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501 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:32:09.46 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

 

剣士「……ここがね私の家があったところ。あっちが勇者の家で……大きな桃の樹があってさ」

 

剣士「でも全部燃えちゃった。家も森も畑もお母さんもお父さんも村のみんなも燃えちゃったよ」

 

剣士「ああ……」

 

 

僧侶「……」

 

剣士「なんで……」

 

勇者「……墓に花を手向けに行こう」

 

剣士「……うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜 近くの村の宿屋

 

 

 

副団長「……明日星の国に戻るって?」

 

勇者「うん、戻るよ」

 

勇者「太陽の塔が魔族のものになってしまった。ゆっくりしていられない」

 

副団長「そうか。……聞いたか?塔が奪われる前に、急に南部の町いくつかの地盤が崩れ、死者が多数出た。

    それからだ、魔族の攻撃が苛烈になったのは。王都もてんてこ舞いでな、国王もピリピリしてる」

 

副団長「それにしても、なぜ君の村が……」

 

勇者「僕の村だからだよ」

 

勇者「なんのつもりかは、知らないけど」

 

副団長「……そうとは限らないだろう。もっとほかの理由があったのかもしれん」

 

副団長「剣士くんは君と同郷だったな……彼女はどうしている?」

 

勇者「もう休んでる」

 

副団長「そうか。君ももう休むといい。俺も……」

 

 

 

コンコン

 

 

――――――――――――――――――――――――――

502 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:33:16.57 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

 

 

副団長「ん?誰だ?」

 

神儀官「騎士団副団長殿、勇者様、こんばんは。夜分に申し訳ございません」

 

副団長「……!? 神儀官様……!? 何故こちらに?」

 

神儀官「勇者様が星の国よりご帰還なさったと聞いて、王都より追いかけてきたのですよ。お久しぶりです勇者様」

 

神儀官「ヒュドラを倒したそうですね。さすが勇者様です。神殿長もお喜びになっていらっしゃいましたよ」

 

副団長「彼に何か御用ですか? 貴女が王都を離れるなんて……珍しいですね」

 

神儀官「はい。勇者様にお話があって参りました。副団長殿は申し訳ありませんが御退室願えますか?」

 

副団長「私がいては話せない内容なのですか?」

 

神儀官「ええ、その通りです」

 

副団長「……」

 

神儀官「あら。聞こえていらっしゃらなかったのでしょうか? 御退室願います、副団長殿」

 

副団長「……勇者、また後でな」

 

 

 

 

バタン

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

503 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:34:18.80 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

 

神儀官「さて。まずは先日のお手紙どうもありがとうございました。

    あなたが地下遺跡のことを教えてくれたおかげで、色々とおもしろいことが分かりましたよ」

 

勇者「……?」

 

神儀官「ですが、本当に雪の塔の女神があなたに授けた知識とはそれだけなのですか?

    まさか内容を伏せた、なんてことはありませんね?」

 

勇者「ありません」

 

神儀官「そうですか。……それにしても、故郷のことは大変残念でしたね。

    あまりお気を落とさぬよう。皆さま神の御許に導かれたのです、何も悲しむことはありません」

 

勇者「……」

 

勇者「僕に用とは何ですか」

 

神儀官「そうですね、本題に入りましょうか。

    勇者様……あなたなら残りの四天王と魔王を必ず討ち滅ぼせると私たちは信じています」

 

神儀官「今日は、その後のことについてのお話をさせて頂きたいと思いまして。

    勇者様は魔王を倒した後、どうなさるおつもりなのでしょうか?」ニコ

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

504 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:39:43.29 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

 

勇者「魔王を倒した……後ですか?」

 

神儀官「そうです」

 

勇者「職業のことですか? すみません、考えたこともなかったです。

   でもできれば王都から離れて田舎でできる仕事を探そうかと……」

 

神儀官「いえ、職業のことではありません」

 

勇者「ではどういう意味でしょうか」

 

神儀官「こんなことを申し上げるのは、私も大変心苦しいということを分かってください。

    勇者様、あなたのお力はこの戦争において、そして私たちにとってとても重要なものです」

 

神儀官「ですが……魔王がいなくなった後、ひいては魔族が消えた後……

    あなたのお力が人々の目にどのように映るか、考えたことはありますか?」

 

神儀官「あなたが王都にいた2年間、何度か勇者様の魔法を拝見いたしましたが

    魔族の使う魔法ととてもよく似ていらっしゃいますよね」

 

勇者「……」

 

神儀官「もし魔族をこの地から消したとしても、その魔法を使うあなたがいらっしゃれば

    国民たちも不安に思うのではないでしょうか……?」

 

神儀官「私たち神殿の者が使う、人を癒す魔法とは違って……あなたの魔法は脅威になり得るのです」

 

神儀官「あなたが杖を掲げて呪文を口にするだけで、村ひとつ簡単に滅ぼせるのですから……」

 

神儀官「そういった意味で魔王を倒した後、あなたがどうなさるおつもりなのかお聞かせ願いたく、本日は私が参りました」

 

 

神儀官「聡明でいらっしゃる勇者様なら、私が申し上げている意味……ご理解いただけますね?」

 

勇者「…………」

 

勇者「つまり、それは……」

 

勇者「……」

 

 

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505 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:45:01.40 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

 

神儀官「……ああ、勇者様が逡巡なさるのも無理はありませんね」

 

神儀官「彼女のことをご心配なさっているのでしょう。

    故郷もなくなってしまい、剣士様はもし勇者様がいなくなってしまったらおひとりになってしまいますものね」

 

神儀官「ですが御心配なさらずに」

 

神儀官「私たち神殿が彼女のことをお見まもり致します。

    3国の首都は勿論、小さな村々にも教会はあるのはあなたもご存じですね」

 

神儀官「勇者様亡き後、彼女が」

 

神儀官「……この大陸のどこにいらっしゃろうとも、何があろうとも……」

 

神儀官「必ず。私たちが見つけ出し、お守り致します。安心なさってください」

 

 

神儀官「私の申し上げた意味、お分かりいただけますね。勇者様?」

 

勇者「…………」

 

勇者「………………はい」

 

 

 

神儀官「さすが勇者様は賢くていらっしゃいます。では、この誓約書に署名と血判をお願いいたします」

 

神儀官「戦争が終わった後にあなたの身を神殿に委ねることを誓って頂きます」

 

神儀官「この誓約書には特別な術がかかっておりますので、もし誓約をお破りになった場合、

    あなたの尊い命はこの世から消えてしまうことになりますのでお忘れなきよう」

 

神儀官「そのようなこと、勇者様がなさるおつもりがないとは分かっておりますが、念のためです」

 

 

 

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506 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:46:52.57 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

神儀官「……はい、確かに誓約書はお預かりいたしました。どうも有難うございます」

 

神儀官「明日星の国へお戻りになるのですか? いよいよ次は対魔女戦ですか。

    強敵になりましょうが、勇者様ならきっと大丈夫だと信じております」

 

神儀官「…………ああ、お渡しするのを忘れておりました。

    こちら私たちからの菓子折りです。旅の道中にでもどうぞ」

 

神儀官「できるだけ香りの強いものを選びました。まだ香りは分かるのでしょう?

    もちろん味も保障しますが……」

 

神儀官「では夜分遅くに失礼いたしました。私はこれにて。

    ごゆっくりお身体をお休めください」

 

 

バタン

 

 

 

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507 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/14(金) 23:56:46.98 ID:1jvTlR5Vo

 

 

 

 

* * *

 

十数日後

 

星の国 大砂漠

 

 

 

僧侶「砂漠なげえーーーーーー……!! いつになったら抜けるんだよっ!!アホか こんなん!!気が狂う!」

 

剣士「でも暑くない砂漠でよかったね。これで炎天下だったらもっと大変だったよ」

 

剣士「それにさ! 砂が全部星の形してる。こんなの初めて見たなあ。どうやったらこんな形になるんだろ」

 

僧侶「いやーロマンチックだね! どうだい剣士ちゃん、夜の砂漠を見ながら今日愛を語らないか。

   あ、深い意味はないよ」

 

剣士「深い意味って何?」

 

僧侶「いやあの、別にね? 語るっていうのは文字通りおしゃべりするって意味ということで」

 

剣士「それ以外の意味あるの? なになに、教えてよ!ねえ僧侶くん教えてってば」

 

僧侶「い、いやあ……ちょっと僕にも分かんないなあ勇者助けて」

 

勇者「あははは。 僧侶の自業自得じゃないか。僕は知らないよ」

 

 

 

僧侶「オイオイいいのか? そんなこと言ってよぅ」ガシ

 

勇者「うわっ なんだよ」

 

剣士「ねえ二人とも何してるの? おいてっちゃうよ」

 

 

僧侶「そんなこと言ってると~~ 本当に俺がとっちゃうかもしれないぞ~~」ニヤニヤ

 

勇者「は?何を?」

 

僧侶「ハッハッハ、この俺様が本気になったら剣士ちゃんもイチコロかもしれんぞ~~

   俺があの子幸せにしちゃうけどいいのか~~?」

 

勇者「うん」

 

僧侶「うんって何だ、うんって……」

 

勇者「ただし、浮気などの不実な行為を働いた場合は本気で呪うからな」

 

勇者「全身全霊をかけてガチでやるからな。そこは肝に銘じておいてくれ」

 

僧侶「はあ?」

 

剣士「もう、勇者も僧侶くんも早く!日が暮れちゃうよ!」

 

勇者「いま行くよ」

 

 

僧侶「なんだあいつ……?」

 

 

 

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510 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 19:17:20.85 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

 

剣士「今日もまた野宿かぁ」

 

僧侶「砂漠の夜は冷えるなー。今日の見張り誰だっけ」

 

勇者「僕だよ。二人ともおやすみ」

 

 

 

 

勇者(さむ……)

 

勇者「……」

 

勇者「ん? 剣士?」

 

剣士「なんか眠れなくってさ。私も見張る。隣いい?」

 

勇者「ああ、うん」

 

 

剣士「……あのさ。あんなことがあったけど……」

 

勇者「……」

 

剣士「でも、勇者と僧侶くんがいるから、なんかね、毎日元気でるよ。

   お母さんもお父さんも、勇者のお母さんもお父さんも、みんな見まもってくれてると思う」

 

剣士「帰るところ、なくなっちゃったけど……」

 

勇者「大丈夫だよ」

 

勇者「全部なんとかなる」

 

剣士「え?」

 

勇者「また帰るところはつくれるよ。これから先、人生は長いんだから。

   大人になって、色んなこと経験して、そうしてるうちに帰るところはいつの間にかできてると思うよ」

 

勇者「だから大丈夫」

 

剣士「……そっか! そうだよね! ……じゃあそのときは、いっしょに探しに行こうよ」

 

勇者「あ……うん。分かった」

 

剣士「じゃあ約束しよ。はい指きり」

 

勇者「指きりって……。指きりって」

 

剣士「二回も言わなくていいよ。いいじゃんっ別に!ほら早く!!」

 

勇者「わ、分かったから、大声出すと僧侶が起きるよ。はい」

 

剣士「あはは、懐かしいー」

 

勇者「……そうだね」

 

 

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511 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 19:20:17.91 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

数日後

 

 

剣士「むにゃむにゃ」

 

勇者「……」

 

 

僧侶「おい、起きろ勇者」

 

勇者「……」

 

僧侶「おいっ」ベチッ

 

勇者「……」

 

僧侶「起きろこのアホ!!」ギュウ

 

勇者「……僧侶……? 何……見張りの交代……?」

 

僧侶「違う。ちょっと外来い」

 

 

 

 

 

僧侶「お前どんだけ睡眠が深いんだよ。あそこまでして起きないとか野宿してる身として不安だわ」

 

僧侶「って話してる傍から寝ようとするな!!」

 

勇者「……なんだよ……見張りじゃないなら何か用?」

 

僧侶「まあ、とりあえず茶でも飲みながら話そうじゃないか」

 

勇者「え……僧侶が僕にお茶をいれるなんて天変地異の前触れとしか思えなくて怖い」

 

僧侶「いいから黙って飲め」

 

 

 

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512 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 19:21:12.31 ID:xruNwLnko

 

 

 

僧侶「もうすぐ砂漠も抜けそうだし、最近お前が変だから俺が話を聞いてやろうと思ったんだよ。感謝しろよ」

 

勇者「変かな?別に普通だけど」

 

僧侶「へえ、しらばっくれるつもりか。

   太陽の国に戻ったとき、夜に神儀官が来てたよな。あの女となに話したんだよ」

 

勇者「戦況はどうなのかとか、いろいろ聞かれた」

 

僧侶「ふーん……本当か?」

 

勇者「うそなんてついてどうなるのさ」

 

僧侶「まあ嘘でも、今に本当のことしか言えなくなる。ゲハハハ」

 

勇者「……なにした?」

 

僧侶「お前がいま飲んでる茶に、この間通りかかった商人から買い取った自白薬を入れたのさあ!」

 

勇者「は!?」

 

僧侶「おらおら洗いざらい吐きやがれこのすっとこどっこい!俺様に隠しごとなんて億年はえーんだよ!!」

 

勇者「普通仲間に自白薬盛るか!?」

 

僧侶「普通盛らないかもしれないが俺は盛るね。で、あの日なにを話したんだよ? 言えコラ」

 

勇者「ぐっ、こんなことしてただじゃおかないぞ……」

 

勇者「……魔王を倒したら死ねって言われた。逃げたら剣士が神殿に狙われる。

   で誓約書を書いて……それで終わり」

 

僧侶「誓約書を書いたのか」

 

勇者「……書いたよ」

 

僧侶「こんのバッキャロー!!」バキッ

 

勇者「いたっ!!」

 

 

 

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513 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 19:30:41.32 ID:xruNwLnko

 

 

 

勇者「なにするんだよっ」

 

僧侶「お前あれがどういうもんなのか分かってんのか!この底なし馬鹿!

   それじゃまんまとあいつの策略にはまってんじゃねーかよ!」

 

勇者「でも仕方ないだろ。戦争が終わっても『勇者』がいたら、みんな安心して暮らせないんだから」

 

僧侶「だから死ねって言われたら死ぬのかよ?とんでもねー阿呆もいたもんだ。

   正直ここまでとは思わなかったぜ。お前本当の本当にそれでいいって思ってんのかあ?」

 

勇者「……うるさいなっ……じゃあどうしろって言うんだよ!」

 

勇者「それでいいって思ってるわけないだろ!僕は聖人君子でもなんでもないんだ」

 

勇者「なんで死ななきゃいけないんだって、そりゃ思ってるよ!」

   

 

勇者「そもそも勇者にだって、生まれてから一度も……」

 

勇者「勇者になりたいだなんて一度も僕は……っ!」

 

勇者「あーもう、こんな情けないこと絶対言いたくなかったのに、なんてことしてくれるんだよっ」

 

僧侶「ハッ 確かに情けねえな。涼しい顔して内心そんなことを考えてたわけだ。

   剣士ちゃんも愛想尽かすなこりゃ」

 

僧侶「勇者になりたくなかったなんて思ってるなら、じゃあお前、勇者やめちまえよ」

 

勇者「はあ……?」

 

僧侶「やめちまえって言ってんだよ!」ゴンッ

 

勇者「いっ……!! だからなにするんだよ」バキッ

 

僧侶「ごあっ!?」ドサ

 

勇者「前々から思ってたけど、人のことすぐ殴るのやめろ……」

 

僧侶「い、いいパンチもってんじゃねーか」

 

 

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514 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 19:32:13.21 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

勇者「面白半分に言ってるならやめてくれ」

 

僧侶「面白半分じゃねえよ。本気でやりたくないなら勇者やめろって言ってんだよ」

 

勇者「……じゃあ誰が勇者になるんだよ!君がなってくれるって言うのか?」

 

僧侶「あの司書が言ってただろ。魔族のために戦うも人のために戦うも、戦争から逃げるのも自由だってよ」

 

僧侶「大体、勇者になりたくなかったならなんでそう周りの連中に言わなかったんだ。

   なに言いなりになってんだよ。根っからの優等生タイプか貴様は? ああ?」

 

僧侶「お前なんで勇者になったんだ」

 

勇者「それはっ……。それは」

 

勇者「…………」

 

勇者「…………」

 

勇者「……あ、そっか」

 

勇者「なんだ……そうか」

 

僧侶「気持ち悪いな」

 

勇者「思い出した。言いなりなんかじゃなかったよ。  

   うん、そうだ。なんだ、簡単なことだった」

 

勇者「勇者はやめない。僕が勇者だ。……僧侶に気づかされるなんて少し癪だけど」

 

僧侶「ちょくちょく生意気なんだよてめえ!蹴り飛ばすぞ!」

 

勇者「はは、僧侶も案外お人よしだよね。

   前に狩人がそう言ってたけど、本当だったんだ」

 

僧侶「まあ俺は優しさも兼ね揃えたパーフェクトボーイだからな……」

 

勇者「ヘエ」

 

 

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515 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 19:37:26.64 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

勇者「故郷の村が……あんなことになってしまったけど、

   それでもやっぱりあのとき、僕が竜の子どもを殺すのを止めてくれてよかったって思ってる。ありがとう」

 

勇者「僕は人のために戦いたい。けど魔族のためにも戦いたい」

 

僧侶「魔族のためにもって……はあ、なんかお前はどう育ったらそういう考えになるのか分からんな。

   まあ別にいいんじゃねえの。俺は英雄になってハーレムを築き上げることができればなんでもいいよ」

 

勇者「不純すぎる……」

 

僧侶「で。本当に戦争が終わったら死ぬつもりなのか」

 

勇者「ああ」

 

僧侶「それでいいのか」

 

勇者「いいんだ。 自白薬、まだ切れてないだろ?本心だよ」

 

僧侶「あっそ」

 

 

僧侶「じゃあ話はこれで終わりだからとっととテント戻れ。邪魔だ。

   男と夜の砂漠を眺めて話してると思うだけで吐き気がする」

 

勇者「自分が呼んだんだろっ」

 

 

 

 

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516 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 19:45:26.56 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

剣士「私、魔女族と相性悪いかも……。魔女って状態異常系の魔法ばっかり使ってくるんだもん」

 

勇者「僕もすごく困る。さっき剣士と僧侶が同時に混乱状態になったとき、一瞬死を覚悟したよ」

 

剣士「耐性防具つけてるのに意味ないんだよ!むしろ私、状態異常の申し子なのかも!」

 

勇者「それはちょっと違うんじゃ…… あ、塔が見えてきたよ。もうすぐだ」

 

僧侶「深海に沈んでる塔の次は、宙に浮かぶ塔か。あんなのどうやって上るんだ?」

 

剣士「どうするの勇者?」

 

勇者「どう……しようか」

 

「「「…………」」」

 

 

剣士「あ、あれ。本当にこれどうするの?私たち塔に上らなくちゃなんだよね?」

 

僧侶「お前、鳥かなんかに変身できねえのか?勇者なんだからそれくらいできるだろ?え?」

 

勇者「無茶ぶりしないでくれよ。そんなことできないって知ってるだろ」

 

 

勇者「いや、そこは四天王の魔女も察して何か仕込んでくれているんじゃないかな? さすがに……」

 

剣士「えーっ ここまで来て敵頼みって私たち逆にすごいよね」

 

勇者「と、とにかく行ってみよう」

 

 

 

ガサッ

 

 

女エルフ「あっいた」

 

剣士「あれ?」

 

僧侶「お前、いつぞやの弱い魔族じゃないか」

 

女エルフ「よっ弱いって言うな!」

 

 

 

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517 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 19:57:55.58 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

勇者「どうしてここに?」

 

女エルフ「た、たまたまだよ別に。別に探しに来たわけじゃないよ」

 

僧侶(分かりやすいな)

 

女エルフ「あ……あのさ……炎竜様の子ども傷つけたのって、本当に勇者たちなの!?」

 

勇者「……いや、僕たちじゃないよ」

 

女エルフ「本当に!?」

 

剣士「ほ、ほんとだよ。私たちはかくかくしかじかって感じで、傷つけてはないよ」

 

女エルフ「……やっぱりそうだったんだ」

 

女エルフ「……ごめんね。あのね、炎竜様のこと止めたんだよ。勇者たちそういうことする人間じゃないって。

     でもだめだった。勇者たちの村……燃えちゃったんだよね」グス

 

勇者「君が謝ることじゃないよ」

 

剣士「……うん、そうだよ。女エルフのせいじゃないし。

   むしろ、私たちのこと庇ってくれたってことがうれしいな」

 

女エルフ「でも……だって私魔族だし。仲間と故郷のみんなを殺した魔族のこと、憎くないの……?」

 

勇者「……」

 

剣士「……」

 

勇者「剣士はどう思う?」

 

剣士「……え?私?」

 

剣士「私は……正直魔族みんなが憎いって思ったときもあったよ。

   今も、全然恨んでないって言えばうそになっちゃうけど」

 

剣士「でも君は雪の国でも私たちのこと心配してくれたよね。

   君みたいな魔族もいるんだなって考えたら……魔族全員まとめて恨むのっておかしいのかなって」

 

剣士「だから質問の答えはノーだね!かばってくれて嬉しかったよ、ありがと!」

 

女エルフ「う……うえええええええん!! じゃあ、じゃあ友だちになってくれる?」

 

剣士「えっ!? う、うん。急だなあ、びっくりした。いいよ!なろう!」

 

女エルフ「ありがとう……」ギュッ

 

 

 

僧侶「いいね……」

 

勇者「なに鼻血だしてるんだよ」

 

 

 

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518 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:00:54.23 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

勇者「僕も剣士と同じ気持ちだ」

 

女エルフ「……ふん。ほんっとあんたたちって変わってるよねっ!変なの!」

 

僧侶「同意見だ」

 

勇者「君にも家族がいるんだろ?」

 

女エルフ「そりゃいるわよ。たくさんいるよ。

     エルフ族は男も女も美しいって評判なんだから、見たらびっくりするよ」

 

勇者「友だちもいるよね」

 

女エルフ「当たり前じゃん。私人気者なんだから、引っ張りだこだよ。

     ……な、なりたいなら勇者も友だちにしてあげてもいいよ、別に」

 

勇者「うん、やっぱりそうだよね。きっと大多数の人と魔族はそんなに違いはないんだ」

 

勇者「炎竜は息子がひどく傷つけられて、犯人だと思ってる僕たちの故郷を襲った。

   許せることじゃないけど……客観的に考えれば子を持つ親の心情として理解できないわけじゃないよ」

 

勇者「狩人の村の森で出会ったハーピーも、だれか大切な者のために薬草をとりに来ていたのかも。

   父親のために薬草をとりにきていた狩人と同じように」

 

勇者「……あのグリフォンも……あいつも、気が狂いそうなほど憎く思ったけど。

   星の都で見たよ……あのグリフォンと同じように、魔族を解体してる研究者たちを」

 

 

勇者「だからたぶん人も魔族も、そんなに違いはないんだ。

   どっちも残酷なことをしてるし、どっちも同じように家族や友人がいて……」

 

勇者「旅をして辛いこともあったけど、その分、分かったこともある」

 

勇者「戦争は終わるべきだ。どちらか一方が完全勝利するという形でなく、犠牲が少ない方法で」

 

勇者「人と魔族の間で不可侵条約を結ぼう」

 

 

 

 

 

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519 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:03:18.31 ID:xruNwLnko

 

 

 

女エルフ「……え?なに、いきなり」

 

剣士「ふ、ふか……?」

 

僧侶「ひれ……?」

 

勇者「違う」

 

 

勇者「3つの塔を取り戻して3人の女神が結界を張れば、魔族はこの国から追い払われて、入ることができない。

   ……だからまあ、僕たちがやることは変わらないんだけどさ」

 

勇者「でもこの戦争をはじめに仕掛けたのは人間だし、それじゃこの先また同じことが起こるんじゃないかなって。

   だからお互いの領土を侵略しないことを約束して……それで戦争は終わりってことにしたいんだ」

 

勇者「人と魔族は長い間戦争をしていたから、お互い傷つけられて恨みあってたぶん止められないところまで来ている。

   けどこのまま戦争を続けるのは悲しいよ。僕たちと君みたいに、種族が違くとも友だちになれるのに」

 

勇者「いま終わらせなければもっとお互い大切な者を失って傷つくばかりだよ。いまこそ止め時だ……」

 

 

勇者「って思うんだけど、どうかな」

 

剣士「そうしたら、私たちと女エルフも戦わなくて済むね!」

 

剣士「私はいいと思うな」

 

女エルフ「……」

 

僧侶「ちっと楽観的すぎやしねえか?」

 

 

  勇者「不可侵条約結んで」

 

  魔王「いいよ」

 

 

僧侶「って本当になると思ってんのかよ? んなわけねーだろ……」

 

勇者「四天王が全員倒されたと聞いたら魔王も悩むくらいはすると思うんだ。

   経歴を聞く限りすごく現実主義的な考えをするようだし」

 

勇者「もし魔王が首を振ったら、勿論戦わなければいけないけど」

 

僧侶「どうなるかね。……まっ、魔族皆殺しよりそっちの方がかっこいいかもしれんな!!

   しょうがねえ!俺も協力してやるよ!」

 

 

 

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520 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:13:44.17 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

女エルフ「……私もしょうがないから応援してあげるよ」

 

女エルフ「でも!炎竜様も魔女様もめちゃくちゃ強いんだから……勝ってからそういうこと言えば?

     ……はい、これあげるよ」

 

勇者「これは?」

 

女エルフ「エルフ族秘蔵の飲み薬だよ。怪我もたちまち治るし、魔力も回復するんだから。

     ……あとね、魔女様は人を操る魔法をかけてくるから……気をつけなさいよねっ」

 

剣士「……うん、それは知ってるよ」

 

女エルフ「あっ やばい見つかりそう……私もう行くから!

     …………死なないでね! じゃ!」

 

 

 

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521 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:14:17.00 ID:xruNwLnko

 

 

 

第三章 天空のスタータワー

 

 

 

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522 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:15:23.66 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

剣士「……わー、本当に塔の中への転移魔法が用意されてるー」

 

僧侶「ぶっちゃけ助かったな」

 

勇者「じゃあ行こうか。気をつけよう。女エルフの言っていた通り、魔女は人を操る。

   どうやって操るのかが分かれば対策できるんだけどな……」

 

剣士「戦いながら見つけていくしかないね。よし、準備万端だよ!行こう」

 

 

 

勇者「……」

 

勇者「塔に入る前に、ひとつだけ言っておきたいことがあるんだけど」

 

勇者「絶対に二人とも死なないでくれ」

 

僧侶「これから敵と戦うっつーのに辛気臭いな。ええい何真面目な顔してんだよ!調子狂うぜ全く!!」

 

勇者「冗談で言ってるんじゃない。真面目な顔くらいするよ」

 

剣士「大丈夫だよ。私も僧侶くんも死なないし、勇者も死なない」

 

剣士「絶対ね」

 

剣士「ぜーったい大丈夫! さ、行こう」

 

僧侶「剣士ちゃんの方がよっぽど勇者様らしいなぁ?見習えよ勇者」

 

僧侶「俺も夢を叶えるまで死ぬわけにはいかんからな。そう簡単にくたばらねーぜ」

 

剣士「僧侶くんの夢ってなに?」

 

僧侶「英雄になって俺以外男子禁制のハーレム王国をつくりあげることだ」

 

勇者「……僧侶らしいな」

 

僧侶「俺は本気だぞ!!」

 

 

 

魔女A 魔女Bが襲いかかってきた!

 

 

僧侶「さっそくか」

 

剣士「かかってこい!」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

523 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:37:46.77 ID:xruNwLnko

 

 

 

タッタッタッタ……

 

 

勇者「……思ったより敵が多くないな」

 

僧侶「なめられてんじゃねえのか!?」

 

剣士「うわあ、窓からちょっと下覗いてみてよ。めちゃくちゃ怖い!!」

 

勇者「た、高いな。下は海だけど、落ちたら即死確定だ」

 

僧侶「景色いいな」

 

剣士「僧侶くんってすごいマイペースだよね。もう感心しちゃうよ」

 

僧侶「ありがとう!結婚するか?」

 

剣士「しない!」

 

僧侶「そっか!」

 

勇者「あっ! 二人とも前!」

 

 

 

窓の外から魔女D 魔男Eが襲いかかってきた!

魔女Dは混乱呪文を唱えた!

剣士と僧侶は混乱状態になった!

 

 

勇者「あ」

 

 

二人は混乱して勇者に攻撃!

 

 

勇者「またか!!」

 

 

 

 

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524 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:39:20.20 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

 

剣士「大分上ったね。……はあ……はあ。空気が薄いのかな、ちょっと息苦しいかも」

 

僧侶「それに上にあがるごとに壁に飾られてる人形が増えていって気持ち悪ぃな」

 

剣士「ちょっとかわいいけど……嫌な予感しかしないよ。絶対動くよコレ!四天王の魔女戦で絶対動く!!」

 

勇者「人形遣いの魔女なんて呼ばれてるんだから、そうだろうね。むしろ文字通りというか」

 

勇者「というわけで今のうちに破壊しておこう。火炎魔法」

 

剣士「あ、うん。確かにその手があったね、うん」

 

 

魔女「ちょっと!!私の集めたかわいいかわいいお人形ちゃんたちに一体なにをしてらっしゃるの?この豚ども」

 

勇者「!?」

 

魔女「せっかくこの塔に招待してあげたのに、礼儀がなってないわね。

   人間って招かれた家の物を勝手に壊す文化でもあるの?」

 

剣士「この塔は女神様のものじゃん!君の家じゃないし」

 

魔女「うるさい。このブス」

 

剣士「なっ…………」

 

剣士「べっ……別に私がブスなのと塔のことは全然関係が、な、ないと思うんだけどっ」

 

魔女「ブスは黙ってろ」

 

剣士「」ガーン

 

 

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525 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:40:40.92 ID:xruNwLnko

 

 

 

剣士「論破された……」グス

 

勇者「さ、されてないよ。全くされてないから」

 

僧侶「そうだ!剣士ちゃんはブスじゃない!!かわいい!だから喋る権利がある!!論破!」

 

魔女「はあ……随分喧しい人間どもですこと」

 

勇者「塔を返してくれ」

 

魔女「いや」

 

勇者「……だったら奪い返すしかない」

 

魔女「あら。武器はまだ仕舞っていてくださいな。最上階のさらに上、特別見晴らしのいいステージをご用意しておきましたの。

   せっかくですからそちらで戦いましょう」

 

僧侶「ならなんでここに現れた?出迎えか?」

 

魔女「まさか。あんまり遅いから様子を見に来たのよ」

 

魔女「最上階に続く階段は、この扉の先にあります」

 

勇者「この扉、開かないけれど」

 

魔女「いいえ、ちゃんと開きますよ。ほら、ここの窪みに誰か一人手をあてさえすれば簡単に……」

 

勇者「何を企んでいる?」

 

魔女「たくさん企んでるわ。だってここは私の塔だもの。のこのこ来た勇者を、何の策も罠もこさえずただ待ってると思う?」

 

魔女「では上で私のお友達とお待ちしております。早く来てね」

 

 

 

 

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526 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:43:03.67 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

勇者「……」

 

剣士「消えちゃったね。あの魔女」

 

僧侶「さっさとそこの扉開けて上に行こうぜ」

 

勇者「僕がやる」スッ

 

剣士「あ、ちょっと……!」

 

僧侶「ちょっと待て」パシ

 

勇者「え」

 

僧侶「よいしょっと」グキ

 

勇者「!?!?!?!?」

 

 

 

勇者「あ゛ーー!? お、折れたーー!?」

 

剣士「そそそそ僧侶くんなななな何ををををを」

 

勇者「なにするんだ―――、!?」

 

僧侶「ここに手あてればよかったんだよな」スッ

 

勇者「!」

 

僧侶「うおっ!!」ザク

 

剣士「大丈夫?」

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴ……

 

 

 

僧侶「お、扉が開いたな。なんてこたあない、ただこの窪みからナイフが飛び出してくる、チャチな罠だったぜ」

 

剣士「な、なんだぁ。よかった……毒とかじゃなくて」

 

勇者「……本当にそれだけの罠なんだろうか?あの魔女の物言いからはそうとは思えない。

   慎重に行った方がいい。一旦塔から下りよう」

 

僧侶「ばーーか、ここまで来て帰れるかよ。次のチャンスはもうないかもしれねえんだぞ!?行くしかねーだろ」

 

勇者「でも」

 

僧侶「ところで。ちょっと剣士ちゃんごめんな、俺は勇者に話があるんだ。おい耳貸せ」

 

剣士「え?……また!? もう!仲間外れにしないでよ!」

 

 

 

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527 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:45:06.53 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

僧侶「あの女エルフからもらった薬、お前は俺に預けたが、やっぱりこれは勇者がもっとけ」

 

勇者「な、なんでだよ。君が持ってればいいだろう」

 

僧侶「いーからもっとけ!! あとなぁ、俺は山賊上がりで女と酒が大好きなろくでなしだ」

 

勇者「重々承知しているけど……」

 

僧侶「そうかよ。なら、分かってるよな」

 

勇者「……何が」

 

僧侶「躊躇うなよ」

 

勇者「……!」

 

 

 

僧侶「やーおまたせ剣士ちゃん。話は終わったぜ。さあ行こう!」

 

剣士「ねえ何話してたの?私にも教えてよ!!」

 

勇者「僧侶……っ」

 

僧侶「勇者と巨乳の魅力についてちょっとばかし語り合ってただけさ」

 

剣士「……ふうん」

 

勇者「僧侶ぉっ!!!」

 

 

 

 

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528 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:47:43.81 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

最上階

 

 

剣士「ここが最上階……だけど魔女いないね?どこかに隠れてるのかな?」

 

僧侶「確か最上階のさらに上で待ってるって言ってたよな。

   また転移魔法陣がここらへんにあるんじゃないか――ほらあった。ドヤぁ」

 

剣士「ほんとだ! よし、ついに魔女戦だね。二人ともがんばろうね」

 

僧侶「剣士ちゃん凛々しいなぁ!さながら戦の女神のようだ!!ああ眩しい!

   俺たち二人で頑張ろうな!この戦いが終わったら結婚しよう!!」

 

剣士「しない!」

 

僧侶「そっか!」

 

剣士「よーし転移しよう!勇者もほら、早く」

 

勇者「……うん」

 

 

 

 

ヒュン

 

 

 

魔女「やっと来た……随分遅かったのね」

 

勇者「魔女」

 

剣士「ひゃっ……、な、なにここ?私たち宙に浮いてる……?」

 

魔女「私の魔力で浮かしてるガラスの上にあなたたちは立っているのよ。眺めがとってもいいでしょう?」

 

剣士「うう……下が見れない」

 

僧侶「ガラスだと……? くそ、なんてこった!!剣士ちゃんがスカートを穿いていたならば下から下着が丸見えだったのに!!」

 

剣士「僧侶くん鼻血」

 

魔女「では始めましょうか。私のお友達を紹介するわね」

 

魔女「ジュリエッタ、アリス、エミリー、シンディ、クローディア、ダーシー、ドリーン、エレオノール、フランソワーズ、ジゼル、リアーヌ、イレーヌ、モニク、ミシェル、ノエル、ソフィ、シルヴィ、ヴィクトリーヌ、ヴァネッサ……」

 

剣士「まだ人形がこんなにたくさん……」

 

僧侶「気味悪い奴だな」

 

魔女「まだまだいるわ。部下たちじゃあなたたちに勝てなかったみたいだけど、私はそうはいかなくてよ。

   ねえそうでしょみんな?……うん、やっぱりそうよね」

 

魔女「みんな早くあなたたちのことぶっ殺したいって言ってます。そうよね、ずっと待ってたんだもの。いいわ、やりましょう」

 

魔女「さあ、はじめ……」

 

 

 

 

 

魔女「……あ……?」

 

 

 

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529 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:50:48.57 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

魔女「……話してる途中に全く無礼な奴ね」

 

勇者「失礼」

 

魔女「…………人間のくせになかなか魔法を使いこなしてるじゃないの。そこは褒めてあげましょう。

   一瞬で私のお友達を全部消し炭にしちゃうなんて……」

 

魔女「なんてことしてくれてるんです? 死んで贖えよ、クソ豚野郎」

 

 

魔女は全体状態異常魔法を唱えた!

勇者は魔法で相殺した!

 

 

魔女「……ふーん。おもしろくなりそう」

 

 

勇者は雷魔法を唱えた!

魔女は箒でかわした!

 

 

剣士「ようし私も加勢する! やい魔女!箒から下りてこっちに来い!」

 

僧侶「そうだそうだ!ブンブン飛んでないでこっちに来い!」

 

魔女「いやよ。あなたたちと戦うのは私の人形」

 

魔女「言ったでしょ?まだまだ人形はたくさんあるって。それに……まだとっておきがあるんだもの」

 

魔女「さあ!私の従僕となって戦って! 僧侶……でしたっけ?」

 

 

魔女は身心操作の魔法を唱えた!

僧侶は体の自由を奪われた!

 

 

 

勇者「!!」

 

剣士「僧侶くん!?」

 

 

 

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530 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 20:53:00.16 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

僧侶は剣士に殴りかかった!

剣士はかわした!

 

 

剣士「僧侶くんってば!しっかりして!」キィン

 

僧侶「……」ガッ

 

剣士「わっ、あ、!」

 

勇者「僧侶!!」

 

 

勇者は状態異常解除の魔法を唱えた!

しかし効かなかった!

 

 

魔女「無駄ですよ。この魔法は解けません」

 

剣士「僧侶くんになにをしたの!?」

 

魔女「人形になってもらっただけ。ほらほら集中して。仲間だったモノに殺されちゃいますよ」

 

勇者「くっ……」

 

魔女「で、勇者は私の相手をしてくれるんでしょう?見せてご覧なさいよ、あなたが手に入れたっていう、あの禁術……!」

 

 

魔女の魔法攻撃!

勇者はダメージをうけた!

 

 

勇者「……なぜ僧侶だけ操っているんだ?なぜ僕や剣士をそうしない?」

 

魔女「答えるつもりはないわ」

 

勇者「人を操るために何かが必要なんだろう。例えば血液とか……。

   だからあの扉を開けるために手に傷を負った僧侶がいま操られているんじゃないか」

 

魔女「ふふ」

 

勇者「狩人もそうして操られたのか。……剣士、気をつけろ! 血を取られるな!」

 

剣士「わ、分かった。でもっ、どうしたら……僧侶くんを助けられるの?」

 

勇者「……っ何か方法があるはずだ」

 

 

 

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531 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:13:40.54 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

魔女「方法なんてありません。自分が死ぬか、お仲間を殺すか……どちらかですね。ああ、いいザマ」

 

魔女「なかなか使い勝手がいいじゃない、この人形。見た目がかわいくないのがとっても残念……。

   ほら、ほら、ぼやっとしてるとすぐ死んでしまいますよ」

 

僧侶「……」ガッ

 

剣士「うっ」

 

勇者「僧侶、目を覚ませ!しっかりしろっ!」

 

 

勇者は捕縛呪文を唱えた!

僧侶は動きを止めた!

 

しかし魔女がすぐに解除した!

 

 

魔女「動きを止めようったって無駄。だから……殺すしか方法はありません。

   どうするの?殺してしまうの?」

 

魔女「今まで一緒に旅をしてきた仲間を……あなたを信じてついてきた仲間を。

   ほかならぬあなたの手で彼の命の灯を消してしまうのかしら? どうするの?ねえ勇者?」

 

勇者「……黙れ!」

 

 

僧侶『躊躇うなよ』

 

 

勇者「…………!」

 

僧侶「……」

 

 

僧侶の攻撃!

勇者は防いだ!

 

 

勇者「…………っ」

 

勇者「ふざけんなっ!! この野郎!」ギィン

 

 

勇者の攻撃!

僧侶の武器を破壊した!

 

 

魔女「あら。意外とあっさり殺しちゃうのね」

 

 

 

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532 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:14:48.70 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

勇者「何が『躊躇うな』だ!いっつも好き勝手やってたくせになんでそういうこと言うんだよ!!この変態僧侶!!」

 

僧侶「……」

 

勇者「男子禁制のハーレムつくるまで死なないんじゃなかったのか!?なんとか言えっ!!」

 

僧侶「……」

 

 

魔女は補助魔法を唱えた!

僧侶の攻撃力と防御力が10倍になった!

 

 

――バキッ!

 

 

剣士「……う、うそ。素手でガラスの床に大穴を……」

 

勇者「剣士。二人で僧侶の腱を狙おう」

 

剣士「……分かった」

 

 

魔女「……だから。無駄ですって。人間って頭悪いのね」

 

 

魔女は治癒魔法を唱えた!

僧侶の傷はたちまち再生した!

 

 

魔女「早く殺しちゃえば? 勇者の魔法なら一発でしょう?」

 

 

 

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533 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:16:10.77 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

勇者「……ッ」チラ

 

魔女「あははは! なにその目?私を殺せば術が解けると思ってるの?

   でもいいのかしら?そしたらもうひとりのお仲間、ブス女が死んじゃうかもね」

 

剣士「ブスで悪かったな!! ……うぐっ!?」

 

僧侶「……」ドッ

 

剣士「わ、あ、う、お、落ち……っ!!」ガッ

 

剣士「あ、危なかった……」

 

勇者「剣士!」

 

 

僧侶が剣士を投げ飛ばした!

剣士は間一髪で落下を免れた!

 

 

僧侶「……」ジリ

 

剣士「……僧侶くんって結構素手でも強かったんだね」

 

剣士「でも、私は誰にも負けないよ。相手が誰だろうと、私は負けない!!」

 

剣士「勇者。僧侶くんは私にまかせて。君は魔女を倒して!!そうすれば僧侶くんの魔法も解けるよ!」

 

勇者「大丈夫か?」

 

剣士「大丈夫だよ。信じて」

 

勇者「……分かった」

 

 

 

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534 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:17:06.59 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

魔女「ようやく私と遊んでくれる気になったのかしら」

 

勇者「遊びじゃない」

 

 

勇者は魔法を唱えた!

魔女は防御結界を張った!

 

 

魔女「なかなかだけど、やっぱりそんなんじゃまだまだだわ。

   早く使いなさい。ヒュドラを倒したっていうあの魔法」

 

魔女「私を倒すためにはその魔法を使うしかないと思うわ。そうシンディとアンも言って……

   ああ、二人はどっちもさっき死んじゃったんだっけ」

 

魔女「悲しい……」

 

勇者「……そんなにあの術が見たいのなら、見せてあげるよ」

 

 

勇者は呪文を唱えた!

辺り一面光に包まれた!

魔女は旋回した!

 

 

魔女「……ふふ。その程度?すぐに避けられちゃうじゃない」

 

魔女「ヒュドラは鈍重だったからまともに食らってしまったのね。あいつ、首がたくさんあるくせに体は全然動かないから――」

 

魔女「……!? 勇者がいない……?」

 

勇者「後ろだ」

 

魔女「!」

 

 

勇者は魔女の心臓を突き刺した!

 

 

魔女「っああああぁ……!」

 

 

 

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535 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:19:09.11 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

剣士「……勇者! 魔女を倒したの? ……あれ?でも僧侶くんはまだ……」

 

魔女「あぁぁぁ……ああ……痛いじゃない!!もうっ!!離しなさい」

 

勇者「!?」

 

勇者「確かに心臓を刺したはずだ……何故生きてる?」

 

魔女「ゴホゴホ……やだもう、お気に入りのドレスが血まみれよぉ……どうしてくれるのかしら、グチャグチャになって死んでよウジ虫ども……」

 

魔女「なに?何故そんなに驚いた顔しているの?あなたたち、誰と戦ってたのか分かってるのかしら?」

 

魔女「魔王様直属の部下、魔女族魔男族を束ねるこの魔女よ。私が何年魔法を研究してきたか知っている?

   そうね、ざっと400年。心臓を一回刺されたくらいじゃ死にませんわ」

 

魔女「いくら勇者って言ったってたかだか10年ちょっと生きたあなたとは格が違うのよ。ごめんなさいね」

 

勇者「なんだと……?」

 

魔女「それに、騙すなんて姑息な真似してくれるわね。さっきの魔法、禁術ではないでしょう。

   そんな態度でいていいのかしら。そろそろ私も面倒になってきたわ」

 

 

魔女は杖を掲げた!

嵐が吹き荒れ雷鳴轟き、降り注ぐ雹が勇者と剣士の体を傷つけた!

 

 

勇者「使うしか……」

 

剣士「勇者っ!!使っちゃだめ!!」

 

 

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536 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:22:18.16 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

魔女「お前は、黙ってろ。メス豚が」

 

剣士「お前こそ黙ってろ!!」

 

剣士「勇者! あの術は、二度と使わないって言ったじゃない!!使わないで!!!」

 

勇者「剣士」

 

剣士「使わないでよ!!あんな魔法……!!」

 

勇者「これしかない」

 

剣士「………………っ」

 

剣士「……」

 

 

勇者は禁術を唱え始めた!

 

魔女は防御結界を五重に張った!

 

 

魔女「迎え撃つわ。反射して全部そっくりあなたに返してあげる……!」

 

 

禁術が発動した!

 

 

魔女「……」

 

魔女「……!」

 

魔女「私の結界でもだめなんて……」

 

魔女「本当恐ろしい術ね」

 

 

魔女は箒で舞い上がった!

しかし術の引力に引き寄せられた!

 

 

魔女「…………あら。思った以上にすごいのね」

 

 

 

魔女の体は消滅した!

 

 

 

 

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537 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:24:14.18 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

 

僧侶「……!」

 

僧侶「……」ガクッ

 

剣士「僧侶くん!! 気を失ってる……だけか」

 

剣士「術が……解けたんだ!!」

 

剣士「……勇者っ」

 

 

勇者「ごぼっげほげほ……大丈夫、生きてる……がはっ」ビチャビチャ

 

剣士「どう見ても大丈夫じゃないよぉ……また血が……」

 

勇者「僧侶は……?」

 

剣士「気を失ってる。でも魔女の術は解けたよ。……あっそうだ!女エルフにもらった飲み薬、飲んで!!

   い、いまフタあ、あけ、開けるからっ!!すぐ痛いのなくなるから!!」

 

勇者「落ち着いて……二度目ということもあって若干慣れたから……」ビチャビチャ

 

剣士「慣れていいもんじゃないからね!?辺り一面血の海になってるからね!?」

 

剣士「あ、開いたっ! ほら早くこれ、飲んで!!」

 

 

 

ドッ……

 

 

剣士「んっ……?」

 

勇者「……!?」

 

剣士「あ……え?」

 

剣士「……なん……で……剣……お腹から……?」

 

僧侶「……」ズブ

 

剣士「……僧侶くん……?」

 

 

 

ドサッ

 

 

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538 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:26:18.65 ID:xruNwLnko

 

 

 

勇者「剣士!!!」

 

勇者「僧侶……一体何を!?」

 

僧侶「さっきの禁術……一度発動したら対象は逃れることができないのですね。

   まるで引力のようなものを感じました。とてもおもしろいです。呪文を詳しく教えてもらえませんか?」

 

勇者「……お前は魔女か!?」

 

僧侶「……ああ。そうですよ。さっきまであなたの前にいた私も、とっくの昔からお人形でした。

   今までずっとお人形の体を転々と移ってきたのです。さっき壊れたあの体は特別気にいってたのですけど」

 

僧侶「やだ、男の体なんて入ったの初めて。こんなんじゃドレスも着れないしリボンも似合わないわね。

   早く新しい体つくらなくっちゃ……」

 

剣士「う……」

 

勇者「剣士、この薬を……」

 

僧侶「……それ、エルフ族の薬ですよね。なんで勇者が持っているのかしら。

   勇者が魔族から奪ったのか……エルフ族の誰かが私たちを裏切ったのか……どっちかしらね」

 

僧侶「どっちでもいいわ。もう興味があった禁術を見れたんだもの、もうあなたに用はないの。

   ちょうどいい剣もあることだし……ここで死んじゃってくださる?」

 

 

僧侶は剣士の剣を振りあげた!

勇者は剣士を庇った!

 

 

 

勇者「……っ!!」

 

勇者「……」

 

勇者「…………?」

 

 

 

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539 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:29:11.40 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

僧侶「………………」ググ

 

僧侶「……どうして?体が動かない……」

 

僧侶「……」

 

僧侶「……その剣は剣士ちゃんのもんだ。こんな風に使っちゃだめなんだよ!!!」

 

僧侶「人の体使って散々やってくれたなァ!?このクソババア!!!ええコラ!?気持ち悪いんだよとっとと出てけ!!!」

 

勇者「……そ、僧侶? 僧侶!!」

 

剣士「僧侶くん……?」パチ

 

僧侶「剣士ちゃんごめんな。操られてたとは言えひどいことをしちまったもんだ」

 

僧侶「な、なんで?今まで自我を取り戻した人形なんて……一人もいなかったのに。私の魔法は完璧よ」

 

僧侶「うるせーー!喋るなタコ助!!バリバリ自我あるわい!!俺の体から出て行け!!ぶっ殺すぞ!!」

 

僧侶「…………出て行かないわ。あなたこそ……さっさと消えなさい。ぎゃんぎゃんと喧しいわ」

 

僧侶「ははん、同じ体を共有してる今なら分かるぜ。お前、相当焦ってるな。

   出て行かないんじゃなくて、出て行けないんだろ。お前の人形はもうここには俺以外ないからなぁ」

 

僧侶「つまり……こうしちまえば、お前は死ぬしかないってことだ」

 

勇者「……僧侶? ……やめろ!」

 

僧侶「何をするつもりなの?やめなさい! 馬鹿ね……こんなことをすればあなたも死ぬってことよ。

   そんなことも分からないのかしら」

 

僧侶「えー!?俺も死ぬの!?じゃあやめよっと!」

 

僧侶「……なんて言うわけねーだろ!!そこまで俺は馬鹿じゃねえ!!

   道連れだクソババアめ。死んじまえ」

 

 

グサッ!

 

 

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540 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:32:54.53 ID:xruNwLnko

 

 

 

 

僧侶「……ああ」

 

僧侶「……もう、いやになるわね。ほんっと人間って馬鹿」

 

僧侶「……仕方ないわ……死んであげるわよ」

 

僧侶「……」

 

 

 

剣士「僧侶くん!!」

 

勇者「僧侶! 僧侶……しっかり! い……いま治癒魔法を」

 

僧侶「やめとけ……治癒魔法かけたら魔女まで復活しちまうだろ……」

 

勇者「死ぬな!!死なないって言ったじゃないか!」

 

僧侶「……自分も死にそうな状態でよく言うぜ……大体いま治癒魔法使えるんなら……

   自分に使えよ……血みどろで気味悪い……妖怪か貴様は……」

 

剣士「…………そうりょくん…………しなないで…………」

 

剣士「いっしょにかえろうよぉ……いやだよ、こんなの……」

 

僧侶「剣士ちゃん、泣かないでくれよ」

 

僧侶「勇者も泣くな。男に泣かれても鳥肌しか立たん……マジキモイ……」

 

勇者「こんな時にまで軽口叩いて……馬鹿だな」

 

僧侶「ああそうだ、馬鹿だ……クッソ、柄にもなくかっこつけちまったけど……

   あーくそ、正直こんな真似するんじゃなかったぜ」

 

僧侶「くそっ……!めちゃくちゃいてえよ…………なんだよこれ……いってえよ!」

 

僧侶「死ぬのか俺……死ぬって何だよ、意味わからんくらい怖ええよ……死にたくねーーよくそったれこんちくしょう!!」

 

僧侶「こんなところで俺の人生終わっちまうのかよ……まだやってねえことたくさんあるっつの……」

 

剣士「僧侶くん……」

 

勇者「…………ごめん…………」

 

僧侶「俺は死にたくない」

 

僧侶「正直すげえ生きたい」

 

僧侶「だが死ぬ。俺は俺のために死ぬ。おい、なんで謝った?やめろよなそういうの」

 

僧侶「いいかよく聞けよ。遺言だこの野郎……」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

541 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/24(月) 21:38:01.34 ID:xruNwLnko

 

 

 

僧侶「俺は今まで自分の意志で旅をしてきたし、自分の意志で死を選んだんだ。

   だから俺の死がお前のせいだなんて思うのは、俺に対する侮辱だぞ」

 

僧侶「今後俺に対して謝ったりなんかしたら、冥界から戻ってきてお前を殺す。分かったな」

 

僧侶「あと剣士ちゃんを泣かせたりなんかしても殺す。お前が死んでも殺す」

 

勇者「……物騒な遺言だな……」

 

僧侶「剣士ちゃん。正直言ってこいつより俺の方が遙かにいい男だと思うが、まあこいつもそれなりだから

   ずっとそばにいてやってくれよな。こいつ君のことすっげー好きだから」

 

剣士「僧侶くんも一緒にいようよ……いかないで……」

 

僧侶「ごめんなぁ。そろそろだ……」

 

 

 

 

僧侶「……なあ勇者。魔王を倒してからも生きろよ」

 

勇者「……」

 

僧侶「他人なんか気にすんな。いざとなれば剣士ちゃん連れてどっかへ逃げろ。

   泥水啜ってでも生きたもん勝ちだ。そうすりゃいつかいいことあるって」

 

勇者「……」

 

勇者「僧侶。今までありがとう……」

 

僧侶「……じゃあな、二人とも……」

 

 

 

 

僧侶「……」

 

 

 

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546 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 04:25:35.33 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

* * *

 

 

魔王城

 

 

魔王「……魔女が死んだか」

 

炎竜「……」

 

兄「俺が行きます」

 

魔王「……」

 

魔王「待て。私が行こう」

 

炎竜「魔王様?」

 

魔王「少々勇者を侮りすぎていたようだ……」

 

魔王「……私の命も残り少ない……全て勇者との戦いのために使おう。

   勇者を王都から引き離し、私が奴を始末する」

 

魔王「炎竜、そして息子よ。太陽の国の侵攻状況は」

 

炎竜「沿岸部はほとんど。国土の三分の一程度です」

 

魔王「数日でそれなら十分だ。

   私が勇者と戦っているうちに、勇者がいない王都をお前たちで落とせ。分かったな……」

 

兄「しかし、」

 

魔王「言うな」

 

魔王「息子よ。受け取れ。魔を統べる者が手にする王の指輪だ。

   いま、これをお前に託そう……」

 

魔王「私亡き後、お前が王だ。……しっかりやれ……」

 

兄「……」

 

兄「はい」

 

 

 

兄「必ず、魔族に勝利を」

 

魔王「……ああ……」

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547 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 04:26:39.94 ID:8VMCOwRWo

 

 

* * *

 

 

「冥界とか冥府とかって呼ばれてるところって一体どんなところなんでしょう。

 

 女神様は安らかで、とっても景色が美しいところって言ってたけど本当なんでしょうか。

 

 死んでしまったみんなは今はそこにいるのでしょうか。

 

 苦しかったことや痛かったことは忘れて、楽しく過ごせているのかな。

 

 だったらいいなって思います。

 

 

 死ぬのは痛くて辛いのだろうけど

 

 生きるのも同じくらい辛いんだって、分かってきました。

 

 でも死ぬのは一瞬で、もしそのあと楽しく過ごせるなら、

 

 一瞬ではなくずっと続く生の方が悲しいのかなって…… 

 

 

 どっちでもいいや

 

 あの人といっしょなら

 

 生きても死んでも、どっちでもいいです。」

 

 

 

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548 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 04:28:47.34 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

まだ夕暮れ暮れ時にも関わらず、その飲み屋圏食事処は大変な賑わいを見せていた。

グラスを突き合わせる音や、野次の声が飛び交う騒然たる店内の隅っこで

そこだけ切り取られたように静かなテーブルがあった。

 

薬師である。

彼は酒の注がれたグラスに目もくれず、テーブルに広げた四通の手紙のことだけ考えていた。

 

いま彼がいるのは魔族と人が共に暮らす共同都市、通称「月の都」と呼ばれるところだった。

雪の国から星の国を経て、太陽の国に帰ってきた彼が、人間だけが罹る流行病の噂を聞いて

この月の都にやってきたのだった。

 

そして、ここで暮らす夫婦に出会った時に受け取ったのが、いま目の前にある四通目の手紙だった。

 

 

 

「ニーナという名前は書かれていないけど……あなたが持っている三通の手紙と筆跡が一緒ね……」

 

 

庭の広い、小さな木の家に住んでいる夫婦の、物静かな妻の方が手紙を矯めつ眇めつそう言った。

 

 

「たぶん、私が拾ったこの手紙も……ニーナという女の子が書いたものなのではないかしら……」

 

「そう、ですか」

 

 

四通目の手紙に出会えたのは確かに嬉しかったが、どう考えても内容がこれまでと違いすぎる。

仲間が死んでしまったのだろうか。

あの人とは、彼女と一緒に旅をしていた勇者のことだろうか。

 

 

「よかったら、これ……あなたが持って行って。……いいかしら?」

 

「勿論。俺も彼が持っていた方が、なんだか自然な感じがするし」

 

 

夫婦に差しだされた手紙を受け取って、ついに彼は海からの手紙四通全てを手にしたわけだが

何故かこうして夜の酒場で紙切れ相手に途方に暮れてしまっている自分がいた。

 

 

 

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549 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 04:30:07.95 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

ずっとこの大陸を旅してきて二十余年。

薬師として薬を売り歩く、という名目はあったが、正直に言うとこの手紙を集めることも目的のひとつだった。

むしろ、そちらの方が旅立ちの理由として大きかった気もする。

 

 

時系列順に並べれば、最近受け取った手紙の続きに、

幼いころ自分が浜辺で拾って祖父に読んでもらったあの手紙が続くのだろう。

 

全て繋がった。

しかしこの釈然としない気持ちはなんなのだろうか。

 

 

テーブルに広げた手紙を再び懐にしまい、知らず知らずのうちにため息をついたときだった。

酒場の主人が、彼の真向かいの席にドスンと腰を下ろした。

 

 

「よう薬師の兄ちゃん。久しぶりだなあ」

 

 

呂律が微妙に回っていないところから察するに、すでに主人はけっこう酔っている。

うわあと内心思いながら彼はちょっとだけ身を引いた。

手紙をしまっておいてよかった。

 

 

「なんだよ、全然飲んでないじゃないか! 俺んとこの酒はそんなにうまくないってのか? ん?」

 

「ち、違いますよ。いまから飲むところです」

 

「そうか」

 

 

 

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550 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 04:31:15.16 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

種族入り混じって騒ぎまくっている店内なので、片隅といえど薬師と主人のいるテーブルも

お互い声を張り上げないと会話ができないほどだった。

 

 

「……で、あんたいまいくつだよ?もう三十路じゃないのか?」

 

「まだ二十代です」

 

「いくつ?」

 

「……25」

 

「四捨五入すりゃ30だ。もうおっさんだ」

 

 

誕生日を迎えてから四捨五入という言葉が大嫌いになった彼だった。

おっさん……。その響きにくらりとめまいを感じてから、一気に酒を呷った。

 

おじいちゃん。僕はもうすぐおっさんです。

 

 

「30になれば一気に体にガタがくるぞぉ。そろそろ腰を落ち着けちゃどうかね?」

 

「は、はあ」

 

「家庭を持つっていいもんだぞ。

 俺も昔はやんちゃしたもんだがな、帰るところがあるっていうのは、なかなか意外にいいもんだ」

 

「家庭ですか……。でもあいにく、相手がいないもので」

 

「うちの娘なんかどうだい? ほら、久々にあんたがここを訪れたもんだから、

 あんたが店に来てからずっとチラチラ見てるよ」

 

「え」

 

 

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551 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 04:34:16.44 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

ひと際賑やかだった中央のテーブルにドッと声が沸いた。

 

「はい! ビール6人前おまちどうさま!」

 

店の看板娘――いま彼の目の前でにやにやしている主人の娘の元気な声が、かろうじて彼の耳に届いた。

 

娘に働かせておいて、父がテーブルについてサボっているいまの状況に気がついたのか

「ちょっとお父さん!ちゃんと働いてよ!」と娘が抗議した。

 

 

「まあ、口うるさいのが玉に瑕だが……なかなかの器量よしだ」

 

娘の声を無視して主人は続ける。

 

 

「家庭ですか……」

 

「そろそろ身を固めることも考えた方がいいんじゃないかってね」

 

 

 

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552 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 15:49:22.59 ID:8VMCOwRWo

 

 

第二章 uoy hti wevi lan nawi.

 

 

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553 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 15:50:13.14 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

女神「……たったいま尊い命がまたひとつ冥府に導かれました」

 

女神「安心してください。冥府はとっても安らかなところですから、彼も今頃……死の恐怖も痛みも忘れ、

   その美しい景色に心を奪われていることでしょう」

 

女神「勇者、そして剣士。私を解放してくれてありがとう。

   私はこの塔を司る三女神のうち一人です」

 

女神「二人の傷ついた体を癒して差し上げましょう。これで良くなるはず」

 

勇者「……ありがとうございます」

 

剣士「…………」

 

女神「……あなたたちに私から贈るものがあります」

 

女神「すでに勇者は女神の一人から力を、また別の一人から知識を得ましたね。

   力と知識……これこそ戦いに最も必要な二大要素ではありませんか」

 

女神「あなたはもう勇者にとって大事なその二つを手に入れている。だから私は、あなたが勇者としてではなく」

 

女神「一人の少年として最も望むものを贈りたいと考えているの」

 

女神「あなたの心を覗かせてもらいます」

 

女神「あなたが一番欲しているものは……」

 

女神「…………そう。分かりました」

 

勇者「……」

 

女神「ならば、これをあなたに差し上げましょう」

 

 

 

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554 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 15:56:56.75 ID:8VMCOwRWo

 

 

* * *

 

 

 

大樹の村 跡地

 

 

勇者「……やっぱり、どう見てもこれは種だよね」

 

剣士「植えたらなにか生えてくるんじゃないかな」

 

勇者「だったらこの村の墓場に埋めようか」

 

 

 

剣士「なんの種だろう」

 

勇者「さあ……。花でも咲くのかな」

 

剣士「これが君の望みなの? 実は花が好きだったり?」

 

勇者「別にそういうことはないと思うんだけど……女神様が言うことなんだから、そうなのかな?」

 

剣士「……」

 

剣士「神様なんだから、もっと……死んだ人を蘇らせてくれたりしてくれればいいのに」

 

剣士「案外神様もできることは少ないんだね」

 

剣士「……二人でいるとなんだか静かだね。村で二人で遊んでたころは全然気にならなかったのに」

 

剣士「僧侶くんは夜はいっつも飲み屋に行くし、女の子がいればすぐに口説きにかかるし、

   口は悪いし、本当に私たちより年上なのかなって思うときがあったけど」

 

剣士「おもしろいことばっかり言うから、悲しい時もいつの間にか一緒に笑っちゃってたよ」

 

剣士「狩人ちゃん。無口で何考えてるか最初はよく分かんなかったな。

   全然笑わないからちょっと怖いお姉さんだなって思ってたけど」

 

剣士「本当は4人の中で一番みんなのこと気にかけてたよね。

   笑った顔、すごいかわいかったな。もっといろんなこと話したかった」

 

剣士「女の子同士の秘密の話だから、勇者と僧侶くんは聞いちゃだめだよ。二人には内緒」

 

勇者「はは……」

 

剣士「……」

 

剣士「……ごめん」

 

剣士「こんなこと、今話すべきじゃなかったね」

 

勇者「いいんだ。そうだね、4人でいたときは……変なパーティだって思ったけど」

 

勇者「あれはあれで楽しかったね」

 

剣士「ね」

 

 

 

勇者「二人の死を無駄にはしない」

 

勇者「王都に行こう」

 

 

 

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555 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:01:37.24 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

太陽の国 王都

 

 

国王「正直に言って……信じられん。今まで手加減をされていたとしか思えないほどだ。

   たった数日で、塔が奪われ、さらに沿岸部の村々はほぼ竜族に支配された」

 

国王「海路は水魔族によって阻まれ、陸路も何者かの魔法によって断たれてしまい、隣国からの救援も届かぬ」

 

騎士団長「このままでは間もなくこの王都も危険に晒される」

 

神殿長「……」

 

魔術師長「魔王は国王様のお命を狙っております。必ず王都を落としに来るでしょう。

     私たちが全身全霊でこの王都をお守りします」

 

神儀官「この国が誇る騎士団と魔術学院の長の二人ならば、それも可能かもしれませんね。

    ですが所詮はただの人……確実に王都を守れるとは限りません」

 

騎士団長「何だと?」

 

魔術師長「……口が過ぎるな神儀官。神殿長、あなたは部下に一体どのような教育を……」

 

神殿長「……」

 

魔術師長(チッ。傀儡か)

 

神儀官「一体何のために『勇者』がいると思っていらっしゃるのでしょう?

    そうですね、勇者?」

 

 

勇者「……塔を取り戻します」

 

勇者「そしてこの国への侵略をやめさせます」

 

神儀官「期待していますよ」

 

騎士団長「勇者。そうは言うが勝算はあるのか。四天王のうち3人を倒したのはさすがだが、

     残るは炎竜……そして魔王。手ごわいぞ」

 

勇者「分かっています」

 

国王「よくぞ言った」

 

 

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556 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:05:04.61 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

国王「勇者、魔王との決戦に必ず勝ち、我が国に勝利をもたらすのだ」

 

国王「魔王を討ち取れ。お主なら、それが……」

 

勇者「そのことなんですが、僕は魔王や魔族との戦いをできるだけ避けたいと思います」

 

魔術師長「……?」

 

騎士団長「どういうことだ?」

 

勇者「魔王に会いに行くことは行きますが、戦いの前に人と魔族の間における不可侵条約の締結を提案しようと思うのです」

 

魔術師長「……は、はあ?」

 

国王「不可侵条約……か」

 

勇者「元々この戦争を仕掛けたのは僕たち人間側だということは、国王様もご存じでしょう」

 

国王「……ああ、知っている。わしの曽祖父が始めたものだ……

   大っぴらに国民に知らせてはいないがな。その情報は女神から受け取ったものか」

 

勇者「戦争をどちらかの勝利という形で終わらせることに僕は反対します。

   不可侵条約を結んで、お互いの種族を尊重し、侵略行為を永遠に禁じましょう」

 

勇者「魔族が悪だというのなら人間も悪です。人間が善だというのなら魔族も善です。

   もうお互いが傷つくだけの戦争は終わりにしましょう」

 

騎士団長「……お前は魔族が人間と同等だと言うのか?国王の御前でなんということを……」

 

勇者「魔族と人は、同等だ。何度だって言う」

 

神儀官「…………………………」

 

神儀官「あら……」

 

国王「勇者、本心で言っているのか。お前の仲間も……多くの国民も……魔族によって命を奪われたのだぞ」

 

勇者「……本心です」

 

 

国王「…………分かった。不可侵条約締結に賛成しよう」

 

神儀官「国王様!」

 

 

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557 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:06:28.83 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

神儀官「お気は確かでいらっしゃいますか?魔族ですよ。奴らと条約を結ぶなど……!」

 

国王「しかし勇者、魔王とてすんなり首を縦に振ってくれるとも限らんぞ。

   そのときはどうするのだ?」

 

神儀官「国王様……」

 

勇者「その場合は……やはり戦闘になってしまうと思います」

 

騎士団長「平和的解決を図りたいと言いながら、結局は武力に訴えるのか」

 

勇者「……」

 

魔術師長「黙りなさいよ。なら腕っぷししか能のないあんたは他の策を思いつくって言うの?」

 

騎士団長「なにぃ?」

 

魔術師長「あら失礼」

 

魔術師長「とにかく。勇者は塔に行くのでしょう。ならばその間の王都護衛は私たちにまかせてちょうだい」

 

騎士団長「……まかせておけ」

 

国王「いい知らせを期待している。お主は我らの希望だ」

 

国王「塔へ発て。勇者」

 

神儀官「…………」

 

 

勇者「はい」

 

 

 

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558 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:15:11.13 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

剣士「あ! 勇者、王様たちと話終わった?」

 

勇者「終わったよ」

 

剣士「なんだって?」

 

勇者「賛成してくれた」

 

剣士「……よかった。認めてもらえたんだね」

 

 

魔術師「勇者に剣士!ここにいたのね。ちょっと色んなこと相談したいからこれから一緒にお昼食べながら話聞いてもらっていい?

    いま王都護衛のための魔術師配置のことを考えてるんだけど結構頭こんがらがっちゃって意見ほしいっていうかそのね」

 

副団長「やあ勇者に剣士くん。聞いたぞ太陽の塔に再び行くのだそうだな!

    そんなに多くはないが魔族のおおよその身長体重弱点などの情報を伝えたいと思うのだ!これから一緒に昼餉などどうだい」

 

魔術師「ちょっと!私の方が先に話しかけたんだからね」

 

副団長「なにい!俺の話の方が勇者たちにとって重要だろう!ここは俺に譲るがいいさ!!」

 

剣士「二人とも寝不足気味なのかな。テンションがおかしいよ」

 

勇者「それなら4人でいっしょに食べようよ」

 

魔術師「いいわね!名案だわ!」

 

副団長「よしさっそく行こうじゃないか!!!」

 

 

 

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559 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:17:17.60 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

副団長「と思ったがさすが昼時、いつも行っている広場の店にも全く空席がないな。ええいどうする!!」

 

魔術師「あれ、じゃあここは?新しくできたお店みたい。初めて入るけど行ってみようよ」

 

 

剣士「……なんか、この店焦げ臭い匂いしない?勇者」

 

勇者「え?そうかな」

 

副団長「うーん確かに剣士くんの言う通り。なんだか嫌な予感しかしない」

 

コック「い、いらっしゃいませ!」

 

魔術師「奥に行けば行くほど匂う……ちょっと地雷臭がしてきたわね、このお店。

    でももう席についてしまったし……」

 

 

 

 

コック「おまたせしましたっ! ビーフシチューにオムライスにチャーハンにタコライスです!!」

 

魔術師「……よかった、味は普通ね。びくびくしちゃった」

 

剣士「オムライスおいしー」

 

勇者「うん、おいしい」

 

副団長「うまいな。ところで今日は俺が奢ろう」

 

魔術師「待ちなさいよ。私が奢るつもりだったの。だから勇者も剣士もいっぱい食べてね。

    デザートもあるみたい。後で頼みましょ」

 

副団長「待て!!俺が先に奢ると言ったのだ。勇者も剣士くんも育ちざかりだろう、遠慮せずにどんどん追加していい」

 

魔術師「ちょっと、でしゃばんないでよ」

 

剣士「二人とも喧嘩しないで……ていうかなんか様子が変じゃない?どうしたの?」

 

勇者「……気持ちだけで嬉しいから、そんなに気を使わなくていいよ。ありがとう」

 

魔術師「ち、ちがっ……」

 

副団長「……魔術師、君のせいでいらぬ恥をかいた」

 

魔術師「私のせいだって言うの!?」

 

勇者「いやだから喧嘩しないでって……」

 

 

 

 

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560 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:19:35.75 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

コック「うわああああああああ! すすすすすすいませんすいません!!」ダバー

 

剣士「わああああっ!! なにっ!? これが噂の飛び土下座!」

 

コック「すいません!!料理に手違いがありまして……というのも味付けを間違えてしまいました!!

    何を隠そう、じつはわたくし、料理があまり得意ではないのです……!」

 

魔術師「厨房から立ちこめる焦げ臭さでうすうす気づいてたけどね」

 

剣士「一体何故コックを目指したの……」

 

副団長「ふむ、しかし味付けを間違えたというのは真か?普通にうまいと思ったが……」

 

魔術師「確かに。特別めちゃくちゃおいしい!ってわけでもないけど、不味くはないよ」

 

コック「い、いえ、確かに間違えてしまいました」

 

コック「ええと……チャーハンです。うわあああ!よりによって勇者様のお食事の味付けを間違ってしまうなど……

    ……首吊ってきます」

 

魔術師「ちょっとおおっ やめなさいやめなさい!!料理の腕の前にそのメンタルどうにかなさいよ!!」

 

勇者「……あー、確かに言われてみれば味が変かもしれないけど、そこまでじゃないから気にしないでください」

 

副団長「ふむ、どれどれ?」パク

 

副団長「………………………………」

 

魔術師「いつもうるさい副団長が無言になるなんて、よっぽどのことだわ。

    勇者、よく今まで平気で食べられてたね」

 

勇者「ま、まあね」

 

 

剣士「……」

 

 

 

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561 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:23:03.75 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

剣士「どんな味?」

 

勇者「え?」

 

剣士「どんな味がするの?」

 

勇者「ええと……普通よりちょっと、いや大分塩辛い。塩の量を間違えてしまったんですよね、コックさん」

 

コック「いえ!油と酢を間違えた上、肉いれたと思ったら角砂糖投入しておりました!!」

 

勇者「どんな間違いだよっ……!」ダン

 

勇者「いや、言われてみれば酸っぱいし甘い。すごい味だ」

 

剣士「……」

 

 

剣士「魔術師さん、副団長さん。ちょっと席はずしてもらっていいですか」

 

魔術師「へ?」

 

剣士「勇者に訊きたいことがあるので」

 

副団長「かまわんが……」

 

 

 

 

 

剣士「……」

 

勇者「……あのさ、ちょっと僕も二人に急きょ話したいことがあるから、剣士はここで待っててくれるかな」ガタッ

 

剣士「座って? 勇者」

 

勇者「でもほら、二人とも結構忙しいみたいだし、すぐ用事を済ませたいから……」

 

剣士「座れ」

 

勇者「はい」

 

 

 

 

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562 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:35:11.71 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

剣士「私にね、何か隠してることないかなって」

 

勇者「何もないよ」

 

剣士「うそつき。……おかしいと思ったんだ。雪の国でヒュドラを倒した後……

   急に甘いもの食べられるようになってたけど、あのときからでしょ」

 

剣士「味覚ないんだ」

 

勇者「……」

 

剣士「あのときからってことは、それ、あの魔法を使ったことが原因なんでしょ」

 

剣士「……魔女を倒すときも使ったよね。ああ、だから店に入るとき異臭にも気付かなかったんだね。

   嗅覚もないんだね」

 

剣士「そんな魔法なんだ……」

 

剣士「なんで黙ってたの?」

 

勇者「……黙ってたのは謝るよ。でも味覚も嗅覚も、なくても戦いに支障がないから平気だよ。

   最悪目さえ見えていれば、なんとでも、」

 

剣士「そういう問題じゃないでしょ」

 

剣士「君はいつから戦いのためだけに存在する兵器になったの。

   勇者は兵器じゃないでしょ。人間だよ」

 

剣士「味覚も嗅覚も全部人にとって大事なものでしょ。

   大体……戦いが終わった後はどうするの?」

 

剣士「もう戦わなくていいって時に、本当に目だけ見えていればいいなんて心から言えるの」

 

剣士「いままでもこれからも、君は人間だよ。戦いに必要ないからいらないなんて言わないでよ!

   戦いが終わった後も、君の人生はずっとずっと続くんだから……!」

 

 

 

剣士「……」

 

剣士「ねええ……ふざけてるの?いい加減怒るよ?」ガッ

 

剣士「なんで顔を上げてみたら勇者、嬉しそうに微笑んでたの?どう考えても表情の選択おかしいでしょ?ねえ?」

 

剣士「私真剣に話してるんだけど?」

 

勇者「ごめん、つい……謝るから胸倉離してくれ」

 

剣士「つい、なんなの?」

 

勇者「……嬉しくて」

 

勇者「ほかの誰が戦争のための兵器だと考えていても、君さえ僕は人間だと言ってくれるなら、

   それだけですごく嬉しいんだ。笑っちゃってごめんね」

 

剣士「……」

 

勇者「あの術のリスクは全部分かっていたけど、それでも使ったのは僕の意志だ。

   受け入れて生きていくよ」

 

勇者「心配してくれてありがとう」

 

剣士「…………なんでそんな風に言えるの」

 

剣士「なんでそんな大事なことずっと黙ってたの~~~~っ

   もーーーーーっなんでいっつも勇者はそうやって……も~~~~~……!!」

 

勇者「ごめん」

 

剣士「信じらんない……うぅ~~~~~……ううっ……う……」

 

剣士「…………気づいてあげられなくてごめんね…………」

 

 

 

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563 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:39:07.37 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

バタンッ!

 

 

副団長「勇者!剣士くん!」

 

剣士「うう……副団長さん?」グス

 

副団長「取り込み中すまんが、外に来てくれ……大変なことになった。外は大騒ぎだ」

 

勇者「一体何が?」

 

副団長「魔王から、君に向けてのメッセージだ」

 

 

勇者「な、なんだこれは……?」

 

魔術師「魔法で空に文字を浮かび上がらせたのね。こんな大規模な魔法めったに見れないよ」

 

副団長「『満月の夜に、魔王城に通じる門を塔におく』」

 

魔術師「満月には魔族の力が最も大きくなると言われている。罠としか考えられないけど……」

 

剣士「満月は確かもうすぐだよね」

 

勇者「魔王……」

 

勇者「……満月の夜か」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

564 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:40:19.89 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

* * *

 

 

 

勇者(罠なんだろうか)

 

勇者(でも行くしかない。どのみち塔には行かなければいけなかった)

 

勇者(……死ぬかもしれないな)

 

勇者(そう考えても不思議と気持ちが前向きのままでいられる)

 

勇者(狩人が死んで僧侶が死んで、家族が死んで、自分も多くの魔族を殺して……

   それでも正気を失わずにいられるのは)

 

勇者(多分、彼女のおかげなんだろう……、ってなにを考えてるんだ)

 

 

勇者「気を引き締めないと。会うのは魔王だ」

 

 

 

勇者「夜明けだ。出発しよう」

 

 

 

 

コンコン

 

 

 

勇者「……剣士?もう出発するけど」

 

勇者「まだ寝てるのか……?」

 

 

 

勇者「いつも早起きなのに珍しいな。……入るよ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

565 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:41:43.00 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

剣士「……」

 

勇者「寝てるのか。……」

 

勇者「剣士。朝だ。もう起きないと……、……?」

 

勇者「え……?」

 

 

勇者「け……剣士?剣士……?」

 

 

勇者「なんでこんなに肌が冷たいんだ」

 

勇者「……???」

 

勇者「朝だよ、起きてくれよ。剣士……どうしちゃったんだよ」

 

 

勇者(まさか)

 

勇者(いやそんなわけない。ここは王都で……昨日の夜まで剣士も元気で……まさか)

 

勇者「…………」

 

勇者「心臓は動いているはずだ」

 

勇者「心臓は……」

 

勇者「動いてないはずがない」

 

勇者「そんな……はずは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

勇者「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………」

 

 

 

勇者「うそだ」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

566 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:47:49.13 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

勇者「……!」パチ

 

勇者「天井……?」

 

勇者(夢だったのか?)

 

勇者「……ハァ……ハァ……」

 

勇者「……おえっ……」

 

勇者(なんて夢だ。何度目の……)

 

 

ズルッ

 

 

勇者(夜明けだ……夢の中と同じ……また剣士の部屋へ歩いて行って……

   でもこれはもう現実であっているのか?まだ夢のなかじゃないのか?)

 

勇者(それともさっきのがやっぱり現実で、これは僕が現実逃避に見ている夢なのか?)

 

勇者(もう一度確かめないと……また……)

 

 

コンコン

 

 

勇者「剣士」

 

剣士「……」

 

勇者「…………あああ……動いてない。心臓が動いてない。息をしていない。体温がない。生きてない」

 

勇者「一体誰が!!いつの間に……ちがう、やっぱりこれは夢なんだ。あり得ないだろこんなの」

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

勇者「……」パチ

 

勇者「はあ……■あ……今度こそ現実だから剣士は死んで■いはずなんだ。もう一度確■めに」

 

勇者「行って……ああ、でも■しまた死ん■いたらどう■■ばいいんだ。だれ■やった■だ……まも■なかった……■たひと■しなせてし■った……」

 

勇者「なんと■■もけん■だけ■まもりた■ったのに……だれだ■……■れが■ったんだよ■れが」

 

勇者「ま■■てしまっ■」

 

勇■「……」

 

■者「……■んどたし■めてもしんで■■。け■しはしん■……ころ■れた■■……■■■……」

 

■■「■■■」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

567 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:51:48.87 ID:8VMCOwRWo

 

 

―――――――――

 

 

■■「■■■■■■ ■■■ ■■ ■■■■■■■■■……■■■■」

 

■■「……■■■、■■……■■■」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

568 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:55:17.87 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

勇者「……」パチ

 

勇者「……短剣」

 

 

 

ザクッ!!

 

 

 

勇者(血が出ている。熱い。痛みだ)

 

勇者(ということはこれこそ現実……)

 

 

スタスタ

 

 

ガチャ

 

 

剣士「……」

 

勇者「……」

 

勇者(呼吸をしてる、体温がある。剣士は生きてる、死んでいない)

 

勇者「はあっ……よかった……」ズル

 

 

剣士「むにゃむにゃ」ゴロン

 

 

勇者(神様、なんでもあげますから……なんでもしますから)

 

勇者(剣士だけはどうか……)

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

569 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/26(水) 16:59:27.93 ID:8VMCOwRWo

 

 

 

勇者(そのためなら自分はどうなってもかまわない)

 

 

パアッ

 

 

 

勇者「!? なんだ……? 僕の部屋から明かりが漏れてる」

 

 

ガチャ

 

 

勇者「……魔法書が光っているのか? うっ眩しい……一体何事だ」

 

勇者「あれ?最後のページの呪文が……」

 

勇者「読めるようになってる。今まで解読できなかったのに……何故いきなり」

 

 

勇者「そうか」

 

勇者「最後の呪文の代償は……」

 

勇者「やっぱりそうなるか」

 

勇者「……だったら。もういっそここで……」

 

勇者「……」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

576 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 19:52:03.53 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

王立図書館 地下

 

 

 

獅子像「……む」

 

獅子像「久しいな。勇者」

 

勇者「やあ」

 

獅子像「こんな早朝に一体何用だ。まだ図書館も開館していまい。どこから忍びこんだのだ」

 

勇者「見なかったことにしてくれ」

 

 

 

スタッ

 

 

 

勇者「……剣は……やっぱり抜けない、か」

 

勇者「なら仕方ないな。おいていこう」

 

 

 

 

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577 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 19:53:48.60 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

* * *

 

 

 

剣士「勇者おはよう! まだ寝てるの? もう朝だよ」

 

剣士「……あれ?いない。どこ行っちゃったんだろ」

 

 

剣士「おはようおばさん。勇者どこ行ったか知ってる?」

 

宿屋「あら……?おはよう。勇者様ならもう宿を出たみたいだけど?」

 

剣士「え? 何か用事でもあるのかな」

 

宿屋「用事というか、満月の夜に塔に到着できるよう、今日王都を発つって……」

 

宿屋「てっきりあなたも一緒に行ったかと思ったのに、まだいたのね」

 

剣士「ええっ!?なにそれ、聞いてないよ。探しに行ってくる!!」

 

宿屋「行ってらっしゃい……気をつけてね」

 

 

 

 

王都 城壁門

 

 

 

 

剣士「もう、いつ出発するかとかちゃんと事前に言ってくれないと困るよ」

 

剣士「準備だっていろいろあるのに!とりあえず剣だけ持ってきたけど」

 

剣士「……ああっいた!! 勇者っ!!」

 

剣士「あれっ副団長さんに魔術師さんも……おはようございます」

 

副団長「剣士くん……」

 

魔術師「お、おはよ」

 

剣士「ひどいよ勇者!なんで何も言わずに宿を出ちゃったの?」

 

剣士「塔に行って魔王に会うんでしょ?すごく大事な日じゃない。ちゃんとそういうの昨日のうちに出発時刻とか言っといてよ」

 

剣士「でも追いつけてよかった。二人は見送りに来てくれたの?」

 

勇者「……」

 

剣士「ねえ、どうしたの?なんでこっち向いてくれないの……?」

 

 

 

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578 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 19:55:30.36 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

 

 

勇者「見送りじゃない」

 

勇者「僕は二人とともに魔王城に行く」

 

剣士「え?……ああ、そうなんだ。じゃあ、また4人パーティだね」

 

剣士「副団長さんも魔術師さんも王都を離れていいの? でも心強いな!嬉しい。よろしくね」

 

勇者「4人じゃない。3人だ」

 

勇者「君はついて来ないでくれ」

 

剣士「……へっ? な……なに言ってんの?」

 

勇者「今まで我慢していたけど、正直に言って足手まといなんだ。

   君を庇いながら戦うのももううんざりだ」

 

剣士「…………?? どうしたの……急に、そんな……」

 

剣士「ず、ずっといっしょに戦ってきたじゃない。

   どうしてそんなこと言うの」

 

剣士「わ……私は足手まといなんかじゃないよ!!

   剣だって強くなったし、十分戦えるよっ」

 

剣士「旅立ちの時とは違う。私は強くなったんだから!!」

 

勇者「じゃあ証明して見せろ」チャキ

 

剣士「えっ……」

 

勇者「剣を抜け」

 

 

 

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579 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 19:57:43.62 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

 

勇者「……」タッ

 

剣士「ゆ、勇者――…… わっ!!」チャキ

 

 

キィンッ

 

 

剣士「ちょっとっ……ねえっなんなの……」ググ

 

剣士「……くっ!」

 

 

 

勇者の攻撃!

剣士はかわした!

 

剣士の攻撃!

勇者はダメージをうけていない!

 

 

魔術師「……ゆ、勇者」

 

副団長「……待て」ガシ

 

魔術師「……」

 

 

 

―――――――――――

――――――――

――――

 

 

 

剣士「……うっ! く……」

 

剣士「あっ!?」

 

 

勇者の攻撃!

剣士の剣を弾き飛ばした!

 

 

ヒュンヒュンヒュン……ドッ

 

 

剣士(剣がっ……)

 

剣士「……!」

 

 

勇者は剣士の喉に短剣を突きつけた。

 

 

 

勇者「足手まといだ。邪魔をするな」

 

剣士「……っ、なんで急に……」

 

勇者「君が気づかなかっただけだろ。ずっと前から嫌いだった」

 

勇者「故郷がなくなってしまったから天涯孤独の君を憐れんで、同情でいっしょにいてやったんだ」

 

勇者「でも我慢の限界だ。もう顔も見たくない。二度と僕の前に現れるな」

 

 

 

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580 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 19:59:34.95 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

 

剣士「……」

 

勇者「……二人ともお待たせ。行こう」スタスタ

 

魔術師「あ、うん……」

 

 

 

剣士「……」

 

副団長「剣士くん」ポン

 

剣士「……」ビク

 

副団長「彼のことは我々にまかせたまえ。それで……君のことだが。

    君には王都の遙か南にある村に行って護衛任務にあたってほしいんだ」

 

剣士「……」

 

副団長「もちろん、剣を捨てて生きるというのならそれも構わない。

    しかしその場合も王都から離れて暮らしてほしい」

 

剣士「……」

 

副団長「これを君に。そうだな……今から2時間後くらいか。

    王都から南に出る大型馬車がある。そのチケットだ」

 

副団長「では、達者で」

 

 

 

 

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581 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:03:33.86 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

斧使い「でお前はどうすんだよ?」

 

戦士「どうするも何もよう……魔族が来たら俺なんてひとたまりもねえだろ。田舎に逃げるよ……」

 

戦士「王都より南はまだ安全だっつー話だ。あいつら北から見境なしに侵略してきてるからな」

 

斧使い「お前も行くのかぁ。そうか……。やっぱりそうだよな。……俺も……」

 

戦士「ん? おい、あれ……」

 

斧使い「あ? ……ああ!なんであいつこんなところにいるんだ?」

 

 

 

剣士「……」

 

斧使い「おおーい! 剣士のお嬢ちゃん!」

 

戦士「ひとりでなにしてんだ?」

 

剣士「……おじさんたち……ずっと前に酔っ払って勇者に絡んできた人だっけ」

 

斧使い「む、昔のことは忘れろよ。でも、勇者もお前も見直したぜ!

    すげえ強くなったんだなぁ。魔族をバンバン倒しちまいやがって……」

 

戦士「ちなみに今日は酒飲んでないぜ」

 

剣士「ふうん」

 

斧使い「それより、なんか大変なことになってるじゃねえか。

    魔王城に……結局行くんだろ?」

 

戦士「勇者はどこにいるんだ?」

 

剣士「勇者は……もう行っちゃったよ」

 

斧使い「?? 剣士はいっしょに行かねえのか?」

 

剣士「……」

 

剣士「……ついてくるなだってさ!私のこと、ずっと前から嫌いだったんだって!!」

 

剣士「私が一人で可哀そうだから今まで優しくしてくれたんだってさ!

   でも弱いから、役に立たないから、足手まといだからもういらないって!」

 

戦士「ええっ!? 勇者が本当にそんなこと言ったのか?」

 

斧使い「あいつなに考えてるんだ?」

 

剣士「そんなの私にだって分かんないよっ」

 

剣士「……本当いっつも何考えてるんだか全然分かんない」

 

剣士「私だって……私だって勇者のことなんか嫌い!!」スッ

 

剣士「雪の国でもらった指輪、……。

   今ならもっといい装備なんていくらでも買えるし、ただの飾りでつけてただけだし」

 

剣士「もういらない」

 

戦士「おいおい、なにしてんだよ?」

 

 

 

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582 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:05:14.76 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

 

ポチャン

 

 

 

斧使い「……あーあ。いいのか?この川は流れが早いからもう取り戻せねえぞ?」

 

剣士「いらないんだってば!」

 

剣士「……私はもう行くね。馬車の時間、そろそろだから」

 

戦士「馬車って、どこ行きのだ?」

 

剣士「南」

 

 

 

斧使い「……行っちまった」

 

戦士「なにかあったのかねぇ」

 

 

 

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583 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:07:56.78 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

* * *

 

 

ガタン……ガタンガタン

 

 

子ども「わー、お馬さんはやーい」

 

母親「ちゃんと席に座って。あぶないでしょ」

 

 

おじいさん「しかし、これから王国はどうなってしまうのじゃろうか……」

 

おばあさん「王都が襲撃されたら、もう……」

 

 

剣士「……」

 

剣士「……」ギュッ

 

 

  「そしたらあっという間に魔族がこの国を制圧するんだろうな」

 

  「今から行く南部も安全ではなくなってしまうな……」

 

  「聞いたか? ○○の村なんて、一晩どころかたった数時間で滅ぼされたそうだ」

 

  「勝ち目なんかないじゃないか……」

 

 

剣士「……」

 

子ども「ねー、この剣触ってもいい?」

 

剣士「……いいよ」

 

 

 

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584 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:08:44.98 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

子ども「わあ、重い」

 

剣士「君にはまだ早いよ」

 

子ども「……ねえお姉ちゃん怖いの?震えてるよ」

 

剣士「そんなことない。なんにも怖くなんかないよ」

 

子ども「大丈夫だよ。勇者様が私たちのこと助けてくれるから」

 

剣士「……」

 

剣士「……そうだね。勇者は強いからね」

 

剣士「……………………」

 

剣士「…………でも、弱いところもあるんだよ」

 

剣士「私ずっと知ってた。知ってたんだ」

 

剣士「ごめんね、剣返して」

 

子ども「?」

 

剣士「行かなくちゃ」

 

 

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585 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:11:31.88 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

 

 

剣士「はあっ、はあっ、はあっ……!」

 

剣士「…………っ」ガッ

 

 

ザバーンッ

 

 

剣士「!?」

 

斧使い「プハッ おえっ水飲んじまった」

 

戦士「おおい!そっちどうだ?」

 

斧使い「ない。お前んとこは」

 

戦士「ないからお前に聞いたんだよ」

 

 

剣士「……??」

 

斧使い「くそっ、どこに……、んんっ!?」

 

戦士「!!」

 

斧使い「み、見つけたぞ!ここだ!ほら!」

 

戦士「でかした!お前もたまにはやるじゃねえか! よし、さっさと上がろうぜ……さみいよ」

 

剣士「……おじさんたち、なにしてんの?」

 

斧使い「おお、タイミングいいな。ほら、これ探しに来たんだろ?」ポイ

 

剣士「!」パシ

 

剣士「……私が捨てた指輪。ずっと探してくれてたの?」

 

戦士「俺が探そうって最初に言ったのさ」

 

斧使い「馬鹿!!見つけたのは俺だ!!」

 

 

剣士「……」

 

剣士「…………ありがとう!」

 

剣士「おじさん!私やっぱり南には行かない。北へ行くよ」

 

戦士「そうか。頑張れよ」

 

斧使い「……俺もやっぱ、南には行かん。王都に残る。ここで、戦うさ」

 

戦士「まあ俺はもともとそのつもりだったけどな」

 

剣士「あの日おじさんたちと王都で手合わせしたときは……私は負けそうになったけど、今度もう一度手合わせをする?」

 

 

 

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586 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:18:33.42 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

斧使い「……そうだな、いつか再戦だ。シラフの俺は強いぜえ」

 

戦士「ふん。俺の方が強いね」

 

剣士「私だってもう負けないよ」

 

剣士「誰にだって負けない。私、強いからね」

 

剣士「おじさんたち、ありがと! またね!!」

 

 

斧使い「おう」

 

戦士「またな」

 

 

 

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587 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:19:55.90 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

* * *

 

 

魔術師「ほんとにこれでよかったのかな」

 

副団長「あいつが選んだんだ」

 

魔術師「でも、一人で行くなんて。……死ぬつもりなんじゃないかってさ」

 

副団長「……」

 

副団長「俺たちは王都を死守しなければ。魔王軍は勇者がいないうちに王都を攻撃してくるかもしれない」

 

副団長「あいつが帰ってきたときに、情けない様を晒すわけにはいかないからな」

 

魔術師「……そうね」

 

魔術師「でも、剣士は…………あっ」

 

副団長「?」

 

 

剣士「副団長さん。魔術師さん」

 

副団長「剣士くん……どうしてここに?」

 

剣士「私と……」

 

剣士「――勝負して」

 

 

 

 

 

――――――――――――

―――――――――

―――――

 

 

 

 

副団長「………………いやぁ……」

 

副団長「参ったね……」

 

 

魔術師「……情けない様は晒さないんじゃなかったの」

 

副団長「しかし君、少しくらい手助けしてくれてもいいじゃないか」

 

魔術師「馬鹿ね。王都が危険だって時に、みすみす魔力を消費したくないっつの」

 

副団長「……はあ。精進せねば」

 

 

副団長「強くなったなぁ。……剣士くん」

 

魔術師「じゃっ私は副団長が剣士にボロ負けしたってこと、団長と部下に伝えてこよーっと」

 

副団長「やめてくれ」

 

 

 

 

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588 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:23:13.05 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

 

 

森を抜けた先に広がる地平線を視線でなぞった。

青く揺らぐ空に霞んで、遙か彼方に聳え立つ象牙の塔。

 

風が吹けば地面の砂が舞い上がって小さな竜巻をつくった。

顔を腕で覆いながらまた歩みを進める。

 

今日は風が強い。

だから、近づく足音にもすぐに気付けなかった。

 

 

「勇者」

 

 

砂塵舞う中、剣士が勇者を睨んでいた。

その姿を見た瞬間、怒りに似た感情に心臓が沸きたった。

 

あれだけ言ってもだめなのか。

 

 

「……剣士、」

 

「杖を構えて」

 

「……は?」

 

「私と本気で勝負して」

 

 

ざ、と二人の間に再び風が通り抜ける。

視界を守るために上げた左手の先で、剣士が切刃を回さんとしていた。

砂色に濁る世界の中に、ただ彼女の剣が放つ燐光だけが確かだった。

 

 

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589 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:25:22.70 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

 

「勝負してよ。証明するから」

 

「私が誰より強いってこと……!」

 

 

残光を伴って振り下ろされた剣を、咄嗟に腰から引き抜いた短剣で受け止める。

刃がぶつかり合う鋭い金属音。

ぎちぎちと互いの腕が軋む音さえ聞こえるほどの近距離で二人は睨みあった。

 

 

「もう弱いなんて、言わせない」

 

「やっと気づいたんだ。この剣は……私の思いの分だけ強く光るんだって」

 

 

女神に授かった剣がひときわ青白く輝いた。

勇者は一時、全てを忘れてその光に目を奪われた。

 

 

「私が何のために強くなったと思ってんの!?」

 

 

 

まさに猛攻と言ってよかった。

王都の城壁での剣士とは……否、今まで共に戦ってきた剣士の動きともまるで違っていた。

 

今までよりずっと強く、ずっと速く、ずっと鋭く白刃が振るわれる。

気を抜けば一瞬で勝負がつく。

攻撃を防ぎながらじりじりと後退していることさえ勇者は気づいていなかった。

 

 

 

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590 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:28:05.63 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

 

しかし剣より強く鋭いのは、剣士の視線だった。

穴が開くのではないかと思うくらいの視線に射ぬかれるのを恐れて、思わず目を逸らした。

 

 

「君のそばで一緒に戦いたかったからだよ」

 

 

ハッと気づくと、剣士の右手に剣がない。

いつの間にか左手にそれは握られており、今まさに下段より地面を抉り取りながら勇者に迫っていた。

 

 

「だから負けないよ。私が強くなった理由にかけて、絶対に私は負けない!」

 

「誰にだって――勇者にだって、負けないっ!!」

 

 

 

短剣では防げない。

そう判断した勇者は上半身を捻ってその一撃を避けた。

 

唖然とした。

ズズンと、音というより振動にちらりと振り返れば、

見渡す限りの林がその幹の途中から斬られていた。

 

次々と轟音を立てて倒れ来る木を避け、また二人は剣を突き合わせた。

 

 

 

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591 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:30:06.97 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

 

「……はっきり言わないと分からないのか!?」

 

「ここで退かないなら、殺す」

 

 

歯を食いしばりながら、ほとんど唸ってそう言えば

剣士もギロリと睨み上げて剣を握りなおした。

 

 

「やってみろ」

 

「……っ」

 

 

舌を打ってから勇者は短剣を逆手に持ち直した。

またあの時と同じように剣を弾き飛ばすつもりなのだと悟り、剣士は身構えた。

 

 

弧を描いて飛んでくる斬撃に合わせて、剣士も身を捩る。

避けるのではない。正面から迎えるつもりだった。

 

 

――剣を折ってやる!

勇者も剣士も、この一撃に賭けて全力を投じた。

これで決着をつける。

 

 

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592 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:35:21.16 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

「……!」

 

 

音すらなく半刃が空を舞うのを驚愕の思いで見た。

薄青の空にそれが溶けていくのを見届ける前に視界がぐらつく。

 

勇者の剣を折った後、剣士は身をかがめて躊躇いなく勇者に足払いをしたのだった。

いっさい淀みのないその身のこなしを見るに、初めから剣を折るのは自分だと分かっていたようだ。

 

 

「ぐっ」

 

地に叩きつけられた後、慌ててすぐに立ち上がろうとする勇者のマントの襟首を、剣士の剣が縫いとめた。

 

 

「私の勝ち」

 

 

勇者に馬乗りになって太陽を背に背負った剣士が、逆光の中嬉しそうに笑った。

 

 

「連れていってね」

 

 

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593 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:37:58.90 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

勇者「……だめだ」

 

勇者「そういうところが嫌いなんだ。人の話を全く聞かないところが」

 

勇者「顔も見たくないって言っただろ……!」

 

剣士「私だって勇者のことなんか大っ嫌いだよ」

 

剣士「勇者なんて方向音痴だしすぐ道に迷うし、朝は弱いし寝起き悪いし寝癖とかすごいし」

 

勇者「……」

 

剣士「整理整頓苦手だし、鈍感だし、宿の部屋すぐ散らかすし、うそつきだし大事なことずっと黙ってるし」

 

剣士「全然私のこと頼ってくれないし全部一人でなんとかしようとするし」

 

剣士「だから大っ嫌い」

 

勇者「……っじゃあ放っておいてくれよ!」

 

剣士「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剣士「……うそだよ。本当は全部好き」

 

剣士「勇者が私のことずっと前から嫌いでも、私はずっと前から君のこと好きだった」

 

 

剣士「……だから、どうせ放っておいてもいつかなくなる命なら、君のために使い果たしたい」

 

剣士「君のためなら、死んだって構わない」

 

 

 

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594 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:41:41.60 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

勇者「……!」

 

勇者「そんなこと二度と口にしないでくれ」

 

剣士「やだよ。何度でも言うし、魔王城には着いて行くよ」

 

剣士「私だって盾くらいにはなるんだから」

 

剣士「……一人きりでなんて絶対戦ってほしくないの。

   一人じゃ怖いことも、二人なら怖くないよ」

 

剣士「だからいっしょにいさせて」

 

勇者「……っ」

 

勇者「盾になんかできるもんか」

 

勇者「……君、ほんとに馬鹿だろ……っ」

 

剣士「あはは……勇者の泣き虫」

 

勇者「泣いてるのは剣士だ」

 

剣士「勇者じゃん」

 

勇者「君だ」

 

 

剣士「……あはは!」

 

勇者「はは……」

 

 

 

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595 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/03/28(金) 20:43:41.82 ID:nmXPlOIKo

 

 

 

剣士「剣、折っちゃってごめんね。これ、副団長さんからだよ。新しい短剣」

 

勇者「副団長から……?」

 

剣士「きっと剣を折るのは君だろうからって」

 

勇者「……そ、そう」

 

 

 

 

 

剣士「じゃ、行こう!」

 

剣士「あのね、みんなが君の本当の名前を忘れちゃっても、私だけはずっと覚えててあげるからね」

 

剣士「自分の名前を忘れそうになったらいつでも私が教えてあげる」

 

剣士「だからいっしょにいようね。最期まで、ずっと」

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