのか……興味があります」

   

狩人「そうして何も大切なものをなくさずに全て成し遂げられた時には、私も考えを改めることにします」

 

勇者「……うん」

 

剣士「はい、じゃあ仲直りの握手!」

 

狩人「喧嘩をしていたわけでは……」

 

剣士「いいからいいから」

 

勇者「心配してくれて、ありがとう。狩人」

 

狩人「……いえ。別に、私は……」

 

 

男「おぅい、もう着くぜ。下りる準備しとけ」

 

剣士「はーい!」

 

 

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295 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:34:12.84 ID:5O8t92t/o

 

 

 

* * *

 

 

翌日 初雪の町

 

  

 

勇者「武器屋と防具屋の品ぞろえがすごい充実してるな。そんなに大きな町じゃないのに。

   それに……武器を身に付けた人が多い」

   

槍使い「ぜんぶ傭兵志願者さ。王都がいま兵士不足って嘆いててな、破格の給料で傭兵が雇われてんだ」

 

武器屋「おかげさまで商品が儲かるのなんの」

 

眼帯男「ま、どんだけ兵士がいようが傭兵がいようが、騎士がいようが……

    魔族どもにゃ痛くもかゆくもないだろうなって話してたんだけどさ。

    勇者が来てくれたのなら希望が見えてきたって感じかな」

    

槍使い「でも、装備はちゃんと雪の国用のを買った方がいいぞ」

 

勇者「うん。そうするよ」

 

 

勇者「古城で見つけた財宝を換金したお金が余っていてよかった」

 

僧侶「よう勇者。そんでその金ってまだ余ってんのか」

 

勇者「余ってるけど……装備を買うための分はもうみんなに分けたよね。高い防具でも見つけたの?」

   

僧侶「いや装備じゃなくて、酒を買おうと思ってな!! いい店見つけたんだこれが!!

   お前も行くか?剣士ちゃん一筋もいいが、男は場数踏んでこそだと思うぞ」ポン

   

勇者「ひ、一筋って一体なにが? ……じゃなくて、酒は我慢してくれよ。

   酒より薬草とか買わないといけないんだからさ」

   

僧侶「チッ!」

 

 

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296 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:37:02.51 ID:5O8t92t/o

 

 

 

 

勇者「そういえば……あのときは何も言ってなかったけれど、僧侶はどう思ってたんだい」

 

僧侶「あ?なにが?」

 

勇者「ソリに乗ってたときの僕と狩人の話で……。僧侶だったら、どう行動してたのかって」

 

僧侶「ああ……俺か? 俺は歯向かってくる奴は全員返り討ちっていうスタンスだから、

   どっちかっつーと狩人ちゃん側かね」

   

勇者「すごいスタンスだ」

 

僧侶「お前と剣士ちゃんの考えの方がまともじゃないと思うぜ。なんつーか……本当『勇者』様らしい考えだ。

   その博愛主義でどこまで持つか、俺も楽しみにしてるさ」

   

勇者「別に博愛主義ってわけじゃない。ただ僕は君たちより……弱虫なだけなんだ」

 

僧侶「心配すんな、あんまり情けない様晒すようなら俺が引っぱたいてやるよ。ストレス発散がてら」

 

勇者「じゃあその手を借りないよう頑張るよ」

 

僧侶「ハハン」

 

 

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297 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:37:55.64 ID:5O8t92t/o

 

 

 

勇者「あ、僕も防具買いに行かなくっちゃ。じゃ、また後で、僧侶。女の人にふらふらついてっちゃだめだよ」

 

僧侶「お前なぁ、俺の方が年上だぞ!!人生の先輩を敬えってんだ」

 

 

 

防具屋

 

 

勇者「一通り揃えられたかな。武器は新調しなくていいし」

 

勇者「……ん? これは……」

 

店番少女「勇者さんお目が高い! それねえ、今日仕入れたばっかりなの。

     勇者さん価格で特別に安くしちゃうわよ!」

 

 

 

 

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298 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:39:30.25 ID:5O8t92t/o

 

 

 

噴水前

 

 

――ガサガサ

 

 

剣士「次は……ここから北東の村ね。結構近いみたい。吹雪がなければ1日で着くって聞いたな。

   順調に行けば首都まで3週間くらいかなぁ」

   

剣士「うふふ、地図の見方もちゃんと分かってきた!これでもう迷わないや」

 

 

勇者「あ、いたいた。剣士」

 

剣士「あれ、もしかしてもう出発の時間? わあごめん!うっかりしてた!

   ちょっと待ってあの角のお店の焼き菓子がおいしそうだったから少し買っていきたいの!!」ダッ

   

勇者「待って待ってまだ出発じゃないから大丈夫」ガシ

 

剣士「えっ?なんだよかった。びっくりした」

 

勇者「これ渡そうと思って探してたんだ」

 

剣士「なにこれ?開けていい?」

 

勇者「うん」

 

剣士「えーなになに?お菓子かな?大きさからして飴?クッキー? わあい、えへへありがとー!」

 

剣士「なんだろ……、……!?!?」

 

剣士「なななななな……え?え?え? ゆ……ゆび……ゆびわっ?? え? なにこれ?」

 

勇者「君の言う通り、指輪だけれど」

 

剣士「えっ……えええええ!? ちょっと待って、勇者、い、い、意味分かってるの? こここここれって……」

 

勇者「? 意味も何も、防御力アップのための防具だよ。さっき買ったんだ。一番前衛で戦うのは君だからさ」

 

剣士「…………」

 

剣士「あっうん。知ってるよ?指輪なんて防具以外の何物でもないよね」

 

 

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299 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/02/08(土) 17:44:01.05 ID:5O8t92t/o

 

 

 

剣士「ただひとつ聞いていい? どうしてこんなにかわいくラッピングされてるの?」

 

勇者「防具屋の店番の子が、仲間に渡すって言ったら、有無を言わさずそうしてくれたんだ」

 

剣士「あ、そうなんだ」

 

剣士「別に私勘違いしたわけじゃないよ?顔が赤いのはさっき雪に顔突っ込んで遊んでたからだから!!」

 

勇者「そ、そう。その遊び楽しいの?」

 

剣士「楽しいよっ!!

   別にっ勇者が私にそういう意味で指輪をプレゼントしてくれたとか思ったわけじゃないもんね……っ」

   

剣士「早とちりして赤くなったわけじゃないんだもんねっっ!!!」

 

剣士「ありがとっ!大事にするね!!でもできればほかの女の子にはこういうことしちゃだめだよっ 分かった?」

 

勇者「なんで?」

 

剣士「なんでも」

 

勇者「わ、分かったよ。だからそんなに怒らないでよ」

 

剣士「怒ってないよ!!!!」

 

勇者「怒ってるじゃないか!」

201 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/21(火) 23:54:45.23 ID:t8u86Crso

 

 

 

剣士「しかもね、この色、勇者の目の色とそっくりじゃない?生き映しじゃない?このグリーン」

 

勇者「僕の目はこんなにきれいな緑じゃないけどね」

 

剣士「ううん。そっくりだよ。これ勇者にあげるね!君、寒いの苦手でしょ?寒い日の朝は寝起きがめちゃくちゃ悪いもんね」

 

勇者「えっ、僕に?」

 

勇者「……うわ、ありがとう。うれしいよ」

 

剣士「うん! それでね、私も雪の国は初めてだからマフラー買おうと思って私は白色を……あ、あれ」

 

剣士「あ……私の分買ってくるの忘れちゃったよ」

 

勇者「…………」

 

剣士「わ、笑わないでよー!ちょっとうっかりしちゃっただけだもん」

 

 

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202 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/21(火) 23:56:44.19 ID:t8u86Crso

 

 

 

ゴーン……ゴーン……

 

 

勇者「もう二時か。市に行くついでに昼食も済ませようかな」ガタ

 

剣士「えっ! 一緒に市に行ってくれるの? やったー!」ピョンピョン

 

勇者「しーっ ここ一応図書館だから……」

 

 

ゴーン……ゴーン……

 

 

剣士「あ。そっか。ごめんごめん。……あれ?ねえ、この時計塔の鐘の音で思いだしたけど」

 

剣士「時計塔の大きな時計の針って、長針に鷲で、短針に鷹の飾りがなかったっけ」

 

勇者「……まさか二羽の鷹っていうのは、二時ってこと?じゃあ獅子っていうのは……

   なんだ?窓から光がいきなり射してきた」

   

剣士「窓の外のライオンの彫刻の目に太陽の光が反射してるみたい。で図書館の中にあるライオン像にも光があたってるけど……

   こっちは何ともないね?このライオン像に女神様の言ってた武器っていうのがあるのかな?」

 

勇者「ええっ!? 図書館の中に?」

 

 

勇者「このライオン像は目を閉じてるな……ひょっとして」スッ

 

剣士「うわっ 目が開いた! こわっ

   あ……また目に光が反射して、今度はあっちの像に」

   

勇者「なるほど。光を辿っていけばいいんだ。ただ、多分それができるのは2時から1分間だけ……急ごう!」

 

 

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203 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/21(火) 23:59:08.30 ID:t8u86Crso

 

 

図書館 地下4階

 

 

剣士「地下まで来ちゃったね。 わーカビ臭い」

 

勇者「ここが最下層だ。誰も人がいないな。僕も初めてここまで下りてきたけど……」

 

剣士「変な本ばっかりだもんね。あ、あのライオンで最後じゃないかな?」

 

獅子像「太陽の光をこの目に浴びたのは一体何千年ぶりだろうか……やはりいいものだな」

 

剣士「あれ?勇者、声枯れた? なんか変な声だよ」

 

勇者「剣士こそ、いつの間にそんな渋い壮年のおじさんのような声に」

 

獅子像「ここだ、ここ。私だ。お前らの真正面にいるだろうが、無視するな」

 

勇者「像が喋った……」

 

剣士「不思議!」

 

獅子像「なにも不思議なことなんてあるもんか。像が喋ったらおかしいのかね」

 

獅子像「まあとにかくここに光を運んできてくれた礼だ。

    私の左目の水晶をとるがよい、それが鍵だ」

    

勇者「鍵……何のための鍵だい」

 

獅子像「鍵なのだから、当然扉を開けるために決まっているだろう。ほら、扉はそこにあるではないか」

 

剣士「……?」

 

勇者「書棚ばっかりで扉なんてないけれど」

 

獅子像「下だ、下」

 

勇者「床の紋様? 確かに扉っぽく見えなくはないな。よく見ればくぼみもある。

   ここに水晶をはめればいいのかな?」

   

剣士「なんかわくわくするね!すごい!」

 

 

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204 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/22(水) 00:00:21.70 ID:Yo6LtTMRo

 

 

勇者「……。はめたよ」

 

獅子像「そうか。そしたらば……」

 

剣士「そしたら?」

 

獅子像「受け身をとっておけ」

 

勇者「ああ、受け身を……。……えっ?」

 

 

ガコッ!!

 

 

勇者「床がッ!? うわあああっ!!」

 

剣士「勇者っ」ガシ

 

 

ウワーーーー

  キャーーー

  

獅子像「あ……勇者じゃない奴も落ちてしまったな。まあいいか。どうなるか分からんしな。

    2名様ご案内ーっと……」

  

  

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205 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/22(水) 00:03:52.21 ID:Yo6LtTMRo

 

 

 

――ドサドサッ!!

 

勇者「うぐっ」

 

剣士「うーーー……いたたたた……もう、なにこれ。ここどこ? 真っ暗で何も見えないよ。

   勇者?勇者、どこ行っちゃったの?」

   

勇者「君の下だよ」

 

剣士「下って……わああああああっ!? ごごごごごっごめんね!? なんかやけに地面があったかいなとは思ったんだけどっ

   そういう仕様なのかなって思ってっ!本当にごめん!」

   

剣士(ひゃーーなにやってんのなにやってんの馬鹿!馬鹿馬鹿!信じられない!)

   

勇者「いや、大丈夫。それよりここは一体……地下4階より下があったのか?とりあえず灯りがほしいな」

 

剣士「ちょ、ちょっと待って、もう少し灯りつけるの待って。もしくは私から離れたところで灯りつけて」

 

勇者「? なんで?」

 

剣士「いま顔がひどいことになってるから……すぐ冷ますからっ」

 

 

ボッ……ボッ……

 

 

勇者「あれ……壁の松明が次々に灯っていく。誰かいるのかな?」

 

剣士「いるとすれば間違いなく私への嫌がらせが目的だよね」

 

 

 

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206 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/22(水) 00:08:56.66 ID:Yo6LtTMRo

 

 

 

 

勇者「ここに女神様の言うものが……。 ん?あれは祭壇?」

 

剣士「なんかおどろおどろしい雰囲気だね。ちょっと怖いよ」

 

剣士「……あっ、でもあれ、すっごいきれいな剣と本!あれが女神様の言ってた武器かな!」

 

勇者「剣と本…………。……っ?」ゾク

 

勇者(うっ……なんだ今の? あの剣を見た瞬間、寒気が……。 嫌な感じのする剣だな……)

 

剣士「見て勇者。刀身が真っ赤な剣って、一体何でできてるのかな。あ、すっごい軽いし振りやすいよ」ブンブン

 

勇者「うわあっ。なんて物怖じのしない性格なんだ。……剣士、今すぐその剣を離して」

 

剣士「え?なんで?」

 

勇者「なんだか嫌な気配を感じるんだ。その剣は……使わない方がいい」

 

剣士「まあ、使えないんだけどね。全然鞘から抜けないの、この剣。すごく固くて」

 

勇者「え? ……本当だ。なんだこれ。かたっ……!」ガチャガチャ

 

剣士「この剣の名前、なんて読むの?この国の言葉じゃないね」

 

勇者「古代語かな。ええと、『魔剣……」

 

勇者「『魔剣アルファルド』。……魔剣って!!やっぱり曰くつきじゃないか!」

 

剣士「でもすごい強い剣なんじゃないのかな?今は抜けなくても、いつか抜けるかも。

   私もっと強くなりたいの。旅の間この剣を私が持ってたらだめかな」

   

勇者「……だ……だめだ。魔剣なんて言うからにはどんなデメリットがあるか分かったもんじゃないよ。

   それに抜けない剣なんて一緒に腰に下げてたら邪魔だろ?とにかく却下」

   

剣士「えーっ! ……あっ私にはそういうくせに自分は本を懐に入れようとしてる!ずるい!」

 

 

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207 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/22(水) 00:10:57.56 ID:Yo6LtTMRo

 

 

 

勇者「え?入れてないけど?」

 

剣士「マントのその妙に四角い出っ張りは何なの!!」ガバッ

 

勇者「なんでもないって。ちょっ……!」

 

剣士「やっぱり入れてるじゃない。これは?タイトルはないんだ……。魔法書?」

 

勇者「まあ、多分。大半は文字が掠れていて読めないけど、最後の方のページに、まだ僕の知らない呪文が二つあったんだ。

   一つは見たことのない文字で書かれていて分からないんだけど、もう一つは使うことができる」

   

勇者「剣は抜けないけど呪文は使える。だからこれは持ち帰るよ」

 

剣士「えーーーーーなにそれずるい。勇者が詭弁を弄して私を煙に巻こうとしてる!」

 

勇者「女神様の言ってた意味も分かったし、これで心おきなく雪の国に行けるな。よかった。

   あーお腹すいた。早く市に行こう。マフラー売り切れになっちゃうかもしれないしね」

   

剣士「んもー頑固なんだから。分かったからそんなに急ぎ足で行かないでよ!待ってったら!」

 

 

 

剣士「ていうか階段あったんだ。帰れないかと心配しちゃったよ。……勇者?どうしたの?」

 

勇者「……」チラ

 

 

……カチャッ

 

 

勇者「! (剣が……今……)」

 

勇者「何でもない。早く行こう。早く……」

 

 

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208 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/22(水) 00:12:23.04 ID:Yo6LtTMRo

 

 

 

 

ざわざわ…… ざわ……

 

 

「勇者だ」 「あれが勇者……」 「吸血鬼を倒したって」

 

 

剣士「有名人だね、勇者」

 

勇者「なんでそんなに君は嬉しそうなんだ。全然僕は嬉しくない。こんなに注目されると居心地が悪いよ」

 

 

「勇者がいま犬のフン踏みそうになったぞ!」 「あの勇者が屋台の食いもん買って、一口も食べないうちに地面に落としたぞ!?」

 

「おい見たか今の……地面に落とした食べ物、一瞬拾おうとしたぞ。手がぴくってしたぞ」 「食い意地はってるわね」

 

「いや、あの三勇士より強いっていう勇者だぞ。それも何か理由があったのかも……」 「なるほど……」ザワザワ

 

 

勇者「いや別に本気で食べようとしたわけじゃないけどさ……条件反射っていうか……。ていうかそんなところまでじろじろ見ないでくれっ」

 

剣士「分かる分かる。地面に接してない上の部分だけならいけるんじゃないかな!?とか思うよね」

 

魔術師長「ふふ。有名になるのも一苦労ね、勇者。久しぶり」

 

勇者「本当に久しぶりだね。それに偶然。どうしたの?」

 

魔術師長「ちょっと実験の材料を買いに市に来たんだ。どう?剣士も一緒にちょっと学院でお茶でもしない?

     いろいろあなたたちに訊きたいこともあるし、私も魔法のことでなら何か力になれるかも」

     

勇者「そうだね、とりあえず今はどこか室内に隠れたい気分だ……」

 

 

ざわざわ ざわざわ

 

 

――――――――――――――――――――――――――

212 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/28(火) 14:14:43.71 ID:j3E0y9sZo

 

 

 

* * *

 

 

剣士「? ねえ、なんでみんなあそこに集まってるのかな」

 

魔術師長「ああ、あそこは神殿区の入り口。一日に一回、神殿長があそこから顔を見せるのを信者たちが待ってるんだよ。

     ほら、そろそろいらっしゃるわ」

     

 

ざわ……

 

 

剣士「へえ……。あの人が神殿で一番えらい人なんだよね。僧侶くんの上司の上司の上司?」

 

勇者「そうなるね」

 

魔術師長「あっ。神儀官がこっちに来る。私この間、彼女とちょっともめたから顔合わせづらいわ。

     ごめん先に行ってる!なんかごまかしといてくれる?」スタスタ

     

勇者「ええっ ちょっと?」

 

 

神儀官「……久しいですね、勇者様。それから初めまして剣士様。

    あら、もう一人いたように思えたのですけど、気のせいでしたかね」

    

勇者「あ はい、そうですね。気のせいかと……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

213 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/28(火) 14:15:51.96 ID:j3E0y9sZo

 

 

 

神儀官「あなたたちの活躍は耳に入っていますよ。魔王の部下のうち1人打ち破ったそうですね。

    神殿長様も大層お喜びになっておられます」

    

神儀官「魔族など……我らが崇める神の神聖なる魔法からは程遠い、なんと野蛮で危険な魔法を操ることか。

    あの者たちが生きているということだけで、我ら神殿の意義が揺らぎます」

    

勇者(野蛮で危険な魔法か……)

 

勇者(何故だろう。まるで僕の使う術も非難されているような……)

 

神儀官「勇者様。神から直々に与えられたその力でもって、必ず魔族を根絶やしにすると誓ってくださいな」ニコ

 

神儀官「それから剣士様。まだ剣を握った月日も短いというのに、大層ご立派な技量をお持ちだと聞いております。

    あなたもその剣を振る理由を違えぬよう……」

    

神儀官「では私はこれで。魔術師長によろしく伝えてください」スッ

 

 

 

剣士「……なんか怖い人」

 

勇者「釘を刺された気分だな」

 

僧侶「率直に言って嫌な人だな?」

 

勇者「うわっ!? 僧侶いつからいたんだ。いやそれより、彼女は女性だよ?」

 

僧侶「んなの見りゃ分かる。俺が女相手だったら誰にでもでれでれすると思ったら大間違いだぜ。

   俺も選り好みくらい、してるっ!!」

   

剣士「そ……そうだったんだ!?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

214 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/28(火) 14:16:54.09 ID:j3E0y9sZo

 

 

 

僧侶「王都に来て初めて神殿の連中を見たが……まあ思った通りだな。一応気を付けた方がいいぜ」

 

勇者「気をつける……?」

 

僧侶「俺たちや魔術師が魔法を使えるのは、あくまで神様の力を借りてるって体だからなぁ。

   洗礼を受けて、修業を積んで、聖典を読み込んでってな風に魔法を会得してんだ」

   

僧侶「だが魔族の奴らは、そんなもん全部すっ飛ばして色んな魔法ぶっ放してるわけだろ。

   そういうのが神殿の癪にさわるんじゃねーの。よくわからんが、魔法を独占してる神殿の権威とかが貶められる意味で」

   

剣士「あれ。でも勇者って、洗礼とか修業してないよね」

 

僧侶「だから気をつけろって言ったんだ。極端に言えばお前も魔族側なわけだ。神殿にとっちゃおもしろくないんじゃねーのかってこと」

 

勇者「そんな、僕は別に魔法を使って誰かを傷つけようなんて思っちゃいないよ」

 

僧侶「お前がなにをしようが関係ない、その力を持ってるってことだけで問題視される……かもしれない。

   俺がいま言ったことは全部俺の推測だ、あの女の口ぶりでそういうこともあるかもなってだけ」

   

僧侶「ま、危惧するのも全部魔王を倒してからの話になるけどな」

 

勇者「……」

 

 

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215 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/28(火) 14:17:55.00 ID:j3E0y9sZo

 

 

 

剣士「そんなのひどくない?もし僧侶くんがいま言ったことが本当だとしたら許せないよ。

   だったら魔王を倒した後、私が神殿も倒すよ!!」

   

勇者「えっ」

 

僧侶「おお……思いきったことを言うなぁ 剣士ちゃん」

 

勇者「……。まあ、魔王を無事倒せたらそのことは考えるよ。今は魔族のことをまず考えないとね」

 

副団長「面構えが少し変わったな?勇者」

 

勇者「うおわっ……だ、だからみんないきなり現れるのやめてくれよ」

 

副団長「すまんな!!!街を歩いていたら皆を見かけたので、つい全力で走ってきてしまった!!!」

 

剣士「相変わらずすごいバイタリティ」

 

僧侶「なんだこの汗臭い男は……」

 

副団長「戦う意思がようやく鋼のごとく固まったと見えるぞ、3人とも」

 

 

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217 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/29(水) 00:40:02.91 ID:OxPf79xSo

 

 

 

勇者「そうかもしれない。……塔から下りて目にした、あの壮絶の一言に尽きる光景がまだ瞼の裏から離れない。

   吸血鬼と、それから赤目の魔族に殺された人々の血で真っ赤に染まった大地……」

   

剣士「…………」ゴク

 

僧侶「ありゃあひどかったな。さすがの俺でも慄然としたぜ」

 

副団長「塔の警備にあたっていた騎士兵士、魔術師神官含めておよそ150人がやられた。

    しかもあんな惨たらしいやり方で……思い出すのもおぞましい」

    

勇者「もうあんなことさせない。もっと強くなって、早く戦争を終わらせなければ、また繰り返される。

   僕が止めなくちゃ」

   

剣士「僕たちが、でしょ?」

 

勇者「……うん。僕たちが、止めなくちゃ」

 

副団長「ああッ!!!!!その意気だッ!!!!!君たちなら絶対にできるッ!!!!共に悪しき者たちを討ち砕こうッッ!!!!!」

 

僧侶「うっせ」

 

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218 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/29(水) 00:42:09.38 ID:OxPf79xSo

 

 

* * *

 

 

魔王城

 

 

魔王「なんと……吸血鬼が勇者にやられたと……?」

 

兄「なにっ? なら勇者はあの時、すでに塔の中にいたのか。くそ、そうと知っていれば……」

 

兄(俺があの時、塔に進んでいたならば……)

 

魔女「まあ、仕方ありませんね。どうせあいつのことだから調子に乗ってしまったのではなくって? クスクス……」

 

ヒュドラ「魔王様。聞けばその勇者は、次は私の治める雪の塔に向かっているとか。

     私にお任せ下さい。必ずや勇者の首をここに持ってきてやります」

     

魔女「なぁんだ。先に星の国にくればいいのに……ねえ?人形ちゃんも悲しんでるわ」

 

魔王「ならばヒュドラに任せよう。しくじるなよ」

 

炎竜「魔王様、ならばわしも、」

 

ヒュドラ「炎竜殿。心配は御無用です。私に一任させて頂けますかな」

 

魔王「炎竜は太陽の国制圧を担当してもらおう……」

 

炎竜「はっ」

 

魔王「では散れ。今日はここまでだ。また収集する」

 

 

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219 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/29(水) 00:43:53.68 ID:OxPf79xSo

 

 

 

兄「……父上。ヒュドラはああ言ってますが、俺にも戦わせてください。

  もし勇者の存在が脅威でないとしても、芽は早いうちに摘んでおいたほうがいい」

  

魔王「いや、息子よ。お前には別の任を与える。娘を連れ戻すのだ。ここ、魔王城に」

 

兄「……!」

 

魔王「……変わり者だとは思っていたが、まさか人とともに行方を眩ますとは思わなんだ……

   いずれ太陽の国も焦土に変わる。娘をみすみす巻き添えにするわけにもいかん。

   それでもいいと、あいつは思って出て行ったのだろうがな。あれでも我が愛しの娘、妻の忘れ形見よ」

   

魔王「必ず見つけ出してここまで連れてこい。いいな。抵抗されたら力づくでもだ。お前の力の方が娘より強い」

 

兄「……は、はい」

 

 

 

 

 

 

兄(妹……お前は……)

 

 

~~~

 

 

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220 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/29(水) 00:45:49.48 ID:OxPf79xSo

 

 

 

魔王城 宝物庫

 

 

兄(侵入者と聞いたが、術式をこんなにきれいに解く奴なんて限られてくる……大方、)

 

兄「……やはりお前だったか」

 

妹「兄さん。……気づかれないようにここに入ったつもりだったんだけどな」

 

兄「あれでか。痕跡が至るところに残っていたぞ。本当に隠す気があったのか」

 

妹「え。本当?……えへへ、じゃあ本当は気づいてほしかったのかも……

  兄さんにはお別れ、言いたいなって思ってたから」

  

兄「? 何を言っている?」

 

妹「ここに侵入しちゃったのは、これ、返しに来たの。人里に入るためにつけてたこの指輪」

 

兄「『魔力封じの指輪』か……それを返すということは、もう人の土地に行くのをやめたのだな。賢い決断だ」

 

妹「ううん、そうじゃなくって。あのね兄さん……あの人に、私が魔族だってこと、ばれちゃったの」

 

兄「はっ!? な、ば、馬鹿。一体どうしたんだ。だからあれほど気をつけろと再三言っただろう!

  その者の名を言え。あの国を制圧したら真っ先に俺がこの手で……」

  

妹「どうして怒っているの?」

 

兄「それは……お前が傷つけられただろうから……人に思い入れたお前が悪いとは言え、

  人間ごときにお前が悩まされることはないだろう……」

 

妹「違うの。兄さん。私の人とは違う瞳と耳と、それから魔法を見ても、彼は……怖がらなかったよ。

  私は私だって言ってくれたの。受け入れてくれたのよ。種族なんて関係なしに」

  

  

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221 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/29(水) 00:47:00.09 ID:OxPf79xSo

 

 

 

兄「騙されているんだ。まさかお前……駆け落ちなんぞするつもりじゃあないだろうな」

 

妹「兄さん。聞いてくれる? 私、夢を見たわ。私が夢で未来を視ることは知ってるよね?母さんと同じように」

 

兄「ああ……」

 

妹「どんな夢を見たと思う?あれはきっと遠い遠い未来ね。赤い目の魔族の女の子と……それから勇者って呼ばれてた男の子がね、

  人間の子どもたちと笑ってたわ。女の子は「魔王」って呼ばれてたのよ。なんだか私に似てたの。

  ねえ……とっても幸せな光景だったのよ。想像してみて、兄さん」

  

兄「馬鹿な。あり得ない。魔王と勇者が共に笑い合うなど、そんなふざけた話があるか!」

 

妹「あるのよ。遙か彼方の遠い未来で。私が視たんだもの。……私ね、魔族のみんなと同じくらい人が好き。

  魔法なんて使えなくったって、弱くったって、彼らはとっても一生懸命に生きてるんだよ。

  花を愛でる気持ちも、家族を愛する気持ちも、私たちと何一つ違わないわ」

  

妹「だから私は、私のやり方で未来を辿るわ。夢で視たあの光景にいつか世界が追い付くように。

  ごめんね兄さん。お父様には、本当に申し訳なく思ってるのだけど……兄さんがお父様を支えてあげて」

  

兄「なにを言って……正気か?」

 

妹「お父様に最後に会えないのは悲しいけど、会ったら絶対止められちゃうわ。兄さんに会えてよかった」

 

兄「……」

 

 

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222 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/29(水) 00:51:01.30 ID:OxPf79xSo

 

 

 

兄「そんな未来が真実あるとするのなら、今俺たちが行っていることはなんだというのだ。

  俺は……俺だって……殺さずにいられたら、何も奪わずにいられたらそれが最良だ……しかし」

  

兄「もう戦争は始っていて、終わらせねばならん。未来がどうあれ、決着をつけねば。

  そしてそれは、俺たちの勝利という形でなければならない。敗北者には死と屈辱が待っているのだから」

  

妹「勝利も敗北も無意味だっていうことに、いつか兄さんも気づくわ。

  それでも戦うというなら……私の大切な兄さん。世界でたったひとりの兄さん……」

  

妹「本当は、私の魔力は何かの水晶にでも封じようかと思ってたのだけど、全部兄さんへのおまじないに使うね。

  私のほとんどすべての魔力を使った、最後の魔法だよ」

  

兄「何をするつもりだ?」

 

妹「兄さんが大ピンチに陥ったときに、きっとこの魔法が兄さんを守ってくれる。とびきりの魔法なの」

 

兄「……魔力のほぼすべてを……本気なんだな」

 

妹「もう必要ないのよ」

 

 

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223 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/29(水) 00:51:38.05 ID:OxPf79xSo

 

 

 

兄「……どうせ言っても聞かないか」

 

妹「うん。どんな結末になったとしても、これは私の選択なのよ。私は後悔しない。だから兄さんも責任なんて感じないでね」

 

兄「俺の心配をする前に自分の心配をしろ。……死ぬなよ」

 

妹「死なないわ」

 

 

妹「さよなら!兄さん。元気でね……ごめんなさい」

 

兄「…………ああ……」

 

兄「……」

 

 

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225 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:27:33.62 ID:nJnhUEEmo

 

 

* * *

 

 

老弓兵「これが慰霊碑だ。ここにあいつの名前が……ほら」

 

狩人「……はい……」

 

老弓兵「あいつはよく、お前さんのこと話してたよ。そりゃもう嬉しそうに。

    聞いてる俺たちの耳にタコができそうだった。ははは……」

    

老弓兵「あいつの最期は……?」

 

狩人「聞いてます」

 

老弓兵「そうか……。……あんたがどうしても弓兵になりたいってんなら反対しないがね、

    復讐のために兵士になる奴なんてザラだし……しかし、老婆心から言わせてもらうと……」

    

狩人「いえ。私は戦います」

 

老弓兵「……そうかい。あんたがそうしなきゃ生きれないなら仕方ないよ。

    じゃあしばらくここでゆっくりしてくといい」

    

狩人「ありがとうございました……」

 

 

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226 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:28:45.86 ID:nJnhUEEmo

 

 

 

狩人「……」

 

 

僧侶(あれ。狩人ちゃん、こんなところで一体なにを……慰霊碑?)

 

僧侶「なにしてんだい」

 

狩人「……祈りを捧げてました」

 

僧侶「ああ……って慰霊碑の前にいるんだからそうだよな。

   俺の知ってた奴も何人かここに名前が刻まれてんだ。

   僧侶ちゃんは……家族がここに?それとも友人?」

   

狩人「婚約者が」

 

僧侶「ああ婚約者が…………こんっっ!?!? あ、ああ……そ、そうだったのか」

 

狩人「里で一番の弓の使い手だった。国を守るために兵士になるって言って里を出たっきり。

   1年前に魔族に殺されてもういません」

   

僧侶「ああ……」

 

狩人「遺体は……ひどかったです」

 

狩人「だから私は彼に教わった弓術でもって仇をとりたい。

   それくらいしか私にできることは……ない……から」

   

僧侶「俺も同じだな。婚約者なんてもんじゃないが。

   いきなり生活ブッ壊されて、生きてた連中あんな化け物にされて、こんなんじゃ腹の虫が収まらねーよ」

   

僧侶「なあ、狩人ちゃん。俺たちと一緒に行こうぜ。王都に残るなんて言わずにさ。

   結構俺たちもなかなかいいパーティになってきたんじゃないかって思うんだけど」

   

狩人「一緒に……」

 

僧侶「それにさ、あいつらだけじゃ不安じゃないか?あのオトボケ勇者に天然剣士ちゃんの二人だぜ

   俺たちが支えてあげねーといつしくじるか分かったもんじゃねーよ」

   

狩人「……」

 

僧侶「ん?なんだ……俺の顔になんかついてる!?」

 

 

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227 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:30:21.74 ID:nJnhUEEmo

 

 

 

狩人「意外だと思って……」

 

僧侶「意外?」

 

狩人「意外と……世話焼き」

 

僧侶「今はお節介な男が王都でもてるらしいからな」

 

狩人「そんなの……聞いたことないです。でも……そうですね。確かに3人だと不安……」

 

僧侶「3人って俺も入ってんのかよ」

 

狩人「だから、一緒に連れていってもらえますか」

 

僧侶「……ああ、勿論!」

 

 

 

剣士「あっ!僧侶くんに狩人ちゃん!ここで会うなんて偶然だねー、なにしてるの?」

 

狩人「……剣士、勇者」

 

勇者「だれがオトボケ勇者だよ」

 

僧侶「うわーっ!お前すっげえ地獄耳な!!こわっ!!きもっ!!」

 

勇者「うるさいな……色ボケ僧侶」

 

僧侶「てめーーー言ってはいけないことを言ったな覚悟しろ」

 

勇者「いたっ!!」

 

剣士「二人ともうるさーい!こういうところでは静かにしないといけないんだよっ!!」

 

狩人「……」クス

 

 

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228 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:33:06.77 ID:nJnhUEEmo

 

 

 

『太陽の国の山奥にある小さな村で育った私は、雪の国に入国する時に初めて海を見ました。

 

 本当は陸から国境まで行った方が早かったのですけど、魔族の襲撃を恐れる船の方に

 

 護衛として一緒に乗ってほしいって言われて。

 

 遠回りになっちゃうけど海を見ることができて私はとっても嬉しかったです。

 

 雪の国に近い海だったから、水は冷たくて指先をつけてみるのが精いっぱいでした。

 

 そしたら狩人ちゃんが、誰かに宛てた手紙をボトルに入れて流すっていう遊びを教えてくれて、

 

 今まさにそれをやってみてるところなんですけど……あ、狩人ちゃんって言うのは一緒に旅をしてる仲間で、

 

 あと僧侶くんと勇者も一緒に旅をしてて、勇者の名前はハロルドって言うんですけど勇者だから勇者なんです。

 

 なんで旅をしてるかって言うと魔王を倒すためです。あ、私は剣士だよ。最近剣の扱いも上手くなってきました!

 

 自分で言うのもなんだけど!

 

 

 乗る予定の船が明日出港予定なので、今日は夕方、港に出ている露店をみんなで見に行きました。

 

 大きなイカの日干しにびっくりしてたら、勇者がふわふわの雲みたいなの手に持ってて、

 

 なにそれって訊いたら「雲だよ」って本当にそう言うからもっとびっくりしちゃったよ。魔法で作ったんだって。

 

 食べてみたら砂糖みたいに甘くって……雲って甘いんだ、って呆然としてたら、

 

 横にいた狩人ちゃんと勇者がなんか含み笑いしてるのね。はっとして、近くの露店に目を配ったら、雲と同じのがありました。

 

 「わたあめ」って言うんだって。ええとつまり、私は二人に一杯食わされたってことなんです。

 

 二人で私を騙すなんて、ひどいと思いませんか?全くもう。

 

 でもその後会った僧侶くんに同じことやってみせたら……彼も見事に騙されてました。すっごくびっくりしてたな。

 

 ああ、もう便箋がなくなっちゃう。なんだか変な手紙になっちゃったけど……うーん、ごめんなさい。

 

 家族以外に手紙なんて書いたことないから、不慣れなんです。敬語もちょっと変かも。

 

 では、親愛なる誰かさんへ。あなたの幸福を祈っています。

 

                                   Nina  』

 

 

 

229 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:35:23.85 ID:nJnhUEEmo

 

 

 

 

 

 

 

少年は時計屋が手紙を読み終えるのを待って、途中から止まったままだった右手を思わずというようにこめかみにあてた。

その内容は昔祖父が読んでくれたあの手紙のものと酷似していた。

 

 

「信じられないなぁ。それ、僕が持ってる手紙を書いた人と同じだ。小さいころ、海辺を歩いてるときに見つけたんですよ」

 

「俺はこの街の大河で釣りをしてたら見つけたんだ。なんだか捨てられなくてな」

 

 

よかったらこれ、やるよ。時計屋の青年が、瓶ごと少年の手に押しつける。

二人が店の奥にある青年の私室にいるにも関わらず、

店頭にずらりと客を圧倒するように飾ってある時計たちのカチコチ、カチコチと秒針を鳴らす音がここまで響いていた。

 

 

「いいんですか」

 

「いいって。俺が持ってたってしょうがねえしな。もしかしたら3通目もあるかもしれないぜ。おたく、旅してんだろ?そのうち見つけるかもな」

 

 

楽観的に時計屋が笑うのにつられて、少年も口端を上げた。

本当にそうなればいいのに。

しかし少年が子どもの頃に聴いた手紙には、4通目だと「Nina」は書いていた。

海を漂っているだろうあとの2通を彼が受け取れる確率は、恐らく天文学的に低い。

 

 

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230 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:37:01.80 ID:nJnhUEEmo

 

 

笑う傍らでそんな諦観を覚えながら、ようやく彼は作業を再開する。

テーブルには祖父から受け継いだ珍妙な器具が鎮座しており、どれも時計屋にとっては見たこともないような品ばかりだった。

すり鉢のようなもので薬草をすり潰している彼に、青年が頬杖をつきながら尋ねた。

 

 

「おたくみたいな若い薬師、いるんだな。しかも旅してこんな辺鄙な村までよくもまあ。

 しかも一人で。いつから旅してるんだ?」

 

「祖父が亡くなってからだから……3年前くらいからかな」

 

「ふうん。大変なんだな……。でも薬師なんて、都市で勤務するのが普通なんだぜ。結構稼げるって話だ。

 旅なんてしてちゃ、おたくの懐に入ってくるのは雀の涙みたいなもんだろ?なんで旅なんかしてるんだ」

 

 

俗物的な質問をぶつけられて、彼は苦笑した。

しかし時計屋が本当に単なる興味本位で訊いていることが分かっていたので、

彼も軽い気持ちで一片の衒いもなく答えた。

むしろ青年の裏表のない、竹を割ったような性格に、今日出会ったばかりだと言うのに親しみを覚えていた。

 

 

「祖父から教わったことをできるだけ広めたくて。都市や大きな街から離れたところだと、神官さんもいないから」

 

「確かにな」

 

「……はい、できましたよ。これが関節痛に効く薬です。

 とりあえず2カ月分作りましたけど、なくなりそうになったら僕宛てに鳥を飛ばしてくれれば届けさせます」

 

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231 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:38:41.82 ID:nJnhUEEmo

 

 

 

 

お待たせしてすみませんと謝ると、それには答えず青年は彼の目をじっと見た後「すごいな」と感嘆した。

薬は青年の父親へのものだった。今も足の痛みに悩まされて店の2階で休んでいる。

ここのところ店番は息子にまかせっきりだったそうだ。

 

 

「ありがとな。これで親父もよくなるだろうよ」

 

 

青年は一度店頭に行くとすぐ戻ってきて、彼に小さな懐中時計を手渡した。

金属のひやりとした感触が手のひらに広がり、手から零れた鎖がたてた軽やかな音が心地よく彼の耳朶を打った。。

 

 

「これ礼。俺が作ったやつなんだ。ちょっと特殊な時計でな。耳を当ててみろよ」

 

 

言う通りにしてみると、いかにこの時計が彼に役に立つかが分かった。

「大事にするよ」何度も礼を言って時計屋の扉を開ける。胸から下げた懐中時計がカチコチと絶え間なく高らかに鳴いていた。

 

 

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232 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:39:49.70 ID:nJnhUEEmo

 

 

 

 

「お待たせ、オリビア」

オリビアが尻尾を振って彼にすり寄ってくる。

遅いと抗議するように何度も彼の手に頭を押しつけて、それから胸の懐中時計に気づくと訝しげにふんふん鼻を鳴らした。

 

オリビアは一緒に旅をしている唯一の彼の仲間だ。

3歳の大型犬で、旅をはじめた頃は両手で持てるくらい小さかったのに、今では立ちあがってのしかかられると彼の方が力負けしてしまう程成長を遂げた。

 

「もらったんだよ」

なめられそうな気配を察知して、すぐに時計を外套の中にしまった。唾液でべとべとにされたらたまらない。

 

 

「さあ、じゃあ行こうか」

 

 

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233 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:43:19.23 ID:nJnhUEEmo

 

 

 

 

オリビアとともに街道を行く。

午後の日差しは柔らかく霞んでいて、木漏れ日が彼の外套とオリビアの金色に波打つ毛皮にまだら模様をつくった。

 

ふと手紙を思いだす。海を渡り、雪の国へと赴く彼女たちを想像した。。

大昔の手紙だということは分かっていたが、遠く離れた雪舞い落ちる冬の地で、いまこの瞬間にも寒さを吹き飛ばすほど彼女達が賑やかに騒いでいそうな気がしてならなかった。

 

狩人に、僧侶に、手紙を書いた剣士、それから勇者。

1世紀前の人魔戦争でこの国を勝利に導いたとされる先代勇者とその仲間。

一体どんな人たちだったのだろうか。

 

 

王都に近づいたら、王立図書館で先代勇者たちのことを調べてみようと彼は考える。

これまで旅の途中に訪れた町にある小さな図書館には、ほとんど彼らに関する資料がなかったからだ。

 

 

「でも、まだまだ遠いな」

 

 

独り言を呟くと、オリビアがそんな弱気な彼を叱咤するようにワンとひとつ吠えた。

ときどき彼はこの相棒のことをお目付け役かなにかに感じてしまう。

 

 

「分かってるよ」

 

誤魔化しながら歩を進める。

王都どころか、次の街までもかなり距離があったが、

彼は外套の中で光る真新しい懐中時計と賢い愛犬とともに、晴れやかな気持ちで午後の空の下をゆったりと歩き続けたのだった。

 

 

 

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234 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:44:10.20 ID:nJnhUEEmo

 

 

 

第八章 渡る霰街は鬼ばかり

 

 

 

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235 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:45:19.37 ID:nJnhUEEmo

 

 

 

雪の国 大雪原南西部 霰の街

 

 

 

 

チャリーン……

 

 

 

狩人「……」

 

剣士「残り銅貨1枚……」

 

勇者「……」

 

僧侶「宿にも泊まれねーじゃねーかよ!!どうすんだオイ!!野宿なんてしたら死ぬ気温だぞ!!」

 

剣士「……外套売ってくる!!」

 

勇者「それこそ死ぬから待って! 何か考えよう!!」

 

 

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236 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/30(木) 11:47:45.98 ID:nJnhUEEmo

 

 

 

僧侶「大体てめーがあの時カジノを出なかったら今頃大富豪でウハウハだったのによぉぉぉ」

 

勇者「ご、ごめん」

 

剣士「でもそれ元は私のせいなんだよ……ごめんねみんな」

 

狩人「私がもっとポーカーフェイスを極めていれば……こんなことには」

 

勇者「狩人がこれ以上それ極めたらもう表情が判別できないよ……」

 

狩人「ごめんなさい……」

 

僧侶「ええっ……いやそれを言うなら俺も一番最初に調子乗って全資金パアにしてすみませんでした……」

 

「「「「……」」」」ショボン

 

 

ビュオォォォ……

 

 

僧侶「……いや待てよ。元はといえばあの定期ソリのおっさんが全部悪いだろ」

 

剣士「確かに。諸悪の根源だね。私たち悪くないね」

 

狩人「射る?」ヒソ

 

剣士「射らない射らない」ヒソ

 

勇者「といってもお金がないことにはどうにもならないなあ。どうしようか……」

 

 

 

~~~

 

 

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239 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:19:13.77 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

剣士「ここが雪の国かぁ……さっむーい! すごーい、雪景色だね!寒いけどきれいっ」

 

狩人「……」ガクガクブルブル

 

勇者「まずは首都に行きたいんだけど、それには北に広がる大雪原を越えなきゃ」

 

町民「雪原を越えるなら、定期犬ゾリを利用するといいよ。駅はあっちにある」

 

僧侶「犬ゾリねえ……」

 

勇者「ありがとうございます」

 

 

 

 

勇者「……ええっ!? もう出発してしまった?」

 

ソリ業者「ああ。ついさっきな。あんたらも運が悪かったね」

 

剣士「困ったね。次の便はいつなの?」

 

ソリ業者「えーと……来月の中旬かな」

 

勇者「来月?それじゃちょっと遅すぎるなぁ。どうにかなりませんか?僕たちこの国の王様に会いに行きたいんですけど」

 

ソリ業者「って言われてもなあ。こちとらそう簡単に予定を変えるわけにもいかんのだよ。

     所有する犬も限られているし……どうしてもってんなら、西の組合を覗いてみな。

     俺たち以外にも、狩りやら商業やらでソリを使ってる奴がけっこうあそこでたむろしてるからな」

     

ソリ業者「運がよければ乗せてもらえるかもしれんぞ。首都まで乗せていってもらえるかはわからんが」

 

 

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240 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:21:12.07 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

勇者「……って言われてここに来てみたんですけど。どうにか僕たちを首都まで乗せていってもらえませんか?」

 

男「あぁん……? まあ……いまの時期は暇だし、別に俺はかまやしないが……」

 

剣士「本当っ!? やった!よかったね、勇者!」

 

男「ただし!!条件がある。予定外にソリを動かすんだ……分かんだろ? 金だ、金」

 

勇者「あ、はい。いくらですか」

 

男「金貨200枚」

 

勇者「に……にひゃく!? そんな……いくらなんでも法外じゃないですか?」

 

剣士「そんなに持ってないよ。払えないよ」

 

男「200だ。びた一文まけねえぜ。……あんたら勇者一行なんだろ?そんくらい払えないなんて言わないよなぁ?」

 

剣士「いや、払えないって言ってるんだけど」

 

僧侶「てめーこのくそじじい!!ぼったくりだろ!!俺たちはあんたの国を魔族から救いに首都へ行くんだぞ!!!」グイ

 

狩人「……」

 

男「な、なんだ貴様ら。胸倉をつかむな!弓を引こうとするな!! 訴えるぞ!!

  とにかく金がないことにゃあ俺もソリを動かさん。言っとくがソリ使いは、いまいるのは俺だけだぜ」

  

僧侶「足元見やがって」

 

勇者「……うーん」

 

 

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241 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:23:17.39 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

勇者「参ったな。金貨200枚なんて、すぐに用意できるような金額じゃない。でも来月まで待つわけにはいかないし」

 

剣士「あ……あそこのお店アルバイト募集中だって。時給銀貨5枚」

 

勇者「働くか……」

 

僧侶「まあ待て待て。アルバイトするにしてもどんだけ時間がかかるかわからん」

 

勇者「なにその邪悪な笑みは」

 

僧侶「あるだろ。たった1時間で働かずに金をじゃんじゃん増やせる方法がよぉ……!!」

 

狩人「……」スイ

 

剣士「? あそこは……?」

 

勇者「カジノ……?」

 

僧侶「カジノだ」

 

勇者「カ、カジノ」

 

 

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242 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:29:10.51 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

 

僧侶「ここに全資金金貨30枚がある。それを7倍くらいにすりゃいいわけだ。なーに、10回くらい勝てば問題ない!!」

 

剣士「そうなんだ! カジノって初めてだからわくわくしちゃうな。4人でやればもっと早くお金貯まるよね」

 

勇者「そう簡単にいくかなぁ。狩人はどう思う?」

 

狩人「ポーカーなら……ルールは知ってます。でも自信ないです」

 

剣士「強そうだけど。すっごく強そうだけど」

 

僧侶「まあ俺にまずまかせろよ。これでも昔は賭博馬鹿と呼ばれたもんだぜ」

 

勇者「誇らしげに言うあだ名じゃないような……」

 

僧侶「とにかく俺に全財産預けろ。すぐ7倍にしてきてやっからよ! へっへ腕が鳴るぜ!!」

 

剣士「僧侶くん頑張ってね!」

 

勇者「じゃあまかせるよ」

 

 

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243 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:30:47.10 ID:0fEikvQ3o

 

     

狩人「……いいの?彼にまかせて……」

 

勇者「すごい自信があったみたいだからさ。僧侶以外みんな賭博なんてやったことないし、それなら彼に任せた方がいいかなって。

   じゃ僕たちも中に入ろう」

   

剣士「うわあ、なんか……なんか私の知らない世界が広がってる」

 

狩人「絢爛」

 

勇者「この街は見たところ歓楽街みたいだけど、雪原の向こう、国の北西部には魔族に占領されてる地域もあるっていうのに

   こういったところがあるなんて少し驚きだ」

   

バニーガール「だからこそ、ここに集まってる金を持て余した大人たちは現実逃避がしたいのよ。私も含めて、ね」

 

剣士「そういうものなのかな? こんなときだからこそお金があるならもっと違うことに使えばいいのに」

 

勇者「あ……僧侶のゲームが始まるみたいだ」

 

 

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244 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:32:05.49 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

 

ざわ…… 

   ざわ……

 

 

僧侶「倍プッシュだ……!」

 

男「倍プッシュは禁止」

 

 

ざわ……

   ざわ……

   

   

   

 

 

男「はい。マイナス金貨500枚」

 

僧侶「」

 

勇者「や……やりやがった……」

 

剣士「7倍どころか0.06倍になっちゃってるよ僧侶くん!! なにしてるの!?」

 

狩人「はあ……」

 

僧侶「てへぺろ」

 

勇者「てへぺろじゃないんだよ、てへぺろじゃあ」

 

剣士「ていうか君はゲーム中にバニーガールのお姉さんの方見すぎっ! 敗因はそれでしょ」

 

僧侶「くっ!これもカジノ運営側の策略か!」

 

剣士「違うよ!君がすけべなだけだよ!」

 

勇者「金貨500枚なんて地道に貯めて終わる頃にはとっくに魔王軍が大陸支配してるよ。

   ええいこうなったら仕方ない! ちょっと待っててくれ」

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246 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:35:41.70 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

……ドサッ

 

 

勇者「金貨100枚もってきた……これを元手に4人でなんとか700枚勝ち取ろう」

 

剣士「ど、ど、どっからこんな大金持ってきたの!?」

 

僧侶「まさか盗……!?」

 

勇者「違う。武器を……僕の『とこしえの杖』を質に入れてきた」

 

狩人「め、女神様から頂いた杖を」

 

剣士「ひえーーー それいろいろ大丈夫なの!?女神様怒らない!?」

 

僧侶「まさか女神様もこんな使い方されるとは思ってなかっただろうな」

 

勇者「いやっ仕方ないだろう!?こんなところで足止め食らうわけにはいかないんだから

   女神様も分かってくれるはずだと思う!それにカジノで勝ちさえすればいいんだ!」

   

勇者「というかそれしかない」

 

剣士「そうだね……勝てばいいんだよ!さっきゲーム見てたから、なんとなくルール分かったし!」

 

狩人「……」コク

 

僧侶「おう!やってやろーぜ!」

 

勇者「よし行こう」

 

 

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248 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:41:19.69 ID:0fEikvQ3o

 

 

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ジャラジャラ がやがやがや

 

 

剣士(賭けって難しいな……。お金増えたかと思ったら減っちゃうし。私は向いてないのかも。

   みんなはどうかな?)

   

剣士「……えええっ!? 狩人ちゃんと勇者のテーブルに金貨がうず高く積まれてるっ!どういうことなの?」

 

僧侶「あの二人は弓と杖捨てて賭博師として生きた方がいいんじゃねーかな」

 

剣士「僧侶くん。……あれ……お金は?」

 

僧侶「負けた!!」

 

剣士「だからね、女の人見すぎだよ、もう。 まあ私もあんまり成果は上げられてないから人のこと言えないんだけど」

 

剣士「あの二人に任せた方がよさそうだね。余ったお金渡してこよっと」

 

 

 

剣士「狩人ちゃん、ゆう…………、!??」バイン

 

女性「あらら、ごめんなさいねお嬢さん。失礼」スタスタ

 

剣士(わ、きれいなドレス)

 

僧侶(胸元を大胆に開けたワインレッドのドレス……素晴らしいな)

 

剣士「うわっ 僧侶くん鼻血!!」

 

 

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249 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:43:04.90 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

 

わいわい がやがや ひそひそ

 

 

剣士「ああ……なんか二人のテーブルの周りにすごい人だかりができて近づけないね……」

 

僧侶「くそっ!! 狩人ちゃんはともかく、あんなきれいで巨乳のご婦人方に囲まれてる勇者への嫉妬の念で腹が煮えくりかえりそうだ!!!」

 

剣士「ま、まあ、二人は真剣勝負してるんだから」

 

剣士(……はあ……でも周りの人がきれいな格好の人ばっかりで、今更だけど自分の格好が気になってきちゃったよ。

   なんだかこうして見てると、小さいころからずっといっしょにいたのに勇者が知らない人みたい)

   

僧侶「剣士ちゃん元気ないけど大丈夫か?」

 

剣士「うん、別に何でもないよ。でもちょっと外の空気吸ってこようかな。

   渡せるようになったら私の余ったお金、二人に渡してくれる?」

   

僧侶「あいよ」

 

 

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250 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:44:21.36 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

剣士「うっ……寒い……でも外の方が気楽でいいや」

 

剣士「ちょっと歩こ」

 

 

剣士「もう夜遅いのに全然暗くないのね、この街。下手をすれば王都より明るいかも。

   通りに人はまだたくさんいるし、ここの人たちはいつ眠るのかな?」

   

剣士「こういうのが歓楽街って言うんだぁ。大人の街だね。飲み屋さんとカジノがいっぱい」

 

剣士「あれ。……ねえお姉さん、あそこに見えてる尖塔……ていうか城かな?あれってなに?」

 

通行人「ああ、あれは街から離れたところにある『幽玄の館』よ。幽霊屋敷って私たちは呼んでるけど」

 

剣士「ゆ、幽霊屋敷?」

 

通行人「今は誰も住んでないはずだけどね、気味悪い噂が絶えない古城なのよ。

    興味あっても行かない方がいいわよぉ」

    

剣士「興味なんて全然ないよっ! 幽霊なんて絶対会いたくないもん!」

 

通行人「あらそう?」

 

 

剣士「ひい、訊かなきゃよかった。あっちの方見ないようにして進まないと。

   なんか怖くなってきちゃった、もうみんなのところに戻ろう」

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251 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:47:06.47 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

がやがや がやがや

 

 

支配人「……いくら賭ける?」ニヤ

 

勇者「……」

 

狩人「……」

 

  「あの二人一体何者?」「二人とも10連勝だ! 前代未聞だぞ」「ついに支配人が奥からでてきたわ」

  「この間あの男に財産の半分持ってかれたよ……」

 

 

勇者「持ち金全部」

 

狩人「……同じ」

 

支配人「……勝負に出ましたか。久しぶりに燃えてきますね」

 

がやがやがやがや

 

 

僧侶「いいぞ!やっちまえ!!!このゲームに勝てば二人の金貨合わせて700越える!」

 

支配人「なんだあのうるさい男は……。まあとにかく始めますよ」ジャラ

 

狩人「いつでも」

 

勇者「……。……?」

 

 

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253 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:48:30.60 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

剣士「あれ……あれ? 確かこの道から来たような気がしたんだけど、でもこんな路地通ってきてない」

 

剣士「……ここどこ? おかしいな、迷っちゃったよ。なんか変に暗い路地だし……。

   うう、こんなことならカジノから出てくるんじゃなかった」

   

髭男「どうしました」

 

剣士「いっ!?!? あ、人か……」

 

髭男「人以外のなにがいると思ったんですか」

 

剣士「幽霊とか……。あ、あの道に迷っちゃって。カジノに戻りたいんだけど道知らないかな?」

 

髭男「カジノったってこの街には色々ありますからね……そのカジノの名前は?」

 

剣士「えっ、名前?そんなの見なかったよ」

 

髭男「ふむ……まあいいでしょう。大丈夫です。ついてきてください」

 

剣士「本当?よかった。ありがとう!もう戻れないかと思っちゃった」

 

 

 

剣士「……ねえ、なんかどんどん暗い方に進んでない?気のせいかな?」

 

髭男「気のせいですよ」

 

剣士「……。ここらへんのお店って飲み屋さんなの? こんなに寒いのにお店の外に女の人がいっぱいいるけど……」

 

髭男「まあ似たようなものですね」

 

剣士「ふうん」

 

 

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254 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:51:30.43 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

剣士「……」

 

剣士「……あのー。本当にカジノに向かってるんだよね?どんどん街の中心から離れていってないかなあ」

 

髭男「カジノに行くということはお金が必要なんでしょう?」

 

剣士「あっうん。そうなの。しかもたくさん、できるだけ早く必要なんだ」

 

髭男「ならカジノなんて博打にでなくても、もっと手早く確実に稼げる方法がありますよ」

 

剣士「えー!? カジノよりいい方法があるの!?どんな方法!?」

 

髭男「今から案内しますよ」

 

剣士「あ、待って。でももしかしたら勇者と狩人ちゃんがもう稼いじゃってるかも。

   ……おじさん、私の仲間たちも一緒に連れて行きたいからやっぱり先にカジノに……」

   

髭男「(……勇者? 空耳か) いえ、この仕事は若い女性しかできないので男はだめですね」

 

剣士「そうなんだ。でも、やっぱり私がずっと戻らなかったらみんな心配しちゃうよ……。

   一旦みんなに相談してみる。ごめんなさい。カジノへの道はほかの人に訊いてみるよ」

   

髭男「ここまで案内させといて、そりゃねーだろ」

 

剣士「わっ な、なに? 離してよ」

 

髭男「もう少しで着くので大人しくしててください」

 

剣士「だから……行かないってば。手を離さないなら私も剣を抜くよ」

 

髭男「剣?」

 

剣士「そう、剣……」スカッ

 

剣士「……あれ!?な、ないっ!? ――あっそういえばカジノは武器持ち込み禁止だったから預けたまんまだった」

 

 

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255 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/01/31(金) 21:54:01.79 ID:0fEikvQ3o

 

 

 

髭男「はい、ここの地下が私たちの店です。階段を下りましょう」

 

剣士「やだよ! おじさん一体何者なの。えぇい!剣がなくったって戦えるし!」ガブ

 

髭男「イタッ あっおい!!待て!!」

 

髭男「……おい!店にいる今暇な連中はちょっと付き合え。鬼ごっこだ」

 

 

 

 

 

バタバタ……

 

 

剣士「はあ……はあ……うわっ!!」ツルッ

 

剣士「もう!雪の国って走りづらい。外套も邪魔になるし!!

   滅茶苦茶に走ってたらさらに道に迷いそうだけど……ずっと追ってくるし」

   

剣士「もーーー!やっぱりカジノから出るんじゃなかったぁあ! 

   もう夜中だし勇者もみんなもどっかの宿に泊っちゃってるかも……ていうかソリにも置いてかれたりして」

   

剣士「やだーーーーっ! あーんもうここどこよーー!人も全然いないしーー   ハッ」

 

 

バタバタバタ

 

 

剣士「うそっ 前の方からも足音? ってことはつまり挟み撃ち! ど、どうしよ。

   ……もういいよ、こうなったら殴り合いしかないっ!! かかってこい!」グイ

   

剣士「!? わっ……? なななっ?」

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