150 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 21:56:05.71 ID:rW/sMJ5uo
――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
ジリリリリリリリリン
ジリリリリリリリリン
ジリリリリリリリリン
ジリリリ……
魔王「……」パチ
魔王(夜明け……)
魔王(空が白みはじめてる。危なかった……。早く魔法をかけないと)
魔王(あれだけ寝たのに魔力の回復が追いついていない……)
魔王「…………」
魔王「……呪文……えっと」ブツブツ
ズズズズズ……
魔王「……ふう……」
魔王「うー……だめだ……もう起きていられ…………」
魔王(そうだ、仮面に……手紙を書いて……おいておけば……)
魔王(……)
魔王(……)
魔王(……)スヤ
――――――――――――――――――――――――――
151 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 21:57:23.50 ID:rW/sMJ5uo
―――――――――――――
―――――――――――――
少年「□□□□……」
少年「……?」
少年「寝てるのか……?」
少女「……お兄ちゃん」
少年「起こした?」
少女「ううん……□□□□」
少年「……朝出てくときにお前寝てたから言えなかったんだけど」
少年「誕生日おめでとう。8歳だな」
少年「……ケーキは無理だったけどオレンジもらえたよ。好きだろ?いま食えそうか?」
少女「お兄ちゃんがたべて」
少女「ありがと……」
少女「ごほっ……ごほっ」
少年「……おい……大丈夫か?もしかして」
少年「……!」
少年「ま、待ってろ。すぐ薬をもってくるから……!」
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152 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 21:59:23.09 ID:rW/sMJ5uo
少年「すぐ楽になるからな」
少女「いかないで」
少女「……もういいよ……お兄ちゃん。だからそばにいて……」
少年「なに言ってんだよ!こんなのすぐ治るから、弱気になるな」
少年「すぐ治るから……」
少年「もっといっぱい働いて、そしたら高い薬も買えるようになる。
お前も1日ですぐ元気になるよ」
少年「外で遊ぶんだろ?学校も行くんだろ? ……」
少女「うん……」
少女「ありがとうね。おにいちゃん」
少年「……っ」
少年「……死なないでくれ」
少女「あのね……ありがと……」
少女「……ごめんね……」
――――――――――――――――――――――――――
153 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:03:03.83 ID:rW/sMJ5uo
* * *
勇者「担当箇所を捜索し終え、王都にいま集まっているわけだが」
勇者「……では鍵らしきものを発見した者は手を挙げるように」
シーン……
勇者「……ぐああっ!全然だめだった!」
姫「あっでも、まだ魔王さんと仮面さんが帰ってきていません!
もしかしたら彼女たちが何か手掛かりをつかんだのかも!」
魔女「さすが魔王様!」
元神官「それにしても遅いですね……もしかして何かあったのでしょうか?」
戦士「転移魔法を魔王が使えるはずだから、すぐ帰ってこれるはずなのだが」
竜人「ま……まさか魔王様に何かあったのでは!?ちょっと探しに行ってきます!!!」ダッ
勇者「待て、竜人」
戦士「そうだぞ、竜人。勇者の言う通りだ、落ち着け」
勇者「俺も行く!!」ダッ
戦士「おい」
バサ
魔女「あ。二人ともストップ。鳥がこっち向かって来てるよ」ガッ
竜人「ぐえっ」
勇者「おえっ」
魔女「魔王様と仮面くんからの鳥文かも。どれどれ」
魔女「……えっ?」
――――――――――――――――――――――――――
154 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:05:15.13 ID:rW/sMJ5uo
* * *
勇者「起きないって……どういうことだよ!?」
仮面「おい怒鳴るな、ツバ飛ぶだろきったねーな」
仮面「そのままの意味だ。3日前から声かけても揺すってもビンタしても起きねえ」
竜人「あ?」
仮面「……いやビンタは言葉の綾だ。してねーよ!!口が滑っただけだ!!」
魔女「魔王様ぁぁ……ぐすん……大丈夫かな?」
元神官「見た感じ普通に眠ってるだけなんですけどね……
とりあえず病気やけがではないようです」
魔王「……ぐー……」
姫「ねえ、でもこれうつ伏せでずっと寝ていたら呼吸できないのではありませんか!?」
魔女「魔王様はいつも寝る時このスタイルだからそれは大丈夫」
姫「信じられない……」
仮面「で、こいつのベッドサイドに置いてあったのがこの紙切れだが……
字が汚すぎて何が書いてあるのか分かんねーんだ」
忍「うわあ、若より汚い!」
妖使い「黙れ」
勇者「確かに汚すぎてもはや字とは判別できないほどだが、これは……!」
勇者「魔王が睡魔MAXのときの字だ!!夜9時以降にはこんな風な字をよく書く。竜人読めるか?」
竜人「いや流石にここまでになると判別不能ですね」
仮面「夜明け前になると起きるんだが、魔法をかけてまたすぐ寝ちまうんだよ」
妖使い「そんなの、魔王の手紙を読まなくても分かることじゃないか」
妖使い「魔力の回復が消費に追いついてないから、睡眠を取らざるを得ないんだろ」
――――――――――――――――――――――――――
155 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:08:34.22 ID:rW/sMJ5uo
妖使い「いくら魔王といえど、大陸全土を覆うような大魔法を毎日使い続けるのは無理だったってことさ」
魔女「……確かにあたしたちは魔力を使いすぎたら1週間くらいずっと寝込んで回復させるよ」
勇者「でも回復が追いついてないんだろ?」
勇者「魔力を使いすぎて……0になったら死ぬんだろ?
何か方法はないのか?」
妖使い「方法はひとつだけだよ」
妖使い「魔王が死ぬ前に、君が鍵を見つけ出すしかない」
妖使い「で、創世主を倒せばそれで済む話さ」
勇者「……」
勇者「……ああ、分かってるよ。鍵を見つければそれで終わる」
勇者「早く見つけないと……!」
勇者(でも……一体どこに?)
魔王「……」グー
――――――――――――――――――――――――――
156 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:09:57.57 ID:rW/sMJ5uo
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少年「……□□□□」
少女「□□□□っ お兄ちゃん」
少年「熱、下がってよかったな……。心配したんだぞ」
少女「うん、ごめんね」
少年「はいこれ、今日の分のパン。それ食ったら薬飲めよ。
昼の分はちゃんと飲んだか?」
少女「うん……のんだよ」
少女「……ごほ」
少年(……)
少年(熱が下がったのに……咳が止まってないな。顔色も悪いし…………)
少年(もっと強い薬が必要なんだ)
少年(でも僕の給料じゃ……普通の薬と毎日のパンを買うので精いっぱいで、貯金なんてできやしない)
少年(……)
少女「ね、お兄ちゃん。パンたべないの」
少年「え?……ああ……」
少年「今日は昼食べすぎたからいらないんだ」
――――――――――――――――――――――――――
157 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:10:53.75 ID:rW/sMJ5uo
少女「じゃあ、はんぶんこしよ……」
少年「だからいらないって。ちゃんと食べて体力つけないとだめだろ」
少女「おなかいっぱいなんだもん。のこしたらもったいないから……」
少年「……」
少年「どうしたんだよ、前は……パンひとつ全部食えてたのに……最近……」
少年「……今日だけだぞ、明日からは全部ちゃんと食えよ」
少女「うん。ありがと……」
少年「……じゃ、もう寝るぞ」
少女「ね、またあのお話してくれる?」
少年「ああ、いいよ。どこまで話したっけ」
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158 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:12:35.66 ID:rW/sMJ5uo
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―――――――――――――――――――
ガチャガチャ……
少年「はあ……はあ……。くっ」
××「おいっ!お前!それはこっちに運ぶんだろうがっ!なにしてんだ!!」
少年「えっ……? でもあっちに運べって言われました……けど」
××「どうせお前が聞き間違えたんだろうが!口答えをするんじゃねえクソガキ!」
少年「……すいません」
××「まったく、お前みたいなガキを雇うのは本当は法律で禁止されてるんだぞ」
××「だがお前がどうしても働きたいっていうからこうしてこっそり雇ってやってるんだ」
××「その恩を忘れるんじゃねえ!!いつでもお前なんてクビにできるんだからな、ええ!?」
少年「……すいません」
ジリリリリリリ……
××「……フン。時間だな」
××「全員休憩に入れ!!1時間後に持ち場に戻らなかった奴はクビだからな、クビ!!」
○○「よう。まーたあのジジイにこっぴどくやられてたな。気にすんなよ」
○○「で、今日はここで食べてくだろ?なににする?」
少年「……あー……えっと……朝食べすぎちゃったんだ……だから今日もいらない」
○○「またかよ?それうそじゃねえだろうな?……ほんとは金がないんじゃねーの?」
○○「なあ水臭いぜ。言ってくれりゃちょっとしたもんくらい出せる」
少年「たまにパンをくれるだけで十分だよ。それ以上なにかして、あいつにばれたら○○がクビにされちゃうって」
少年「○○は一家の大黒柱なんだからそれは不味いだろ」
○○「しっかしなあ」
少年「僕は屋上に行ってくるよ。じゃあね」
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159 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:15:18.49 ID:rW/sMJ5uo
少年「……」
少年「……今日も曇りか」
少年「明日も明後日もその後もずっと曇り……」
少年「くそっ 何が『雇ってやってる』だ。あのジジイめ」
少年「大人の給料3分の1しか寄越さないでこき使うくせに。足元見やがって!」
少年(早く大人になりたい。そうしたらもっとお金がはいる。そうしたら……あいつにも)
少年(屋上からは橋の向こう側が見える。
こっちとはまるで違う、どこもかしこもキラキラしてる別世界……)
少年(あ……僕と同じくらいの年の人が歩いてる。横にいるのは友だちか)
少年(笑い声がここまで聞こえてきそうだ。……あれが制服ってやつなんだろうな。
靴もバッグも服も、なにもかも高そうだ)
少年(……あいつらの着てるあの服を売れば……どれだけの薬を買えるだろう。
高いほうの薬だってたくさん買えるんだろうな……)
少年(あそこの高級レストランで食べてる奴らの一回分の食事代だけで
妹の病の進行をどれだけ遅らせることができるんだろ)
少年(このままだとあいつは……もう長く……は)
少年(僕が……橋を越えて、ちょっとだけ奴らの金を盗んでしまえば)
――――――――――――――――――――――――――
160 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:16:54.08 ID:rW/sMJ5uo
少年「だって命がなにより尊いはずだろ?」
少年「……僕が盗んだって、あいつらはそんなに困らないはずだ」
少年「あいつらの食事一回分。持ち物ひとつ分。たったそれだけで妹の病気を治せるかもしれないんだ」
少年「そしたらこんなところすぐ出ていってやる。
それでお母さんとお父さんを探しに……この街壁の外へ……妹といっしょに」
少年「あいつといっしょに……」
少年「……」
少年「……」
少年(……わかってる。盗んだ金で病気が治っても、あいつは喜ばないだろう)
少年(いきなり大金をもってったらすぐ気付くだろうな)
少年「……!やべっ もう休憩時間終わる!またあのジジイにネチネチ言われる。戻らなきゃ!」
―――――――――――――――――――――――
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161 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:18:59.68 ID:rW/sMJ5uo
ダン!
勇者「くそっ 鍵はどこにあるんだよ」
元神官「雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺……
この『終末記』にあったっていう文言ですが」
元神官「もしかしたらこの4か所にそれぞれ鍵があるんじゃなくて、
この4つがひとつの場所を指しているのかもしれませんね」
戦士「えー……と、すると、竹林と泉と神宮がある離島ってことか?」
戦士「さっきから地図とにらめっこしているが、そんなところないぞ。
俺たちも広く世界を旅してきたがそんな離島聞いたことない」
元神官「まあ、竹と泉と島はともかく、神宮なんて限られてますからね……
神殿に登録されてるところは全て探したし」
元神官「とすると、もっとひねった解釈が必要なんですかね。
竹……イネ科タケ亜科多年生常緑木本、タケ群とササ群に大別、竹八月に木六月、筍……」
勇者「俺を頭痛で殺す気か? 難しい単語の羅列を今すぐやめろ」
勇者「だーーもう、なにが『終末記』だっ 古代人のアホが!!
そんな意味わからんヒントだすんじゃねーよ!なぞなぞ解いてるほど暇じゃねーんだよ!」
姫「落ち着きなさい勇者。魔王さんがあんなことになって焦るのも分かりますが、
冷静にならないと分かるものも分かりませんわ」
勇者「ひ、姫様。すみません、お見苦しいところを」
姫「いえ構いません。ところで……行き詰っているのならほかのことに目を向けてみませんか?
鍵のことも何かひらめくかもしれないわ」
元神官「と仰いますと……?」
姫「鍵ではなく扉……と思わしき場所をお兄様が発見なさったの。私が案内します」
勇者「扉を……!?」
――――――――――――――――――――――――――
162 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:20:22.19 ID:rW/sMJ5uo
王立図書館
勇者「……図書館!?」
姫「ここの地下よ。ついてきて」
コツ……コツ……コツ……コツ
元神官「あれ?この先って……?図書館は地下2階までですよね?」
姫「ええ。地下3階以下は王家の者と図書館長のみ閲覧可能となってるわ」
姫「向かうのは地下4階、最下階。暗いから足元に気をつけて……きゃっ」ズルッ
戦士「大丈夫ですかな」ガシ
姫「……ごほん。私みたいにならないように皆さんくれぐれも気をつけて」
姫「……ここよ。ここが地下4階」
勇者「ここに扉が?」
姫「ええ。下を見てちょうだい。床の紋様、扉に見えませんか?
それにちょうどドアノブのところが窪んでいるでしょう」
姫「もしかしたら、そこに嵌めるべきものが『鍵』なのかも……」
勇者「確かに扉に見えますね。これが……。この先に、『彼』がいるのか」
――――――――――――――――――――――――――
163 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:22:30.38 ID:rW/sMJ5uo
元神官「? 戦士さんどうかしました?獅子の像を見つめて……
なにかあります?」
戦士「ああ、この像だが、一度壊れたものを修復したものなのだろうか」
姫「その通りですよ。人魔戦争のときの王都襲撃で、
確か図書館は地下2階までしか被害がなかったはずなんですけれど」
姫「ここでその獅子像だけが壊されていたみたい」
戦士「これは……剣による傷だな。それも相当の強さで壊されたものだ。ふうむ」
勇者「……」ジッ
勇者「なあ、こいつの左目」ガコッ
戦士「うおおお!?お前何やっとるか!?」
元神官「勇者様!?弁償ですよ弁償!!払えるんですか!?」
勇者「す、すみません姫様!でも四の五の言ってらんないっていうか!弁償はするんで!」
姫「いえ、いいですけど……その水晶が何か?」
勇者「この床の扉のくぼみにぴったり嵌りそうだと思いまして。
ちょっとやってみますね」
ガコ
勇者「ぴったり嵌りましたね」
姫「……」
元神官「……」
戦士「……」
――――――――――――――――――――――――――
164 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:23:46.02 ID:rW/sMJ5uo
元神官「……ふう……竹も宮も泉も離島も全く関係ありませんでしたね~~!ふう~~!」
勇者「俺いつかあの終末記書いた古代人に会ったら、絶対邂逅一番ぶん殴るわ」
戦士「やってやれ」
姫「と、ところでこの先に……創世主がいるのですよね?」
勇者「姫様は宮殿に戻って皆に知らせて来ていただけますか?
俺たちはこのままあいつに会ってきます!殴ってきます!」
戦士「よし、行くか!!」
元神官「ええ!!」
姫「でもその扉、どうやって開くの?」
勇者「……え!?…………ああ、えっと……」
勇者「…………どうする!?戦士!!元神官!!!」
戦士「いや、わからっ……」
ガパッ
元神官「ああっ!? 床が……っ!!」
姫「ちょっ私まで! きゃーーっ」
戦士「ぐぬわあああああ!」
勇者「うわああああっ」
――――――――――――――――――――――――――
165 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:26:41.02 ID:rW/sMJ5uo
スタッ スタッ グキッ!
勇者「おい誰だ最後のグキッて」
戦士「俺の腰だ……!!」
勇者「大丈夫か!?無理すんな!戦士は最年長なんだから!おっさんなんだから!」
戦士「だ、黙れ!俺はまだ現役だ。姫様、お怪我はありませんか!?」
姫「ええ、あなたが抱えてくれたおかげで。ありがとう」
元神官「あーいいな姫様はお姫様だっこされて優しく受け止めてもらえてー……」
勇者「ん?なんだよ、俺だってお前のことちゃんと同じように受け止めてんじゃないか」
元神官「逆です。勇者様、私がいまどんな体勢か見えます?海老反りですよ!!!
お姫様だっこは私が仰向けの状態になっていないと成り立ちません!!」
勇者「あー わっり!暗くて見えなかったわ。すまんすまん」
元神官「誠意がこもってないんですよぉ誠意が……!
はーっ もう、全然女の子の扱い方が分かってませんね……っ」
元神官「そんなんじゃいつまでたっても彼女できませんよ勇者様」プイ
勇者「なぁ……っ!?それとこれとは関係ないだろ!
つーかお前こそそろそろ男捕まえて結婚しないと婚期……」
元神官「勇者様、これから創世主に会うかもしれないっていうのに、そんな無駄話してる暇ありませんよ」
元神官「さあ、創世主はどこなんですか!?気を引き締めていかないと……!!」シュッシュッ
勇者「おいっお前から言いだしたんだろーが!」
――――――――――――――――――――――――――
166 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:35:08.82 ID:rW/sMJ5uo
姫「この空間はなんでしょう。地下4階よりも下なんてないはずなのだけど」
戦士「大分広い空間ですな。む、あそこになにか置いてあります」
戦士「……これは?台座か?」
勇者「こっちは大きさと形状からして剣の台座かな」
元神官「もうひとつは何でしょうね。何でもおけそう。窪みの大きさからして、書かなにかでしょうか」
勇者「……ここには創世主はいないようだな」
勇者「……あれが扉じゃなかったのか?」
勇者「……」
勇者「いやでも、姫様でさえ知らなかった王立図書館の地下とか
なんかそれっぽくないか。もうちょっと調べてみようぜ」
姫「なんか穿った見当のつけ方するわよね、勇者って……」
戦士「いつもあんなんですよ」
コツコツ
コツンコツン
勇者「ん!! なんだかここの壁だけ、叩いた時の音が違うぞ。
隠し通路があると見た」
勇者「姫様……ここの壁ブッ壊していいですか?」
元神官「勇者様、もうちょっと言い方考えましょうよ」
姫「非常事態ですもの。責任は私がとるわ。やっちゃってください」
ガラガラガラ……
姫「あらっ 本当に隠し通路……というか隠し階段が向こうに!
こんなのいつつくられたのかしら?」
戦士「まだ下があるのか」
――――――――――――――――――――――――――
167 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:36:59.85 ID:rW/sMJ5uo
勇者「いま、地下何階あたりだ……?」
勇者「ずいぶん長く階段を下ってきたが」
元神官「螺旋階段なのでなんとも言えませんね。
でも小一時間は降りてますよ。まだ続くんですかね……」
戦士「目回ってきた」
姫「ふう……これは一体どういうことなのかしら」
姫「あっ 見て!下に光が漏れてるわ。きっとあそこで階段は終わりよ」
ギイッ
元神官「うっ 眩しい。ここは……」
姫「! 扉があるわ!」
勇者「あの扉が光ってんのか」
戦士「これは当たりなのではないか?誰も知らない地下の光る扉とはかなりそれっぽいぞ」
元神官「確かにこの上なくそれっぽいです」
姫「あなたたちの会話、ふわっふわ過ぎません!?」
勇者「これは何でできてるんだろう。不思議な……感じがするな」
勇者「そうだ、時の神殿と同じような感じだ。この向こうに創世主がほんとに……」
元神官「……」ゴクリ
勇者「…………」
姫「……」
――――――――――――――――――――――――――
168 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 22:44:28.59 ID:rW/sMJ5uo
勇者「おい出て来い創世主!!あの影出すのやめろ!!ふざけんな!!説明しろ!!!」ガンガン
姫「さすが勇者。数秒前の神妙な空気を一瞬で壊しましたね」
元神官「ごくりとかやっちゃった自分が恥ずかしいです」
戦士「……勇者、気持ちは分かるが鍵がないことには無駄だろう」
勇者「チッ」
勇者「しかし、間違いないな。これが俺たちの探していた扉だ」
戦士「根拠があるのか?」
勇者「ああ。触った瞬間びびっときた。なんというか……」
勇者「ぞわっとした。具体的に言うとそうだな……」
勇者「………………ぞわぁってしたんだ」
元神官「頑張れ勇者様の語彙!」
勇者「とにかく間違いない!あとは鍵を見つけるだけなんだ!」
勇者「あとは、鍵を……!!」
――――――――――――――――――――――――――
177 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 21:46:44.29 ID:0pa6hmm8o
――――――――――――――――――
――――――――――――――――――
少女「お兄ちゃん、きょうはおやすみなの……?」
少年「そっ!休み。今日は家にいる」
少年「ちょっと外出てみるか?」
少女「いいの……?」
少年「今日は顔色もいいし、咳もでてないからな。でもちょっとだけだぞ」
少女「そといく!いきたい」
少女「いきたいいきたいいきたいっ」
少年「だからちょっとだけだぞ!じっとしてろ、マスクつけて……」
少年「マフラーも。上着も!咳でたらすぐ帰るからな」
少女「うん……!」
少女「わー 人がいっぱいいるよ、お兄ちゃん」
少年「そりゃいるよ。街だからな。どこ行きたい?」
少女「シスターさんにあいたいな……」
少年「じゃ教会だな。どうせ暇してんだろうから相手してくれるよ」
――――――――――――――――――――――――――
178 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 21:47:28.89 ID:0pa6hmm8o
スタスタ
少年「……ん?」
少女「…………」
少女「けほ……」
少女「けほっ……ごほごほ」
少年「……あー……やっぱだめだな。帰ろう。また今度シスターには会えるよ」
少女「ごほ…… うん……」
少年「おんぶしてやるから」
少女「うん……ごめんね……」
少年「なんでお前が謝るんだよ……」
――――――――――――――――――――――――――
179 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 21:48:06.76 ID:0pa6hmm8o
夜
少女「ごほごほ……げほっ……けほ」
少年「薬飲んでもおさまらないな……くそ、なんでだ?」
少年「前はこれでおさまったのにっ……」
少年(……もう効かないのか?)
少年(……どうしよう……)
少年(…………だめだ、僕が兄貴なんだからしっかりしないと)
少年「ごめんな、やっぱり今日外に連れてかなければよかったな」
少年「……ごめん……大丈夫か?」
少女「きょうたのしかったよ……」
少女「またいっしょにつれてってね」
少年「うん……行こうな」
――――――――――――――――――――――――――
180 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 21:49:15.82 ID:0pa6hmm8o
* * *
少年「くそ、あのジジイ」
少年「僕が9歳の誕生日を迎えたら給料上げるって前に言ってたくせに……
しれっと忘れたフリしやがって」
少年「どうせ最初から嘘だったんだ……ハゲジジイめ」
少年(まあいい、今日は給料もらったし、あいつにもいいもの食べさせてやりたいな)
○○「よう。持ち帰りでなんか買ってくかい」
少年「うん、ライ麦パンふたつとあと卵……それからオレンジのジャムも」
○○「ははは、ここは食堂であって食材店じゃないんだがな。まあいいさ」
○○「白パンふたつにオムレツにジャムに、えーとほうれん草とソーセージの炒め物?」
少年「は!?ぜんぜん違うって!なに言ってんだよ? そんな金ない」
○○「気にすんな、今日だけ赤字覚悟の全品50%オフセールだ。いつも通りの値段でいいよ」
少年「そんなことしたらあいつにばれるって……!」
○○「あのジジイはもう帰ったよ。ほら早くしねーと俺の気が変わっちまうぞ、いいのか?」
少年「……ほんとにいいの?」
○○「いらねーなら別にいいけど?」
少年「いる!いります!ありがとう!!」
○○「また明日な」
――――――――――――――――――――――――――
181 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 21:50:20.40 ID:0pa6hmm8o
少年「げっ 外もうこんなに暗い。今日は仕事が長引いたからだな」
少年「早く帰らないとあいつも心配してるだろうな」タッ
タッタッタッタ……
少年(ここの通り……暗くなるといつもより倍治安悪いんだよなぁ。気をつけないと)
少年(にしてもよかった。今日の晩御飯は豪華だ。あいつもうまいもん食えば元気になるだろ)
少年(野菜と肉なんて食べるのいつ振りだろ?高いんだよな)
少年「!」
少年(花か……つんでこうかな。女の子だしこういうの好きだろうな)
少年「本物ならもっといいんだけど。滅多にお目にかかれないし」
少年(こんなんでも喜ぶかな……)
少年(さ、帰るか。もうすぐだ)
スタスタスタ……
スタスタスタ……
少年「……」
少年(足音……?)
――――――――――――――――――――――――――
182 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 21:50:57.10 ID:0pa6hmm8o
少年(……後ろに誰かいる……? 気のせいか?)
少年「………」ダッ
グイッ
少年「うぐっ」
ズルズル
少年「おいっ 離せよ!なんなんだよっ」
ドサッ
「いやー……ね?随分いいもん持ってるなーって。お兄ちゃんたちにもそれ分けてくんねーかな」
「一人じゃ食べ切れね―だろ?」
「痛い目合いたくなかったらーー……分かるよなぁ、ガキ」
少年「……!」
少年「……こ……これは一人で食べるんじゃなくて……」
少年「家で待ってる妹と…………」
バキッ
少年「!!」
――――――――――――――――――――――――――
183 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 21:51:44.15 ID:0pa6hmm8o
「うんうん、だからね?その妹と同じくらい俺たちもハラ減ってるわけ」
少年「……う……ぐ…… ふ、ふざけんな。これは……だめだってば」
「おっ、頑張るね少年。そういうの大事だよ」
「いつまで持つかな? 俺1分と見た」
「じゃあ俺2分。ひゃははは」
・
・
・
・
・
・
・
・
少年「……………………ゲホッ……」
「うっわ こいつこんなに金も持ってるぜ。ラッキー」
「じゃあな坊主。悪いな。俺たちを恨まずに国を恨めよ」
――――――――――――――――――――――――――
184 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 21:53:32.22 ID:0pa6hmm8o
少年「……かえせよ!!それだけは……頼む、返してくれよっ!」
少年「薬も買わないといけないんだよ……っ!食べ物……だって!それがないと……」
「あー?知るかよ。おいさわんじゃねー」ゲシ
少年「うわっ!!」
「あははははは……」
少年「……」
少年「待てよ……待ってくれよ……なあ」
少年「待って……」
少年「…………」
――――――――――――――――――――――――――
185 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 21:54:09.79 ID:0pa6hmm8o
少年「…………ハァ」
少年「……いってぇ……くそ、鼻血とまんねえ」
少年(あ……)
少年(花もあいつらに踏みつぶされてぐちゃぐちゃになってる……
これじゃあいつに持ってけないな)
少年(……)
少年「あー……明日からどうしよう」
少年「………………」
ピラッ
少年「はあ……はぁ…… わぶっ! なんだよこれ。チラシ……」
少年(街の外の学問施設……奨学生募集……年齢問わず……生活金全補助……)
少年「街の外…………か」
――――――――――――――――――――――――――
186 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 21:59:19.38 ID:0pa6hmm8o
少年(もしも僕一人だけだったなら)
少年(こんなクソみたいな街を抜けだして、このまますぐに街壁の外へ行ったのに)
少年(もしも僕一人だけだったなら高価な薬を買う必要もなく。
食事代は一人分ですみ、毎日怒鳴られながら一生懸命仕事を続ける必要もない)
少年(もしも僕が一人だけだったなら
妹の止まらない咳を聞く度に感じる胸が押しつぶされそうなほどの不安もない)
少年(もしも……)
少年(…………逃げたい。
全てを捨ててこの街から逃げ出したい……)
少年(街の外は本物がたくさんあるに違いない。
少なくともここよりはマシなところだろう)
少年(僕一人なら逃げられる。着の身着のままであの門を通り抜けてしまえばいいだけなのだから)
少年(食べ物も水もなんとかなるだろう。
最悪一日なにも口にしなくても耐えられる。そんなことは慣れている)
少年(穴が開いているこの靴で、どこまでもどこまでも走っていって……
荷物なんか持たずに……)
少年(軽いままならどこまでも走っていけるんだ)
少年(そうしてるうちにきっと世界のどこかにいる僕のお母さんとお父さんにも会えるだろう)
少年(見つかるだろうか。僕がずっと欲しかったものが)
少年(僕は僕を守ってくれる存在がほしい)
少年(庇護してくれ、困ったときに助けてくれる存在が、喉から手がでるほどほしい。
大丈夫だと言って安心させてくれる存在がほしい)
少年(ずっとほしかった)
少年(この街の外なら見つかるかな……)
――――――――――――――――――――――――――
187 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:04:31.86 ID:0pa6hmm8o
少年「……」
少年「……」
少年「………………」
少年(だめだ……それじゃだめなんだ)
少年(街の外がどんなに素晴らしい世界だったとしても……
お母さんとお父さんに会えたとしても……)
少年(仕事をしなくてよくても、毎日おいしいご飯が食べられたとしても)
少年(横にあいつがいなきゃ、僕は本当に笑えないよ……)
少年「うっ……ぐす……うぐっ…… いてっ」
少年「こんなこと考えるなんて最低だ……」
少年「……早く、帰ってやらないとな。随分遅くなっちまった」
少年(とりあえず家の家具とか僕の服とか売って……仕事も増やしてもらって
それで今月はなんとか乗り切ろう)
少年(食費も僕の分を削ればぎりぎりいけるかもしれない)
少年(……お母さんの……ペンダントも、必要なら売ろう。
そうしないと薬は買えないかもしれない)
――――――――――――――――――――――――――
188 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:05:29.32 ID:0pa6hmm8o
少年「あっ 今日の分の夕飯」
少年「くっそー……あいつら絶対いつかぶっ殺してやる……」
少年「仕方ない、こんなボロボロの上着でも売ればちょっとくらい金もらえるかな」
少年「うっ さむ……」
コツ……コツ……コツ……コツ……
少年(……パンいっこしか買えなかった……くっそ)
少年(あー、もう10時……あいつ寝てるかな)
ギイィ……
少年「……」
少年「□□□□……」
――――――――――――――――――――――――――
189 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:06:30.48 ID:0pa6hmm8o
少年(寝てるかな……?)
ドタドタドタッ
少年「!?」
少女「うわあああああああんっ!」ギュッ
少年「えっ!? な、なんだ!?」
少女「お兄ちゃん、お兄ちゃん……っ」
少女「うえええええん……ひぐ……うわああああああああんっ!!」
少年「どうした? なにかあったのかっ?」
少女「おにいちゃぁん……うっう……えぐっ」
少年「……帰るの遅くなっちゃってごめんな。仕事……長引いてさ」
少年「□□□□」
少女「……□□□□、お兄ちゃん」
少女「お兄ちゃん……ごめんね。ごめんね……」
少年「なんでお前が謝るんだ?」
少女「ううん……」
――――――――――――――――――――――――――
190 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:08:12.78 ID:0pa6hmm8o
少年「仕事長引いたうえに帰り道でこけちゃって、こんな有様だ」
少女「いたい……?」
少年「いや、そんなに」
少女「ひやすのもってくる」
少年「ありがと」
少年「お腹すいてんだろ? 遅くなって悪いな。ほら」
少女「……」
少女「お兄ちゃんは?」
少年「実は、今日どうしても帰り道に腹がへって、歩きながら僕の分は食べちゃったんだ」
少女「えーっ」
少年「悪い悪い。我慢できなかった」
少年「うまいか?」
少女「うん。おいしい。……でもおなかいっぱいになりそうだから、はんぶんこしよ」
少年「全部食え。食わないとチビのまんまだぞ」
少女「お兄ちゃんだってちっちゃいじゃん! はい」
少年「ちょ…… むぐっ」
少女「もうお兄ちゃんの口にはいったから、それお兄ちゃんのだよ」
少年「……お前だんだんズル賢くなってくな」
――――――――――――――――――――――――――
191 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:09:30.67 ID:0pa6hmm8o
少女「……ね、お兄ちゃん」
少女「……ずっとだまっててごめんね」
少女「ずっとだましてて……ごめんね」
少女「……もういいんだよ」
少女「いいことおしえてあげる……」
少女「カギをね……あけてあげる」
少女「ばいばい。お兄ちゃん」
―――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――――――
192 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:12:12.04 ID:0pa6hmm8o
魔王城
魔王「…………ぐー……」
勇者「ハァ……まだずっと寝たまんまか」
勇者「……アホ面だなぁ」
竜人「あ?」
勇者「ハッ……お前がいたの忘れてた……すいませんなんでもないです」
竜人「一刻も早く鍵を見つけたいのですが、なかなかうまくいきませんね」
魔女「でも王都の扉には鍵穴がなかったよねー。てことはやっぱ普通の鍵じゃないんじゃない?」
勇者「普通の鍵じゃない……じゃあ何なんだ」
勇者「鍵って何なんだよ……」
勇者「魔王、すぐ全部終わらすからな。もうちょっと待ってろよ」
魔王「…………」
魔王「…………」パチ
勇者「魔王!?」
魔女「魔王様?」
竜人「目が覚めたのですか!?」
――――――――――――――――――――――――――
193 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:15:58.14 ID:0pa6hmm8o
魔王「……」
勇者「俺が分かるか?」
魔女「ちょ、どいて勇者!あたしが魔王様と話すのっ!!」
勇者「いってえ!やめろ魔女、毛が抜けるっ」
魔王「ゆ……ゆうしゃくん……」
魔王「勇者くん…………きけ」ガッ
魔王「……か……かぎは……かぎ……は」
勇者「鍵!? 鍵がどうした?」
魔王「鍵は…… も……ものではない……」
魔王「……ことば……」
魔王「……『お…………」
勇者「『お』……!?」
魔王「ぐぅ……」
勇者「寝た」
――――――――――――――――――――――――――
194 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:22:58.96 ID:0pa6hmm8o
竜人「鍵は言葉……?『おぐう』ってなんでしょう!?」
勇者「『ぐう』は魔王の寝言だ」
勇者「一体『お』って……?」
勇者「ん……まさか」
魔女「分かったの?」
勇者「……ちょっと試してみたい。王都に行ってくる!」
竜人「私たちも行きます」
――――――――――――――――――――――――――
195 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:23:59.94 ID:0pa6hmm8o
* * *
王都 図書館地下
元神官「勇者様、鍵を見つけたかもって?」
姫「……本当に?」
忍「勇者様ほんとに鍵見つけたんですかー!?」
妖使い「どんな鍵だったんだ?もったいぶらずに見せてくれよ」
忍「あーっ私も見たいです。見せてください」
妖使い「なあ勇者聞いてる?気になるなあ、見せろって」
勇者「ええい左右からやかましい!見せることはできないよ」
勇者「鍵はものじゃなかったんだ」
妖使い「ん……?」
勇者「いま試す」
――――――――――――――――――――――――――
196 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:26:28.39 ID:0pa6hmm8o
勇者「……」
勇者「『おかえり』」
……カチャ……
勇者「!」
ギイィィィ……
勇者「うぉわっ ほんとに開いた」バタン
魔女「いやいや、なんで今閉めたの。早く突撃しよーよ」
竜人「さっさと創世主ぶっ殺しに行きましょう。もう一回開けてください」ブンッブンッ
戦士「殺る気満々か お前ら。殺しに行くわけではないのだぞ」
騎士「そそそそそうですよ、早く世界の異変をととと止めませんととと」
姫「あなた、本当について行く気?大丈夫?」
元神官「皆さん無茶はしないでくださいね」
姫「必ず帰ってくると約束して」
勇者「もちろんです」
姫「……」
――――――――――――――――――――――――――
197 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:28:58.80 ID:0pa6hmm8o
ブオンッ ブォンッ
竜人「気合い入れていきましょう。いかに不意をつけるかが勝負ですよ」
戦士「だから奇襲をかけるわけではないと言っておるだろうが!!」
戦士「それにお前、ちょっと空気読め。剣振るの一旦やめい」ガキン
竜人「はい?」
姫「…………あ、あの……竜人さん……も、お気をつけて。くれぐれもお怪我をなさらぬよう」カァ
姫「私もいっしょについていけたらよかったのですけど……」
竜人「大丈夫ですよ、私たちにまかせてください」
竜人「四肢がもげても必ず奴の首をとってきます。血祭りです」
姫「で、ですからお怪我はなさらぬよう!!四肢はもげてはいけません!!」
忍「あの人こわっ!絶対後ろめたい過去あるって若、まじで」
妖使い「……勇者、どうして鍵があれだって分かったんだい」
勇者「ああ、あれか?鍵は言葉だって魔王に聞いて……それで思いついたんだけど」
勇者「『雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺』のそれぞれの頭文字つなげただけだ。
それで、『おかえり』……それで開くとは俺も思ってなかったが」
勇者「単純な暗号だったな。つーかそのまんまだ。もっと早く気付けばよかったぜ」
妖使い「へー。おかえりだって、鍵にしては変な言葉だね」
妖使い「じゃあ創世主はただいまって迎えてくれるのかな。ハッハッハ」
勇者「どっちかっつーと逆だよなぁ」
勇者「よーし準備はいいな行くぞお前ら!覚悟はいいか!!」
魔女「いつでも!わーい焼き打ちだーーーっ!」
勇者「よっしゃ行くぞーー!!」
ギイィイィ……
――――――――――――――――――――――――――
198 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:35:13.25 ID:0pa6hmm8o
戦士「……む、ここは……!?屋外ではないか?」
妖使い「王都の地下に空があるなんて、君たちの国すっごいなー!これどうやってんの?」
勇者「いや、別空間に転移させられたんだろうな。
あの城の中に創世主がいるのか?」
竜人「見てください、城の天辺に誰かいますよ」
騎士「よ、よく見えますね。いますか……?」
魔女「じゃあみんなで四方に散らばって。あたし背後から仕掛けるから。
合図したら一斉にGO!だよ!一撃必殺!」
騎士「だから奇襲じゃありませんって魔女さん。
何故あなたも竜人さんもそんなアグレッシブなんですか!?」
??「『おかえり』……かぁ」
??「懐かしいな」
??「でも、それを言ってほしいのは君たちじゃないんだ」
――――――――――――――――――――――――――
199 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:35:59.23 ID:0pa6hmm8o
忍「なんかあの上にいる人しゃべってません?」
魔女「んー 全然聞こえないけど」
勇者「なんかボソボソ言ってんな」
勇者「おい降りて来い!!お前が創世主なんだろ!?」
勇者「世界を滅ぼしてるらしいが、やめろ!!ふざけんな!!勝手に消すんじゃねーよ!!」
??「あがくのはやめろよ。君たちのいる意味はなくなったんだ」
??「もういいんだ……ここは捨てられた世界なんだから」
ザアアァァァァァ……
竜人「城が崩れて……。あれが黒い水ですか?」
妖使い「そうだよ、俺たちが見たのといっしょだ」
??「君たちが気づいていなかっただけで、この世のものは全てこんなにも脆いんだよ」
??「夢から覚めればすぐ溶ける」
??「みんなが言う通り、こんなの全部くっだらねー、何の役にも立たない代物ってわけだ!!」
ザザザ ザザ
勇者「なんだ!?」
??「じゃ、今からアドリブは控えるように。劇の開幕だ」
??「全員配置について。台本通りに話せよ」
――――――――――――――――――――――――――
200 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/25(日) 22:36:35.89 ID:0pa6hmm8o
ザッ……
妖使い「周りの風景が一気におどろおどろしくなったな」
妖孤「ひええ……もう帰りましょうよ主様~~」
妖使い「お前仮にも伝説の妖孤なんだからしゃきっとしろ!!情けないぞ!!」
妖孤「怒られた~~」
魔女「さっきからあいつなに言ってんの?誰か分かる人手あげてー。翻訳して」
勇者「おい、わけ分かんないこと言うな!これは劇じゃない、台本なんてねーよ!」
??「劇だよ。最初からそうだった」
??「陳腐で馬鹿みたいで、どっかで見た展開をつぎはぎ合わせで繋いだゴミみたいな三文芝居だ」
??「ご都合主義の展開任せ、整合性なんてないに等しい、子供だましでありきたり」
??「道端に落ちていても誰も気にとめないような……」
??「吹いたら飛んで行ってしまいそうなくらい内容がないに等しい時間泥棒。それがこれ」
??「主役、勇者・魔王。それから魔女に竜に戦士に神官に」
??「姫に王子に騎士……そして道化」
??「だってロールプレイングだろ。君たちはずっと演じ続けてきた」
??「自分に与えられた役をこなせばそれでよかった。今この瞬間まではね」
??「世界を救いたいんだっけ? 僕を倒せたらいいよ」
101 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:01:07.32 ID:RBNk19F+o
国王「もし原因が後者だったとして、何故それをしなければいけなかったのかと考えると
こちらも軽率に動くのは危険だなあ」
国王「じゃあ戦士に騎士。
私のことは放っておいていいから、突然の暗闇に大混乱中であろう王都の民のところへ行ってくれい」
国王「宮殿の倉庫の中からろうそくや松明をあるだけ持っていって配るんだ」
騎士「しかし……魔術師たちが魔法で街に灯りをともしたほうが早いし、強力では?」
国王「あんまり強い灯りをともしていい状況かも分からないからね。
とりあえず勇者か魔王の連絡を少し待つよ。それまで私が今言ったことしくよろ」
国王「私は星の国の王と雪の女王に手紙出してくるから。ヘイ鳥、こっちへカモン」
バタバタ……
騎士「いやあ……こんなときでも陛下のブレなさ ヤバイですね。いっそ末恐ろしいです」
戦士「あそこまでいつも通りだと、動揺していたこちらが逆におかしいのかと錯覚してしまうな!」
騎士「一度あの人の頭の中覗いてみたいですね」
――――――――――――――――――――――――――
102 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:04:10.93 ID:RBNk19F+o
* * *
妖使い「んじゃ王都に報告に行ってくる」
忍「さらばです、勇者様に魔王様!」
魔王「気をつけて行くのだぞ」
勇者「なあ、やっぱり俺が行こうか?テレポートして行った方がすぐだし」
妖使い「いーや、ほかの村の様子も空から見ておいて、王都の王様に報告した方がいいと思わないか?」
妖使い「俺の使い魔に乗ってけば、君ほどじゃないけど普通の鳥より速く飛んでけるからさ」
妖使い「妖は夜目もきくし。心配ご無用。じゃあね」
忍「拙者たちはこれにてどろんでござる!」
妖使い「急にキャラ押しだしてきたな」
バサッ……
妖使い「……」
忍「こんな夜久しぶりですね。月も星も何もない……」
妖使い「それでも慣れ親しんだ夜空とはまた別モノだけどね。
あそこはこんなに真っ暗じゃあなかった」
妖使い「灰色さ」
忍「地上はどんな様子です?私は見えません」
妖使い「妖孤、見えるか?」
妖孤「はい主様……なんかアホみたいに穴が開いてます。
例えて言うとレンコンの断面図みたいな感じになってます」
妖使い「なるほど。そいつあ確かにアホみたいだ」
忍「次はどうなっちゃうんでしょうかね」
妖使い「どうなるんだろうな。止められるだろうか」
妖使い「彼らに」
――――――――――――――――――――――――――
103 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:07:34.63 ID:RBNk19F+o
* * *
魔王「王都や魔王城の方は無事だろうか」
魔王「もしさっきの影がこの町の穴だけでなく、ほかの穴からも出現したとすれば
あまり明るい灯りをつけるのは危険なのだが」
勇者「王都の国王は、普段はアホだけど……ほんとアホな真似しかしないけど……」
勇者「いざというときには察しがいいし頼りになる。姫様もそばについているはずだしな」
勇者「魔王城の方も大丈夫だろう。魔女や竜人やほかの魔族たちが、
きっと意図を察してくれていると思う」
魔王「……うん」
魔王「しかしいつまでも夜のままにしておくわけにはいかないな」
魔王「これは単なる一時しのぎにしかならんのだ。もっと根本的な解決をしないと」
勇者「本格的にやばくなってきたな……まさかあんなものが穴から出てくるなんて」
勇者「召喚師が召喚する幻獣みたいな魔法生物か?斬っても意味なかったんだ、あいつら」
魔王「いや。魔法の気配は感じなかった。しかし魔法も物理攻撃も効かないとすると、恐らく生物でもない」
勇者「魔力で動くものでもなく、生物でもないとしたら……一体なんなんだ」
魔王「分からない」
魔王「いま分かっているのは、あれらがこの世のいかなるものとも違う物体だということだ」
――――――――――――――――――――――――――
104 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:11:27.39 ID:RBNk19F+o
勇者「一体なにが起こってるんだ……」
勇者「……そうだ。過去にも同じようなことが起こった可能性があるんじゃないか?」
勇者「やっぱり俺たちも王都に行ってみよう。
あそこの図書館に行けば、何かしらの記録が残ってるかも」
魔王「残念だが、それはない。
正体不明の影が出現していきなり人々を襲うなんてことはどこにも書かれていなかった」
魔王「歴史書にも神話にも、おとぎ話にも、哲学書から経済書にいたっても、どこにもなかったんだ」
勇者「言いきるのはまだ早いだろ?お前だってあそこの本全部読んだってわけじゃないだろうし」
魔王「読んだ」
勇者「……読んだのか?」
魔王「読んだ」
勇者「読んだんだ……」
勇者「あーーじゃあどうするか……。こんな風にどう対処していいか分からないのははじめてだ」
魔王「うむ……」
――――――――――――――――――――――――――
105 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:15:12.05 ID:RBNk19F+o
賢者「でも、魔王様が本を全部読んだって言っても、
図書館にもうすでにない書は別なわけじゃろう?」
魔王「ああ、そうだ」
賢者「あそこの図書館は確かにこの国の全ての書を保管しておるが、2つ例外がある」
賢者「ひとつ、人魔戦争の竜族王都襲撃の際に燃えてしまった書」
賢者「ふたつ、以前の王家が『置くべきでない』と判断した書」
賢者「ちゅーこっちゃ。じゃからまだ希望はあるんじゃ」
勇者「なるほど。そうか……いまある本は百年前の戦争後に揃えられたものだもんな。
それより古い本は確かにお目にかかれない」
魔王「しかし燃えてしまったのならどちらにせよ読むことはできないのでは」
魔王「王家が置くべきでないと判断した書も、ならばどこに保管されているのだろう」
賢者「なあに、案ずるでない。まだ道は残されている」
勇者「……!手がかりがあるのか?」
勇者「……」
勇者「ところであんた誰だ?」
魔王「いつの間に私たちのテーブルについていた?」
賢者「そうドン引きをするな。私は賢者。賢い者と書いて賢者。
自分で言うのも恥ずかしいがな……」
賢者「ここより西の丘に住んでいる賢いジジイじゃ」
賢者「すげえ賢いよ」
勇者「自称を恥ずかしがってる割に滅茶苦茶アピールしてくるな、あんた」
――――――――――――――――――――――――――
106 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:19:08.88 ID:RBNk19F+o
魔王「賢者か。頼りになりそうな肩がきだな」
勇者「肩がきはな……肩がきは」
魔王「してその王立図書館にない書を閲覧する方法とは?」
魔王「私たちは一刻も早くあの影たちが何なのか、正体を突き止めないといかんのだ」
勇者「そうだ、教えてくれ賢者のじいさん!」
賢者「分かった。まず東の森の奥にある砦に行け」
賢者「そして最奥の赤い秘石をとってくるのじゃ。そうしたら次は南の天空神殿へ。
しかし天空に行くためには気球が必要になってくるだろうから」
賢者「気球職人を探しだしてからにしろ。職人は王都にいるはずだ。
天空神殿では白い秘石をとってくるように」
勇者「やたら手間と時間がかかるな……」
賢者「さらに西のマグマ火山では緑の秘石を、北の要塞廃墟では黒い秘石をとってこい。
4つの石を集められたら、それが賢者の家に入るための鍵となる」
魔王「仕方ない。やろう勇者くん。では賢者、東の森に案内してくれるか」
勇者「あれ、待てよ。賢者の家に入るための鍵って……」
賢者「そう、私がここにいるから今言ったことはショートカットできるよーん」
勇者「じゃあさっきの説明いらねーだろ!!?」
賢者「私がここにいてよかったね、と思わせるための1分間じゃ」
勇者「あんた、じつは賢者っていうの嘘だろ!?」
魔王「君がここにいてよかった」
勇者「お前も乗らなくていいよ」
賢者「魔王様は素直じゃ。それでよいよい。では行こうではないか、わしの家へ!」
賢者「長旅になるからしっかり準備を整えて行くように。薬草は持ったか?」
魔王「そんなに遠いのか?では準備をしてくる。少し待っていてくれ」
賢者「ああ遠い。徒歩5分じゃ」
魔王「と……遠くないっ!」
勇者「いい加減にしろ爺さん!魔王が慣れないツッコミをするレベルに達したぞ!」
――――――――――――――――――――――――――
107 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:22:22.41 ID:RBNk19F+o
賢者の家
賢者「なにしろ暗いからいつもより時間がかかってしまったな」
勇者「と言っても徒歩10分くらいだったけどな」
魔王「家のどの部屋を見ても……本だらけだ」
魔王「見たことのない書ばかり……すごい」
勇者「古い本ばっかりだな」
賢者「あまり乱暴にさわるでないぞ。
紙も古いものじゃから、触っただけでばらばらになってしまうのもある」
勇者「まじかよ。でもなんで昔戦争で燃えてしまった本を持っているんだ?」
賢者「本物の書がここにあるわけではないのじゃ。本物は確かに昔燃えて消えた。
ここにあるのは私の曾爺さんが複製したものじゃ」
魔王「確かに全部手がきだ」
賢者「曾爺さんは戦争の時に、もしかしたら王都も危ないかもしれないと思ったんじゃろうな。
貴重な本は全てこっそり複写しておいたらしい」
勇者「へえ……すごいな」
賢者「この部屋にあるのは曾爺さんが複製したものが棚にしまってある。
地下室にあるのは、私が若いころから蒐集した変な書じゃ」
勇者「変な書って」
賢者「自由に見て回るがよい」
――――――――――――――――――――――――――
108 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:24:33.24 ID:RBNk19F+o
魔王「ん……?」
魔王「この書は? 古代語……に似た文字だが、少し違うな」
賢者「それは曾爺さんにも解読できんかったようじゃな。
その棚の書は全部似たようなもんじゃ。なんの本だかさっぱり」
賢者「私も解読しようと研究中でなー。何通りかの文字のパターンはとりあえずこの図にまとめておいたが」
魔王「これは魔族の古代語と人間の古代語があわさったような文字だな」
魔王「こんな文字は初めて見た……」
勇者「読めそうか?」
魔王「少し時間がかかりそうだがやってみよう」
魔王「賢者、手伝ってくれるか」
賢者「いいよ」
――――――――――――――――――――――――――
109 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:25:52.50 ID:RBNk19F+o
地下室
勇者「あっちに俺の出る幕はなさそうだな」
勇者「地下室にある本は賢者の爺さんが集めた本なんだっけ。
こっちの本なら俺でも読めそうだし……手当たりしだい見てみるかな」
勇者「っつっても……『変な本』だろ?エロ本とかじゃねーだろーな爺さん……」
勇者「……『薬草大辞典』……『鉱石図鑑』……『秘湯100選』……」
勇者「……『50歳からの結婚』……『よい老後』……『未確認生命体レッシーを追え!』
勇者「ほとんど趣味の本かよ。……ん?」
勇者「本を抜いたのにまだ奥に背表紙が。なんの本だ?ええと」
勇者「…………」
勇者「こっちの書庫は魔王に見せない方がいいようだな」
勇者(手がかりになりそうな本はないかもな)
勇者「ん……なんじゃこりゃ。『時の女神の日記』」
勇者「はははは!だれがこんなもの書いたんだろ。見てみるか」
――――――――――――――――――――――――――
110 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:27:45.24 ID:RBNk19F+o
○月×日
今日は何事もなし。
いつも通り完璧に仕事を終えた。
仕事終わりに飲む麦酒は格別だ。
○月×日
時の剣を置いたのをすっかり忘れていた。
勇者がやってきた。
休憩時間に来る勇者が悪い。
すっかり気を抜いているところを見られてしまった。
ジャージ姿でぐーたらしているところを見られてしまった。なんたること。
急いで取り繕ったが……このままでは私のイメージが……。
○月×日
眠い。
時の歯車を見ているとだんだん眠くなってくる。
○月×日
今日は何事もなし。
○月×日
今日はうっかり仕事中にうたた寝をしてしまって、
地上にひとつだけ時空の歪みを発生させてしまった。
急いで歯車を回して消す。
直径50cmくらいの小さな穴だったので誰にも気づかれなかった。あぶないあぶない。
○月×日
と思ったが鍵守様にばれていた。
優しい口調で叱られた。かわいい。こわい。
――――――――――――――――――――――――――
111 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:29:25.93 ID:RBNk19F+o
勇者「……………………」
勇者(これ本物だ……)
勇者(この感じ、本物の時の女神だ……)
勇者「日記とか下界の俺たちに知られて大丈夫なのかよ!なにしてんだあの女神!」
勇者「つーか……ここ!」
勇者(地上にひとつだけ時空の歪みを発生させてしまった。急いで歯車を回して消す。
直径50cmくらいの小さな穴だったので誰にも気づかれなかった……って)
勇者(穴……時空の歪み?それって今俺たちがまさに困っていることだよな)
勇者(まさかの黒幕女神説…………)
勇者「いやいやいや。まさか。女神は確かに第一印象は変だったけど、俺たちを助けてくれたし」
勇者「……だが確かめる必要があるな。あとで時の神殿に行ってみよう」
勇者(入れるかどうか分からないが)
勇者「一応ほかの本も見てみるか。てか爺さんは一体どこで女神の日記を入手したんだよ」
勇者「すげーな爺さん」
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112 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:30:45.56 ID:RBNk19F+o
―――――――――――――
―――――――――
―――――
勇者「ふー……疲れた。字読むのは剣振るのより何倍も疲れる……」
勇者「あらかた目を通したか。めぼしいものはなかったけど」
勇者「魔王と爺さんの方はどうだろう。そろそろ様子を見に行ってみるか」ガタ
スタスタ
勇者「……」
勇者「ん?」
勇者(……『はじめてでもよくわかる!初心者のための異端審問(やさしい図解付き)』)
勇者「…………異端審問……」
勇者(今はもう歴史書の中でしか見かけないが、昔はこういう本が至るところにあったんだろうな)
勇者(現在では絶版になってるだろうが、恐らくこの本も実用書としてつくられた本なんだろう)
勇者(戦争で燃えてないけど国が図書館に置くのをやめたってこういう本のことか?)
勇者(確かに人と魔族が共に生きる今の社会では、こういう実用書は置く必要はない)
勇者(配慮っちゃ配慮か……。隠ぺいとまで疑うのは……俺の考えすぎか)
勇者(……あっちもまだ時間かかるよな)
パラ……
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113 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:33:22.54 ID:RBNk19F+o
イタンシンモン
異端審問
20年前に戦争が終わってやっと平和な世界を取り戻せましたね。
でも安心しすぎてはいけません。
実は山奥や谷の底で、異形のものを見たという証言が相次いでいます。
角が生えていたり大きな鳥の姿をしていたり、半馬半人の化け物たち……そう魔族です。
悪魔たちはひっそりと私たち人間に復讐をする機会を待っています。
決して一人で挑まず、姿を見かけたら周囲の人々に知らせましょう。
王都の騎士団に知らせるのもいいですが、彼らが駈けつけてくれるのには時間がかかります。
(田舎の村なら特に)
なので見つけ次第迅速に対処するのが重要です!
まず化け物を見かけたら、太陽の日に3日置いた木に灯した聖火で森ごと焼き打ちします。
悪魔たちはとても強い力を持っていますので、こちらが大勢いたとしても危険です。
悪魔の住処を囲うように四方から火を放ちましょう。
これが一般的な悪魔狩りの方法ですが、種族によっては別の方法が有効な場合もあります。
詳しくは34ページ参照されたし。
――――――――――――――――――――――――――
114 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:34:30.10 ID:RBNk19F+o
しかし、悪魔の中には人に化けるのが得意なものもいます。
あなたの隣人が実は魔族だった、ということも大いにあり得るのです。
化け物の正体に気づかずそのままボケッとして過ごしていると
はっとした時にはそいつの腹の中、ということもあるかもしれません!
様子や言葉がおかしかったり、姿かたちが人と違うところがあったり、
人の体を見てよだれを垂らしていたりしたら、間違いなくそれは魔族です!
疑わしい者がいたら火あぶりにしましょう。(図1 火刑のときの木の組み方)
もしその者が魔族だったら、聖火によって化けの皮がはがれ、本当の姿を現わすはずです。
ですが火刑はとても手間がかかりますね。
あまり大人数で準備をしていると、そのことを化け物に悟られてしまうかもしれません。
それはこちらの命が危うくなるので、気を付けた方がいいです。
じゃあどうすればいいの?とお思いの方。ご心配なく。
火あぶりは正統派ですが、もっと手軽な異端審問の方法もあります。
――――――――――――――――――――――――――
115 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/14(水) 21:36:34.88 ID:RBNk19F+o
それは水審判とよばれるものです!
勇者(……)
あなたの村に泉はありませんか?
清らかな水があればなんでもいいです。
水があったら、悪魔と疑わしき者の足に石をくくりつけて泉に落としましょう。
反抗が怖いと言うのならば、酒か何かを飲ませて眠らせ、その間に準備を済ませましょう。
もし悪魔だったら、悪魔は邪悪な魔法を操りますので、石がくくりつけてあろうがなかろうが関係なく浮かび上がってきます。
浮かび上がりそうだったら、すぐに火刑の準備に取り掛かりましょう。
大丈夫、悪魔は清らかな水が苦手ですから、かなり衰弱しているはず。
その間にぱっぱと準備を済ませておきましょう。
もし人間だったら、水底に沈みます。まあ仕方ないことですね。
ね、簡単でしょ?
さて次のページでは…………
―――――パタン。
勇者「……!?」
魔王「……」
勇者「……魔王」
魔王「古代語の解読がすんだぞ。上にあがってきてくれ」
勇者「……あ……ああ。分かった」
魔王「この本は私が棚に戻しておく」
スッ ゴト
――――――――――――――――――――――――――
121 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 18:57:22.33 ID:kELIGolwo
賢者「いやー私が50年かけても読めなかったこの本を……
2,3時間で読まれるとなんとも言えない気持ちじゃの」
魔王「この言葉の解読には魔族の言語の知識が必要なのだ。
たまたま私が魔族だったというだけのことだ」
勇者「……で、なんか見つけたか?」
魔王「ああ。これだ。タイトルは『創世記』」
勇者「創世記?そんなもん、古代語じゃなくったってどこにでもあるぜ」
勇者「あれだろ?二人の創世主がいて、ひとりがこの世界をつくって、もうひとりが冥界をつくった」
賢者「1日目に空と海を、2日目に太陽と星と雪をつくって」
賢者「3日目に月と命と死をつくったという神話じゃな」
魔王「ああ、それは私も知っている。でもこの古書にはもっと詳しく書かれているのだ」
魔王「古書の創世記によると、大地も空も海も、太陽も星も雪も……」
魔王「月と命と死も、全て黒い水からつくられたという」
勇者「黒い水?なんか嫌な感じだな。普通の水ならともかく」
勇者「それか赤い水なら血の比喩だって分かるけど。黒い水って……沼の水かよ?」
賢者「私らは沼の水からできとるんかいのう」
勇者「すげえいやだな」
――――――――――――――――――――――――――
122 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 18:58:57.33 ID:kELIGolwo
魔王「創世主はまず0日目に白い大地と黒い水を用意して、
それから3日間でこの世界を創造したらしい」
勇者「へえ」
魔王「私と妖使いが地面に開いた穴に入ったときのことを覚えているか?」
勇者「ああ、覚えてるよ」
魔王「あのとき底にたまっていたのは水だったのだ。黒い水」
賢者「関連がありそうじゃのう」
勇者「とすると影は黒い水でできてて、つまり俺たちと同じようなものってことか?」
魔王「同じというか私たちの原始的姿なのではないか。
命も死も与えられていないから、勇者くんの攻撃も私の魔法も通用しなかったのだろう」
勇者「……。俺もおもしろい本を地下室で見つけたんだ。これ」
勇者「時の女神の日記……なあ、爺さんこれどこで見つけたんだ?」
賢者「時の神殿の近くの道で落ちていた。
どうせ偽もんじゃろうが、話のタネになるかと思っての」
勇者「へ……へえ。でも、本物みたいだぞ」
勇者「これによると、女神が時の歯車を回していないと、時空の歪みが発生して大地に穴が開くらしい」
魔王「では時の女神がいま、なんらかの理由で歯車を回せていない状況なのか」
勇者「そうらしいんだ」
――――――――――――――――――――――――――
123 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 18:59:58.66 ID:kELIGolwo
魔王「……」
魔王「そしてこれがもうひとつ解読した書のなかで興味深いものだ」
勇者「また随分難しそうだな。これは?」
魔王「『終末記』。創世記と対でつくられたものらしいな」
勇者「不吉すぎる」
魔王「この世界が存在理由を失ったと創世主が判断したとき、黒い影が全てを呑みこむだろうと書かれている」
勇者「……」
勇者「大当たりだな」
魔王「大当たりだ」
賢者「影に呑まれたあとは無だけ……なにも残らんのじゃろう」
勇者「俺は人が影に呑みこまれたのを見た。そのオヤジはいなくなってしまった。消えたんだ」
勇者「……『世界が存在理由を失ったと創世主が判断したとき』ってことは、
その創世主って奴がこの事態を引き起こしてるんだよな」
勇者(忍が言ってた通りだったのか。まさかとは思ったが……)
勇者「止める方法はないのか?」
――――――――――――――――――――――――――
124 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:02:00.70 ID:kELIGolwo
魔王「『扉を開けて彼に会いに行け』」
魔王「『扉の鍵は 雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺』」
勇者「ヒントになってねえ!!」
勇者「扉の場所も鍵の在り処も、昔の人はなんでそうやって迂遠なやり方しかできないんだ!?」
勇者「はぐらかさないと死んじゃう病気か何か?『扉はここで、鍵はここにある』って書けよ!!」
勇者「はあはあ……悪い、取りみだした」
勇者「勇者やってると結構その手の暗号?に振り回されてな」
賢者「どうどう」
魔王「はっきり書けない事情でもあったのではないか。
明確に書くと誰かに消されてしまったり……」
勇者「ダイイングメッセージじゃないんだからさ」
勇者「まあ文句を言っても仕方ないか!扉がどこにあるかは分からないが」
勇者「とにかく鍵を集めよう。雄竹に神の宮と……ええと?」
勇者「ほかのみんなにも協力してもらって、分かれて探せば早いだろう」
魔王「そうだな」
――――――――――――――――――――――――――
125 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:04:17.37 ID:kELIGolwo
勇者「俺はその前に時の神殿に行ってみる。
魔王は魔族たちにこのことを知らせて、竜人と魔女といっしょに王都で待っててくれ」
勇者「ちょっと確かめたら俺もすぐ王都に戻る。そしたら鍵を探しに行こう」
魔王「分かった」
勇者「……」
勇者「……太陽の日を遮る魔法はけっこう魔力を消費すると思うんだが、どれくらい持ちそうなんだ?」
魔王「1日1回なら大したことではない。魔力は寝れば回復するから」
勇者「本当に?」
魔王「ああ」
勇者「ならよかった。でも無茶すんなよ」
魔王「君こそ」
勇者「……いっつも無茶してんのはお前だろ!」
魔王「勇者くんだって無茶してるではないか。ここは譲らんぞ。
無茶ナンバー1は君だ勇者くん。異論はないな」
勇者「異議あり!お前忘れたとは言わせねーぞ、昔王都で自分の心臓ブッ刺したじゃねーか!
あれ今でもたまに夢に見るぞ!もう絶対ああいうことすんなよ!」
魔王「勇者くんだってその後……その後……目が覚めたらいなくなってて……
代わりにお墓があって……勇者くんが……」
魔王「…………だから全部勇者くんが悪いっ。もうあんなことをしたら許さない!」
賢者「まあまあお二人とも。落ち着け」
勇者「爺さん……」
賢者「さっさと目的地に行くんじゃ」
賢者「うるさいし邪魔」
賢者「世界の命運が二人にかかっているんじゃぞ。急ぐんじゃ。
君たちなら必ずこの世界を救えると信じておる。頑張るのじゃぞ」
勇者「おい、真ん中に本音が挟まってるぞ。ごめんて」
勇者「邪魔したな爺さん。あんたがあの町にいてくれたおかげで助かったよ。じゃあな」
魔王「ありがとう賢者。またどこかで」
賢者「よいよい。頑張れ若人たちよ。創世主だかなんだか知らんが……」
賢者「私は君たちを応援しておるぞ。またな」
――――――――――――――――――――――――――
126 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:10:31.16 ID:kELIGolwo
* * *
王都 宮殿
戦士「騎士!ここにいたか」
騎士「あれ?戦士さん今は休憩中じゃ?」
戦士「王都に魔王たちが到着したらしい。いま謁見の間にいるそうだ。俺たちも行くぞ」
騎士「は、はい!」
コツコツコツ……
騎士「魔王さんたちが……」
戦士「お前あんまり浮かれるんじゃないぞ」
騎士「浮かれてなんかいませんよ!国の緊急事態なんですから、僕だって弁えてます」
戦士「分かった分かった。魔女が来ているといいな。まあ来てるだろうが」
騎士「だだだだから誰も魔女さんのことなんて話していないじゃないですか」
騎士「……そ、そうだ。僕は最初魔王さんのこと、
何考えてるかよく分かんない人だなーって思ってたんですよ」
戦士「露骨な話題逸らしだな」
騎士「戦士さん!真面目に聞いてください!
ほら、魔王さんってあんまり表情が顔に出ないじゃないですか」
戦士「魔女と違ってな」
騎士「それでですね!!ある日魔王さんがまた難しそうな顔で何やら虚空を見つめていて、
僕は『きっとすごい難しいことを考えているんだろうなあ』と思ったわけです」
騎士「そしたら横にいた勇者さんは
勇者『いや、あれは難しそうなことを考えていそうで実はなにも考えていない顔だ』
って言って……」
騎士「いやいやまさか、と思うじゃないですか。あの魔王さんが。
そしたらその後、勇者さんが魔王さんに話しかけに行って……
勇者『なあ魔王。いま何考えてんだ?』って聞いたら、
魔王『ん……?』
魔王『何も考えてない』
騎士「…………って!どう思いますか戦士さん」
戦士「いや……どうも……?」
戦士「なんだ、どう反応すればいいんだソレ?」
――――――――――――――――――――――――――
127 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:12:59.24 ID:kELIGolwo
戦士「確かに年頃の娘と比べると表情が乏しいが、全くないというわけでもないだろう」
戦士「なにか甘いものを差しいれると嬉しそうにするぞ」
騎士「まじすか。今度贈ってみようかな……そう言えば魔女さんに以前ケーキを贈ったら……」
騎士「なんかうねうね動く不気味な植物をお返しでもらったんですけど……どう思いますか戦士さん」
戦士「いや……分からんけど……喜べば?」
騎士「喜んでいいんですかね……」
バタン
国王「ああ、来たか」
戦士「お待たせいたしました」
国王「やはりこの夜化は魔王の魔法だったって」
騎士「そうでしたか……陛下の仰る通り、王都に光を灯さなくて正解でしたね」
国王「ところで戦士、騎士。君たちを近衛騎士の任から解くよ」
騎士「そうですか…………って、ええええ!?ななな何故ですか!?クビですか!?」
戦士「ツマトムスメガ……ツマトムスメガ……」ガクッ
騎士「戦士さーーーーん!戦士さんがショックで死んだーーー!」
国王「いや違う違うクビじゃない。おりゃっ蘇生ビンタ!」パーン
戦士「ハァッ!」
国王「君たちには魔王たちに協力して、扉の鍵を探してもらいたい。
いいかな、3人とも」
魔王「それは有り難いが、いいのか?」
国王「もちろん。鍵の在り処の『雄竹の里 神の宮 永遠の泉 離島の浜辺』という場所だけど」
国王「いま王都中の民に訊きまわってそれに当てはまりそうな場所をリストアップさせている。
ここはいろんな国や都の商人が訪れるところだから、情報はすぐ集まるだろう」
国王「けれどたぶんそんなに絞り込めないと思うんだ。特定できるキーワードもあまりないしね」
竜人「虱潰しに行くしかありませんね」
魔女「ぶちぶちっとねー」
国王「だからできるだけ頭数いた方がいいだろう?だから頼むよ、戦士と騎士」
戦士「そ、そういうことでしたら。またよろしくな、3人とも」
騎士「宜しくお願いします」
バターン
姫「話は聞かせてもらいました」
姫「私も行きます」
――――――――――――――――――――――――――
128 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:15:26.14 ID:kELIGolwo
国王「…………………………」
姫「…………」
国王「じゃ私も行く」
戦士「陛下、そこは姫様を止めるところでしょう。なに言ってんだあんた」
騎士「そうですよ、ドサクサにまぎれないでくださいよ」
騎士「姫様、だめですよ。頭数が必要なのは必要ですが、それはあくまで戦える者が必要ということです」
魔王「敵は創世主かもしれぬのだ。なにがあるか分からない。
国の大事な姫を巻き込むわけにはいかない」
姫「私こう見えて弓なら得意です。それにある程度の護身術なら心得ておりますわ。古代語も読めます」
姫「私もこの国の王族として何かしたいの。必ず役に立って見せます」
姫「……私も一緒に行きます」
国王「…………」
国王「では私も一緒に行く」
戦士「便乗しないでください陛下。いい加減にしてください」
国王「はあ……いいよ。分かった。ただし怪我はしないこと。それだけは守ってくれるね」
姫「お兄様……!ありがとう!私頑張るわ!」
騎士「姫様……全くお転婆なところは変わっていませんね」
姫「うるさいわ」
――――――――――――――――――――――――――
129 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:18:16.05 ID:kELIGolwo
竜人「ところで影の被害は一体どの程度なのですか?」
国王「ああ……すぐに国中の村々に安否を窺う鳥文を出したんだが、
返事が帰ってこないところがいくつかあった」
国王「兵士を派遣して調べてもらったんだけど、その村々にはだれもいなかった」
国王「だれもだ。家や畑はあるのに、その土地に住む人間の姿だけ消えていたよ」
魔王「……」
国王「恐らく、魔王と勇者があの影に出会ったとき、同時に別の場所でも影が穴から出現していたんだろう。
君が魔法を使わなかったらもっと被害は広がっていたはずだ。ありがとう」
国王「魔族たちの町はどうだった?大丈夫だったかい」
魔女「あたしたちの町と魔王城の近くには穴がなかったから、全然被害はないよ」
国王「そうか、よかったよ」
国王「敵は創世主か……なんだかあんまり実感がわかないな。
創世主が我々の国を消そうとしているなんて」
姫「ねえ、この世界の存在理由がなくなったと創世主が判断したとき……って仰ってましたよね。
それってどういうことなのかしら?」
姫「世界はただ在るだけではないの?存在する理由とはなにかしら」
戦士「それは直接創世主に訊くしかないのではないだろうか」
国王「私も創世主に会いたいなあ」
魔女「創世主も王様みたいなのの生みの親だって知ったら失神しちゃうんじゃないのー アハハ」
国王「言えてるー 度肝抜かれるだろうねアハハ」
魔王「魔女……失礼だぞ。いくら昔がアレとは言え、いまは国王なのだから」
竜人「魔王様も若干フォローし切れていませんよ」
――――――――――――――――――――――――――
130 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:20:26.56 ID:kELIGolwo
国王「まあとにかく、勇者が来るまで鍵の在り処はこちらで調査しよう!」
国王「それから彼が来たら鍵捜索は君たちに頼む!私は扉のことを調べよう」
魔王「ああ。頼む」
魔王「勇者くんが来るまで私も城下で鍵について調べようと思う」
姫「あー……それはやめておいた方がいいかもしれませんわ」
魔女「なんで?」
国王「夜が続いてることについて不満を抱いてる農民が王都に押し掛けてきているんだ」
姫「危険を避けるためだと説明しているのだけど納得しないのよ。
彼らの言い分も分かるのだけど……」
国王「どうしても城下に行くというのなら、姿を隠して行った方がいい。気をつけてね」
竜人「私はどうしても武器屋に行っておきたいので、失礼しますね」
魔女「あたしは魔王様についてこーっと」
――――――――――――――――――――――――――
131 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:25:06.97 ID:kELIGolwo
姫「……じゃあ私、武器屋の場所を案内したします。
いまは夜だから私も外套を羽織れば何も問題ないはずだわ」
竜人「武器屋の場所は分かっているので私一人で大丈夫ですよ。お気遣いどうも有難うございます」
姫「でも何かあったら危ないわ。それに私も武器を買わなきゃいけませんもの。
だから別に深い意味はなくってただのついでです。ついで」
戦士「……姫様、私も同行させて頂きますが構いませんな」
姫「ええ全然構いません。ただのついでの買い物ですもの」
姫「ただの!」
国王「じゃあ魔王と魔女には騎士がついてってあげてくれ」
騎士「は、はいっ」
国王「ほんとに結構危なげだからみんな気をつけてね」
国王「あー なんなら私も行こうか?」ガタッ
魔王「結構だ」
姫「お兄様はダメに決まってるでしょ」
魔女「だめー」
戦士「なに仰ってるんですか?」
騎士「普通にNGです」
竜人「仕事してください」
バタン
国王「はあー……あれが満場一致というものかー……」
国王「仕事するか……」
――――――――――――――――――――――――――
132 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:30:07.55 ID:kELIGolwo
* * *
わいわい がやがや
「答えろよ!この夜はいつまで続くんだよ!」
「農作物に影響が出るだろうが!こちとら生活がかかってんだよ!」
「これじゃいままで大切に育ててきた畑全部枯れちまう!わかってんのか!」
「ですから、それについては今早急に問題解決にあたって……」
「はぐらかすなよ!ちゃんと質問に答えろ!」
やいのやいの がやがや
騎士「表通りは危険なので裏通りから行きましょう。
……ていうかどこに向かうつもりなんですか?」
騎士「……ああ!あそこですか。それならこちらから行けば近いです」
魔王「よかった。かなり……農民たちは怒っているようだな」
魔女「こわいね。王都の人たちじゃない?」
騎士「はい。近くの村から直訴しにきた方々です。
太陽がないと農作物は育ちませんから、みなさん危機感を募らせているようで」
魔王「彼らのためにも早く扉と鍵を見つけねばならないな」
騎士「……まあ、農民以外でも……続く夜にいろいろ思いを抱いてる者はいるようです」
魔女「でもさー仕方ないじゃん。こうしないとみんな影に消されちゃうんだよ?」
騎士「その影に対する恐怖を、この夜と闇は助長させているみたいで……」
騎士「人は本能的に暗闇を怖がる生き物ですから。あなたたちはどうですか?」
魔女「あたしは暗い方が好きだけど。わくわくしない?」
魔王「……暗闇か……私は」
魔王「どちらかというと…………わっ」
ドン
騎士「! 大丈夫ですか?」
男「悪い!こう暗くっちゃ視界が悪くってよ…… ん?」
男「あ……あんた、魔王か!?」
魔王「え?」
魔女「魔王様フードがずれちゃってるよ!」
魔王「あっ。 違う。私は魔王ではない。人違いだ」
魔王「……魔王じゃなっ……いですよ。ほんとですよ」
魔女「あたしも魔女じゃないわ。うそじゃないわ、ほんとわ」
騎士「お、俺も騎士じゃねーぜ!これはコスプレだぜ!趣味だぜ!」
男「いや、どっからどう見ても魔王と魔女と騎士だ」
騎士(即効ばれた)
――――――――――――――――――――――――――
133 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:40:18.52 ID:kELIGolwo
男「なあっあんたが夜になるように魔法をかけたんだろ!?この国はどうなっちゃうんだ?
まさかずっとこのままなんてこたあないよな?」
男「人を消しちまう影ってなんなんだよ?ほんとに消えちまった奴がいるんだよな?なあ!」
魔王「いま我々が問題解決のために尽力している、だから……」
男「お、俺は怖いんだよ……ずっと真っ暗なままの家の中にいて、物音とかすると……
その影がどっかから俺のところに近づいて来てる気がしてよ」ガシ
男「ここは大丈夫なんだよな?わけわかんねー化けもんはここまで来ないんだよな?」
男「いつかなんとかなって、また朝が来るんだよな!?」
魔王「なんとかするから、手を……いたた」
魔女「ちょっとあんた離してよ!肝っ玉ちっちゃい男だなー。魔王様にあたんないでよね」
騎士「こらっ手を離せ!それ以上無礼を働くな」
男「待て、まだ俺は魔王に訊きたいことがっ!!」
騎士「馬鹿大声を出すなっ!これじゃ人が集まってきてしまう」
女「あっなにして――あれ?もしかして」
老婆「騒がしいね、一体なんだい」
騎士「最悪だな……これじゃ表通りにまで騒ぎを嗅ぎつけられてしまう」
騎士「………………最悪だな」
――――――――――――――――――――――――――
134 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:42:53.66 ID:kELIGolwo
そのころ
武器屋
竜人「外はひどい騒ぎになっていましたね」
戦士「なに、あれくらいの騒ぎは数カ月に一度二度あるものだ」
姫「まあこのような事態、めったにないことですから、国民たちが動揺するのも無理はありません。
そういうときこそ上に立つ者が毅然としなくては」
戦士「竜人は新しく剣を買うために?」
竜人「ええ。ずっと使っていた剣の切っ先が折れてしまって」
竜人「ドワーフにいつも剣はつくってもらっているんですけど、
いまはごたごたしていて頼む暇がなかったんです」
竜人「姫様は?武器を買うと仰ってましたが、弓ですか?」
姫「そ、そうですね……でもちょっと剣も見てみようかしら」
戦士「剣も弓もたくさんお持ちでしょうに」
姫「シッ……新しいのがほしいと思っていたの!」
――――――――――――――――――――――――――
135 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:46:57.33 ID:kELIGolwo
武器屋「いらっしゃい。ええと……?」
姫「私よ。久しぶりね」
武器屋「おおこれはこれは姫様でしたか!お久しぶりでございます。
武器を御所望でよろしいですかな?」
姫「ええ。剣と弓を見たいのだけど」
竜人(王族の姫でも武器屋に来たりするのか……)
武器屋「いいモノを仕入れましたよ。これはどうですか?スティレットです」
軽くて振りやすいし、短剣はおすすめですよ」
姫「そうね……。次は?」
武器屋「でしたらこちらはいかがです?エストック。
慣れればかなりの攻撃力になりますよ」
姫「うーん。次見てピンとこなかったら弓にするわ」
武器屋「じゃあこれはどうだ!どんなに斬るものが固くても一太刀でバッサリです!
一昨日仕入れたばっかりのレア中のレア……」
武器屋「ドラゴンスレイヤーです!!!」
竜人「オエーッ」
姫「竜人さん!?!?!?」
――――――――――――――――――――――――――
136 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/16(金) 19:49:38.99 ID:kELIGolwo
武器屋「へっ!?ああ竜人様ーー!?すみません外套で見えなかったもので!」
戦士「竜人しっかりしろー!大丈夫か!」
姫「竜人さんっ!ああっどうしよう!神官を呼んできます!!!」
戦士「姫様外套なしで外に出てはだめです!というかここにいてください!」
武器屋「あのですね、これは違うんですよ、ドラゴンってついてればなんかハクがつきそうだねっていう
そういう魂胆なので、本物の竜屠りの剣ではないのですガチで」
竜人「いやずみまぜん大丈夫でず」
戦士「全然大丈夫そうではないぞ!」
竜人「姫様……できれば……できればあの剣だけはやめてください……できれば……」
竜人「たぶん見る度吐きますので……」
姫「私弓にします!!弓にしますからっ!!弓がいいです!!!」
――――――――――――――――――――――――――
141 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 20:39:46.91 ID:rW/sMJ5uo
* * *
女「誰かと思ったら……魔王とその側近じゃないの!ちょっと、いつになったら夜は明けるわけ?」
老婆「影が来て困るってのもわかんだけどねえ、こっちも畑がなくなっちまったら生きていけないんだ」
爺「王様と騎士様には……分かんないかもしれないけどね」
騎士「……魔王さんも魔女さんも今日はもう転移魔法を使えないんでしたっけ。
ここは僕が止めますので、宮殿まで引き返してください」
魔女「うーん無理みたい。反対からも来ちゃった」
騎士「え!?」
魔女「もー、なんで悪いことしてないのに、むしろ助けようとしてるのに
こんな風に責められなくちゃいけないわけ?」
魔女「こっちだっていろいろ頑張ってんだけど?昼を夜にするのがどれだけ大変か知ってんの?
つーかあんたらできんの?」
魔女「ずっと夜にすることもなくあのワケ分かんない影を消すことができる人が
この中にいるなら前に出てきて。その人の文句だけ聞いてあげる」
魔女「それ以外はこんな風に寄ってたかって文句を言う資格なし」
魔女「帰れば?」
「な……なんだと」
「黙って聞いてれば」
魔王「魔女……あまり挑発するような真似はよせ」
魔女「だって超むかつく!きーっ」
魔王(しかたない、角が立つかもしれんがここは魔法を使うしか……)
ゴンっ!
女主人「あんたら、なにみっともない真似してんだい!?やめな!」
男「いてっ!」
女「お、女主人……」
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142 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 20:41:18.07 ID:rW/sMJ5uo
騎士「女主人さん!」
女主人「全く騒ぎを聞きつけてやってくれば、なんてザマだ。
こんなことしても何にもならないでしょうが」
女主人「ほら、散った散った!こんな暇あるならもっと違うことに使いなよ」
ざわざわ……
女主人「それとも何?みんな私のフライパンで頭叩かれたいってのか?」
女「……ま、確かにカッとなっちゃったのは謝るよ。じゃ私は帰る」
老婆「そうだねえ……しょがないことかもしれないねえ……」
カエルカー シラケタナー ザワザワ
男「……俺はまだ」ダッ
女主人「あっ こら」
魔王「!」
魔女「魔王様どいてて!あいつにあたしが一発くれてやるから!」シュッシュッ
騎士「ま、魔女さんもどいててください危ないです!僕がっ」
ドスッ!!
男「ぐあっ……!?」ズサ
騎士「へ……?」
魔女「あれ、あたし念動力に目覚めちゃったかな?」
「んなわけあるかよ」
「皆さんお久しぶりです」
魔王「ああ……二人とも、王都に来ていたのか」
魔女「神官!じゃなくて……元神官!
それにもう仮面はつけてないけど仮面くん!」
仮面「ややこしいな」
元神官「ややこしいですね」
女主人「なんだ……あんたらも来てたのかい」
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143 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 20:52:11.29 ID:rW/sMJ5uo
店
騎士「二人ともどうしてここに?」
元神官「私たちも勇者さまたちのお力になるために王都まで来ました。
世界の穴と、それからそこから出てきたよくわかんない影」
元神官「手がかりはつかめてるんでしょう?協力しますよ。
私はもう神殿の魔法は使えないのですけどね……」
魔女「わーい。ていうか仮面くんまで来てくれたのは意外だったなー」
仮面「このままだと商売あがったりだからな。お前らが万が一失敗したら困るんだよ。
なんだかんだでいつもお前らはツメが甘いからな」
魔王「ん……すまん」
元神官「魔王さん、仮面さんは素直じゃないだけなので言葉は額面通りにうけとらなくていいんですよ」
魔女「翻訳すると『俺もお前たちの力になりたくて遠路はるばる来たッス!』ってことだから」
仮面「好き勝手言うんじゃねえ!ちげえよ!」ダン
女主人「で、私の店に何の用だい?危険を冒してまで来ちゃってさ」
騎士「はあ……ほんとに危ないところでしたね。みな殺気立っちゃって……」
女主人「ああいう過激なのは王都でも一部だからね、勘違いしないでよ。
ほかの奴らはちゃんとあんたらのこと応援してるからね!」
女主人「ちゃんとしっかりこの騒動を止めとくれよ!頼んだからね」
魔王「今日はそのことで。女主人は情報通だから、鍵のことについて聞きに来たんだ」
女主人「ふふ、ちゃんと渡す情報があるよ。これ、城に帰ったらゆっくり読みな。
まああんまりドンピシャなのはないけどね」
魔王「有り難い」
女主人「忙しいだろうけど一杯くらいちょっと飲んでく?」
魔女「飲む!!」
騎士「魔女さん、そろそろ宮殿に戻りませんと」
魔女「え~~ちょっとくらいいいじゃん。ねー魔王様いいよね?ね?」
魔王「うん……」ウトウト
仮面「なんだぁ?まだ6時なのにもうおねむなのか、魔王サマは?」
元神官「疲れちゃったんじゃないですか」
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144 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 21:44:57.54 ID:rW/sMJ5uo
* * *
バタンッ
戦士「勇者!戻ったか」
元神官「勇者様」
勇者「おう。って元神官?なんでここに?」
元神官「協力しますよ。昨日王都に来たんです。
勇者様は時の神殿に行ってきたんですよね?どうでした?」
勇者「……それがな……なくなってた」
戦士「なくなってた?」
勇者「神殿の入り口はあったんだけど、中に入ると途中ですっぱり何もなくなってた」
勇者「女神に会えたらと思ってたんだが……だめだったよ」
元神官「そうですか」
戦士「なにかあったと考えるのが自然だな」
勇者「創世主に消されたのか、女神の意志なのか……うーん」
勇者「てか創世主って……今更だけど本当に?」
元神官「世界を創って以来創世主が何かしたということは伝わってません。
謎が多い……ていうかほとんど謎なんですよね」
戦士「まあ、頭だけ悩ませても仕方あるまい。行動あるのみだ」
勇者「ああ、そうだな!さっそく鍵の在り処を探しに行こう。
国王が怪しそうな場所をリストアップしてくれたんだ」
勇者「またお前らと戦えるんだな。懐かしいぜ」
元神官「ふふ、そうですね!で、どこに行けばいいんです?そのリスト見せてください」
元神官「えーーっと?まず雄竹の里と思わしき場所50か所……」
元神官「神の宮……48か所……永遠の泉……67か所……離島の浜辺81か所……」
元神官「計246か所………………」
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145 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 21:46:31.41 ID:rW/sMJ5uo
元神官「一応聞いときますが……ふざけてます?勇者様」
勇者「なんで俺だよ。ふざけてないよ」
元神官「こんなのひとつひとつ回って行ったらどれだけ時間かかると思ってるんですかーっ!」
戦士「ま、まあ待て!騎士団の奴らも何人か協力させて……
勇者に俺に神官、魔王に竜人に魔女、姫様に騎士に仮面、妖使いと忍には
それぞれ二人一か所行ってもらうとして」
勇者「うまくすれば一週間で終わる!」
元神官「ええええーー!?うまくすればって完全に希望的観測じゃないですか!
大体移動と探索の時間も結構かかるし、もっと時間がかかっちゃいますよ!」
勇者「でも仕方ないだろ!神様に言ってくれよ!お前神官だろ!?」
元神官「元ですよ!」
元神官「あんまり時間がかかってしまうと魔王さんが大変なんじゃないですか……?」
勇者「……だから急いで探そう!みんなで探せば必ず見つかるはずだ!」
戦士「やるしかないな!」
元神官「……こうなったら最速で鍵を見つけ出してやりましょう。
創世主の鼻を明かしてギャフンと言わせて土下座させてやりましょう!!」
勇者「ああその意気だ!ついでにぶん殴ろう!」
戦士「熱しやすいところ全く変わってないなお前ら!ほんとしょうもないな!」
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146 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 21:47:23.48 ID:rW/sMJ5uo
* * *
星の国
姫「ここもだめ……でしたね。
もう20か所以上まわったのに、いまだにそれらしいものひとつ見当たりませんわ」
魔女「あたしたちの担当はあと25か所かー。多いなあ」
魔女「まっ さっさと終わらせちゃお。その25このうちどっかにあるでしょ」
魔女「ほら早く箒に乗っちゃってー」
姫「あ……ええ。……うう……まだちょっと空を飛ぶのは慣れないわ」
魔女「そのうち慣れるよ」
ビュン
姫「~~~~~~~~~……!!」
魔女「ひゃっほー!」
* * *
バッサバッサバッサ
騎士「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーっっ」
騎士「ちょっど竜人ざんごれ速過ぎじゃないでずがーーーーーーーっ」
竜「いやでも、急ぎませんと。まだ鍵を見つけられていないのですから」
騎士「死ぬーーーーーっ」
竜「次はあそこの離島ではありませんか?下降しますよ」ビュン
騎士「あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」
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147 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 21:49:35.78 ID:rW/sMJ5uo
* * *
太陽の国
魔王「……だめだな。ない」
仮面「ここの泉もだめか。くそ」
魔王「あと15か所……か」
仮面「つーか……鍵って、そのまま鍵の形状なのかよ?」
魔王「どういう意味だ?」
仮面「一見鍵っぽくないような形してるってこともあるんじゃねーのかってことだ」
魔王「……」
魔王「そうだな……うむ。一理ある。鋭いぞ仮面。もう仮面つけてないけど仮面」
魔王「そういえばもう仮面はつけないのか。あれはあれでかなり目立っていたが」
仮面「へっ お前にゃ関係ねーよ。俺の勝手だろ」
魔王「素顔のままの方が話しやすいな。もう隠さない方が私もよいと思うぞ」
仮面「だから関係ねーっつってんだろ!俺の面のこたあどうでもいいんだよ。
さっさと次に行くぞ」
仮面「大体なんで俺が魔王サマといっしょなんだよ……あいつと行きゃあいいだろーが。
我ながらこの組合せはないと思うぜ」
魔王「あいつ?」
仮面「勇者だよ」
魔王「この組み合わせは個々の戦力のみを考慮したものだが……
なんだ、君は勇者くんと行きたかったのか?ならそう言ってくれればよかったものを」
仮面「ちっげーよふざけんな」
仮面「おい、なにしてんだ行くぞ」
魔王「……ああ」
魔王「……しかしきれいな泉だな。この村の名前は……なんだったっけ」
仮面「あー?確か……泉の村だ。そのまんまだな」
魔王「……泉の村…………か」
魔王「きれいだな」
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148 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 21:52:05.95 ID:rW/sMJ5uo
* * *
元神官「はっ!!戦士さんこれは!?この柱の紋様、ちょっと鍵っぽく見えませんか!?」
戦士「む……確かに。しかしこれはどうやって持ちだせばいいのだ?」
元神官「戦士さん……その大剣で柱ごとバキッとやっちゃってくれません?」
戦士「無茶言うな!」
* * *
雪の国
ビュオオオオオオ……
妖使い「なにこれさっむ!さっむ!信じられない本当にこの世か!?
鍵探しどころじゃねーよこれ!」
忍「若……私はもうここで凍え死にまする……」
妖使い「そっか。じゃあまたいつか」
忍「ちょっとーっ若あんまりですよーっ!!見捨てないでくださいー!」
* * *
勇者「……寒い……」
勇者「……」
勇者「なんで俺だけ一人……」
勇者「くそっ別にいいけどね!いいけどね別にっ!こういう扱い慣れてるし俺!!」
勇者「全然寒くねーし!身も心も寒くねーし!」
勇者「えー次はここから西に行ったとこにある廃墟だな!それ終わったらあと8か所!
もうちょっとだ、頑張れ俺!絶対鍵を見つけてやるぜちくしょー!」
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149 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/05/21(水) 21:54:14.94 ID:rW/sMJ5uo
* * *
食事処
仮面「今日もだめだったな……チッ」
仮面「無駄足か」
魔王「明日こそ見つかるはずだ。それに、私たち以外の誰かが見つけているのかもしれないし」
仮面「古文書を解読したのはお前だろ?お前が読み間違ったってことはねーのか?」
魔王「それはない。失礼だな」モグモグ
仮面「……よく夕飯にパンケーキなんて食えるな……」
魔王「竜人には言っちゃだめだぞ。うるさいから」
仮面「はいはい」
魔王「……みんなどうしてるだろうか……そういえば君の子分の……双子の彼らはどうしてるんだ?」
魔王「……ふわ……」
仮面「あいつらはまあいつも通り元気だ。いまは店をまかしてる。
それよりお前、もう眠いのか?まだ5時だぜ。いつもこんな早くに寝てんのか」
魔王「……いや眠くはない」
魔王「……」
仮面「うそつけよ。まだまだガキだな」
仮面「あ、おーい。これもう一杯くれ、同じやつな」
店員「はーい」
仮面「あー、で何の話だっけ。……うおおおおっ!?」
魔王「ぐー……」
仮面「なにやってんだてめえ!食事中に寝る馬鹿がいるか!!
あーあー顔が蜂蜜で大変なことになってんぞ」
仮面「おいっ!起きろガキ!! だれかタオル持ってきてくれー!」
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