――――――――――――――――――――――――――
554 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:41:12.78 ID:/+CRjLUpo
* * *
パン! パンッ チュイン チュィン
少年「っ!」
魔王「大丈夫か!?」
少年「う、うん……ちょっとかすっただけだ」
勇者「……!次の車両は扉が開きっぱなしだ。人がいない!
魔王と少年はこっから降りて先に進め。で、どっか隠れてろ」
勇者「俺があいつらをここでやる……!」
少年「さすがに無茶だよ!そんな丸腰で……あいつら銃で殺しにきてるんだぞ!?」
少年「あんたも逃げなきゃ……!!」
勇者「丸腰じゃない、これがある」
少年「それただの鉄パイプじゃんか!チンピラ相手の喧嘩じゃねーんだぞ!」
魔王「勇者くん……」
勇者「少年を頼むぞ。よし、行け。こっちはまかせろ!」
魔王「……ああ。……分かった!」
――――――――――――――――――――――――――
555 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:41:50.11 ID:/+CRjLUpo
スタッ
魔王「行くぞ。この車両には誰もいないようだ」
少年「本当にいいのかよ?あいつ死んじゃうぞ」
魔王「私たちがいても足手まといだ」
魔王「……っでも、魔力さえ戻れば……」
魔王「少年。君が信じてくれればまた魔法を使えるような気がするのだ」
少年「おいっ、いま電波ってる場合じゃないって!」
魔王「嘘を言っているわけではない。私は本当に魔法が使えるんだ。
昔 妹のために、君はノートに勇者と魔王の話を書いただろう」
魔王「君が……また、信じてくれれば、私は魔法を使えるようになる……」
少年「は、はぁぁ?……妹のこと……なんで知ってるんだよ」
魔王「知ってる。夢で見たんだ。君たちは本当によく似ている」
少年「…………やめてくれよ」
魔王「え?」
少年「あいつはもう死んじゃったんだ。……思い出すと苦しい。だから、思い出さないようにしてる」
少年「考えなければ辛くないんだ、だから……忘れ……たい」
魔王「……」
少年「あんたもさっ、いい歳なんだからもう魔法だとかそういうの卒業した方がいいと思うよ。
そういう便利な装置は、この世には存在しないんだ。今時赤ん坊だって信じてないよ」
少年「この世にはどうにもならないことしかないんだ。
受け入れるか、忘れるか、僕たちにできるのはそれだけなんだ」
魔王「だから君は忘れるのか?」
少年「……そうだ」
魔王(……どうしたら少年に信じてもらえるだろうか。何か証拠を示せればいいのだが)
魔王(困ったな)
――――――――――――――――――――――――――
556 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:42:48.87 ID:/+CRjLUpo
* * *
警官「そうだ!!よし、このままもっと近づけろ!!おーし、いいぞぉ!」
後輩「俺のハンドルさばき、なめないでほしいっすね」ギャリッ
警官「ん?」グラ
警官「ギェェエっ!!? お前っ殺す気か!!俺が窓から身を乗り出してるときに蛇行運転すんなボケ!」
後輩「先輩なら大丈夫だろうっていう信頼の表れです」
警官「物はいいようだなぁ?帰ったら覚えとけよ」
警官「じゃあ、俺は列車に乗り移る。こいつらは後輩、お前が責任もって署に送りとどけろよ。
こっちのことは心配すんな、なんとかする」
後輩「了解」
騎士「えっ!?ちょっと僕たちも連れてってくださいよ!」
警官「ばかやろー!できるわけねーだろ!おとなしくしとけよ」ガチャ
騎士「んなっ!この手枷外してください!勇者さんと魔王さんが大変なんですって!」
警官「よいしょっと……!!」ヒョイ
警官「……ふう。なんとか、乗り移れたな」
警官「待ってろよ……何年もずっと追いかけまわした。でも、今日でそれも終わりだ」
警官「今日で全部、終わらせる……!」
――――――――――――――――――――――――――
557 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:49:38.98 ID:/+CRjLUpo
後輩「よし、先輩も無事列車に乗れたことだし、街に戻るから」
騎士「いや、ですから僕たちもあれに乗らなきゃいけないんですって!!お願いします!」
後輩「知り合いがあれに乗ってるんだっけ?殺人犯は先輩が捕まえてくれるから大丈夫だ。
かなりうだつのあがらない昔気質のがんこじじい、ステレオタイプの元刑事だけど、」
後輩「ああ見えてベテランなんだ。大丈夫大丈夫。
というわけで君たちは署に送るよ。こっちも仕事だから勘弁してくれ」
騎士「こちとら世界の命運かかってんですよ!?あなたの仕事より大事です!」
騎士「ちょっと、竜人さんも何とか言ってください、このままじゃ……」
竜人「あまり手荒な方法はとりたくなかったんですけどね。仕方ありませんね」
騎士「へ?手荒?」
スッ
後輩「……!? ちょっなにして」
竜人「よっと……」ゴキッ
後輩「かひゅっ」
竜人「騎士さん、この方を後ろに!私がこのクルマとやらを操りますので」
騎士「なにしてんすか!?!?」
竜人「大丈夫です。死んではいません。ちょっと首に刺激を与えただけです」
騎士「ちょっとってアンタ……刺激ってアンタ……この人泡吹いてますけど……」
竜人「世界の命運がかかってるんです!やむを得ません!あとで謝ります!
えーっと確かさっきここをこう引いてたような……で、この操縦桿で方向指定ですね」
ブォォォォォォン
竜人「列車に近づいて、二人同時に飛び移りましょう」
騎士「いや、僕もあなたも手枷で座席に繋がれてしまっているので無理ですって!
……あれ?竜人さん、手枷は?いつの間に?」
竜人「騎士さんは手首の関節とか外せないんですか?」
騎士「そんなできて当たり前みたいな顔して言わないでください……!できませんよ!?」
騎士「あ、でもこの人、確か武器みたいなの持ってましたね。それで破壊してみます」
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558 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:53:11.28 ID:/+CRjLUpo
竜人「…………」
騎士「よしっ、外れた」ガチャン
騎士「……竜人さん、会ってすぐ勇者さんに斬りかかったりしないでくださいね。
敵味方関係なしの大乱闘はじまっちゃいますんで」
竜人「そんなことしませんよ」
騎士(どうかなぁ……)
竜人「あのときはカッとなってしまっただけです。どうも私は気性が荒くてすぐ頭に血が上ってしまいますね。
竜族由縁のものかと思ってましたが、違ったみたいです」
騎士「竜族みんな、そんなだったら畏怖の念を隠せません」
竜人「それに本当はちゃんと分かってるつもりなんですけどね。
魔王様と勇者様のことは私が口を出すべき事柄ではないと……」
竜人「ですが騎士さんは娘か妹いらっしゃいます?私の気持ち分かりますかね?
魔王様が本当に小さい頃から私はずっとお守りさせて頂いてたのですよ」
竜人「さいしょは全然喋らない子でしてね、目も合わせずきょときょとしてて、
でも夜中に起きてトイレに立ったりすると魔王様もいつの間にか起きててついてくるんですよ」
騎士「は、はあ」
竜人「果物のケーキを作ったときはじめて笑ってくれてそれから料理勉強して、匂いが嫌いって言われたんで断腸の思いでタバコもやめました。大物の賞金首をしとめた時にその金でぬいぐるみ買い与えたらずっとそれ抱えて歩きまわってすごいかわいかったんですよ寝る時もずっとそれ抱いててご飯も食べさせようとしてて。ぬいぐるみだからっ!!!ごはん食べないのに!!!!子どもってなんでそういうことするんですかね?天使かよ?」
竜人「うわああああぁぁあーーーーーーーーーーーーーーーーーっくっそやっぱ許せねえッ!!!」
竜人「蝶よ花よと育ててきた大事な娘をあんな若造にぃぃぃぃぃッ!!誰の許しを得て腰に手ェ回してんだあの野郎ッッ!!!!」
騎士「竜人さん!数秒前の自分の台詞ちょっと見直してみよう!」
竜人「そもそも……魔王様にはまだそういうの早いと思うんですけどどうなんですか……っ……ううっ……」
竜人「どうなんですか騎士さん!!!!!!」
騎士「いや知りませんよ」
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559 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:58:07.20 ID:/+CRjLUpo
* * *
15号車 屋根上
バンバン ガンッ
勇者「うっ!」
黒服「ふん……ここまで躱す奴なかなかいないぜ」
勇者(まるで攻撃が目に見えない……空気に斬られてるみたいだ。弓の何倍の速さだよ)
勇者(いや!集中すれば絶対見えるはずだ。目も慣れてきたはずだし)
勇者(しかしやっぱ障害物がない場での飛び道具多数相手はきついな)
黒服「抵抗は仕舞いか?なら、天国に送ってやる」バンッ
勇者「く……」
パッ
勇者「!?」
勇者「なに!? 避けたはず……」
黒服「これは散弾銃っていうんだ。弾が散らばるんだよ。
お前みたいにすばしっこく動き回る標的をやるのに有効だ」
勇者「うう」グラッ
勇者「……っ」
黒服「落ちたか?」
黒服'「…………だな」
黒服「……いや違う、まだだ!」
バリーン
黒服「窓から列車内部に入った。しぶとい奴だな……追うぞ。今度こそ仕留める」
――――――――――――――――――――――――――
560 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:59:33.99 ID:/+CRjLUpo
* * *
15号車(食堂車)
勇者「……ここはなんだ……?レストラン?」
勇者「ほかのところと違うな」
勇者「しめた。十分な広さがある上テーブルや椅子とか障害物が利用し放題だ」
勇者「ここであいつらを一人一人仕留める。ばらけさせりゃこっちの勝ちだ」
ポタポタ
勇者「……幸い内臓はそんなに傷ついてないみたいだが……あんまり時間はかけられないな」
勇者「はあ……情けないなぁ。ばしっと無傷であいつらの元に行きたかったんだが」
勇者「これ以上かっこ悪い姿見せるわけにはいかないな」ガシッ
バターン!
黒服「往生際が悪いぜ。さっさと…… ん?ここは食堂車か」
黒服「ふっ、テーブルにでも隠れるつもりか?そんなことをしても無駄だ。
お前は一人、こっちは十数人。四方から囲めば……」
勇者「うおらああああああああ!」ブンッ
黒服「意味がな…………あ!?」
ズガンッ
勇者(まず1人やれたな……さらに2人巻き添えだ)サッ
勇者(もう不意打ちは通用しないかもしれないがここはゴリ押しでいくしかない……)
黒服(テーブル投げやがった……野生のゴリラかアイツは)ゴクリ
黒服'(俺たちはいつからゴリラ討伐隊になったんだ……)
黒服「…………ええい怯むな!あれは限りなくゴリラに近いが、かろうじて人間だ!やるぞ!!」
黒服'「……っああ!!ゴリラだろうがなんだろうがやってやる!!」
勇者「誰がゴリラだ!?」
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561 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:00:29.18 ID:/+CRjLUpo
* * *
8号車 扉前
少年「次が8号車か……でも、いまんとこ強盗団と遭遇してないけど
ここから先に行ったら絶対かち合うと思うよ。どうする?」
ガラッ
少年「だってこの先多分客室だしさ……。……かと行って後ろにも下がれないし、一体どうしたら」
少年「あの黒服の奴らと強盗団だったらどっちを避けるべきだろう」
魔王「……」
少年「?」
魔王「……少年。後ろだ」
魔王「どうやらその二択を迫られずに済みそうだ」
少年「うしろ……」
少年「あ」
強盗団「まだ全員乗客を捕えてなかったのか……今までどこにいたんだ?」
強盗団「まあいい。来い」
少年「……選択肢なんてなかったみたいだね……」
魔王「……!」
魔王「あ、あれは?」
少年「剣?本物?」
強盗団「へっへ、すげーだろ?都市の博物館に送られるはずだった代物だ」
強盗団「ごってごての装飾だが、本物なんだぜ?ちゃんと斬れるんだ」
魔王「……」
魔王「ああ……ぜひ欲しい」
強盗団「おい?」
チャキッ
――――――――――――――――――――――――――
562 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:01:59.16 ID:/+CRjLUpo
少年「なっ……えっ……? な、なにしてんだよ?」
魔王「この剣は私が頂く」
強盗団「……お前さん何者だ?本当に乗客か?ただならぬ気迫を感じるぜ」
魔王「私も実は強盗なのだ。この子どもは本当に乗客だがな。今まで人質として連れまわしていただけだ」
少年「???」
強盗団「まさか同じ列車に別の強盗が乗り合わせるとはね。おもしろい。
だがそうやすやすとお宝を渡すと思ってんのか?」チャキ
魔王「思っていない。元より力づくで奪うつもりだった」
魔王「ゆくぞ」タッ
ガッ!!
魔王「あっ? 切っ先が床に引っかかっ……」
ビッターン!!
魔王「……」
少年「……」
強盗団「……」
魔王「……」
強盗団「……おい……?」
魔王「……」
少年「……気絶してる……」
強盗団「俺なんにもしてないんだけど……」
――――――――――――――――――――――――――
563 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:04:33.16 ID:/+CRjLUpo
強盗団「おいおいなんだってんだ、大丈夫か?
とりあえずここに倒れたまんまじゃ邪魔だ、どっかに運ばねえと……」
魔王「……ハッ……私は一体?」パッ
ゴツン!
強盗団「ガッ」
魔王「うっ」
強盗団「ぐへ……」バタン
魔王「痛いっ!なんだ!?」
少年「かくかくしかじか」
強盗団「……」
魔王「なるほど……人は無意識化のうちにこそ潜在能力を発揮できると聞いたことがあるが、
まさに今それを私が体現してみせたということだな」
少年「いや、ただの運」
魔王「何でもよい。とにかく剣を手に入れた。私はこれを勇者くんのところに届けるぞ」
少年「じゃあ、僕も行くよ」
魔王「いいや、君はこの先の車両に進んで、乗客として強盗団に捕えられた方が安全だ」
少年「はっ!?」
魔王「先の対応を見ただろう。強盗団はこちらが大人しくしていれば危害を加えない。
あの黒服の連中をなんとかしたら必ず迎えに行くから、先に行っていてくれ」
魔王「では私は引き返す」
少年「えっおい、ちょっと……」
少年「……」
少年「……行っちゃった」
――――――――――――――――――――――――――
564 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:05:32.93 ID:/+CRjLUpo
10号車 娯楽室
魔王(早くこの剣を勇者くんに……)
魔王(早く……)ピタ
魔王(? 誰かいる?)
ビシャッ!!
魔王「……!?」
「ガッ……あ」
女「邪魔しないで」
「……ぁ……」ドチャッ
女「……」スタスタ
魔王(な……なんでここに……)
魔王(こっちにくる)
魔王(……で、でもまだ気付かれていない。ここに隠れていれば……)
魔王(……っ)
女「……」スタスタ
魔王(………………行った……)
魔王(…………っはぁ……)
女「……」スタスタ
女「……」
女「見つけた」
魔王「!?」
――――――――――――――――――――――――――
565 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:09:26.70 ID:/+CRjLUpo
車掌室
B「はぁ~ まだ開かないやぁ」
強盗団「まだやってるわけ?」
A「だってよぉ、解錠のプロと名高い俺たちが
そうやすやすとこんなおもちゃの箱ごときに敗北を認めると思うか?」
A「絶対意地でも開けてやんよ」
A「それに、車掌室って眺めはいいけど暇なんだよなぁ。
車掌数人見張ってればいいだけだし」
車掌(く……!強盗団に列車を占拠されるなんて……
せめてこの列車の緊急事態を都市に伝えねば……)
車掌(そうだ、あの緊急連絡ボタンを、こいつらを騙して押させれば……!!)
B「確かに暇だよね。ねえ車掌さん、何かおもしろいこと起きるボタンないの?」
車掌「そ、そこの赤いボタンを押してみろ。すごくおもしろいことが起きる」
B「まじで?やった押すね」
車掌(こ、こいつら思った以上のアホ!!すんなり押してくれた!! ってあれ?)
車掌「ち、ちちちちがーう!!そっちの赤いボタンじゃない!!こっちだ!!」
B「へ?」
車掌「そのボタンは……!!」
――――――――――――――――――――――――――
566 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:10:14.68 ID:/+CRjLUpo
* * *
強盗団『ていうわけであのバカが、車両と車両を切り離す制御スイッチを押しました』
強盗団『あとは各車両にあるレバーを引けば、どこからでも車両を分断できます』
頭領「おう分かった。いま後ろの車両を担当してた奴ら運んでるから、
それが済んだら黒服の奴らとさよならするために使う」
頭領「じゃあな」ピッ
頭領「……しっかし……なんなんだあいつら」
頭領「まあ奴らが食堂車で大乱闘を繰り広げてるおかげで、俺はどちらにも気づかれずに仲間を運べてるわけだが」
頭領「どっちも厄介だな。さっさといなくなってほしいぜ」
――――――――――――――――――――――――――
567 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:11:15.77 ID:/+CRjLUpo
* * *
警官「ふう!なんとか列車に乗り移れたが、一体全体どうなってやがんだこりゃあ」
警官「マフィア同士の抗争か?一応都市に連絡はいれたが……」
警官「とにかくこっちは後回しだ、早く連続殺人犯を追わねえと!!」
警官(何体か、銃ではなくナイフで斬り殺された遺体があった……)
警官(マフィアどもは全員銃で戦ってる。恐らくこれはあの女の仕業だ)
警官(待ってろよな……!!)
15号車
勇者「はぁ……はあ……」
黒服「がはっ…… くくく……」
黒服「俺で最後だとでも思ったか……?」
勇者「ああん!?」
黒服「こんなこともあろうかと……あらかじめ第二軍を手配しておいたのさ……」
黒服「今頃列車に乗り込んでいることだろう……」
勇者「しちめんどくせーことを……」
ガタッ!
勇者「! もう来たのか、早いな……ってあれ!? あんたは確か」
警官「お前!!誘拐罪、銃刀法違反、下着泥棒、恐喝、資金横領、猥褻物陳列罪など余罪多数もろもろのクソガキ!!」
勇者「なんか俺の罪状とんでもないことになってる!」
警官「大人しくお縄についてもらうぜ……と言いたいところだが、俺が今負ってるのはお前じゃねえ」
警官「……腹怪我してんのか。おら、この応急手当セットを使え」
勇者「えっ!? なんだ、おっさんけっこういい人だな。ありがとう」
警官「警察は、犯罪者を殺すためにいるんじゃない」
警官「……普通はな」
――――――――――――――――――――――――――
568 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:12:48.37 ID:/+CRjLUpo
勇者「ん……?」
勇者「まあいいや、とにかく傷の手当てができるのは助かった。黒服第二軍を片したら俺もあいつら……」
ガチャ
勇者「え……?」
警官「勘違いすんな、見逃すわけじゃねえ。お前はここにいろ。また逃げんなよ」
勇者「おいっ!? ふ、ふざけんな!!!この手枷外せ!!」
警官「ま、逃げようと思っても流石に俺特製超合金手錠は壊せまい。
ゾウが踏んでも壊れない丈夫な手錠だ」
警官「なーに入口の柱と右手をつないだだけだ、暴れんな」
警官「じゃあな、あばよ!!また会おうぜ下着泥棒!!」
勇者「なんで数多ある罪状からソレ選んだんだよ、盗んでねーよ!」
勇者「待て……待て行くなこれ外せ!!!第二軍がこれから来るんだぞ!!」
勇者「おーーーーーーーーーーい!!!」
――――――――――――――――――――――――――
569 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:14:31.37 ID:/+CRjLUpo
* * *
7号車
ガタンガタン……ゴトン
「いやだわ、列車強盗だなんて……どうしましょう」
「騒げば金品だけじゃなく命も盗られるぞ……」
「全くついてない……」
少年「……」
少年(あれから……あいつの言う通り乗客のフリをして強盗団のところに来たけど)
少年(……金持ちばっかで落ち着かない)
少年(あいつら……大丈夫かな……)
少年(ていうか本当にこのまま、都市についたら大企業に乗り込んで直談判?)
少年(なんか、現実感がないや。いま僕がこうして列車に乗ってることも)
少年(これが……街の外)
少年(砂漠しかないけど、すごく広い。あれが地平線ってやつなんだ)
少年(静かで、恐ろしいけど、その先に何があるのか気になる)
少年(……こんな広い世界があるってこと、あいつにも見せてやりたかった)
「お兄ちゃん、街の外ってなんにもないんだね」
「でもすごいね……これから、いろんなところいきたいね」
「ね、お兄ち
少年(……)
少年(考えるのやめよう)
少年(全部忘れよう。もう戻ってこない)
少年(忘れちゃえばいいんだ……こんなに苦しいんだから……!)
少年(最初から持ってなかったと思えれば、どんなに楽だろう……)
――――――――――――――――――――――――――
570 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:20:13.78 ID:/+CRjLUpo
* * *
女「私は全部忘れちゃったんだ。もう戻ってこないの」
ズダンッ!!
魔王「うっ、うぐ……は、離せ」
女「私、どうすればいいと思う?」
魔王「そんなこと私が知るかっ」
女「あなたはほかの人とちがった反応してたから……もしかしたら教えてくれるかもって思って」
女「なくなっちゃった感情を取り戻すためには何をしたらいいの」
魔王「……知らん!どけ!私は急いでいるんだ、お前に付き合っている暇はない」
女「…………だめ」
女「教えてよ」
女「教えてくれなきゃ殺しちゃうよ」
女「もう覚えてないんだけど、悲しいことがあったんだ」
女「体と同じように心も病気になるじゃない?
冷蔵庫も知らなかったあなたはもしかしたら知らないかな」
女「でも心の病気も薬を飲めばすぐ治っちゃう時代になりつつあるんだよ。
薬一錠飲むだけで、どんなに悲しくても怒ってても、一瞬で笑えるようになるんだ」
女「まだ市販はされてないんだけどね……私の実家、裕福だったから、特別に売ってもらえたわけ」
魔王「……」
女「確かにすごかったよ。死にたいくらい悲しかったのに、次の瞬間びっくりするくらい幸福感に包まれた。
ドラッグかと思っちゃうくらいのね。それで私は悲しいのをなかったことにした……」
女「だけど薬があわなかったのかな。
だんだん悲しみだけじゃなくてほかの感情もなくなっていったの」
女「いまではもうほとんど何も感じない。どうすればいいのか教えてほしい」
魔王「だから私は……」
女「ねえ。あなた人間じゃないでしょう」
――――――――――――――――――――――――――
571 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:21:36.79 ID:/+CRjLUpo
魔王「……!?」
女「あなたを殺そうとしたあのとき、変なこと言ってたじゃない。魔族じゃないとかどうのって」
女「常識がなさすぎるし……いくらなんでも、変」
魔王「…………そうだ。私は人間ではない」
女「じゃあ、なんなの。もしあなたが魔法が使えるのなら、私を元に戻してほしい」
魔王「……今は魔法が使えない。それに、使えたとしても、魔法でできることは限られている。
感情をなくしたり、取り戻したりするような繊細な魔法は……私には分からない」
女「…………」
女「……」チャキ
女「じゃ、あともうひとつ。あのとき、殺されそうになっていたのに、どうして笑ったの」
魔王「ああ……。あれは」
魔王「人間だろうが悪魔だろうが神だろうが、生きていればなんだっていいと……言っただろう」
魔王「その言葉に思わず笑ってしまっただけだ」
魔王「そうだな……案外そういうことなのかもしれん。生きてればなんだっていいのかもしれないな」
魔王「……」
魔王「そう考えたら、ずっと今まで小さいことにこだわってた気がして……
小さいからといって有耶無耶にするわけにはいかないけど、でも、胸が空いた気分だった」
女「…………そっか。よかったね」
女「私の期待してた答えと違った……けど」
女「……人間じゃないあなたを殺せば、また何か新しい感情が見つかるかな」
女「そっちに賭ける……よ」スッ
魔王「!! このっ……離せ!!」バッ
ドサッ
――――――――――――――――――――――――――
572 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 23:22:05.34 ID:/+CRjLUpo
魔王「はぁ、はあ……やめろ。私を殺してもお前に感情が宿ることはない!」
女「そんなのやってみなければ分からないじゃない」
魔王「…………っ」チャキ
魔王「ふざけやがって!!!」
魔王「お前にそうやすやすとやれるほど私の命は安くないっ!!!」
女「銃なんて……使えるの?」
女「どうせ無駄な抵抗なんだから、最初からしなければいいのに」
魔王「例え勝ち目のない相手だとしても、立ち向かわなければならない時がある」
魔王「……今がそのときだ」
ダァン!!
女「全然、あたってない」
魔王「次はあてる……!」
魔王(弾の数は、あと5発……あと5回で仕留めないと)
魔王(どこか一発でも体のどこかに掠ってくれれば)
女「……」
――――――――――――――――――――――――――
579 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/06(土) 23:55:37.62 ID:Wxbn4SEHo
バァン!
ダンッ
女「……」ヒュッ
魔王「くっ!」
グッ
女「じゃ、はじめようか」ヒュ
魔王「は――離せっ」
魔王「うわあ!」サッ
ハラ……
魔王(……か、髪……)
魔王(……でもこの至近距離ならっ)チャキ
女「邪魔」
魔王「!」
バンッ
女「外しちゃったね」バシッ
魔王「……っあ」
魔王(銃……!)
女「あなたを殺せば、絶対何か分かる……。
絶対取り戻せる……!」
女「死んで」
ヒュッ!
魔王「……っ」
魔王(剣…………勇者くんに……っ)
魔王(渡さないといけないのに…………)
――――――――――――――――――――――――――
580 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/06(土) 23:57:10.22 ID:Wxbn4SEHo
* * *
15号車
ガチャガチャガチャガチャ
勇者「くっそ!! こんなもん……!!」
勇者「早くこれなんとかしねーと……!!あいつらが来る前に」
バタンッ
黒服「! 確かアイツだ。オイいたぞ、こっちだ!!」
黒服「なんで手錠で繋がれてんだ」
勇者「ぎええええええええええええええ」
勇者「うおおおおおおおおおお」ガチャガチャ
頭領「……ふう、お前で最後だな」
強盗団「へい。すまねえリーダー」
頭領「気にすんな。……ん?また黒服の連中増えてやがる」
勇者「……! おい、そこのあんた!頼む……銃でこれ壊しちゃくれねーか!」
頭領「あぁん?」
頭領「……」
ヒョイッ
勇者「待っ……」
頭領「今のこの列車はよぉ……各車両についてるこのボタンひとつで車両を切り離せるんだわ。
俺の部下が馬鹿やったせいでな」
頭領「で、あの黒服の奴らが狙ってるのは明らかにてめぇだ。
俺が次にどうするか、お前にも分かるよな?」
勇者「……おいおい……うそだろちょっと待て」
頭領「お前らのごたごたに巻き込まれて、こっちの計画が狂うのはごめんだね」
頭領「あばよ」
ポチッ
――――――――――――――――――――――――――
581 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/06(土) 23:58:45.12 ID:Wxbn4SEHo
* * *
7号車
夫人「……」チラチラ
男「……ふぅむ」
少年「……」
少年(気まずい)
夫人「……あなた、親御さんは? 見たところ、貧困区の子よね。どうして列車に乗っているのかしら?」
少年「……。貧困区の連中が列車乗ってたら悪いのかよ?」
少年「(正規の手段で乗ったとは言い難いけど)ちゃんと金も払った。あんたにとやかく言われる筋合いない」
夫人「な……私は心配をして……」
男「放っておきなさい。貧困区の子どもに礼儀がそなわってるわけないだろう。
全く親は何やっているのやら……」
少年「……ッ」ブルブル
男「むしろ……あいつら、強盗団の仲間なんじゃないのか?強盗の手引き以外に、この列車に乗る理由もないだろう」
少年「勝手に…………決めつけんなよ!!」ガッ
男「な、なにをする」
少年「金持ちってのがそんなに偉いのかよ?金ないのが……そんなに見下されることなのかよ」
少年「僕は……僕はずっとそんな風に……これから一人で生きてかなきゃいけないのかよっ」
男「はあ?」
少年「……列車に乗る理由、あるよ。都市にいるクソムカつく会社の社長に会いに行くんだよ!!悪いか!?
強盗団なんかといっしょにするんじゃねー!!」
男「くっ……うるさい、離せ」ブン
――――――――――――――――――――――――――
582 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 00:03:32.70 ID:hezoarQQo
強盗団「……なーんかあっち騒がしくねーか」
魔女「んー」
強盗団「俺こっち見てるから、魔女と姫で様子見に行っちゃくれねーか」
魔女「オッケー」スタスタ
姫「えっ……私も……ですか?」
魔女「……」
魔女「こわいの?」クス
姫「!」
魔女「あんだけかっこつけて入団したくせに、こわいんだー」
姫「なっ……怖くないわ!!私が一体何を恐がるというの!!私も行きます!」スタスタ
強盗団「やれやれ……」
スタスタ
姫「…………っ魔女さんって!」
魔女「何よ」
姫「……魔女さんも本当は竜人さんのことが好きなんじゃないんですか!?」
魔女「はぁぁぁ? ゲロゲロ、やめてよ。冗談じゃないんですけど」
姫「だって魔女さんはずっと昔から竜人さんといっしょにいたわけですし……っ
仲も……いいしっ!」
姫「だから、私に意地悪なことばっかり言うんじゃありませんの!?」
魔女「……!」チャキ
姫「なっ……!? ななな何を…… ハッ、私に銃を向けたということは図星?」
姫「や、やっぱり魔女さんも彼のことが……!?? う……うそ!どどどどうしましょう……」
魔女「……」
姫「~~~な、何よ、撃てるものなら撃ってみなさいよっ……脅しなんて私に通用すっ」
バンッ!!
姫「!!」
―――グラッ……
魔女「……あのさ」
――――――――――――――――――――――――――
583 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 00:06:14.12 ID:hezoarQQo
夫人「きゃっ!! 銃声!?」
少年「まさか……あいつらっ!?」バタン
黒服「!! いたぞ、あのガキだ!」
黒服「おい。大丈夫か?」
黒服「くそぉ、手やられた……! あのアマァ……!!」
姫「え……?」クルッ
魔女「マジで気分悪くなるから、そういうこと言うのやめてくんない?姫様」
魔女「あたし、あんたみたいに趣味悪くないもーん」
姫「趣味悪い……!?」カチン
姫「訂正して頂きたいですわね。私のどこが趣味悪いと言うの」
魔女「ほんとのこと言っただけじゃん。男なんて山ほどいるのにわざわざあいつ選ぶなんて正気の沙汰じゃないね」
姫「ですから……何故そういう言い方をするの!?棘があるのよ、あなたの発言には!!」
魔女「そう聞こえるように言ってるんだから当たり前でしょ?」
姫「なんですってぇ……!?」
魔女「なによ……!?」
黒服「てめえら覚悟しろよ、今すぐ蜂の巣にしてやるっ!」チャキ
魔女・姫「邪魔しないでよ!!!」ダンッ!!
黒服「!?」
コノヤロー! ヤリヤガッタ! イクゾ ヤロードモ!
姫「…………一時休戦」チャキ
魔女「賛成」ジャキッ
――――――――――――――――――――――――――
584 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 00:08:37.30 ID:hezoarQQo
少年「う、わあ!? は、離せ!離せよ!!」
黒服「チョロチョロと逃げ回ってくれたもんだ。お前が例のガキだな」
黒服「悪く思うな、仕事だ。あばよ」
少年「っ……!」ギュッ
姫「あばよ、はこちらの台詞です」バン
黒服「グハッ!?」
少年「えっ!? あ、あんた強盗団の……」
姫「見たところあなたはこの方たちに狙われているようですね。
ここは私たちにまかせて、あなたはこの先に車両にお進みなさい。ここにいては危険ですわ」
少年「い、いいの?」
姫「かまいませんわ。さあ早く」
少年「う……うん」タッ
少年「あの黒服たち、ここまで来たってことは、あいつら……」
少年「……どうなってんだよ……この列車」
――――――――――――――――――――――――――
585 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 00:14:09.49 ID:hezoarQQo
バァン!
ギャー
魔女「ヒュー♪魔女ちゃん百発百中かっくいー!」
魔女「銃っていいなー。リロードが面倒くさいけど」カチャ
黒服「フッ」ジャキ
魔女「げ」
ダンッ
姫「……注意力散漫ですわよ」
魔女「ドーモ。御忠告痛み入ります」
姫「…………」
ワーーーワーーー
バンバン チュインッ ドガシャーン
姫「……私、本当は分かってますわ」
魔女「?」
姫「私が私である以前に、私の立場が姫ってことが魔族の方たちにとって大事だったってこと」
姫「最初から分かってました!そういうの慣れてますもの。
宮中って、魔女さんが思うよりずっと色々ありますのよ」
姫「……でも、全部が全部うそだったとは思いません」
姫「本当のあの人と接していた時が必ずあったはずだって……そう思ってます」
魔女「ふーん……それでいいんだ」
――――――――――――――――――――――――――
586 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 00:17:26.64 ID:hezoarQQo
姫「……それでいいかって? ちっとも……よくありません!!」
姫「大体……魔女さんの方が竜人さんのこと、私の何倍もずっといっしょにいて、何倍もよく知ってるし!
魔女さんといる時の方が……楽しそうだし……!!」
魔女「ないない」
姫「ていうかあの人は魔王さん第一じゃないですか!
いつもいつも口を開けば魔王様って言ってるし……目はいつも魔王さんのこと見てるし!」
姫「私なんかが魔女さんや魔王さんに勝てないってことくらい重々承知してるんですよ゛ーーーーっ」
姫「それに私は人間ですし!!どんなに頑張っても竜にはなれませんもの!!!」
姫「うわあああああああああああああんっ」
ダガガガガガガッ
ワーーーー ギャーーー
魔女(豪快……)
姫「でも諦めきれないの」
姫「あなたに『諦めろ』と言われたけど、できることならとっくにやってます!!」
姫「できないから、こうしてずっと苦しいのよ!!!」
魔女「……」
姫「……それにっ……私、誰かとこんな風に本音で言い合って、口げんかするのなんて初めてで……!」
姫「……仲直りしたくてもどうすればいいのか分かりませんの!」
姫「きっと後に私が傷つかないようにと思って、言ってくれたのだと思うのですけど、私が意地張って……認めたくなくて」
姫「…………こういう……とき、どうすればいいんですの」
魔女「……」
魔女「あははっ。そんなの、かんたんだよ」
――――――――――――――――――――――――――
587 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 00:30:54.41 ID:hezoarQQo
10号車
女「あなたを殺せば、絶対何か分かる……。
絶対取り戻せる……!」
女「死んで」
ヒュッ!
魔王「……っ」
魔王(剣…………勇者くんに……っ)
――――バンッ
女「!」
カランッ……
女「……」
魔王「はっ……はぁ……」
警官「そこまでだ」
警官「ついに見つけたぞ。連続殺人犯。今日こそ……」
警官「今日こそ、決着をつけてやる」
女「しつこいなあ」シュッ
バンッ!
魔王「……は……はあ……ええと」
警官「お嬢ちゃんはすぐここを離れな」
女「勝手に……。そんなことさせると思う」ヒュンッ
警官「へっ!投げナイフなんて全部撃ち落としてやらぁ!!」
警官「ほら、とっとと行け!ここにいたら巻き添えくらっちまうぜぇ!!」
魔王「あっ、あぁ。恩に着る」
タッ
――――――――――――――――――――――――――
588 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 00:31:51.43 ID:hezoarQQo
女「待って」
魔王「……」ピタ
警官「? はよ行け」
女「……いかないで……」
魔王「君の境遇には同情する。でも、私は力になれない」
魔王「君に殺されてやるわけにはいかない。私、勇者くんを助けに行かなければいけないんだ」
魔王「……さようなら」タッ
女「まって……」
女「……まってよ……」
警官「お前、あのお嬢ちゃんに自分のこと話したのか」
女「あの子は人間じゃないの。ほかの人と違う。だから……だからあの子なら分かると思った」
女「私が人間に戻る方法……」
警官「そりゃ、無理な話だ。少なくとも今の技術じゃ、失った感情を取り戻すことはできやしねぇ」
警官「お前は一生そのまんまだ。人を殺した罪悪感だけが拠り所の凶悪殺人犯のまんまだよ」
警官「生きようとする限り罪を重ねるしかねえ。サイコ野郎になりきれねえ最低最悪のシリアルキラーだ」
女「無理かどうかなんて、やってみなくちゃ分からないじゃない」ヒュ
警官「うお、お!」
警官(チッ 接近戦は不利だな……距離をとって)バン
ビチャッ
女「……」スタスタ
警官「! お前、痛みも……」
女「本格的な化け物でしょ」グッ
ズバッ!
警官「ぐっ!? があああ……!いってぇなあ!」
女「そう。それが普通だよね。血が出たら痛いって思う……」
――――――――――――――――――――――――――
589 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 00:34:49.29 ID:hezoarQQo
女「これ、罰なんですかね」グサ
女「忘れたいって……悲しみごと全部なくなっちゃえばって思ったから
だから私は『普通』をなくしちゃったんですかね」グサ
警官「……罰なんて随分前時代的なことを言うな」
警官「罰っていうのは神様が人に与えるもんだろ?
神なんて、今の時代いるとも思えねえな」
警官「だが、姿の見えねえ神様の代わりに、お前の望む罰を俺が与えてやることはできる……」
女「私が望む……? あなたに私の何が分かるの」グサ
警官「フン。ずっと追っかけてたんだ、それくれえ刑事の勘でちょちょいのちょいだ」
警官「お前、死にたいんだろう」
警官「俺が殺してやるよ」
女「死にたい?私が?」
警官「この国は死刑制度が随分昔に廃止されてるからなぁ……だからお前逃げたんだろ。移送中に」
警官「警察が防衛以外で銃を使うなんて御法度だからよぅ。お前を殺したら、俺は警官やめるつもりだ」
警官「ま……この傷じゃこの列車から生きて降りられるかどうかも怪しいんだが」
女「死……」
女「死んだら……どうなるの」
警官「俺は死んだことねぇから分かんねぇよ。だが……まぁ、今よりは楽になれんだろ」
警官「殺人はお前にとって苦しいことなんだろ。その苦しいってのが、お前が持てる唯一の感情だからやってたんだろ」
警官「そろそろ苦しむのやめて、楽になったらどうだ」
女「…………………………」
女「…………………………」
女「………………お願い」
警官「……おう」
―――パァン……
――――――――――――――――――――――――――
590 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 00:39:40.40 ID:hezoarQQo
女(……何かを大切に思うのって、楽しいことや嬉しいことばかりじゃないんだ)
女(大切に思えば思うほど、失ったときに悲しいのね)
女(あなたはどうするのかな……)
女(私と同じ、人間じゃない女の子)
女(忘れるの?受け入れる?それとも……失う前に、大切に思うのをやめるの?)
――――――――――――――――――――――――――
591 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 01:11:37.07 ID:hezoarQQo
15号車
頭領「今のこの列車はよぉ……各車両についてるこのボタンひとつで車両を切り離せるんだわ。
俺の部下が馬鹿やったせいでな」
頭領「で、あの黒服の奴らが狙ってるのは明らかにてめぇだ。
俺が次にどうするか、お前にも分かるよな?」
勇者「……おいおい……うそだろちょっと待て」
頭領「お前らのごたごたに巻き込まれて、こっちの計画が狂うのはごめんだね」
頭領「あばよ」
ポチッ
勇者「ばっかやろおおおおおおおおおおおお」
黒服「あまり標的には近づくな……奴はゴリラ並のパワーを持ってるそうだ。
遠くから対戦車用ライフルで吹っ飛ばすぞ……」ガチャガチャ
勇者「ばっ!やめろ!!オイこっちは身動きとれないんだぞ!!ざっけんな卑怯だぞコラ!!」
黒服「ゲハハハむしろ好都合だ」
勇者(く……前の車両とどんどん距離が離れていく……早く乗り移らないと!)
勇者(枷を早く壊さないと何も始まらん!
ちょっとやそっとじゃ壊れなさそうだが、この中央の鎖部にピンポイントで衝撃を与えられれば……)ガンガン
――――――――――――――――――――――――――
592 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 01:12:25.98 ID:hezoarQQo
ガチャコン
黒服「うっし……やるぜ」
勇者「待て。あと1時間……いや30分くれ!!!」
黒服「なげーーよ!!その30分俺たちゃ仲良くお茶会でもしてろってのか!?お断りだ」
勇者「じゃ、じゃああと5分!」
黒服「逆に短すぎて5分じゃ何もできねえ。お断りだ」
勇者「どうすりゃいいんだよ!?」
黒服「どうもこうもない。待ったなしだ、覚悟を決めろ」
ジャコンッ
黒服「ヒーーーーーーーーハーーーーーーーー!!」
黒服「イエァ!!!ヒョーーー!!!」
――――バタンッ!!!
魔王「………………」ジャキッ
勇者「!? 魔王……!!」
黒服「ンアァ?」
――――――――――――――――――――――――――
593 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 01:14:37.07 ID:hezoarQQo
魔王「動くな……手をあげろ。勇者くん」
勇者「なっ、なに言って――、……!」
黒服「アアッハッハッハ!仲間割れかい!?」
勇者「……」グイ
魔王「絶対に……動くなよ」ググ
魔王(弾は残り一発……!)
魔王(失敗は許されない)
魔王(絶対あてる)
魔王「絶対……!!」
ヒュォォォォオオオ……
黒服「こりゃいいね!見物だぜハッハー!」
勇者「…………っ」
魔王「……」グッ
――バキンッ!
魔王「……!」
勇者「!! 枷が外れたっ」
黒服「ん!?」
勇者「魔王!!」
魔王「早くこっちに……!」
――――――――――――――――――――――――――
594 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 01:17:11.28 ID:hezoarQQo
ダッダッダ……
勇者「うおおおおおおおおおおおおおおっ……!?」ダンッ
黒服「逃がすな、撃て!!」
勇者「やめんか! 届けーーーーっ」
魔王「勇者くんっ」
勇者「……魔王!」
どさっ
勇者「助かった……でもなんで戻ってきたんだ?」
魔王「君にこれを渡しに来た」
勇者「剣?こんなのどこから……」
魔王「借りものなので壊さないように気をつけてくれ」
勇者「誰から借りたんだよ。……あっお前……これどうした!?誰かに切られたのか!?」
魔王「ああ、髪か。気にするな。君を助けるためならば髪などどうでもよい」
魔王「さあ、少年と合流するために急がなくては。まだ黒服の連中は列車内に残っている」
魔王「行くぞ勇者くん」
――――――――――――――――――――――――――
595 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 01:21:11.36 ID:hezoarQQo
8号車
頭領「なにぃ?剣が奪われた?」
強盗団「なんか女が……」
頭領「チッ……。まあいい、剣くれえなら。俺たちの本当の狙いは、こっちだったからな」
頭領「化石と、植物と海水が無事ならそれでいいさ」
頭領「で、7号車で黒服と交戦中だったな、確か。行ってくる」
強盗団「や、それはもう終わったッス」
頭領「ほう……? 早いな」
――――――――――――――――――――――――――
596 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 01:22:09.11 ID:hezoarQQo
9号車
タッタッタ……
勇者「大丈夫か?」
魔王「うん」
ガラッ
黒服「見つけたぜオラァー!」バンバン
勇者「ん! ……」キン
黒服「……!?」
勇者「邪魔じゃどけー!」ビッ
勇者「大分弾丸の速度にも目が慣れてきた。剣があれば大体防げる」
魔王「君の動体視力はおかしい」
勇者「お前のおかげだ、ありがとな」
魔王「かまわん。……」チラ
勇者「何だ?」
魔王「……いやっ、何でもない」
魔王「早く先に進もう!少年を早く見つけねばっなっ」
勇者「あっ先に行くな!まだあいつらいるんだから俺の後ろに……」
ドンッ
魔王「わっ!?」
勇者「……!? お、お前……!?」
魔王「いたた…… あれ?貴様は……何故ここにいる?」
妖使い「やあ」
――――――――――――――――――――――――――
597 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 01:25:14.84 ID:hezoarQQo
勇者「妖使い!お前も扉くぐってこっちに来たのか?」
妖使い「ちょっと時間開いちゃったんだけどね。君たちが扉を見つけたって聞いてすっ飛んできたわけさ」
魔王「なんだその格好は……」
妖使い「変装だよ、変装。こっちの世界の警察の格好だ」
勇者「何にせよ有り難い。今この列車内はえらいことになってるんだ。手を貸してくれ」
勇者「創世主は見つけたんだ。これくらいの身長の子どもで……先の車両にいるから一緒に探してくれないか」
妖使い「いやだね」
勇者「…………は?」
勇者「おい、冗談言ってる場合じゃ……」
妖使い「冗談じゃない。俺たちは君たちを連れ戻しに来たんだ」
妖使い「総勢6名……まずは君たちからだ」
魔王「どういうことだ?」
キィン!
勇者「とりあえずお前は、敵だったってことか」
妖使い「そうだよ」
勇者「……魔王、先に行け」
魔王「わ……分かった。少年を探してくる」タッ
――――――――――――――――――――――――――
598 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 01:26:51.91 ID:hezoarQQo
勇者「何者なんだ、お前は」
妖使い「創世主側の者だったってだけの話だ」
勇者「……俺たちは戻らないぞ。こっちでまだやることがある」
妖使い「知ってる。だから力づくで戻すよ」
勇者「やってみろ……!!」ダンッ
勇者「……っ!?」ハッ
ヒュッ ヒュンヒュン
忍「わー、よく避けましたね。さっすが勇者様(笑)」
勇者「忍! お前もかよ。ってオイ。かっこ笑いつけんな」
妖使い「遅かったじゃないか」
忍「迷いました。あっははすみません。というわけで勇者様のお相手は私がします」
妖使い「じゃあ後はよろしく」
勇者「待て!!!」ダッ
忍「だ・か・らぁ、私が相手だって言ったじゃないっすか。やだなあもう、無視しないでくださいよ」サッ
勇者「くそ……っ」
――――――――――――――――――――――――――
599 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 01:30:15.01 ID:hezoarQQo
* * *
ドタンバタンバタン ダン
強盗団「……なんか、上騒がしいッスね」
頭領「……またドンパチやってんのかね」
ダンッ!!
勇者「……っはッ……ごほっ」
勇者「……なんなんだ、お前……人間じゃなかったのか?」
勇者「それともお前たちだけ今でも魔法が使えるのか?攻撃全部効かないなんて」
忍「まあ、人間ではないですね」ゴォッ
ズダーーン!
勇者「しかもっ……割と強いじゃねえかよ!!お前、今までずっと俺との手合わせで手加減してやがったな!!」
忍「だってー本気出したら私が勇者様より強いことばれちゃうじゃないですかー」
勇者「なめた真似しやがって!!お前が本気出したって俺は負けねえぞ!!」
忍「や、それは無理ですよ。あのですね、勇者様がとっても強いのは」
忍「勇者様がいっぱい剣の稽古をしたからでも、才能が溢れてるわけでもなくて」
忍「そういう設定だったからなんですよ。設定設定。勇者は世界で一番強いっていう役割だったからなんですよ~」
勇者「はあ!?」
忍「で、私と若は、そんな勇者様より強いっていう設定でつくられたので」
忍「勇者様が私に勝てるわけないんです。可能性0なんですよ。残念」
勇者「……んなもん知るかよ!!関係ない!!」ガッ
忍「あっはっは」
忍「そういう大口は結果出してから言ってもらえますか?」グイッ
勇者「!? しまっ……!」
――――――――――――――――――――――――――
600 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/09/07(日) 01:33:08.86 ID:hezoarQQo
頭領「ったく、ドコドコとやかましいな。上を見てくる、ここを見張っとけ」
強盗団「はい」
頭領「なんなんだ、一体……、…………!? 伏せろ!!」
バキバキバキ ゴシャーン!!
強盗団「んなぁっ!? 天井から何か……!?」
頭領「!? おいおい嘘だろ、ダイナマイトでも吹っ飛ばしたのか?」
忍「あちゃー、穴あけちゃいましたね」
ガラッ
勇者「ゴホッ!!ゲホゴホ! いってぇ……」
頭領「あ? お前なんでここに……切り離した車両にいるはずだろが」
勇者「あってめえあの時はよくも……」
忍「よっこいせーっと!!」ブンッ
勇者「!」
バキャッ!!
頭領「結局あいつら何なんだ。オイ、お前ら!ドンパチやるのはいいが別のとこでやっ……」
強盗団「お……お……お頭……、これ……」ブルブル
頭領「てくれ……。……あ?」
強盗団「さっきあの男が上から降ってきたときに……化石……恐竜の……下敷きになったみたいで……」
強盗団「わ……割れちまってる……」
頭領「………………………………」
強盗団「………………………………」
頭領「……フー……」
頭領「俺のサブマシンガン……持ってこい……」
501 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:47:26.25 ID:D37hExuxo
勇者「……!? 魔王!? な……なにしてんだ!」
魔王「勇者くん……。見てのとおり殺されかけていた」
勇者「そりゃ見れば分かる!なんでお前が殺されかけてるんだ!」
女「ねえ、どいてくれる?私はその子に聞きたいことがあるの」
勇者「それはできない。お前は何者だ?」
女「何者か?私が聞きたい。私は何なの?人間なの?」
女「どきなさい」チャキ
勇者「できないっつったろ」
女「なめないことね」
ヒュッ…… ガキン!
女「手錠で戦うつもり?」
勇者「今お前が断ち切ってくれたらよかったんだけど、なっ!」ブン
女「そうだね、これならそれもできるかもよ」ビッ
ギュイィィィィン
勇者「あっ また…… つーか何だそれ!うるせえ」
女「いいでしょ」
―――バキバキバキバキッ!!
勇者「あぁっ!? 女なのになんて破壊力だ」
勇者「だが隙が多いっ!なめんなオラァァ」ガッ
女「!」グルッ
ガッシャーン!!
――――――――――――――――――――――――――
502 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:49:57.28 ID:D37hExuxo
魔王「やったか……?」
勇者「身柄を拘束してくる。下がっとけ」
魔王「勇者くん、彼女は何人も殺してきた殺人鬼だ。男性も殺している。油断はしない方がいい」
勇者「分かってる」
女「……」ムク
女「……ん」フラッ
女「……」
勇者「大人しくしてろ。今…… ん?」
勇者「……この音……もしや、クルマとかいう」
―――ドォン!! バキャァッ!
魔王「わっ!」
勇者「何だ何だ!? クルマが壁突き破ってきやがった……ってこれは!!」
警官「……後輩よ。俺はあの銃刀法違反野郎を追えと言ったが、壁をぶち破れとは言ってない。
エアバック作動しちまったじゃねえかよ」
後輩「うっかり」
警官「まあいい!!そこのお前、手を上げろ!!両手を上げたまま跪け!!抵抗すれば撃ーつ!!!」
勇者「やっぱりお前らかよ!俺捕えるよりそこの連続殺人犯を捕えろ!!その女――あっ逃げやがったアイツ」
警官「ん!?彼女が連続殺人犯なわけねえだろ、顔が違う!怪我をしていたじゃないか、傷害罪も追加だああ!!
後輩、彼女を追え!保護しろ!!」
後輩「いえっさ」
勇者「ちがーう!いや……たしかにあいつ手配書と顔が違うけど!でもこいつが殺されかけたんだ!」
警官「詳しい話は署で聞く!!パトカーに乗れーい!!」
――――――――――――――――――――――――――
503 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:52:34.37 ID:D37hExuxo
* * *
プルルルル ガチャ
社長「なに?ガキが不在だと?探せ。もう工事の着工は目前だぞ」
社長「まあ不在なら不在で、家の権利を捨ててどっかに行ったのかもしれん。
それならそれで構わない」
社長「もし工事が始まってから、ガキが現れたら……不慮の事故ってことで」
社長「どうせ貧困区のスラム街に住むガキ一人、もみ消すのは容易い。ああ、やれ」
* * *
警察署
後輩「というわけで家からは切断された遺体と凶器が見つかりました。
さらにあの俺が半壊させた空き家に残っていた血液と、連続殺人犯の血液が検査の結果一致しました」
後輩「ここいらに潜伏していると見て間違いないということで、すぐ捜査本部が設置されるそうです」
勇者「じゃお前らも早く捜査に加われよ、俺なんかに関わってないで。
俺はいつまでここにいればいいんだ?もう3日になるぞ!」
後輩「それはですね、先輩が捜査員に入れてもらえなかったからです。
だから君の取り調べしかすることないんです」
警官「そうなんだ、俺が前にヘマしたから捜査に加えてもらえず、妻と子にも逃げられたんだ……ってやかましいわボケ!!
つーかテメエ何だ?あの怪しげなイカレシスターの元にいたらしいじゃねえか?」
警官「大体身分証明書がないってどういうこった!!」
警官「絶対余罪あるだろ!!あんな大きい剣持ってたくらいだからなぁ、何やらかそうとしてたんだ!?ええ!?」
勇者「あーあーうるせー!余罪なんかねえよ!魔王と少年はどうした?どこにいる?」
警官「マオウ?ああ あのお嬢ちゃんか?変わった名前だな。少年もお嬢ちゃんも家に帰したが」
勇者「じゃあ俺も帰せよ!!!??」
警官「お前は犯罪者だろうが。身分証明もできてねーし帰せねえよ」
ガチャン
勇者「くっそがあ! ハッ、俺が何もせずここで捕えられてるとでも思ったか。
こちとら牢屋に入れられるのも二度目だ 馬鹿め!!慣れてんだよ!!」
勇者「絶対プリズンブレイクしてやるからな見とけ!妻子に逃げられた不甲斐ないオッサンめ!!」ガチャガチャ
警官「聞こえてんだよ、死ぬかテメー」
――――――――――――――――――――――――――
507 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/13(日) 23:43:29.90 ID:+xuj9T1xo
* * *
少年「……」ボー
魔王「はい」
少年「……?」
魔王「そこで買ってきた。疲れた顔をしているぞ、飲むといい」
少年「あんた、金……」
魔王「服を売ったと言っただろう。価値が分からなかったが、結構いい値段で売れたみたいだな。
紙幣とやらをたくさん頂いた」
魔王「……これを全部君に受け取ってほしいんだ」
少年「え……? うわっ、こんな…… なんでだよ?」
魔王「世話になったからな。これで……君の生活はどうにかならないのか?
君のような子どもが一人きりで働きながら暮らすというのは……その……」
魔王「この国のことは知らないが、あまりいいことではないと思う」
少年「僕みたいなのはたくさんいるよ。僕だけが特別悲惨な状況にいるわけじゃない」
少年「……。この金、いらないよ。あんた、誰か探してるって言ってただろ。そのために使えよ」
少年「食っていけるだけの金は……ある。仕事クビになりさえしなければ……」
少年「そんなに豪華じゃないけど毎食食べれるし。
一人分なら、十分稼げるんだ……」
少年「……あの男あんたの知り合いだったの?」
魔王「ああ、そうだ。君があのとき彼を呼んでくれたんだな。ありがとう」
少年「別に……僕はなんもしてない」
少年「でもまさか、あの女の人が本当に殺人犯だったなんてな。
やっぱり無償の優しさは警戒するべきだ」
少年「あんたも何か企んでたりしないだろうな」
魔王「……私は何も」
少年「……あの人、感情が分からないって言ってたけど、それ本当なのかな」
魔王「……」
――――――――――――――――――――――――――
508 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/13(日) 23:45:24.22 ID:+xuj9T1xo
少年「感情がないってどんな気分なんだろう。悲しいのも苦しいのも分からなくなるなら……」
少年「ちょっとだけ、羨ましいって思うよ……」
魔王「でも、嬉しいのも楽しいのも分からなくなってしまうのだぞ。
現に彼女も、それが原因で殺人行為を繰り返して……」
少年「これ、ごちそうさま。そろそろ僕行くよ。じゃ」
魔王「どこに?」
少年「工場」
魔王「警察から帰してもらったばかりだぞ。それにまだ君は顔色が悪い。今日は休んだらどうだ」
少年「休めるわけないだろ……」
魔王「……」
魔王「少年。ここを離れて、孤児院かどこかに保護してもらうことはできないのか?」
魔王「この国に王はなく、大統領という者や国会議員という者らが政治を行っていると聞いたが。
教育制度や社会福祉は一体どうなっている?」
魔王「何故君のような子どもがそんな生活を続けることを強いられなくてはならないのだ。
この国も街も、経済的に困窮しているわけではないのだろう」
少年「教育制度も福祉も、貧困区にはない言葉だよ。そういうのは対価を払った連中に振る舞われる」
魔王「それでは社会福祉にならない。上の者が弱き者を助けることを拒んでいるのか?そんなのは……」
少年「ほかの街はどうだか知らないけどさ……少なくともこの街は、平等なんだよ」
魔王「平等……? 馬鹿な。正反対だろう」
少年「身分や地位、年齢、人種に関わらず、金を払えば払うだけ恩恵が得られる。人はみな金の下に平等なんだ」
魔王「……」
少年「自由とは金で、金は労働の対価だ。だから貧乏は怠慢の代償なんだってよ」
少年「貧乏な奴は憐れな救済すべき人種じゃない。蔑まれるだけの罪人なんだ」
少年「ちゃんと働いてない奴が悪いんだからな……」
――――――――――――――――――――――――――
509 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/13(日) 23:49:46.51 ID:+xuj9T1xo
少年「でもさ……そんなの言われたって、スタートラインが違っていたらどうにもならないよ」
少年「なんていうのもいいわけになっちゃうんだろうけどさ」
魔王「……私はこの世界に来たばかりだ。そのような制度や考えが形成されるまでの過程も歴史も知らないし
もしかしたらそれは、なるべくしてなった結果なのかもしれない」
魔王「でもそんなのが平等だと言うのなら、私はその言葉を否定する」
魔王「君は怠慢などではない。十分頑張っている。
それは言い訳ではなく、声を張って主張すべきことだ」
少年「……はは。僕みたいな子どもが何言ったって、結局なんも変わんないって」
少年「それに、今、金がほしいわけじゃないんだ。別にもう金なんてどうでもいいんだよ」
少年「今もらってもしょうがないんだ……」
少年「……じゃあ、本当にそろそろ行かなくちゃ」
* * *
少年(……やっぱクビかな……)
少年「……それならそれで、いっか。惰性で続けてただけなんだ」
工場長「! お前……!!」
工場長「どういうつもりだ?3日も無断欠勤しやがって」
少年「すみませんでした……」
少年「でも、事件に巻き込まれてて……警察が……」
工場長「つまんねー嘘つくんじゃねえ!!クソガキめ!!」
工場長「テメーはクビだ、クビ!!役立たずの上、雇ってやった恩を忘れるような奴はいらん!」
少年「……」
少年「……」
工場長「まあテメーが土下座して、どうしてもクビが嫌だって言うなら、
また雇ってやってもいい。ただ給料は半分になるがな」
少年「……」
少年「じゃあ、クビで」スタスタ
工場長「……ああ!? ふざけんな、てめーみたいなガキ雇うところなんてここしかねえんだぞ!!」
少年「いいです」
工場長「おいっ 本気か!? じゃあ給料はマイナス25%にしてやる!これでいいだろうが!!」
少年「もういいです」
――――――――――――――――――――――――――
510 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/13(日) 23:50:15.01 ID:+xuj9T1xo
スタスタ
魔王「少年……大丈夫か?」
少年「……」
少年「……もういいんだ」
少年「ま、こうなるだろうと思ってたし」
少年「これで食いぶちもなくなった。この間、助けてくれてありがとな」
少年「……なんで僕みたいなの助けたのか分かんないけど……」
少年「……じゃ。もう構わないで」
魔王「……」
―――――――――――――――――――
――――――――――――――――
――――――――――
ゴゴゴ……ゴトンゴトン バキャベキ
ガガガガガ……ガガガガ
少年「……は」
少年「……あ」
少年「ああ……」
少年「工事が……はじまってる……」タッ
少年「……………………」
少年「……家が消える……」
少年「……僕たちの家が……」
少年「…………ちょうど、よかったのかもしれないな」
少年「これで僕も、いっしょにいける」
――――――――――――――――――――――――――
511 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/13(日) 23:52:04.64 ID:+xuj9T1xo
黒服1「あー?子どもが家の前に?」
黒服2「ほら、最後まで立ち退かなかったあそこです」
黒服1「ああ。どっか行ったって聞いてたんだけどな」
黒服2「どうします?今日あそこの先まで進めないと予定が狂います」
黒服1「いい、いい。社長から言われてる。ガキが来たら、事故にしとけってさ」
黒服3「まじっすか。うわあ……俺がやるんすか」
黒服2「お前がショベルカー担当だろうが。頼むわ」
黒服3「グロイの苦手なんすけど。分かりました」
ガガガガガ……
黒服3「はあ……悪く思うなよ……命令だ」
――――――――――――――――――――――――――
512 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/13(日) 23:53:02.33 ID:+xuj9T1xo
少年(家が残ってれば、妹もお母さんもお父さんも……いつか帰ってくるんじゃないかって思ってたんだ……)
少年(馬鹿だなあ……)
少年(ずっと、この家で妹と過ごしたな)
少年(……お前が死んだあの日……僕も……いなくなってればよかった)
少年「死ぬ勇気が……なかっただけ……」
少年「惰性で続けていた仕事もなくなった。生きる術を失った」
少年「生きる意味は……1年前にとっくになくしてた……」
少年「もう、いいよな……」
魔王「――少年!なにしてる、ここは危ないぞ。逃げないと」
少年「あんたまだいたのかよ……ほっとけっつったろ……。もう、いいんだ」
少年「僕はこの家と一緒に死ぬ。やっと決心がついた」
魔王「何を言って……。……止まれっ!ここに子どもがいる!それ以上動くな!」
ガガガガガガ……
魔王「……死んではだめだ!少年、頼む。ここから離れよう」
少年「この世界でもう生きる意味がない。僕はずっと……妹のために頑張ってきたんだ……。
全部あいつのためだった……」
少年「でも、もういない」
少年「この先、一人きりで生きて、何になる?僕みたいなのが生きてたって、いいことなんかひとつもない」
少年「金もない。家族もいない。目的もない。何にも僕にはない」
少年「あいつはもう死んだんだ。僕も……あいつのところにいきたいんだ。
もう…………つかれた…………」
少年「らくになりたい……」
魔王「……っ……でも……死んじゃだめなんだっ……!!」
魔王「大切な人が……死んで……生きる、のが、どんなに辛くても……」
魔王「……それでも、死んではいけない……」
魔王「い……生きていれば……必ず……きっと……いい、こと、が」
――――――――――――――――――――――――――
513 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/13(日) 23:55:22.17 ID:+xuj9T1xo
ガガガガガガ
少年「……本当にそう思ってる?」
魔王「……!」
少年「自分が大切な人を亡くしたとき、本当にそう言える?」
魔王「……、……」
少年「ここにいればあんたまで巻き添えくらう……どっか行って」
少年「……さよなら」
魔王「…………っ」ギュッ
少年「……何だよ……」
――――――――――――――――――――――――――
514 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/13(日) 23:56:56.31 ID:+xuj9T1xo
魔王「魔法を使ってアレを止めることもできない」
魔王「言葉で君を説得することも、救ってやることもできない」
ガガガガガガ……メシャッ
魔王「私はなんて無力なんだろう……」
魔王「……ごめん……」
魔王「君はずっと頑張ってきたのだな」
魔王「私は君のこと、やっぱり知っていた。君が妹のためにずっと頑張ってきたことを知っている」
魔王「疲れてしまったのだな……うん……。うん。そうだな」
魔王「でも、君が私たちをつくってくれたんだ……」
少年「……? はぁ……?」
魔王「君は一人じゃない。ずっと私たちは君たちのそばにいたんだ」
魔王「私も、彼も――君に会いに、世界を越えてきたんだ」
ミシッ バキバキ ベキンッ
――――――――――――――――――――――――――
515 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:18:58.88 ID:sWebTHduo
黒服3「うわぁ~ 女と子どもごと家を潰すところなんて見たくねえよ。どんなグロ映像よ」
黒服3「社長もえげつないこと考えるぜ」
バリンッ!!
黒服3「……あ?」
黒服3「…………手?」
黒服3「……なにこれ……うおっ!?!?」グンッ
ガガガ……ガ……ガ
少年「……え……止まった?」
魔王「……」
黒服3「……おわぁぁ!? な、何だ!?一体……」 ズルッ
黒服3「て、てめえ!何しやがる!!離せ!」
勇者「……」バキッ
黒服3「ブッ!?」
勇者「見えてたよな?」バキッ
勇者「子どもと女があそこにいるの分かってたよな?」ガッ
黒服3「ちょ……やめ……」
勇者「なんで止めなかった?」ドスッ
黒服3「……ちが……俺は……めいれいされて……」
勇者「責任者どいつだ」
――――――――――――――――――――――――――
516 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:20:44.38 ID:sWebTHduo
勇者「お前か」
黒服1「オイオイ、工事の邪魔されると困るんだが。あんまなめた真似すると」バキボキ
黒服1「こうなるぜ……っと」バキッ
勇者「……」
勇者「どうなるって?」
黒服1「……」スッ
勇者「ケンジュウとやら出そうとしても無駄だ。今から両腕折る」
黒服1「は」
アギャーーー
黒服2「! 何事ですか? そこの男動くな!」チャ
黒服4「てめえ、俺たちに盾つくとどうなるか分かってんだろうな?
お前みたいな貧乏人なんていつでも消せる。社会的にも、文字通りにもな」
勇者「撃ってみろ。こいつに当たってもいいんならな」
勇者「なるほどつまりお前らはあれか。
ここに遊園地とかいうものを建てるためなら人を殺してもいいと」
勇者「貧乏人なら殺してもいいと」
勇者「貧乏人の家なら許可なく壊してしまってもいいって思ってんだな」バキッ
黒服1「ぐっ!! や、やめろ……社長がそう言ったんだ……俺たちが決めたわけじゃねえ」
勇者「あ?お前の服についてるその緑のマーク……そうか。
あのシスターが俺に潰すよう頼んだ会社ってのはお前らのとこか」
勇者「オイ全員、この男がこれ以上痛い目に合わされたくなかったら武器を捨てて両手を後ろに組め」
勇者「で、歯ァ食いしばれ」
勇者「もう一度ここに来て同じことをしてみろ。次はどうなるか分からないぞ」
黒服2「わがっだ……」
勇者「あとお前。こっち来い。さっきのアレ操縦して、ここにあるキカイ全部壊せ」
黒服3「エ゛ッ!!ででででもこれ全部でいくらすると……」
勇者「しらねーーーよ。もう使わないんだから関係ないだろ。さっさとしろ」
――――――――――――――――――――――――――
517 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:21:37.27 ID:sWebTHduo
勇者「無事か? ……!?子どもは!?どうした、怪我したのか?」
魔王「……いや、気を失っているだけみたいだ」
勇者「なんだ……。とりあえず寝かせるか」
勇者「少年の家勝手に上がらせてもらったけど、仕方ないよな……」
魔王「彼の家が壊れずに済んで本当によかった」
魔王「彼にとってここはとても大事なものなのだ。どうもありがとう。勇者くん」ペコ
勇者「えっ、そ、そんな改まらなくていいって。プリズンブレイクが間に合ってよかった」
魔王「でも私は何もできなかった。……勇者くん。この子が創世主だ」
勇者「ああ。みたいだな。なんだ、魔王も知っていたのか」
魔王「さっき思い出した。私たちは、彼に会いにきたのだ」
勇者「……そっか。そうだな」
――――――――――――――――――――――――――
518 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:24:03.54 ID:sWebTHduo
翌日
少年「…………朝……。ハッ!!もうこんな時間だ、工場に行かないと!遅刻する……!」ガバ
少年「……じゃ、なかった。もうクビになったんだっけ」
勇者「よう、起きたか。邪魔してるぜ。おはよう」
魔王「おはよう少年」
少年「ファッ」
少年「な、なんだよお前ら……人ん家に勝手に! あんた誰だよ」
勇者「俺は勇者だ。よろしくな」
少年「ゆ、勇者? ……変なの増えた……最悪……」
少年「あ、あの殺人犯のときいた……あと、昨日ショベルカーを止めた奴……」
魔王「勇者くんが昨日助けてくれたのだぞ。
パンとスープは食べられるか?私の服を売った金で買ったから遠慮せず」
少年「助けてくれたって……。…………余計なこと、しなくてよかったのに」
少年「もう、さ……どうしようもないんだって。どうせあいつらはまたここに来るよ……。
ちょっと予定が狂っただけで、工事が中止されるなんてことはあり得ない」
少年「僕には仕事もない、金もない。家族もいない。行くところもない」
少年「生きたいとも……思わない……。もういいんだ」
魔王「……」
勇者「あのな」
勇者「俺たちは実はここの住人じゃない。だから、ずっとここにいることはできない。
少年に仕事を紹介してやることもできないし、お前が大人になるまで代わりに稼いでやることもできない」
勇者「家族になってずっと守ってやることもできない。家を提供してやることもできない」
勇者「だけど一つだけできることがある」
少年「……?」
勇者「あの会社をぶっ潰して工事を止めてやる。お前と妹のこの家を、そのまま残す」
勇者「明後日、列車に乗って砂漠を越えよう。都市に行くぞ」
――――――――――――――――――――――――――
519 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:30:18.72 ID:sWebTHduo
* * *
姫「列車強盗ですって?」
頭領「そうだ。中央区から都市に行く列車は一カ月に一度だけ」
頭領「乗るのは中央区の連中だけだ。切符が馬鹿高いからな。
遠慮はいらねえ、なんかいいモンあったら奪い取れ」
わーーわーーー わーーーオカシラーーー
頭領「ただ、危害を加えるのはNGだ。警察は別だがな。あいつらは撃ってくるし別にいい」
姫「危害を加えないからと言って、国民から金品を奪うなんて……」
頭領「勘違いすんな、連中から奪うのはあくまでついでだ。本来の狙いはこれ」
魔女「なにこれ?……草?と花?水? 骨?」
頭領「都市から中央区の博物館に貸し出されてたものだ」
頭領「本物の生きてる植物に、海水一瓶と、恐竜の化石だ……。
どれも値段のつけられないくらい希少なもんだ」
頭領「貧乏人にゃ見ることすら叶わない幻の宝だぜ。全部数日後には俺たちのもんだ。
ま、植物だけはじっくり見たら返すがな。枯らしたら事だ」
強盗団「うっわ、本物の植物とか海水が見られるなんて、今からわくわくする!やべー!」
強盗団「恐竜の化石ってどんなのなんだろうな!」
魔女「植物に海水~~?そんなのどこにでもあるじゃん。本当に宝なの?」
頭領「ないから宝なんだよ。お前、異世界からやってきたのか?」
魔女「まあそうだけど」
頭領「とにかく列車が出る日まで各々準備しとけ。銃の点検を怠るなよ」
姫「えっ……本当にやるんですの?」
魔女「ええっ……本当にそれ盗むの?」
「「……」」
姫「……」プイ
魔女「……」プイ
頭領「お前ら仲直りしろよ……」
――――――――――――――――――――――――――
520 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:31:49.22 ID:sWebTHduo
* * *
少年「……は、はあああ!?なに言ってんだよ?」
少年「会社潰すとか……無理に決まってるだろ!都市にだって行けるわけない!」
勇者「いや行くぞ。まあ、これは俺が別の奴から請け負った依頼でもあるし」
少年「……だから、余計なことするなよ。大体なんで初対面のあんたらがそこまでする?
僕なんか……助けてくれなくていいよ」
勇者「悔しくないのか?あんな連中に大切な家を壊されて、命まで奪われそうになって」
少年「みんなにとって、僕の命には塵ほどの価値もないよ」
少年「……大体、会社を潰せたとしても、その先はどうなる?僕のゴミみたいな人生が続くのか?
僕はもう諦めがついてちゃったんだ」
少年「こんなゴミみたいな世界で、ゴミみたいに思われてまで、必死に生きる気力がもう僕にはない」
少年「どうせ、ここから消えてなくなったって、誰も気には止めないよ……」
魔王「君をゴミみたいに思っているのは誰だ?
塵ほどの価値もないと決めた『みんな』とは誰?」
少年「……みんなだよ」
魔王「少年。自分の価値は自分で決めろ。自分と、君の大事な人にのみ判断を委ねろ」
魔王「それ以外の有象無象が君に何を言っても、気にするな。所詮戯言だ!」
魔王「妹は君のことゴミだなんて思ってなかった。
君の大事な人であるかは分からないが、私たちだってそんなことを思ってない」
魔王「君の人生は、本当にこれまでゴミのようだったのか……?」
魔王「……本当に? 本当に自分は消えてもいいと、思っているのか……?」
勇者「俺も魔王も、お前には消えてほしくない。だから、助けるよ」
少年「……あんたら本当に何なんだ?」
少年「会ったばかりなのになんでそこまでしてくれる?何が目当てなんだ? 金なら……分かってると思うが、ないよ」
勇者「金なんていらねーよ」
勇者「お前が俺たちの創世主だからだ。お前が俺たちをつくったんだろう」
少年「…………ふざけてんのか?」
魔王「ふざけてない。ノートに物語を書いたろう。私たちはその世界からやってきた」
少年「は……!?ノートって」
勇者「俺の名前は――。魔王の名前は、――。教会で見た異国の神話から名前をつけたんだろ?」
勇者「俺たちはお前が妹のためにつくった話の勇者と魔王だ」
――――――――――――――――――――――――――
521 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:33:53.20 ID:sWebTHduo
少年「……その名前………………うそだろ……」
魔王「本当だ」
少年「……戸棚……開けるなって言ったのに……開けたんだな」
少年「僕が寝てる間に開けたんだな!!勝手に!!」
少年「……箱を壊して……ノートを見たんだなっ!!」
勇者「へっ? いや、違うけど。箱?」
少年「ここの戸棚に入ってる箱だよっ!!見たんだろ!!」
少年「……あれ!? な、ない。おいお前ら!箱をどこにやった!」
魔王「戸棚は開けていない。箱には触ってもいない」
少年「うそつけよ、じゃあ箱が勝手にどっか行くってのかよ!!」
少年「………………もう出て行けよ!!! 早く出て行け!!」グイグイ
少年「こんなガキ騙そうとして何になるってんだよ!!ふざけやがって!」
魔王「少年、違う、開けてなっ」
バタンッ!!!
勇者「……締め出されたな」
魔王「……ああ」
勇者「まあ急にあんなこと言われても普通信じられないだろうな。
証明できるもの持ってないし、この世界にないっていう魔法は今使えないし」
魔王「大丈夫だ、きっといつか信じてくれるはずだ。彼は聡い子どもだから」
魔王「ここでしばらく待とう」ストン
勇者「……」
魔王「……? 何だ」
勇者「いや……そういえば、その格好どうした」
魔王「格好……ハッ」
魔王「違うぞ勇者くん。これは違うのだ、落ち着け。冷静になるのだ」
魔王「私は痴女ではないっ、痴女じゃないぞ、落ち着くんだ落ち着け」
勇者「落ち着くのはお前だ」
魔王「仕方のなかったことなんだ。だから暫しの間、お目汚し勘弁願い奉る」
勇者「落ち着け、深呼吸だ魔王。口調が変だ」
――――――――――――――――――――――――――
522 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:47:15.46 ID:sWebTHduo
魔王「……ここの建物の端の方は抉れてしまったな。魔法が使えたら、あんなものすぐ防げたものを」
魔王「早く魔力を取り戻したい。魔族に戻りたい」
魔王「私はやはり人間ではだめだ。魔法がなければ何もできない。あんな子ども一人助けてやれない」
勇者「……何もできなくなんてないだろ」
勇者「あの殺人犯から少年を守ったのはお前だ。
それに、さっきの言葉だって、あいつの心に届いてたよ。俺じゃああいうことは言えなかった」
魔王「でも、やっぱりいつも君に助けてもらってる」
魔王「殺人犯に殺されかけたときも、この家が潰されそうになったときも……
本当は、少しだけ、勇者くんが助けに来てくれるのではないかと思ってた」
魔王「……情けないな。これではだめだ。だめなんだ」
勇者「なっ、なんでだめなんだよ。助けてやるよ。言っただろ、一人でなんとかしようとしないで頼れって」
勇者「俺にできないことが魔王にできて、魔王にできないことが俺にできる、それでいいじゃないか」
勇者「むしろ魔法が使えると、魔王にしかできないことが多すぎて、俺はちょっと心配だ。
いつかまた大勢の人たちのために魔法を使い続けて……あんなことになるんじゃないかって」
勇者「だから……人のままで……いればいいんじゃないか」
勇者「お前が人間のまま……魔法が使えないままだったとしても…………」
魔王「ん?」
勇者「そうしたら、俺がお前のこと……ま、守るよ」
魔王「……」
魔王「有り難いが、そういう言葉は私にかけるべきものではないだろう」
魔王「心配をかけてすまないな。私は大丈夫だ。
だから、そういうのはあの子に言ってあげてくれ」
勇者「……? あの子って誰だよ」
魔王「君の大事な人だ。照れずともよい。忍のことが好きなのだろう」
勇者「……え……っ?」
勇者「ああっ!そうか、ごたごたしてて何も言えてなかった!違うぞ魔王!
俺とあいつはそういうんじゃないんだ、ほんとに!!」
勇者「王都でお前の研究室のときは、あれはあいつが邪魔したから転移魔法少し失敗して
たまたまあんな風になっただけで……」
勇者「俺は忍のことが好きなんじゃない。あいつも、そうだ。じゃれてきてるだけっていうか。
……大体、あいつが俺に絡んでくるのも、魔王の前でだけだったし」
――――――――――――――――――――――――――
523 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:49:43.35 ID:sWebTHduo
魔王「君たちは恋人同士では……?婚約も済ませていたろう」
勇者「済ませてねーよ!!恋人じゃあない!!好きでもない!」
魔王「ええっ そうだったのか? 勝手な勘違いをしてしまった」
魔王「……でも、いつか現れる。君にも大事な人ができる。人間の女の子が。
そのときまでその言葉は取っておくのだ」
勇者「……」
勇者「……いやっ今使うのであってる!!」
勇者「魔王聞いてくれ。俺はロリコンだったのかもしれない!変態クズ野郎なのかもしれない!」
魔王「突然のカミングアウトに驚きを隠せないわけだが」
勇者「一緒にいるうちに……お前も俺も成長して子どもじゃなくなって……」
勇者「お……俺は魔王のこと前と同じように見れなくなってた」
勇者「お前が人間でも、魔族でも、俺は……!」
魔王「……?」
――――――――――――――――――――――――――
524 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:51:27.45 ID:sWebTHduo
勇者「だから、その……つまり」
勇者「魔王の……こ、ことが……だな」
勇者「お前のことが……っ」
魔王「……」
魔王「っくしゅ」
勇者「…………」
魔王「ん……、っくしゅ! ごめん……何だ?続けてくれ」
魔王「ゲホッ ゴホゴホッ う、変な風に息が……ケホッ」
勇者「…………だ、大丈
バターーーン!!
少年「……人んちの前でぎゃあぎゃあうるっせーんだよ」
少年「あといま咳したのどっちだよっっ!!!!!!!!!!!!!」
勇者「まっ魔王です」
少年「早く中入れよ!!!!夜に体冷やしたら風邪ひいちゃうかもしれないだろ!!!!
マスクしろマスク!!早く寝て!!熱は?水飲む?」
魔王「いや、ちょっとむせただけだ、気にするな」
少年「馬鹿、咳なめんな!!!早く寝ろってば!!」
勇者「ちょっと!俺も入れろ!!おい!!」ガチャガチャ
――――――――――――――――――――――――――
525 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:54:26.05 ID:sWebTHduo
少年「……本当にあんたらが箱どっかにやったんじゃないんだな」
魔王「違うぞ。なくなってしまったのか?一応外も探してこようか?」
少年「や……いいよ。別に……もういらなかったから。捨てられなかっただけ」
勇者「何が入ってたんだ?大事なものだったんじゃないのか」
少年「大事だったものだけど、もういい。なくなったんならそれでいい……」
少年「じゃ、なんであんたら……あの名前知ってたんだよ。
あれは……妹が、神話から選んだ名前だったんだぞ」
少年「勇者とか魔王とかで呼び合ってるけど……何?」
勇者「でも俺ほんとに勇者だし」
魔王「私も魔王だ」
勇者「お前が俺たちをつくったんだろ」
少年「あーーーもーーー話が通じない奴らだな!
ふざけてんだろ?そうじゃなきゃマジで頭沸いてんだろ」
少年「くそ、めでたい頭してていいよな。……分かった。もういいや」
少年「どうせ僕なんて仕事クビになったし、多分そのうち死ぬ。
だから……死ぬ前にあんたらの遊びにちょっとだけ付き合ってやるよ……」
少年「……都市へ」
少年「どうせ死ぬなら、あいつらにひと泡ふかせてやるっ」
勇者「ああ、行こうぜ!」
――――――――――――――――――――――――――
526 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 00:56:16.66 ID:sWebTHduo
* * *
ブォォォォォン
シスター「やっと都市に行ってくれる気になったか。そら、お前の剣だ、悪魔」
勇者「おっ、サンキュー!やっぱ剣ないと落ち着かないわ」
勇者「……で、あんたが中央区まで送ってくれるって言うのは有り難いが
このクルマはなんでほかと違って屋根がない?」
シスター「さあ……知り合いから借りたもんだから。ドンパチやって吹っ飛んだんじゃね」
勇者「お前の知り合いどんなだよ。ほんとにシスターなんだろうな」
少年「この人は前からそうだよ、この通りイカレシスターだ」
魔王「しかし、このクルマというものは一体どのようにして動いているのだ?
どこが心臓なのだ?何目何科何属?エサは何を食べる?」
シスター「心臓はここ。車目車科車属。エサは人肉」
勇者「えぇっ!!?」
魔王「降りたい……」
少年「動物じゃないってば!シスターも適当なこと教えんな、こいつら馬鹿だから!」
シスター「おっと。あいつらも着いてきたみてーだな。後ろ見てみろ」
少年「え…… あ、あの黒い車!黒服の奴らがのってる!」
勇者「あいつら!また来たのか!しかも一台だけじゃない。大丈夫か、シスター?」
シスター「なめんな。後ろに積んであるもの取って。お前らも好きに使っていいよ、色々入ってる」
少年「なっ!!シスター、お前これっ!!怪しい奴だとは思ってたけどさ!」
魔王「なんだそれは?」
シスター「マシンガン目マシンガン科マシンガン属、マシンガン」
シスター「伏せてろ」
ダガガガガガガガガガガッ
キキーッ ドンッ!! ワーワー
何だあの車! 銃声!?
――――――――――――――――――――――――――
527 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 01:01:18.21 ID:sWebTHduo
勇者「お、おい。いいのか」
シスター「私は運転があるからあんま手伝ってやれないよ。そっちも応戦して」
ダンッ バンバン! チュイン
少年「あ、あいつら撃ってきてるっ! いや先に撃ったのこっちだけど……」
魔王「このケンジュウというのは恐ろしく速い飛び道具だな。目に見えない」
勇者「くっそーーやったるわい!魔王と少年は危ないから頭下げてろ!!」
シスター「安全装置下ろせよ。タイヤを狙え」
勇者「ああ!」
勇者「おらあっ!!ついてくんなてめーら!」
ダンッ ダンダンダンッ! バン!
少年「……なあ全然当たってないんだけど」
魔王「勇者くん、一発も当たってない」
シスター「弾無駄にすんなよ。無限じゃねーんだ」
勇者「おっ俺は飛び道具なんて扱ったことねえんだよ!!」
――――――――――――――――――――――――――
528 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 01:03:02.67 ID:sWebTHduo
* * *
騎士「あれから全然ほかの方と会いませんね。勇者さんと魔王さん……合流してるといいんですけど」
騎士「あと姫様……と、ま、魔女さんは無事でしょうか」
騎士「ところで魔女さんが全然僕の名前覚えてくれないんですけど、そういうのどうしたらいいですかね」
騎士「いや、本当僕は影の薄さが悪いとは分かってます。分かってますけど!!うわああああ!」
竜人「騎士さん全然影薄くないですよ!大丈夫です!」
竜人「でも何かインパクトがあるといいのかもしれませんね。ギャップというか。
魔女は単純なので何か分かりやすい特徴があればすぐ覚えると思いますよ」
騎士「インパクト……全裸とかですか?」
竜人「そんなハードモードいきなり選ばなくても……。例えば眼鏡とかモヒカンとかほら……」
キキーッ
警官「てめえ、ここらへんで麻薬売りさばいてる奴だな。来い、逮捕だ。神妙にお縄につけ」
竜人「え?麻薬?そんなもの売りさばいてません」
警官「しらばっくれんな!!てめえのそのジャケットにベルト、手配書にある通りだ!」
騎士「あっ、そうか!竜人さんが極めて穏便に服を頂いたあの人、確か危ない人じゃなかったですか?」
竜人「ああ……そういえばそうでしたね。逃げましょう」ダッ
警官「待ちやがれ!!!麻薬密売人め!!!」
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529 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 01:05:48.66 ID:sWebTHduo
ダッダッダッダッ
竜人「こんなことならあの方から服を頂戴しなければよかったですね……チッ」
竜人「……ん……?」
騎士「竜人さん!あれって!!」
ブオンッ!!
竜人「魔王様っ!!!」
騎士「と勇者さん!!」
魔王「竜人……!?騎士! 何故こっちにいる?」
騎士「どこに行くんですかー!?」
勇者「中央区の駅に来い!!俺たちは都市に行く!!」
魔王「えっと何だっけ、レッサーパンダに乗るのだ!」
少年「列車ね」
魔王「待ってる! 二人も来るのだぞ!」
竜人「魔王様……っ!! よくぞご無事で……!
勇者様もご無事でよかった……!!」
勇者「あんま身乗り出すと落ちるぞ!!」ギュッ
魔王「ぁわっ……だ、大丈夫だ」
勇者「お前らも早く来いよ!列車は正午発だ、遅れるな!!」
ブォォォォ……
竜人「…………」ブチッ
竜人「はい。すぐ行きます」
騎士「竜人さん、こめかみから血が噴き出てますけど!?」
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530 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 01:12:14.80 ID:sWebTHduo
警官「ん?もう逃げるのはやめたのか?賢明だ」
スタスタスタ バタン
竜人「あの屋根ない車追ってください」
警官「は??何言ってんだ、今から署に向かうんだ」
竜人「誘拐犯が乗ってます。あの男です。横にいるあの娘がかどわかされました」
警官「あっ!!あいつ、この間プリズンブレイクしやがった男じゃねえか!!誘拐だとっ!?」
警官「やっぱ余罪あったんじゃねえか……!!後輩、追え!!」
後輩「いえっさ」ガチャコン
ギャリリリリリッ ブォーーーン!
竜人「誘拐罪、銃刀法違反、下着泥棒、恐喝、資金横領、猥褻物陳列罪など余罪多数です」
騎士「りゅ、竜人さーーん」
竜人「さらに許されざるべき変態です!!早く追ってください!!!私が仕留めます!!!」
騎士「竜人さーーーーーーーーーーん!!」
少年「だれ、あの人たち?あんたらの知り合い?」
魔王「竜人に騎士だ。君も知っているだろう」
少年「しらねーよ、あんなギラギラした目の奴……こわ」
勇者「ゲッ!! またあのケーサツの奴ら!おいおい面倒だなぁ」
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531 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/14(月) 01:13:18.92 ID:sWebTHduo
* * *
女「……」
女「見つけた」チャキ
女「ねえ」
男「ん……? 何、 グギャッ」ビチャ
女「車もらうよ」
女「…………列車ね」
* * *
頭領「いくぜお前ら。列車はここを必ず通る。そしたら車から飛び乗るんだ」
頭領「銃は持ってるな?」
A「持ってまーす」
B「久しぶりの大仕事だ!わくわくするね」
魔女「いえーい! それにしても、本当に街の外は砂漠しかないんだねー」
魔女「なんかさびしいや」
姫「そうですわね……空は昼も夜もずっと曇天ですし、何だか慣れませんわ」
魔女「ねー。そろそろ青い空が見たいな」
「「……ハッ」」
姫「……」プイ
魔女「……」プイ
強盗団「まぁだやってんのか?」
頭領「もうすぐ来るぜ……俺たちの夢の列車がな」
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543 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:12:17.91 ID:/+CRjLUpo
駅
シスター「私はここまでだ。頼むよ、お前ら」
勇者「ああ、まかせとけ」
シスター「……少年。お前の家はこいつらが守ってくれるよ。
この男は私が召喚した悪魔なんだ」
少年「はあ……シスター、また妄想にとり憑かれてる」
少年「悪魔なんて、いないって」
シスター「いるさ」
シスター「信じれば何だって存在するんだよ。神様も天使も悪魔も」
少年「……目に見えないのならいないのと同じだ」
ダダダダダッ
勇者「黒服のあいつらまだ追ってきやがる」
勇者「このまま列車とやらに乗るぞ!どこで乗れるんだ?」
少年「えっと、た、多分あそこ」
魔王「よし行こう」
駅員「ちょっと! 困りますよ、あんたら切符買わないで何通り抜けようとしてるんですか?」
魔王「きっぷ?買わないといけないのか。いくらだ」
駅員「これ料金表です。都まで?だったら、ここご覧ください」
魔王「ん……。高いな。手持ちの金では払えんぞ」
少年「ど、どうするんだよ?僕も金なんて持ってない」
勇者「言わずもがな俺もだ!!」
黒服「いたぞっ!捕えろ!」ダダッ
黒服「列車に乗って都まで行くつもりか!?そうはさせん!」
魔王「まずいぞ。何か…… そうだ。この指輪をきっぷ代にはできないか?」
駅員「指輪?ふーむ、なかなか高価そうな赤い宝石ですね、それなら……」
魔王「…………では、これを」
勇者「待て!それ、先代から受け継いだ大事なもんなんだろ。とっとけよ。
代わりに俺の剣をきっぷ代にしてくれ!!宝石もついてるし多分それなりに値打ちもんだ!多分!」
駅員「ええっ、剣はちょっと……!?」
勇者「じゃあそういうことでよろしくな!よし行くぞ!」ダッ
駅員「えっあのっちょっと!?」
黒服「くそ!追えっ!!」
黒服「えーっと1,2,3……大人25枚まとめて買えますか……あ、領収書下さい」
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544 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:15:15.77 ID:/+CRjLUpo
魔王「これが……れっしゃ?」
魔王「横長い家の間違いでは?これが本当に動くのか?」
少年「僕でも列車くらい知ってるぞ。どんだけ世間知らずなんだよ」
勇者「小部屋がいっぱいあるな。なんなんだこれは」
少年「都まで大体丸一日かかるらしいから、寝具もついてる。食堂とか娯楽室とかもあるって聞いたけど」
魔王「つまり大きな建物が人を乗せたまま動くと……。魔法も使わず本当にそんなことができるのか?」
ビーーー…… ゴトッ
勇者「うわっ!!本当に動いた!! すげー」
魔王「……竜人と騎士は間に合わなかったようだな。しかし何故彼らまでこちらに……あっ」
魔王「黒服の面々が追ってきたぞ」
少年「あいつらしつこいな……でももう列車は動きだしてる。これでもう追えないさ」
黒服「うおおおおおおおおおーーっ!!」ガシッ
少年「な……なに!?根性で列車の側面にしがみついた!」
勇者「しつこい奴らだ。お前らは先に進め、ここは俺が――」
ガシャーーン!!
人「うわあ!?何事だ!?」
人「窓から人が……」
黒服「皆さまご安心ください。我々は怪しい者ではありません。
そこにいる犯罪者3人組を捕えるために荒々しい手法をとらざるを得なかったことをお詫び申し上げます」
勇者「犯罪者はお前らだろうが!」
黒服「ショッキングな映像をご覧になりたくない方はコンパートメントの扉を固くお閉めください。
また野次馬になった方は巻き添えをくらうことになるかもしれませんがあしからず」
バタンッ バタンバタン バタンバタンバタンッガチャ
黒服「ご協力ありがとうございます」チャキ
――――――――――――――――――――――――――
545 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:18:31.97 ID:/+CRjLUpo
「ぐぁっ」
黒服「!?」
勇者「全員動くな。指一本でも動かしたら、お前らの仲間がどうなっても知らないぜ。
こんな至近距離からなら、俺でも弾もあてられる」
少年(……こいつ自分のこと勇者とか言うわりには、躊躇なく人質とかとるなぁ……)
黒服「…………お前らの目的は何だ?この列車は都行きだ。都市に行ってどうするつもりだ」
魔王「お前たちの会社の社長とやらに会いにいくんだ」
黒服「ふん、直談判でもするのか?あの土地は既に我々のものだ。なかなか出て行かなかったその小僧が悪い」
黒服「法も社会も全て我々の味方だ。むしろ業務妨害でこちらが訴えたいくらいだね。
この間お前が怪我させた人材と、破壊させた機械で損害がいくらになるか電卓で打ってやろうか?」
魔王「正当防衛だ。子どもを事故死に見せかけて殺そうとしたことの方が重罪だろう。
そのことが周りにばれてはまずいから、こうして追いかけてきたのではないのか」
勇者「とにかく俺たちは都市に行く。法も社会も関係ねえ、お前らに邪魔はさせない」
黒服「都市には行かせない。お前らは今後どんな損害を生むか分かったもんじゃないからな。
悪いがブラックリスト入りだ……ここで消えてもらう」チャキ
勇者「おい、動くなと言っただろ」
黒服「さっき俺たちが特殊な訓練を積んだ者だと言ったが……あれは嘘じゃない。
お前が工事現場で相手した奴らと一緒だと思うなよ」
黒服「俺たちはお前らみたいな厄介者を相手するためにいるんだ。荒事専門」
黒服「あっさりそいつを人質にできたのはすごいが……
こういう状況になったときにどうするか、俺たちはすでに決めてあるんだ」
黒服「恨みっこなしだってな」
勇者「!?」
バンッ! ドガガガガガ……
勇者「……信じらんねえ!あいつら仲間もろとも撃ってきやがった!二人とも大丈夫か?」
少年「う、うん」
魔王「こちらにも銃はあるが、まともに撃てる者がいない……逃げよう」
勇者「よし」
ダッ
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546 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:19:26.38 ID:/+CRjLUpo
ドガンッ ダンダンッ! ドガガガガ
少年「うわぁぁ……!なんだよこれ……っ」
勇者「障害物のあるフィールドじゃないと不利すぎるな。食堂とか娯楽室ってのはどこらへんにあるんだ!?」
少年「しらねーよ!僕だって初めて乗るんだから!」
勇者「それに武器もほしい……剣とかないのか?」
少年「あるわけねーだろ!!博物館にでも行けよ!!」
黒服「チッ 追うぞ!! 他の街へ応援要請はだしたか?」
黒服「はい。間もなく到着するようです」
黒服「いざとなれば列車止めてでもなんとかするぞ」
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547 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:21:48.13 ID:/+CRjLUpo
* * *
騎士「もっと速く動かないんですか!?勇者さんたちもう行っちゃいますよ!」
後輩「だめでしたね。正午1分過ぎ、もう列車は行きました。あれって都市行きですよね」
後輩「都市の警察に連絡しておきます」
警官「チッ……逃がしたか。まあしょうがない」
竜人「ええっ?困りますよ、追ってください!!」
警官「列車は一度走り出したら都市までずっと止まらないんだ。車じゃ追いつけん」
警官「お前らは一旦署に………… …………あ?」
後輩「?」
警官「あ……あれ……あの女!!!連続殺人犯だ!!」
後輩「うわ、本当ですね。列車に乗ってましたよ。都市に逃げる気ですね」
警官「……!! 後輩……車を出せ」
後輩「どっちにですか?」
警官「街の外に決まってんだろ!!!あの列車を追うんだ!!なんとしてでもあの女を俺の手で捕まえる!!!」
後輩「はーい」ガチャコン
ガガガガガガガ……
後輩「うーん、砂漠はやっぱり走りづらいですね」
竜人「連続殺人犯って……あの新聞に書かれていた?あれに殺人犯が乗ってるんですか!?
魔王様と勇者様もあれに乗ってるんですよ!どうするんですか!追いつかないと!」
警官「ぎゃーぎゃー騒ぐな!!だから今追ってんだろーが!!
列車とはいえ初速なら追いつける可能性がある。今フルスピードで走ってんだ」
竜人「竜の姿になれればすぐ追いつけるのに……歯がゆいですね」
警官「ハァァ?どういう意味だ?」
後輩「でも、先輩。追いついたとしてもどうやって列車に乗るんです?あの列車止まりませんよ」
警官「飛び移る」
後輩「ええっ?下手すりゃ死にますよ」
警官「んなこと気にしてられっか!あいつは俺が絶対捕まえる!!捕まえなくっちゃいけねーんだ」
騎士「何か因縁があるんですか?」
警官「俺は何年もあいつのこと追ってたんだ。やっと捕まえたと思ったら護送中に逃げられた……」
警官「……あいつが逃げた理由、俺には分かる気がするんだ」
後輩「逃げた理由なんて……一つしかないでしょう。牢獄に入ったら人殺せませんから」
――――――――――――――――――――――――――
548 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:22:53.42 ID:/+CRjLUpo
警官「一見そうとしか見えねえが、あいつはただの快楽殺人犯じゃあない。
あいつのしてきたことは絶対許せねえが……」
警官「何年も追っかけてるうちに情が湧いちまったのかもしれん。
せめて最後に俺はあいつの願いを叶えてやりてーんだ」
竜人「……?」
騎士「なんか深い事情がありそうですね。
でも、列車に追いついたときに僕たちもどさくさに紛れて飛び移れば……」
竜人「そうですね。彼らにはなんとしても追いついてもらわないと」
竜人「しかし……街の外は随分荒廃してるんですね。砂丘しか見えません」
騎士「太陽ないから砂漠でも暑くないですね。あ、でもあそこに池みたいなのありますよ」
竜人「池にしては……変な色ですね……」
後輩「君たちは街の外に出るのは初めてなのか?あれは酸性泉だよ。
入ると全身どろどろに溶けるから近づかないようにね」
警官「あれくらいのでかさならまだいい方だが、街から離れるともっとでけえのがある。
車いっこがっぽり入っちまうでかさとか、それ以上のとかな」
警官「ま、お前らはすぐ牢屋に入れさせてもらうから街の外にでる暇もねーだろ」
――――――――――――――――――――――――――
549 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:24:08.70 ID:/+CRjLUpo
* * *
頭領「よし今だ!飛び移れ」
姫「とととと飛び移れ!?なに言ってるの!?
列車も車も、馬車の何倍もの速さで動いてるのよ?無理です!」
頭領「できると思えば何でもできる」
姫「はーっ……はーっ……はーっ……まさかこんなアクションを要求される日が来ようとは……死んだかと思った……」
頭領「よし全員乗り移ったな」
強盗団「いえー」
魔女「これからどうするの?」
頭領「お前らは乗客が騒がないよう見張れ。魔女と姫は7号車担当だからこっから進行方向の逆に進むんだ」
頭領「ほかの奴らも決めた通りに動け。俺は目当ての宝がどこに保管されてるか探す」
魔女「え~~!あたし見張りなんて地味なのヤダ。あたしもお宝探しに行きたい」
頭領「決定事項だ。逆らうな」
魔女「ちぇ」
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550 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:32:43.35 ID:/+CRjLUpo
7号車
姫「えっとここが7号車ね」
強盗団「おう。んじゃちょっとぶっ放すか」
姫「え?」
ダーーーン!
乗客「!?」
乗客「なんだ……!?」
強盗団「いいかお前らよく聞け!!この都市行きの列車は俺たち強盗団が乗っ取った!!」
強盗団「頭に風穴開けられたくなかったら騒ぐなよ!!全員ほかの車両への出入りを禁じる!!大人しくしとけよ!!」
姫「な……なな……何を……」
ざわざわ ざわざわ
強盗団「これからお前らの荷物をチェックさせてもらうからな!武器と通信器具は没収する!
金目のもんもちょっと頂くかもしれねーがな。そんくらいならお前らにとっちゃ痛くもかゆくもねーだろ」
強盗団「ほら姫も銃構えてろ。牽制しなくっちゃ」
姫「ええっ……そ、そんな……」
魔女「あ」スタスタ
姫「?」
魔女「おじさんも銃持ってるんだ。でも抵抗は止めた方がいいよ」チャキ
乗客「!!!」
姫「魔女さん!?」
魔女「その銃寄越して。じゃないとおじさんの体どうなるのかな~」
乗客「わ、わかった!分かったから銃を下ろしてくれ……!」
魔女「はいよ」
姫(あ、あんな躊躇なく……やっぱり魔女さんと私は違うのだわ)
姫(王女がこんなことしてるところなんて、国民には絶対話せないわね……)
姫(そもそも自衛以外で武器を人に向けるなんて……!ましてやこの銃を撃つなんて絶対無理よ。あぁ……これからどうなっちゃうのかしら)
姫(というか魔王さんと勇者探しはいつ始められるの……)
――――――――――――――――――――――――――
551 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:34:50.13 ID:/+CRjLUpo
* * *
17号車
バタン!
勇者「あっ!このパイプもぎとれば武器になりそうだな!」ボキッ
黒服「待て!」ドタバタ
勇者「待てと言われて待つ奴がいるかっ!」
ガチャ
強盗団「……!?なんだてめーら……動くな!!この列車は俺たちが乗っ取った!!」
少年「えっ! れ、列車強盗だ……!」
魔王「前から強盗、後ろから黒服の連中か。万事休すな」
勇者「こうなったら……上だ!屋根に上るぞ!」
少年「無理に決まってんだろっ」
勇者「この階段から行ける!少年から先に上れ、俺が最後に行くから」
少年「正気かよぉ」
黒服「強盗団だと……!?面倒な時に乗り合わせたな」
強盗団「おい、そこの黒い団体さんも動くなよ。武器と通信器具と金目のもん寄越せ」
黒服「お断りだね。邪魔するならてめーらもあいつらと同じ目にあうぜ!」
強盗団「上等じゃコラァ!何者か知らないがこの列車は俺たちの支配下にあるんだ、大人しくしやがれ!!」
ドンパチドンパチ
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552 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:38:13.56 ID:/+CRjLUpo
ビュオオオォォォォォ
少年「うわぁぁぁっこわいっ」
魔王「大丈夫だ、後ろに私がいる。落ちたら受け止めるから」
少年「お前も涙目じゃんっ!頼りになんないよ!」
魔王「砂が目に入ったのだ」
勇者「お前らついてくんじゃねー!蜂の巣にすんぞオラァ!」ドドド
黒服「全然あたってねーぞ」
黒服「あいつノーコンだ」
勇者「うるっせえ!! 二人とも上ったか?」
魔王「上ったが、風圧がすごくてこれでは歩けんぞ」
少年「こんなん無理だって!」
勇者「じゃあ二人とも俺が抱える!ちゃんと掴まってろよ!」
少年「どわっ」
魔王「私は子どもではないぞっ」
勇者「似たようなもんだろ」
ダッダッダ……
少年「うわぁぁっ……よくこんなところ走れるな。あんた何者だ……?」
少年「実は軍人だったりするの?」
勇者「グンジン?また分かんない単語でてきたな。知らないが、俺は勇者だ」
少年「ああ……ソウデスカ……」
――――――――――――――――――――――――――
553 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/08/16(土) 22:39:05.85 ID:/+CRjLUpo
* * *
頭領「ふうん……これが……」
強盗団「うわーっ すげえ。これが本物の植物かぁ」
強盗団「恐竜の化石、けっこうでかいんだな」
男「ば、馬鹿っ!!乱暴に扱うな、それらにどれだけの価値があるのか分かってるのか!」
男「金銭の問題だけじゃない、我が国の歴史的財産なんだぞ」
頭領「そんな価値あるものを金持ちにだけしか見せてくれねーのはひどくないかね」
頭領「よし、8号車に開いてる客室があったな。そこにこれは保管しとくぞ」
男「くっ……くそう、お前ら強盗なんかに奪われるなんて」
頭領「ま、運が悪かったと思ってくれや」
頭領「じゃ、このあと適当に金持ちの連中からとれるだけとって、都市に近くなったらずらかるぞ」
頭領「都市にいるほかの仲間が車で迎えに来るから、荷物は乗り移るときに邪魔にならないくらいにしとけよ」
「はーい」
強盗団「けっこうあっさり目的は達成できましたね。騒ぐ乗客もいないみたいだし」
頭領「ああ。少し退屈ではあるがな」
プルルル
頭領「ん?着信だ。 どうした?なんかあったか?」
『お頭ー!大変だー!』
『いま黒い服着て銃装備の男どもと、17号車で交戦中だ!何人か仕留めたが、こっちもやられた!』
頭領「黒い服着た男ども?何者だ?」
『車掌でも乗客でもないみたいだ!誰か追ってるみたいで、逃げてる奴らとそれ追った黒服は屋根からそっちに向かった!』
強盗団「一体何が起こってるんだ……?」
頭領「お前らはその宝をなんとしてでも守れ。俺はあいつらのところに行ってくる」
頭領「いい退屈しのぎができたじゃないか」