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455 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 21:10:09.53 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

??「……泣かないでください。本当に、ごめんなさい」

 

??「ここで化け物として一生を終えるくらいなら……勇者の手で終わりにしてくれた方が」

 

??「何倍も幸せです」

 

勇者「……いやだ……」

 

??「いつ死んでもいいって、思ってた。彼が死んでからずっと」

 

??「でも旅をしてるうちに、もっと生きて、みなさんといたいって……」

 

??「そう思えるようになったのも、勇者と、剣士と、僧侶のおかげです」

 

??「ありがとう」

 

??「みんな大好き……です」

 

??「えへへ」

 

 

??「だから」

 

??「おねがいします……」

 

 

 

バリンッ!!

 

 

……ビチャ

 

 

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456 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 21:12:41.05 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

勇者「恨んでくれ」

 

勇者「全部僕のせいだ」

 

??「恨まない。……仲間です」

 

 

ギュッ

 

 

??「……あったかい……」

 

勇者「右手は必ず故郷に届ける。約束する」

 

??「ありがとうございます……」

 

 

 

勇者「今まで……」

 

勇者「この手で、弓を引いて……いっしょに戦ってくれて……ありがとう」

 

勇者「…………狩人」

 

 

狩人「……はい」

 

狩人「さよなら……」

 

 

 

 

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457 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 21:15:18.78 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

ヒュンッ!

 

 

僧侶「ぐああああ!? こ、ここは……!? 室内……?」

 

剣士「地下みたいだね。争った形跡がある。それから血の跡も……たぶん勇者だよ。辿っていこう!!」

 

 

 

 

オークDとグリフォンEが襲いかかってきた!

 

 

 

僧侶「チッ……魔族がわんさかいやがる。魔族領なんだから当たり前か。一体どいつが勇者と狩人ちゃんを……!!」

 

僧侶「とくに……狩人ちゃんをっ!!!許さん!!!待ってろ狩人ちゃん、俺がいま助けに行くっ!!!」

 

剣士「血の跡は……あっち。あの部屋に続いてる。あの扉の先に勇者と狩人ちゃんがいるはずだよ」

 

僧侶「突撃だ!!」

 

 

 

剣士「あっ……オークとグリフォンの死体がある。このグリフォン、塔で会った奴じゃない?

   ほら、グリフォン族なのに落っこちてきた……」

 

僧侶「これは二人がやったのか? 部屋は奥にもういっこある。……開けるぞ、剣士ちゃん」

 

剣士「うん」

 

 

 

ギイィ

 

 

 

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458 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 21:24:02.49 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

 

剣士「暗いね。 本当に二人はここにいるのかな……」

 

僧侶「確か煙草用にマッチがあったはず……あったあった」ゴソゴソ

 

 

ボッ

 

 

僧侶「うっ。なんだここは、不気味な部屋だな。もしかしてここって所謂研究所とかそういうんじゃねーだろうな」

 

剣士「勇者、狩人ちゃん……ここにいるの? いるなら返事して!」ピチャ

 

剣士「! これは、水? どこから……」

 

勇者「灯りを……消してくれないか」

 

剣士「ゆ、勇者! よかった、無事だったんだねっ!怪我は平気?狩人ちゃんは!?」

 

僧侶「お……お前、血まみれじゃないか。こええよ……返り血か? つーか灯りを消せって、なんでだよ?歩きにくいだろ」

 

勇者「消してくれ」

 

僧侶「……な、なんだよ。ほら消したぞ。で狩人ちゃんはどこだ?」

 

僧侶「あと何抱えてんだ?とりあえずそれ離せ。失血量やべーぞ。今なら特別に丁寧な方の治癒魔法かけてやるよ」

 

勇者「いい。それより僕の杖ある?」

 

剣士「持って来たけど……勇者大丈夫?」

 

剣士「なんか、おかしいよ……」

 

勇者「ここを焼き払うよ。そしたらすぐに転移魔法で帰ろう」

 

僧侶「はああ!?ばか言うな!!まだ狩人ちゃんと合流できてねーーだろうが!!頭沸いたかテメエ!!」

 

 

 

 

勇者「狩人は死んだ」

 

勇者「僕が殺したんだ」

 

 

 

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459 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 21:26:31.53 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

* * *

 

 

 

星の国

 

 

 

チェロ弾き「もう人通りが少なくなってきたのう。そろそろ帰るか」

 

チェロ弾き「……おや。あのお嬢さん、まだあそこに腰かけておる」

 

 

剣士「……」

 

チェロ弾き「やあ、こんばんはお嬢さん」

 

剣士「こんばんは……」

 

チェロ弾き「一曲どうかね。リクエスト聞くよ」

 

剣士「お金もってくるの忘れちゃったの……」

 

チェロ弾き「なに、もうお嬢さんが最後のお客さんだからね、お代はいらないよ。

      ずいぶん暗い顔して俯いてるから、おじさんからプレゼントさ」

 

剣士「……ありがとう」

 

剣士「じゃあね、レクイエム……」

 

 

~♪

 

 

剣士「……いい曲」

 

チェロ弾き「……」

 

 

~♪

 

 

チェロ弾き「2曲目のはレクイエムじゃないんだけどね。お嬢さんの笑顔が戻るように。

      思わず口笛を吹きたくなっちゃうような楽しい曲だろう?」

 

チェロ弾き「なにがあったのか分からないけど、元気をお出し。神様はいつでも私たちを見まもってくれているよ」

 

剣士「……」ニコ

 

 

 

剣士「この国は本当に星がきれいなんだね、おじいさん」

 

剣士「……いっしょに見たかったな……」

 

 

 

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460 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 21:33:18.87 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

* * *

 

山道 湖の前

 

 

僧侶「あー……っと。次の村は確かこのまま南であってるはず。もうすぐ着くだろうな」

 

勇者「そっか」

 

剣士「……じゃ、じゃあ少し休憩しない?ちょうど湖もあるし。すぐ村に着くならさ。ねっ」

 

僧侶「俺も喉かわいちまったよ。休もうぜ」

 

 

 

 

剣士「あ……魚いる。なんて魚だろ。ちっちゃくてかわいいね」

 

勇者「……」

 

剣士「……えっと」

 

僧侶「おいっぼーっとすんな勇者!!剣士ちゃんの発言シカトなんて言語道断、地獄の沙汰も金次第だぞっ!!」

 

勇者「……あ、ごめん。聞いてなかった」

 

剣士「いや、いいよ!全然内容がない発言だったしむしろ無視してねっていうか……!」

 

勇者「あのさ……二人とも、何も言わず星の国まで来てくれたけど。次の村で別れようか」

 

勇者「塔へは僕一人で

 

僧侶「剣士ちゃん」

 

剣士「うん。思った通りだったね」

 

僧侶「そいっ!!」

 

剣士「えいっ!!」

 

 

バチーン

 

 

勇者「痛いっ! な、なにをするんだ!?」

 

剣士「絶対そう言うだろうねって僧侶くんと話してたんだよ。あのね、絶対無理。……ついてくよ」

 

僧侶「お前一人じゃ絶対すぐ犬死だっつの。まあ別に……俺はそれでもいいけど。

   狩人ちゃんがあんなことになっちまったのはよ……これから倒しに行く魔女の術が関わってたんだろ?」

 

僧侶「仇討ちだ。お前がいやだっつってもついてくぜ俺ァ。くさってもお前は勇者だからな、戦力は多い方がいい」

 

勇者「……」

 

 

 

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461 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 21:35:59.64 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

ワーワー…… ワー

 

 

剣士「? なんかあっちの方から人の声がするね。なんだろ」

 

僧侶「これから行く村の連中じゃないか?方角的に」

 

兜をかぶった男「やや、あなたたちはもしや勇者様とそのお仲間ですか」

 

勇者「そうですけど……なにかあったんですか」

 

 

 

剣士「ド、ドラゴンが?」

 

兜男「ええ。空を飛んでこの森に落ちるところを見た者がいます。

   何かある前にと、近くの町や村から腕の立つ者を集めて捜索に当たっているのです!」

 

兜男「勇者様たちがいらっしゃれば心強い!!ドラゴンですよドラゴン!!

   我々だけで太刀打ちできるか不安だったのです!」

 

兜男「では勇者様たちは南をお願いいたしまする。我々は引き続き北を探しますので。

   相手はあの竜族ですからね、どんな災害を引き起こされるか分かったもんじゃありません。

   見つけ次第殺してくださいね!」

 

 

僧侶「……こっちの返事も聞かず言うだけ言って逃げるたあ いい度胸してんじゃねーかあの兜」

 

僧侶「追ってぶん殴るか?ん?あの兜も売れば今日の宿代くらいにゃなるんじゃねーのか」

 

剣士「やめてよ。僧侶くんの時折見せる山賊のような瞳のギラつきは一体なんなの」

 

僧侶「元山賊だからな、お手のもん……あっウソウソ!そんな経歴は僕持ってないよ!清廉潔白な僧職だよ!」

 

剣士「えっ……」

 

 

勇者「ドラゴンか…… とりあえず探そうか」

 

勇者「殺さなくちゃね」

 

 

 

 

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462 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 21:57:22.95 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

 

鍾乳洞

 

 

 

剣士「すごくドラゴンが潜んでいそうな鍾乳洞に辿りついたね」

 

僧侶「まあ、入ってみるか」

 

勇者「……」

 

 

コツ……コツ……コツ

 

 

ォオ……オ……ォオオ

 

 

勇者「どうやら本当に竜はここに潜んでるみたいだね。ドラゴンの唸りが奥から聞こえる」スタスタ

 

剣士「ちょっと、勇者、慎重に行った方がいいよ……!もっとゆっくり」

 

剣士「ねえっ 聞いてる?」

 

僧侶「ハァ、だめだアイツ……聞いてねえよ」

 

 

 

 

最奥

 

 

 

 

勇者「……」

 

子竜「グルルルルルル……」

 

剣士「た、確かにドラゴンだけど……すごく小さいね。まだ子どもだ」

 

僧侶「怪我してるな」

 

勇者「来るなって言ってる。迷って人間の土地に来てしまったらしい」

 

剣士「言ってること分かるの……?」

 

子竜「…………」バサバサ

 

勇者「でも見逃すことはできないよ」スタスタ

 

勇者「死んでくれ」

 

 

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463 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 22:01:08.11 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

剣士「えっ……」

 

僧侶「前とは言ってることが違うじゃねえか。いいのか勇者。

   お前、必要がないのなら魔族はできるだけ殺したくないって言ってなかったか」

 

勇者「うん、僕が間違ってたよ」

 

勇者「もっと早く気付いていたらよかった……」

 

 

 

勇者「あのとき、雪の塔でグリフォンを見たとき、奴を殺していれば狩人はあんなことにならなかったんだ。

   敵を見逃すって行為は仇となって帰ってくるって、狩人はずっと前に僕に言ってくれてたのに」

 

勇者「僕が偽善を振りかざしたばっかりに、あんな……」

 

勇者「ここでドラゴンを見逃してまた同じことになったらどうする。僕はもう二度とごめんだ!」

 

勇者「……殺すよ。これが戦争なんだ」

 

勇者「やっと僕にも分かった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

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兜男「はあ……全然見つかりませんなあ」

 

兜男「おや勇者様! どうでした、見つかりましたか?ドラゴンは」

 

勇者「見つかりましたよ」

 

勇者「ちゃんと始末しました」

 

兜男「それは重畳!さすが勇者様とそのパーティとあらば、負傷もなく返り血ひとつ浴びず

   ドラゴンを倒すことができるのですね。まあ吸血鬼もヒュドラも倒したのですからそりゃそうですよね」

 

兜男「期待してますよ!勇者様。 あ、今日の宿のお代はけっこうですとも!

   どうぞお休みになってください」

 

僧侶「おっ やったな。金が浮く」

 

勇者「……」

 

 

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464 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 22:01:54.47 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

第四章 魔女狩り

 

 

 

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465 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 22:03:22.20 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

星の国 都

 

 

 

学士「というわけでここ星の都は別名学問の都とも呼ばれるくらい、大陸一!学問が発達している都市なのさ。

   都の門をくぐってまず聳え立つ天文台を目にしたでしょう?それを見て分かる通り、天文学が盛んなんだ」

 

剣士「あ、あれすごかった。天文台だったんだ」

 

学士「ハァァ……もっとも今は戦時。兵器や防具の開発の方に力を入れさせられてるんだけどね」

 

学士「とにかく、ようこそ星の都へ。歓迎するよ勇者と剣士と山賊」

 

僧侶「僧侶だけど」

 

学士「あ、そうなの?ごめんごめん。あんまりにも柄が悪かったから。

   でだね、わざわざ君たちの宿に押し掛けてこうして話をしているのは、教えてほしいことがあったからなんだ」

 

勇者「あ……はい。できればもう寝る時間なので帰って頂けると……嬉しいんですけど……」

 

学士「僕はこの大陸の女神について研究してるんだけど、君はもう二人の女神に会ってるんだよねえ!!

   太陽の国の女神から授かったっていう武器を見せてもらってもいいかなあ!?」

 

勇者「どうぞ」

 

学士「ありがたや! 一晩貸してもらっても構わない?ちょっと見てみたいんだ」

 

僧侶「グオー……グー……」

 

剣士「むにゃむにゃ……」

 

学士「それで、これが僕の一番聞きたいことだったんだけど、雪の塔の女神から授かった知恵っていうのは……

   一体どんな知恵だったんだ!?僕はそれを聴くまで帰らないぞ!!帰ってやるもんか!!」

 

勇者「……」

 

勇者「あ……」

 

 

 

 

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466 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 22:06:58.42 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

 

翌日

 

 

カラン

 

 

勇者「そういえば、女神様にもらったこの鍵、使ってなかった。……正直それどころじゃなかった」

 

剣士「勇者。その隈どうしたの」

 

勇者「あの学士が帰ってくれなくって」

 

僧侶「鍵ってったって、どう使うんだ?どの扉の鍵だよ? 女風呂の鍵とかだったら喜んで使うが」

 

勇者「……どう使うんだろう」

 

 

 

パッ

 

 

 

勇者「!」

 

剣士「きゃっ なに?」

 

 

 

 

 

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470 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 18:43:44.85 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

世界図書館

 

 

 

勇者「転移した……のか?」

 

剣士「ええっ なにここ? 広い。天井が見えないよ」

 

僧侶「う、腰打った……」

 

 

司書「うわ。閲覧客なんて久しぶりだ。お前が今の時代の勇者なんだ。へえー」

 

勇者「君は……」

 

司書「まあ、ゆっくりしていけば。なにか知りたいことがあるなら聞いて。

   ここは世界図書館、俺はその司書。先に言っとくけど、ここは一度来たら二度と来れないからね」

 

司書「後悔しないように、きっちり見といて」

 

勇者「図書館? ……よく見たら壁じゃなくて、全部本棚なのか」

 

僧侶「にしても広すぎだろー。 異性にもてるコツがのってる本とかある?」

 

司書「あるよ。はい」

 

剣士「あるの!?」

 

 

 

 

 

勇者「知りたいことって急に言われてもな……。あ、それなら、この魔術書の最後のページにある読めない呪文、」

 

剣士「勇者」

 

勇者「あっ、いや、別に使うからって意味じゃなくて、」

 

剣士「禁術は使わないって約束してくれたよね」

 

勇者「でもここには一度しか来れないし、一応聞いてお

 

剣士「したよね?」

 

勇者「しました」

 

 

 

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471 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 18:48:16.41 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

 

 

剣士「このものすっごく分厚い本はなに?司書さん」

 

司書「それは歴史の本。どれ、よっこいしょっと。読んでみる?けっこうおもしろいこと書いてあるかもしれないよ」

 

剣士「XXXX年、XX月XX日――△△番目の勇者が世界図書館に到着。 えっなにこれ。今日のこと……だよね?

   なんでもう本に書かれてるの?」

 

司書「そりゃ今日のことだって一瞬過ぎればただの歴史になってしまうよ。すぐ記録されなくちゃ」

 

勇者「すごいな、全部書かれているんだ」

 

司書「とくにお前らにとってはここがおもしろいんじゃないか?ほらここ。

   お前らがいま必死になってやってる戦争がはじまった日だよ」

 

勇者「XXXX年……大陸連合軍がドワーフ領・エルフ領へ侵攻開始。最大規模の人魔戦争の幕開け……」

 

勇者「えっ?」

 

司書「そうそう。お前たちが生まれるずーーっと前に、戦争を始めたのは人間側なんだ。

   お前らはそう知らされてないみたいだけど」

 

剣士「昔は人間の方が強かったのかな。その翌年に、また別の種族に侵攻して……どんどん領土を広げてるよ」

 

司書「いやあ、魔族が弱かったのさ。といっても単なる文明の発達度や武力のことじゃなくって、統率されてなかったってだけ」

 

司書「魔族がまだ一丸となってなかったから、どんどんドワーフやエルフとかの弱小種族は侵略されちゃった」

 

司書「でも次のページを見てご覧よ。魔族が巻き返して領土奪還に成功してる」

 

勇者「魔王か……」

 

司書「おう。いまお前たちが挑もうとしてる魔王のことだけど……彼がバラバラだった魔族をまとめあげた!

   すごいな、天下統一だぜ。めったにできることじゃあないよ」

 

 

 

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472 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 18:53:49.71 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

司書「魔王に統率されて連携のとれた魔族は一気に強くなったさ。それに当時の人間は大慌て。

   勝機があると思って仕掛けた戦が突然負け戦に変貌しちゃったからね」

 

剣士「それで……どうしたの?」

 

司書「どうしたもこうしたも、あとはお前たちが身をもって体験している通り、一方的な戦争に早変わり。

   魔王軍の超優勢だよね。大変だよね。このまま人は絶滅してしまうのかなあ」

 

僧侶「他人事かよ、テメエ」

 

司書「他人事だよ。俺人間じゃないし。魔族でもないけど。ただの司書だよ」

 

 

 

勇者「でも、どうして人間は魔族へ侵略を開始したりしたんだ?」

 

司書「そりゃあ、人同士の戦を穏便にやめるためだよ。つーか本見ろよ」

 

剣士「太陽、雪、星の国の百年大戦…… あ、これは歴史の教科書で見た!私が赤点とったところだ」

 

勇者「君寝てたから……。ああ、その大戦の停戦条約の後に魔族への侵攻が開始してる」

 

司書「その大戦も長くってなあ、百年だぜ百。そりゃあ王も軍も人も疲弊しちまうよな。

   これがなっかなか終結しなくて、均衡状態が続いたのが悪かった。いっそどこかの国が圧倒してれば別だったかもな」

 

司書「国のトップはいい加減穏便に停戦条約を結びたかった……でも国民が納得しなかったんだ。

   下手言った王族が過激派の民衆たちに処刑されたりして、すごい時代だったんだぜ」

 

僧侶「はーん、なるほどな。そこで王様たちは魔族に目を向けて、国対国じゃなくて人対魔族の対立を煽ったわけか」

 

司書「そうさ。あわよくば戦争で枯れた資源も確保できれば上々といったところだったんじゃないかな」

 

勇者「でも、そんなの侵略された魔族からしたら」

 

司書「たまったもんじゃないね。でもさっ! 魔族……つーか魔王も同じ考えだったと思うよ」

 

剣士「え?」

 

 

 

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473 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 18:58:03.48 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

 

司書「だって魔王のタイミングがよすぎるね。きっと彼も狙っていたんだ。魔族統一の機会を」

 

司書「ほら見てよ。人間と同じように、魔族も種族同士の因縁や対立、小競り合いがわんさかあったんだ。

   魔族統一をしたい魔王にとって、魔族同士の対立をやめさせるための外敵の出現は好機だったはずだよ」

 

剣士「うーん……ちょっと待って、なんか頭こんがらがってきた」

 

剣士「えっとつまり……結局同じ理由で人間と魔族は戦ってて……」

 

勇者「なら、どちらの当初の目的は既に達成されているじゃないか。

   人間同士のいがみ合いももうないし、魔族だって統一されているし……」

 

勇者「だったら……僕たちがしていることの意味って一体なんなんだ……?この戦争の意味は……」

 

司書「さあな」

 

司書「それを見つけるための知識だよ。意味はお前たちが勝手に決めろ」

 

 

 

僧侶「さっきから聞いてて思ったんだが……『勇者』はこれまでたくさんいたんだな」

 

司書「うんいたいたー。お前らが勇者って呼ぶ連中はな。ちょっと待ってろ。あらよっと。はいこの本」

 

剣士「地下遺跡について……。地下遺跡?」

 

勇者「『大陸にあるいくつもの地下遺跡には、人間と魔族の言葉が入り混じったような紋様が刻まれている。

   古の時代には魔族と人間が共生する社会があったのではないだろうか……』」

 

僧侶「ハッハ、そんなわけないだろ」

 

司書「いやー、あるんですねこれが。

   創世された時は人間とか魔族とかの区別はなかったよ。一つの国で一緒に暮らしてた」

 

剣士「えー!?」

 

勇者「……」

 

 

 

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474 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:00:50.19 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

司書「その時代には生きてる者全員が魔法を使えたんだよ。人の祖先も、魔族の祖先も区別なく。

   勇者が今使ってるような魔法とか、もっとすごいのとか……」

 

勇者「なにがあって魔族と人に別れたんだ?」

 

司書「いまでもあると思うけど、王位継承問題だよ。誰が王になるかで人の祖先と魔族の祖先は派閥をつくって対立した。

   自然と見事に調和していた都もあっという間に荒廃しちゃった。あれは悲しかったな」

 

司書「後に人となる者は、自分たちから魔法を切り離して女神として崇めた。会ったよな?塔の女神。あいつらね。

   自然界の力を捨てて、別の方法で戦うことを選んだんだよ」

 

僧侶「ああ……? じゃあ俺が使うような治癒魔法は一体なんなんだ」

 

司書「それは女神から信仰心の代わりに受け取れる神様の力。勇者とか魔族が使う自然界の力とは根本的に違う。

   信仰をやめちゃえば……つまり神殿から籍を外せばお前はそれを使えなくなっちゃうんだろ?

   一時的に借りてるだけのかりそめの魔力だよ」

 

僧侶「ふーん……ややこしいな」

 

 

 

勇者「魔族は、魔法を手放さなかった。そしてその魔法の集大成として作られたのが魔法書と剣……」

 

司書「そう。もう察しがついてるみたいだな。いやーその二つの威力はすごかったよ。

   それらのおかげで魔族の祖先がだんだん優勢になっていった。でもおかしいよな」

 

司書「なんでその書と剣が今の時代に勇者の武器になってるかってことだよ。

   人間の祖先が盗んだのさ。それで一発逆転しようって考えた」

 

剣士「それで、どうなったの?」

 

司書「晴れて一発逆転、王位は人の手に! とはならなかった。

   元々魔族用に作られた武器だったんだから、人間が使いこなせるわけなかったんだ」

 

司書「魔法書の方は、人間はもう魔力を捨てて女神にしてしまったし、

   剣は度重なる戦で呪いを帯びて魔剣になってしまった」

 

司書「あの剣はね、抜くのに条件がいる。持ち主を選別する剣なんだ」

 

司書「その条件を満たした者がいたにはいたけど、人の体には負担が大きすぎて1日程で命が尽きた。

   結局、書も剣も盗んだはいいけど使いこなせる人間はいなかったんだよねー。どんまいだね」

 

 

 

 

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475 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:07:11.66 ID:Ya5Icoc2o

  

 

 

 

 

司書「それで困ったね、ってなって、どうなったか見る前に」

 

司書「ここで一旦話をそらして、勇者という謎の存在について見てみようよ。

   はい、これ。『勇者の歴史』」

 

司書「『勇者。人間でありながら魔族の魔法を使いこなす特別な存在。

   この世界に現れる頻度は一定ではなく、発生条件も謎である』」

 

司書「つまりさ、お前は先祖返りみたいなもんなんだよね。人間も魔族も等しく魔法が使えた時代……

   まだ仲良く共同社会の中で生きていた、遠い遠い古の時代の生きる化石ってわけだ」

 

勇者「えっ……」

 

剣士「勇者って化石だったの!?」

 

僧侶「剣士ちゃん、頑張って話についていこうな!分かんないところあったら俺が教えるからな!」

 

剣士「うん」

 

司書「なんか、勇者は神に選別されて~~みたいなことたぶんお前らは聞いて育ったんだと思うけど

   勇者が『勇者』っていう英雄的位置づけになる前にも存在したからな、その先祖返りは」   

 

司書「いや、分かんないよ?本当に創世の神様が選んでるのかもしれないけどさ、

   俺もまだ冥府の番人じゃない方の創世主には会ったことがないから、そればっかりは推測になる」

 

司書「とにかくいたんだ。『勇者』の伝説の前にも先祖返りはいた。

   先天的に魔法が使える者が大半だったけど、稀に後天的にある日突然魔法が使えるようになった者もいた」

 

司書「一番最初の先祖返り……まだ『勇者』とは呼ばれてなかった、そいつは

   人と魔族が二派に分かれてから数十年後に現れた。どうなったと思う?」

 

司書「生まれてすぐ殺されちゃった。その数十年後、2人目の先祖返り。さらに百数年後、3人目が生まれる。

   全員同じだよ。魔法の片鱗を見せた辺りで生まれなかったことにされちゃったよ」

 

剣士「……そ、そんなのひどいよ」

 

僧侶「なんかいきなり重いな!」

 

司書「だってさーーーしょうがないよ。親や村のみんなの気持ちになって考えてみなよ!

   敵対してる魔族の魔法を何故か使える子どもだよ?人からすれば気味悪いし縁起悪いし、正直化け物だよね」

 

司書「まあというわけで先祖返りはいたけど、表舞台には立たなかった。すぐ殺されたから」

 

勇者「……」

 

勇者「そっか。表舞台に立つようになったのは、魔剣と魔法書を人が魔族から盗んでからってわけか」

 

司書「そうそう」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

476 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:10:14.06 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

司書「だって人と魔族が分かれる前の時代の先祖返りなんだから、極端な話、人でも魔族でもあると言えるんだ。

   魔族のための剣と書も……完璧に使いこなせるわけじゃないけど、ほかの人間よりは遙かに使える」

 

司書「それから先祖返りは『勇者』って呼ばれるようになって、英雄的な扱いをされるようになった。

   よかったね、お前もこの時代に生まれて。昔に生まれてたらすぐ殺されてたよ」

 

司書「このころ生まれたのが今に伝わる石板の伝説だね。王都で聞いただろ?

   勇者は塔の女神から力と知恵とほにゃららをもらいますよってさ」

 

剣士「ほにゃららってなに?確か星の塔の女神様がくれるものだよね」

 

司書「それは……秘密。悪いけど、行ってからのお楽しみ」

 

 

 

司書「これが『勇者』の誕生の歴史。勇者は英雄に祭り上げられました、おわり……

   というわけでもないんだよなあ。気をつけろよ勇者」

 

司書「怖いのはその後だよ」

 

司書「だからこそ、ここでいろいろなことを知って、そのうえで選ばなければいけない。いまのうちに。

   お前には選ぶ権利がある」

 

勇者「どういうことだ?」

 

司書「お前は人でもあり魔族でもある。肉体は人だけど中身は魔族だ。人として育てられたけど魔族の魔法を使える異端者だ。

   だから別に人間に味方しなくちゃいけないってこともない」

 

司書「人を殺すも守るも、魔族を殺すも守るも自由。塔を壊しても守ってもいい。なんなら戦争なんて参加しないで逃げてもいい。

   なんでもいーよ」

 

勇者「…………僕の中身が魔族?」

 

勇者「違う。僕は人間だ!!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

477 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:13:52.30 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

勇者「いっしょにするな。……同じじゃない。僕は……狩人を……あんな目に合わせた魔族なんかと同じじゃない……!」

 

司書「同じだよ。魔族がつくった魔法書の術を使えたことがその証明だ。

   つまりまあ、考えてみればひどいことしてるよなあ」

 

司書「魔族のための魔法で、魔族をぶっ殺したんだからさ。けっこう悲惨な同族殺しだな」

 

勇者「違う……!」

 

司書「何が違うんだよ? 火とか水とか雷とかの攻撃魔法だって、ぜーんぶ魔族と一緒のもの使ってるじゃないか。

   治癒魔法ですらそうだ。気づいてたんだろ?自分が使う治癒魔法が、僧侶のものとちょっと違うってさあ」

 

司書「認めろよ。まずそこから始めないと。お前は人でもあり魔族でもあるんだ。

   仲間を殺したあの魔族とはある意味で一緒の民族なんだぜ」

 

勇者「違うっ!!」

 

 

ガタッ!

 

 

 

剣士「……」

 

司書「……」

 

司書「……な、なんだよ」

 

剣士「……別に?」

 

剣士「ただちょっと、言葉に気をつけてねって言おうとしただけ」

 

司書「じゃあなんで立ち上がったんだよ!座れよ!やめろよな、ここは図書館だぞ!暴れたりしたらどうなるか――」

 

司書「……なんだよう!こっち来るなよっ!! に、睨みつけるなっ!!」

 

司書「お、俺はなんでも知ってる司書なんだぞっ!! 偉いんだぞ!そんな目で見るなっ!!

   お前らのためにいっぱい教えてあげてるんじゃないかっ!!」

 

 

 

勇者「け、剣士。座ろうよ」

 

司書「うっ、なんだよこいつ……久しぶりの客かと思ったらコレだよ……超こわかったよ……」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

478 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:24:22.06 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

僧侶「メソメソすんなよ。女になって出直してこい。慰めてやるから」

 

司書「こいつはこいつで最低だな」

 

 

 

剣士「勇者は勇者だよ」

 

勇者「え?」

 

剣士「種族とか民族とかそういうの抜きにして、勇者はずっと前から私の幼馴染の勇者だよ。

   今までもこれからも、それだけはずっと変わらないでしょ」

 

剣士「だからそれはいつも忘れないで」

 

勇者「……」

 

勇者「……うん」

 

 

 

 

 

 

司書「ほかに聞きたいことないなら帰れよっ!!もう二度と来るなよな」

 

司書「とにかく勇者に資料は与えた。歴史も知識も道しるべじゃない、単なる資料だ。選ぶのはお前だからな」

 

司書「分かったらそれ肝に銘じてとっとと帰れよ!!気をつけろよ!!」

 

 

 

 

ヒュン

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

479 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:27:24.03 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

* * *

 

 

僧侶「なんか変な奴だったなあ」

 

剣士「ね」

 

 

コンコン

 

 

神官「失礼します。太陽の国の神官から、勇者様へのお手紙が届いております。こちらをどうぞ」

 

勇者「神官?」

 

神官「できるだけ早急にお返事を、とのことです。宜しくお願いします」

 

 

 

 

勇者「神殿から手紙なんて……一体なんのことだろう。ええと」

 

勇者「……なんだかタイミングを図ったかのような手紙を送ってくるな」

 

僧侶「えーどれどれ。ずらっとある余計な世辞を抜かすと、

   要するに俺たちが今見てきた、女神様からの知恵の内容を教えろってことだな!」

 

剣士「……。全部は言わない方がいいんじゃないかな……。なんとなく」

 

勇者「全部書くと鳥が重くって運べない便箋の量になっちゃいそうだよね。

   当たり障りのないところ……そうだな、地下遺跡のことでも書こうか」

 

剣士「遺跡のことなんてあいつら知ってそうだけどな。まあいいんじゃね適当で」

 

勇者「手紙まで送ってくるなんて、よっぽど気になるのかな」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

480 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:28:40.27 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

地下集落

 

 

兄「……そういえばお前は家族はいないのか」

 

青年「へ? ああ、いません。孤児だったんです」

 

青年「だから兄妹の関係って憧れます。いいですよね、お互いに頼れる存在って」

 

兄「……」

 

 

 

妹「ふふ。けっこうあの二人も打ち解けてきてるじゃない?」

 

少年「そう……かあ……?」

 

妹「そうよ。 ん……?」

 

 

 

爺「……」コソコソ

 

 

 

妹「あの、何か……?」

 

爺「いっ いや、なんでもないよ」スタスタ

 

妹「……? 行っちゃったわ」

 

少年「あの爺さん最近オドオドしてて変なんだ。気にしない方がいいよ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

481 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:30:50.12 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

妹「……できたっ! じゃじゃーん、赤ちゃん用の靴下よ」

 

少年「お姉さん結構編み物うまいじゃん」

 

青年「女の子と男の子どっちが生まれるか分からないから、ピンクと青の二色編んでるんだよね」

 

妹「そうよ。男の子だったらきっと青年さんにそっくりでしょうね。ふふ」

 

青年「僕は妹さん似の娘が生まれたら溺愛しそっ……ハッ!」ビク

 

兄「……はあ、よい。続けろ。もう見慣れた」

 

 

妹「ほらね、少年くん。二人打ち解けてるでしょ?」

 

少年「そうかも」

 

 

 

兄「その腹、痛くはないのか」

 

妹「うん、痛くはないよ。たまに赤ちゃんがお腹の内側から蹴ってくることはあるけどね」

 

妹「もうすぐ生まれてくるの。早く会いたいな」

 

妹「そしたら兄さんも叔父さんよ。仲良くしてあげてね」

 

兄「……ああ」

 

妹「わっ な、なにいきなり。もう子どもじゃないんだから頭撫でないでちょうだい」

 

兄「頑張れよ」

 

 

女「赤ちゃんかー。楽しみね」

 

男「だな。元気な子だといいな」

 

少年「ねー」

 

 

 

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482 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:32:55.37 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

 

* * *

 

 

星の塔

 

 

炎竜「どうしても聞き入れぬか」

 

魔女「しつこいです。あなたは太陽の国の担当でしょ。

   勇者の相手は魔女族だけで十分。大体……あなたたち竜族がいると空が飛びづらくってしょうがないの」

 

魔女「協力はむしろ非効率的だと思います。帰ってくださいな」

 

炎竜「しかし……ヒュドラも倒された。勇者はすでに魔剣と禁術を手に入れているぞ。

   魔女族だけで太刀打ちできるのか」

 

魔女「お心遣いはありがたいけれど、さっきも言った通り協力した方がやりにくいのです。

   私には私の戦い方がありますから」

 

炎竜「む……そうか。承知した」

 

魔女「……あら、ちょっと待ってください。部下がこっちに向かってくるわ」

 

 

ガタ

 

 

魔女「どうしたの?何かあって?」

 

部下「そ……それが! あ、炎竜様……!!」

 

部下「あの……炎竜様のご子息が!」

 

炎竜「わしの息子なら魔族領の竜の谷にいるはずだが、それがどうした?」

 

部下「星の国の森の中で……このような状態でさきほど……!!」

 

 

ドサ

 

 

炎竜「!?」

 

魔女「……ま、まあ……可哀そうに」

 

子竜「ヒュー……ヒュー……」

 

炎竜「しっかりしろ!! いかん、衰弱しておる」

 

炎竜「すぐに竜の谷に連れ帰る。また来るぞ」

 

 

バサッ バサッ……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

483 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:36:11.59 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

 

魔女「ひどいですね……まだあんな小さな子どもなのに」

 

部下「全身の血が抜かれ、鱗が剥ぎ取られていました。生きているのが奇跡です。

   竜族の生命力の強さが幸いしましたね……」

 

魔女「どうして竜の谷にいた子竜がこの国にいたのかしら。父親を追ってきちゃったのかしらね。

   で、あんな目に合わせたのは人間なのでしょう?誰かは分かっているの?」

 

部下「近くをぶらついてた男どもに聞いたところ、勇者だそうです」

 

魔女「……あら」

 

 

 

 

 

―――――――――――――

―――――――――

――――

 

 

 

魔女「ですってよ。この間は跳ねのけてしまった提案だけど……気が変わったわ。

   受け入れてあげてもいいですよ」

 

炎竜「………………………………」

 

炎竜「……勇者……か」

 

魔女「ご子息はどう?大丈夫でした?」

 

炎竜「一命は取り留めた……が意識が戻らん」

 

炎竜「………………お主の足を引っ張っても悪い。やはり共闘はなしにしよう。

   ひとまず、まかせる」

 

魔女「よろしいの?」

 

炎竜「ああ。……魔女……わしは今腸が煮えくりかえっているが、何故だかわかるか」

 

魔女「勿論、ご子息が傷つけられたからでは」

 

炎竜「否。奴が勇者でわしらは竜の敵同士、子どもだからといって見逃されることはないとわしも重々知っておる」

 

炎竜「問題なのはその理由だ。戦だからという理由で息子の命が奪われたのなら、わしも戦士としてまだ得心がゆく。

   しかし此度息子が傷つけられたのは、血と鱗が奪われていたことから、どう考えても納得がゆく理由ではない」

 

魔女「ああ……金儲けですか。竜の血も鱗も高値で取引されてますものね」

 

炎竜「耐えがたいことだがな」

 

 

炎竜「わしは勇者に幻滅した。あちらがそのように戦争を考え、わしらを侮辱するのなら」

 

 

炎竜「こちらとて手段を変えよう」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

484 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:37:51.47 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

 

* * *

 

 

魔王城

 

 

コツコツコツコツ

 

 

兄(ふう…… 吸血鬼に続いてヒュドラもやられてしまうとはな)

 

兄(星の塔まで奪還されるわけにいかない。

  もうこの際……俺が星の国に出向いて塔の前で勇者を待ち伏せして殺せば済む話ではないのか?)

 

兄(しかしヒュドラの後釜を据えるのが先か……水魔族で統率力があって実力もある奴……あいつかあいつかあいつだな。

  首領争いとか頼むからするなよ、面倒起こすなよ……。そいつ任命したら星の国へすぐ行って……)

 

 

 

 

魔王「……そう急くな、息子よ」

 

兄「父上」

 

魔王「なかなかよくやっているようだが、全て自分一人でこなしてしまっては部下が拗ねるぞ。

   魔女と炎竜の気持ちも汲んでやれ」

 

兄「はい」

 

魔王「お前にほとんどまかせてしまってすまないな。どれ、今日は体の調子もいい。

   あとは私が久しぶりに動こう」

 

兄「大丈夫ですか?」

 

魔王「心配するな。お前は娘のところにでも行ってやれ」

 

兄「……」

 

 

 

 

485 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:40:52.17 ID:Ya5Icoc2o

 

 

地下集落

 

 

青年「…………」ウロウロ

 

青年「…………」ウロウロ

 

少年「……座りなよ」

 

青年「だ、だ、だ大丈夫だろうか……!?」

 

少年「青年さんも落ち着けよ。さっきからウロウロしてみっともないぜ」

 

青年「で、でも……」

 

 

バタン

 

 

 

青年「女さん!! 妹さんは……!?ぶぶぶぶっ無事なんですか!?」

 

女「……ああ」ニッ

 

女「元気な男の子だよ。ほら」

 

青年「ああ……っ よかった……!!!神様……!!」

 

 

 

 

 

 

女「ふう。一安心だね。無事に産まれてよかったよかった」

 

女「ところで、男の奴はどうした?姿が見えないけど」

 

少年「さあ。 あ、さっき爺といっしょにいるところをちらっと見たよ」

 

女「ふうん……?」

 

 

 

 

 

男「正気か……!!爺さん!?」

 

爺「お前こそ正気かっ!? よ、よく考えろ!」

 

爺「神殿様に目をつけられちゃこの集落も終わりだ!!

  匿えばこの集落全員、女子ども関係なく魔族の疑いで異端審問だ!」

 

爺「し、審問とは名ばかりの死刑だぞ……。

  ずっと人の世界から疎まれてきた俺たちがつくった村が、ひ、一晩で皆殺しされるんだぞ」

 

男「だからって、あんまりだろ!今日あの娘は……」

 

爺「そうだ、お産だろう。いくら魔王の娘といえど、抵抗はできまいて」

 

男「あ、あんた……! あの娘だってこの村の一員だろっ」

 

爺「お……俺は悪くない。言っておくが、村人の大多数の同意をすでに得ている。

  お前たちは魔王の娘と親しくしていたから言わなかっただけだ……」

 

男「……っ」ダッ

 

 

男「!? は、離せっ 馬鹿野郎!」

 

 「……馬鹿はお前だ。もう神殿の奴らが来る。大人しくしてろっ!」

 

 「だめだったか」

 

 

爺「あの魔族を差し出せば俺たちが今まであいつと一緒に村で暮らしていたことも……

  この地下集落のことも見逃してくれるそうだ」

 

爺「し……しかたないだろ。しかたないんだよ!!俺たちは悪くないっ!!」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

486 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:44:33.33 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

 

赤ん坊「……あうあう……」

 

妹「さっきまでぎゃんぎゃん泣いてたのに、もう笑ってる……」

 

青年「男の子かあ。かわいいなあ。名前どうしようかあ。髪の色、妹さんといっしょだね」

 

妹「目の色と鼻はあなたね……。あ、ちっちゃい角生えてる。ふふ」

 

青年「かわいいなあ。名前どうしようか。君のお兄さんに名付け親になってもらおうか?」

 

妹「…………うん……」

 

青年「だ、大丈夫かい?」

 

妹「平気、ちょっと疲れちゃっただけ……」

 

 

 

バタン!

 

 

青年「……!? 男さん……その傷は!?」

 

男「に、逃げろ! 早くここから逃げろ!」

 

女「あんた一体どうしたって言うんだよっ この傷は誰にやられたんだ!?」

 

 

 

 

 

青年「そんな……神殿がここに!?」

 

男「そうだ、すぐ逃げろ!赤ん坊を連れて今すぐ……! 

  あんたの兄が壁ぶち破ってここに来たときあったろ、あそこからならたぶん逃げられる」

 

妹「で、でも。私が逃げたら村のみんなは魔族を匿っていた罪で、」

 

男「いいから早く逃げろよ!!赤ん坊もろとも殺されるぞ!」

 

青年「……っ妹さん! 行こう!」

 

青年「男さん、女さん、少年くん、あなたたちも……!!」

 

女「……。私は男と後から行くよ。ちょっと準備もあるからね!

  少年、あんたは先に青年と一緒に行きな!ほらさっさとする!ぼーっとするな!」

 

少年「えっ、あ、う、うん!」

 

 

 

 

 

 

 

タッタッタッタ……

 

 

妹「はあ、はあ……はあ……」

 

青年「はあっ、はあっ、一体どうして地下集落のことが神殿に洩れたんだ……!?」

 

青年「ここのことは……今までずっと誰にも知られていなかったのに!」

 

赤ん坊「ぎゃーーん!」

 

青年「しっ……。静かに静かに……見つかってしまう……!」

 

少年「お姉さん大丈夫!?」

 

青年「!? 妹さん!」

 

妹「はあ……はあ……」

 

 

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487 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/13(木) 19:50:29.16 ID:Ya5Icoc2o

 

 

 

 

妹「ごめんなさい……もう私走れない……はあ……はあ……」

 

青年「なら僕が抱えるよ。掴まって!」

 

妹「……だめ。追いつかれちゃう。……行って」

 

青年「そんなことできるわけないだろう!?」

 

妹「捕まったら……あなたも赤ちゃんも殺されてしまう。

  お願い……その子と少年くんを守って……先に行って」

 

妹「それにね、やっぱり私のせいで村の人たちが殺されてしまうのは耐えられない。

  だって……全部私の我儘だったんだもの」

 

妹「私がいてはいけないところに、無理やり転がりこんで生活していたせいで、

  ……村のみんなが……死んでしまうなんて、やっぱりだめよ」

 

妹「私が責任を取らなきゃ」

 

少年「でもっ村のみんなは、お姉さんを騙して……!」

 

妹「分かってる。いいの。それに、男さんと女さんはそれでも私のこと逃がしてくれようとしたわ……

  それだけで十分よ」

 

 

妹「青年さん。あなたといっしょに暮らせて、夢みたいに幸せでした。

  私が魔族だって分かっても……変わらない笑顔を向けてくれて……本当に本当に嬉しかったの」

 

妹「その子をお願いね。元気ないい子に……きっと育つわ」

 

青年「……やっぱりだめだ、妹さん……頼むから一緒に逃げよう。必ず守るから」

 

妹「青年さん、そんな顔をしないで。魔力はほとんどないけれど、これでも……私は魔王の娘よ!」

 

妹「大丈夫、また必ず会える」

 

妹「……私たちが出会ったあの泉の前で……きっとまた会えるわ」

 

 

妹「………………ね」

 

 

 

 

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490 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 22:43:46.47 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

 

* * *

 

 

ヒュン

 

 

兄「……?」

 

兄「騒がしいな……。 なんだ?火事か……?」

 

 

 

パキパチパチ…… ゴオォォォ……

 

 

兄「…………」

 

 

 「見なさい、悪しき者が成火にて浄化される様を。煙が黒々としてなんと恐ろしい光景か……」

 

 「魔女だ」「魔女」「魔族だ」「ああ……」

 

 

兄「…………」クラ

 

兄「なにをしている?」

 

兄「なにをしているんだ? おい。なにをしている」

 

 

 

武僧A「……まだ隠れていたようだ。捕えるぞ。こいつも火あぶりだ」

 

武僧B「ああ」

 

兄「邪魔だ……」

 

 

ビチャッ

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

491 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 22:45:36.99 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

 

兄「妹。しっかりしろ。おい。返事をしろ。妹」

 

妹「……」

 

兄「……返事をしてくれ」

 

 

 

 

 

村人「ひっ…… 神官様が全員一瞬で……肉塊に……」

 

村人「ま、魔王の息子……やばい、逃げるぞ」

 

兄「全員この場から動くな」

 

兄「どういうことだ……? 説明しろ。貴様も、そこの貴様も、妹とついこの間まで友人のように話していたな。

  なんだ?最初からこうするつもりだったのか?」

 

兄「笑顔を向けつつ腹の内では化け物だ魔女だなんだと考えていたわけだ。……ハッ。

  ならばはじめから受け入れなければよかったものを」

 

爺「……仕方ないだろう!! お、俺たちは神殿にその娘を差し出さなければ異端審問にかけると言われていたんだ!!

  俺たちより神官の方が悪いだろうがっ!!」

 

兄「要するに自分の命かわいさに妹を売ったのだな。そうか」

 

 

兄「……あいつはどうした。青年はどこにいるんだ……」

 

村人「……逃げた」

 

兄「…………………………………………………………」

 

兄「そうか」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

492 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 22:49:37.59 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

スッ……

 

 

村人「ヒッ!」

 

村人「や、やめてくれ!」

 

爺「……俺たちは悪くないぞ!殺すんなら、神殿の奴らを……!」

 

兄「ああ、そうだな。貴様らは何も悪くない」

 

爺「……あ、ああ。そ……そうだ」

 

 

妹「……」

 

兄「帰ろうか。城に。  軽くなったな」

 

兄「熱かっただろうに……助けてあげられなくてごめんな」

 

 

 

スタスタ

 

 

村人「か、帰ってくぞ……」

 

村人「私たち助かったの?」

 

爺「ひい……死ぬかと思った……」

 

 

 

 

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493 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 22:50:43.65 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

兄「悪いのは俺だ」

 

兄「チャンスはいくらでもあったのに、人間に近寄って行くお前を止められなかった。

  強引にでも連れ戻せばよかった」

 

兄「俺も……少しは……人間も悪くないのかもしれないなんて思ってたんだろうな」

 

兄「馬鹿が」

 

 

 

 

 

 

 

兄「ああ、忘れていた」

 

兄「地上ごと消すか」

 

 

 

 

兄は魔法を唱えた。

その日 地上にあった町ごと地下集落は壊滅した。

 

 

 

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494 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 22:52:13.17 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

女エルフ「最近竜族が慌ただしいね。魔王城もなんか騒がしいし」

 

エルフ「なにあんた、知らないの?」

 

 

女エルフ「……えっ? うそ、そんな」

 

エルフ「ほんと。姫様人間に殺されちゃったんだって……ひどいよね。

    竜族が飛びまわってるのは、あれよ」

 

エルフ「勇者が炎竜様の息子を必要以上に手ひどく傷つけたらしいから、炎竜様怒り狂ってるって」

 

女エルフ「……そんなのうそだね! 勇者たちがそんなことするわけ、ない……と思うんだけど!

     あいつら人間だけど、そんなことするような奴らじゃない……かもしれない!」

 

エルフ「あんた、なに言ってんの? わけわかんない」

 

女エルフ「と、とにかくちょっと私は炎竜様に話してくるよっ」

 

エルフ「ちょっと!?」

 

 

 

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495 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 22:55:02.53 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

* * *

 

 

星の都 宿屋

 

 

剣士(明日この王都を発つから、荷物整理しないと)

 

剣士(買い物は今日済ませたし……買い忘れ、ないよね。うん。

   ……あれっ 地図どこいった? 地図地図地図)

 

剣士(地図がないっ!! どこしまったっけ? 私が持ってたよね。あれーー?)ガサガサ

 

 

ガタッ

 

 

剣士「あっ ねえ狩人ちゃ…………」

 

 

剣士「……あ」

 

剣士「またやっちゃった……」

 

 

剣士「……」

 

 

 

 

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496 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 22:56:28.95 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

 

勇者(……はあ、寝れない。今日は僧侶も鼾うるさくないのに。

   外の風にあたってくるか)

 

 

 

 

 

勇者「……」

 

勇者(人でもあり魔族でもある……か。世が世なら僕も生まれてすぐに殺されていたんだろうか)

 

勇者(選べって言われても、どれが正解なのか分からない……。

   でも僕は人間だ。人のために戦うんだ。魔族が憎い。……本当に?)

 

 

……スッ

 

 

勇者「……!? 今のは、狩人……!?」

 

勇者「待ってくれ!」タッ

 

 

勇者(……生きてたのか? まさか……でもあれは……)

 

勇者「狩人っ」パシ

 

女「えっ!?」

 

勇者「……あれっ?」

 

女「な、なんですか、いきなり」

 

勇者「……すみません。人違いでした」

 

女「は、はあ」スタスタ

 

 

 

勇者「……」

 

勇者「なにをやっているんだ……自分で殺したくせに」

 

勇者(狂ってる……)

 

勇者(頭がおかしくなってるんだ)

 

勇者(寝なければ。明日出発だ。早く寝よう)

 

 

 

 

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497 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:00:08.95 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

翌日

 

 

 

僧侶「この都は知的なお姉さんがたくさんいて、なかなかいいね」

 

勇者「名残惜しいかもしれないけれど、もう出発するよ」

 

剣士「塔までのルートに大砂漠があるよね、ちょっとそれが不安だなあ……砂漠って暑いよね、やっぱり」

 

勇者「いや、この国の砂漠は……」

 

 

騎士「勇者殿っ! よかった、まだ出発されていなかったのですね」

 

勇者「はい?」

 

騎士「今すぐ太陽の国に転移魔法でお戻りください!

   先ほど文が……こちらに届きました」

 

騎士「あなたの故郷――大樹の村が……」

 

騎士「炎竜率いる竜族に襲撃され、全滅したと」

 

 

 

 

 

勇者「は?」

 

 

 

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498 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:02:35.82 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

 

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―――――

 

 

 

 

太陽の国 大樹の村跡地

 

 

 

剣士「……」

 

剣士「うそ」

 

僧侶「…………ひでえな」

 

僧侶「何も残ってない」

 

剣士「うそでしょ」

 

 

副団長「すまなかった」

 

副団長「近隣の村々が異変に気付いて、連絡をもらった騎士や兵士が訪れたときには、

    すでにもう……辺り一面火の海だった。森も燃えてしまった」

 

副団長「遺体は骨しか見つからなかったよ。勝手ながら少し離れた見晴らしのいい丘に新たに墓地を作らせてもらった」

 

副団長「……大丈夫か、剣士くん、勇者。辛いとは思うが……気をしっかりもつんだ」

 

 

剣士「なんで?なんで竜がいきなりこの村に来るの?だって全然国境からも離れてるし……おかしいよ」

 

副団長「それは……分からない。数日前に突然この国の塔は炎竜にのっとられてしまった。

    それから時間を開けずに君たちの村がこんなことになってしまって、奴らがどういう意図なのか……」

 

剣士「…………」

 

剣士「……だって、殺さなかったんだよ。あのとき見つけた子どもの竜、殺さなかったのに!」

 

剣士「勇者が治癒魔法をかけてあげて……飛べるようにしてあげたのに!

   どうして?どうしてこんなことになっちゃうの?」

 

剣士「おかしいよ」

 

 

 

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499 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:14:42.82 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

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――――――

 

 

 

勇者「ここでドラゴンを見逃してまた同じことになったらどうする。僕はもう二度とごめんだ!」

 

勇者「……殺すよ。これが戦争なんだ」

 

勇者「やっと僕にも分かった……」グッ

 

 

僧侶「それでいいのか。なら止めないが」

 

勇者「いいさ」

 

剣士「……本当に?ここでこの竜を殺したら、これから先ずっとそうしていかなきゃいけないよ。

   ちゃんと私たちの目を見て言ってよ」

 

勇者「見てるだろ」

 

剣士「見てない。ちゃんと目を逸らさないで言って」グイ

 

 

剣士「……狩人ちゃんが死んだの、勇者のせいじゃないよ。この竜のせいでもない」

 

勇者「あのときグリフォンを見逃さなければよかったんだ」

 

僧侶「それでお前が狩人ちゃんの死に責任を感じてるなら、俺たちにだって責任がある。

   大体……塔のときはあいつを相手にする時間なんてなかっただろ」

 

剣士「……やめよ。無理しないでよ勇者」

 

勇者「…………」

 

剣士「もう、あんなこと……二度と起きないようにするから。

   勇者も死なないし、私も僧侶くんも死なないよ。自分の身は自分の責任で守るから」

 

僧侶「剣士ちゃんはともかく、俺が死んだからって勇者、お前のせいだなんて思われたらかえって心外だぜ。

   俺はお前に守られるほど弱くねーんだよ!!そこんとこしっかり覚えとけよな!!」

 

剣士「私だってそうだよ!剣だっていっぱい強くなったんだからさ!なんなら今度手合わせしようよ」

 

剣士「だから杖下ろして。もう行こうよ」

 

 

 

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500 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:19:04.73 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

勇者「……」

 

勇者「……」スタスタ

 

剣士「勇者っ」

 

勇者「…………違うよ。この竜に治癒魔法かけるだけ」

 

 

 

勇者「……逃がそっか」

 

 

 

 

 

勇者「父親追って来たら迷っちゃったらしい」

 

勇者「このまま竜の谷に帰るってさ」

 

剣士「そっか。よかったね」

 

僧侶「じゃあ適当にあの兜野郎に報告して、さっさと村で休もうぜ。ねみい」

 

 

 

 

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401 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/08(土) 00:11:10.28 ID:a4kotlCzo

 

 

 

「ぎゃああああああああッ」ドサッ

 

 

剣士「ひっ……!」

 

剣士「…………っ……もう、塔の中間地点くらいまでは進んだかな?」

 

勇者「ああ。だけど時間も半分切ってる。これじゃ遅すぎる」

 

狩人「でもどうするですか……最速で走ってますよ。すでに」

 

僧侶「勇者。作戦Dだ」

 

勇者「なにそれ」

 

僧侶「DEかい穴開けて一気に最奥までショートカット作戦だよ!!昨日の夜話したろ!?」

 

勇者「全く知らないけど……でもいい考えかもしれない! みんな離れてて」

 

僧侶「てめーぶん殴るぞ」

 

剣士「えっ!?本気でやるの!?できるの!?だって塔って滅茶苦茶大きいし……」

 

 

ズガーン!!!

 

 

剣士「壁だって厚いんだよって続けようと思ったけど、普通にできてるね、うん。

   あれ、なんか勇者の魔法とんでもなく強くなってない?気のせい?」

  

勇者「よし、このままヒュドラを倒しに行こう!!」

 

狩人「……あっ」

 

 

ビュッ!

 

 

魚人族長「ならん。ここで死んでもらうぞ」

 

 

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402 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/08(土) 00:13:33.40 ID:a4kotlCzo

 

 

 

僧侶「狩人ちゃん!大丈夫か!?」

 

狩人「……大丈夫です。あの魔族が投げたナイフが、腕をかすめただけ」

 

僧侶「血が出てるじゃないか! このサカナ野郎っ!!!!!調理師免許も持っている俺が3枚におろしてやる!!!」

 

剣士「あの魔族がいるってことは、騎士長さんたちは……」

 

勇者「……。戦うほかないみたいだね」

 

 

 

魚人族長が襲いかかってきた!

 

 

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――――――

 

 

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――――――――――――――

 

 

 

魚人族長は倒れた。

魚人族長を殺した。

 

 

 

僧侶「手間取らせやがって……」ハアハア

 

勇者「行こう」

 

 

 

ヒュッ……

 

 

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403 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/08(土) 00:16:17.00 ID:a4kotlCzo

 

 

 

 

グリフォン「……」

 

グリフォン「塔を魔法で貫くなんて、けっこう強くなってるなあ」

 

グリフォン「それに彼が使う魔法。人間たちが使う魔法よりずっと攻撃的なのばっかりじゃないか。

      あれじゃあまるで魔族が使う魔法だよ。ふーん……」

      

グリフォン「おもしろいなあ……アハハ……。でもそれよりおもしろいのはコレ」カラン

 

グリフォン「血が付着したナイフ。魚人族の彼には礼を言わなくてはね。どうもありがとう。

      これは確かあの弓使いの人間の血かな。勇者じゃなかったのは残念だけど」

      

グリフォン「……じゃあそろそろ僕はこれで帰ろうかな。成果も上げられたことだし。

      しっかしすごい穴開けたなー。これで一番下層のヒュドラ様のところまで一気に……」

      

 

グキッ

 

 

グリフォン「あいたっ!! ……あれっ……あれっ!? うわわわわわわっ」

 

 

ヒューーーーッ……

 

 

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404 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/08(土) 00:17:13.46 ID:a4kotlCzo

 

 

 

 

ドサッ!!!

 

 

グリフォン「がはっ くそ痛い」

 

グリフォン「……って僕、有翼魔族なのに普通に落ちてきてしまったよ。なにやってんだ…………カッ!?」

 

 

勇者「……」

 

剣士「……」

 

狩人「……」

 

僧侶「……なんだこいつ」

 

 

 

グリフォン(あ)

 

グリフォン(死んだなコレ)

 

 

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405 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/08(土) 00:17:41.04 ID:a4kotlCzo

 

 

 

勇者「襲ってくるのだったら……」

 

グリフォン「いやあの、違う。見逃してくれ。僕はただ帰ろうとしただけなんだ。敵意なんてないよホントに」

 

グリフォン「じゃあ僕失礼するから。ヒュドラ様によろしく……」パタパタ

 

 

パタパタ……

 

 

パタパタ……

 

 

グリフォン(……あれ!? 追撃……されないっ!?)

 

 

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406 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/08(土) 00:18:55.16 ID:a4kotlCzo

 

 

 

剣士「なんだったんだのアレ?水棲の魔族じゃなかったみたいだけど?」

 

勇者「襲ってこないのなら、放っておこう」

 

狩人「……勇者がそれでいいのなら」

 

狩人「いいです……けど。時間もないですしね……」

 

 

 

 

 

 

僧侶「ついた! ここがヒュドラのいるところだろう」

 

勇者「あと15分……それまでにヒュドラを倒せなければ、毒で結局死ぬ。みんな頑張ろう」

 

剣士「……あのさ……」

 

勇者「?」

 

剣士「いま……気づいたんだけどね……」

 

剣士「脱出の時間いれてないよね……それ」

 

勇者「……」

 

 

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407 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/08(土) 00:20:55.02 ID:a4kotlCzo

 

 

 

 

勇者「5分で……倒そう!! それで10分脱出にあてよう!大丈夫なんとかなる!!

   もうこうなったら1秒も無駄にできないよっしゃ突撃しようヒュドラ勝負だ!!!」

   

ヒュドラ「来たな……勇   

   

勇者「見た通りヒュドラは首が9つあるから一斉に猛攻撃をしかけて首を落とそう」

 

剣士「分かった!」

 

 

勇者の全体火炎魔法!

剣士の2連撃!

狩人は炎の矢を放った!

僧侶は全体攻撃力増加魔法を唱えた!

 

 

 

ヒュドラ「ちょっ なになに」

 

 

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412 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:36:39.87 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

勇者「四天王のヒュドラ……だな。雪の国の侵略をやめてくれないか。でなければ僕たちは君と戦わなければならない」

 

ヒュドラ「いや既に一斉攻撃しかけといて言う台詞じゃないだろ……」

 

勇者「答えがノーだった場合の時間のロスが惜しい」

 

ヒュドラ「ノーだけどさ」

 

勇者「だと思ったんだ」

 

ヒュドラ「おかしいな。どうして毒の中を動けるんだろう。それに私の牙にも毒があるのに、掠っても平然としてるし」

 

 

ゴトッ……!

 

 

狩人「首はあと……5つ……」

 

剣士「ううん、あと4つ!!」ザシュッ

 

ヒュドラ「さすが……強いね」

 

 

ヒュドラが噛みついた!

剣士は飛びのいた!

 

 

 

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413 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:38:19.29 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

僧侶「よーしガンガンいけー! 回復はまかせとけ!!」

 

勇者「イタタタタ……(相変わらず僕への回復魔法だけやたらと痛みを伴う……何故だ)」

 

ヒュドラ「ちょこまかと鬱陶しいな」

 

 

勇者は全体雷撃魔法を唱えた!

ヒュドラは一瞬動きを止めた!

 

狩人の渾身の一撃!

剣士の薙ぎ払い! ヒュドラの首をひとつ落とした!

 

 

勇者「あと3つだ! 時間は……」

 

僧侶「残り9分。10分きったぞ!!」

 

勇者「急がないと。全体魔法で……」

 

狩人「勇者!右っ!」

 

 

ヒュドラの噛みつき攻撃!

 

――ズシャアアアアアアアアッ

 

 

剣士「勇者っ!?」

 

 

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414 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:39:51.46 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

剣士「な……なにこれ……」

 

剣士「ヒュドラの斬りおとした首が……再生して」

 

ヒュドラ「再生しないなんて言ってないだろ?」

 

ヒュドラ「なんだかやたらと時間を気にしているようだけど。タイムリミットでもあるのかい」

 

ヒュドラ「私も暇じゃないんだけど……客が勇者とあっちゃ仕方ない。ゆっくりしていくといいよ」

 

剣士「また始めから……! ……うっ……く!」パッ

 

 

剣士「勇者は!?」

 

勇者「いや、大丈夫だ。直撃は免れ――あれ?」

 

勇者(なんで毒状態になってるんだ?)

 

 

ヒュドラの毒霧攻撃!

勇者たち全員が強毒状態になった!

毎秒体力及び魔力10%減少!

 

 

ヒュドラ「これからが本番だ」

 

僧侶「薬の効果が切れはじめたんだ! あっまずい魔力尽きそう。ヤベーーー!!」

 

狩人「あと7分……」

 

 

 

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415 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:41:09.36 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

僧侶「なんだよこいつ、強すぎだろ!馬鹿じゃねーの!?」

 

狩人「一気に9つの首を落とせば……っ」

 

剣士「はあ……はあ……やろう。もう一回!」

 

 

剣士の攻撃!

勇者の上級風魔法!

ヒュドラの首をひとつ落とした!……がすぐに再生した!

 

 

剣士「再生のスピードがおかしいと思う!! はあ……はあ……っ」

 

剣士「死ぬ!!けっこう本気で死の危険を感じる!!」

 

 

剣士のHP残り8%!

 

 

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416 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:41:50.08 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

勇者「下がってて!」

 

剣士「えっ……?」

 

剣士「勇者、それ……王都の図書館の地下にあった本……?」

 

僧侶「なにする気だ!?」

 

ヒュドラ「……ん……? それは……」

 

ヒュドラ「手に入れてしまったのか。それは魔族のものだ。返してもらおう。人には使いこなせまい」

 

 

勇者は禁術の詠唱をはじめた!

ヒュドラの攻撃は狩人に阻まれた!

 

 

 

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417 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:43:10.62 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

ヒュドラ「なんだ?その呪文は?」

 

ヒュドラ(……!)

 

ヒュドラ「させるかっ!」

 

 

ヒュドラの一斉攻撃!

9つの首が勇者に迫りくる!

 

しかし勇者の方が早かった。

禁術が発動した!

 

 

 

 

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418 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:43:46.10 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

僧侶「……」

 

僧侶「あぁ……?」

 

狩人「え……?」

 

剣士「な、なにが起こったの……?」

 

勇者「僕にもさっぱり……」

 

僧侶「なんでお前もさっぱりなんだよ……おかしいだろ、説明しろよ」

 

狩人「ヒュドラが、一瞬で消えた」

 

 

 

狩人「跡かたもなく……」

 

 

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419 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:44:56.58 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

僧侶「お前、さっきの呪文なんなんだよ?」

 

勇者「わ、分からない。正直僕が一番びっくりしてる」

 

剣士「はっ! と、とにかく早く塔から脱出しないと毒でお陀仏だよ」

 

 

 

 

カッ

 

 

 

 

狩人「……!?」

 

女神「その必要はありません。私があなたたちを含めた塔にいる人間全て逃がします」

 

女神「その前に少しお話があります。まずは……お礼からですね。ヒュドラを倒し、私を封印から解放してくれてありがとう」

 

剣士「女神様……」

 

女神「いま私はあなたたちに直接語りかけています。あなたたちの中の時間の認識を遅らせているのです。

   ここでどんなに話しても、あなたたちの世界で実際に進んでいる時間は1秒にも満たない。だから安心してください」

 

女神「私は雪の塔の守護神……約束通り私は勇者に大いなる知恵を授けましょう」

 

女神「この鍵を受け取ってください」

 

勇者「鍵……?」

 

女神「その鍵を使い扉を開けたとき、あなたが真に得たい知識を見つけることでしょう」

 

女神「世界の歴史を」

 

女神「人と魔からなるかつての世界の知識を……」

 

 

 

 

 

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420 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:45:59.43 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

 

女神「それから、転移魔法も授けましょう。これから役に立つことと思います」

 

女神「ただし1日に1回だけしか使えないので、気をつけてくださいね」

 

 

 

女神「…………長らく封印されていたのでまだ力が完全に戻りませんね……」

 

女神「勇者。ひとつお願いを聴いてくれますか」

 

勇者「はい」

 

女神「これで魔に冒された塔はあと星の塔だけ。3つの塔が完全に戻れば私たち3人の女神の守護はより強大なものとなります。

   魔族をこの大陸から完全に退けることも可能となりましょう」

 

女神「魔王の力を抑えることもできるかもしれません」

 

女神「一刻も早く、あとひとつの塔を」

 

勇者「そうすればこの戦争は終わるのですね」

 

勇者「分かりました。もとよりそのつもりです」

 

女神「ありがとう……」

 

僧侶「おうまかせとけ!」

 

狩人「……」コク

 

剣士「生きて帰れてよかったあ」

 

女神「転移魔法陣を用意しました。それで塔の外へ」

 

 

 

パア……

 

 

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421 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:48:54.72 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

勇者「……あれ? みんなは……」

 

女神「…………少しあなたにだけ話すことがあります」

 

女神「その術を使ってしまったのですね」

 

勇者「術? あ、はい……」

 

女神「……一刻も早く3つの塔を魔から取り返してほしかったのは、あなたのためでもあるのですよ。

   もし三塔の守護が間に合わず戦争の被害がより広がってしまった場合」

 

女神「力を得て苦しむのは勇者、あなたのはずです……

   その禁術は元は魔に属するものなのです。私たちが干渉できない魔の大いなる力」

 

女神「人は魔より弱いため、人であるあなたがそれを使えば代償を払わなければなりません」

 

女神「あと4回……その術をあなたが使えるのはあと4回です」

 

勇者「代償……とは」

 

女神「すぐに分かることでしょう。本当はあなたにそれを使ってほしくはなかった」

 

女神「もう……お行きなさい。人と魔の狭間の者よ」

 

 

 

パアア……

 

 

 

勇者(消えた……)

 

 

勇者(狭間の者……?)

 

勇者(代償って……)

 

勇者「……………………!」

 

 

 

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422 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 17:58:46.25 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

僧侶「おい、なにやってるあのボンクラは!? 早く魔法陣まで来い! あと2分だ」

 

狩人「ハア……はあ 」

 

剣士「勇者!」

 

 

タッタッタ……

 

 

剣士「どうしたの? 早く帰ろうよ!」

 

勇者「……」

 

剣士「ゆう、」

 

勇者「がはっ……」

 

 

ビチャッ ボタボタ ビチャビチャッ

 

 

剣士「え」

 

剣士「……血……な、なんで」

 

剣士「勇者っ!!」

 

 

 

 

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423 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:02:05.76 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

* * *

 

 

王都 宿

 

 

 

剣士「……」

 

剣士「……」

 

 

 

バタン

 

 

僧侶「剣士ちゃん。もう今日は休んだ方がいいんじゃないか」

 

僧侶「あとは俺が看てるよ。こいつが目を覚ましたらすぐに剣士ちゃんに伝えに行くからさ」

 

剣士「あれ……もうこんな時間だったんだ。じゃあ僧侶くんにお願いするね」

 

剣士「おやすみ」

 

僧侶「おう」

 

 

僧侶「ずっとつきっきりでその調子じゃ、今度は君がぶっ倒れちまうぜ」

 

剣士「私は大丈夫だよ」

 

剣士「目を……離した瞬間にね。勇者が死んじゃったら、どうしようって……」

 

僧侶「そんなあっさり死ぬようなタマじゃねーよ。もし死んだら剣士ちゃんのために俺が冥府からこいつの魂引っ張ってくるから」

 

剣士「あははっ」

 

僧侶「こいつもいつまで眠ってるんだか……もう5日だぞ。

   あのときも急に血吐いてぶっ倒れて、訳分からん。原因は毒でもなかったし」

 

剣士「……あの魔法を使ったからだと思うな」

 

僧侶「ああ、あの王都の図書室地下で見つけたっていう……」

 

剣士「うん……」

 

剣士「……」ゴシ

 

僧侶「だ、だだだ大丈夫だって!明日にでも目を覚ますだろ!!なっ!!」

 

剣士「……」コク

 

 

 

 

 

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424 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:03:57.27 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

 

太陽の国 王都

 

 

 

「勇者たちが雪の塔を奪還したらしいぞ!」

「女神様のお力か分からんが、毒の霧が徐々に晴れてきているそうだ」

「ヒュドラを破った! 勇者が!」

 

 

 

斧使い「……」

 

戦士「……へへ」

 

斧使い「やるじゃねーかよアイツ。王都に帰ってきたら一杯奢ってやるか!」

 

戦士「見かけによらず根性がある奴らだぜ! よっし祝杯だ!!もう一軒飲みに行こう!」

 

斧使い「おうよ!」

 

 

 

 

 

 

 

副団長「やったな勇者……!!!!!!!!!!!!!!!」

 

魔術師「エクスクラメーションマークうるせえ……」

 

魔術師「副団長の喧しさは置いといて、よかった勇者たちが無事で。ヒュドラを破ったなら次は星の国ね……」

 

副団長「負けてはいられないな。俺たちは俺たちのできることをしよう」

 

魔術師「そうね。……ねえそういえば聞いた?」

 

副団長「何をだ?」

 

魔術師「最近神官たちがやけに王都から派遣されてるの気づいてるでしょ?」

 

魔術師「なんか魔族がこの国のどこかで人のフリをして暮らしているらしいから、その調査に精を出してるってさ」

 

副団長「むろん聞いている。騎士団も調査しているからね。しかし協力して調査しようと言っても聞き入れんのだ。

    神殿独自に武装官組織をつくって、異端審問院まで作られたそうじゃないか」

 

副団長「今度の神殿長は――いや違うな。神儀官が下からせっついてるのか。彼女はなかなか辣腕だな」

 

魔術師「それは結構だけど。私なんだかあの人苦手」

 

魔術師「まあとにかく、早くその魔族の居場所が割れるといいね。あんたも頑張ってね」

 

 

 

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425 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:05:43.51 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

大樹の村

 

 

 

勇者母「ああ……よかった。あの子たち元気にやってるみたい。あなた、私たちの息子が雪の塔を守ったって!」

 

勇者父「さすが俺の息子だ。はは……なんちゃってな。まったくあいつ、手紙のひとつもよこさんで。心配したぞ」

 

勇者母「たまには帰ってくればいいのに。さすがにそれは無理かしらね……」

 

勇者父「いや、でも鳥文にはどうやら転移魔法とやらを取得したらしいぞ。もしかしたら明日にでもひょっこり帰ってくるかもな」

 

勇者母「そうねえ」

 

 

 

剣士父「いやあ……。すぐに泣いて帰ってくると思ったんだが、まさかここまでやるとはなあ。

    俺たちの娘もなかなか大したもんだ……」

 

剣士母「私はちょっとまだ心配。女の子が剣なんて」

 

剣士父「なに、横にはあの子もついている。大丈夫さ。……あの子たちは村にいたときから仲がよかったからな」

 

剣士父「いっしょにいたいんだろ」

 

 

 

 

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426 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:07:37.35 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

* * *

 

 

 

狩人「剣士。ごはん……ですけど」

 

剣士「うん。あとで食べようかな」

 

狩人「……」カタン

 

剣士「狩人ちゃん?」

 

狩人「私もあとで……食べます」

 

 

狩人「勇者はまだ……」

 

剣士「きっと楽しい夢でも見てるんだね。現実は悲しいことが多いから目を覚ましたくないのかも」

 

狩人「……そんな……塔も取り戻したし……ヒュドラも倒したんですから……悲しいことばかりだなんて」

 

剣士「たぶん誰も殺したくないんじゃないかな。人間も魔族も、誰も」

 

剣士「まだ勇者が勇者じゃなくて、いっしょに村に住んでたとき聞いた勇者の将来の夢覚えてる」

 

剣士「誰かを生かす仕事がしたいって言ってたんだもん。殺すんじゃなくってさ」

 

剣士「……どうして勇者が勇者に選ばれたんだろ……」

 

狩人「……あの……あの……な、泣かないで……」

 

剣士「泣いてないよ! ふふ、ごめんね。暗い話ばっかりしてちゃ勇者も目覚まさないよね」

 

剣士「じゃあ二人でおもしろい話しよ! あのね、私この間……」

 

 

勇者「…………」

 

勇者「……う」

 

 

狩人「あっ……!」

 

剣士「道具屋さんに行こうとしたら間違えて武器屋さんに行っちゃってー、薬草買おうと思ってたのに普通に剣の手入れセット買って満足しちゃってさ」

 

狩人「け、剣士、」

 

剣士「その日の夜になってから『あれ道具屋さんに行くつもりじゃなかったっけ』って思いだして。もー馬鹿だよね、あはは」

 

狩人「剣士よこ、よこです。勇者が」

 

剣士「え……?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

427 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:09:10.64 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

 

勇者「あれ……? ここは……」

 

勇者「宿?」ガバ

 

勇者「ッゴハーッ!!?」ビチャビチャ

 

 

剣士「ゆ、ゆゆゆ勇者!? 目を覚まっ――血がぁ!! わ、あ、あ、え、……うわああああぁぁぁぁん!」

 

僧侶「なあ剣士ちゃんも狩人ちゃんも、そろそろ飯……うわああああ!なんだこの状況!」

 

狩人「落ち着いて……剣士は泣かないで……勇者は動いてはだめです」

 

勇者「はあはあ。起きるなり体が痛い。なんだこれは……内臓が出そうだ」

 

勇者「いやそんなことより塔は……みんな毒は?生きてる?無事!?」ガバ

 

狩人「だから!」バッ

 

僧侶「動くなっつってんだろハゲ!!」バッ

 

剣士「まだ寝ててっ!!」バッ

 

 

勇者「……は、はい」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

428 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:11:01.85 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

 

勇者「6日も寝てた……? いや……冗談だろ?」

 

僧侶「そんなおもしろくもねえ冗談言うかよ。お前はよお!!剣士ちゃんと狩人ちゃんに多大なる心配をかけて全く万死に値するぞテメエ!!」

 

狩人「目が覚めてよかったです。みんな心配してた。僧侶も含めて」

 

剣士「うん……ほんとに」

 

剣士「よかったよ……」

 

勇者「……ごめん」

 

剣士「ばか」

 

勇者「ごめん」

 

剣士「あの魔法、今度使ったら絶交だからね」

 

勇者「えっ!? ま、魔法……な、なんのことかな……」

 

剣士「とぼけてもだめ!!勇者がこんなことになったのは、あのときヒュドラを倒すために使った魔法が原因だってちゃんと分かってるんだからね!」

 

剣士「正直6日寝込むくらいであの威力の魔法が使えるのなら、またいざというときには……とか考えてるでしょ」

 

勇者「かっ考えてないよ!?」

 

剣士「声が裏返ってる!!」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

429 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:14:04.94 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

 

狩人「あのとき……勇者が魔法を使わなければ、私たちはいまここにいなかったです。だからそれは感謝します」

 

狩人「でも……やっぱり次は使わない方がいいと思う……です」

 

僧侶「そうだ。お前の体をこの国の神官といっしょに診察したがな、内臓ぐっちゃぐちゃだったぞ。長く生きたかったら使うのやめとけ阿呆」

 

狩人「あなたがそれを使わずに済むように……次は私が一撃で仕留めますので。では弓の訓練にさっそく行ってきます」スタスタ

 

剣士「狩人ちゃんの男前宣言を頂いたところで、そういうわけだから。次は絶対使っちゃだめだよ」

 

勇者「う、

 

剣士「使ったら絶交だよ!!!一生口きかないからね!!!」

 

勇者「まだ何も言ってないじゃないか!」

 

 

勇者「……みんなありがとう。分かったよ。もう使わない」

 

剣士「ほんとにほんとだよ。……もう少し、近くに……寄っていい?」

 

勇者「えっ、あ、うん」

 

剣士「痛い……?」

 

勇者「いや、平気……」

 

 

 

僧侶「いやーーーーー血のめぐりもよくなったみたいでよかったなあ勇者? とくに頬のあたりがなあ? いやーーよかったよかったハーー腹立つ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

430 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:19:41.47 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

 

剣士「あっ ご、ごめん! わ……私も剣の修業に行ってこよっかなー!!」

 

 

バタン

 

 

僧侶「勇者、確かお前甘いものが大好物だったよなあ? この間言ってたもんな? 生きてたらしい雪騎士長から見舞いの品でたくさんもらったんだ。

   食うだろ?遠慮すんなよ……砂糖たっぷりのやつ特別に選別してやっからよ」

 

勇者「あ、あれは……いや、ちょっ勘弁してくれ。吐く吐く吐く吐く吐く吐く吐く吐く」

 

僧侶「遠慮すんなよ!俺たち仲間だろ!?オラアッ!!」

 

勇者「ぐえっ」

 

 

勇者「……?」

 

勇者(あれっ……?)モグモグ

 

勇者「……」

 

僧侶「なんだよ……気持ちわり―な。なんか反応しろよ」

 

勇者「いや……おいしかったよ。うん」

 

僧侶「ああ?」

 

 

 

勇者(……あと4回)

 

勇者(女神様が言ったのは、このことだったのか)

 

勇者「……」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

431 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:23:05.63 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

* * *

 

 

 

勇者「明日には星の国に出発しようか?」

 

剣士「目が覚めたばっかりなんだから、もう少し安静にしていた方がいいよ。ね、僧侶くん」

 

僧侶「そうだな。またぶっ倒れたら面倒だ」

 

勇者「でも一刻も早く残った塔を奪還しに行かないと」

 

狩人「えい……」ツン

 

勇者「ぐっ!?」

 

狩人「まだ完全に治ってない。……無茶と勇敢は違う……みたいなそんな言葉あったと思います」

 

剣士「あったようななかったような」

 

狩人「焦ることはない……です」

 

 

 

コンコン

 

 

 

宿屋「失礼します。みなさまお食事はいかがなされますか?」

 

剣士「まだ食べてなかったっけ」

 

勇者「みんなで食べてきてくれよ。僕はさっき僧侶にしこたまケーキやらクッキーやら詰め込まれたからいらないや」ギロ

 

僧侶「じゃっ食べに行こうぜ。いやー両手に花だなあエッヘッヘ」

 

剣士「……本当に甘いもの食べれるようになったんだね、勇者」

 

勇者「うん。そうだよ」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

432 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:28:41.25 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

剣士「僧侶くんお酒飲みすぎだよー。明日礼拝に参加する約束、司祭さんとしてなかった?」

 

僧侶「ああ、した。ぶっちゃけ司祭にこんな場面見られたらまずい」

 

剣士「自明の理だね」

 

僧侶「でもここに酒がある限り俺は飲み続けるぞ。これが俺の宿命だ!!生まれた意味だ!!」

 

剣士「また変なこと言ってる。どうせまた明日二日酔いになるんだからもうお酒は禁止だよ!!」

 

狩人「ふふふ……」

 

剣士「……あれもしかして狩人ちゃんも酔っ払ってる?」

 

狩人「いえ……飲んでないです」

 

狩人「失礼しました」

 

剣士「いやっ別に笑っていいんだよ!笑ってくれた方が嬉しいよ!」

 

狩人「あなたたちと勇者を見てると……生きてる感じがしておもしろい……です」

 

僧侶「えっえっどういうこと!? つまり俺の彼女になってくれるって意味!?」

 

剣士「僧侶くんちょっと静かにしててね」

 

剣士「狩人ちゃんだって生きてるじゃん!なんだかその言い方だと、私は違うみたいに聞こえるよ。私たち全員ちゃんと生きてるよ」

 

狩人「……そうですね。最近……そう思えるようになってきた……きました」

 

狩人「私……あんまり話すの得意ではないのですけど……楽しいです」

 

狩人「ふふ」

 

僧侶「狩人ちゃんがデレた……感涙していいですか」

 

剣士「いいよ! 私もみんなでいるの楽しいな。村から出て、旅してよかったって思ってる。勇者もおんなじように考えてると思うよ。

   この場にいないから私が代弁するけどね!」

 

僧侶「二人ともいい子だなあ……!!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

433 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:37:57.53 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

剣士「ふあ……。そろそろ寝ない?もう11時だよ」

 

僧侶「そうだな、ここからは大人の時間だ。剣士ちゃんは寝た方がいいな」

 

剣士「なっ、なにそれ。私だってもう大人だよ!仲間外れにしないで」

 

狩人「勇者がまだ起きてるかも。一人で退屈してるかも……しれないです」

 

剣士「………………わ、わかったよ。勇者はもう寝てると思うけど……」

 

剣士「じゃあ二人ともおやすみなさい。また明日ね!」

 

僧侶「おやすみのチューは?」

 

剣士「私の剣とする?」

 

僧侶「冗談だよ冗談……アッハッハ」

 

 

 

 

僧侶「最近剣士ちゃんの切り返しが鋭くなってきた気がするんだが、どうしよう」

 

狩人「言わなければ……いいのに……」

 

狩人「もしくはあなたの舌を斬りおとすとか……」

 

僧侶「待ってどんな二択? 狩人ちゃんの切り返しは鋭すぎてもやは凶器」

 

 

 

僧侶「……まあ別になんでもないんだけどな、えーといつだったかな……

   確か幽霊が出るとか出ないとか言われてたあの不気味な城でだな」

 

僧侶「いつ死んでもいいみたいなこと言ってたじゃないか。今もそう思ってるのか?」

 

狩人「……」

 

狩人「彼と同じように」

 

狩人「戦いの中で死ねるなら本望と……思ってましたが……今は……」

 

狩人「死ぬのが昔より……少し怖い……です」

 

僧侶「……そっか。ならよかった!それでいいと思うぜ。死んでもいいなんて思ってると、いつか本当にコロッと死んじまうよ」

 

狩人「……」

 

僧侶「たぶん亡くなった婚約者の男もそう思ってるだろうさ。 なあ……どんな人だったんだ?」

 

狩人「弓が強くて……弓術が上手くて……弓を持たせれば百発百中でしたね」

 

僧侶「ああうん、できれば弓以外のことも聞きたいなーなんて」

 

狩人「……優しい人でした」

 

 

 

 

狩人「大好きでした」

 

狩人「……えへへ」

 

 

 

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434 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:54:31.41 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

* * *

 

 

翌日

 

 

 

狩人(弓の訓練していたら遅くなってしまった……)

 

狩人(もう剣士は寝ているだろうから……そうっと入らないと……)

 

狩人(……ん。勇者と僧侶の部屋……まだ灯りがついてる)

 

狩人「……」

 

 

コンコン

 

 

 

 

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435 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 18:57:34.66 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

狩人「あの……まだ寝てないのですか?」

 

勇者「ん?でもまだ…… あれっいつの間にこんな時間に。僧侶が帰ってこなかったから気づかなかった」

 

勇者「また飲み歩いてるのかな」

 

狩人「もう寝た方が……」

 

勇者「うん、もうちょっとこれ読んでから寝るよ」

 

狩人「それは……?」

 

勇者「魔族の言葉勉強しようかと思って。強い魔族は人の言葉を喋ってくるけど、ほかの魔族はなに言ってるか分からないことも多いし」

 

狩人「魔族の……言葉? 勇者が……?」

 

勇者「なにがあるか分からないからさ。尤もこの本もすごく古いから本当に学べてるかは分からないんだけど」

 

 

狩人「あ……」

 

 

狩人「あはははははは。あははは!」

 

 

狩人「あはははははははははははははははは」

 

 

勇者「か、狩人? そんなにおかしいかな……」

 

 

狩人(……え?)

 

 

 

 

 

 

ギイ……バタン。

 

 

カチャッ……

 

 

 

勇者「……? 狩人?」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

437 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 19:03:10.85 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

 

狩人「一人は寝てる」

 

狩人「一人は外」

 

狩人「……」

 

 

フッ……

 

 

勇者「わっ まだ灯りは消さなくていいよ、狩……」

 

 

ブンッ

 

 

狩人「……」

 

勇者「えええええ!?」

 

勇者「な、なぜ今僕の杖を窓から投げ捨てたんだ? とりに行かないと……」

 

狩人「もう……体は……動くの……?」

 

勇者「うん、大分よくなったから、歩くくらいは」

 

狩人「そう……」スッ

 

 

 

 

ドサッ

 

 

 

勇者「うっ」

 

狩人「……」

 

 

ギシッ……

 

 

勇者「か、狩人……? 何か……あったのか?」

 

勇者「上に乗っかられると……まだ少し、大分けっこう、痛いんだけども」

 

狩人「…………ゆう、しゃ」

 

 

 

 

 

 

 

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438 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 19:11:36.71 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

 

勇者「え……」

 

勇者「……!?」

 

勇者「何を」

 

勇者「狩人! やめっ……」

 

勇者「……うあっ……!」

 

 

 

 

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439 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 19:14:45.06 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

* * *

 

 

 

ガランッ ガランガラン……

 

 

 

剣士「……ん……?」

 

剣士「いま外から音が……? ふあー あれ、狩人ちゃんまだ帰ってきてない。めずらし」

 

剣士「何の音だろ。 ……? なんで勇者の杖が窓の外に落ちてるのかな」

 

剣士「……」

 

 

 

 

 

コンコン

 

 

剣士(灯りついてない……けど物音聞こえるし……)

 

剣士「勇者?僧侶くん? ねえ、起きてるの?」

 

 

「…… っ……」

 

 

剣士「……ねえ……?大丈夫?何かあったんじゃ」

 

  「……うあっ……!」

 

剣士「……勇者!?」ガチャガチャ

 

剣士「鍵……!」

 

剣士「……っ!!」チャキ

 

 

ズパッ!!

 

 

剣士「勇者!! 何がっ……」

 

剣士「……え……」

 

 

 

 

 

 

剣士「えっ……」

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

440 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 19:16:40.78 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

 

* * *

 

 

飲み屋

 

 

男「あれ~? どうしたんだい君、そんなに慌てて~。よかったら一緒にテーブルで飲まっ」

 

剣士「どけっ!!」

 

男「ほぎゃっ」

 

 

剣士「僧侶くんっ……僧侶くん! 僧侶く…… いた!!」

 

僧侶「ぐーぐー」

 

剣士「僧侶くん、起きて!!お願い!起きて……」

 

僧侶「うーん……ぐう」

 

剣士「起きろっ!!!」バシッ

 

僧侶「ほあっ!! け……剣士ちゃん? どうした泣きそうな顔して」

 

剣士「勇者と狩人ちゃんがっ……血まみれで……宿から消えちゃってっ」

 

 

剣士「どこにもいないのっ……どうしよう……!!」

 

 

 

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441 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/09(日) 19:18:07.09 ID:+HcRS29Ao

 

 

 

第五章 君の臓物を引きずり出すRPG

 

 

 

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445 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 20:28:26.25 ID:r9T/43Dxo

 

 

宿屋

 

 

 

僧侶「うわっ なんだこりゃ。血だらけ……」

 

僧侶「……ここに血で何か書かれてる。転移魔法陣か……?でもこれは魔族にしか使えなかったはず。魔族がいたのか?」

 

剣士「私が扉を蹴破って入ったときには、勇者と剣士ちゃんが一緒に消えるとこだった」

 

剣士「ほかにだれもいなかったよ」

 

 

剣士「僧侶くん、この魔法陣復元できる?」

 

僧侶「俺だけじゃ無理だな。魔法学院の奴らに手伝ってもらおう。どれくらい時間がかかるか分からんが」

 

剣士「できるだけ早く。二人はきっと連れ去られたんだ」

 

剣士「追わなくちゃ。なんとしても」

 

 

 

 

 

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446 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 20:30:10.69 ID:r9T/43Dxo

 

 

* * *

 

 

 

 

勇者「え……」

 

勇者「……!?」

 

勇者(いま光を反射したのって……ナイフ?)

 

勇者「何を」

 

勇者「狩人! やめっ……」

 

 

ズブッ

 

 

勇者「……うあっ……!」

 

 

狩人「……」ピチャ

 

勇者「どう……して」

 

 

スタスタ

 

 

勇者(あ……あれは転移魔法陣か……?)

 

勇者「狩人っ!!やめるんだ、しっかりしろっ!! こっちに――」

 

狩人「勇者……」グイ

 

勇者「!」

 

狩人「……にげて……」

 

 

 

カッ!

 

 

 

 

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447 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 20:32:12.19 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

ヒュン

 

 

 

ドサッ!

 

 

 

勇者「ぐっ…… どこだ!?」

 

グリフォン「ようこそ! 僕の研究室に。 まさかこんなにうまくいくなんて思わなかったなあ」

 

勇者「お前は……塔にいた……」

 

グリフォン「あのときは格好悪い姿見せてすまなかったね。見逃してくれて助かったよ。おかげで僕の計画大成功さ」

 

狩人「……」スタスタ

 

勇者「狩人!行くな」ガシ

 

狩人「……」バシッ

 

グリフォン「狩人って言うんだ、この人間。君のおかげで助かったよ、ありがとう」

 

勇者「狩人に何をしたんだ」

 

グリフォン「ちょっと魔女様の力をお借りして操り人形になってもらっただけさ!君をここに連れてくるためのね」

 

グリフォン「はあ。でも大変だったんだ。ヒュドラ様を倒した時に、勇者が昏睡状態になったってことを小耳に挟んで

      できれば君が寝てる間に連れてきたかったんだけど 思ったより時間かかっちゃってね」

 

グリフォン「僕はあんまり魔法とかさ……そういうの得意じゃないんだ」

 

グリフォン「でも間に合ってよかった! まだ君は完全に回復してないみたいだし。確か杖がなければ魔法は使えなかったよね?

      仲間もいない、武器もない、体調も芳しくない……いくら勇者でも逃げられないんじゃないかなあ」

 

 

グリフォン「……ははは! それにしても……君はおもしろいね!

      魔族の言葉を勉強してるんだって?よりによって勇者が!」

 

グリフォン「じゃあ僕たち似てるかもしれないね。僕も人のことが好きで人の言葉を勉強して、今も君にその言葉で意志伝達してるわけだけど」

 

グリフォン「ほかにもたくさんおもしろいことあるよ。なんで君は人間なのに魔族のような魔法を使えるんだ?

      神が選んだっていう君の身体構造は、ほかの人間と違うところがあるのかな?」

 

グリフォン「身体構造だけじゃない、感覚は?血液は? もし勇者が死亡した場合には、何らかの神による干渉があるのかな」

 

グリフォン「いやあ……その全ての疑問が今宵解消されると思うと、興奮で手が震えるよ」ニッコリ

 

 

勇者「……っ わ、分かった。用があるのは僕だけなんだろう、それなら狩人は元いたところに返してくれ」

 

グリフォン「うーん」

 

グリフォン「無理」

 

グリフォン「このままの状態で君の解剖したら、うっかり手が滑って殺してしまいそうだ。

      少し彼女でもいじくって落ち着かないとね……勇者はこの世にただ一人、大事な素体なんだから、過ちがあったらいけない」

 

 

 

 

 

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448 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 20:36:21.54 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

 

勇者「させるか。返せ」

 

グリフォン「ちょっとここで待っててもらえるかい。すぐ戻るからさ。あとはよろしく、オークさんたち」

 

オークA「うっす」

 

オークB「あいよ」

 

オークC「OK」

 

グリフォン「じゃっ行こう」

 

狩人「……」フラフラ

 

勇者「狩人!! しっかりするんだ! ……行かせるか……っ」

 

オークA「お前の相手は俺たちだよ。大人しくしとけ」

 

オークC「殺さなければ問題ないよな?」

 

オークB「腐っても勇者だぜ。油断するなよ……」チャキ

 

勇者「……どけ!!」

 

オークA「ハッ。そんなちゃちなナイフで何ができる?手首ごと折ってやるよ!」

 

 

ブンッ……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

449 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 20:38:34.28 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

狩人「……う……うっ、……はあ……、!?」

 

狩人「ここは……勇者は」

 

グリフォン「あ。目が覚めたかい。ちょうどよかった。拘束も終わったところさ。

      やっぱり僕なんかじゃあんまり長時間君を操れないなあ」

 

狩人「お前が私の体を勝手に……!!許さない……勇者をどうしたの?私にあんなことをさせて……!!」

 

グリフォン「まだ生きてるよ勇者は。うーん活きがいいなあ君は。でもあんまり叫ばれるの好きじゃないんだ。

      静かにしててくれるかな。ええと麻酔麻酔」

 

狩人「……っや、やめ……」

 

グリフォン「大丈夫。安心してくれ。僕は人間が好きだよ」

 

グリフォン「はははっ」

 

グリフォン「せっかくだから新しい手法を取り入れて実験してみよう……大丈夫、痛くないよ」

 

グリフォン「目が覚めたとき、ちょっとだけ今と違う姿になってるだけさ」

 

狩人「……いやだっ……」

 

狩人「やめて……!!」

 

狩人「……あ……ぁ……」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

450 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 20:42:00.55 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

 

勇者「くっ!」

 

 

グサッ!

 

 

オークA「おいおい……今俺は蚊に刺されたのか? 拍子抜けだぜ」

 

勇者(ナイフじゃオークの固い皮膚に深く突き刺さらない…… ほかに何か武器は、)

 

オークB「武器探してんのバレバレだぞぉ。よっと!!」

 

勇者「…………っ!! げほっ……」

 

オークC「うわー Bえげつねー。ナイフ刺さってた腹に一発入れるとか鬼畜の極みだな。さすが」

 

オークB「本当に杖ないと魔法使えないんだな。治癒魔法も使わねーし。勇者も案外ちょろいな」

 

勇者「……わ、分かったよ。大人しくここでグリフォンを待つから」

 

オークA「賢明だな。そうしてくれ、その方が俺たち、もっ……!?」

 

 

ズザーッ!

 

 

オークB「うおおっ!? Aの股下くぐって……おい逃げだすぞ!」

 

オークA「いやんエッチ」

 

オークC「言ってる場合か! 追うぞ!!」

 

 

バリーーーン!!

 

 

 

 

勇者「はあ、はあ……狩人はどこだ?」

 

勇者(杖がない以上転移魔法も使えない。ここがどこだか分からないけど、とにかく狩人を連れて外に出ないと!

   見たところ窓がない。多分地下だ……地上はもしかして魔族領なのか?)

 

 

「いたぞー!あっちだ!周りこめ!!」

 

 

勇者「くそっ」

 

 

 

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451 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 20:44:02.39 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

――――――――――――

―――――――――

――――――

 

 

バタン

 

 

グリフォン「ありゃ」

 

勇者「!!」

 

グリフォン「いまそっちに行こうとしてたのに。逃げだしてきたのかあ」

 

勇者「狩人はどこだ」

 

勇者「返せ!!」

 

グリフォン「怪我してるはずなのに結構動くなぁ。人間も丈夫なんだね。火事場の馬鹿力ってやつなのかな?それとも勇者だから頑丈なのだろうか」

 

 

ダンッ

 

 

勇者「答えろ」

 

グリフォン「いてて……。乱暴だなあもう。彼女なら……奥の部屋にあるよ。君も気にいると思うけど。ハハハハ」

 

勇者「ふ……ふざけるなっ!」

 

グリフォン「ふざけてないよ。離してくれるかな。 おーいオークさんたち、こっちこっち」

 

オークA「いたいた……全く手間どらせてくれちゃって」

 

勇者「邪魔を」

 

勇者「するな……!!」

 

 

 

 

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452 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 20:51:09.70 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

ガチャッ

 

 

勇者「狩人!! どこだ!?」

 

勇者(……暗くてよく見えない。灯りは…… )

 

勇者(ランプがある、これで……)

 

 

ボッ

 

 

勇者「……」

 

勇者(この部屋……。変な水音がすると思ったら、何かの液体で満たされた巨大なガラスケースが並んでるのか)

 

勇者(中に入っているのは…… うっ……ぐ)

 

勇者(これ全部、あのグリフォンが作ったのか? …………。)

 

 

 

勇者「……狩人!! 頼む……返事してくれ! どこにいるんだ……っ」

 

  「…………て……」

 

勇者「狩人!?」

 

 

  「灯りを……」

 

  「消して」

 

 

勇者「狩人……っ、よかった……」

 

 

 

 

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453 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 21:03:12.64 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

 

 

勇者「ハァッ、ハッ……狩人、すぐここを脱出しよう……。グリフォンに何かされていない?ケガは?」

 

勇者「とにかく、生きててよかった。帰ろう。どこに……いるんだ?」

 

??「……」

 

??「あなたの目の前にいますよ」

 

勇者「目の前って……僕の前にはもうガラスケースしか」

 

勇者「ない、けれど」

 

 

勇者「……」

 

 

 

 

 

??「っふふ」

 

 

??「もう……最悪です……ふふ」

 

??「……見ないで……お願い。勇者」

 

勇者「……」

 

??「私、帰れないです」

 

??「こんな……姿じゃ……あぁ」

 

勇者「狩人」

 

??「化け物になってしまいました。こんな姿になっても、まだ生きている……」

 

??「いや…… うっぅぅ…… お母さん……お父さん……。ごめんなさい……」

 

 

勇者「……うそだろ」

 

勇者「こんなの……」

 

 

 

 

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454 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/11(火) 21:06:07.39 ID:r9T/43Dxo

 

 

 

 

 

勇者「……っ帰ろう! 王都に戻れば、君を元の姿に戻すことがきっとできるはずだ。

   いや、絶対戻すよ。約束する。なにがあっても……戻すよ!だから……」

 

??「勇者。ごめんなさい。お腹を刺してしまって。必死に止めたのですけど、体が勝手に動いてしまった」

 

勇者「そんなことはどうでもいいよ!ガラスケース、壊すよ。早くここから出よう!」

 

勇者「どんな姿になっても狩人は狩人だ。動けなければ僕が運ぶから、掴まって」

 

??「……できない……」

 

勇者「どうして!!」

 

??「この培養液から出たら、たぶん私は生きられない……」

 

勇者「狩人……!」

 

勇者「頼むよ……お願いだから……」

 

 

 

??「ふたつ」

 

??「お願いがある……んです」

 

??「聞いてくれますか……」

 

 

勇者「……なんでも聞くよ」

 

??「殺してください」

 

??「それから、右手だけ故郷の父と母の元に届けてくれませんか……

   右手だけは人のまま、何もされていないから……」

 

勇者「…………」

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