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455 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:20:18.34 ID:hfpVOjiho

 

 

 

シスター「いまは誰もほんとに来ないけどさ、前はちょくちょく来てた子どもがいたんだ」

 

シスター「兄と、たまに妹。妹の方は体が弱くて、あんまり来れなかったんだけどね」

 

シスター「兄の方は、今お前がいる席でよくそのボロッちい本たちを読んでたよ。

      暗記して家で妹に聞かせてやってたんだってよ」

 

シスター「貸してやるって言ったんだけど、全部持ち帰ると重いからって、ほとんど暗記してた。

      学校に行ってたら結構成績よかったんだろーな」

 

勇者「……俺と、この世界にいっしょに来た連れの名前がある」

 

シスター「ん? それは遠い昔の異国の神話だよ。どれ?」

 

勇者「これと、これ」

 

シスター「お前の名は太陽の神様、連れの名は月の女神様だね」

 

シスター「なにお前、悪魔じゃねーの。詐欺かオイ」

 

勇者「それは最初から言ってる。だけど人間だからな」

 

勇者「よく来てたっていうその子どもに会いたいんだけど、会えるかな」

 

シスター「1年前くらいからパッタリ来なくなったよ……

      まあ、家は知ってるから、案内してやることはできる」

 

勇者「案内してくれ」

 

勇者「多分そいつが俺の探してた奴だ」

 

 

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456 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:22:07.76 ID:hfpVOjiho

 

 

 

* * *

 

 

騎士「ま、魔女さん。泣きやんでください」

 

魔女「無理だよぉ…… うううぅぅっ なんで黙って自殺なんかするの!なんなのも~~~……

   死んじゃったらもう二度と会えないんだよ……ひぐ」

 

姫「……」

 

竜人「……」

 

騎士「…………泣きやんでください魔女さん!」

 

騎士「僕はあの二人が、こんな時に何の理由もなく毒を飲んで死んだりしないと思います!!」

 

騎士「絶対何か理由があったんだって思います。そうしなければならなかった理由が!」

 

騎士「毒薬はまだつくれますか!?」

 

魔女「えっ…… うん……材料を集めれば……二晩もあればできるけど」

 

騎士「じゃあお願いします!僕が毒を飲んで、二人を連れ戻してきます!」

 

魔女「へっ……!? な、なに言ってんの!?」

 

魔女「死ぬっていうの……?」

 

騎士「……はい。でも、何とかなりそうな気がするんです。勇者さんと魔王さんがなんで毒を飲んだのか分からないけど

   ……でももし二人が死の先にある何かを探しに行ったなら、僕も手伝ってきます」

 

騎士「あの二人に比べたら非力な僕かもしれませんが、必ず二人を連れ戻してきます。

   だから、泣かないでください!大丈夫です!!」

 

魔女「……、……」

 

騎士「僕の名前は騎士です!」

 

魔女「騎士……本気?」

 

 

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457 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:23:21.07 ID:hfpVOjiho

 

 

 

 

竜人「……私も毒を飲みます。そうですね、騎士さんの仰る通りです。

   これには何か理由があるはず。お二人を手助けせねば」

 

姫「私も……飲みますわ」

 

騎士「え゛っ……姫様は、さすがに……。やめた方が……」

 

姫「いいえ。私も勇者と魔王さんを信じます」

 

魔女「……だったらあたしだって信じるよ。ずっと信じてきたもん。 あたしも飲む」

 

忍「集団自殺か何かですか?」

 

妖使い「おもしろそうだね。俺らも飲むよ。できれば美味しい毒薬がいいんだけど」

 

忍「えっ、ちょっと勝手に」

 

竜人「魔女の薬である限り、その望みは捨てた方がよいでしょう」

 

魔女「うるさいな。美味しい毒なんてつくれるわけないじゃん!

   ま、いいや。今日からつくるから、みんな材料とるの手伝ってくれる?」

 

 

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458 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:24:14.02 ID:hfpVOjiho

 

 

姫「……ふー……」

 

騎士「うわあ、すごい色……。あっいえとっても美味しそうですね魔女さん!」

 

魔女「でしょ? じゃあみんな……かんぱい」

 

竜人「……では一気に」

 

 

ゴク

 

 

妖使い「おえーっ まずっ!!!うわあこれはひどい」バタッ

 

魔女「でも効果は抜群でしょ?ほら、妖使いすぐ死んだ」バタッ

 

竜人「死ぬ間際までふざけてあなたたちは全く! うぐっ」バタッ

 

姫「そんな皆さんコントみたいに死ななくても…… ああ」バタッ

 

騎士「吐きそう……」バタッ

 

忍「ちょっと皆さん早いですよ、待ってくださいよーっ!!」

 

 

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459 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:30:10.61 ID:hfpVOjiho

 

 

 

冥府

 

 

鍵守「……あれ」

 

鍵守「また」

 

 

竜人「ハッ!ここは!? 魔王様は!?」

 

魔女「……うう~ここはどこあたしはだれ」

 

姫「あんなコロッと死ぬなんて……風情も何もなかったわね」

 

鍵守「ええと……おおいな。ちょっとみなさんここにあつまって……」

 

 

 

 

鍵守「というわけで、勇者と魔王は月にあるトビラを開けて、あっちのセカイにいきました」

 

騎士「よかった!やっぱりあの二人がああしたことには意味があったんだ」

 

鍵守「あと4人なら、ボクもトビラの向こうにおくれます……さあ、いそいで。カギはあいています」

 

鍵守「彼に……会いに」

 

魔女「え?4人じゃないよー。あと二人いるんだよ。妖使いと忍はどこいったんだろ?」

 

姫「そう言えば……」

 

鍵守「えっ?あと2人……?」

 

 

 

    「……なるほど!」

 

 

妖使い「トビラは冥府の月にあったのか。どうりで見つからないはずだ!」

 

忍「前、彼が来たときには月が出てませんでしたもんね」

 

妖使い「そうか、君が隠し持ってたのか。ぬかったなぁ、ハッハッハ」

 

忍「ぬかりましたねー若。ははは」

 

 

 

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460 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:31:28.62 ID:hfpVOjiho

 

 

 

騎士「……?なに言ってるんですか?」

 

 

鍵守「え…… え?あなたたちは……  ふわっ!」

 

忍「あなたはちょっと邪魔なので、とりあえずおとなしくしててくださいね!」

 

忍「こんなことなら、冥府から先に取りかかればよかったですね」

 

妖使い「全くだ。勇者と魔王が一緒に行動するのはできるだけ避けたかったんだけどな」

 

妖使い「そのために色々してきたってのに……つまらないな」

 

妖使い「おまけに扉を開けられてしまった」

 

妖使い「どうせ、無駄だと思うけどね。万が一ということもある……」

 

 

妖使い「ま、とにかく、過ぎてしまったことを嘆くより今できることをしよう。

     君たちは扉の向こうに渡さないよ」

 

忍「いずれこの冥府ももう少しで消えます。ここでその崩壊を待ってもらいますから!」

 

竜人「どういうことか、説明して頂けるんでしょうね」

 

魔女「君たち何者?」

 

 

 

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461 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:34:25.70 ID:hfpVOjiho

 

 

 

 

 

 

妖使い「俺たちは道化役だ」

 

忍「もしくは観客?」

 

妖使い「邪魔者で」

 

忍「傍観者」

 

妖使い「トリックスター」

 

忍「悪役かも」

 

妖使い「あるいは、創世主の記憶を受け継ぐ写し身」

 

忍「彼がこの世界に覚醒したと同時につくられた、役割を持たない無干渉者です」

 

 

 

姫「創世主!?あなたたちは人間ではないの?」

 

騎士「東国からやってきたっていうのは、嘘だったんですか!?

   ずっと、僕たちを騙していたんですか」

 

妖使い「東国なんてこの世界には存在しない……

     いや、君たちにとっては在るものなのかな?」

 

妖使い「在ってもなくても、この世界の東国なんて俺は知らないね」

 

魔女「……敵なんだね。邪魔するつもりなら、押し通るよ」

 

竜人「そこをどいてください。私たちは扉の先に行きます」

 

忍「だから無理ですって。行かせないって言ってるじゃないですか?」

 

騎士「……どかねば斬ります」

 

妖使い「どうぞ」

 

騎士「……っ! はああああっ!」

 

 

ズバッ

 

 

騎士「!? なに!?」

 

妖使い「俺たち自身に君たちを消す力はない。消すのは影の専売特許だ」

 

妖使い「でも君たちの攻撃が俺たちを傷つけることは絶対あり得ない。そういう設定だからさ、ごめんよ」

 

妖使い「よいしょっと!」パッ

 

騎士「ぐ……っ!?」

 

 

ズダンッ!!

 

 

姫「騎士!」

 

騎士「ぐは……!」

 

 

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462 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:37:48.52 ID:hfpVOjiho

 

 

 

魔女「騎士が死んだ!仇をとるからね!妖使いめ、この野郎!」

 

騎士「じんでないでず魔女ざん……!!」

 

竜人「魔女と姫様は下がっててください! このっ……!」

 

 

ザシュッ ザク

 

 

竜人「くっ 何故だ……あたってはいるのにすり抜ける」

 

忍「だから、無駄ですって。勝てません。

  大人しくここで待っててくれれば、冥府に来てまで痛い思いしなくて済むんですよ」ゴキッ

 

竜人「っが……!  くそっ!」

 

忍「消す力はありませんが、再起不能にまで痛めつけるくらいの力はありますテヘヘ」ググッ

 

竜人「!! ぐあぁぁ…………っ」

 

姫「やめなさい!! 待って……訊きたいことがあるわ」

 

姫「……どうして東国からの使者だなんて嘘をついてまで、私たちと共にいたの?

  そんなに強い力を持っていながら、何故」

 

妖使い「勇者と魔王が結託して彼に歯向かうようなことは……少し避けたかった。

     崩壊は止められないとは思うけど、彼には僅かに不安があった」

 

妖使い「俺たちはあの二人の絆を壊すためにつくられた」

 

忍「二人は人と魔族であることをちょっと教えてあげれば、すぐ崩れてましたね」

 

姫「でも、そんなにあの二人を危惧していたなら、どうしてまず最初にあの二人を物理的にどうにかしなかったの?」

 

姫「心理的に二人を引き離すのは確実な方法とは言えないわ」

 

忍「……確かに。なんででしょうね? 若」

 

妖使い「その方法があったか。しくじったな!」

 

姫「……え。気づいてなかっただけですか」

 

魔女「とぼけないでよ。君たち二人ともさ、ほんとは……もしかして」

 

魔女「!! ぅ……」ドサ

 

騎士「き、貴様!」

 

 

 

妖使い「君たちは誤解してるよ」

 

 

 

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463 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:40:47.51 ID:hfpVOjiho

 

 

妖使い「彼が大昔を起点に世界をつくったと思ってるかもしれないけど違う。

     世界の起点は今から数年前」

 

妖使い「あの和平の日がまずあって、そこから過去がつくられた」

 

妖使い「あの日まで、過去から未来がつくられたんじゃない、未来から過去がつくられていたんだよ」

 

 

妖使い「はぁ……それにしても、君たちに彼の気持ちが分かるかな」

 

妖使い「あの子のためにつくった戦いのない美しい世界だったのに

     蓋を開けてみれば……何だ?あの凄惨な百年前の戦争は?」

 

妖使い「彼はあんなことまでつくってなかった。あんなの望んじゃいなかったよ」

 

妖使い「たった一言「戦争が100年前にあった」ってことを書いただけで、あんな風になっちゃうなんて思いもしなかったさ」

 

妖使い「世界はとっくに創世主の手を離れてたんだ」

 

 

鍵守「でも……ボクは……」

 

妖使い「君は黙っててくれよ」

 

妖使い「そこの子どもがあの子の死をきっかけにこっちの世界で目が覚めたように」

 

妖使い「彼もあることをきっかけにこっちの世界で目が覚めたんだ」

 

竜人「さっきから彼と言いますが……彼って誰ですか。創世主?」

 

忍「ほんとの創世主は扉の向こうにいますよ」

 

忍「彼は、創世主の『この世界を拒絶する感情』」

 

妖使い「だから、ほんとのほんとにこの世界はもう捨てられたんだ。君たちの役目はもう終わった。

     劇はもう閉幕だ。役者はもう帰ってくれ。さっさと消えてくれよ」

 

姫「創世主が拒絶したって関係ないわ!私たちは私たちのために生きてるんだもの、そんな……」

 

忍「はいはい。もういいです」トン

 

姫「うっ……!」

 

 

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464 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:43:13.12 ID:hfpVOjiho

 

 

 

忍「もう喋るの疲れちゃいましたよ」

 

魔女「うう 魔法が使えたら……」

 

忍「魔法なんて最初からなかった。みんな夢を見ていただけです」

 

妖使い「ドラゴンなんていない。魔女なんていない。姫なんていない。騎士なんていない」

 

妖使い「空なんてない。海なんてない。太陽なんてない。星なんてない。雪なんてない。森なんてない。月なんてない」

 

妖使い「勇者なんていない。魔王なんていない」

 

妖使い「剣なんてない。魔法なんてない」

 

妖使い「ハッピーエンドなんてない」

 

妖使い「全部、さいしょからなかった。こんなもの、なんにもならなかったよ」

 

 

鍵守「そんなことない……!!」

 

 

バリッ……

 

 

忍「……? あれ」

 

妖使い「体が……。へえ、何したんだ? 偽物のくせに……」

 

鍵守「ボクは確かに偽物だけど……でも、こんなのあの子がのぞんでないってことだけはわかる」

 

鍵守「みんなたって!はやく……月のトビラへ……」

 

鍵守「ボクも……ながくはこのふたりを、とめてられない……」

 

騎士「……! は、はい。魔女さん、姫様!しっかりしてください!」

 

竜人「鍵守さん……あなたは一体?」

 

鍵守「……はやくいって……」

 

 

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465 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:44:09.55 ID:hfpVOjiho

 

 

 

ギィィ…… バタン

 

 

鍵守「はあ……はあ……」

 

忍「うげげ、どうしよう若。みんな行っちゃいましたけど」

 

妖使い「行っちゃったね……やべーよ」

 

妖使い「でも驚いたな。君がわずかな時間だけでも俺たちの動きを止められたなんて」

 

鍵守「トビラのカギはもうかけたよ。もう、彼らのじゃまはさせない」

 

鍵守「もうやめようよ……こんなのだれものぞんでないよ……」

 

鍵守「かなしいよ……」

 

妖使い「でもそれが俺たちの存在意義だから」

 

 

忍「鍵ですか。ふーん。時間をかければ解錠できそうですね」

 

妖使い「すぐ取りかかろう」

 

妖使い「全く厄介なことしてくれるなぁ。妖孤、ちょっと出て来い」

 

妖孤「はい?」

 

妖使い「お前、ちょっと鍵穴に突っ込まれろ」

 

妖孤「久々にかける言葉がそれですか!?無理言わないでくださいよ~~~」

 

 

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466 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:46:03.33 ID:hfpVOjiho

 

 

 

 

* * *

 

 

少年「暇なら、その服どうにかしなよ。それ着てるだけでここらへんじゃ目立つ」

 

少年「それ売って、適当に服屋で買えば。じゃ僕は仕事に行くから……」

 

 

 

 

魔王(と言われて来てみたが……困った……)

 

魔王「頼む、私の服を返してくれ」

 

服屋「もうこの服は買い取ったんだ、返せないわ。

   銀のボタンがついた服なんて初めて見た。こりゃいい品だ」

 

服屋「金は渡したし、あなたが選んだ服はもう着てるじゃない。似合ってるけど?」

 

魔王「選んでない。君が勝手に押しつけて着せたんじゃないか……」

 

魔王「上はいいとして、なんだこれは。こんなものを着て外を歩けるか。これは服ではない。下着というものだ」

 

服屋「下着じゃないよ。ショートパンツっていうものだよ」

 

魔王「パンツじゃないか!」

 

服屋「ああもう面倒くさい。帰ってくれ。あざーした」

 

 

ペイッ

 

 

 

 

 

少年「ふう……やっと仕事が終わった……」スタスタ

 

少年「あれ?偶然だな。 ……ああ、服。そっちの方がやっぱ目立たなくていいよ」

 

魔王「よくない……」

 

少年「?」

 

少年「……で、あとこの街の何が聞きたいわけ。もうほとんど昨晩話したと思うけど」

 

魔王「そうだな…… む、このチラシは?」

 

 

 

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467 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:51:41.68 ID:hfpVOjiho

 

 

 

 

魔王「そういえばここらへんでたくさん見かける」

 

少年「ああ、これは最近噂になってる連続殺人犯の指名手配書。

    中央区で何人も残虐な方法で殺した殺人犯だ」

 

少年「警察に一度捕まったのに、護送中に逃げたんだって」

 

魔王「ここでは、警察というものが秩序維持組織なのだったな」

 

少年「そ。 にしても警察知らないって…… まあいいや」

 

少年「いろいろ教えるのも今日までだからな。終わったらどっか行けよ」

 

魔王「分かった」

 

少年「とりあえず、家に……」

 

 

ガシ

 

 

少年「……え?」

 

魔王「!」

 

男A「よォ~~~~お二人さん。この間はどうも」

 

男B「やぁっと見つけたぜ……」

 

少年「……おっ……お前ら」

 

男A「お前たちのおかげでえらい目にあったぜ……今日はその借り、返そうと思ってさ」

 

男B「ちょっと来いよ」グイ

 

魔王「離せ」

 

少年「やめろよ、離せよ」

 

 

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468 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:53:24.25 ID:hfpVOjiho

 

 

 

男A「なめた真似しやがって。今日はそうはいかねえぞ」

 

魔王「痛いぞ。離せ」

 

男A「そう言われて離す奴がいるかよ」

 

少年「……ん?」

 

少年「……お、おい。なんか、車が」

 

男B「ハッ、もうハッタリには騙されないぜ。パトカーが来たって注意を引くつもりなんだろ?

   ばーか、んな子ども騙しにひっかかハギュッ」

 

 

―――ドンッ!!!

 

 

男A「」

 

男B「」

 

少年「……!? だ、だれだ……?」

 

女「こんにちは」

 

少年「……ほんとにだれだ!?」

 

女「ああ、あなたはこの間店の前を通った子じゃない。私はあっちで花屋の売り子やってる者よ」

 

女「なんか……今轢いた? まあいいや。乗る?」

 

男A「ぐ、ぐぐ……て、てめえ……なにしやがる!」

 

 

女「どっちでもいいけど。大変そうなら乗せてあげてもいいよ」

 

 

 

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469 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:54:54.62 ID:hfpVOjiho

 

 

 

* * *

 

 

女「ここが私の家」

 

少年「随分店から離れてるんだな……」

 

女「うん、まあね。ここらへん、隣の家とも数キロ離れてるから寂しいよ。じゃ入れば」

 

 

魔王「広いな」

 

女「お茶いれるよ。ええっと、カップあるかな」

 

女「……見つからないや。グラスしかないみたい。水でいい?」

 

魔王「……?」

 

少年「別に、いいです。……その、すぐ帰ります」

 

女「さっきも言ったけど、またあの男二人組はあなたたちのこと狙うと思うよ。

  この家、広いし。しばらくここにいた方が賢明じゃない」

 

少年「でも僕は明日も仕事だし、帰らないと……」

 

女「命と仕事なら、命の方が大事なんじゃないのかな。分からないけど」

 

女「とにかくしばらく泊まっていけば? 私は構わないから」

 

 

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470 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:56:45.11 ID:hfpVOjiho

 

 

 

翌日

 

 

女「じゃ、私は出かけるから」

 

少年「ちょっと待ってってば……花屋に行くんだろ?僕も連れてってくれ。

   仕事に行かないと……クビになったらまずい……」

 

女「だめだよ。危ないでしょ。じゃあね」

 

 

ブロロロロ……

 

 

少年「なんて強引な人なんだ……」

 

魔王「でも、一日くらいなら仕事は休んでも平気なのではないか?」

 

少年「平気なわけないだろ……あのハゲジジイがなんて言うか……。

   僕みたいな子どもが働ける場所なんてそうそうないのに」

 

少年「クビになったらどうしよう……」

 

魔王「……この街では、君のような子どもが多いのか?」

 

少年「そりゃいるだろうさ。こんな街なんだから」

 

少年「あーもう……それに、家のことも心配だ。僕がいない間にまたあいつらが来たら」

 

魔王「確かにそうだな。私もずっとここにいるわけにもいかない。

    彼女が帰ってきたらもう一度頼みこんでみよう」

 

 

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471 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:58:10.29 ID:hfpVOjiho

 

 

 

バシャバシャ

 

 

少年「はーっ……もう、なんなんだよ」

 

少年「このごろ変な奴ばっかり会うな……」

 

少年「あの男二人組にも目つけられたし……最悪だ……」

 

少年「ん?」

 

少年(これ……シェービングクリーム?あの女の人だけで住んでるんじゃなかったのか)

 

 

 

魔王「少年、これは一体なんだろう。鳴き声がするし、ぶるぶる震えているが、生き物なのか?」

 

少年「ハァ? そりゃ冷蔵庫だよ。生き物なわけないだろ……機械だ」

 

魔王「れいぞうこ? 象の仲間か?それにしては小さいが」

 

少年「だから生き物じゃないって。電気で中の物を冷やしてるんだ」

 

魔王「電気……雷で冷気をつくりだしているのか?それは一体どういう仕組みなのだ。

   こういったものは全て魔法ではなくカガクギジュツだと君は言ったが」

 

魔王「魔法なしでどうやってそんなことを実現させている?よく調べたいな……」

 

少年「だめだよ、あの人が冷蔵庫は開けるなって言ってただろ。

    それに人の家の冷蔵庫勝手に開けるのは失礼だ」

 

少年「あの人がテーブルの上に食べ物置いてってくれたから、食事はそれで済むし」

 

魔王「……でも開けたいな……」

 

少年「でもじゃねえよ。だめだってば」

 

 

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472 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:59:50.47 ID:hfpVOjiho

 

 

 

 

少年(……こんな具の入ったスープなんて初めて飲むな)

 

少年(うまい……じゃなくて)

 

少年「なあ、明日こそあっちに車で送ってってくれよ。帰りたいんだ」

 

女「うん。いいですよ」

 

女「あなたたちは姉弟? あんまり似てないのね」

 

魔王「君はここに一人で住んでいるのか?」

 

女「そうだよ」

 

少年(……?あれ? じゃあ昼見たあれは別れた恋人のとかかな)

 

魔王「昼に庭を見させてもらったのだが、かなり凝っているのだな。

    花屋で働いていると聞いたし、植物が好きなのか?」

 

女「別に好きじゃないよ。たまたまね」

 

女「スープおかわりする?まだあるよ。少年くん、いる?」

 

少年「あ……はい、じゃあ」

 

女「よそってくるね」

 

 

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473 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 22:00:54.02 ID:hfpVOjiho

 

 

キッチン

 

 

女「……?何、どうしたの?」

 

魔王「その……頼みがあるのだが」スタスタ

 

魔王「れいぞうこを見させてもらってもよいだろうか」

 

女「冷蔵庫?そんなもの見てどうするの?」

 

魔王「仕組みが気になる。中を見てみたいのだ」

 

女「仕組み……? うーん、よくわかんないけれど、中ごちゃごちゃしてるから

  見られるの恥ずかしいと思うの。だからだめ」

 

魔王「だ、だめか……どうしても?」

 

女「どうしてもよ」

 

魔王「………………どうしても?」

 

女「こんなに冷蔵庫に興味示す子初めてだな」

 

女「でも、だぁめ。絶対だよ。分かった?」

 

魔王「……ああ」シュン

 

 

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474 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 22:05:39.17 ID:hfpVOjiho

 

 

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少年「……」スースー

 

魔王(……)パチ

 

 

 

 

魔王「ふ、ふわぁ……お手洗いはどこだっただろうか」

 

魔王「慣れない家だから迷ってしまった。うっかりキッチンに来てしまった」

 

 

ブゥゥゥゥン……

 

 

魔王「あっ……れいぞうこがまた鳴いてる。触ると暖かいし、本当にこれは生き物ではないのか?」

 

魔王「寝ぼけてて、自分が何をしているのか、わ、わからないな」

 

魔王「しまった。寝ぼけてれいぞうこを開けてしまった。でも寝ぼけてるから仕方ない……」

 

魔王(本当に冷たいだと……?どうなっている。食材が色々入っているな。……どこから冷気が?

    雷を冷気に変換しているのは一体どこなのだ?どんな方法で?魔法なしでどうやって?)

 

魔王(もっと奥を見たら何か分かるかな?)ゴソ

 

魔王(………………………………ん?)

 

魔王(え? これ……え?)

 

魔王(……ひとの…………うで……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

女「なにをしているの?」

 

魔王「!!」ビク

 

 

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475 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 22:08:25.76 ID:hfpVOjiho

 

 

 

女「そんなに冷蔵庫が気になるの?変わった子ね」

 

魔王「す、すまない。寝ぼけて……どうやらトイレの扉と冷蔵庫の扉を間違えてしまったようだ」

 

女「どんな寝ぼけ方なの」

 

魔王「悪かった。もう寝ることにする、おやすみ」

 

女「ねえ」

 

女「なにか見た?」

 

魔王「寝ぼけていたので何も見えなかった。私は寝ぼけると一切何も見えなくなることで巷で有名なのだ」

 

女「そう。すごいね」

 

 

 

 

 

スタスタ

 

……バタン

 

 

 

女「………………」

 

 

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479 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 19:35:22.87 ID:D37hExuxo

 

 

 

 

魔王「少年少年少年少年少年っ 起きろ、起きろ起きろ」

 

少年「ん~~…… なんだよぉ……」

 

魔王「起きろ、今すぐここから逃げるぞ!」

 

少年「はぁ~~? 意味わかんねえよ……まだ夜だろ……」

 

魔王「いいから早くしろ!」

 

 

タッタッタッタ……

 

 

魔王「彼女は人殺しだ」

 

少年「お前、まぁた変なこと言って…… うぅっ寒い。夜は冷える……

    なあ戻ろうよ。こっから僕の住んでる家までどれだけあると思ってるんだよ」

 

少年「徒歩じゃ数時間かかるって……」

 

魔王「だめだ。とにかく、人のいるところまで行かないと」

 

少年「だから、それも遠いって。来る時見ただろ?ここらへんは店も家も何もない」

 

魔王「建物はあるではないか」

 

少年「でも人はいないよ。テーマパークの建設予定地だからさ……

   もうみんなどっか行った後。もうすぐ取り壊される予定の空き家だけしかない……」

 

少年「……寝ぼけて夢でも見たんだろ……どうせ」

 

魔王「夢ではない、確かに見た。れいぞうこの中に人の腕があったっ!

   男性の腕だった。多分、ほかの部位も奥に入っていたと思う。見れなかったが……」

 

少年「男性……? そういえば、あの人、一人で住んでるって言ってたけど、

   洗面台に髭剃り用のクリームが置いてあったんだ」

 

少年「何か事情があるのかなって思ったんだけど、もしかして……その男性があの家に元々住んでた?

   で、あの女の人が彼を殺して、成り変わったのか?」

 

少年「……でもなんで……そんなことを?」

 

魔王「少年、ひとつ聞きたい」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

480 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 19:36:13.62 ID:D37hExuxo

 

 

 

魔王「花屋であの女性が働き出したのは、いつなんだ」

 

少年「……え……いつって、はっきりわかんないけど……」

 

少年「……さ、最近だよ、たぶん。その前は……男の人が店員だった。

    すごい毛深くて、背が高い人……」

 

魔王「…………」

 

魔王「私が冷蔵庫で見た腕も、とても毛深かったな」

 

魔王「……彼女が逃亡したという連続殺人犯だろう。あそこに隠れ住んでいたのだ。

   しかし、手配書と顔が違うが、それは一体……?」

 

少年「……整形……とか?」

 

魔王「んん? それはつまり変身術みたいなものか?」

 

 

タッタッタッタ……

 

 

魔王「とにかく、警察に行こう。警察に……ハァ……ハア」

 

魔王「あとどれくらいだ……? 随分……走ったが」

 

少年「まだ半分くらいだ。でも、多分朝まで僕たちがいないことには気づかないんじゃないか」

 

少年「夜明けまで時間はまだまだある。余裕で警察署に……」

 

 

ブロロロロロ……

 

 

少年「けいさつ、しょに……いけるかなっておもったんだけど」

 

少年「車の音が後ろから聞こえるのは気のせいかな……気のせいだといいんだけど」

 

魔王「……残念ながら空耳ではない」

 

 

キキッ バタン

 

 

女「別れのあいさつもなく、ひどいじゃない」

 

女「そういうの、悲しいと思うよ。わかんないけど」

 

 

ゴトン

 

 

少年「な、なんだよそれ?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

481 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 19:42:06.72 ID:D37hExuxo

 

 

 

 

女「……これ? チェーンソーって言う機械よ」

 

女「昔、木を切るのに使われてたの。でも、それ以外にも用途はあるのよ」

 

少年「……だ、誰にも言わないから……頼む」

 

女「死ぬのが怖いの? 生きてるのが楽しいの?」

 

女「いいね、感情があるって。私、分からないの。そういうの」

 

魔王「……人殺しなんて……何故そんなことをする?君が連続殺人犯か?」

 

女「そうでしょうね」

 

魔王「こんなことをして楽しいか」

 

女「楽しいわけないでしょ」

 

女「でも人を殺すときだけ私は人として何か感じられるんだ。

  ずっと静かだった水面に、その時だけ波紋が広がるの」

 

女「なんだろうね。罪悪感かな」

 

女「人をひどい方法で殺せば殺すほど、感じられるのも大きくなる」

 

女「だから、まず人の腕一本これで切るわ。そうすればほとんどの人は抵抗をやめるの。

  それからもう一本の腕は薄く輪切りにスライスしていきます」

 

女「足は桂剥きよ。皮膚はこっちのナイフで薄く切り取っていくの。筋肉は筋が切りづらいから専用のはさみで。

  そうやって肉全部切り落としたら骨はトンカチで砕くわ」

 

女「胴体は腹を開けて中をぐちゃぐちゃに混ぜてしまうわね。頭は……」

 

魔王「やめろ!! そういうことを言うのは本当にやめろ」ペタン

 

少年「な、なに座りこんでるんだよ……!逃げないと……っ」

 

魔王「体に力が入らないだと? 状態異常の魔法か?」

 

少年「お前の腰が抜けただけだろ!!」

 

 

カチッ ギャリリリリリリリ

 

 

女「チェーンソーって、四肢を切断できるのもいいけど、この大きさと喧しさがいいと思うわ。

  見た人全員、いまのあなたたちのような顔をするんだから」

 

魔王「…………上等だ。貴様ごときに私が殺せると思っているのか?めでたい頭だな。

   返り討ちにしてくれる。かかってこい!!」

 

少年「だからなんでお前はそういうこと言っちゃうの馬鹿なの?勝算ゼロだよ、絶望的だよ」

 

魔王「……こういうのは……どんなに勝ち目がなくても心意気で負けてはいかんのだ!」

 

魔王「少年。逃げろ。走れ。ここで私があいつを引きとめる」

 

少年「はあ!?無理に決まってんだろ、うすうす気づいてたけどお前全然運動能力ないし……」

 

魔王「う、うるさい!逃げろと言っているのが聞こえないのか、さっさとしろ」

 

少年「でも……」

 

魔王「早くしろ!!私にまかせろと言っている!!イエスかはいで返事しろ!!」

 

少年「うっ……は……はい……っ」タッ

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

482 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 19:44:14.90 ID:D37hExuxo

 

 

 

女「逃げたわ。まあ、どっちでもいいのよ」

 

女「じゃあ殺されてね。これが私の生きがいだから仕方ないの」

 

女「できるだけ悪く思って。憎んで悲しんで。それが大きければ大きいほど……私も辛いわ」

 

女「辛い、苦しいっていう感情をその時だけ持てるの。自分が無機物じゃない、人だって実感できるんだ」

 

 

スタスタ

 

 

魔王「……狂ってる」

 

魔王「貴様の感情のために差しだせる命など、一つたりとも持ち合わせていない!」

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

シスター「……ん?おかしいな。この時間、少年は仕事を終えて帰宅しているはずなんだがな」

 

勇者「ここがその少年の家? でかいな」

 

シスター「全部が全部そうじゃない。この扉がその少年の家。アパートっつーんだ」

 

シスター「どこかに出かけてるのかもしれねー。また明日来よう」

 

勇者「仕方ないか」

 

 

シスター「ここらへんには、近いうちに遊園地ができるそうだ」

 

シスター「お前に潰すよう頼んだ会社の社長がそれを企画した」

 

勇者「家を壊して遊園地? ……俺にはあんまりこの街の考え方は理解できないな」

 

シスター「あの少年の家もそのうち壊されてしまう」

 

シスター「……一度ね……たまたま会ったときに、教会に来ればって彼に言ったんだけど断られたんだ」

 

シスター「……彼には妹がいた。病気だった。

     その女の子のために彼は必死に働いて薬を買ってたんだけど」

 

シスター「その子は……薬で治る病気じゃなかったよ」

 

シスター「私は昔からそういうの分かるんだ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

483 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 19:45:08.66 ID:D37hExuxo

 

 

 

 

シスター「兄の方にも妹の方にも言えなかった……」

 

シスター「言えなかったよ」

 

シスター「全くさぁ……。ところでお前は少年の知り合いか?探してる人物が少年だって言ってたけど」

 

勇者「まぁ、知り合いというかそうじゃないと言うか……」

 

勇者「とにかく会いたいんだ」

 

シスター「ふうん。まあいいけど」

 

勇者「それにしてもこっちの服は動きづらいな。なんかギシギシする」

 

シスター「与えてやったんだから四の五の言わない。つーか動きづらいのは手錠のせいじゃねーのか」

 

勇者「一理ある。くそっ!いつまでこれつけてりゃいいんだよ!!」

 

 

ファンファンファンファン

 

 

勇者「はっ……!?」

 

警官「見つけたぞ!!この間の銃刀法違反野郎!!今日は逃がさねえからな!!!」

 

シスター「まずいな。私はサツに見つかると色々いやだ。逃げさせてもらう」

 

シスター「囮になれ」ドン

 

勇者「おいっ!!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

484 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 19:49:26.81 ID:D37hExuxo

 

 

 

 

強盗団A「おい……見たか今の?あのボロアパートから去ってった男」

 

強盗団B「見た見た。すっごい宝石埋め込まれた剣持ってた」

 

A「ありゃ相当な値打ちものだ。服装は金持ちにゃ見えないが、

  何らかの事情があって身を隠してるんだろうさ」

 

B「あそこがあの男の家なのかな?行ってみようよ。いいのが見つかるかも」

 

A「鍵かかってるが、開けられそうか?」

 

B「こんなの、ちょろいちょろい」ガチャ

 

 

A「んん……?中もボロいな。ベッドとテーブルと……必要最低限のもんしかない」

 

B「お宝は隠されてるものだよ。戸棚とかクローゼットとか開けよう」

 

 

A「……うーん。しばらく探してみたが、僅かばかりの金しかないぞ」

 

B「大金は自分で持ち歩いてるのかもね。 あれ?この箱なんだろ。オモチャの箱」

 

A「なんじゃこりゃ、俺のピッキングスキルをもってしても開かねえぞ」

 

B「も、もしかして、オモチャの箱に入れることでカモフラージュしてるのかな。

  中に入ってる宝石とか宝石とか宝石とかを……!?」

 

A「おう、その可能性は大いにあるな!この箱だけ持ってこうぜ、アジトの専門の器具使えば開けられるだろ。

  こんなはした金は置いてっちまおう。とったって仕方ねーや」

 

B「FOOOOO 宝石宝石!お頭もびっくらどんだ!驚くぞー!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

485 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 19:50:44.66 ID:D37hExuxo

 

 

 

強盗団アジト

 

 

A「あ? なんだこの女?アジトの前に倒れてるが何者だ?」

 

B「気絶してるみたい……とにかくお頭に伝えてこよう」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

―――――――――――――

――――――――

 

 

 

姫「うぅ~~ん…… ん?どこかしら、ここ?」

 

姫「確か妖使いさんと忍さんが創世主側で……でもなんとか扉を抜けたのよね」

 

 

がやがや がやがや がはははは

 

 

姫(……お店?私が横になっていたのはソファだわ。知り合いは……誰もいないわね)

 

頭領「ああ、目が覚めたか?」

 

姫「あ、あなた誰ですか?」

 

頭領「それはこっちが聞きたいね。でも先に聞かれたからにゃ答えよう。

   俺はこの強盗団のリーダーだ」

 

姫「ご……ご、強盗団!?」

 

頭領「ここは俺たちがアジトにしてる地下の店だ。あんたは店の入り口に倒れてた。

   随分いい身なりをしているようだが何者だ?」

 

頭領「答えようによっちゃあ、ここからあんたをお家に帰してやることもできなくなってしまうわけだが」

 

姫「わ、私は何も知らないわ。店の入り口で倒れていたというのも偶然よ」

 

頭領「ふーん……。お家は中央区か?」

 

姫「?? どこ?それ。知らないわ」

 

頭領「しらばっくれるか。そんな高そうなドレス着れる奴が中央区以外にいるかよ」

 

頭領「まあいいさ。あんたにはこの強盗団の一員になってもらうぜ。

   アジトの場所も、俺たちの正体も知られちまったからな」

 

姫「な……なんですって!?嫌よ!!私に犯罪の片棒をかつげというの!?ふざけないでちょうだい。

  アジトの場所も、正体も、あなたがベラベラ勝手にしゃべったんじゃないの!!」

 

頭領「あんたが聞いたんだろ?」

 

姫「聞かれたからって正直に答える犯罪者がどこにいるの!ごまかしなさいよ!

  とにかく私は絶対に強盗だなんて卑劣な真似はしないわ!!出て行きます」

 

頭領「待て待て」チャ

 

姫「何です?それは。 随分堅そうなチョコレートね」

 

頭領「銃をチョコだなんて言うなんて、肝の据わったお嬢ちゃんだ。

   気の強い女は嫌いじゃない」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

487 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 19:56:19.32 ID:D37hExuxo

 

 

 

頭領「一歩でも動けば頭に風穴が開いちまうかもしれないな」

 

姫「……!? 武器?」

 

頭領「銃も見たことないのか。こりゃ筋金箱入り娘だ。とにかく俺たちの仲間になれ」

 

頭領「むさい男が多くてな、前々から俺はもっと女を仲間に入れたかった。歓迎するぜ。

   とくにあんたみたいないい体してる女をな」

 

姫「じろじろ見ないで。気色悪いわ」

 

頭領「やっぱり女は出るとこ出てないと魅力半減だな。あんたはその点目の保養になる。

   この間、あんたみたいに仲間になった女がいるが、俺からするとあんなまな板……」

 

ガシ

 

頭領「ん?」

 

ドゴッ!!!!!!

 

魔女「まな板?あの調理道具がどうしたの?何の話?」

 

魔女「ところで話は変わるけどさー、女の子の魅力を胸とかで判断する男ってさー、

   じゃあてめえの股についてるもんはどんだけ立派なのか見せてみろって感じだよね」

 

魔女「ていうか最低だし、万死に値するし、私刑に処せられても文句言える立場じゃないよねー」

 

姫「あ、ええ!? 魔女さん!?どうしてここに!?」

 

魔女「姫様久しぶり!強盗団のリーダーの魔女ちゃんだよ!」

 

頭領「お前、躊躇なく俺の頭をテーブルに叩きつけた上に、ちゃっかりリーダーの座を奪うんじゃないよ」

 

魔女「お頭の頭をテーブルに……ってちょっと洒落みたいでおもしろいね」

 

頭領「この俺の血まみれの頭部を見ても、おもしろいって思えんのか? 悪魔か お前は」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

488 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:03:00.61 ID:D37hExuxo

 

 

 

 

A「ひえ~ お頭大丈夫か?魔女ちゃん相変わらず過激だな」

 

B「お頭の頭部なんてどうでもいいから、早くこの箱の鍵開けましょ。よそ見しないで」

 

頭領「オイ。てめーらも聞かない奴だな」ゴッ

 

A「いたーっ!!」

 

頭領「そりゃ貧困区のボロアパートから盗んできたって言ったよな。ふざけんな。返してこい。

   俺たちが盗るのは金持ちからだけだ。忘れたのか?死ぬか? ええ?」

 

B「違うんだってお頭!絶対あそこに住んでるあの男、金持ちだもん!訳ありであそこにいるだけ!」

 

B「しっかし、あれからずっと頑張ってるのに全然開かないわね、これ。

  オモチャだから簡単な仕組みのはずなのに変だなぁ」

 

 

姫「魔女さん、あなたどうして強盗団のメンバーになってしまったの!?」

 

魔女「だって姫様と同じようにメンバーになるよう脅されたんだもん。

    それになんか……楽しそうじゃん!」

 

姫「た、楽しそうって……ああ私あなたみたいに一度生きてみたいわ」

 

魔女「大丈夫、強盗って言ってもこの人たちそんなに悪い奴らじゃないよ。

   この街はどうやら私たちのいた世界と全然違うみたいなんだ」

 

魔女「下手に動くよりこっちの方が都合よくない?寄らば大樹の陰ってね」

 

魔女「強盗にいいも悪いもないです!犯罪よ!」

 

魔女「お金持ちからだけ盗むと言ったわね…… 義賊のつもりなのかしら?」

 

頭領「違うね。俺たちは貧乏人のためにやってるのでも、金のためにやってるのでもない」

 

頭領「ロマンのためだ」

 

姫「……」

 

 

 

魔女「ね?ほら、楽しそうでしょ?馬鹿みたいで」

 

姫「ええ、そうね……馬鹿みたいだわ」

 

強盗団「お頭ー、馬鹿みたいって言われてますよ ハハハ」

 

頭領「言われてるな。ハハハ」カチ

 

 

――ダァン!!

 

 

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489 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:04:34.24 ID:D37hExuxo

 

 

 

姫「……? ええっ? か、壁に穴が……!!一体なんなのそのジュウシマツとか言うのは?」

 

頭領「ジュウシマツはかわいいよな。俺も飼いたいとは思ってる。

   でもやっぱまずはオカメインコからかなって……」

 

強盗団「お頭、話ずれてます。ジュウシマツじゃなくて、銃だぜ。お嬢ちゃん」

 

頭領「そう、これが銃。あんたにも扱いを覚えてもらうよ」

 

頭領「馬鹿みたいって言うが、馬鹿でいいんだ。俺たちは馬鹿やりたいだけなんだ」

 

頭領「この世界には夢がない。ロマンがない。

   なあ知ってるか、昔はどこぞの大陸に黄金が埋まってるとか、だれだれが残した財宝があるとか」

 

頭領「そんな情報ひとつで大勢の人間が身一つで動いたんだ。

   今はない海を渡って遠く離れた地へ、全てを捨てて、あるかどうかも分からん宝を求めてな」

 

頭領「昔は科学技術なんてなくて、医療も全然発達してなくて、それに比べりゃ今の世の中は天国なのかもしれない。

   でも、昔はそのかわり夢があった」

 

頭領「ないかもしれない宝を追い求められる、馬鹿やれるパワーがあった」

 

頭領「俺たちはそれをやりたいだけだ。

    目死んだまま手近にある金のために働いて生きるなら、夢追ってどこかでぽっくり死にたいね」

 

姫「……」

 

頭領「で、どうだいお嬢ちゃん。あんたはどうする。今だけ出口の扉を開いてやろう」

 

頭領「出て行きたいなら今しかない。俺たちに加わるってんなら、名乗りな」

 

姫「…………」

 

姫「……私は犯罪を肯定するわけではないわ」

 

姫「姫よ」

 

頭領「歓迎しよう」

 

 

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490 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:08:51.42 ID:D37hExuxo

 

 

―――――――――――――――――

――――――――――――

――――――

 

 

姫「でも、早く勇者と魔王さんを探さなければね。魔女さん、手がかりは見つけた?」

 

魔女「ううん。外でて探してみてるけど、全然」

 

姫「困ったわね」

 

魔女「でも、私と同じところに姫様が現れたってことは、きっとみんな近くにいるんじゃないかなー」

 

 

強盗団「魔女はその子のことヒメ様って呼ぶけど、変わった名前だな」

 

強盗団「馬鹿、ヒメっていうのは昔いた偉い人だよ。オウサマの娘さんだろ」

 

姫「昔、いた……? どういうことですの。今はもういないのですか?」

 

魔女「今はいないんだってさ。びっくりだよね」

 

姫「いない!? じゃ、じゃあ……王族が国を治めないで、どなたが政治を行うの!?」

 

魔女「国民から人気投票で選ばれた人が、だいとーりょーになって政治やるんだってさー」

 

頭領「王政なんて何百年も昔に終わった。今じゃどこの国も共和制だが」

 

姫「きょうわ制って何!?だいとーりょーって何!!どういうこと!?」

 

頭領「落ち着け。こわい」

 

 

 

 

頭領「……というわけだ。政治の主役は国民。国民主権だ。

   大統領とは別に、国民から選ばれた代表者もいて、そいつらが議会つくって会議で法律やら何やら整備してる」

 

姫「……」フラッ

 

魔女「姫様はねー、本当の姫様だから、ちょっとショッキングだろうね」

 

頭領「本当の姫様って……んなわけないだろ。そういうごっこ遊びか?」

 

姫「し、信じられないわ。つまり、誰でも政治を行うことができると?

  王家に生まれた者ではなく、というかもう王家そのものが存在しない?」

 

姫「王制の次に来る共和制……議会……国民主権……いずれ私たちの世界もそうなるのかしら」

 

姫「私が王族ではなく、普通の人間……に」

 

 

 

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491 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:13:11.49 ID:D37hExuxo

 

 

 

 

 

 

姫「……」

 

魔女「姫様ー、灯り消すよ? もう寝ようよ、ねむーい」

 

姫「……あ、はい」

 

 

パチ

 

 

魔女「どうしたの?昼から何か考えてるけど。やっぱ王家なくなるのショック?

   別にさ、あたしたちの世界までそうなるとは限らないじゃん。気にすることないよ」

 

姫「……あ、ええ……そうですね。……でも、私が考えていたのは……少し違うの」

 

姫「……も、もし……もしですよ?もし私が王族でなかったら……その~、

  魔族の男性の方とも、お、お付き合いできるのかな~って……」

 

魔女「別に今のまま、姫のままでも遊びならいいんじゃない?付き合うのは無理かもしれないけど。姫様かわいいし」

 

姫「あ、遊びって何です。そんなのできません。ややややっぱり正式にお付き合いしませんとそういうものはっ」

 

魔女「えーー、ごめん、そんな本気だったんだ。じゃあやめた方がいいよ。

   あいつの性格からして王家の女の子とは絶対付き合わないよ。駆け落ちなんて絶対しない」

 

魔女「ていうかマジ!? あんなののどこがいいの? 姫様……あいつ5枚くらい猫かぶってるんだよ?

    けっこう昔は荒んでたよ!?元ヤンだよ、あれ!!騙されちゃだめだよ!!」

 

姫「それは見ててうすうす分かりますね」

 

姫「で、でもでもお優しいですし……仕事熱心ですし、色々できてすごいなって思うし」

 

魔女「……姫様はさ~、せっかく王族っていうすごい一族に生まれたんだから、

   今持ってるものを大事にした方がいいよー。ずっと不自由なく暮らしてきたんでしょ?」

 

魔女「魔族の男なんかと噂が流れたら色々とマズイんじゃないの?

   ちゃんと人間の貴族を好きになって結婚した方がいいって。それでずっと幸せだから」

 

姫「な……確かに私は衣食住に困ることなく暮らしてきましたが……!

  でも、私にとって幸せが何なのかは私が決めることです」

 

姫「そんな風に王家の者全て、何も悩むことなく幸せだなんて決めつけられるのは、少々心外ですわ」

 

魔女「むかっ。あたしは姫様のためを思って言ったんだけど!」

 

 

 

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492 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:18:24.58 ID:D37hExuxo

 

 

 

 

姫「ずっとずっと、父の期待や国民の期待通りに生きてきたのよ。

  枠から外れることなく、きちんとした一国の姫として」

 

姫「……い、一度くらい、私だって……私の思い通りにしてみたいって考えるのはいけないことなの?」

 

魔女「ていうか国王はなんて言ってるわけ?」

 

姫「お兄様は……好きにしたらいいと仰ってたわ。

  自分が昔やりたい放題やったから、とやかく言える立場ではないと」

 

魔女「だからって一時の、たかが恋ひとつで全部捨てるつもり?……はあーあ、ばっかじゃないの?」

 

姫「な!なんですって!」

 

魔女「姫様って誰にも嫌われたことないでしょ。国の王女として誰からも好かれて、

   いつもあったかい部屋で寝られて、おいしいご飯が食べられて……」

 

魔女「家族がいて、かわいい洋服着れて、何でも欲しいもの手に入れられて」

 

魔女「あたしが持ってないもの全部姫様は持ってたのに、それを捨てるなんてあり得ない」

 

魔女「ずっと羨ましかったなー。苦労しないで、何もしなくても好かれてさ。

    みんなの期待通りに生きてきたって言うけど、生きられるだけマシじゃん!」

 

姫「な、なによ!それなら私だって魔女さんのことが羨ましかったわ!

  いつも好きなことやって、誰にも縛られずに楽しそうで!何にも気にしないで……!」

 

魔女「なにそれ!姫様にあたしの何が分かるの!?」

 

姫「魔女さんに私の何が分かると言うの!?」

 

魔女「はああ? もう怒った!怒っちゃったもんね!じゃあ言っちゃうもんね!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

493 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:21:03.21 ID:D37hExuxo

 

 

 

魔女「どうせ姫様一目ぼれなんでしょ?」

 

魔女「優しいって言ってたけど、それって本当だったのかな?」

 

魔女「君は姫なんだよ。魔族にとってその立場が大事だったの」

 

姫「……!」

 

魔女「敵だった国王の娘で、探さなくちゃいけない王子の妹で、王族で、重要人物だったんだから」

 

姫「……」

 

魔女「……私もからかったりして悪かったよ。

   でも姫様が王族の立場まで悩みだすほど本気だなんて思ってなかったから」

 

魔女「まあ、人間にいい男いっぱいいるじゃん!お金持ちで優しくてイケメンよりどりみどりだよ」

 

魔女「ね、だから元気だしなよ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

494 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:22:03.55 ID:D37hExuxo

 

 

 

 

 

姫「…………~~もう寝ます!おやすみなさい!!」プイ

 

魔女「ちょっと、話はまだ」

 

姫「寝ます!」

 

魔女「……なによっ!あたしは君のために言ったのに!ばか!

   姫様のばーかばーか!ばーか!もう知らないもんねーだ!」

 

姫「私だって魔女さんのことなんかもう知りません!魔女さんのばかっ!」

 

 

 

 

翌日

 

 

 

姫「……」プイ

 

魔女「……」プイ

 

B「……?」

 

A「なになに?喧嘩?」

 

頭領「おいおい、昨日まであんなに仲良かったのにどうした?」

 

姫「仲良くなんてありません」

 

魔女「お頭の目って昨日まで節穴だったんじゃないの?」

 

頭領「まじかよ……眼科行かなくちゃな」

 

頭領「とまあ冗談はここらへんにして。喧嘩はいいが計画に支障は来たすなよ。

   チームの連携が大事なんだからな」

 

姫「……一体何をするつもりですの?」

 

頭領「次はかなりの大仕事だぜ」

 

 

頭領「……列車強盗だ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

495 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:22:45.12 ID:D37hExuxo

 

 

 

* * *

 

 

騎士「はぁ~……」

 

騎士「どこだ、ここ……」

 

騎士「ずっと歩いてるけど、勇者さんと魔王さんどころか、

   一緒に扉を抜けたはずの3人も見つからない」

 

騎士「おまけに……」

 

 

ヒソヒソ……ヒソヒソ

 

 

騎士(めちゃくちゃ見られてる……あああ……)

 

騎士(さすがに目立ちすぎたから、甲冑は脱いでどっかのベンチに置いてきたんだけど……

    それでも色々やっぱりほかの人たちと違うな)

 

騎士(剣も捨てられないし、ていうか捨てたら騎士として何かが終わりそうな気がするし)

 

騎士(困ったな……)

 

 

騎士(……ん?あれって…… もしかして竜人さん!?)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

496 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:26:32.64 ID:D37hExuxo

 

 

 

ドン

 

 

竜人「あ、すみません」

 

チンピラ1「おうおういてーな兄ちゃん。骨折れちまったよ」

 

チンピラ2「新聞なんて読んで歩いてっからだよ、あぶねーだろーが!!

       どうすんだオイ、親分の腕が折れちまっただろーが、治療費払えよ!」

 

チンピラ1「治療費3000万払えよ」

 

竜人「え……!?この街の人は少しぶつかっただけで骨折してしまうのですか!?

    骨密度大丈夫ですか? ちょっと失礼」グイ

 

竜人「……?骨折したにしては腫れもないし……というか掴んでも痛がりませんね。本当に骨折ですか?」

 

チンピラ3「ごちゃごちゃうるっせぇんだよ!お前、この方を誰と心得る?

       ここら一帯を仕切るマッフィーアのそれなりの地位にいる方だぜ?」

 

チンピラ4「この方怒らせると怖いぜぇ。痛い目見たくなけりゃ治療費払いやがれ」

 

竜人「生憎金は持ち合わせていないのですが。そもそも骨折してませんよね……」

 

チンピラ5「げははは、中央区と一般区どっちから来たのか知らねえが、ここらへんのルールを教えてやるよ」

 

チンピラ1「俺が骨折したと言えばしてるんだ。どうやら、お前さんは頭の回転が悪いようだな。

       おい、お前ら。そこの路地に兄ちゃんを案内してやれ。サツに見つかると面倒だからな」

 

チンピラ1「最近こっちに来たあの警官、やたらと仕事熱心で困るぜ」

 

チンピラ2「おらっ こっち来い!!」

 

竜人「ちょっ……なんですか、金なら無いと…… やめっ……」

 

 

ドカッ! バキッ! ドスッ! ゴキッ!! ボグッ ボキギッ!! ドゴッ!

 

 

――――――――――――――――――――――――――

497 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:29:20.37 ID:D37hExuxo

 

 

 

路地裏

 

 

 

竜人「火」

 

チンピラ3「はいっ!!!」シュボ

 

竜人「…………」スパー

 

 

チンピラ1「あ、あのう……」

 

竜人「服」

 

チンピラ1「へっ……ふ、服…………?」

 

竜人「お前の服よこせ」

 

チンピラ1「はい!!今脱ぎます!! ではここに置いておきますので!」

 

チンピラ5「……俺たちは、じゃあ、ここで……し、失礼しても……」

 

竜人「有り金全部置いてけ」

 

チンピラ3「では、さ、財布をここに…………」

 

 

 

竜人「……」

 

竜人「ふざけてんのか?」ガッ

 

チンピラ4「ヒィィ!」

 

竜人「誰がこんな紙切れよこせと言った」

 

チンピラ4「えっ で、でもっ それが持ってる金全部だ!本当だ!嘘じゃない!!」

 

チンピラ1「もう許してくれ!悪かった!!金なら全部渡した……!」

 

竜人「本当だろうな」

 

チンピラ1「本当だ、信じてくれぇ」

 

竜人「……チッ……行け」

 

チンピラ1「ありがとうございますっ!!」ダッ

 

 

 

竜人(こんな紙が金……?)

 

竜人「……変わった世界だな」

 

竜人「…………」スパー

 

 

 

 

 

騎士「…………」ガクガク

 

竜人「ふぉあッ!?!?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

498 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:35:45.20 ID:D37hExuxo

 

 

 

竜人「き、き、騎士さん!? あ、あれっ偶然ですね!よかった、探していたんですよ」

 

竜人「いやですね、いたのなら声をかけてくれればよかったのに!

   いつからいらっしゃったんですか?」

 

騎士「す、すみません……助太刀に参ろうとすぐ駈けつけたのですが……」ガクガク

 

騎士「……お、お煙草……吸われるんですね……」

 

竜人「ああいえ、違います!昔ちょっとやってたので、懐かしいなぁと思っただけで!

   すみません今消すので。ハハハハ」ザリザリ

 

竜人「あ……!騎士さんの分の服も頂けばよかったですね。

   私たちの格好だと、こちらでは目立ちますから」

 

騎士「だ、大丈夫です。お気づかいなく……」ブルブル

 

 

 

竜人「……しかし、騎士さんに会えたのは幸運でしたが、

   一体ほかの方はどちらにいらっしゃるのでしょうかね」

 

竜人「魔王様はともかく、あの勇者様なら、どこかで大騒ぎを起こしているだろうと思って

    新聞を見ていたのですが記事になっていないようです。とても意外です」

 

騎士「確かに……勇者さん調子悪いんですかね。あんないつもトラブルの中心にいるような人が」

 

竜人「まあ、地道に探すしかないようですね。

   もう夜になりますし、どこかに宿をとりましょう。金ならさきほど頂きました」

 

騎士「そ、そうですね。しごく穏便に、平和的手段で頂いていましたね。では行きましょう」

 

騎士(ヤベーーーーーーーこっえーーーーーーーーーー)

 

騎士(早く誰かと合流してえーーーーーーーー誰でもいいから合流してえーーーーーー)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

499 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:43:25.72 ID:D37hExuxo

 

 

 

* * *

 

 

 

勇者「ハァ……はあ……やっと撒いたか……」

 

勇者「くっそー なんで今日は剣持ってないのに追いかけまわされなきゃなんないんだ。

   完全に顔覚えられた、厄介だ」

 

勇者「まあいいや、また見つからないうちにかえろ」

 

勇者「……」

 

勇者「どこだ、ここ!!」

 

 

勇者「あ、あれっ!? そういえば全然人がいない。なんだここ……」

 

勇者「まずい帰り道が分からん!!教会どこだっけ!うおおおおお!」

 

 

 

 

少年「はあ……はあ……はあっ  だ、誰か……!」

 

勇者「あ、おーい!そこの子ども!道に迷っちゃってさ、ここどこか教えてくれないか」

 

勇者「教会に帰りたいんだけど」

 

少年「……助けて……!」ガシ

 

勇者「お、おい?どうした?」

 

少年「向こうに!あっちに殺人鬼が……!いっしょにいた変な奴が逃げろって!

   でもあいつも逃げなくちゃいけないからっ!た、頼む助けて……」

 

少年「……たすけてやってくれよ……!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

500 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/12(土) 20:45:12.84 ID:D37hExuxo

 

 

 

 

* * *

 

空き家

 

 

ズガッ!!

 

 

魔王「っ……!」

 

女「あれ。もう終わり?もういいの?諦めついた?」

 

魔王「貴様は、本当に何人も殺してきたのか」

 

女「そうだよ」

 

女「じゃあ、腕抑えるよ。右からもらう」

 

魔王「……何故?何故こんなことをするんだ」

 

魔王「君は人間で……私も人間なのに」

 

魔王「魔族ではないのに……」

 

女「……?そりゃそうでしょ。人間でしょうね」

 

女「別に何だっていいの。生きてればなんでも」

 

女「人間だろうが悪魔だろうが神だろうが、なんだっていいのよ」

 

魔王「……あ……はは」

 

女「? こんな状況で笑ったの、あなたが初めて。

  どうして?普通、こういうときには怖いって思うものじゃないの」

 

女「殺されるのが嬉しいの?死にたかったの?」

 

魔王「そんなわけ、あるかっ」タッ

 

女「逃げないで。教えて」グイ

 

 

ダンッ!!

 

 

魔王「っう……!」

 

女「腕切ってからじっくり聞こうかな。そうした方が素直に教えてくれますよね」スッ

 

 

勇者「!」

 

勇者「いたっ! おいお前っやめろ!!」

 

女「ん?」

 

勇者「おりゃああああ!」

 

 

バキッ

 

 

女「あ……あのチェーンソー高いのに。吹っ飛ばしてくれちゃって」

401 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:11:35.41 ID:m9/jnbfBo

 

 

― ― ― ― ― 

 

 

それから太陽と星と雪をつくったよ。

全部見たことないから想像。

 

太陽がでてれば今よりずっと暖かくなるそうだ。

そしたら上着もマフラーも必要ないな。

妹も風邪をたくさんひかなくなるかも。

 

星は宇宙にある別の惑星らしい。

あんまり遠く離れてるから小さく見えるんだって。

昔の人は星座なんてものもつくってたって聞く。

夜空に穴を開けたみたいにきれいなんだろう。

 

雪もいつか見てみたい。

たまに降る濁ったネズミ色のべちゃっとした霙じゃなくて

真っ白な雪が積もるところを見てみたい。

妹ははしゃぐだろうな。

 

 

太陽の国と、星の国と、雪の国を今日は考えた。

僕たちの理想の国。海に浮かぶ小さな大陸。

 

街にある偽物の植物なんかじゃなくて、本物の花や木や草があるところ。

車も走ってないから排気ガスもない。灰色の雲に覆われてない世界。

たぶんいまは、惑星のどこを探したって存在しない、夢の大陸。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

402 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:13:53.17 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

― ― ― ― ― 

 

 

それから月もその世界にはあることにしたよ。

暗い夜が怖いって妹が言うから。

 

さて本だから主人公がいなくちゃいけない。

やっぱり正義の味方が悪い奴をやっつけるのがいいと思った。

 

主人公、勇者。

悪役、魔王。

 

勇者が悪い魔王を倒しに行く本にしよう。

立ちふさがる悪の手下たちをバッタバッタをなぎ倒し、勇者は進む――。

 

 

「3日間にわたるたたかいの末、勇者はついに悪い魔女を倒したよ。

 魔女はつくった毒薬で村の人々を苦しめていたんだ」

 

「魔女の次は竜の谷へ勇者は向かった。

 そこに住んでるドラゴンに、王国の姫がさらわれてしまったんだ」

 

「勇者は聖なる山のてっぺんにあるドラゴンスレイヤーを引き抜いて、

 それを引っ提げて竜の谷へ……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

403 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:14:53.99 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

「ねえ、お兄ちゃん。シスターさんのところにある本って」

 

「どうしていつも魔女と竜はわるものなの?」

 

「どうしていつも魔王は勇者のてきなの?」

 

「どうしてって……悪い奴がいないと盛り上がらないだろ」

 

「でも、やだな。みんななかよしがいいな……」

 

「お兄ちゃん。せっかくきれいな空と海があるセカイなんだから、みんななかよくしようよ」

 

「……それも、そうか」

 

 

妹の誕生日プレゼントだし、妹がすきそうな話にしたかった。

勇者は剣を持ってるけどあんまり使わない。ちょっと抜けてて、でも明るい。よくしゃべる。

魔王は角が生えてて青色の肌をした怖いおじさんじゃなくて、妹と同じ年くらいの女の子にした。

 

めったに外にでれないから、妹には同じ年の友だちがいない。

僕くらいしか喋る相手がいない。

だからせめてあっちのセカイに妹の友だちをつくってやりたかったんだ。

 

 

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404 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:16:13.32 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

それから夜寝る前に僕は思いつくまま妹に勇者と魔王の話をして

空いた時間にそれをノートに書いてった。

 

どこかで聞いた物語のストーリーや展開のつぎはぎ。

ご都合主義だらけの変な話。

 

それでもそれを話すと、妹が楽しそうだったから

まあ、いっかって。

 

 

こんなの読むよりもっと役に立つ実用書を読むべきだってみんな言ってる。

現実にはハッピーエンドなんて存在しないから。

夢を見てる暇があるなら、金を稼いだり、そのための勉強をするべきだって。

 

僕もそう思う。

金がないと何もできない。金はあればあるだけいい。

金があれば、妹の病気も治せるし、毎日お腹いっぱい食べれる。

金があったらお母さんとお父さんも出て行かなかっただろう。

 

 

でも妹が嬉しそうに僕が書いたノートをめくっているときだけ……

ちょっとだけ、本当にそうなのかなって思うよ。

 

 

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405 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:16:54.12 ID:m9/jnbfBo

 

 

― ― ― ― ― 

 

 

最近、少しだけ妹の咳が多くなっている気がする。

夜ずっと咳が止まらず明け方まで続くこともある。

 

 

やっぱりこの薬だけではだめなんだろうか。

もっと効き目のある薬も売ってるけど……高い。

 

入院させたいけど、保険に入ってないし、そもそもそんな金もない。

 

 

でも明日には……明後日には、遅くても来週までには

きっと妹も以前のような体調に戻るはずだ。今、ちょっと調子が悪いだけ。

きっとそうだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

406 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:17:44.58 ID:m9/jnbfBo

 

 

― ― ― ― ― 

 

 

妹が熱をだした。38度を超える高熱だった。

ずっとそばにいてやりたかったけど、仕事は休めなかった。

 

仕事を終えて、工場長の怒鳴り声を無視して走って帰った。

妹は眠ってただけだったけど、一瞬死んじゃってるように見えて

足に力が入らなくなって膝をついてしまった。

 

 

「ゆめみてたよ……。森があって……きれいな空で」

 

「太陽がきらきらしててあったかかった……お兄ちゃんが丘にいて」

 

「勇者と魔王もそこにいて、お父さんとお母さんもいて、みんなであそんだよ」

 

 

熱は数日後下がった。けれど咳をする頻度は減らなかった。

重たい咳が増えた。夜通し咳をするようになった。

苦しそうだった。

何もできなかった。

 

 

 

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407 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:18:48.30 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

― ― ― ― ― 

 

 

シスターみたいに神様を信じたことはなかったけれど

いつも気づけば手を握りしめて神様に祈っていた。

どうか妹が死んでしまわないようにって。

 

 

せっかくノートに書いたのに、夜寝る前に決まって

妹は僕に話をしてくれと頼んできた。

 

一応、僕がいない間にノートは見てるみたいで

ちょっとは読み書きも上手になっていた。

たまに字の書き間違いがあるけれど。

 

いつかちゃんと学校に行かせてやりたいな。

僕の分もいっぱい勉強して、いろんなことを知ってほしい。

 

 

でも、そんな日は本当に来るのかな。

枕をしきりに隠すので見てみると赤黒いシミがあった。

咳をしていて血を吐いたらしい。

 

次の日、仕事中にうっかり泣くと工場長に怒鳴られた。

妹じゃなくてこいつが死ねばいいのに。

 

なんで僕の妹なんだ?

 

 

――――――――――――――――――――――――――

408 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:19:25.01 ID:m9/jnbfBo

 

 

― ― ― ― ―

 

 

仕事から帰ると妹が、あの誕生日にあげたオモチャの鍵をもてあそんでいた。

箱に何かをいれて、鍵をかけたらしい。

 

何をしまったのかと聞くと、秘密だと言って教えてくれなかった。

気になったけど追及はしなかった。

 

 

 

最近、ふと気付くと妹が遠くを見つめていることが多い気がする。

その瞳がぞっとするほど澄んでいて

僕は妹がどこか遠いところに行ってしまうんじゃないかと怖かった。

 

声をかけるといつもみたいにちょっと笑った。

食欲が落ちて、腕が枯れ木みたいに細くなってしまった僕の妹。

まだ手も足も小さくて、これから大きくなるはずなのに。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

409 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:20:10.90 ID:m9/jnbfBo

 

 

― ― ― ― ―

 

 

神様に祈ることより、別のものに祈ることが多くなった。

 

 

今日は僕の誕生日だった。

食堂の○○がこっそり高いパンや食べ物をくれた。嬉しかった。

 

でも帰り道、奪われてしまった。

殴られた頬がぱんぱんに腫れて、蹴られた腹はドス黒い痣になった。

口の中は鉄の味でいっぱいになった。鼻血を出したのなんて久しぶりだった。

 

 

――もし勇者がここにいたらやり返してくれただろう。

奪われたパンも取り返してくれただろう。

 

 

 

妹はどんどん顔色が悪くなった。

咳も止まらなくなった。

もういつも買っていた薬はあんまり効き目がないみたいだった。

 

パンひとつすら全部食べられなくなった。

元から小さい体が、どんどん小さくなっていく。

 

――もし魔王がいたら、魔法で妹の病気なんてすぐ治るに違いないのに。

魔法があったら、こんな苦しい思いさせずに済むだろう。

 

 

魔法があったら

妹は死なないのに。

 

 

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410 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:20:48.55 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

― ― ― ― ―

 

 

僕はずっと頑張っていた。

たくさん金を稼ぎたかったから仕事を頑張った。

いつか戦争で使うための武器をつくる工場で

怒鳴られながら、踏みつけられながら、ずっと頑張っていた。

 

 

妹を死なせないように必死に頑張っていた。

貧困区の隅の小さなアパート。

隙間風の通る灰色の部屋で、妹といっしょに夢を見ることだけが幸せだった。

 

「ただいま」と言って扉を開けると

「おかえり」と言って迎えてくれることだけが嬉しかった。

 

 

 

 

僕はいつか報われるはずだってずっと思っていた。

 

 

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411 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:22:15.12 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

― ― ― ― ―

 

 

妹がしんた゛

 

 

8さいのたんし゛ょうひ゛

 

 

 

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412 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:23:03.71 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

『終末記』

 

 

 

頑張ったって報われることなどない。

魔法なんてものはない。奇跡もない。

 

「勇者」も、「魔王」も、僕たちを救ってくれるものは何もないんだった。

そんなことは分かっていたはずなのに。

 

ノートの最後のページの「ハッピーエンド」をインクで塗りつぶした。

全部ぐちゃぐちゃにした。

こんなもの、なんにもならなかった。

 

もういらない。見たくもない。

 

あいつが大事にしていたオモチャの箱にそれを入れて鍵をかける。

鍵は、墓にいっしょにいれた。

ずっと大切そうに首からぶらさげていたから、そのまま。

 

 

生きる意味はなくなった。

それからずっと、亡霊みたいに暮らしてる。

多分これから一生。

 

 

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418 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:08:29.01 ID:UmxEe4WZo

 

 

シスター「アブラカタブラ、アバダケダブラ、チチンプイプイ」

 

シスター「さあ悪魔よ、我が呼び声に応え今こそ来られたし!!」

 

 

 

シスター「チッ……こねーな」

 

シスター「やっぱ本物の血じゃないとだめなのか?さすがにさわりたくねーなぁ」

 

シスター「とりあえずこの魔法陣は消すか……」

 

シスター「雑巾雑巾……」

 

 

ドサッ

 

 

   「ぐぁっ」

 

シスター「あぁん?」クル

 

勇者「いてて……ここは? あんた誰だ?」

 

シスター「…………」

 

シスター「……た……」

 

勇者「え?」

 

シスター「……ほんとにきた……」

 

シスター「……悪魔はいたのか……」

 

勇者「は?」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

419 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:09:45.28 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

―――――――――――

―――――――

 

 

勇者「だから!何度も言うが俺は悪魔じゃなくて人間だ」

 

シスター「いやいや、じゃどっからお前現れたわけ?さっきまでこの部屋には私しかいなかったのに

     振り向いたら悪魔召喚の魔法陣の上にお前が立ってたんだぜ」

 

シスター「悪魔しかいねーだろ」

 

勇者「えっあれ魔法陣だったのか?ぐちゃぐちゃだったからただの落書きかと」

 

シスター「失礼な悪魔だな」

 

勇者「だから違うっつの。俺の姿かたちを見ろよ。どこに悪魔要素がある」

 

シスター「でも変な格好してる。とても一般人には見えんな。

      そんな馬鹿でかい剣なんて腰にぶらさげてんのは、役者か悪魔くらいのもんだろ」

 

勇者「変な格好……?普通だろ。俺は役者でも悪魔でもないよ。

   悪魔と似たような知り合いはいるが、俺は勇者だ」

 

シスター「で悪魔に頼みがあるんだけど」

 

勇者「人の話きけよ」

 

シスター「命と引き換えに何でも願い叶えてくれんだろ?」

 

シスター「ある会社を潰してほしいんだよね」

 

勇者「カイシャ? なんだそれ……?」

 

シスター「んー……。お金を稼ぐために存在してる組織。営利団体。かな?

     まあ見せた方が早いか。外いこーぜ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

420 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:10:36.93 ID:UmxEe4WZo

 

 

ブロロロロロ ……

  パッパー ゴトンゴトン……

 

 

勇者「……………………………………」

 

勇者「な……なんだここ……?」

 

勇者「……変な馬が走ってる……すげえ速い……」

 

シスター「あれ車っていうんだよ。悪魔にはカルチャーショックでかいんかな」

 

勇者「なんでみんな変な格好してんだ」

 

シスター「私的にはお前の方が変な格好だけど」

 

勇者「ごちゃごちゃしててうるさいな……それに、空気が……なんか臭い。ゲホッ」

 

シスター「もう慣れちまったから何も感じないよ。

     気になる奴はマスクしてるけどあんなもんじゃどうにもならねーな」

 

勇者「あとなんであんなにたくさん立て札が?見てて目が痛くなる」

 

シスター「ありゃ広告と看板だよ。そろそろ質問責めやめてくれる?自分で考えな」

 

 

 

勇者「うう……なんだここ。俺は確か魔王と扉を抜けて」

 

勇者「確か鍵守は彼に会えって言ってたな」

 

勇者「ここは俺たちの世界とはまた別の世界……なんだろうな。

   創世主が住んでる世界、なのか」

 

勇者「……ここにいるのか、あいつが」

 

勇者「……つーか魔王は?どこいった」

 

 

勇者「なあ、俺といっしょに女の子がいたはずなんだが知らないか?」

 

シスター「ふうん?しらね―けど。 魔法陣の上に立ってたのはお前一人だけだった」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

421 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:11:40.86 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

 

シスター「お、ここ止まって。これ見ろ悪魔。この会社を潰せ」

 

勇者「箱……? なんだこれ!?中にどんだけ小さい人間が入ってんだよ!?」

 

勇者「魔法か?」

 

シスター「魔法じゃあない。詳しい仕組みは私にも分からん。テレビっつーんだよ」

 

シスター「いま映ってる大企業潰してくれ。てっぺんに飾ってある緑色のえらそうな旗を焼いてくれ」

 

シスター「むかつくんだよ、ここのボス。きたね―商売しやがって」

 

勇者「これが魔法じゃないだと? じゃあ何だって言うんだよ……すげえ動いてるけど……」

 

勇者「頭痛くなってきた……もうわけわからん」

 

シスター「おい聞いてるか?この会社だぞ、間違えんなよ」

 

 

 

シスター「この会社はな、この街の外、砂漠を越えた先の都市にある」

 

勇者「はあ……そっすか。じゃあここはどこなんだ?」

 

シスター「ここは街の一番隅っこにある貧困区。ゴミ捨て場みたいなもんだ」

 

シスター「あっちにある大きな橋の向こうが一般区。豊かな連中が住んでるよ」

 

シスター「一般区が中央区をぐるっと囲んでるから、一般区を超えると中央区。

     私が想像もつかないくらい豪華な暮らしをしてる連中がいる」

 

シスター「都市に行くには中央区の駅へ行って列車に乗るしかないんだけど、

     この切符代が馬鹿だかい。貧困区の連中にゃとても買えない」

 

シスター「だからお前に頼んでる。あの会社を潰してこい」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

422 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:12:11.10 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

 

* * *

 

 

工場長「またヘマしたのか!!なんでお前はそう覚えが悪いんだ!?」

 

少年「すみません」

 

工場長「謝りゃいいと思ってんじゃねえだろうな!クビにするぞ!」

 

少年「すみません」

 

工場長「1時間で全部仕上げろと俺が言ったら何があろうと仕上げるんだよ!!」

 

少年「すみません」

 

工場長「てめーのせいで工場全体が不利益を被るんだ、わかってんだろうな」

 

少年「すみません」

 

工場長「今月の給料は減らす。文句はねーだろうなクソガキ」

 

少年「すみません」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

423 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:13:05.39 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

○○「……よっ。今日はなに食べる」

 

   「おう坊主。こっち来いよ」

 

   「俺も今日あのジジイに怒られちまったぜ、やんなるよな」

 

少年「……ああ」

 

少年「うん。別に」

 

少年「どうでもいいよ」

 

○○「……」

 

○○「妹さん亡くなって、もう1年……か?」

 

少年「そんな経ったっけ」

 

○○「まあ、なんだ、その……元気だせよ。 な?」

 

少年「元気だよ」

 

○○「……そうか? ならいいんだけどよ」

 

 

 

 

  「なあおい聞いたか今のラジオ?」

 

  「あの連続殺人犯が南に護送中に逃げたってよぉ。せっかく捕まったのにな」

 

  「それ結構前の話じゃねーか? こええなぁ。物騒な世の中だぜ」

 

  「ま、殺人犯がいてもいなくっても、クソみたいな街ってことは変わんないけどな」

 

○○「殺人犯ねぇ……。こええな」

 

少年「……ごちそうさま」

 

○○「もう行くのか? ああ、じゃあな……」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

424 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:13:55.70 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

 

スタスタ

 

 

少年「……」

 

少年「……」

 

 

 

キキーッ!!

 

 

 

警官「ちっ! おいあぶねーぞ坊主!!ふらふら歩いてっと引かれちまう!!」

 

後輩「や、先輩の運転も荒すぎますから」

 

警官「バッキャロー荒くもなるっつーの!!ちくしょう!なんで俺がこんな貧困区のパトロールなんかせにゃならんのだ!!」

 

後輩「先輩が、ずっと追っていてやっと捕まえた護送中の連続殺人犯を南で取り逃がしたからです」

 

後輩「そのヘマのせいで殺人課の刑事やめさせられて、ここの交番に配属されたからです」

 

後輩「中央区勤務でエリートだったのにも関わらず貧困区に配属になって、奥さんや子供に逃げられたのもそのせいです」

 

警官「うるせーっ!!いちいち冷静に返すんじゃねーよ!!!」

 

後輩「先輩が訊いたんじゃないですか」

 

警官「うるせーっ!!この童貞!!殴るぞテメーッ!!」

 

後輩「童貞じゃありません。警官がそんな言葉づかいやめてください。だから奥さんと子どもに逃げられるんですよ」

 

警官「そのことはもう言うな馬鹿野郎!!絶対復縁してやるクソが!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

425 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:15:22.65 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

警官「あいつは俺が絶対捕まえてやる。あいつは俺にしか捕まえられねーんだ」

 

後輩「一度都落ちした先輩にそんなことできるんですかね」

 

警官「できるに決まってんだろドチキショウ!!」

 

 

警官「おらおらどけガキども!!!車道に飛び出すんじゃねー邪魔だオラァ!あぶねーぞ!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

426 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:15:57.65 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

少年「……」

 

少年「……」

 

  

   「はい、これ」

 

少年「……?」

 

花屋の女「あげるよ。間違って切っちゃったんです」

 

少年「……別にいらないよ」

 

女「偽物の花でも、誰かにプレゼントされると嬉しいって、人間は思うものでしょ?」

 

女「そう思うはず」

 

女「なんだか君が暗い顔をしていたし、私も間違って切っちゃったことばれたら怒られるから、ちょうどいいじゃない」

 

女「受け取って」

 

少年「……じゃあ」

 

少年「……どうも」

 

女「いえいえ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

427 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:16:39.25 ID:UmxEe4WZo

 

 

アパート

 

 

少年「こんなのもらっても……な」

 

少年「飾ってもしょうがないし」

 

少年「捨てるか」

 

 

ドンドンドン!!

 

 

男「おい。いるのは分かってる。出て来い」

 

少年「……!」

 

 

少年「……帰れ!何度言われても僕はどこにも行かない」

 

男「立ち退いてもらわないと困るんですよ。こっちも遊びでやってるんじゃないんでね」

 

少年「急に現れて家から出て行けなんて勝手なことを言っておいて……」

 

少年「ここは僕の家だ。……僕たちの家だ」

 

男「もうここら一帯のほとんどの連中が立ち退いたんだぜ。あとはお前さんと少しだけだ。もう諦めろよ」

 

男「工事ももうすぐはじまる予定だ。そろそろ本格的に立ち退いてくれねーと困るよ」

 

男「はぁ。ここらへんで言うこと聞かないと、俺より怖い奴らが来るぜ。俺はまだ優しい方だ。

  うちのボスはそりゃあ金のためなら何でもやるからな。ガキでも容赦しねえぜ」

 

男「……また次は誰かが来る。そんときまでにどっか行っとけ」

 

 

 

 

少年「……」

 

少年「ここを出たっていくところなんかない……」

 

少年「この家だけは……」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

428 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:18:22.05 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

* * *

 

 

 

 

魔王「…………」

 

魔王「…………」

 

魔王「……ふう……いったん落ち着こう」

 

魔王(見慣れぬものばかりだ。どう考えても別世界……ここに創世主がいるのか)

 

魔王(人が多いな。どうやら魔族はこの世界に存在しないようだ。もしくはここが人だけの街なのか……)

 

 

がやがや がやがや

 

 

魔王(言葉は分かる。意志疎通は問題なさそうだ)

 

魔王(だが服装……かなり私はここで浮いているな。仕方ない)

 

 

ジロジロ……

 

 

魔王(視線をものすごく感じる。立ち止まっているより歩き続けていた方がよさそうだ)スタスタ

 

魔王(勇者くん……どこにいるのだろう)

 

魔王「わっ……?」

 

 

ビュン

 

 

魔王「なんだ、あの箱は? 馬車ではない。人が中にいた」

 

魔王「それに、こ、この中から人の声がする小さな箱は……?」

 

   「ちょっと!うちの店のラジオに勝手に触んないでおいとくれ!」

 

魔王「らじお?」

 

魔王(魔族はいないのに魔法はあるのか……。しかし一体どんな呪文の魔法なのだろう)

 

魔王(見たところこの街には魔法が溢れかえっているようだが、どれも全然仕組みが分からないものばかり。

    この世界はかなり魔法が発展しているようだ)

 

魔王(すごい……。落ち着いたら色々ここで魔法を学びたいな。こんな街があったなんて……)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

429 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:18:56.54 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

魔王(……でも)

 

魔王(魔法が発展している割には……街の様子がどうも変だな。

   皆貧しい身なりをしているし、道のいたるところにゴミが落ちているし)

 

 

男「……へへ」

 

女「ひそひそ……」

 

 

魔王(なんだか嫌な感じだ)

 

魔王(治安はよくないようだな。これほど魔法が発展しているのならもっと治安が良くてもよさそうなものだが)

 

 

 

 

ドゴッ

 

 

「おい……持ってんだろ?出せよ、金」

 

「持ってない……」

 

 

 

魔王「……ん?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

430 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:24:34.75 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

男A「ウソつくのはやめろよ。今持ってる金全部わたしゃいいんだよ。

  お前、あっちの工場で働いてるんだろ」

 

少年「……金が欲しけりゃ自分で働けよ。盗みばっかしてないで」

 

男B「お前だってここらにいるって時点で、俺らと同じようなもんだろ!はは!」

 

少年「僕はお前らとは違う……」

 

男A「あんだと?生意気言うじゃねーか。スラム街の小僧が」

 

少年「それに本当に今は金がない。殴りたきゃ殴れよ」

 

男B「……ふん。じゃあお望み通り」

 

 

魔王「待て。何をしているのだ」スタスタ

 

魔王「大の男が子どもに寄ってたかって、恥を知れ」

 

男A「あぁ?誰だてめえ。邪魔すんじゃねぇよ」

 

少年「……?」

 

魔王「……君……どこかで私と会ったことがないか?」

 

少年「はあ……? ねえよ」

 

少年「誰だよアンタ。どっか行けよ」

 

男B「お前、そのガキの知り合いか?だったらそのガキの代わりに金出せよ」

 

少年「いや、知り合いじゃない。誰だよほんと」

 

魔王「……これを持って行け」ジャリッ

 

少年「おい!?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

431 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:27:04.49 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

少年「なに余計なことしてんだよ!」

 

男A「ん?なんじゃこりゃ。おいこれどこの国の金だよ?こんなんじゃ使えねーな」

 

魔王「……あ、そうか。では私も金などない」

 

魔王「貴様らと同じ一文なしだ。この少年も金を持っていないと言っている。

    私たちからは金を巻き上げることはできんぞ。大人しくどこぞへ行け」

 

魔王「こんな真似をしていないできちんとした方法で金を稼ぐことだ」

 

男A「金がないくせにやたらと偉そうだぞ、この女……」

 

男B「俺らと同類のくせして……」

 

 

少年「おい、変なこと言ってないでどっか行けよ」

 

少年「こいつらは殴ってれば気がすむんだよ。余計なこと言うな」

 

魔王「彼らは気がすむかもしれないが、君は気がすまないだろう。殴られれば痛いはずだ。何故許容する」

 

少年「別に……死にはしない。ずっと我慢してればこいつらも飽きてどっか行くんだ。

   だから早くどっか行けよ。余計な世話だ」

 

少年「僕を助けたつもりなのかもしれないけど、僕はどうだっていいんだ こんなの」

 

少年「どうでもいい」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

432 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:28:29.86 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

 

魔王「どうでもよくない」

 

魔王「どうでもいいことなんて何一つないだろう」

 

少年「……アンタに何ができるんだよ。早く行かないとアンタが」

 

男A「ん?そういえばお前、高そうな服着てるな……中央区のお嬢様か?

   なんでそんな奴がここにいるのか知らないが、金持ってないってのはうそだろ」

 

魔王「先ほど渡したもので全てだ。一文なしだ。路頭に迷う予定だ」

 

魔王「悪いか?」

 

男A「だからなんでそんな自信満々に……!?」

 

男B「おい、こいつの服を売ればそれなりに儲けそうじゃあないか」

 

男A「確かにな」

 

少年「ほら、だから言っただろ。さっさとどっか行けよ、頭いってんのかアンタ」

 

 

魔王「ふざけたことを。後悔するのはそちらの方だぞ」

 

魔王「そこから一歩でも動いてみろ。泣いて許しを乞いたくなっても知らんぞ」

 

男A「なに……!?」

 

少年「え……?」

 

少年(まさか……銃とか?それとも武術?)

 

少年(全然強そうに見えなかったけど、何か奥の手があるのか……?こいつ何者だ?)

 

男B「ふん……ハッタリだろ!」

 

魔王「早合点はよくないぞ。後で自分の首を絞めることになる」

 

男A「こいつのこの様子……何かあるみたいだぜ……慎重にいかねえとな」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

433 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:29:20.17 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

 

魔王(……あ、杖を持っていなかったな)

 

魔王(まあいい。多少手加減ができなくなるだけだ。彼らに少々灸を据えねばな)

 

魔王(…………あれ?)

 

魔王(……あ。いま魔法が使えないのだった)

 

 

少年(何がはじまるんだ……?)

 

魔王「少年」

 

少年「えっ……?」

 

魔王「逃げるぞ」

 

少年「………………………………は?」

 

 

 

男A「おい逃げたぞあいつら!!!」

 

男B「やっぱりハッタリだったんじゃねえか!!コケにしやがって!!」

 

男A「捕まえたらタダじゃおかねえ!!ガキの方もぶっ殺してやる!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

434 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:31:00.93 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

ダッダッダッダ……

 

 

少年「……なんなの?お前馬鹿なの?」

 

少年「……結局煽るだけ煽っただけかよ?何もできないなら余計なことほんとにすんなよ。

   殴られるだけならまだしも、あいつらに捕まったら僕ぶっ殺されるそうなんだけど?」

 

少年「完全に状況が悪化してるんだけど?」

 

魔王「すまない。でも本当は何かできるはずだったのだ。

    今は魔力がなくて魔法が使えないだけで」

 

少年「……はぁ?魔法?」

 

少年(まずい…… 本当の本当に頭がいかれてる奴だった……妙な奴に絡まれた……)

 

魔王「それに、君が捕まることはないから安心してくれ」

 

魔王「君はそこを右に曲がれ。私は左に行く」

 

少年(よかった、これでこいつと離れられる)

 

少年「分かった」

 

 

 

少年「はあ、はあ……!」

 

少年「ってこっちに来たらどうするんだよ……!」

 

 

ドガシャーン!

 

 

男A「左だ!!追うぞ!!」

 

男B「分かってる!!」

 

 

少年「……!?」

 

少年「……あいつ……わざとやったのか?」

 

 

 

 

少年「……別に僕には関係ないことだ」

 

少年「……僕はあのとき、どっか行けって言ったのに、あいつが首つっこんできたから」

 

少年(自業自得だろ)

 

少年(変なこと言う奴だし、あんまり関わり合いたくない)

 

少年(……明日も仕事だ。早く帰ろう)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

435 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:32:59.65 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

* * *

 

 

魔王「……」

 

男A「っへへ追い詰めたぜ。行き止まりだ。おいあのガキはどこ行った?」

 

魔王「さあな」

 

男B「まあいい。お前の服もらうぜ。そうすりゃ一月は不自由しないで暮らせそうだ」

 

魔王「いまここで裸になれと言うのか?この私に、痴女になれと?」

 

魔王「私に、こんな屋外で猥褻物を陳列しろと? ふざけるのも大概にしろ」

 

魔王「私の服を売る前に、自分の服を売ればよいではないか?それとも自分が服を着ていることに気付いていないのか?

   下を見てみろ、シャツをズボンとブーツがある。それを売れ」

 

男A「こ、こいつ馬鹿にしやがって……中央区の連中はこれだから腹立つぜ」

 

男B「俺たちのこといつもそうやって見下しやがる。思い知らせてやるよ、世間知らずのお嬢さんによぉ!!」

 

魔王「いいだろう、かかってこいっ! こちらとて今まで伊達に生き伸びてきていない。

    みくびったこと必ず後悔させてやる!」

 

 

ザバァァァァン!!

 

 

男A「ぶっ!?」

 

男B「なんだっ!?」

 

魔王「? 水? 空から……」

 

少年「逃げろ!」

 

魔王「さっきの少年。何故……」

 

少年「早くしろよっ! 横の建物に入れ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

436 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:35:01.48 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

 

 

男A「あっくそ!女が逃げたぞ!」

 

男B「ビルの屋上から水ぶっかけやがったのはさっきのガキか……!あいつらもうただじゃおかねえ!

   俺はガキをとっちめてくる、お前は女を追え」

 

男A「ああ!」

 

 

 

魔王(横の建物、横の建物……これか!変な建造物だな……レンガでも石でもない)ガチャ

 

男A「どこ行った、うおおおおおお!」

 

魔王「通り過ぎたか。馬鹿で助かった。後もう一人……」

 

 

少年「一人こっち来たか……」

 

男B「へっ 馬鹿め。屋上なんてこの階段しか逃げ場がねえんだ。もう逃がさないぜ」カンカン

 

男B「大人しくまってやがれ……!」カンカン

 

少年「そろそろか」

 

 

シュルッ シュルルルル

 

 

男B「なっ パイプを伝って下りるだと!?てめえ、そんなアクション映画みたいなことしてんじゃねえよ!」

 

少年「ひぃぃっ 怖っ……!! くそもう二度とこんなことしないっ」スタッ

 

 

タッタッタ……

 

 

魔王「そのまま直進しろ。そこ1.5mほどジャンプして」

 

少年「なっ!!お前なにまだここにいるんだよ馬鹿かよ」

 

魔王「いいから」サッ

 

 

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437 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:36:25.36 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

男B「待てクソガキ!!!」ダダダ

 

魔王「……」クイ

 

 

ピン

 

 

男B「のわっ!? なっ、な、……」

 

男B「な!?」

 

 

 バキッ ドンガラガッシャーン

 

 ギャァァァァ……

 

 

少年「はあっ はあ…… え? あの男は? なにこの穴」

 

魔王「さあ。開いていたのだ。そこの建物にあった薄い板を上にかぶせて落とし穴にした」

 

少年「ああ、確かここ工事中だったな」

 

魔王「助かった。ありがとう」

 

少年「……いや……まあ……」

 

少年「……今回は無事に済んだけど、もうああいうのやめた方がいいと思うよ。じゃ、ここで」

 

魔王「待ってくれ」

 

魔王「君に妹はいないか?」

 

少年「…………!」

 

少年「なんで……」

 

魔王「私も何故だか分からないのだが、君のことをどこかで見た気がするのだ」

 

少年「……いないよ」

 

少年「いない。人違いだろ」

 

 

 

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438 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:37:47.02 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

 

魔王「……そうか」

 

少年「じゃあ、さよなら」

 

魔王「あっ 待ってくれないか。ここに来たのは初めてで、連れともはぐれてしまって……

   できればここのことを教えてほしいのだが」

 

少年「え……いやだよ」

 

少年「どうせアンタ中央区からきたいいとこのお嬢様なんだろ……こんなとこにいないでさっさと家に帰れば」

 

魔王「中央区?いや違う。その……記憶喪失で。どこから来たのか分からない」

 

少年「記憶喪失なのに連れがいたことは覚えてるのか?」

 

魔王「部分的記憶喪失なのだ」

 

少年(怪しい……)

 

魔王「頼む。この街である人物を探さないと、私の……街が危ないような気がする。だからこの街の知識がほしい」

 

少年(…………)

 

少年「まあ、少しの間だけ……なら」

 

少年「……名前は? アンタの名前」

 

魔王「私は魔王だ」

 

少年「は?」

 

魔王「魔王だ」

 

少年(……………うわ………………………)

 

 

 

少年「やっぱさっきのなしということで……じゃあ、ここで解散」

 

魔王「待ってくれっ、嘘ではない。本当のことなのだ」

 

少年「ついてくんな……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

439 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:39:14.78 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

* * *

 

 

少年「ついてくんなって言ってんだろ!!」

 

魔王「ここが君の住んでいるところなのか?建物はたくさんあるが、人気が全くないな……。まるでゴーストタウンだ」

 

少年「聞けよ! 家までついてくるつもりかよ。絶対家には上げないからな」

 

魔王「家族がいるのか?」

 

少年「……いねーよ。わりーかよ。どうせお前には待ってる家族がいるんだろ、早く帰れよ。どっか行け」

 

魔王「いや、こちらでやらねばならんことがある。それに私も血の繋がっている家族はもういない」

 

少年「え?」

 

魔王「ところで、この街は夜でもとても明るい。火ではないな、何故あんなにも明るいのだ」

 

少年「あれは……電気だけど。火なんて街灯に使うのは何百年も前のことだよ」

 

魔王「でんき……」

 

少年(電気もしらねーのかよ……まじでこいつなんなんだ……早く縁を切りたい……)

 

 

魔王「でも、君の住んでるこの地区は全然灯りがないな」

 

少年「……もうほとんど誰も住んでないから」

 

少年「……!! 家の前に……あいつ……」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

440 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:44:54.17 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

黒服「やっとお帰りですか」

 

少年「……また来たのかよ。帰れよ!僕は立ち退かないぞ!!」

 

黒服「そんなに強情を張られると、こちらも強硬手段にでるしかなくなりますが」

 

少年「何をされようとこの家を渡すつもりはない。ほかのみんなが立ち退いたって僕は……」

 

少年「っ……!早く帰れ!!」ガチャ

 

黒服「社長のご命令ですので。早くこの書類にサインを頂きたいのです。

    家に上がらせてもらいますよ」ガッ

 

少年「なっ やめろ!勝手に入るな、この野郎!出て行け!!」

 

黒服「汚い家ですね。 で、お父様とお母様は?会わせて頂くまでここに居座り続けますよ」

 

少年「お父さんもお母さんもいねーよ!この家には僕一人だけだ……

    だから、この家だけが家族の思い出なんだよっ!壊されてたまるか!」

 

黒服「じゃお前がこれにサインすれば全部終わるわけだ。どうする、死ぬかサインするか?」チャッ

 

少年「……け……拳銃?」ゴク

 

黒服「……」

 

魔王「けんじゅう、とはなんだ?」

 

少年「……んなっ…… なんでお前まで入ってきてんだよ!!!っも帰れよ、お前ら帰れ!!」

 

黒服「ん……?家族はいないってさっき言わなかったか?誰だ」

 

少年「僕が訊きてえよ。誰だよこいつ」

 

黒服「部外者ならとっとと出てくんだな。拳銃っていうのは、引き金引いただけで人を殺せる便利な道具だよ」

 

魔王「では何故その危険な道具を少年に向ける?やめろ」

 

黒服「フン。……ん?よく見ればなかなかかわいい面してるお嬢さんじゃないか。こりゃいい拾いもん……」

 

魔王「さわるな。薄汚い豚め」

 

黒服「ぶ……豚!?」ゾクッ

 

 

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441 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/27(金) 21:47:59.84 ID:UmxEe4WZo

 

 

 

黒服「この鍛え上げた体脂肪4%の肉体を持つ俺に……言うに事欠いて豚だと?」

 

魔王「貴様の内面が贅肉だらけの気色悪い豚だと言ったのだ。武器を子どもに向けるな」

 

魔王「こちらへ来い。4足歩行でな。首輪も必要か?しつけのなってない駄犬だ」

 

黒服「く、首輪!? だ……駄犬!?!?」ゾクゾク

 

黒服「な……なんたる屈辱……この俺に」スタスタ

 

魔王「犬は2足歩行しないだろう。私の話を聞いていたのか。とっとと屈め」

 

黒服「な、なんだとぉ……!?」ペタン

 

魔王「そうだ、いい子だ。さあそのまま外の手すりまで来い。……遅い。駆け足」

 

黒服「く、くそう……こんな娘に……」ゾクゾク

 

魔王「手すりから身を乗り出せ。もっとだ。もっと」

 

黒服「落ちてしまうじゃないか!」

 

魔王「犬ってどうやってなくんだっけ」

 

黒服「ワン!ワン! ワ……」

 

魔王「よくできたな」ドン

 

 

アーーーーーーーーー…

 

 

少年「馬鹿で助かった……」

 

魔王「馬鹿で助かったな」

 

 

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446 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 20:59:40.28 ID:hfpVOjiho

 

 

 

魔王「彼は?知り合いではなさそうだな」

 

少年「当たり前だろ。……あいつは……どっかの会社から派遣されてきた奴だよ。この間は違う奴がきてた」

 

少年「……このあたりは貧困区でも一番貧しいところなんだ。

   さっき僕たちがいたところは、その中で最も治安が悪いところ」

 

少年「お偉いさんたちは、掃きためを壊してここら一帯に楽しい楽しいテーマパークをつくるんだってさ」

 

少年「治安が悪くて、貧乏人ばっかり住んでる汚らしいところを壊して有効活用しようってわけだ」

 

魔王「てえまぱあく……?」

 

少年「……遊園地」

 

魔王「ゆうえんち……?」

 

少年「疲れる……とにかく、客がいっぱい来て金儲けできるところだよっ」

 

少年「もうこのあたりに人が住んでないの見たろ。あいつらが脅してここの住人を追いやったんだ」

 

少年「……」

 

魔王「そうか……。それはひどいな。家を奪うなんて。 では取引をしないか?」

 

魔王「またあのような者が来たら私が追い払う。そのかわり、私にこの世界のことを教えてくれ」

 

少年「……ハァ?次来る奴もさっきみたいな変態ドマゾ野郎とは限らないだろ」

 

魔王「大丈夫だ。自信がある」

 

少年「……なんの?」

 

 

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447 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:00:41.11 ID:hfpVOjiho

 

 

 

 

魔王「だから明日も来ていいだろうか?頼む。君しか今頼れる人がいない」

 

少年「……いやだ。首つっこんでくんな。それに僕は明日仕事だから」

 

魔王「仕事をしているのか?君はいまいくつだ」

 

少年「……11。……」

 

魔王「……そうなのか。えらいな君は。よしよし」

 

少年「なんだよっ!やめろ。……お前みたいな金持ちにこんなことされたくない」

 

魔王「金持ちではないのだが、気に障ったのならすまん。でも明日また会いにきてもいいだろうか」

 

少年「……………………じゃ明日だけ……」

 

魔王「ありがとう。恩に着る。ではまた明日」ガチャ

 

 

 

 

少年「……どっか泊まるアテあるんだろうな」

 

魔王「ないが、別に外で寝ることには慣れている。昔はよくそうしたものだ」

 

少年「ないって……ここらへん特に夜は治安悪いって言っただろ。……どうするんだよ」

 

魔王「何とかなるはずだ。君は明日の仕事のため早く寝た方がいい」スタスタ

 

少年「……~~身ぐるみ剥がされるぞ!………………分かったよ、あがれよ!」

 

少年「黒服追っ払ってくれた礼だ。ただし今日だけだぞ。今日だけだからな」

 

魔王「いいのか?ありがとう。悪いな」

 

少年「ただこのベッドには触るな。戸棚も開けるな。クローゼットも開けるな」

 

魔王「分かった」

 

 

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448 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:04:10.71 ID:hfpVOjiho

 

 

 

 

 

* * *

 

 

教会

 

 

勇者「そのカイシャ?っていうのを潰せって言われたって、どうすりゃいいんだよ」

 

シスター「文字通り悪魔のすごい力で物理的にぶっ潰してくれ」

 

勇者「いや、でも俺にはほかにやることがあって……そんな暇はない。都市って遠いんだろ?」

 

シスター「列車で数百キロ走るからまあ遠い。さらにこっから中央区の駅まで行かないといけないからもっとかかる」

 

勇者「れっしゃ?えき? はあ……」

 

勇者「とにかく無理だ。俺は今日街を歩いてくる。魔王と創世主探さないといけないんだ」

 

 

スタスタ

 

 

シスター「魔王……?創世主? そっちの方が強そうだな……」

 

 

 

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449 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:07:09.88 ID:hfpVOjiho

 

 

 

勇者「妙な世界に来ちまった……」

 

勇者「どうするか。ま、適当に歩くか。しっかし治安の悪いところだなぁ。魔王大丈夫かな……」

 

 

キキーーーーッ!!

 

 

勇者「!?」

 

警官「おう兄ちゃん。なんだお前、変な格好してんな。旅行者か?こんな貧乏地区に」

 

警官「その腰にぶら下げてるもん見しちゃくれねえか?」

 

勇者「剣か?いいよ。はい」

 

警官「ほほう。本物か……かなりよく斬れそうだねい」

 

勇者「まあな、けっこう名のある剣なんだ」

 

警官「そうかそうか。で、両手を上げてくれるか?そう。揃えてな」

 

勇者「?」

 

警官「はい逮捕」ガチャ

 

勇者「あーーーーーーーーーーーーっ!?」

 

勇者「て、手枷!?おいなにするんだよ!!俺が罪人だって言うのか!?」

 

警官「バリバリ罪人だろうが!!こんな大型刃物、ぶらぶらぶら下げて歩きやがって!!銃刀法違反だバカヤロー!!

    おらパトカーに乗れ!!署に来い!!てめーみたいな不良犯罪者を捕まえて俺は地道に点数稼ぎしてんだよ!!」

 

後輩「こすいですね先輩」

 

勇者「剣持ってて何が悪い!?普通だろ!」

 

警官「あー?開き直んのか?さっさと乗れドアホ!!」

 

勇者「どわっ」ヒョイ

 

勇者「剣返せ!!」サッ

 

警官「あっ オイ待て犯罪者!!! くそ逃げやがった。追え後輩。車を出せ!!」

 

後輩「へいへい」

 

 

ギャリリリリリリリリ

 

 

勇者「うわーっ 何だアレはえーっ!!国王より速い!!」

 

 

 

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450 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:10:32.09 ID:hfpVOjiho

 

 

 

警官「チッ! 逃げ足の速い野郎だ。次見たらタダじゃおかねえ」

 

後輩「そういえば先輩。聞きました?このあたりでまた行方不明者が出たって」

 

警官「あ?どうせ家出かなんか喧嘩に自分から首突っ込んだんだろ。ここじゃそんなんしょっちゅうだ」

 

後輩「さあ……どうですかね。でも最近いつもより数が多いんですよ」

 

警官「じゃ元から悪かった治安がもっと悪くなったってこった」

 

後輩「先輩鈍いですね。もしかしたら連続殺人犯、先輩がずっと追って、さらに捕まえたと思ったら逃がしたあいつが

   このあたりに潜伏してるかもしれないってことですよ。チャンスじゃないですか」

 

警官「へっ。んなわけあっかよ。そんな出来すぎた話そうそうないだろ」

 

 

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451 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:12:03.14 ID:hfpVOjiho

 

 

教会

 

 

シスター「なんだ。もう帰ってきたんだ?」

 

勇者「はあはあ……なあ、これ外してくれ」

 

シスター「は?手錠なんて外せるわけねーだろ。なめてんのか」

 

勇者「くそっ! 邪魔だ!!」ガチャンガチャン

 

 

 

シスター「ああ、そりゃ剣とか銃は大っぴらに見せて歩いちゃだめだ。法律違反。ま、隠し持ってる奴も多いけど」

 

勇者「……剣持ってることが違反!?どうなってんだこの国は……」

 

勇者「……この国のこと、もっと教えてくれないか」

 

シスター「ここは国が持ってるいくつかある街のひとつ。ぐるっと囲んでる街壁の外には砂漠が広がってて、

     滅多なことじゃ外に行く奴も外から来る奴もいないよ」

 

シスター「金持ちと金なしがいる街。中央区はこの世の天国みたいに整っててきれいだが、ここら一帯は掃きためみたいなもん」

 

シスター「人が暦を数えだしてから1927年。

      惑星全域を巻き込んで勃発した第5次世界大戦後、いまは休戦中」

 

シスター「でもいつかはじまるWW6のためにどこの国も兵器を大量生産中だ」

 

シスター「なんか質問ある?」

 

 

 

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452 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:13:46.46 ID:hfpVOjiho

 

 

 

 

勇者「世界大戦?戦争、だよな……」

 

勇者「この世界に魔族はいるのか?」

 

シスター「魔族はいない。私がお前を召喚したようにやらない限りね。

      まさかいるとは私も思ってなかったけど、世の中なにがあるかわかんねーな」

 

勇者「魔族がいない……人間だけの世界なのに、どうして戦争なんか?理由は?」

 

シスター「いや、普通に資源の取り合い合戦」

 

シスター「みんなが豊かな暮らしをするためにゃ高エネルギー物質が必要不可欠。

      まあそれも戦争でほぼ使っちゃって、この惑星からはそういうのどんどん干からびてってる」

 

シスター「資源を得るための戦争で資源を失っちゃうんだ、馬鹿だろ」

 

シスター「あと環境問題も深刻だね」

 

シスター「この間、お前森はないのかって聞いたけど、森なんてもう惑星どこ探してもないんじゃない。

     植物はかろうじて残ってるかもしれないけど中央区くらいかな、あるの」

 

シスター「めちゃくちゃ高いらしいよ。私は本物の花とか木見たことないね。大昔にもう全部枯れちゃったんだ」

 

勇者「え。でもそこらへんにあるじゃないか」

 

シスター「ありゃ偽物。外観用」

 

シスター「最初にこっち来たとき、空気がくさいって言ったな。大気汚染も進んでるよ。

      中央区や一般区は大気洗浄機できれいな酸素つくってるけど」

 

シスター「あっちもいつまで続くかね……いつかまかなえなくなっちまうだろーよ。植物も森もないんだから」

 

 

シスター「この街はいつも灰色だよ。ずっと何十年も前からあの灰色の雲が空を覆ってて、

      私は青い空や黒い夜を見たことがない。ずっと曇りの灰色だ」

 

シスター「太陽もね」

 

 

 

シスター「ここは少しずつ死んでいってる世界なんだ。近いうちに多分全部終わっちまうよ。もうほとんどなにも残ってない」

 

シスター「でも、みんなそのことに気付いてない。あんまり気にしてないみたいね」

 

シスター「私が大切じゃないのかなって思うものと、みんなが思うものはちがうみたい」

 

 

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453 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:16:48.39 ID:hfpVOjiho

 

 

 

勇者「……正直難しくてよく分かんないんだが」

 

シスター「おいおい頑張って説明した私の身にもなれよ」

 

シスター「あとお前が魔法だって思ってるのは全部科学技術だから。魔法とか使える奴いねーから」

 

勇者「カガク……だと?また分からん単語が……意味分からん……」

 

勇者「じゃああといっこ聞いてきいか。あんたはシスターで、ここって教会なんだよな」

 

シスター「そだけど」

 

勇者「……ここに来てる人間、俺しかいなくねえか。本当に教会なのか……。シスターこんなだし」

 

シスター「教会だっつの。人が来ないのは仕方ない。もう今の時代、誰も神や信仰になんて時間をかけないんだよ」

 

シスター「近代化して、真っ先に切り捨てられたのが信仰だよ。今はみんな目に見えるものしか信じない。

     全員 物質主義者になっちまったのさ」

 

シスター「見返りのあるものにだけ時間をかける。まあ、合理的だ。無駄のない賢い生き方だよ」

 

勇者「……。もっと5歳児くらいにでも理解できるように話してくれないか」

 

シスター「お前それ自分で言ってて悲しくなんないの」

 

 

勇者「誰もこないのに、みんな信じてないのに、じゃあなんであんたはシスターになったんだ」

 

シスター「私はあまのじゃくだからさ。みんなが信じてないものを信じてみたくなったのさ」

 

勇者「……つーか今思うとシスターが悪魔召喚とかしていいのか?俺悪魔じゃないけど」

 

シスター「神様なんていないって言うから、じゃあ悪魔ならいるのかなって思って」

 

シスター「結果、神様はいないけど悪魔はいるらしいね」

 

シスター「いい世の中だ」

 

 

 

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454 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/07/02(水) 21:19:29.32 ID:hfpVOjiho

 

 

 

* * *

 

 

パラパラ……

 

 

勇者「なあ、なんで教会に本棚がある。礼拝堂におくか普通」

 

シスター「別にいいだろ誰もこねーんだから。読んでもいいけど」

 

シスター「読み終わったらそろそろ中央区の会社ぶっ潰しに行けよ。ちんたらしてんなよ」

 

勇者「だから俺は……大体あんなへたくそな魔法陣で召喚に成功するわけないだろ……」

 

シスター「あん?私が一生懸命書いた陣を馬鹿にするんだ?」ゴリ

 

勇者「お前ほんとシスターの鑑だよ。いてーよ」

 

 

 

勇者「えーなになに。英雄譚、冒険記、年代記……ふーん、神話なんてのもあるんだ」

 

シスター「この教会の宗教とは別のも混じってるよ」

 

勇者「それ、いいのか?異教って言うんじゃ」

 

シスター「別にいいんだ。どうせどの神様も信じられてない。だからここに置いといてやるの」

 

勇者「……」パラパラ

 

勇者「ふうん。全然俺たちの世界と違うな、やっぱ」

 

勇者「…………ん?」

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