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50 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:43:51.52 ID:Func4jDlo

 

 

魔王の部屋

 

 

 

魔王「……」

 

妖使い「スヤスヤ寝てますねー」

 

妖孤「熱なんてかわいそうですね……主様が意地悪なこと言ったからじゃないんですか……?」

 

妖孤「というか主様の存在のせいで魔王様はストレスフルな生活を強いられているのでは……」

 

妖使い「かわいそうだね」

 

妖孤「どの口でって感じなんですけど……」

 

妖使い「だけどチャンスだぞ、妖孤。魔王が風邪でダウンしているときに、

    ちょっと指を切って契約書に押しちまえば、契約いっちょあがりってわけよ」

 

妖孤「げ、外道!」

 

妖使い「善は急げだ!ちゃっちゃとやるぞ!」ピッ

 

妖孤「いや善でもなんでもないです!」

 

妖使い「よしあとは魔王の指を契約書に押し付ければ……」

 

魔王「…………。……?」パチ

 

妖使い「あ」

 

妖孤「あ」

 

魔王「!?」

 

魔王「わあああああっ! なにやってるんだ離せーーーーーーっ」

 

妖使い「チッ!! 妖孤、魔王の口を押さえろ!」

 

妖孤「外道通り越して悪魔ですよ主様~~~~」

 

 

竜人「魔王様!? なにがあったんですか!?」

 

妖使い「やばい。俺は窓から逃げるから後よろしくな」

 

妖孤「へっ……え?え?」

 

 

バタンッ

 

 

魔王「ぜえぜえ……げほっげほ」

 

妖孤「いや、あの、ちがいますよこれは主様がですね」

 

竜人「…………」

 

魔女「…………」

 

竜人「なにやってんだてめぇぇ……!!!!!!!!」

 

妖孤「ちがいますもん~~~ちがう~~~~!!わーーーん!!」

 

 

ギャーーー……

 

 

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51 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:45:37.12 ID:Func4jDlo

 

 

* * *

 

 

妖使い「やあやあ!」

 

魔女「あ、妖使い。ねえこの間君の妖孤が魔王様の部屋に侵入してたけど」

 

魔女「君の仕業じゃないの」

 

妖使い「え?さあ。知らないな」

 

魔女「ふーーーん? なんか怪しいなー。魔王様になにかしたらあたしは怒るよ」

 

妖使い「ところで今日は東国の酒を持って来たのさ。はい君にプレゼント」

 

魔女「わー!珍しいお酒だね。やっぱり君いい人だったわゴメンね!誤解だったー!」

 

魔女「さっそく今から飲もうよ!私つまむもの作ってくるからグラスに注いどいてねー」

 

魔女「グラスはそこの食器棚に入ってるからよろしく」

 

妖使い「はいはい」

 

妖使い「ははは!将を射んと欲すれば先ず馬を射よ。ちょろいもんだぜ」

 

妖使い「酒持ってきといてよかった」

 

 

 

 

……カタン

 

 

魔王「……? おかしいな。下で人の声が聴こえた気がしたのだが」

 

魔王「気のせいだったか……」

 

魔王(喉かわいたな。……あ、水)

 

魔王「……」ゴクゴク

 

 

 

妖使い「あ、魔王だ。チッ……なんだ、もう歩けるくらいにまで回復したのか」

 

妖使い「……って……あれ?なに飲んでんの?」

 

妖使い「あーーーっ!!それは……俺が持ってきた酒っ!!」

 

妖使い「そんな一気飲みするもんじゃないよーー!!貴重な酒なんだよっ ああもう!!

    一本しか持ってこなかったのにーーーーー!!」

 

魔王「酒……?」

 

 

 

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52 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:48:15.76 ID:Func4jDlo

 

 

 

魔女「えっなに。間違えてお酒飲んじゃったの?」

 

魔女「でも魔王様お酒強いよね。大丈夫大丈夫……」

 

魔王「ああ、平気だ」バターン

 

魔女「全然大丈夫じゃなかった!!」

 

妖使い「病み上がりだしね……」

 

魔女「ままま待っててすぐ水持ってくるからしっかり魔王様!」

 

 

 

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53 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:49:21.17 ID:Func4jDlo

 

 

 

王都

 

 

勇者「え?魔王が熱出したって?」

 

勇者「またか」

 

竜人「そうなんですよ。もう治りかけですけどね」

 

竜人「今日は用事があって私は魔王様のおそばにいられないのですが、

   もう心配で心配で心配で心配で……気が狂いそうです」

 

竜人「気が狂いそうですよ」

 

勇者「なんで二回言ったんだよ。お前の心配度合いは十分分かったから」

 

 

勇者「あいつよくこの時期風邪ひくよなあ」

 

勇者「魔王のステータスって、魔力完ストでほかは全部0か1って感じするな」

 

竜人「まあいずれほかも完ストするでしょうけれどもね」

 

勇者「お前は色眼鏡で見すぎだと思うぞ」

 

 

 

勇者「今日この後行ってみるか……」

 

勇者「……ちょっと気まずいけど」

 

竜人「エ?魔王様トナニカ アッタンデスカ?」

 

勇者「いやなんでもない」

 

勇者「何でもないから剣しまえ」

 

 

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54 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:50:38.40 ID:Func4jDlo

 

 

 

月の町 魔王宅

 

 

勇者「入るぞー」

 

妖使い「勇者。やあこんばんは」

 

勇者「よう」

 

勇者「ところで何してんだ?」

 

勇者「何故魔王が倒れてて、お前は右手で魔王の人差し指を持って、左手でナイフを持ってるんだ?」

 

妖使い「別に危害を加えようとしたわけじゃないよ。ただちょっと血グフッ」ゴキャ

 

妖使い「問答無用でヘッドロックはやめてほしいなって!折れる折れる!くそいてーよ」

 

 

勇者「魔王しっかりしろ!!全然治りかけてないじゃねーかよ」

 

魔王「ん……」

 

勇者「大丈夫か!?」

 

魔王「…………」

 

 

 

魔王「あーー……ゆうしゃくんら~~~……」

 

魔王「くすくす……」

 

勇者「ああ。まったく大丈夫じゃないな」

 

 

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55 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:53:38.19 ID:Func4jDlo

 

 

 

妖使い「ええっなんでまた俺ヘッドロックかけられてんの!?痛い痛い!!死ぬーーー!!」

 

勇者「経緯を説明しろ」

 

妖使い「魔王が水と間違って酒飲んじゃっただけだよ!混乱ついでに俺に八つ当たりするのやめて!」

 

勇者「酒~~?あいつ酒強いぞ。間違って飲んだ量であんな風にならねーよ」

 

妖使い「飲んだのが、東国名産アルコール度数99%の『地獄酒』だから……

    一口飲んだだけでもあっという間に地獄行き確定だよ~~」

 

勇者「お前の国一体どうなってんの!?」

 

 

 

魔女「勇者!来てたの? 魔王様が今急性アルコール中毒でえらいことになってるんだけど!」

 

勇者「中毒じゃないが、別の意味でえらいことになってるぞ!いろいろ崩壊してるぞ!早く水を飲ませないと」

 

魔王「ゆうしゃくんこっちきてよ~~~ねえっこっち~~~」

 

魔女「うわっ!!魔王様が酔っ払ってるとこ初めて見た!!確かにえらいことだね。よく見とこっと」

 

勇者「そうじゃねーだろ!!」

 

妖使い「はー。もういいよみんなで飲もうぜ。へいかんぱーい!!!」

 

魔王「こっちきてよ~~~……ねえってばあ~~~」

 

勇者「なんだこの状況!俺一人で収拾つけられる気がしねーよ!」

 

 

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61 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:22:25.38 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

勇者「お前病み上がりなんだろ?こんなことしてないで早く寝ろよ。ほら水」

 

魔王「やみあらりってなに?」

 

勇者「熱下がったばっかりだってことだよ……おい!ちゃんと座ってろ!水零れるって!」

 

魔王「やみあらりっれらに~~~~?」

 

勇者「お前酔うと面倒くさいな!! さっき言っただろ!」

 

 

魔女「ていうか、てっきりあの忍っていう子も来るかと思ったのに

   今日は妖使いにも勇者にもついてこなかったんだね」

 

妖使い「あいつ俺の護衛なのに全く護衛してないよ。

    おかげで俺はヘッドロック2連発でまだ首が痛いよ」

 

勇者「ああ、王都にいたぞ。妖使いを探してた」

 

勇者「今日も日中、毎時2回のペースで襲撃された。いい加減なんとかしてくれ」

 

妖使い「メンゴ」

 

魔王「……」

 

勇者「でもこっちに妖使いがいたなら、撒かないで一緒に連れてきてやればよかったな」

 

妖使い「撒いたんかい」

 

勇者「……あ、ああ。なんとなくな」

 

勇者「いや別に忍個人がどうのこうのってわけじゃな

 

魔王「……」ズボ

 

勇者「ぐえっ!?」

 

魔女「わあ、なにしてるの魔王様」

 

魔女「勇者のベロなんて手で引っ張ったらバッチイよー」

 

勇者(どういう意味だ)

 

 

勇者「は、離せよ!いきなり度肝抜くようなことをするな。なんだよ」

 

魔王「…………」

 

魔王「あのこのはなしはしないで」

 

勇者「え?」

 

魔王「しないでーーーーーーーーーっ」

 

勇者「わ、分かったから?落ち着けよ」

 

 

 

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62 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:24:50.92 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

魔王「ぎゅーしていい?ぎゅー」

 

勇者「牛? なんのこっちゃ」

 

魔王「ぎゅー」

 

 

 

魔女「あー これが巣立ちか……さびしいものですな」

 

妖使い「分かる分かる」

 

魔女「魔王様は勇者のことが好きなの?」

 

魔王「うん すきー」

 

魔女「そっかー……あたしのことは?」

 

魔王「すきー!」

 

魔女「よかったー。じゃあ妖使いのことは?」

 

魔王「大っ嫌い」

 

妖使い「ねえ俺にも心はあるんだよ?」

 

 

魔王「はっ……なぜきさまがここにいる?」

 

魔王「ここは私の家だぞ。出て行け今すぐにだ。魔女の近くに寄るな!

   魔女は私の部下だから貴様の使い魔にはやらんぞ」

 

妖使い「う、うわあ急に流暢にしゃべりやがって……傷つくなあ」

 

妖使い「そうだなあ、魔王が全然使い魔になってくれないから

    君が言う通り代わりに魔女を使い魔にもらおうかなあ」

 

魔女「やーん助けて魔王様ー」

 

魔王「だめらろいったらろ!!!そんらことしらら、たららおからいろ!!!」

 

勇者「おいあんまりからかうなよ。激昂しすぎて魔王の呂律がやばいぞ」

 

 

 

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63 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:30:51.93 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

妖使い「じゃあ……あのドラゴンでももらおうかな?

    竜なんてこっちじゃまだ生き残ってるか分からないくらい希少だし」

 

魔王「りゅうじんもだめ!!!」

 

妖使い「じゃあ誰ならいいって言うんだよ!?」

 

魔王「ぜんぶだめっ!!!!ぜんぶだめえーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 

勇者「魔王の血管がぶち切れそうだからそろそろやめてくれ」

 

妖使い「ギブギブ。ギブお願いしまーす。そろそろ首の骨が疲労骨折しそーう」

 

魔女「ぎゃあああ魔王様、いまその状態で魔法使おうとするのはやめてーっ」

 

魔女「家壊れちゃうよー!路頭に迷うよー!」

 

魔女「はいお水飲んでクールダウンね。ひっひっふー」

 

魔王「……」クラクラ

 

魔女「ていうかもう寝ようか?」

 

勇者「なにを手にもってるんだ?」

 

魔女「魔王様が子どものとき寝かしつけるのに使ってたおもちゃ。

   振ると音がするんだー」ガラガラ

 

勇者「いやいや、そんなもので眠るわけないだろ……こいついくつになったと思ってんだ」

 

魔王「………………」

 

勇者「寝たよ」

 

 

 

勇者「つーかそれあったんなら最初から使えよ!!」

 

魔女「あー あたしも眠くなってきちゃった。もう寝ようっと。

   片付けは……明日竜人に9割方手伝ってもらおう」

 

妖使い「容赦ないねー」

 

魔女「じゃおやすみ。いい夢みなよ」

 

勇者「魔王はどうするんだよ?」

 

魔女「か弱い非力なあたしが魔王様を運べるわけないでしょ?

   勇者が部屋まで送ってあげてよう」

 

魔女「ああ……なに?これほしいの?金貨一兆枚で売ってあげるよん」

 

勇者「なんだよそれ」

 

魔女「びやk

 

勇者「さっさと寝ろ」

 

 

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64 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:34:20.99 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

バタン

 

 

勇者「なんかどっと疲れた…………」

 

勇者「ついたぞ魔王。って寝てるか」

 

勇者(まあ……元気そうでよかったな)

 

魔王「……ゆうしゃくん」

 

勇者「おやすみ、また明日な」

 

魔王「……」

 

魔王「くび……くるしい」

 

勇者「そんなかっちりした服着てればそりゃな」

 

勇者「今部屋出るから、そしたら着替ろよ」

 

魔王「りぼん ほろけらい~~……」

 

勇者「俺が部屋の外に行ってからにしろって言ってんだろ!!」

 

魔王「とれない。くるしい~~っ」モタモタ

 

魔王「とって……とってーーーっ」

 

勇者「リ……リボンくらい自分でとれるだろ」

 

魔王「くるし……お……おぼれちゃうぅ……うっぅ……」

 

勇者「ここは陸だ!!」

 

勇者「あーーもう分かったからそんなことで泣くなよ」

 

 

 

勇者「……」

 

勇者「……ほら」シュル

 

魔王「ありがとう」

 

魔王「……ん?……あれ……」

 

魔王「ぼたんもとれらいーーーとって~~~」

 

勇者「頼むから勘弁してくれ」

 

 

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65 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:37:12.10 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

勇者「そ、そうだ魔女を呼んでくるから、あいつにとってもらえ。じゃあな」

 

魔王「……あ、らいふ……」

 

勇者「うわあああっナイフはやめろ!大惨事になる予感しかしない!」

 

魔王「かえしてかえしてかえして~~~そろらいふはわたしろらろ!」

 

勇者「ええいなに言ってるか分からん!」

 

魔王「なんれいじわるするの? 

   …………ゆうしゃくんもわたしのこときらいなんら……」

 

魔王「……」

 

勇者「そんなこと一言も言ってないだろ!?深刻な顔をするなっ」

 

勇者「やめろ青ざめるな、良心が痛い。……泣くな!」

 

勇者「分かったよ分かったから……!もういっそ俺が泣きてえよーーー!!」

 

 

 

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66 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:42:07.36 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

 

勇者(……でも考えてみれば違うわけだ)

 

勇者(こいつと出会ったときのことを思い出してみろ……子どもだ。

   そして俺は別に特殊な嗜好をもっているわけじゃあない……)

 

勇者(俺はロリコンではない。変態ロリコン野郎じゃない)

 

勇者(俺はヒカルゲンジとやらではない……)

 

勇者(だったら別にこんなの子どもの着替えを手伝っているようなもの……)

 

勇者「……」プチプチ

 

勇者(でも今の魔王は子どもじゃなくないか?)

 

勇者(普通に……だったら俺はロリコンではない?いたって正常な感性を持つ男だ)

 

勇者(…………いやそのことは後で考えよう。今真面目に考えるといろいろ状況的に問題が……)

 

勇者(魔王は酩酊してるんだから……酔っ払ってるだけだからな)プチ

 

魔王「ゆうしゃくんのて、つめたくてきもちいーな」

 

勇者「ひいいいい……俺ほんとなにやってんの……なにやってんの……無心無心無心」プチ

 

勇者「……う」

 

勇者「…………」

 

魔王「もういいー」

 

勇者「……」

 

魔王「? ゆうしゃくん……」

 

勇者「……ハッ……そ……そうか。分かった」

 

 

 

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67 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:45:17.43 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

魔王「もうねる……」

 

勇者「ああ、じゃあおやすみ!!!またな!!!」

 

魔王「えっ……どこいくの?」

 

勇者「えっ……宿だけど」

 

魔王「……? なんで?………………あっ」

 

魔王「やだーーーやだやだやだやだここにいてーーーーっ!!」

 

魔王「あのこのところにいっちゃやだ~~~~~~~~」

 

勇者「おい馬鹿っ離せ!!あの子って誰だよ!!誰かのところに行くつもりねーよ!」

 

魔王「やだ~~~いっしょにねようよ~~~っ」

 

勇者「それだけは絶対に無理だからな!!もう俺もお前も子どもじゃないんだから無理!!」

 

 

ガチャ

 

 

魔王「やだ……なんれもするからいかないでーーやだやだ」

 

勇者「俺も何でもするからほんとそれだけは勘弁してくれ。

   俺に心の平穏と睡眠時間をくれ」

 

魔王「いかないで……」

 

勇者「……」

 

魔王「ゆうしゃくんいっちゃやだ……」

 

 

ギイ……

 

 

魔王「あう……」

 

魔王「……お……おかねはらうから~~~~……うえっ……うう……」

 

勇者「いらねえよ!!」

 

 

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68 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:49:12.39 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

勇者「なんで金……微妙に傷つくじゃねえか!」

 

魔王「やだやだおねがい……おねがい! ……ねっ」

 

魔王「ねっ!!」

 

勇者「ゴリ押しやめろ!いやだっつってんだろ!」

 

勇者「お前どうなっても知らんぞほんと!!手ぇ離せ」

 

魔王「きょうらけらからぁ~~……」

 

魔王「もうあしたからわがままいわないから……ううっ……」

 

魔王「いっちゃやだぁ~~~~!!」

 

勇者「……ぐ…………うぐ……」

 

勇者「……」

 

 

 

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69 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:53:35.76 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

勇者「……」

 

勇者「……はあ……結局。くそ」

 

魔王「ごめんね」

 

魔王「おこってる……?」

 

勇者「……怒ってない」

 

勇者「怒ってないけど、なんでそんな……」

 

魔王「らって」

 

魔王「…………ゆうしゃくんしんじゃうから……」

 

勇者「ええええええええええええええええええええええええ」

 

勇者「どういうこと!?」

 

魔王「……まってっていったのに……さきにいっちゃうから!

   あるくのはやいから~~~……!」

 

魔王「さびしいよ……」

 

勇者「待て待て、一体何の話だよ。先に行ったっていつの話だ?」

 

魔王「あさまでここにいる?」

 

勇者「つーかもしかして俺が死ぬって、お前の例の未来予知で見たんじゃ……ないよな?」

 

魔王「あさまでここにいる?」

 

勇者「なあ答えてくれよ!予知じゃないですよね!?」

 

魔王「あさまでここにいてくれる……?」

 

勇者「いるよっ!!いるから!!」

 

魔王「おやすm……」

 

勇者「あっおい、あんまりひっつくなって……魔王!聞いてんのか」

 

魔王「んん……」

 

勇者「……おいっ……!」

 

 

 

 

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70 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:56:30.13 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

* * *

 

 

冥府

 

 

??「死に別れって悲しいよなぁ」

 

??「だからみんないっしょに消してあげよう」

 

 

鍵守「……時の女神をけしたでしょう」

 

鍵守「……やめようよ……こんなこと」

 

鍵守「時空のゆがみがたくさん……」

 

 

鍵守「怒るよ」

 

??「でももうこの世界の存在理由はなくなってしまった」

 

??「もういらねーんだよ。だったら消すしかねーだろ」

 

??「こんなもの……全部下らないね。逃避のためだけの箱庭だ」

 

??「お前が死んだからさ」

 

鍵守「……ボクは所詮偽物だけど……それでもわかる。

   君がしようとしてることはまちがいだよ……」

 

鍵守「君に会うのたのしみにしていたのに……

   こんなかたちで会うことになっちゃって、かなしいよ」

 

??「いずれここも消すよ。最後にな」

 

??「だからその悲しいのもそれまでだ」

 

 

 

鍵守「……させないよ……」

 

 

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71 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 19:58:31.97 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

* * *

 

 

 

魔王「……。……朝か。いま何時……」ムク

 

魔王「うっ……?」

 

魔王「頭が痛いし気持ちが悪い……一体これは……」

 

 

勇者「起きたか」

 

魔王「……」

 

魔王「ここは私の部屋だが……」

 

勇者「知ってる」

 

魔王「何故勇者くんが私の部屋で寝ているのだ」

 

勇者「……………………覚えてないのか」

 

魔王「? とりあえずおはよう」

 

勇者「いいか魔王。お前はもう二度と深酒はするな」

 

勇者「絶対にだ」

 

魔王「深酒? そういえば昨日の夜間違ってあれを飲んでしまってから記憶がないな」

 

魔王「まさか私は……酔っ払って正体をなくしてしまったのか?」

 

魔王「うう……信じられないくらい頭が痛いぞ……気持ち悪い」

 

勇者「大丈夫か?魔女に二日酔いの薬作ってもらうか」

 

魔王「余計に具合悪くなるだろうからそれはいい……」

 

 

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72 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:01:43.88 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

魔王「……」フラ

 

魔王(……ん!?)

 

魔王(な……?何故こんなにシャツがはだけて……!?)

 

魔王(寝てる間に無意識に脱いでしまっていたのか? あわわ……どうしよう。よりによって……)

 

魔王「……」チラ

 

勇者「……気にするな、見ていない」

 

勇者「真ん中にリボンがついた白地に薄桃の水玉模様の下着なんて」

 

勇者「全然みてないから安心しろ」

 

魔王「そ、そうか」

 

魔王(よかった……)ホッ

 

 

勇者「じゃあ俺は出かけてくる」

 

魔王「どこへ?」

 

勇者「滝に」

 

魔王「た、滝?何故? それより今すぐ出かけなくとも、ここで朝食くらい……」

 

勇者「いいや今すぐにだ!!俺は今すぐ滝に行かなければいけないんだ!!」

 

勇者「一に滝、二に滝、三から億まで全部滝だ!!!今すぐ煩悩を滅さなければ俺は死ぬ」

 

魔王「滝にかけるその情熱は一体どこから来たのだ。勇者くん」

 

勇者「10割お前のせいだよ!ちくしょう!!」

 

 

バタン

 

 

竜人「あ」

 

 

 

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73 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:04:26.50 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

勇者「」

 

魔王「竜人。おはよう」

 

竜人「……おはようございます。魔王様」

 

竜人「…………………………」

 

勇者「おい誤解するなよ。お、俺は何もやましいことはしていないぞっ!!」

 

竜人「何故この朝に勇者様が魔王様のお部屋にいたかについては、

   後ほどじっくり拷……尋問させて頂くことにして」

 

勇者「待て!!!いやなワードが聴こえたんだけど!!俺は本当になにもしてないって!!」

 

竜人「それより先に報告があります。

   勇者様、至急今から告げる町に行って頂けますか?」

 

魔王「何があったんだ?」

 

竜人「またあの謎の大穴ですよ。ただ今度の穴は……」

 

竜人「今までのより5倍ほど大きいそうです」

 

 

 

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74 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:06:55.97 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

* * *

 

 

 

勇者「確かに大きいな」

 

魔王「でも人が巻き込まれなくてよかった」

 

男「へえ、そうなんですがねえ。

  町の外れにあった牧場や畑は、この穴に飲み込まれて突如消えてしまいました」

 

男「まったく、これはなんなんですかねえ。こちとらたまったもんじゃないですよ」

 

勇者「牧場や畑は……また作ればいいじゃないか。とにかく人の被害がなくてよかったよ」

 

魔王「では穴を塞ぐぞ」ス

 

勇者「大丈夫か?」

 

魔王「ああ」

 

 

 

バサーッ

 

 

妖使い「うおお、今度の穴はでっけえな!遅れてごめんごめん!俺だぜ」

 

忍「おまけに私です!」

 

勇者「やかましい登場だな」

 

 

 

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75 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:08:06.74 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

忍「勇者様昨日なんで私のこと撒いたんですかーっ ひどいじゃないですかぶん殴りますよマジで」

 

勇者「いや……撒いた?え?なんのことだ?」

 

忍「しらばっくれないでください。また手合わせしてくれるって約束したじゃないですか」

 

忍「今度逃げたら承知しませんよ!ヤンデレ発動しますからね」

 

勇者「ヤンデレって何だ?」

 

忍「あれ?わあ魔王様、今から魔法を使うんですか?」

 

忍「ていうか顔色悪いですけど……大丈夫ですか?」

 

妖使い「あーもしかして二日酔い?昨日すごかったもんね」

 

魔王「……」

 

魔王「少し調子が悪くて……特別集中する必要があるから、一人であっちで魔法は使う。

   ここで待っててくれ」

 

 

 

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76 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:10:26.32 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

忍「あ……行っちゃいましたね。私魔王様が魔法使うところ見たかったのに」

 

勇者「あいつ大丈夫かな。やっぱりちょっと……」

 

忍「でも無事魔法は使えたみたいですね。ほら、穴がみるみる魔法で覆われていきますよ」

 

忍「さすがですね……彼女」

 

忍「……」

 

忍「勇者様。この大穴は一体何故いきなりこの世界に現れたんだと思いますか?」

 

勇者「その理由を今探してる最中だろ。俺にはさっぱり分からん」

 

忍「私……ちょっと分かるかもしれません」

 

勇者「え?」

 

忍「ちょっと耳貸してください!!鼓膜は破らないので安心してください!!!!!」

 

勇者「あ、安心できねえ!」

 

 

 

忍「もしかして……神様が怒ってるんじゃないかなって思うんです」

 

勇者「神様……?」

 

忍「この世界を作った神様が……自分の作品を嫌いになっちゃったんじゃないでしょうか」

 

勇者「……なんで嫌いになったんだよ」

 

忍「さあ。それは知りませんけど、例えば勇者様が粘土で何か作品を作ったとしますよね」

 

忍「でもできあがったものは、理想とは程遠いゲロと糞尿の合成物みたいな作品だったとします」

 

勇者「おい。失礼な奴だな!!俺は一体どんなものをつくってんだよ!!」

 

忍「もうそばにおいておくのも見るのも嫌だ……ってなったとき、それをブッ壊しません?」

 

忍「そういうことじゃないかって、私、最近思うんです」

 

勇者「……」

 

忍「このままいけば、世界は神様によって壊されちゃいますよ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

77 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:13:09.95 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

勇者「……たとえそうだったとして、じゃあどうすればいいんだ?」

 

勇者「神になんて……俺たちが対抗できるものなのか」

 

忍「絶対無理でしょうね!!」

 

勇者「うるせっ! 鼓膜破れる!」

 

忍「まあ常套手段としては生贄を神様に捧げたり? そういうのが有効なんじゃないですかね」

 

勇者「生贄って……」

 

忍「東国では普通ですよ?一人死ぬのと、大勢の人が死ぬのとでは、どちらが種にとって善か一目瞭然じゃないですか」

 

忍「生贄に選ばれたその一人も、皆を守って死ねるのだから、誇らしいことです」

 

勇者「……」

 

忍「犠牲の上に成り立つ平和なんて嫌だ!なんて思ってるわけじゃないですよね?」

 

忍「犠牲の上に成り立ってない平和なんて、存在しませんよ。

  勇者様、いまあなたがこの平和な世界で暮らせているのも……」

 

忍「あなたが知らない犠牲があったからにほかならないと思います」

 

勇者「……随分物知りだな。その犠牲ってじゃあ、何だよ。

   誰が犠牲になったって言うんだ?」

 

忍「さあ。私が知ってるわけないじゃないですかーやだー」

 

忍「……でも、次はあなたたちの番じゃないですか?」

 

勇者「……は?」

 

忍「勇者様と魔王様、その時が来たら、どちらが生贄になるのですか?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

78 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:15:50.24 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

魔王「……」

 

 

妖使い「やー見事見事」パチパチ

 

魔王「……来るなと言ったはずだが」

 

妖使い「だってさ、向こう岸見てごらんよ。

    勇者とあの護衛、二人で内緒話なんかはじめちゃってさ」

 

妖使い「居づらくってしょうがなかったわけよ。はっはは、参ったね」

 

魔王「……」

 

妖使い「あの二人がこっちで結婚したら、そばにいるのは君にとって辛いんじゃないかな?

    だから一緒に東国においでよ。東国いいところだよー雅だよー」

 

魔王「馬鹿を言うな。私は魔王だぞ。この地の魔族を守らねばならん」

 

妖使い「そっか。じゃあ実力行使だ」

 

妖使い「はっはー!陣を踏んだな魔王!!これで君は一定時間、身動き一つとれまいて!

    我が一族秘伝の拘束術だ!」

 

魔王「……!」

 

妖使い「油断したな魔王。くくくく……」

 

妖使い「恋と戦争は手段を選ばず!」

 

妖孤「恋でも戦争でもないじゃないですか~~正気ですか主様~~」

 

 

妖使い「僕と契約して下僕……じゃない、使い魔になってよ。魔王」

 

妖孤「下衆ここに極まれりですよ主様~~~いい加減にしてくださいよ~~」

 

妖使い「うるせえ!お前は勝手に出てくるな!!」

 

魔王「…………」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

79 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:19:24.42 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

魔王「このような術ごときで私を拘束できると思ったのか?心外だ」

 

妖使い「……あれれ……」

 

魔王「拘束術というのはこういうものだ」

 

妖使い「ちょっとタンマ!!!待って待って!!」ギュー

 

妖孤「あ、あるじさっ…………わーーーっ!!」ギュ

 

妖使い「おい即効掴まってんじゃねーよこのボンクラ狐!」

 

妖孤「助けようとしたのにこの言われよう……しくしく」

 

 

魔王「で?身動き一つとれない状況に貴様は今置かれているわけだが」

 

妖使い「あのー見逃して?ごめんね?謝るから」

 

魔王「貴様の謝罪には塵ほどの価値もない」クイ

 

妖使い「ひいいい」

 

魔王「僕と契約して奴隷……じゃない、しもべになってよ」

 

妖使い「言いかえる必要あったかな!?」

 

魔王「違うか。しもべになったな、おめでとう」

 

妖使い「過去形!?勘弁して!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

80 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:22:09.95 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

 

魔王「……全く」パッ

 

妖使い「あ、動ける」

 

魔王「誰かにされて嫌なことは他人にするな」

 

妖孤「これでもかというほどの正論ですよ主様~~」

 

妖使い「……はっ。俺はこの世で『正論』と『責任』という言葉が最も嫌いだね!!」

 

妖孤「ふざけんなカス~~」

 

 

妖使い「じゃあ分かったよ魔王。何事も等価交換が原則だよね」

 

妖使い「俺の望みをかなえてもらう代わりに、君の望みをかなえよう」

 

魔王「……?」

 

 

妖使い「君を人間にしてあげるよ」

 

魔王「…………」

 

魔王「……は……?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

81 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:24:00.65 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

妖使い「そうだなあ。俺の下で使い魔として5年。

    5年働いてくれたら、その後は君を人間にしてあげよう」

 

妖使い「どうする?もちろん今この場で契約してくれないとだめだから」

 

妖孤「主様……むぐっ」

 

妖使い「今決断するんだ。使い魔になるかならないか」

 

 

魔王「……そんなこと貴様にできるわけないだろう。騙されると思ったか?」

 

魔王「というかどれだけ私を使い魔にしたいのだ……さすがに少し気持ち悪い」

 

妖使い「言葉に気をつけろ。俺はとても傷つきやすい」

 

魔王「すまん」

 

妖使い「嘘じゃないよ。準備に時間はかかるかもしれないけど。

    東国の秘法にあるのさ。人を妖に、妖を人にする術が」

 

妖使い「人になれたらって……ずっとそう思ってたんじゃないのかい」

 

妖使い「そうしたら彼とも一緒に生きることができるよ。

    彼と一緒に成長して、結婚して、老いて、共に死ぬことができる」

 

妖使い「同じ速度で、ずっと二人で歩いていける」

 

妖使い「たった5年使い魔になってくれるだけでいいのさ。

    それだけで君は全ての望みを叶えられるんだ。悪い話じゃないだろ?」

 

魔王「…………」

 

魔王「……まさか…………無理に決まってる……」

 

妖使い「無理じゃない。人になったら、」

 

妖使い「あの子に勇者を取られないで済むよ」

 

 

魔王「…………」

 

魔王「……本当に……?」

 

妖使い「……もちろん」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

82 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:26:05.69 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

妖孤「ぐむっ……ぷは! 主様!はなしてください」

 

妖孤「嘘はだめですよ~~~!!」

 

妖孤「その秘法は、まだ誰もやり方が分かってないじゃないですか……。

   成功するかどうかも疑わしいですし~~」

 

妖使い「……チッ」

 

妖使い「いや、嘘は言ってないよ。秘法は存在するっていうことだけはれっきとした事実だし、

    5年もあれば絶対やり方も分かるってマジで」

 

妖孤「詐欺みたいな手法やめろクズ~~魔王様かわいそうじゃないですかぁ」

 

 

魔王「……」

 

妖孤「ごめんね。信じちゃったかな……?」

 

魔王「……!」カァ

 

魔王「そんな術があったとしても……私は人間にはならないっ!」

 

魔王「私は魔王だ!魔族として生まれたことに誇りを持っている」

 

魔王「今までどんなに虐げられようとも、魔族であることに負い目を感じたことはなかった!」

 

魔王「それに私には魔王として……この国の魔族を守る責任があるのだ。

   皆を捨ててまで人間になんて……な……なりたくないっ!」

 

魔王「私を愚弄するな!」

 

 

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83 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:28:45.63 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

妖使い「愚弄なんてしてるつもりはないよ……

    むしろ最大限の敬意を持って君に接してるつもりだったけど」

 

妖孤「ごめんね魔王様。主様、コレ本気で言ってるんです。色々頭おかしい人なんです」

 

魔王「もういい……後で戻るからちょっと一人にしてくれ」ヨロッ

 

妖使い「おっと危ない。こけるよ」パシ

 

魔王「離せ」

 

妖使い「どうかした……の……か……って、……え」

 

妖使い「えええええええええええええーーーー……!?!?」

 

妖使い「いやいやいや……な、なんで泣いて…………ええええっ」

 

魔王「泣いてない」

 

妖使い「いまの泣くところじゃないじゃん……!?!?」

 

魔王「だから泣いてない。離せ」

 

妖使い「いやでも……」ヒタ

 

妖使い「ん? 何か首に今、ひやっと……」

 

 

勇者「なにやってんだ?」

 

妖使い「わあ、最悪のタイミング」

 

勇者「なにやってんだ?」

 

妖使い「いやほんと何もやってないよ?だから俺の首に剣押し当てるのやめてくださいよ。

    大事な血管切れちゃいますよ。君いつからアサシンに転職したんだ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

84 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/13(火) 20:31:46.87 ID:/h/l3jH+o

 

 

 

 

勇者「俺の目には、お前が魔王を泣かしたように見えるが気のせいか?」

 

魔王「泣いてない」

 

忍「私の目にも、残念ながら若が魔王様に無理やり何かをしようとして

  魔王様が泣いちゃったように見えますねー」

 

魔王「泣いてない!」

 

妖使い「おい忍!俺の護衛ならこの状況助けろ下さいお願いします。

    俺は何もやってないよ!なんで魔王が泣いてるのかも分かんないって!」

 

魔王「だから泣いてないっ!!」

 

 

 

魔王「……ううーっ、頭が痛い……もう穴は塞いだから私は宿で少し休んでいていいだろうか」

 

魔王「原因についての調査にはまた改めて加わる」

 

勇者「魔王。何があったんだ?」

 

勇者「さっきもそうだし……昨日の夜おかしなことも言ってたな。

   最近変だぞ。何かあったんじゃないのか」

 

魔王「何もないが」

 

勇者「何もなくて泣くのかよ」

 

魔王「だからっ泣いてないと言っているっ。皆私の話を聴け!」

 

 

 

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90 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:12:13.11 ID:RBNk19F+o

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

勇者「あんまり魔王が嫌がることするなよ」

 

妖使い「してないですし~~」

 

勇者「その話し方やめろ、いらっとくる」

 

勇者「使い魔使い魔って……いちいちちょっかいかける割には、

   お前があんまり本気で使い魔にしようとしていないように思えたから」

 

妖使い「……」

 

勇者「そんなに気にしてなかったけど。度が過ぎるようなら俺も怒るぞ」

 

勇者「つーか俺より先に、あいつの部下にミンチにされて海に沈められるぞ」

 

妖使い「……」

 

妖使い「魔王は君のものじゃないだろ?そんなこと君に言われる筋合いないんだけど」

 

妖使い「それとも何かな、君にとって彼女は何にカテゴライズされてるんだ」

 

勇者「はあ……!?」

 

勇者「……お前には関係ないだろ!」

 

妖使い「君はあと50年とか60年で死ぬ」

 

妖使い「魔王は妖の血が入ってるから、何年かは分からないけどそれ以上確実に生きるだろうね」

 

妖使い「100年……200年?もっとかな」

 

勇者「何が言いたいんだよ」

 

妖使い「俺が言いたいのは、人と妖は深い関係を結ぶべきじゃないってことさ。

    確かにこの国は妖と人が共存していて興味深いけれど」

 

妖使い「隣人や友人程度なら……問題ないかもしれないね。人と妖でも。

    でもそれ以上はお互い不幸にしかならないだろうってこと」

 

勇者「…………」

 

 

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91 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:13:25.98 ID:RBNk19F+o

 

 

 

 

妖使い「君が気にいったんなら、忍はここに残すよ。

    彼女と幸せになってくれ」

 

勇者「……東国の連中ってのはみんなそうなのか?煙にまく言い方ばっかりするな」

 

勇者「お前も忍も、本当に穴の調査のためにこの国に訪れたのか?

   その割には本気で調査してる風にも思えないし、自国を案じてる様子にも見えないな」

 

勇者「本当は何が目的なんだ?」

 

妖使い「いやだな……ちゃんと本気で穴の原因究明にあたってるし、自国も心配してるよ」

 

妖使い「そんなに怪しがらないでくれ」

 

勇者「どうだか」

 

 

勇者「……? おい、今何か聞こえなかったか?」

 

妖使い「へ?」

 

 

キャーー

 ウワーーー

 

 

勇者「町の人の悲鳴だ! 外でなにか起きてるんだ、行くぞ!!」

 

妖使い「合点でい! 妖孤、魔王を起こしてきてくれ」

 

妖孤「あ……はいっ」

 

 

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92 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:15:39.17 ID:RBNk19F+o

 

 

 

  「きゃーー!なにあれ!?」

 

  「北に逃げろ!物は置いてけ!!早く逃げるんだ!」

 

 

勇者「一体何の騒ぎだ!?なにがあった?」

 

忍「おっせーですよ勇者様に若!!村の入り口に変な生き物が押し寄せてるんです!」

 

町長「勇者様!どうか村のみんなをお助けください!

   あの穴の方向から……あいつらが……影みたいな奴らが村に向かってきてるんです」

 

妖使い「あいつら……?」

 

勇者「なんだあれ!?」

 

 

影「……」ノソノソ

 

影「……」ノソ

 

 

忍「……いやほんと、なんですかねアレ?」

 

妖使い「影としか言いようがないな……顔も何もない……けど動いてる」

 

妖使い「きんもー」

 

勇者「町長!俺たちがあいつらを止めてる間に、住民の避難を!」

 

町長「合点です!勇者様よろしくお願いします……!!」

 

勇者「よし、何が何だか分からんが、とにかくあいつらを止めるぞ。

   この町に入れさせるな!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

93 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:17:22.83 ID:RBNk19F+o

 

 

 

ビュッ

 

ズバッ……!!

 

 

影「……」

 

勇者「……!? 真っ二つにしたんだがな」

 

勇者(斬ってもすぐ断面から再生するか……)

   

勇者(斬ったときの感触もあるようなないような変な感覚だし。生物じゃないな)

 

勇者「本当なんなんだよお前ら!!」ヒュッ

 

 

 

ドカーン

 

 

忍「爆破しても無駄ですね!忌々しい」

 

オヤジ「うわあああっ誰かーーたすけてくれええ」

 

勇者「! 町の外に人が!」

 

勇者「待ってろ今助けるっ」ダッ

 

 

 

影「……」ガシ

 

オヤジ「うわああああああああああっオヤジ死ぬーーー」

 

勇者「そのオヤジを離せっ!!」ズバッ

 

勇者「おい、大丈夫かあんた…… あ?」

 

勇者「……!? どこ行ったんだ……?」

 

妖使い「勇者!気をつけろ、後ろに来てるよ」

 

勇者「うわっ!!」

 

 

ドッ!!

 

 

――――――――――――――――――――――――――

94 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:19:06.15 ID:RBNk19F+o

 

 

 

 

勇者「あのオヤジはどこに行った!?避難させないと……」

 

忍「……勇者様。私はさっき、お二人を見ていたのですが……」

 

忍「あのオヤジは……消えました。……自分でも信じられないですけど」

 

勇者「消えた!?」

 

忍「あの影に腕を掴まれて、影に飲み込まれたように見えました。

  そのまま、アイスみたいに影に溶けて……」

 

妖使い「もしかしたらだけど、この影は……あの穴にあったモノから生まれたもので」

 

妖使い「触れたものを全て消す力があるのかもしれないな」

 

忍「こわっ」

 

勇者「でも、あいつらが歩いてる地面も、身体を斬った俺の剣も無事だな。

   ……ていうことは、触れた人だけ消しちまうのか……」

 

勇者「これじゃ本当に神業だな……」

 

勇者「……」

 

勇者(まさかこの影を生み出したのは……本当に神なのか?)

 

 

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95 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:27:27.75 ID:RBNk19F+o

 

 

妖使い「よーしみんな出てこい」

 

妖狸「あいさ」ボフン

 

一つ目小僧「主様お呼びで?」

 

なめこ「なんですかこいつら!」

 

妖使い「直接あの影に触れるなよ。遠くから攻撃するんだ」

 

 

忍「爆破しても飛び道具投げても、いまいち効き目ないっすね。くそう。 ん?」

 

忍「ヒッ」

 

 

ピシャーン!!

 

 

忍「ひいいいっ!?」ビク

 

勇者「チッ……魔法でも若干動きを止めるだけか」

 

忍「貴様!びっくりするので雷はやめてください!雷嫌いなんです私!!」

 

勇者「しょうがねーだろ!」

 

 

勇者「くそ、どうするか!」ビッ

 

勇者「確かにこのままやってりゃ時間は稼げるが……

   何の攻撃も効かないとなると、解決にはならないぞ」

 

勇者「……そう言えば妖使い。魔王と穴にもぐったときに、

   穴の底にあったモノは灯りを消したら動きを止めたって言ってたよな」

 

妖使い「うん、そうさ。だからあるいは夜になればこの影も消えるかもしれないけど」

 

忍「いま午後2時……日没まで粘れますかね?」

 

勇者「……やるしかないな」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

96 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:29:45.31 ID:RBNk19F+o

 

 

 

妖孤「主様~~! 魔王様連れてきましたよ~~!」

 

魔王「遅れて悪かった……ええとこれは?」

 

勇者「魔王! これはかくかくしかじかまるまるうしうしだ」

 

魔王「ふむ、なるほど。分かった、つまり光をなくせばいいのだな」

 

忍「そんなことできるんですか!?」

 

魔王「太陽は消せないが、太陽の光をさえぎることはできる。

   ただ大がかりな術なので少し時間がかかるが……」

 

魔王「その間まかせてもいいか」

 

勇者「ああ、まかせとけ!頼むぞ魔王」

 

 

 

 

忍「太陽の光をさえぎるって……?

  そんなこと……まさか」

 

忍「ってうわーお!真面目ぶってたらいつの間にか目の前に影一体迫ってきているー!

  なれないことはするもんじゃねえですな!」

 

勇者「大丈夫か!」ズバ

 

勇者「慣れないことはするな!」

 

忍「自分でもそう思ってたところです!!」

 

勇者「やると言ったら絶対やる奴だ、あいつは」

 

勇者「……魔王は。だから心配するなよ」

 

 

 

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97 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:33:30.99 ID:RBNk19F+o

 

 

 

 

ズズズ……ズズ……

 

 

勇者「きたか!」

 

妖使い「黒い雲が空を覆っていく……」

 

忍「ほんとに夜みたいに、なっちゃいましたね」

 

 

忍「あ!あの影たちは……?」

 

勇者「暗くてはっきり見えないが、どうやら消えてくれたみたいだな」

 

妖使い「一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったね」

 

 

魔王「……ふう……」

 

勇者「魔王!やったな!」

 

魔王「なんとかできてよかった……。水魔法」

 

勇者「まだ何かするのか?」

 

魔王「いや喉が渇いてしまって。ごくごく」

 

勇者「自分で飲むんかい。水魔法って飲料用としてもOKなんだな」

 

魔王「勇者くんも飲むか?コップがないから手のひらを使うことになるが」

 

勇者「俺はいい。いやっそんなことより!!お前、いつの間にあんな大魔法使えるようになってたんだよ!」

 

勇者「すごいじゃないか!昼を夜に変えるなんて、魔王くらいにしかできないだろうな。

   あのまま……魔王がこの魔法を使わなかったら、俺たちもどうなってたか分からない」

 

勇者「あの影、随分厄介な敵だったんだ。この町を守れたのも魔王のおかげだよ。ありがとな」

 

魔王「うむ、当然だ。もっと言うがよい」

 

勇者「ああ、魔王がいてくれて助かった」

 

 

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98 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:37:08.53 ID:RBNk19F+o

 

 

 

 

魔王「……」

 

魔王「……あ、ありがとう」

 

魔王「私も……自分が魔法を使える存在でよかった」

 

勇者「ん?」

 

魔王「ところでどうしても私を褒めたいのであれば、もっと盛大に褒めてくれても構わんぞ。

   これでもかというほど褒めちぎってくれても何ら私は構わない」

 

魔王「そうしたいのであれば頭を撫でてくれてもいいのだぞ」

 

妖使い「いやーーすごいじゃないか魔王も勇者も!君たちの活躍には帽子を脱いでも脱ぎきれないな!

    つまり脱帽の極みということだけどね!!あっぱれあっぱれ!」

 

魔王「貴様には言っていない。私は勇者くんに褒めていいと言ったのだ」

 

妖使い「どうせなら二人まとめて俺の使い魔になってみる?ハッハッハ」

 

勇者「はああ?アホ言ってんな」

 

妖使い「いいじゃないか、どうせ勇者も半分魔族みたいなもんなんだろ?」

 

勇者「わけ分かんないこと言ってないで、さっさと今後について話し合おうぜ。

   町の被害について確認しないとだし、この夜化の説明もしないと混乱を招くな」

 

忍「そうでしたね!じゃあちゃっちゃと行動しましょうか、若」ゲシ

 

妖使い「いたっ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

99 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:49:07.26 ID:RBNk19F+o

 

 

 

魔王「…………」

 

魔王「……はっ…………」

 

勇者「? どうした魔王」

 

魔王「…………」

 

魔王「……妖使い……忍……」

 

妖使い「え?なに?」

 

忍「へ?」

 

魔王「す……すまない。その……この魔法は今の私では、大陸の3国までしか行き渡らせることができなくて」

 

魔王「東国までは……届かなかった。……ごめん」

 

忍「ああ……」

 

妖使い「まあ、仕方ないよ。大丈夫大丈夫!

    俺の故郷には俺より強い奴らがわんさかいるから、なんとかなってるはずだって」

 

忍「そうですよ!私の一族もなかなか強いのです。あんな影なんかに負けたりしませんよ!」

 

魔王「……」

 

勇者「二人とも、もうこうなったら東国に帰国した方がいいんじゃないか?家族とか心配だろ」

 

勇者「俺たちに遠慮してるんなら気にすんなよ」

 

妖使い「いや……こっちに残るよ。いまあっちに戻ってもできることはないだろうし」

 

妖使い「俺たちは俺たちの使命を果たすだけさ」

 

忍「そーっすよ。そっちこそ気にしないでバンバン若のことこき使ってあげてくださいネ!」

 

妖使い「俺だけかよ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

100 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 20:50:56.43 ID:RBNk19F+o

 

 

 

 

 

王都 宮殿 国王執務室

 

 

騎士「陛下!大変ですよ陛下!! 失礼します!」バタン

 

騎士「……!? 陛下……!? い、いない!?」

 

戦士「まさか、陛下の身にも何かが!?急いで探っ……」

 

 

スタッ

 

 

国王「やあ、二人とも」

 

騎士「っぎゃあああああ!!」

 

国王「そろそろ来るだろうと思って天井に張り付いて、待ち伏せをしていたんだ」

 

戦士「真剣に意味が分かりませんぞ、陛下」

 

騎士「無駄に驚かさないでください!!」

 

国王「ああ、燭台を持ってきてくれたか。助かるよ。

   いきなり窓の外が暗くなってしまって、もう国王と言えど何が何だか大混乱だ」

 

国王「私が若年性アルツハイマーでもタイムリーパーでもないとして、

   この部屋の時計も壊れていないとして……こんな時間に夜になるのはおかしいな、全く」

 

騎士「はい。まだ原因は特定できていません。どうやら王都以外でも同じような状況みたいです」

 

戦士「またあの巨大穴に関係することでございましょうか?」

 

国王「ふうむ……この突然の夜の原因としては、あの穴をこしらえた者、あるいは事象……が有力だけど」

 

国王「もしかしたらそれに対抗して取られた措置の結果かもしれない。

   こんなことできるのは魔王の彼女か、勇者の彼くらいだろうな」

1 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 18:44:59.65 ID:Func4jDl0

 

あらすじ

 

 

 

海に浮かぶ小さなこの大陸には

人間と魔族が共存しています

 

100年前には割と血みどろな人魔戦争があって

勇者と魔王が瞳孔開きながらぶっ殺しあったことがありました

(勇者「百年ずっと、待ってたよ」)

 

 

 

戦争後かろうじて生き残った魔族の子孫たちも

討伐に来た勇者によって殺されそうになりますが

 

魔王と勇者が和解したことにより戦は起こらなくなります

その後勇者は国王に反旗を翻します

(幼女「待ちくたびれたぞ勇者」)

 

 

 

人と魔族の和平から数年 平和な暮らしもつかの間

世界崩壊カウントダウンがはじまって

バッドエンド不可避でやばいという話

(勇者「世界崩壊待ったなし」 これ)

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

2 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 18:46:32.85 ID:Func4jDlo

 

 

 

魔王「んん……」ムク

 

魔王「朝か……」

 

魔王「顔を洗いに行かねば」

 

 

 

バシャバシャ

 

 

 

魔王「……」

 

魔王(なんだか城が騒がしいな……あとで下に降りよう)

 

魔王「……寝癖を直してから」

 

魔王「……?」

 

魔王「…………!?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

3 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 18:48:08.48 ID:Func4jDlo

 

 

 

ヒュン

 

 

勇者「おっしやっと来た!!うおおおおおおおあああああああ」

 

 

チリンチリンチリン

 

 

勇者「俺だ!!10秒以内に応答がなければ勝手に入るぞ!!10中略0おじゃましまーす!

    魔王いるかーーっ!!緊急事態だ大事な話がある逃げるなよ!!」

 

勇者「姫様。ついてきて頂いて大変恐縮なのですが、少しだけ二人で話させてもらってもいいですか」

 

姫「ええと……今の様子を見る限りとても不安ですが、分かったわ。行ってらっしゃい」

 

 

 

勇者「魔王ーーーっ どこだ!?」

 

 

ダッダッダッダッダ……

 

 

バターン

 

 

勇者「魔王!!!ここにいたのか!!!」

 

魔王「……!?」

 

勇者「大変だ。落ち着いてよく聞いてくれ」

 

勇者「もう間もなく世界が滅亡するかもしれないんだそうだ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

4 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 18:51:36.11 ID:Func4jDlo

 

 

 

魔王「……」

 

勇者「……」

 

魔王「……」

 

勇者「なあ聞いてるか? なんでタオルで顔隠してるんだよ」

 

勇者「こっち向……」

 

魔王「……」パサ

 

勇者「なっ お前、それ……どうした!?」

 

 

魔王「どうやら、この世界に何らかの異変がまた現れたのは間違いないようだ」

 

魔王「……大変だ。落ち着いてよく聞いてくれ」

 

魔王「私は人間になってしまった」

 

 

 

勇者「……ええええええーーーーーーーーーっ!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

5 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 18:53:49.85 ID:Func4jDlo

 

 

時の神殿

 

  

 

??「もう何の役にも立たないゴミクズ……」

 

 

??「結局、ぜんぶ僕の手によって消え去ってしまうんだ」

 

??「この世界はもういらない」

 

  

 

バタン

 

 

??「やあ」

 

時の女神「…………? だれです……?」

 

??「はじめまして」

 

女神「……鍵守様……ではないですね。姿は似ていますけど」

 

女神「まさか……あなたが創世主様なのですか?」

 

??「そうさ。それで君が時の女神だね」

 

??「君の仕事といえば、時間を管理すること」

 

??「君がいなくなってしまえば、時空の歪みがそこここに生まれて大変なことになってしまうね」

 

女神「あ……はあ、そうですね……」

 

女神「あの……あなた様は一体……何故この神殿にいらっしゃったのですか?」

 

??「僕は一応創世主という肩書だから、生むのは得意だけど消すのはそうじゃないんだ」

 

??「だからこんな地道な作業を繰り返すしかないんだけどね」

 

女神「……」

 

女神「……なにを」

 

??「君には一番最初に消えてもらいたいなって」

 

女神「!?」

 

 

 

??「じゃあ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

6 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 18:55:33.14 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

――カラン……カランカラン

 

 

??「これが時の歯車か」

 

??「よし。これからはじまるぞ。じゃあ幕を閉めようか」

 

 

??「この世は舞台」

 

??「そして人生は歩く影法師。あわれな役者だ」

 

??「束の間の舞台の上で威張りくさって歩いてみるが、出場が終われば耳を傾ける者もなし」

 

 

 

??「男も女も老いも若きも勇者も魔王も皆全て、僕がつくりあげた役者に過ぎない」

 

??「カーテンコールはいらない」

 

??「おわりのはじまりだ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

7 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 18:58:29.55 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

――――ちょっと前

 

 

王都

 

 

魔術師長「ねえ~~魔王ちゃぁぁん~~お願いがひとつだけあるんだけどぉ」

 

魔王「断る」

 

魔術師長「まだなにも言ってないじゃない!!」

 

魔王「研究の手伝いならこの間やった」

 

魔術師長「この間以上に締めきりがやばいのよ~~ ねぇぇぇお願いお願いお願い」

 

 

    「くくくく……」

 

魔術師長「なにっ!?この声は!?」

 

召喚師長「僕だよぉ……」

 

魔術師長「あなたなんでここにいるのよ?」

 

召喚師長「残念だったね……魔王は既に僕の研究を手伝う予定があるんだ……」

 

魔王「ないが」

 

召喚師長「だから魔術師長の研究の手伝いなんてする暇はないんだ。おとなしく帰りたまえよ」

 

召喚師長「次締めきり過ぎたら減俸の僕を気遣って、やさしい魔王は僕の手伝いをしてくれるって言ったんだよぉ!」

 

魔王「言ってないが」

 

魔術師長「なんですって!? ていうか減俸って、あなたどんだけやらかしてんのよっ」

 

 

 

魔王「二人とも話を聞け。私は明日王都を離れて一度魔王城に帰るつもりだ」

 

魔王「そのために私は私でこちらのことを片づけるのに忙しいから、君たちのことは手伝えんぞ」

 

召喚師長「だってさ。だからほら言っただろ?帰りたまえ魔術師長!!」

 

魔王「いや、だから君もだ……」

 

魔術師長「ぞんな゛~~ えぐえぐ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

8 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:09:29.86 ID:Func4jDlo

 

 

 

ざわざわ ざわざわ

 

 

魔術師長「あら? 城の外が騒がしいわねぇ。一体なにかしら」

 

召喚師長「窓から見えるよ。騎士団が遠征から帰ってきたみたいだ」

 

魔術師長「ああ……。最近変なことが続いてるから、騎士団も忙しいみたいねぇ」

 

召喚師長「顔色から見るにあまり成果は上がらなかったみたいだね。また原因不明か」

 

魔術師長「勇者もいるわ」

 

魔王「……」

 

 

 

騎士A「はあ……まーた今回も成果なしでしたね」

 

勇者「なんなんだろうな。あんな大穴、とても一晩で掘れるものじゃないし」

 

勇者「しかも底なしときた。でも一番謎なのは……」

 

騎士B「動機ですよね。穴なんて掘って一体なにがしたいんでしょう」

 

騎士B「まあ、人の手によるものでなく自然現象と考えるのが妥当だとは思いますが」

 

勇者「突然各地に巨大な穴が開く自然現象って、なんだよ?」

 

騎士A「さあ……。どちらにせよ不思議ですね」

 

騎士B「あ」

 

勇者「?」

 

騎士B「魔王様と魔術師長様と召喚師長様が、ほら、テラスから」

 

小隊長「魔術師長様と召喚師長様はこちらを指さして楽しそうだな……

    大方成果のあげられなかった我々を笑っていらっしゃるのだろうが」

 

小隊長「はあ……」

 

勇者「はは。相変わらず騎士団とあっちは仲が悪いな」

 

騎士A「あっ 魔王様が手振ってくれてる!俺にか」

 

騎士B「馬鹿言え……俺にだろ」

 

小隊長「お前らいい加減にしろ。浮かれすぎだぞ。団長に報告を終えるまでが任務だ」

 

小隊長「……そもそも俺だろ」

 

騎士A「それは絶対ありえません」

 

小隊長「なんで!?俺って嫌われてるの!?」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

9 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:13:04.30 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

 

魔術師長「ふん……相変わらず馬鹿丸出しねぇ。騎士団の連中は」

 

召喚師長「勇者に声かけに行けば?魔王」

 

魔王「いや……あとにしよう」

 

魔術師長「何故? ……ああなるほどね。

     あの木の影で若い小娘たちが今か今かとあいつらに飛びかかろうとしているわね」

 

召喚師長「騎士団の今年の新入隊員は例年より女子の割合が多かったみたいだからね」

 

魔術師長「チィッ こちとら今年は希望者が少なかったって言うのに腹立つわねぇ」

 

魔術師長「魔王ちゃん。あの女狐たちの前で、勇者は自分のものだって見せつけてきていらっしゃい」

 

召喚師長「そうさ魔王。それで召喚師部に勧誘してきてくれ」

 

魔王「何故そうなる……」

 

魔術師長「何故って。あなた、勇者と付き合ってるんじゃなかった?」

 

魔王「どこをどう見たらそうなるんだ」

 

魔術師長(えっ。ちがうの)

 

召喚師長(えっ。そうだったんだ)

 

 

 

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10 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:14:15.76 ID:Func4jDlo

 

 

宮殿

 

 

国王「うん。確かに受け取った。おや、今月は随分小麦の収穫が多かったみたいだね」

 

竜人「そうなんですよ。新しい肥料を導入したせいですかね」

 

国王「なるほどね。 他国との交易もうまくいってるようだし、成長著しいな」

 

竜人「国王様こそご立派になられて。あのころとは見違えましたね」

 

戦士「それが根本は全く変わっとらんでな」

 

戦士「俺はいまこの方のお近くで仕事をしているが……」

 

国王「最近のマイブームである、会議中に誰にも気づかれずアヘ顔ダブルピースゲームやってたら」

 

国王「後で彼に怒られてしまったよ。ハハハ」

 

竜人「そりゃそうでしょう」

 

騎士「この王の奇行には全く頭が痛いですよ……」

 

国王「いやあ照れるね」

 

竜人「戦士さんと騎士さんもお元気そうでなによりです」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

11 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:16:02.19 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

竜人「そういえば戦士さんの娘さんはこの間誕生日だったそうですね。

   おめでとうございます」

 

戦士「ありがとう。もう娘も15だ……。最近彼氏ができたみたいでな……。

   昔は……昔はパパと結婚するって言ってくれてたのに……寂しいものだ……」

 

竜人「ああ……その気持ちすごく分かります!

   魔王様も……昔は『私が大きくなったら魔女も竜人もいっしょに娶る』って仰ってたんですよぉ」

 

国王「一夫多妻か。さすが魔王だね」

 

騎士「それ以前に何かがおかしいような……」

 

 

 

 

姫「お兄様、今ちょっとよろし……あっ」

 

姫「竜人さん!いらしてたんですか……し、失礼しました」

 

竜人「いえ、もう帰るところですのでお気になさらず」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

12 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:19:02.24 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

姫「帰ってしまわれるのですか……いえ別にいいのですけどもね……別に」

 

国王「どうかしたのかな。あ、もしかしてこの間の」

 

姫「!!」

 

国王「貴族との見合いの話――」

 

姫「ではないです!!!そうでは全くありません!!!」

 

 

竜人「姫様もそんなお年ですか。うまくいくといいですね、その方と」

 

姫(……お兄様)ギロ

 

国王「ハッハッハ、目つきが悪いぞ妹よ」

 

 

 

姫「……そのお見合いを今日は断りにきたんです。私にはまだ結婚は早いと思いますし」

 

姫「…………せっかく竜人さんがこの場にいらっしゃるから、ついでにお尋ねしますけれど

  竜人さんは……ご結婚とか考えてらっしゃる方がいらっしゃるのでしょうか?」

 

竜人「え?いえいえ私は全く」

 

竜人「恥ずかしながらその手の話には疎くてですね。ははは」ゴォッ

 

竜人「おっといけない。うっかり人の姿のままで火を吹いてしまいました。失敬」

 

騎士「……!?」ガクガク

 

戦士「お前、絶対うちの娘の前で照れ笑いをするなよ」

 

 

 

姫「……」

 

姫(竜人さんって照れると口から火を吐くんだ……)

 

姫(……)

 

騎士「……」

 

 

姫(素敵……)

 

騎士「姫様ー!お気を確かにー!ちょっと盲目すぎませんかー!?」

 

 

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13 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:20:45.57 ID:Func4jDlo

 

 

 

魔王「勇者くん。おかえり」

 

勇者「魔王。久しぶりだな。王都にいたのか」

 

魔王「いたのだ。 穴の原因は……」

 

勇者「いや、結局分からず仕舞いだ」

 

勇者「この国だけじゃなく雪の国や星の国でも同じようなことが起こってるみたいだが、

   どこの国も原因がまだ分かってないらしい」

 

魔王「共通しているのは、一晩で底なし巨大な穴がいきなり地面に開くことくらいか」

 

魔王「ところでこの底なし、というのはどうやって確かめたんだ?」

 

勇者「召喚師に鳥の幻獣を召喚してもらって、人がそれに乗って下まで降りたんだ。

   でも1時間くらい下降しても何も見えなくてな、それ以上は危険を感じてやめたって」

 

魔王「ふむ……一体なんなのだろうな」

 

勇者「そんな穴開ける理由も分からないし、第一どうやって掘ったんだか」

 

勇者「……あんなこと一晩でできるとしたら魔王くらいしかいないんだけど、

   本当にお前じゃないんだよな……」

 

魔王「なっ……ちがうぞ。私を疑っているのか」

 

勇者「いや、冗談冗談。そんな睨むなよ」

 

勇者「ま、穴については、落下する奴がいないように騎士たちが見張ってるし」

 

勇者「だれがやったのか、それとも災害かなんか知らないが、そのうちおさまるだろうな」

 

魔王「……」

 

勇者「おい、そんなに怒るなよ。さっきのは本当に冗談だって!」

 

 

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14 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:22:27.19 ID:Func4jDlo

 

 

 

魔王「勇者くんが私のことをそんな風に思っていたとは知らなかったな」

 

勇者「いやっ悪かったって!魔王がそんな意味分からないことするなんて思ってないよ」

 

魔王「大体私にそんな暇はない。

   今日王都での魔術研究をやっと終わらせて、明日魔王城に帰って自治区の諸々の事務処理などをしなければならないのだから」

 

魔王「ここ一カ月……王都と魔王城を往復する毎日で、休みがないのだぞ。

   休みがほしいっ……ケーキ食べたいっ。時間をかけてゆっくりケーキを食べたいっ」ダンダンッ

 

勇者「お、落ち着け。悪かったよ」

 

勇者「そうだ、南区の新しくできたあの店行きたいって言ってたよな。

   来週行こうぜ。奢ってやるよ」

 

魔王「え……?」

 

魔王「でも君は……騎士団の仕事が忙しいのでは」

 

勇者「来週は俺も遠征なしでこっちでの仕事ばっかりだから、予定合わせる」

 

魔王「ほんとうに……?」

 

勇者「ああ」

 

魔王「行くっ」

 

魔王「……来週までに過労死してでも私の仕事は終わらせよう」

 

勇者「過労死はしないでくれ」

 

魔王「約束だからな。その日を心の支えにして来週まで頑張るのだから、

   もし反故にされたら私の精神はどうなるか分からんぞ。覚えておけ勇者くん」スタスタ

 

勇者「またよくわからん捨て台詞を……」

 

 

 

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15 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:26:09.68 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

* * *

 

 

どっかの町

 

 

生徒「先生さよーなら!」

 

元神官「はい、さようならー」

 

 

勇者「……」

 

「…………ちょっと勇者様?なにを笑っているんです」

 

勇者「いや、ちゃんと先生やってるなって思って」

 

元神官「やってますよ。当たり前じゃないですか」

 

勇者「神官やめて教師になるって言ったときには驚いたけど、なかなか様になってるな」

 

元神官「けっこう楽しいですよ。こうしてこの長閑な町で教師をやっていると」

 

元神官「勇者様たちと旅していたあの期間が、どれだけ激動に満ちていたかと思い知らされますよ……」

 

勇者「とか言いつつ一番はっちゃけてたのはお前だよな」

 

元神官「ちょっと何言ってるんですか!?そういう誤解を招くようなことやめてくださいよ!!」

 

 

 

元神官「今日はこの町の近くに出現した穴を調査するついでに?」

 

勇者「まあな。あれは3日前に現れたんだっけ?」

 

元神官「ええ、そうですよ。でも別に……とくになにもないですね」

 

元神官「穴からマグマが飛び出してきたりもしないし、温泉が湧いてくるわけでもなし……」

 

勇者「この国だけでも13か所か。全く、暇人もいるよな。

   一人じゃ絶対無理だし、団体でやったんだろ」

 

勇者「あーもうまったくよーー!!

   転移魔法が使えるからって、穴の報告がある度に確認に回される俺の身になってくれよーー!!」

 

勇者「今日も残業だーー!うわーーい!!」ダンッ

 

勇者「ま、今日は元神官に久々に会えたし別にいいけどな」

 

元神官「ははあ……勇者様も大変ですねえ。

   魔王様との旅を終えてから、騎士団で仕事してるんでしたっけ」

 

勇者「ああ。勇者って別に職業じゃないしな」

 

元神官「確かにそうですね」

 

勇者「剣を使うのはまだいいが、事務処理が堪える……」

 

元神官「でしょうね。書類を前に苦悩する勇者様が一瞬で想像できますよ」

 

 

 

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16 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:26:50.77 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

 

元神官「……ですがさっきの、穴が団体で誰かに掘られたっていうのは違うと思いますよ」

 

勇者「え?」

 

元神官「だって、穴を最初に発見した人が言ってました。

   穴の周りにはなにもなかったって」

 

勇者「はあ……それが?」

 

元神官「なにもですよ。普通穴を掘ったら、その体積分の土が周りにあるはずじゃないですか」

 

勇者「……ああ、そっか」

 

元神官「間違いなく人や魔族の仕業ではないと私は思いますよ」

 

元神官「魔王さんにも……ちょっと難しいんじゃないでしょうかね」

 

勇者「……」

 

元神官「私は少しだけ嫌な予感がします」

 

 

元神官「まるで何かの前兆のような……」

 

 

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17 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:31:03.86 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

* * *

 

 

魔王城

 

 

魔王「……ふう。今日はこのへんでやめておくか」

 

 

コンコン

 

 

竜人「魔王様ご飯ですよ!」

 

魔王「いま行く」

 

 

 

魔女「ひゃっほーっ 新薬できたー!できたよ魔王様ーっ」

 

魔王「何の薬だ?」

 

魔女「身長が伸びる薬ー」

 

魔王「なに!?」ガタ

 

魔女「まだ実験してないから試験体になってくれます?」

 

魔王「分かった」

 

竜人「こらっ!!だめですよ魔王様!

   魔女の薬は成功してたら出来がいいですが失敗してたら最悪なんですから!!」

 

竜人「いくら身長伸ばしたいからって安易に実験体にならないでください!!」

 

魔女「ちっ……うるさいなぁ竜人は」

 

魔王「しかし、もし成功してたらどれくらい背を伸ばせるんだ?」

 

魔女「一滴飲むごとに1cm伸ばせるから、10cmくらいまでとりあえず今すぐOK」

 

魔王「飲み干そう」

 

魔女「いえーい」

 

竜人「私の話聴こえてました?だめです」ヒョイ

 

魔王「返せ」

 

魔王「く……もし私にあと10cmの身長があったら今も竜人から薬を取り返せたのに」

 

竜人「あと30cmくらいないと届きませんよ」

 

魔王「虎穴に入らずんば虎児を得ずというだろう。竜人、それをよこせ」

 

魔女「おうおう天才魔女ちゃんの薬を虎穴呼ばわりたぁ恐れ入るね」

 

竜人「虎穴どころか……」

 

魔女「なによぅ」

 

竜人「先週、変な触手もってる植物つくって失敗させて、下にある私の部屋まで滅茶苦茶にしたのは

   一体どこの誰かさんでしたっけね……」

 

魔女「知らないもーん」

 

 

 

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18 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:33:05.19 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

魔王「私が王都に行ってる間にそんなものをつくっていたのか」

 

魔女「だって触手の植物ってけっこう需要あるんだよー」

 

魔女「もうそろそろ魔族地区の特産指定うけてもいいくらい売上絶好調なんだから!」

 

魔王「確かに交易でもなかなか買い手がつくな。魔女のおかげだ。

   しかしよく分からんな、香りがいいわけでも実をつけるわけでもないのに」

 

魔王「食べることもできないし、何かの役に立つとも思えない。

   鑑賞用……なのか?私には理解できないが風情があるのだろうか」

 

魔女「何かの役って、そりゃ決まってるよ。大人のおも――

 

竜人「ほら!!早く二人ともご飯食べないと冷めてしまいますよ!!

   さあ早く席について!ねっ、ほら!!」

 

竜人「今日はシチューですよ。魔王様お好きでしょう。ねっ」

 

魔王「シチューか。素晴らしいな!」

 

竜人「魔女。余計なことそれ以上魔王様の前で口にしてはいけませんよ」

 

魔女「過保護だなー もう」

 

 

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19 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:36:54.92 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

 

竜人「そもそも……」

 

竜人「身長が伸びないのは魔王様が牛乳を飲まないからではありませんか?」

 

魔王「何故牛の乳など飲まねばならん」

 

竜人「好き嫌いはいけませんよ」

 

魔王「はあ……。成長したらもっと……こう、きりっと立派な魔王になれると思っていたのに」

 

魔王「背は高くて、顔は大人っぽくて、剣も得意で、向かうところ敵なしの完全無欠な存在に」

 

魔女「けっこう欲張ったね」

 

竜人「向き不向きというのがあります。とりあえず今日から牛乳飲みましょうか」コトッ

 

魔王「……。……」ゴク

 

魔王「……不味いぞ」

 

魔王「不味い!こんなものやはり飲めない」

 

竜人「ああ、それなら畑でとれた苺をつぶして混ぜてみましょうか」

 

魔女「えーーーなにそれおいしそう。あたしにもちょうだい」

 

竜人「いまつくりますから」

 

 

魔王「……」

 

魔王「……甘い」

 

魔王「おいしいなっ」

 

竜人「はあああああ魔王様かわいいいいい(おかわりありますよ)」

 

魔女「逆」

 

 

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20 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:39:19.15 ID:Func4jDlo

 

 

* * *

 

 

一週間後

 

 

魔女「あれー。魔王様どっかに出かけるの?」

 

魔王「ああ。王都に」

 

魔女「ふーん……。……だったら竜人のいないうちに行った方がいいよ」

 

魔王「?」

 

竜人「私がなんです?」スタスタ

 

魔女「ありゃ。来ちゃった」

 

竜人「おや魔王様、お出かけですか。どなたかお友達とですか?」

 

魔王「ああ」

 

竜人「そう………………」

 

竜人「ですか…………」

 

魔王「な……なんだ」

 

竜人「スカートが少々短くはないですか?」

 

魔王「ひざ下10cmだぞ。どこが短いんだ。それだったら魔女の方が何倍も短いだろう」

 

魔女「そうだよ、魔王様はもっと足だした方がいいよ」

 

竜人「……え? もしかして…………どなたか男性とお出かけになるのですか……?」

 

竜人「……デートですか……?」クラッ

 

竜人「……ていうか勇者様とですか?……あの野郎と二人っきりで……お出かけに?」

 

魔王「何故そこで勇者くんの名前が出る」

 

魔女「あ、ちがうの?」

 

魔王「違う」

 

竜人「今目ぇ逸らしましたね!?やっぱりあいつなんじゃないですか!!!

   ああっ!!手塩にかけて育てた魔王様が……」

 

竜人「ついに私たちに黙って男性と出かけるようになってしまわれたとは!!

   これが……戦士さんが仰ってた思春期!!ああっ悲しい!!」

 

魔王「ええい違うと言ったら違う!もう待ち合わせに遅れてしまうから私は行くぞ」

 

魔王「転移魔法」

 

竜人「こらっ待ちなさい!!まだ話は終わってませんよ!!」

 

 

 

ヒュン

 

 

 

竜人「あのクソ勇者め……!!!」

 

魔女「どうする?竜人。魔王様が明日の朝帰りだったら。

   今日の夜あんなことやこんなことまで勇者にされちゃうかもねー」

 

竜人「殺してきます」スッ

 

魔女「うそうそ、冗談……ってあんた今日仕事あるでしょ」

 

魔女「ちょっと!!私に押し付けないでよ!?ねえ!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

21 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:42:19.09 ID:Func4jDlo

 

 

王都

 

 

魔王「竜人のせいで待ち合わせに遅れてしまう。急がなければ」

 

 

スタスタ

 

 

魔王「……」

 

魔王「短い……だろうか?」

 

魔王「いやこのくらい普通だろう……変なことを二人が言うから」

 

魔王「全く」

 

魔王「ただ友と食事をするだけだ。なのに」

 

 

 

 

魔王「…………!」

 

 

ピタ

 

 

魔王「だれだ?」

 

魔王「後をつけているのは分かっている。隠れていないで出て来い」

 

??「……」

 

??「君が魔王かな?」

 

魔王「……そうだが」

 

 

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22 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:44:14.96 ID:Func4jDlo

 

 

 

勇者「……魔王遅いな」

 

勇者「寝坊か?」

 

 

 

――ヒュッ!!

 

 

勇者「!?」キィン

 

勇者「なんだ!? ……見たことない飛び道具だな」

 

??「くないって言います」

 

 

 

キャーー!

 なんだなんだ!?

 

 

――カッ!

――――カッ カッ!

 

 

勇者「うおっ なんだよ! 誰だ!?」

 

??「貴様が勇者様ですね!私は東国から参りました忍です!くのいちです」

 

忍「さっそくですが――お命頂戴っ!!」

 

勇者「お、おいっ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

23 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:44:45.60 ID:Func4jDlo

 

 

 

ヒュンヒュン

 

 

勇者「こんな街中で……いきなり危ないだろ!

   その妙な飛び道具が人にあたったらどうする……、!」

 

勇者(火薬の匂い!?)

 

忍「どかーん!」

 

 

ドンッ……!

 

 

  「うわー!?一体なんなんだ!?」

 

  「逃げろー!」

 

 

忍「よっしゃあ!!

  勇者様とあれど、私の『全く忍んでいない爆破攻撃』にはひとたまりもなかったようだな!!ふははは!!」

 

勇者「俺はこっちだ」

 

忍「げっ 生きとるがな」

 

勇者「こっちに来い!」

 

忍「待てーー!」

 

勇者(とりあえず人気のないところに……)タッ

 

 

――――――――――――――――――――――――――

24 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:49:09.54 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

* * *

 

 

魔王「私は確かに魔王だが、君は一体何者だ」

 

妖使い「俺は妖使いっていうものさ。妖っていうのは……こっちでいう魔族みたいなものだ」

 

妖使い「俺のいた東国じゃあ君たちのことをそう呼ぶ」

 

魔王「見慣れぬ格好だと思ったら、大陸の外から来た者だったのか」

 

妖使い「君が魔族のトップなんだろう?」

 

妖使い「突然だけど、お手並み拝見させてもらえないかな?」

 

魔王「私は今急いでいるのだが」

 

妖使い「ボクコッチのコトバわかりまセーン」

 

魔王「うそをつけ」

 

妖使い「いっけー妖孤!君に決めたーっ!!」

 

 

ボフン

 

 

妖孤「ええと……主様の命令なので戦わせて頂きますね……すみません」

 

魔王「君の主は話を聴かないな」

 

妖孤「ええ、ほんとすみません……」ヒュッ

 

魔王「捕縛魔法」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

25 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 19:50:34.57 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

 

スゥ……

 

 

魔王「なに? すり抜けた?」

 

妖使い「妖孤は何にでも変身できるからね。いまは霧に身を変えたのさ」

 

妖使い「そして背後から君に襲いかかるよ。どうするのかな」

 

魔王「……」

 

魔王「霧なら風で追い払えばいいだけだ」

 

 

ビュオッ

 

 

魔王(どこだ?)

 

魔王「!」

 

妖孤「……はあっ!」ブン

 

 

 

妖使い「ほう。あれがこっちの防御結界か。

    妖孤の爪も防ぐなんてなかなかの強度みたいだな」

 

妖使い「でも防ぐ一方じゃ妖孤には勝てないよー。

    といってもすぐ妖孤も霧になっちゃうから攻撃はあたらないんだけどね」

 

妖使い「…………」

 

妖使い「なんか空気が冷たくなってきたなぁ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

26 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 20:00:07.96 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

パキ……パキパキ……ッ

 

 

妖使い「……ああ!そうか。魔王が空気の温度を下げているのか」

 

妖使い「閉め切られた室内ならまだしも、屋外でそんな芸当ができるなんて。

    ……なかなかいいね」

 

 

妖孤「うえええ……体が動かしづらい」

 

妖孤「じゃあ火の玉に変化!」

 

 

ガシャン!!

 

 

妖孤「へ?」

 

妖孤「あれ?あれ?なにこれ?抜けだせないよぉ~~助けて主様~~」

 

妖使い「この檻は一体何でできてるんだい」

 

魔王「私の魔力だ。どんな物質に変化しても抜けだすことはできない」

 

魔王「……君も拘束させてもらうぞ」

 

妖使い「ありゃ」ガシャン

 

妖使い「……本当に抜けだせない。すごいな」

 

妖使い「…………さすが魔王。君……すごくいいね!ぜひ欲しい」

 

魔王「は?」

 

 

 

妖使い「俺と契約して下ぼ……くじゃなくて、使い魔になってよ!」

 

魔王「……。…………断る」

 

 

 

スタスタ

 

 

勇者「あれ。魔王じゃないか。なにしてんだ? だれだそいつら」

 

 

魔王「勇者くん……いや、君こそ肩に担ぎあげているのは誰だ?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

27 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 20:00:57.27 ID:Func4jDlo

 

 

ケーキ屋 テラス席

 

 

 

妖使い「この忍は俺の護衛さ。別に俺一人でいいって言ったんだけどね、

    なかなか周りの連中が聞かなくて。俺けっこうお坊ちゃんなんだ」

 

忍「はい!私は若の護衛でこの度この大陸まで参りました。

  本当は我が家は代々スパイとか諜報とか、隠密の任務を負うものなんですけど」

 

忍「私にはあんまりそういうの向いてないみたいで!

  ということで若の護衛として派手にぶっ放す所存であります!」

 

勇者「なんで護衛任務についてる奴が単独で俺を襲撃してきたんだよ……おかしいだろ」

 

忍「勇者がこの国で一番強い人って聞いたから、その強い人と戦ってみたかったんです」

 

忍「結果ボロ負けしちゃいましたけどねー!!若すみません!私負けました!」

 

妖使い「俺も負けたから許す!!」

 

忍「やったー!」

 

忍「しっかしやっぱり強いですね勇者様。でも私諦めないっすよ。

  むしろ精神面で粘りを見せて、必ず貴様を屈服させてやりますよ。ふははは」

 

勇者「やめろ」

 

忍「でも若も負けたんですか?この女の子に?……」

 

魔王「……」モグモグ

 

妖使い「そうなんだ、負けちゃったよ。妖孤ですらだめだった。

    で、魔王。俺の使い魔になってよ。君が使い魔になってくれたら百人力だ」

 

妖使い「俺の使い魔は好待遇だよ?給料あげるし。週休二日制。有給もあるよ。

    頑張ったら頑張った分だけ上に上り詰めることができる成果主義」

 

妖使い「常に笑顔の絶えない職場だよ」

 

勇者「嫌な予感しかしない文句だな、おい」

 

魔王「……百歩譲って街中でいきなり襲われたのは許そう」

 

魔王「しかし何故私たちと君たちがテーブルを囲んで、共にケーキを食べているのだろうか?」

 

魔王「私は今日勇者くんと約束していたんだが」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

28 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 20:07:24.74 ID:Func4jDlo

 

 

 

妖使い「ああ、悪いね。勇者、御馳走様」

 

忍「ごちになりまーす!!」

 

勇者「待って。お前らは自分で払えよ!!お前らも奢るとはだれも言ってねーよ!!」

 

妖使い「えー、だって旅費で全部金飛んだし」

 

忍「もうケーキ全部食べちゃったし」

 

勇者「東国の奴らってみんなこうなの!?」

 

 

魔王「……」ガジガジ

 

忍「? フォークも味するんですか?」ガジ

 

魔王「……そもそも」

 

魔王「君たちはこの大陸に一体なにをしに来たんだ?私と勇者くんに戦いを挑むためか?」

 

妖使い「いや、それはついで。本当の目的はあれさ」

 

妖使い「地面に一夜で開く不思議な巨大穴。俺たちの国でも問題になっててね」

 

妖使い「いまはまだ被害が少ないけど、いずれ大問題になるだろうと考えて、

    こっちの大陸に存在するっていう強大な力を持つ人間と妖に協力を仰ぎにきたのさ」

 

魔王「大問題?」

 

忍「こっちの大陸と違って、私たちの国は領土が小さいので。

  穴が増え続けると困るんですよ」

 

勇者「まあ、困るのはこちらも同じだが……」

 

妖使い「俺たちの目的は、怪奇現象の原因を暴くことだ。

    そのために君たちにも協力してほしいのさ」

 

妖使い「異文化人同士で協力してみれば、何か新しい発見があるかもしれないだろう?」

 

忍「あ、ちなみにこの国の王様にはさっき話をつけてきました!

  魔王様と勇者様と協力するようにって言われましたよ」

 

忍「というわけでよろしく!!勇者様、貴様の命下さい!」

 

勇者「前後の文脈噛みあってねえぞ」

 

妖使い「よろしく」

 

魔王「…………よろしく」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

29 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 20:15:04.55 ID:Func4jDlo

 

 

* * *

 

 

国王「この大陸外の東国にまで被害があったとは知らなかったよ」

 

国王「どうやら思ったより事態は深刻みたいだ」

 

国王「というわけで勇者、魔王。最重要事項として、東国からの使者二人とともに

   問題解決に向けて尽力してほしいんだ」

 

国王「頼めるかな」

 

 

 

――――――――――――

―――――――――

―――――

 

 

勇者「って言われたけどさ……」

 

忍「勇者様決闘しましょうよ決闘!!その首ください!!私が最強になりますので!!」

 

勇者「いやだよ。息を吸うかのごとく刃ものを投げつけてくるのやめろ!!」

 

妖使い「なーに契約なんてすぐに済むよ、ちょっと指切ってこの契約書に血印押してくれればいいだけ」

 

妖使い「ね?かんたんでしょ?ほーら契約契約!さっさと契約!」

 

魔王「しないと言っているだろう。貴様の使い魔とやらになるつもりは毛頭ない」

 

妖使い「そんなこと言わずに。ちょっと血がほしいだけだから!大丈夫だから!!」

 

妖使い「俺の下僕……じゃねっ、奴隷……じゃない、使い魔になって」

 

勇者「お前らすごいなほんと色々……」

 

魔王「東国では……魔族と人の関係はそういうものなのか?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

30 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 20:21:57.01 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

妖使い「そうさ。妖は悪いことばっかりするからね、俺の一族は代々妖祓いを営んできてるんだ」

 

妖使い「悪い妖を退治して、使い魔として契約する。それでまたほかの妖を退治しに行くってわけさ」

 

妖使い「あの妖孤も俺の祖父から受け継いだものだけど、昔は結構悪戯し放題だったんだ」

 

妖使い「妖祓いの価値は使い魔の強さに直結するから、ぜひ君に使い魔になってほしいんだよ」

 

魔王「……貴様の国ではそうかもしれんが、この大陸の魔族は貴様の奴隷にも下僕にもならんぞ」

 

妖使い「奴隷や下僕だなんて思ってないよ!みんな俺のかわいい使い魔だって」

 

勇者「いやお前さっき言いまくってただろ」

 

魔王「そのような隷属的立場におくことを私が許さん」

 

魔王「いいか、ここの魔族は、人と同等に生きる権利がある。

   私はもちろん使い魔になどならないし」

 

魔王「ほかの魔族を使い魔にしようとしたら……ただじゃおかないぞ」

 

魔王「分かったか」

 

妖使い「大丈夫、今のところ魔王しか使い魔にする予定ないから!」

 

勇者「何にも分かってねえな」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

31 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 20:27:32.37 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

勇者「で、ここが王都に一番近い穴。1週間前くらいに発見されたんだ」

 

忍「ふーん、東国のものと大きさも形も大体いっしょですね」

 

魔王「魔力の気配は感じないな」

 

忍「地底人がここから出てくるための穴だったりして。

  それでこの世界は侵略されちゃうんですよ、その真っ黒い地底人に!」

 

勇者「んなアホな」

 

 

勇者「こんな風に石を投げてみると……」ヒュ

 

 

ヒューーーーーーーー…………

 

 

 

妖使い「底にあたる音が全然しないね」

 

勇者「不気味だよな」

 

魔王「私が下りてみよう」バサ

 

忍「えっ! 空飛べるんですか!」

 

魔王「ああ。そこで待っててくれ」

 

妖使い「俺も行くよ。鳥の妖に乗せてもらうから」

 

魔王「えっ。…………いやいい」

 

忍「一人で穴に降りたら危ないですよ!若はこれでも結構頼りになりますから!」

 

妖使い「ははは、そんなことは全くあるんだけどねアッハッハ」

 

魔王「……勇者くんは……?」

 

妖使い「勇者は飛べないだろ。さあ行くぞ!!」

 

魔王「うぅ……」

 

 

 

勇者「大丈夫か、あの二人……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

32 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 20:29:02.87 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

妖使い「真っ暗だなあ。灯りはつけられるのか?」

 

魔王「……いまつける」

 

妖使い「壁がきれいに削られてる。やっぱり自然現象じゃないみたいだね」

 

鳥「……」

 

魔王「その鳥はいつもどこにいるんだ?さっき急に出てきたが」

 

妖使い「ああ、用のないときは札に封印してるんだ」

 

妖使い「もっとも君が使い魔になったときは、そう言う風にできないだろうね。

    魔王は……というかこの大陸の妖は全部半妖半人なんだろ?」

 

妖使い「普通の使い魔みたいにできないから、

    もしそのときはずっと俺のそばにいてもらうことになると思うよ。従者みたいにね」

 

魔王「『もしそのとき』は永遠にこないから安心しろ」

 

妖使い「つれないなぁ!そうなると強硬手段にでるしかなくなるよ!

    寝てる間に契約させちまわねーとな!!」

 

魔王「いい加減本気で怒るぞ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

33 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 20:31:00.02 ID:Func4jDlo

 

 

 

魔王「……もう上を見ても闇しか見えないな」

 

魔王「一体どこまで穴は続くのだろう」

 

妖使い「……!」

 

妖使い「止まれ!」

 

魔王「なんだ?」

 

 

ピチャ

 

 

魔王「? 今ブーツが何かに……」

 

妖使い「なんだ、これ。水面……?黒い水……かな?」

 

魔王「なら、ここが底なのだろうか」

 

妖使い「よし、妖孤。ちょっとでてこい」

 

妖孤「はい」

 

妖使い「お前この水に飛び込んでみろ」

 

妖孤「はい。…………ええーーーー!?」

 

妖使い「四の五の言わずに行ってこい。大丈夫だ、お前ならなんとかなる」

 

妖孤「いやっ……無理ですよ主様ーーーー」

 

魔王「無茶な命令をやめろ。かわいそうだろう」

 

 

 

ビュッ!

 

 

魔王「!?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

34 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 20:54:26.33 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

妖使い「うわっ!影が動いて……おいおい俺たちを狙ってきてるぞ!撤退しよう!」

 

 

ボオッ

 

 

魔王「火炎魔法も効かないか」

 

魔王「灯りを消すぞ」

 

妖使い「ええっ?」

 

 

妖使い「……あ、もう影の気配がなくなった」

 

魔王「灯りでできた影が動いていたんだ。灯りがなければ動きを止める」

 

妖孤「ひえ~~ なんなんですかあれぇ」

 

妖使い「なんだろうな……。妖?」

 

妖孤「いや妖の気配は感じませんでしたけれど……」

 

妖使い「よし。ちょっと今から底に落ちてみろ、妖孤」

 

妖孤「だからイヤですよ~~っ 意地悪言わないでくださいよ主様~~」

 

魔王「ええい妖孤をいじめるのをやめろっ。私が許さんぞ」

 

 

魔王「……とにかく、穴の底に何かがいるということは分かったな」

 

魔王「それだけでも一歩前進だ。急いで各地の穴を塞いで回ろう」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

35 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:01:08.64 ID:Func4jDlo

 

 

 

* * *

 

 

魔王「やっと全部の穴を塞ぎ終わった……」

 

国王「お疲れ。いやあ本当に助かるよ。で、穴の底にあったのは水……ってわけだね」

 

国王「なんだろうね。ただの水ならいいんだけど」

 

魔女「あたしも見てきたけど、灯りを持ってるとこっち狙ってくるから、あんまり詳しく調べられなかったよ」

 

魔王「しかし穴は全て頑丈に蓋をした。アレが新種の生物なのか知らないが、

   地上に出てくることはないだろう」

 

妖使い「新しい穴が開くまでは、だよね」

 

魔女「そうだねー。ていうか君が東国から来たって人? おもしろい格好してるね」

 

妖使い「そうだよ、よろしく」

 

魔女「よろしく」

 

魔王「よろしくしなくていい」

 

国王「あはは、東国は大事な交易相手国だからできるだけ仲良くしてくれると助かる」

 

国王「ただ、あまり私の国民にちょっかいを出すと……そうだね」

 

国王「私には昔馴染みの友が割とたくさんいるんだが、その中にはガチのアッチ系の者もいてだね。

   もしかしたら君の穴も何かによって塞がれるかもしれないね」

 

妖使い「?」

 

魔王「?」

 

魔女「王様おもしろーい。でも姫様に言うよ?」

 

国王「ジョークだよジョークアハハハ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

36 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:02:50.97 ID:Func4jDlo

 

 

 

国王「おっといけない。私はこれから会議の時間だから失礼するよ。

   報告どうもありがとう。今後も何かあったら頼むよ」

 

魔王「ああ」

 

 

 

騎士「……あっ!魔王さんに妖使いさんに……まままま魔女さん」

 

騎士「お、お久しぶりです!」

 

魔女「だれだっけ?」

 

騎士「ひどいぃっ!!元姫様お付きの騎士ですよ!!

   あの色々あった時には共闘もしたじゃないですか!!」

 

魔女「ああ……そばかす君ね。やあやあ久しぶり!1年ぶりくらい?」

 

騎士「3カ月前には会ってますよ……ううっ泣いていいですか」

 

魔王「……魔女、私は先に行っているぞ。またあとで」

 

魔女「え?はーい」

 

 

 

 

スタスタ

 

 

 

 

魔王「……」

 

魔王「ふわぁ……眠い。魔力を使いすぎたな……もう休もうかな」

 

魔王「!」

 

魔王「あっ……中庭に勇者くんがいる。騎士団の仕事はもう終わったのか……」

 

魔王「勇者くっ――」タッ

 

妖使い「あぁ、本当だ。勇者だ」

 

魔王「!?」

 

 

ズサー

 

 

妖使い「うわっこけた。何にもないところでこけた」

 

魔王「何故貴様が横にいる」

 

魔王「ついてくるなっ」

 

 

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37 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:10:05.04 ID:Func4jDlo

 

 

 

魔王「私は誰の下にもくだるつもりはない!」

 

魔王「魔族や妖をモノのように考える貴様といるとイライラする。

   いいか。私は貴様と同等だ。それ以下でもそれ以上でもないっ!」

 

魔王「問題解決のために協力はするがそれ以外で慣れ合うつもりはない。失せろ」

 

妖使い「素直じゃないなぁ。名誉が欲しいの?金?地位?」

 

魔王「ぎーっ」

 

 

魔王「もういい!」

 

魔王「勇者くん……っ」パッ

 

忍「勇者様ああああああああああああああオラアアアアアアアアアア首よこせよおおおおおおおおおお」

 

 

ドカーーーーン

 

アーーー……

 

 

 

妖使い「あー、またあいつやってるな。素直に剣術教えてくれって言えばいいのに」

 

妖使い「つーか護衛任務完全に忘れてるよね。俺の身に何かあったらどうするのやら」

 

妖使い「あっははごめんね?なんかうちの護衛が勇者をとっちゃったみたいで」

 

魔王「……二人とも楽しそうだからいい」

 

妖使い「まあそうだよね。だって、勇者は人間であの忍も人間だけど」

 

妖使い「魔王はあの二人とは違うもんな」

 

妖使い「君は魔族だからこれまでも今も、こういう時に割って入っていくことができないんだろ?」

 

魔王「……」

 

妖使い「この国の制度じゃあ半妖といえど魔族と人では結婚できないんだったよね」

 

魔王「……は。結婚……」

 

魔王「馬鹿馬鹿しい。そのようなこと考えたこともない。私はただ……」

 

 

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38 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:11:19.25 ID:Func4jDlo

 

 

 

妖使い「人と妖では同じ時を歩めないよ」

 

魔王「……なんだ。いきなり」

 

妖使い「数年前この国でいろいろあったらしいね。俺は少し聞いただけだけど、

    なんか勇者が剣使って子どもの姿になってしまったとか?」

 

妖使い「君が今、彼と同世代の姿でいられるのもそのおかげだってね」

 

妖使い「でも今だけ」

 

妖使い「歩く速さがそもそも違うんだから、当たり前だよね」

 

妖使い「いつかまたずれてしまうよ」

 

妖使い「いつから?君が人と魔族の寿命の違いについて気にし出しだしたのって――むぐっ」

 

 

魔王「べらべらとやかましい」

 

魔王「貴様には関係ないだろう」スタスタ

 

妖使い「ちょっ むぐむぐ これほどいて……」

 

 

 

 

魔王「はあ……勝手なことを」

 

魔王「もう宿に戻って休もう……」

 

 

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39 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:15:17.23 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

 

* * *

 

 

勇者「なんていうか……おもしろい戦い方するんだな」

 

勇者「武器も変だし」

 

忍「変ですかね。私からすれば貴様の刀の方が重くて振りづらそうですけど!」

 

勇者「忍者っていうのはみんなそんな戦い方なのか?」

 

忍「いえ、どちらかっていうと忍者は暗殺術とか使いますよ。

  闇に隠れて……音もなくグサリ!みたいな」

 

勇者「お前は闇に隠れもしないし、めちゃくちゃ騒がしいぞ」

 

勇者「あといきなり攻撃してくるのはやめろ。ほんとに。

   手合わせだったら、暇があれば付き合うから」

 

忍「わーい! やっぱり強い人と戦うのは楽しいぜ!」

 

忍「いつか絶対勝ってみせますからね!首頂戴するんで!」

 

勇者「勝つ=殺すなのかよ……やっぱ暗殺向いてるよお前」

 

勇者「……でももうそろそろ終わりにしようぜ。

   俺は宿に戻って休むぞ。じゃあな」

 

忍「あ、私もいっしょに行きます」

 

 

 

宿 廊下

 

 

 

勇者「あれ、魔王帰ってきてたのか。そろそろだとは思ってたけど」

 

忍「私と若といっしょに帰ってきてましたよ。ていうか勇者様は勇者なのに

  あまり魔法が得意じゃないんですね!」

 

忍「もし貴様も魔法が上手だったら、穴を塞ぐのを魔王様一人で頑張らなくてよかったのに!」

 

勇者「うっうるせえな!俺だってちょっとは使えるよ!」

 

勇者「あとお前なんか『貴様』の使い方おかしいぞ」

 

 

コンコン

 

 

勇者「魔王、いるのか?」

 

 

 

魔王「……」

 

魔王「……ん」パチ

 

魔王(いまの声……)

 

 

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40 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:20:08.68 ID:Func4jDlo

 

 

 

忍「もう寝ちゃってるんじゃないでしょうか。すごく疲れてましたし!

  ところで勇者様って魔王様のこと好きなんですか!?」

 

勇者「はっ!?!?」

 

忍「どうなんですか!?そこのところどうなんですか!?フォーリンラブなんですか!?」

 

勇者「なに急に言って……馬鹿言うな!」

 

忍「魔王様って、勇者様と初めて会ったとき小さな女の子の姿だったんですよね!」

 

勇者「あ、ああ……魔族は人より成長が遅いからな」

 

忍「私そういうの知ってます。勇者様はヒカルゲンジなんですよねっ」

 

勇者「なんだそれ」

 

忍「幼女のときから目をつけておいた子を、自分好みの女に育て上げて大人になったら結婚する男の人のことです」

 

勇者「おい!!誤解すんなよ!?俺はそんな男じゃないぞ!!」

 

忍「えーーちがうんスか。この変態野郎……間違えた。勇者様」

 

勇者「ちげーーーよっ!!俺は変態じゃない!!わざと間違えただろ今っ」

 

 

勇者「……魔王は……あれだな、妹みたいな感じだ」

 

忍「いもうと」

 

勇者「ああ、そうだ」

 

忍「へーー」

 

忍「じゃ、私のことお嫁にもらってくれますか……?」

 

勇者「はあ!?」

 

 

 

バタンッ!!

 

 

忍「あ」

 

勇者「……魔王」

 

魔王「………………」

 

忍「起きてたんですか」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

41 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:21:47.29 ID:Func4jDlo

 

 

 

魔王「……」ニコ

 

魔王「おめでとう」

 

魔王「ただひとつ言っておきたいのは、どちらかというと私の方が姉だと思う」

 

魔王「私の方がしっかりしているし」

 

勇者「お、おい」

 

勇者「ちがうぞ、今のは……」

 

忍「冗談じゃないですよ。

  私の一族は強さこそ第一ですから、女はより強い伴侶を見付けることを信念にしています」

 

忍「だから私より強い勇者様を伴侶にして、ゆくゆくは勇者様の強さを受け継ぐ子を生したいのです!」

 

勇者「お前まじでなに言ってんの!?」

 

忍「いいじゃないですか!好きな女の子もいまいないって言ってましたし!

  おらっ服脱げよ!生娘みたいに恥ずかしがってないで、さあ!!ほら!!」ビリー

 

勇者「ばっ なにしてんだ!!俺のシャツ!!!」

 

魔王「……よかったな勇者くん。式にはぜひ呼んでくれ」

 

魔王「転移魔法」

 

 

ヒュン

 

 

勇者「あっ おい!?待て……!」

 

 

ビリーッ

 

 

宿屋「キャー勇者様!?廊下でなに猥褻物を陳列しようとしているんですか!?」

 

勇者「いやこれはっ!!ちがうんだ!!!」

 

 

 

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42 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:25:33.61 ID:Func4jDlo

 

 

人魔共同都市 月の町

 

 

 

魚人「んでー、その男、俺が厨房で自分の手捌こうとしたら泡食って倒れちまってな!」

 

魚人「ちょっとしたフィッシュジョークだったんだけど、人間はからかいやすいよなぁ!!」

 

グリフォン「チョーウケル」

 

キマイラ「あんまりからかっては客が減ってしまいますよ」

 

グリフォン「僕も、ここに初めて来たっていう人間が唐揚げ食べている前で

      元の姿に戻ったらすごく気まずそうな顔されたな」

 

グリフォン「別に気にしないのに。鳥とグリフォン族全然違うし。

      なんか変なこと気にするよねぇ、人間って」

 

キマイラ「でもなかなか人と生活するのはおもしろいですね。

     この都ができてから何年も経ちますが、まだまだ新しい発見がたくさんあります」

 

魚人「俺の店もおかげで売上右肩上がり、繁盛繁盛。

   そうだ、これから一杯飲みにいくか?」

 

グリフォン「ああ、いいね…… あれ?あそこから歩いてくるの魔王様じゃないかい」

 

キマイラ「おや」

 

 

魔王「キマイラ」

 

キマイラ「なんでしょう魔王様」

 

魔王「元の姿に戻ってくれ」

 

キマイラ「はい……?分かりました」

 

魔王「……」モフ

 

魔王「はぁ……」モフモフ

 

キマイラ「あのお……魔王様……?」

 

グリフォン「何かあったのかい」

 

魚人「ま…………まさかっ!?!?し、し、失恋!?」

 

魔王「……」

 

魔王「ちがう……」モフ

 

キマイラ「……こ、このあと魚人の店にみんなで行く予定でしたが、

     魔王様もいらっしゃいますか?」

 

魔王「今日は疲れたから……いい。もう寝る……」

 

 

 

スタスタ……

 

 

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43 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:29:28.60 ID:Func4jDlo

 

 

 

キマイラ「……」ジロ

 

グリフォン「……」ジロ

 

魚人「いや……あの。ごめんね!?」

 

魚人「まさか……ねえ!?本当にそうだとは思わないじゃん!?」

 

魚人「だってあいつ、魔王様のこと好きなのかって俺思ってて」

 

キマイラ「まあ彼は人間ですし、いろいろあるのでしょう……」

 

グリフォン「まあ君はまず明日の朝一に魔王様に謝りにいくべきだねーーーーー」

 

魚人「いやだからごめんね!!反省してますハイ!!もうマジで空気読めなくてごめんなさい!!」

 

 

 

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44 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:31:18.47 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

姫「ひいっ 魔女さんの部屋なんっ……これなんなんですの!?」

 

魔女「あ、これ?いま品種改良中の植物」

 

姫「植物ってうねうね動くものでしたっけ? 正直なんだか壮絶に気持ち悪い……」

 

姫「これさえなければ女の子らしいピンク色の家具で溢れる部屋なのに……何故……」

 

魔女「あたしだってそりゃやだよ。

   でも実はこないだ魔法薬の調合に失敗してこの家半壊させちゃって」

 

魔女「研究室もボロボロなんだよ、だから置いとくところないの。

   魔王様が来たら直してもらわなくちゃ」

 

魔女「というわけでせっかく姫様が来てくれたんだけど、あたしの部屋しか泊めるとこないわけ。

   ごめんねーほんと。しかもあいつもどっか出かけちゃってたし」

 

姫「あ……あいつ?なんのこと? 私は今日人魔共生都市の定期視察に王族として参っただけで……!!」

 

姫「決して竜人さんにちょっと会えたらいいな、とかそういう邪な考えは神に誓って持ってないわ!」

 

魔女「うん。姫様って最上級に分かりやすいよね」

 

 

ガチャ

 

 

魔女「……ん?」

 

魔女「あれれ。魔王様じゃん。おかえり!姫様来てるよ~」

 

姫「魔王さん……どうもお邪魔しています」

 

魔王「ああ。姫」

 

魔王「十分なもてなしができず申し訳ないのだが……私はもう休む。ゆっくりしていってくれ」

 

魔王「魔女。また家を壊したのか……?」

 

魔女「ごめんね」

 

魔王「明日直す……おやすみ」

 

姫「おやすみなさい……」

 

 

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45 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:32:38.99 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

ゆめのなか

 

 

勇者「どうした?」

 

勇者「早く来いよ。おいてくぞ」

 

 

魔王「あんなに遠い……」タッタッタ

 

魔王「走っても走っても、これじゃ追いつけない」

 

魔王「……」

 

 

勇者「なにやってんだ。疲れたのか?」スタスタ

 

魔王「あ……」

 

勇者「ほら。行こうぜ」

 

魔王「う……うん」

 

魔王「ありがとう」

 

魔王「これでやっといっしょに歩けるな」

 

魔王「……嬉しい」

 

 

 

スタスタ

 

魔王「……」タッ

 

魔王「……む」タッタッタ

 

 

勇者「……」スタスタ

 

魔王「わっ」ズテッ

 

勇者「……」スタスタ

 

 

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46 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:34:53.88 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

魔王「……もう少し……ゆっくり歩いてくれないか」

 

勇者「悪い。俺に決められることじゃないんだ」

 

勇者「俺たち、いっしょには歩けないな」

 

勇者「先に行ってる。じゃあな」

 

魔王「……」

 

魔王「…………」

 

 

 

人間「私といっしょに行きましょうよ」

 

勇者「ああ。行こう」スタスタ

 

 

 

魔王「……」

 

魔王「……」

 

魔王「…………いいな……」

 

 

 

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47 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:35:53.88 ID:Func4jDlo

 

 

 

翌朝

 

 

ズドーー……ン

 

 

魔女「うわっ なにいまの音?」

 

 

 

魔王「……おかしいな」

 

魔女「魔王様ーっ! いまの音って一体何……、……おお」

 

姫「……ず、ずいぶんアヴァンギャルドな外観の家になりましたね」

 

魔女「かっこいいじゃん!ロックでイケてるよ!」

 

魔王「私は元の外観に戻そうとしたのだが、どうもうまくいかぬ。何故だろう」

 

姫「……まさか」ピト

 

姫「わっ魔王さん、あなた熱があるわ。すぐベッドにお戻りになって」

 

魔女「えーーーー熱!?魔王様大丈夫っ!?苦しくない?どっか痛い?」

 

魔王「いや、ない。私は熱などないっ!!自分の体調管理くらいできている!!」

 

姫「明らかに普段より様子が変じゃないの……」

 

魔女「わああ、マジだ。こりゃあ魔女ちゃん特製の風邪薬の出番だね……。

   史上最強最悪に味の保障ができない代わりに超効き目あるから。いまとってくる」

 

魔王「魔女!いらん。飲まないぞ私はっ!!あれだけは絶対……」

 

魔女「姫様、魔王様捕獲しといてね」

 

姫「はい」

 

魔王「私は飲まないぞ!!」バタバタ

 

 

 

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48 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:40:12.57 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

姫「ええっ……ちょっとこれ本当に大丈夫なんですの?

  薬を飲ませたら魔王さん死んだように……これ生きてます?大丈夫?」

 

魔女「オールオッケーだよ。魔王様は薬の味で気絶しただけだから」

 

姫「それのどこらへんがオッケーなのかお聞かせ願いたいんですけれど」

 

魔女「よし、魔王様のためにお粥作らなくっちゃ!!」

 

 

 

魔女「わーいできた!」

 

 

モワワン……

 

 

姫「……なに入れたの?」

 

魔女「薬草19種、イモリ、スッポン、青汁と、魔王様は甘いもの好きだからフルーツ各種」

 

姫「かわいそう!かわいそうすぎますわ!病人になんて仕打ち!!」

 

魔女「なんで!?栄養バランス完璧だよ?」

 

姫「魔女さんは少しでも味付けという言葉を覚えて!」

 

 

 

 

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49 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/10(土) 21:41:43.98 ID:Func4jDlo

 

 

 

 

* * *

 

 

竜人「えっ!!」

 

竜人「私がいない間に魔王様が熱を!? ままままま、まっまさか……魔女一人で看病を?」

 

竜人「魔王様はご存命ですかっ!?」

 

魔女「あんたはあたしのこと猛獣か何かだと思ってる?」

 

魔女「それに一人じゃないよ。姫様が遊びに来てたから手伝ってもらったー」

 

姫「あ、遊びに来たわけじゃ。 いま魔王さんは食事を終えて眠ってますわ」

 

竜人「姫様、いらっしゃってたんですか」

 

竜人「ああよかった……(魔女一人で看病をしてなくて)。ありがとうございます。

   姫様がいてくれて助かりました」

 

姫「えっ!?」

 

竜人「え?」

 

姫「えっ……えっ」

 

竜人「え?」

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