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350 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:38:13.72 ID:ZhIBJlv5o

 

 

* * *

 

 

 

勇者「この部屋は?」

 

魔王「さあ……実は私にもよく分からんのだ」

 

勇者「なんだ、あの時計。変わってる……」

 

勇者「……ん、凝った装飾の台があるな。でも何ものってない」

 

魔王「ここに、今私がはめている指輪があったのだ」

 

勇者「へえ?そうだったんだ」

 

魔王「妙な隠し部屋だから、何か創世主を倒す道具でもないかなと思ったが、全然ないな」

 

魔王「残念」

 

 

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351 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:41:43.46 ID:ZhIBJlv5o

 

 

* * *

 

 

 

カチ……コチ……カチ……コチ……

 

 

「部屋か?しかも随分広い」

 

「ほこりくさっ。 げっほけほ」

 

「この時計……動いてるのか。まさか、100年前からずっと?」

 

「……変だな。針が3本ある」

 

「一番外側の数字が0~100まで、真ん中が0~12、内側が0~365か」

 

「時間じゃなくて日をカウントしているんだな」

 

「逆……」

 

「逆?ああ、本当だな。針が反時計回りにまわってるのか」

 

「これじゃカウントダウンだな……なあ、見ろ。もうすぐどの針も0に……」

 

「ねえそんな時計よりこっちの指輪見てよ!ちょうきれいだよ!すっごい高そう!!」

 

「聞けよ」

 

 

「指輪ぁ?宝じゃなくて魔王を探しに来たんだろうが」

 

「でも、ほら。きらきら光ってる。なんか尋常じゃないって感じ。絶対重要アイテムだってこれ」

 

「内側に文字も彫ってあるよ。よく読めないけど」

 

「文字……。……王」

 

「oh?」

 

「魔族の言葉で『王』って彫ってある」

 

 

 

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352 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:45:41.91 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

「……それって魔王の指輪ってことじゃん!?」

 

「ということはこの気持ち悪い時計は、魔王が復活するまでのカウントダウンか?」

 

「え?なにこの時計、なんか変じゃない?数字多い」

 

「だから、それさっき俺がやったくだりだ。聞いてろよ」

 

「3つの針全てが0になるのは、……明日だ」

 

「明日魔王が、この指輪を指にはめにここに来るはずだ」

 

「うひゃーまじで?やった、タイムリーじゃん。今日ここに来てよかったねー」

 

「やったな。もし魔王が復活すれば、人間どもに奪われた土地も国も全て取り返せる」

 

「俺たちの国が甦るんだ。誰も俺たちのことを疎まない、魔族の国に住める」

 

「明日かあ……楽しみだなー!!おばあちゃん、あたしやったよ~ 見てるかな、いえーい」

 

「今日はここに泊まろう。寝どこあるかな……」

 

「えーっ……クモの巣いっぱいあるからちょっとやだ……ねえもうかえろうよ」

 

「ねむいよぉ……だっこ……」グス

 

「ぐずるなって。疲れたのか?」ヒョイ

 

「ここ、こわい。かえろうよ……」

 

「魔王に会いたくないのか? ――を湖に沈めた奴らにも、いじめてきた奴らにも、仕返しできるんだぞ」

 

「そうだよー」

 

「…………んん……」

 

 

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353 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:48:21.82 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

* * *

 

 

カチ……コチ……カチ……

 

 

「……」

 

「……」

 

「来ないな」

 

「もう、日付け変わっちゃいそうだけど」

 

「……いや、必ず来るはずだ。待とう」

 

 

 

「それにしても……この指輪の宝石さ……これなんだろね。

 ルビー?ガーネットかな? きれいな赤色」

 

「売ったらいくらになるかな」

 

「売るなよ。王の指輪だ」

 

「……。しかし……これ、 ――の目の色そっくりだな」

 

「あー 赤だもんね」

 

「……もしかして……」

 

「……ええ?……いやー……まさか先祖? まさかぁ」

 

「……」

 

 

 

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354 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:49:15.74 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

 

カチ……コチ……カチ……

 

 

「あと……10分」

 

「あと5分」

 

「あと3分」

 

 

 

「あーーーーーーーもう早く来てよ魔王様なにやってんの!?寝坊!?寝てんの!?」

 

「遅いな……」

 

「ああっ! ちょっと指輪見て!!透け始めてる!!!」

 

「なに?」

 

「……時計のカウントが0になると同時に指輪が消滅する仕組みなのか」

 

 

 

「……あと1分」

 

 

「……どうする?」

 

「でもさ……絶対来るはずだよ!来なきゃおかしいじゃん。

 やっとあたしたち……やっと……取り戻せるって思ったのに」

 

「期待させておいて来ないなんて、ひどいよ…… 訴訟レベル」

 

 

 

「あと30秒……」

 

「29……」

 

「28……」

 

「27……」

 

 

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355 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:50:51.50 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

 

「……だめだ。たぶん魔王は復活しないんだ」

 

「じゃあどうすんの?」

 

「……きっと100年前の魔王が復活するんじゃなくて、新しい魔王が誕生するまでのカウントダウンだったんだ」

 

「いまここにいる俺たち3人の中の誰かが……魔王になるんだ」

 

 

 

 

「えーっ!?急展開!」

 

「誰が……なるか?」

 

「魔王いないの……?」

 

「ああ、いないんだ。俺か、魔女か、――がなるしかない」

 

 

 

「あと24秒」

 

「どうするジャンケンする!?」

 

「……隠し通路の魔法解除……それから指輪の宝石……」

 

「…………俺は……、――があの指輪をはめるべきだと思うんだが」

 

 

 

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356 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:56:56.35 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

 

「私……? なんで……?」

 

「魔女はどう思う」

 

「……あー、そうだね。……この中で一番あの指輪の宝石が似合うのは、やっぱ――かな」

 

「魔力も一番強いし」

 

「……でもっ竜人と魔女の方が強いし、大きいし、お兄ちゃんとお姉ちゃんだし……」

 

「お……お兄ちゃん!?今のもう一回…………いや時間があと15秒!ふざけてる場合じゃなかった」

 

「ほんとにな。――、大丈夫。あたしたちがちゃんとずっとそばにいてサポートするからね。二天王になってあげるから」

 

「……嫌なら今言うんだ。俺か魔女がなる。どうする?」

 

 

「……」

 

「……」

 

 

カチ……コチ……カチ……コチ…… 

 

 

カチ

 

 

「わかった」

 

「私がこの指輪をはめる」

 

 

魔王「私が王になる」

 

魔王「みんなを私がまもる」

 

 

カチ、コチ……カチッ。

 

 

 

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357 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:59:21.76 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

 

* * *

 

 

魔王「別のところに行こうか。ここには何もないようだ」

 

魔王「私は地下の書庫に行ってみようかと思う。魔族の言葉の本しかないから、

    勇者くんは別のところを探してみてくれ」

 

勇者「書庫?そんなものあるのか?でも、ここって戦争終結後……」

 

魔王「全て人に持ってかれたが、書庫は魔族でないと入れない封印がされていた。

    ほかにもそのような封印がされている部屋がいくつかあったんだ」

 

魔王「いまは、もう、封印自体なくなったかもしれん。世界から魔法が消えてしまったから」

 

勇者「じゃあ俺でも入……れッ!?」ズボッ

 

 

ゴシャッ バキバキ

 

 

勇者「うおおっ あぶねえ!床が抜けた!!」

 

魔王「気をつけるんだ、かなり老朽化が進んでいる」

 

勇者「ああ、全くどこもかしこもボロボロだ。先代の魔王城なのに、やっぱ時の流れには勝てないんだな」

 

魔王「……そうだな」

 

魔王「……そういえば私の先祖は、先代魔王の妹らしいのだ」

 

勇者「ふーん……  …………えっ!?」

 

魔王「頑固なところがよく似ているらしい……あと先代魔王も赤目だった」

 

勇者「……誰に聞いたんだ?」

 

魔王「先代魔王の亡霊」

 

勇者「先代魔王としゃべったんだ?」

 

 

 

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358 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/20(金) 00:02:03.97 ID:mqDbHPu0o

 

 

 

魔王「あまり亡霊の部分には驚かないのだな」

 

勇者「まあ俺も……幽霊には会ったことあるからな。話すことはできなかったけど。

    言葉の代わりにアイアンクローかけられたけど……」

 

魔王「そちらの方が驚きだな」

 

勇者「そういやあの幽霊、成仏したかな。いつの間にか消えてたが」

 

 

 

勇者「ん?待てよ、先代魔王の妹が先祖ってことは……お前も王族だったのか!」

 

勇者「じゃあこの城は……」

 

魔王「うん……実家?」

 

魔王「もうこんなに荒れ果ててしまって……何も残ってない」

 

勇者「……魔王」

 

 

魔王「でも、ここは私の家ではない。私の帰るところはちゃんとあるんだ」

 

魔王「だから早く創世主を止めなければ」

 

勇者「ああ、そうだ!お前の家はあの島の城だ!早く取り返そう!」

 

魔王「うむ、そうだなっ。私はさっそく書庫に行ってくる、後で合流し……」ズボ

 

魔王「ふぎゃーーーーーーー」

 

勇者「まっ、魔王ぉーーーーーーーー!!」

 

 

 

 

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366 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:09:42.58 ID:m9/jnbfBo

 

 

* * *

 

 

ガサガサッ

 

 

勇者(……なかなかないな……そんな簡単に行くわけないとは思っていたが)

 

勇者「もうすっかり日も沈んじまったから目も見えづらいし。

   せめて火がないと何をするにも不便だ」

 

勇者(夜になったから……影はもう地上から消えているだろう。

   また明日の朝には出てくるんだろうが……王都やみんなはどうしてるだろうか)

 

勇者「そういや、この城の付近には影がまだ出てないな」

 

 

 

スタスタ

 

 

勇者「……ああ、魔王。なんだその書の山は」

 

魔王「書庫だと暗くて読めぬから、窓のそばまで運んでいたのだ……。

   あと2往復くらいしてくる」

 

勇者「俺も行くよ。重いだろ」

 

勇者「…………………………ん!?」ピク

 

魔王「それは助かる。なかなか重くて……。勇者くん?」

 

勇者(この匂い……どこかで……)

 

勇者(どこかで……。もう少しで思いだせそうなんだが……)

 

勇者(多分……けっこう大事なこと……思い出さなければいけないことだ)

 

 

 

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367 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:11:10.43 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

勇者(うう……なんだっけ……なんだっけ!?)

 

勇者「はあ……はあ……!」

 

 

ジリ……ジリ……

 

 

魔王「ど、どうしたのだ……具合が悪くなったのか?」

 

勇者「お前……その匂い……どこに行ってたんだ……?」

 

魔王「だから、書庫だと……さっき……」

 

勇者「頼む。もう少しで……大事なことが……お……思い出せそうなんだ」

 

 

ジリ……ジリ……

 

 

魔王「勇者くん、急にどうした」

 

勇者「頼むから匂いをかがせてくれ……!」

 

魔王「本当にどうしたんだっ!?」

 

魔王「匂いって……書庫行ったから埃臭い……」

 

勇者「かまわん……!!」

 

魔王「私がかまう」

 

 

 

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368 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:16:08.44 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

ジリッ ジリッ

 

 

勇者「おい……逃げるな!!!」

 

魔王「勇者くんがこっち来るから……!」

 

勇者「暴れるな……じっとしとけ!!」

 

魔王「分かった、分かったから一旦落ち着いてくれ。

    月明かりに照らされて軽くホラーだぞ勇者くん」

 

勇者「大人しくしてりゃすぐ済む……逃げるな……!!」

 

魔王「そんな犯罪者みたいなことを勇者が言っていいと思っているのか……っ」

 

 

ガシッ!!

 

 

魔王「ひっ ひぃっ」

 

勇者「はーっ……はぁー……うう」

 

魔王「こわすぎるっ」

 

魔王「ややややめろなにをする」

 

勇者「じゃかあしい……!!じっとしとけぇ……!!!」

 

魔王「こわい!! 離せ 頼むから離してくれっ」

 

 

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369 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:18:47.21 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

魔王「ひわーーーーーーーーーーーーーーー」

 

勇者「ふがふが」

 

勇者(あっそうだこの匂いだ。詰め所の机とか書類の山積みとか思い出す)

 

勇者(どこで嗅いだんだっけ、最近なんだよな……どこだっけ?確か外……

   なんでこんなところでっていう場面だったような)

 

勇者「うーーーーん……」

 

魔王「ひえーーーーーーーーーーーーーーー」

 

魔王「馬鹿者、こういうことしてあの子に失礼だと思わんのかっ」

 

魔王「こういうことは友人にやっちゃいけないのだぞっ!」

 

魔王「勇者くんってば!聞いてるのか」

 

魔王「……やだっ……」

 

 

勇者「ハッ! ご……ごめん」

 

勇者「でも思いだしたぞ!!そうだ、あのときだ!」

 

魔王「……何が?」

 

 

 

  「あーーーーーーーーっ いたーーーーーーっ!!!」

 

 

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370 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:20:32.50 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

魔王「えっ? この声……! まさか」

 

魔女「魔王様あーーーーーーーっ!!勇者も!!」

 

魔女「よかったぁ、無事だったんだね!久しぶりーーーーーーー!」

 

魔女「大丈夫?怪我してない?元気?あたしは超元気ーーーーーーーー!!!」

 

勇者「見て分かるぜ……!魔女、無事だったのか!」

 

魔王「ま……魔女っ よ、よかった……」

 

竜人「魔王様!勇者様! ご無事で何よりです」

 

魔王「竜人……! 二人とも大丈夫だったか?怪我は……」

 

魔女「全然どこも怪我なーい!」

 

魔王「よかった」ギュッ

 

 

竜人「勇者様……」

 

竜人「魔力がなく、致命的に運動能力が低い、ほぼ荷物と言っていい今の魔王様をお守り頂いて、どうもありがとうございました」グッ

 

勇者「お前けっこうズケズケ言うなぁ……。いや、そんな礼を言われるようなことじゃないって」

 

竜人「いえ……本当に感謝しているのです。さすがは勇者様、この国の英雄ですね」

 

勇者「だから別にいいって、二人も無事でよかった」

 

勇者「……で、何故押す?ちょっとあの……竜人」

 

 

コツ……コツ……コツ……コツ

 

 

 

魔女「ここの魔王城なつかしいね。相変わらずボロボロだ」

 

魔王「魔女、ここかすり傷があるじゃないか。大丈夫か?」

 

魔女「うん、全然平気だよー。 あれ、竜人と勇者どこ行くんだろ」

 

 

 

 

 

 

371 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:23:31.48 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

勇者「手を離して頂きたいなって……その……ね」

 

竜人「そんな。まだまだ勇者様にお礼が言い足りません」ググッ

 

 

コツコツコツコツ

 

カッカッカッカッ……!

 

 

勇者「もう礼はいい!!いいよ!!お前の気持ちは十分伝わった安心しろ!!離せ!!」

 

竜人「いいえ、御謙遜はよしてください。ここで私どもが魔王様と再会できたのも、ひとえに勇者様のおかげなのです」

 

竜人「でもそれとこれとは話が別ですので」

 

 

カッカッカッカッ――ダンッ!!!

 

 

勇者「ひいいい落ち着け竜人!!瞳孔が開いてるぞ!!」

 

竜人「こんな暗闇に包まれる城の廃墟の廊下で、一体勇者様は何をなさっていらっしゃったのですかねぇ……KILL YOU」

 

勇者「待て……待つんだ、話せばわかる……」

 

竜人「分かりました。そうですよね……まさか勇者様が、あんなこと……私の目の錯覚に決まっていますよね」

 

竜人「私や魔女がいない間に、こんな暗がりで、嫌がる魔王様の動きを封じて

    息を荒げて無理やり迫るなどと言った男の風上にも置けないような所業……」

 

竜人「まさか勇者様がなさるわけないですよね! 弁解があると言うのなら今どうぞ」

 

勇者「……あれはっ、…………………いや………」

 

勇者「……」

 

勇者「……た……」

 

竜人「あ゛ぁ!?聞こえねぇんだよ!!!!」

 

勇者「しました……!!!」

 

竜人「右と左どっちがいい?」

 

勇者「右でお願いします……」

 

 

 

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372 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:29:47.97 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

魔女「おーい、こっちこっち。いたよーー」

 

姫「魔王さん!よかった、無事で」

 

騎士「お久しぶりです! 魔王さんも魔女さんもお元気そうでよかった。あれ、勇者さんは?」

 

忍「竜人さんが奥に連れてっちゃいましたが」

 

妖使い「やあ、俺もいるよ。なにやらえらいこっちゃだね」

 

 

勇者「おー、みんな生きててほんとに安心した」

 

姫「勇者……あなた右頬どうなさったの」

 

竜人「転んだそうです。この城は床が抜けやすくなっていますので、皆さまもお気を付け下さい」

 

 

魔王「よくここに私たちがいるのが分かったな。

    それに妖使いや忍、騎士がいるということは王都に行けたのか?」

 

姫「行けたことには行けたのだけど、あまり長くはいられなかったわ」

 

姫「あのあとのこと、順を追って説明します。

  魔王さんと勇者が去ったあと、私たちも健闘しましたが、影に囲まれてしまって」

 

姫「もう終わりだと思ったのですけど、急に周りの影が全て消えたの」

 

魔女「雨がね、降り出したんだよ。そしたら溶けるみたいに影が全部ざーって」

 

勇者「雨で……消えた?」

 

竜人「ええ。その間に私たちは王都に辿りつきました。ひどい様子でした……」

 

妖使い「じゃ、王都の様子は俺から説明しよう!」

 

妖使い「勇者と姫が魔王の元へ行ったあと、すぐに異変が起こった。

     なんと俺は妖術が使えなくなり、妖孤をはじめとする使い魔たちを呼びだすことができなくなった」

 

妖使い「俺だけじゃなく魔術師たちや神官たちも魔法が使えなくなったーつって大騒ぎしてたね」

 

騎士「それから国王様は大臣たちを集めて緊急会議をなさっていました。

    しばらくして、王都の上空に黒い雲が現れて、住民を避難させようとした矢先に……」

 

妖使い「城壁の向こうから影たちがわんさかやってきて、次々に王都の住民を消していたよ」

 

妖使い「まあ、勝ち目なんてなかったね。触れられた人から一瞬で消されちゃうんだから」

 

 

 

 

 

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373 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:33:26.11 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

妖使い「でもそこで雨が降って、姫が言う通り影が消えたのさ」

 

魔王「地下の扉は……?変化はあったか?」

 

騎士「いえ、一応見てみましたがやはり扉は消えたままでした」

 

魔王「……そうか」

 

 

姫「王都に辿りついて、お兄様に会いました」

 

騎士「あの人、止めたのに、剣持って前線に立とうとするんですよ。

    ほんっと……もう……しかも強いし……」

 

姫「私、王都に留まるつもりだったのですけど、もうここは危険だからってお兄様が……」

 

騎士「それで僕が護衛について、魔王さんと勇者さんに合流するために魔王城へ向かったわけです」

 

魔女「でも、迷いの森、消えてたね。白い砂漠になっちゃってた。

   せっかくあたしが素敵な森に仕立て上げたのに……」

 

勇者「素敵か? いやっそれより、森が消えていたのか?  

   俺たちが行った時には森はまだあったのに」

 

竜人「どうやらこれが創世主の本気みたいですね。私たちは今まで遊ばれていたに過ぎないと」

 

忍「お腹すきましたね。ご飯ないんですか?」

 

 

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374 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:35:27.59 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

竜人「魔王城があった城が消えてしまって……それでまた影がでて、

    追われるようにして大河を渡りました」

 

妖使い「ちょうど船があって助かった。俺カナヅチでさ!」

 

魔女「でここに辿りついたってわけ」

 

 

勇者「あの影……雨が降ると消えたり、大河を渡ってこれなかったり……」

 

勇者「水が弱点なんだな」

 

勇者「あと暗いところ……地下では、または夜には行動できない」

 

魔王「勇者くん。さっき何を思い出したというのだ?」

 

勇者「ああ。あの書とインクの匂い、どっか別の場所で嗅いだ記憶があって」

 

勇者「どこだったんだっけなってずっと考えてたんだが」

 

勇者「……影を斬った時だ」

 

騎士「そんな匂い、しました?」

 

勇者「俺は特別あの書とインクの匂いに敏感なんだ。

   机に積み重なった書類の山を思い出して、頭を抱えたくなるね!!」

 

忍「あぁ。勇者様って見るからにバカっぽそうですもんね!」

 

勇者「まあな!」

 

 

勇者「……でさ、創世主が劇だ脚本だなんだと言ってただろう」

 

勇者「……ちょっと思ったことが、あるんだけどさ。笑わないで聞いてくれるか」

 

魔王「何だ?」

 

 

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375 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:36:06.52 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

勇者「影は……黒インクなんじゃないかって」

 

勇者「だから雨で消えるし、川は渡れないんじゃないか」

 

勇者「……で、影に食われると俺たちは消える……」

 

勇者「あと、あいつが『主役』とか『悪役』とかとか言ってた」

 

勇者「ってことはだ」

 

 

パラパラ……

 

 

勇者「ここに、魔王が書庫から持ってきた本が山積みになってるわけだが」

 

勇者「俺たちはこれといっしょなんじゃないか……?」

 

姫「どういうことです?」

 

勇者「……この世界は、一冊の本なんじゃないか」

 

勇者「創世主は、その作者……」

 

 

 

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376 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:37:44.71 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

勇者「……っていうのを、ちょっと思ったんだけどさ」

 

勇者「はは……さすがにあり得ないよな」

 

 

魔女「…………きゃはははははは!なにそれおもしろーい!

    勇者って想像力あるんだねー、それ結構うけるよー」

 

竜人「すみません……強く殴りすぎてしまいましたかね、脳震盪か何かでしょうか……大丈夫ですか?」

 

騎士(やっぱ竜人さんがやったのかアレ)ゾッ

 

勇者「そうだよな、流石に妄想じみてるよな!ははは、忘れてくれ!」

 

 

 

 

魔王「いや……それほど荒唐無稽でもないかもしれない」

 

魔王「『創世記』によると空や海、太陽も星も雪も月も……命も死も、全て黒い水からつくられたらしい」

 

魔王「0日目に白い大地と黒い水を用意して、それから3日間で世界を創造したのだ」

 

魔王「白い大地というのが本のページだとして、黒い水がインクだとしたら、

   万物黒い水から生み出されたというのも納得がいく」

 

魔王「それから、ワールドエンドとふざけた立て札があったあの白い砂漠……

   あれは砂ではなく白い紙片で構成されていたのだ」

 

魔王「消された世界は白紙に戻される……インクで書かれる前の白紙に」

 

 

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377 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:39:09.83 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

魔王「間違えてしまった箇所は、インクで塗りつぶす」

 

魔王「そうしたら本に何が書いてあったとしても、

    それがたとえ『山』という文字でも『人』という文字でも」

 

魔王「何が書いてあったかはもう読めなくなる……存在が消されてしまうのでは?」

 

魔王「だから本当に影がインクだとしたら、影に呑まれると消えるという不可解な現象も分かる気がする」

 

 

魔女「なるほどね。確かに、分かる気がするなー。説得力があるよ」

 

竜人「ええ、信憑性がありますね。さすが魔王様、私はその説を信じますよ」

 

勇者「お前らほんっとブレないね」

 

 

 

騎士「……確かにそう言われるとこれまでの謎に説明がつくような気がしますが。

   しかし自分たちが本の中の存在というのは、実感がないというか」

 

姫「いきなり言われてもそう簡単に理解はできないけれど……」

 

姫「でもそう仮定して対策を考えた方がよさそうね。でないと先に進めないわ」

 

 

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378 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:40:58.82 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

忍「おなかすいたなぁ……」

 

妖使い「あははは!いやあ、おもしろいこと考えるな!」

 

 

妖使い「いいね、むしろそういうストーリーの本書いて売ればいいんじゃないのかい?あんまり売れなさそうだけど」

 

妖使い「俺もそういう馬鹿みたいな話好きだよ。信じることにする」

 

妖使い「……でもさ」パラパラ

 

妖使い「そうだとして、どうやって創世主を倒すんだい?」

 

妖使い「この本の登場人物も、そっちの本の登場人物も、普通本から出てきて作者を倒しに来たりしないだろ」

 

妖使い「そんなことになったら大混乱だ」

 

 

 

姫「……その手段を見つけなければいけないのね。

  あまり時間は残されていないわ。急がないと」

 

姫「……ふう」

 

騎士「急がなければいけないのは承知ですが、少し休憩しませんか?

   僕たちはずっと昨日から動きっぱなしで……」

 

魔女「そうだよ~ もう疲れちゃった。雨も降ったからまだ服濡れてるし。かわかしたいな」

 

竜人「一旦休憩した方が効率よさそうですね」

 

勇者「じゃ休憩ということで」

 

 

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379 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:42:21.66 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

忍「私もお腹すきました……あっ!?こんなところにおいしそうなハムがぁ」ガブ

 

勇者「いてえーっ!! 馬鹿そりゃ俺の腕だ!!離せ!」

 

忍「うへえ、このハム固い……若ー、何か切るもの持ってきてください」

 

妖使い「あいよ。刀」

 

勇者「おめーも渡してんじゃねえよ!護衛どうにかしろ!!」

 

 

魔王「妖使い。ちょっと話がある。こちらに来い」

 

妖使い「ん?いいけど」

 

 

 

魔王「……魔族が人間になってしまったのは、本当に君のせいではないのだろうな」

 

妖使い「あぁ、妖が人になってしまったら俺の商売あがったりだよ」

 

妖使い「君もあんなに強い魔力を持っていたのに、人になってしまって残念だ。チッ」

 

妖使い「俺じゃないよ。自分の首を絞めるような真似、するわけないじゃん」

 

魔王「そうか。妖を人にする秘術がどうのこうのと言っていたから、君が何かやったのかと思った。

   疑って悪かったな」

 

妖使い「やろうと思ってもできないって」

 

妖使い「大陸の魔族が何人いると思ってる?それを全部人に変えるなんて、俺には絶対無理だよ」

 

妖使い「俺はむしろ魔王がやったのかと思ったけどね」

 

魔王「なに?」

 

妖使い「だって、人間になりたいと少なからず思ってたのは君じゃ?」

 

魔王「わ……私がそんなことするわけないだろう。大体方法も知らん」

 

 

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380 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:43:07.09 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

妖使い「無意識で魔法を使ったことは?」

 

妖使い「気づいたら周りが自分の魔法で大変なことになっていたことは?」

 

魔王「それは…………滅多にないが」

 

妖使い「じゃあ稀にあるってことだろう」

 

妖使い「君の心の底に隠していた願いが、無意識に魔法となって暴走したんじゃないのかなぁ」

 

妖使い「君だけじゃなくほかの魔族や人間も巻き込んで」

 

妖使い「魔王ほどの魔力があれば不可能でもないんじゃないの」

 

魔王「まさか……そんなはずは」

 

妖使い「ないって言いきれるか?」

 

 

妖使い「もし魔法がこの世界から消えなかったら、もっと被害は少なかっただろうね」

 

妖使い「……」

 

妖使い「君がやったんじゃないのか? 魔王」

 

魔王「……」

 

魔王「……わ……私が?」

 

 

 

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381 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:43:51.94 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

忍「若ーーーっ どこ行ったんですか?ご飯ですよ!!」

 

妖使い「あ、呼ばれてる。じゃ、俺は先に戻るから」

 

魔王「……」

 

 

 

 

 

魔王(私が?)

 

魔王(……人になりたいと……少しは思ったけど、本当に一瞬だけで、そんな……)

 

魔王(……)チラ

 

 

魔王(鏡……)

 

魔王(耳が人と同じ形。八重歯も尖ってない。翼も生えない)

 

魔王(目の色が赤ではない。よくある普通の色……人と同じ色)

 

魔王(人間……。同じ……)

 

 

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382 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:44:37.77 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

魔王「……」

 

 

勇者「あれ、魔王は?魔王どこに行った?」

 

忍「さっき若といっしょにいましたよね?探しに行きましょうか?」

 

 

魔王(……そうだな、私は人になりたいと確かに思ったことがある)

 

魔王(でももう彼と彼女の幸せを見まもると決めた)

 

魔王「…………こんなことになってしまったのが私のせいなら

   私がリスクを冒してでも解決しなければ」

 

 

 

魔王(冥府に行かないと)

 

魔王(扉を開けに)

 

 

 

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383 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:45:34.27 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

ガサガサ……

 

 

 

魔王(魔女の荷物……確かここにさっき置いていた)

 

魔王(あった……)

 

 

 

魔王「…………」

 

魔王「魔女は薬でさえ不味くつくるのだから、毒は相当な不味さなのだろうな」

 

魔王「……背に腹は代えられん……いくか……」

 

魔王「………………っ」グイッ

 

 

ゴクッ ゴクッ ゴク

 

 

魔王「くっ……ぐ……この世のものとは思えないほどの不味さ……!」

 

魔王「う……うでをあげたな、まじょ……」

 

 

 

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384 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:46:34.85 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

* * *

 

 

魔女「ね、魔王様ほんとどこ行っちゃったの?ご飯だから呼んできて」

 

勇者「探しに行ってくるよ」

 

妖使い「さっきあっちの部屋で俺と話してたから、その部屋にいるんじゃない?」

 

 

 

勇者「魔王?」

 

勇者「あれおっかしいな。いない……あいつどこ行った?」

 

勇者「魔王!」

 

 

 

ガタッ

 

 

 

勇者「? 今の音……あっちか?」

 

勇者「……」ギィ

 

勇者「……!? おい!!どうした!?」

 

魔王「う……」

 

 

 

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385 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:47:27.79 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

勇者「しっかりしろ!大丈夫か……!?何が……」

 

 

カラン

 

 

勇者「! この瓶……魔女の?へったクソなドクロマークついてるから間違いない」

 

勇者「ま……まさか、あの洞窟で言ってた冥府がどうのこうのってやつを?」

 

勇者「馬鹿なにやってんだよ!!あんなの信じる奴があるかっ!!」

 

勇者「薬……!」

 

魔王「勇者くん……案ずるな。私は必ずもどってくる……」

 

魔王「必ず私が……なんとかしてみせる……!!」

 

魔王「だから……君はここで……っ ここで……」

 

魔王「……まってて………… ぅ……ぐ」

 

魔王「……」

 

勇者「魔王!!おい……うそだろ。目開けろよ」

 

勇者「脈が…………止まった」

 

勇者「………………………………っ」

 

 

 

 

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386 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:48:19.77 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

勇者「分かった」

 

勇者「もう冥府でもどこでも行ってやるよっ!!」

 

勇者「勝手に一人で決めやがって!!」

 

勇者「毒薬……!くそ、全部飲み干されてるか」

 

 

 

勇者「……っ」

 

勇者「許せっ」

 

 

 

 

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387 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:49:13.37 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

* * *

 

 

魔女「……勇者も遅いなあ」

 

忍「ミイラ取りがミイラ?」

 

騎士「何かあったのでしょうか。僕も探しに行ってきます」

 

姫「もうこの際皆で行きません? なんだか……一人ずつ姿を消すみたいで怖いわ」

 

魔女「そして誰もいなくなった」

 

姫「やめて?」

 

 

 

 

魔女「やーっと服乾いた。これだから雨ってきらい」

 

竜人「でもそのおかげで私たちは間一髪で助かったんですよ」

 

姫「……そのことなのですが、私はちょっと不思議です」

 

姫「創世主は言わば最上位の神でしょう」

 

姫「なら、雨なんて降らさなければいいのに。それくらい簡単にできそうなものです。そう思いません?」

 

竜人「確かに不自然なところは多々ありますね。

   そもそも、影などまどろっこしい手段とらずに、一瞬で世界など消せそうなものですが」

 

忍「……神様にもできないことはあるんじゃないですか?」

 

妖使い「ま、そのおかげで今俺たち助かってるわけだけど。神が万能じゃなくて助かったね」

 

妖使い「そんなんだったらすぐ終わってしまうよ」

 

 

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388 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:50:06.07 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

騎士「そうですよね。本当九死に一生を得たって感じ……」ギィ

 

騎士「でぇーーーーーーーー!? 勇者さん!!魔王さん!!どうしたんですかーーー!?」

 

竜人「なっ!? これは……!? 魔王様!勇者様!しっかりしてください!!」

 

忍「し、死んでます。心臓が動いてませんよ」

 

姫「どうして……?影が来たというの? ……ん?これは?」

 

魔女「…………!?」

 

魔女「あ……あ……あたしのつくった極悪ゲロニガ毒薬…………」

 

魔女「ひとつだけまだ荷物の中に残ってて……ちゃんとしまったはずなのに、なんで魔王様の手にあるの?」

 

騎士「毒薬……空ですね」

 

魔女「……まさか、二人は……毒を飲んで?」

 

竜人「魔王様も勇者様も、外傷は見られません。十中八九そうでしょうね……」

 

 

 

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389 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:51:02.30 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

姫「一体何があったというの?これは……まさか二人が自ら命を断つなど」

 

妖使い「……」

 

妖使い「そんなメンタル弱い二人には見えなかったけど、いろいろ参っちゃったのかな」

 

妖使い「自殺か……悲しいな」

 

忍「まじっすか……若、どうしましょう」

 

 

 

妖使い「どうするもこうするもないよ。どうしようもない」

 

 

 

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390 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:52:05.21 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

* * *

 

 

冥府

 

 

 

魔王「……うーーー……。 ハッ」

 

魔王「ここはこの間来た……そうだ、冥府だ」

 

魔王「ゲホゲホ……まだ口の中に毒のあの味が残ってて、不愉快極まりない」

 

魔王「……よし、まずはあの鍵守という子どもを探して、扉を開けないと」

 

魔王「頑張ろう」

 

 

 

ザカザカザカ

 

 

魔王「! 向こうから人影が」

 

魔王「鍵守かな」タッ

 

魔王「……」

 

魔王「……?背が高いな。あの子どもではないのか……?」

 

 

魔王「!?」

 

魔王「勇者くん……!?」

 

勇者「てめぇぇぇ……」ザカザカ

 

魔王(しかもすごく怒っている)ギク

 

魔王(こ、こわい)ダッ

 

勇者「逃げるな」ダッ

 

 

 

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391 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:53:16.06 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

勇者「お前ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

勇者「なにしてんだよっ!!!!!なに毒飲んで自殺計ってんだよ!!!!」

 

勇者「なんでお前が死ぬところ二度も見にゃならんのだ!!!!」

 

魔王「何故勇者くんまでここに……」

 

勇者「冥府に来るって決めたなら俺に一言断ってからにしろよ!!!!俺も行くわ!!!」

 

勇者「どこでもいっしょに行ってやるよ!!!!!勝手に一人で行くんじゃねえよ!!!!」

 

魔王「……」

 

魔王「……一人でできる!ちゃんと覚悟はしてきた。私一人で解決して見せる」

 

魔王「……何故ここに来たのだ!この大馬鹿者!全くもう!」

 

魔王「…………もし創世主を何とかして、世界滅亡を止められたとしても」

 

魔王「冥府に一度来てしまった以上、もうあちらの世界には戻れないかもしれない……」

 

魔王「……ばかか……君は。 どうするんだ……」

 

 

 

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392 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:56:14.13 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

勇者「お前こそ馬鹿か!!!ほんっと馬鹿!!!」

 

勇者「もう一度あんな真似してみろ、次は絶対許さないからな!!!!」

 

勇者「ふざけんな!!!!!ここに来たら戻れないかもしれないのはお前も一緒だろ!!!」

 

勇者「大体、今の魔王に何ができるんだよ。戦闘力-5000だろ!!!!

   なのになんでそんな自信満々なんだよ馬鹿かよ一人で何ができんだよ!!!」

 

魔王「できるもん!! 私に全部まかせてくれれば大丈夫なのにっ!ばかっ」

 

勇者「まかせられるかっ!!!だからっ意地張らないで頼れって言ってんだよ!!!!」

 

勇者「このやろーーーーーーーーーっ!!!!心臓止まるかと思ったわ!!!今もう止まってるけど」

 

勇者「俺の気持ちも ちったぁ考えろ この底なしアホ魔王ーーーーーーーーーっ!!!!!」

 

魔王「ぃ痛いっ 頬のびるっ」

 

魔王「……うう……。 ……ん? ……勇者くん……泣いてるのか」

 

勇者「は????????? 泣いてちゃ悪いか?????」

 

勇者「泣いちゃ悪いってのかよ!!!!!誰のせいだと思ってんだよ」

 

勇者「お前だよ!!!!!!!!」

 

勇者「何か言うことは?」

 

魔王「…………すまなかった」

 

勇者「何か言うことはっ!?」

 

魔王「えっ。 ご……ごめんなさい」

 

勇者「ちげーーだろ!!!もうしませんだろ!!!」

 

魔王「もうしませんっ」

 

 

 

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393 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:58:47.23 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

勇者「勘弁しろよ……ハァ」

 

魔王「……しかし、どうやって冥府に?」

 

勇者「どうやってって…… け、剣だよ」

 

勇者「剣でこう腹をぐさっとな。ハラキリだ。ハラキリ……痛かったぜ」

 

 

スタスタ

 

 

鍵守「えっ……剣でしんじゃったの?」

 

鍵守「どくの方が、いろいろよかったんだけどな……」

 

勇者「だれだ?」

 

鍵守「冥府の番人だよ……。あなたが勇者」

 

鍵守「もし世界崩壊を止めることができたら、ボクがせきにんもってふたりを元のところにかえします」

 

鍵守「そのとき、毒の方がつごうよかったんだけど……」

 

魔王「それは困ったな。どうしよう……勇者くんが剣で死亡してしまったのだが」

 

勇者「えっと、いや……剣という名の毒死かもしれない」

 

魔王「剣で死んだ場合、どうなる……?生き返ることは無理なのか?どうしよう……」

 

勇者「あのさ、もしかして剣じゃなくて毒だったかも……」

 

魔王「でも毒は私が飲みほしたのだ。それはあり得ないではないか」

 

鍵守「剣などの外傷でしんだばあい、いきかえったさいに

   のたうちまわるほどの痛みをともないます」

 

 

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394 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 20:59:48.19 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

鍵守「いきじごくといっていい痛みを経験することになります……

    もういっそころしてくれと言いたくなるような いたみが」

 

魔王「…………」

 

勇者「そ、そんな青ざめなくても、俺は大丈夫だ。

    いや、剣でやればよかったなと今思うが、あのときは咄嗟に……」

 

勇者「まあそんなことは創世主をどうにかしてから考えようぜ!!

    で鍵守、俺たちは何をすればいい?早く話してくれ!!」

 

 

 

鍵守「月へ」

 

鍵守「月にのぼって」

 

魔王「月?」

 

鍵守「あそこにみえるでしょう」

 

鍵守「ここには、いつも月がありません……それは月がセカイをつなぐトビラだから」

 

鍵守「いつかくるかもしれなかった日のための……今日のためのトビラ」

 

鍵守「ほんものの、トビラです……」

 

鍵守「彼に会いにいってね」

 

 

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395 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:00:36.68 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

鍵守「カギは、これ」

 

鍵守「このセカイでボクだけがもっている、あちらのセカイのもの」

 

勇者「……これ、おもちゃの鍵じゃないのか?」

 

鍵守「そうでしゅ……かんだ。そうですよ」

 

 

鍵守「……このセカイをすくってください……さあトビラをあけて」

 

鍵守「勇者。魔王」

 

 

 

カチャ……。

 

 

バタン。

 

 

 

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396 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:01:06.26 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

 

お兄ちゃんなんかだいきらい。

 

 

 

 

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397 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:01:36.57 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

『創世記』

 

 

 

今日は雨が降っていた。

空がどんよりと曇っているのはいつもだけど、雨が降るのは久しぶりだ。

 

家に帰ると汚れた窓に妹が張り付いて、外の雨を見ていた。

体が冷えるから窓から離れろと言ったのに聞かない。

結露して曇ったガラスに指で書いた自分の名前を得意げに見せてきたが

綴りが2か所も間違っている。

 

 

固いパンを二人で食べた後は、いつも通り妹に読み書きを教える。

僕も学校に行ったことはないからそんなにうまい方ではない。

街の外れにあるボロい教会のイカレシスターに教えてもらったんだ。

 

だけど病気で滅多に外に出れない妹は、歩いてほんの少しの教会にだって気軽に行くことはできない。

だから僕が教えてやる。

 

 

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398 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:02:17.59 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

もうすぐ妹の誕生日だ。

かと言ってケーキやおもちゃを買ってやれるわけではない。

そんな風に余分に使える金などないに等しい。

 

でもできれば妹の欲しいものをあげたい。

家から出られず、ポンコツの体をもって生まれてしまった妹の願いを叶えてやりたい。

 

訊くと本がほしいと言った。教会にあるような本。

僕が仕事に行っている間に、それで読み書きの練習をしたいってさ。

 

本なら教会にたくさんあった。

みんなが「不必要なもの」と考える本だ。

みんなは経済の本とか、数字の本とか、そういうのが「必要な本」で、

それ以外の「不必要なもの」や「ゴミ」をあのシスターは教会に集めている。

 

でも教会にあるのは、ページが抜けおちていたり、汚いシミがあるようなのばっかりだったから

できればきれいな新品の本をあげたい。

 

明日仕事帰りに本屋に行ってみよう。

 

 

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399 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:03:06.41 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

― ― ― ― ―

 

 

本はどれも高価だった。

一番値段が安いのでも、買ったら今月の薬に使う金がなくなってしまう。

 

仕方なくノートとインクを買った。

白いノートと黒いインク。二つあわせても本の半分の半分の値段。

 

帰り道、ゴミ置き場に、誰かが捨てたオモチャの箱があった。

まだそんなに汚れてもいないし、壊れてもいない。

小さな鍵も中に入っていた。

僕はそれも持ち帰ることにした。

 

 

妹の、7歳の誕生日。

 

 

オモチャの箱も鍵も、一生懸命掃除をするとなかなかきれいになった。

でもこんなものしかあげられなくて悲しくなる。

 

そんなことをしている間に妹が目を覚ました。

おめでとうと言うと、ありがとうと笑った。

 

 

 

 

本が高くて買えなかったと言うと、謝られた。

「べつにいいよ。ごめんね」

代わりにいっしょに物語をつくって、それを僕が本にすると言うと

そっちの方がおもしろそうだと言ってくれた。

 

 

 

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400 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/23(月) 21:04:15.53 ID:m9/jnbfBo

 

 

 

― ― ― ― ― 

 

 

どんな世界がいいだろうか。

きれいな空があるといい。

 

この街は僕たちが生まれるずっと前から灰色の雲に覆われている。

でも本当は、雲の向こうには青い空があるそうだ。

雲がなければ、夜には宇宙の色がそのまま見えるそうだ。

 

空気がもっときれいなら、雲も消えるだろうし、妹ももっと楽に息をできるはずなんだけどな。

 

 

それから海。

この惑星の半分以上を覆っていた塩水。

写真でしか、見たことない。

 

 

「いつか行ってみたいな。きっと街の外の砂漠を抜ければ、海があるのかもしれない」

 

「いきたいね……」

 

「そこにおかあさんとおとうさんもいるかもね」

 

 

青い空の下、青い海の中、家族4人でいる様子を思い浮かべた。

幸せな光景だった。

303 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:34:50.91 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

* * *

 

 

勇者「全ての魔族を人間に変わった……で俺も魔法が使えなくなったと」

 

勇者「で、この町に滞在していた神官や魔術師も例外なく魔術が使えなくなっていた」

 

勇者「つまりこの世界で魔法を使える者はだれ一人としていなくなってしまったわけだ」

 

姫「そんなことができるのはやはり神しかいないのでしょうね」

 

魔女「じゃああいつ倒せてなかったの? だっる」

 

竜人「となると妖孤さんが視た、間もなく世界滅亡というのも信憑性がありますね」

 

勇者「……すぐ王都に知らせに行きたいが、転移魔法も使えなくなってるんだよな。

   ここからじゃ馬を走らせても最低3日はかかる」

 

魔王「なんとかしてまた創世主に会えないのだろうか。

   王都の地下深くに扉はあったのだろう?」

 

魔王「……時間はかかるかもしれないが、王都に行くべきだと思う。

   扉が王都の図書室地下にあったのは、偶然ではないと思うのだ」

 

魔王「可能性があるとしたらそこだろう」

 

魔女「そだねー。こっちのことはグリフォンとか魚人が色々やってくれるみたいだし

   あたしたちは王都に行こっか」

 

勇者「ああ。行こう!」

 

竜人「では馬を用意してきます」

 

 

 

竜人「あの、姫様?」

 

姫「はいっ!?」

 

竜人「私は何かあなたに無礼なことをしてしまったのでしょうか?」

 

姫「いえ!!そんなことはありませんわ!!私はいたっていつも通りです!!」

 

姫「さあ早く王都に参りましょう!!!」

 

勇者「気にするな竜人。俺たちが悪いんだ……」

 

魔王「……すまんな」

 

 

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304 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:36:31.02 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

パカラッ パカラッ パカラッ……

 

 

魔女「ひー 馬なんて乗るのいつぶりだろ。箒の方がいい~」

 

勇者「人間になったって言うが、あんまり外見的には変化はないな。

   どんな感じなんだ?何か不都合はないのか?」

 

竜人「不都合ありまくりですよ!耳も全然聞こえが悪いし、視力もこんなに衰えるなんて」

 

竜人「おまけに素手でテーブル握りつぶすこともできなくなってしまいましたし」

 

姫「できてたの!?」

 

勇者「背筋がいま凍ったぜ」

 

魔女「なんかもどかしい感じだよ。今まで普通にできてたことができないってさ」

 

魔女「でもこれが人間なんだねー 君たちっていつもこんな感じなんだ」

 

魔女「人間って超不便だね!君たちいままでよくこんなんで生きてこれたね!すごい!」

 

姫「そこはかとなく貶されてる気分よ」

 

 

魔王「…………」

 

勇者「魔王の目の色が赤じゃなくなると、なんか変な感じだな」

 

魔王「……ああ」

 

 

 

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305 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:38:30.08 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

勇者「……あのさ、こんなときに何なんだけど、この間の王都でのことは……」

 

魔女「おわーっ!? なにあれ!?」

 

魔王「……! あれは……王都の方向ではないのか?」

 

姫「ええ、そうよっ 上空に黒い雲がどんどん広がっていくわ……!」

 

姫「王都に何かあったんじゃ……!」

 

勇者「まじでやばい香りがするな!!」

 

竜人「急ぎましょう」

 

 

 

魔女「おわーっ!? なにあれ!?」

 

勇者「今度は何だ!?」

 

魔女「見てよ向こうの森がどんどん黒くなって溶けてくよ」

 

魔女「空もさあ……だんだん全部灰色になってくし……」

 

魔女「やーんこわーい!」

 

竜人「誰相手にぶりっこしてんですか?意味ないですよ」

 

魔女「うざ」

 

勇者「……。……なあ、なんか聞こえないか?」

 

姫「え?いえ何も」

 

 

ゴゴゴ……ゴゴ……ゴゴゴゴ……

 

 

勇者「いややっぱり何か聞こえますって!!それに地震がっ!!」

 

馬「ヒヒーン」

 

姫「きゃっ しかもかなり大きいわ!皆さん気をつけて!」

 

魔王「それどころが地面が割れていっている」

 

 

ビキビキビキッ!

 

 

魔王「い、急げ。裂け目がどんどん大きくなっていっている。

   このままでは馬でも先に進めなくなるぞ」

 

勇者「なんだこの世紀末な風景は!駆け抜けるぞ!!」

 

魔女「いえっさー! しゃーー行くぞーーーー!!」

 

 

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306 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:39:43.14 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

ズゴゴゴゴッ……!! バキッ!!

 

 

魔王「……!?」

 

馬「ヒヒーン!」

 

魔王「くっ!」

 

 

勇者「魔王が地裂に馬ごと呑まれたーーーーーーーーっ!!」

 

魔王「いや案ずるな、馬はこの際救出困難だが、私は飛べる」

 

魔王「服が破けるが仕方ない……!」

 

竜人「魔王様いまあなた人間でしょう!飛べませんよ!!」

 

魔王「え? ああそうだったな」

 

魔王「……落ちるーーーーーーーーっ」

 

勇者「魔王!!」ガシッ

 

 

魔王「ぜえはあ……」

 

魔女「二人とも大丈夫?」

 

勇者「ああ無事だ。しかし困った」

 

勇者「さっき地面に走った亀裂が大きすぎて、これじゃ俺も魔王もそっちにすすめない」

 

竜人「二分されてしまいましたね。別の道を探されては?」

 

魔王「! 竜人後ろ!何か来るぞ!」

 

魔女「げっ! 山の上から黒い何かがうじゃうじゃ来てるけど、なにあれきもい」

 

魔女「あれが……影?」

 

 

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307 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:41:04.61 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

姫「なんて数……。あの山の向こうには王都があるのに……

  あちらからやってきたということは、王都はもう……!?」

 

姫「お兄様……」

 

勇者「くそっ やっぱり出やがったか!気をつけろ、あいつらに触れると消されるぞ」

 

勇者「おまけに斬っても斬ってもすぐくっつく。さらにあの数……

   俺たちが以前戦ったときより何倍も多い……」

 

魔女「不利すぎて笑える」

 

勇者(前は魔王があの魔法を使ったおかげで難を逃れたが……いまは……)

 

勇者(もしかして皆が魔法を使えなくなったのはそのためか……?)

 

竜人「……王都に行くためには、どのみちこの方面を進まなければなりません」

 

魔王「しかし、あんなのを相手取るのは無茶だ!逃げ…… あっ」

 

魔女「あたしたちは後退できないんだよねー」

 

魔王「でも……」

 

 

竜人「こうなっては仕方ありませんね。

   勇者様。魔王様を連れて引き返してください」

 

勇者「えっ!?」

 

魔女「あの島の魔王城に行ってみたらいいんじゃない?

   昔切り離した魔力があるでしょ。試してみればー?」

 

魔王「何を言っている。私も戦うぞっ」

 

魔王「弓を持ってきたのだ。これならこちらからでも援護射撃ができる」

 

魔女「じゃ、試しにそこの木に向けて放ってみて」

 

魔王「他愛無い」バシュッ

 

竜人「はい。全然違う方向にいる私の額に飛んできましたね」パシ

 

勇者「だめじゃねーか!!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

308 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:43:46.48 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

 

竜人「魔王様……こんなことを申し上げるのは大変心苦しいのですが」

 

竜人「今のあなたは戦力外です。むしろマイナス要因です。足手まといです」

 

魔王「な……な……っ」

 

魔女「援護射撃って言うけど、それじゃ敵にとっての援護になっちゃってるよ。

    普通の人間の戦闘力を10としたら、魔力なしの魔王様は-5000だよ」

 

魔王「ふ、二人して……そんな風に思っていたのかっ」

 

竜人「ですから、ここは私たちにまかせてください。さあ早く勇者様、魔王様を連れてってください」

 

魔女「おとなしく勇者に守られててくださいねー」

 

魔王「いやだ。私も戦う!」

 

魔女「でもいまキングオブ無力じゃん」

 

魔王「ち、ちがうもん。 というかさっきから魔女は私に対して失礼すぎるぞっ」

 

魔女「てへ」

 

 

勇者「だが竜人と……まあ、魔女はともかく、姫様は!?」

 

魔女「あれ?あれあれ?あたしはいいんだ?」

 

姫「私は何としてでも王都に戻ります! 大丈夫、心配しないで。

  魔王さん、その弓を私にしばらく貸していただけます?」

 

魔王「……う……分かった。勇者くん、これを向こうに投げてくれないか」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

309 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:45:02.40 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

姫「ありがとう。大切に使うわ」

 

姫「さあ早く行って!影はもうすぐそこまで来ています。

  そんな顔をなさらないで。私も竜人さんも魔女さんも、こんなところで消えたりなんかしませんわ」

 

竜人「必ずまた会いましょう」チャキ

 

魔女「またね、魔王様、勇者」

 

勇者「……絶対その言葉忘れるなよ!信じてるからな!!」

 

魔王「竜人っ……魔女……姫……」

 

勇者「……のれ、魔王。行くぞ!」

 

 

 

パカラッ パカラッ パカラッ……

 

 

 

姫「行きましたね」

 

影「……」

 

影「……」

 

竜人「……これが創世主のつくりだした影ですか」

 

魔女「はー、斧持ってきといてよかったー」ドカッ

 

姫「斧て」

 

竜人「昔から、もしいるのなら神とやらを一度思いっきりぶった斬ってみたかったんです」

 

魔女「ちょうどいいじゃん、こんなにいるし。ダイエットになりそう」

 

魔女「最近体重がちょっと増えて困ってたんだよ ねっ!!」

 

 

ゴシャッ!!

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

310 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:45:54.18 ID:+KF7K+uvo

 

 

――――――――――――――――

――――――――――――

―――――――

 

 

姫「はあ……はあ……はあ……」

 

姫「聞いていたとおり、全然攻撃が通用しないのね。いやになるわ」

 

竜人「全くですね」

 

魔女「はーっ……絶対これ3キロ痩せた」

 

魔女「……けど……意味ないね……」

 

魔女「追い詰められちゃった……」

 

竜人「……」

 

姫「ですね……」

 

 

魔女「王都に行くのは……ちょっと無理そうかな」

 

姫「……お兄様に会えないのは残念ですが、

  きっと勇者と魔王さんがこの世界を救ってくれると……私、信じています」

 

竜人「そうですね……」

 

竜人「残った彼らがいつか幸せになってくれれば、私たちも報われるというものです」

 

魔女「あたし……魔王様にも竜人にも姫様にも勇者にも……みんなに会えて楽しかったよ……っ」

 

魔女「ずっとふざけてばっかだったけどさ……いままでありがとね」

 

姫「……魔女さんっ 後ろ!!」

 

竜人「魔女……!!」

 

魔女「もう……悔いないよ」

 

魔女「……先いってる」

 

 

 

 

 

ポツ……ポツポツ

 

 

ザァァァァァ……

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

311 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:47:24.08 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

  ザアァァァァ……

 

 

勇者「チッ 雨か。ついてない……」

 

勇者「魔王城に行けばって魔女が言っていたが、あれは?」

 

魔王「……魔王城には、昔私から切り離した魔力が保管してある。

   勇者くんが王都で処刑されそうになった時に、島の結界を維持するために切り離したあれだ」

 

勇者「ああ……そういえばあったな」

 

魔王「魔法が使えなくなったことについて……移動中色々と考えてみたのだが」

 

魔王「私が人間になったことで、魔力を魔法に変換させて放出することが

   不可能になったのかと思ったが、どうも違うようだ」

 

魔王「魔力そのものが私の体からなくなっている」

 

勇者「えーと……? つまり!?」

 

魔王「つまり蛇口がなくなったのではなく、水そのものがなくなった」

 

勇者「なるほど!」

 

 

 

魔王「本来、量や強さは異なれど、魔族だけでなく人間も魔力は保有しているのだ。

   だから人間の中でも神官や魔術師のように魔法を使う者は存在する……」

 

魔王「魔族も人も、体内の魔力が枯渇すれば死んでしまうはずだから……

   私も魔力がないことに気づいたときは驚いたが」

 

魔王「世界の仕組みそのものも、彼は変えてしまったらしいな」

 

魔王「……」

 

勇者「もし魔王城に切り離した魔力が残っていたら、魔法がまた使えるようになるってことか」

 

勇者「じゃあとにかく魔王城に向かおう。そしたら…… ん? どうした?」

 

魔王「……」

 

魔王「もしかしたら最初からなかったのかもしれないな」

 

魔王「魔法も何もかも……」

 

 

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312 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:50:28.45 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

迷いの森

 

 

魔王「森が……」

 

勇者「ボロボロだな。まるで木が蝋みたいになってる」

 

魔王「あんなにきれいな森だったのに」

 

勇者「食人植物や毒キノコが蔓延ってなけりゃな」

 

魔王「それは昔、人の侵入を阻むために魔女の趣味で植えたものだ。

    和平を迎えてからは駆除しただろう」

 

勇者「やっぱり魔女かよ!この森でそれらにどれだけ苦しめられたことか!」

 

勇者「まあいい!!もうすぐ森を抜ける、そしたら海だ!魔王城はもうすぐだぞ!!」

 

勇者「……雨も上がったし、これで船をこぐのも楽になるな」

 

 

 

勇者「ほらもう海が見えて……」

 

勇者「……ん?」

 

勇者「あぁ……!? なんじゃこりゃ……」

 

 

ガサ……サ……ガサ……

 

 

勇者「ここは……海のはずだったよな。ここからは城がある孤島が見えていたはずだ」

 

勇者「昔、確かにここに立ってその風景を見たはずなんだ」

 

 

魔王「砂漠……?」

 

魔王「白い砂漠……」

 

 

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313 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:54:02.78 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

勇者「……いや砂じゃないぞ。なんだこれは……?」

 

勇者「紙片……? 紙片が積もってるのか……?」

 

 

勇者「……こっちに立て札があるぞ」

 

 

《ワールドエンド 侵入禁止》

 

 

魔王「…………」

 

魔王「エンドって……この先には魔族がいる島があるのに」

 

魔王「みんなが暮らしてる島があるのに……っ」

 

魔王「誰が……私の許可なくこんなものをここに置いたんだ!」

 

勇者「……」

 

 

魔王「まもれなかった……」

 

魔王「私が絶対まもらなくてはいけなかったのに……」

 

魔王「みんな……みんなごめん……」

 

 

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314 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 22:58:41.55 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

勇者「……」

 

 

ズズズ……

 

 

勇者「!! まさか……また影か!もうこんなところまで」

 

勇者「魔王!馬に乗れ、ここを離れるぞ!!」

 

魔王「……」

 

勇者「行くぞ!」グイ

 

魔王「……でも、もう行くところなんてない……」

 

魔王「もう逃げられないんだ……」

 

魔王「消えるしか……な……い……」

 

勇者「しっかりしろっ!お前らしくないぞ。立て、ほら!」

 

魔王「……」

 

 

 

勇者「……っじゃあお前を抱えてでも逃げるからな!」ヒョイ

 

勇者「竜人や魔女や姫様はいまもあそこで戦ってるはずだ!

    俺たちがあきらめちゃだめだろ!」

 

勇者「絶対……何とかなるはずだ。何かあるはず」

 

勇者「お前魔法が使えなくなっても魔王だろ。

    俺も魔法が使えなくなったが勇者だ」

 

魔王「……うん」

 

勇者「数年前、もう絶対だめだって思ったことが何度もあったが俺もお前もこうして生きてる。

   今回だって何とかなるはずだ。魔王もそう思うだろ?」

 

魔王「……ん……」

 

勇者「じゃあ行くぞ!馬!出発だ!!」

 

 

 

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315 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:02:00.28 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

勇者「大体島にいた魔族みたいな、あんな一癖も二癖もある奴らがそう簡単に消されたりしない!」

 

勇者「竜人も魔女も姫様も強い!だからきっとまたいつか会える!」

 

勇者「それに王都もな、あそこにはあの戦士と騎士がいる!絶対みんなを守ってくれてるはずだ」

 

勇者「しかもあの国王だぞ。あいつだぞ!?あんな色々超越してる王がいる国がそんな簡単に滅ぶか!!」

 

勇者「だから泣くな!」

 

魔王「…………泣いてないっ」

 

勇者「俺のマントで涙をふけ!!」

 

魔王「だから泣いてない!!……私を誰だと思っているっ」

 

魔王「私は魔王だ! 魔王がそんな簡単に泣くかっ。泣いてるように見えると言うのなら……」

 

魔王「君の目が節穴なんだっ!!」

 

勇者「……ああそうだな!俺の目が節穴だ」

 

 

勇者「……まだ追ってくるな、あいつら。この剣を持っておけ。俺の二本目の剣だ」

 

魔王「剣? なるほどこれで快刀乱麻の面目躍如を見せて汚名返上しろと言うのだな。了解だ」

 

勇者「いや……まあ、お前に持たせても自滅の予感が薄らするが……一応な」

 

 

 

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316 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:05:41.96 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

ゴゴゴゴゴ……!

 

 

勇者「まだ地震か!」

 

 

ガッ

 

 

勇者「馬!!」

 

勇者「うおっ……ちょっ待て……持ちこたえろ馬!!」

 

勇者「どわあっ!!!」

 

魔王「うわっ!」

 

 

 

ドサッ

 

 

魔王「うっ…… いたた…… 勇者くんっ」 

 

魔王「大変だ、勇者くんが馬から投げ出されて崖から落ちてしまった」

 

魔王「勇者くん!!待ってろ、いま助けに行くぞ!」

 

魔王「馬…… あ……」

 

 

影「……」

 

影「……」

 

 

魔王「……来たか」

 

魔王「……馬も消したのか」

 

 

 

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317 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:07:13.79 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

魔王「魔法が使えればお前らなんてすぐ……」

 

魔王「……いや、魔法が使えなくても負けはしない」

 

 

魔王「かかってこい……っ」チャキ

 

魔王「イメージトレーニングだけならこの国の誰よりもしてきた自負がある!」

 

魔王「好き勝手やってくれているじゃないか。落とし前、つけてくれるのだろうな……!」

 

魔王「来ないのなら、こちらから行くぞっ!」ダンッ

 

 

ビシミシミシミシ……ビシッ!

 

 

魔王「……ん?」

 

魔王「なんだ……地面が」

 

 

ズボッ

 

 

魔王「ふわっ」

 

魔王「わーーーーーーーーーっ!?」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

318 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:08:34.06 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

バキボキバキッ ドサッ

 

 

勇者「ぐえっ!!」

 

勇者「ぐあぁぁ いってええ……痛みを通り越して痒いっ!」

 

勇者「ここは? ……魔王?魔王ーーーーーーっ!」

 

勇者「いないっ!!どこ行った!? あと馬は!?」

 

勇者「はぐれた……」

 

 

 

勇者「! お前らどこにでも湧いてくるな……」

 

影「……」ノソッ

 

勇者「おっと。次から次へと全く……!消されてたまるか!」

 

勇者「魔王ーーーーーーっ!どこにいるんだ!?返事しろーーーーーー!」

 

勇者「お前ら邪魔だ、どけ!どかんかいコンチクショウ!!」ズバッ

 

勇者(……?)

 

勇者(この匂い……どっかで)

 

 

ブン

 

 

勇者「うわっ 人が考えてる時にやめろ」

 

 

  ワーーーーー……

 

勇者(!! 魔王の声だ)

 

勇者「あっちか!!」

 

 

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319 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:10:37.71 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

ザッ

 

 

勇者「確かこの辺から…… 魔王!どこ行った!?」

 

勇者「……ここにも影が。……まさか……!?」

 

勇者「おーーい魔王!! 返事しろーーーーっ」ザシュ

 

 

   「こっちだ、勇者くん……下だ!!」

 

勇者「下!? 下って…… なんだあの穴」

 

勇者「そこにいるのか!?分かったいま行くオラァてめーらどきやがれ!!!」

 

 

ドサッ

 

 

勇者「いてっ……。……こりゃ暗くてよく見えないが階段か?」

 

魔王「早く奥に来るんだ!彼らは光のあるところでしか動けないみたいだから」

 

勇者「あ、そっか。そうだったな!」

 

 

 

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320 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:12:52.82 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

勇者「全然目が見えない……どこにいる?」

 

魔王「ここだ!もっとあそこから離れた方がいい、こっちへ」

 

勇者「無事だったか。怪我ないか?」

 

魔王「ああない」

 

勇者「なあ。そう言う割に、いま腕掴んだ時に濡れてる感触あったんだけどこれなに?」

 

魔王「血だ。全てかすり傷だから平気だ。自分の剣でつけてしまったものだから大事ない」

 

勇者「やっぱ剣貸すのやめときゃよかった」

 

魔王「君こそ崖から落ちたが平気なのか」

 

勇者「ああ平気だ」

 

魔王「さすがだな勇者くん……タフさが人外じみている」

 

 

勇者「あの穴と階段は何だったんだ?」

 

魔王「あまり詳しく調べられなかったが、どうやら隠し階段のようだ」

 

勇者「隠し通路……この地下の空間と地上をつなぐものか。

    ここは随分広いみたいだが一体……地割れでできたものじゃないよな」

 

魔王「暗くてよく見えないのだ。以前なら夜目もきいたし聴覚で大体の広さも分かったのだが」

 

魔王「でももしかしたら、地下遺跡かもしれない。

    この国の地下には村ひとつ軽々入るくらいの遺跡がいくつか存在するらしいのだ」

 

魔王「戦争で消えてしまったのもあるらしいが」

 

勇者「これが遺跡ねぇ。確かにうっすら建物の輪郭が見えるな」

 

勇者「遺跡って古代の?」

 

魔王「そう伝えられているが……もっと昔のものかもしれないな」

 

 

 

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321 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:16:36.35 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

魔王「しかし不思議なのは地上からの隠し階段があったことだ。

   もしかしたらこの遺跡は以前誰かに使われていたのかもしれない」

 

魔王「隠し階段のあったところに植物が普通に生えていたことから、

    それは多分とても昔のことだと思うが」

 

勇者「遺跡なんて何に使うんだ?」

 

魔王「さあ……ツアーとか」

 

勇者「ツアーだったら隠し通路使わずに堂々と入るだろ。

   そもそも遺跡を発見したら普通に発掘すればいいのにな」

 

魔王「誰かが隠れ住んでいたのかもな」

 

勇者「地下なんて住みづらそうだ」

 

 

 

 

勇者「ずいぶん進んだな……なんて広い遺跡だよ」

 

勇者「ここにならみんなを安全に避難させることができるんだけどな。

   知らせる術がないな……地上には影がうようよしてるし」

 

魔王「……あ、あそこに何かあるぞ」

 

魔王「これは……」ペタペタ

 

魔王「階段だ。ここからも地上に上がれる」

 

勇者「ずっとここにいるわけにもいかないしな、行くか」

 

魔王「問題はどこにつながっているかだが」

 

勇者「行ってみりゃ分かるさ」

 

 

ガコッ

 

 

――――――――――――――――――――――――――

322 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:18:33.47 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

勇者「ぐ、まぶし…… ここはどこだ?」

 

魔王「……あ、ここは」

 

勇者「分かるか?」

 

魔王「……ここは恐らくこの国の最端……向こうを横切る大河が見えるだろう」

 

魔王「あの大河を渡ると、魔王城がある……」

 

勇者「魔王城?でも、城は……」

 

魔王「私たちの城ではない。先代の魔王が住んでいた城だ」

 

魔王「竜人と魔女と、一度だけ行ったことがある。もう廃墟同然になっていたが」

 

勇者「……」

 

勇者「何かあるかもしれない。行ってみるか」

 

 

勇者「……どのみち、進むしかないみたいだ。ほら、後ろ見てみろよ」

 

影「……」

 

影「……」

 

魔王「そうだな」

 

魔王「行こう」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

323 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:22:50.03 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

ダッダッダッダ……

 

 

影「……」ヒュン

 

勇者「……な、なんかあいつら、さっきの奴らと違って足はやくねーか!?」

 

魔王「はあ、はあ……!」

 

勇者「もう少し速く走れないか魔王!?追いつかれる!」

 

魔王「分かった」

 

勇者「悪いが全然速度あがってないぞ!ええい、もう担ぐ!!じっとしてろ!!」

 

魔王「えっ?」

 

魔王「うわあぁっ!」

 

 

 

 

 

大河

 

 

勇者「よしついた!飛び込むぞ!」

 

 

バチャーン

 

 

魔王「えっ!? ……え?泳いで行くつもりなのか?」

 

勇者「当たり前だろ。早くお前も来い!」

 

魔王「橋か船を探した方がいい。きっとそのへんにあるはずだ」

 

勇者「そんな時間ないって!もうすぐそこまで影が迫ってきてるんだぞ!

    また追いつかれる!早くしろっ」

 

魔王「……でも……私は無理だ!」

 

魔王「そうだ、ではこうしよう。勇者くんは先に行っていてくれ。

    私は船か橋を探してから行く。必ず追いつくから心配しないでくれ」

 

勇者「そんなことできるわけないだろ!?船も橋も見る限り近くにない!!

    絶対おぼれさせないから早くしろ!!」グイ

 

魔王「ひっ引っ張るな! わ……私は、お、およ、泳げないっ!」

 

魔王「頼むから……やめてくれっ」

 

勇者「大丈夫だって!必ず向こう岸に渡すから!!ほらお水は友だち!!」

 

魔王「いやだぁっ」

 

影「……」ダッ

 

勇者「!? ま、魔王!!」グイッ

 

魔王「いっ……!!?」

 

 

 

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324 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:26:07.85 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

 

魔王(……)

 

魔王(……)

 

魔王(……)

 

魔王(あ)

 

魔王(死んだ)

 

 

 

バッチャーン……

 

 

ブクブクブクブク……

 

ゴボゴボ……

 

ゴボ……

 

 

魔王(くらい……)

 

魔王(みずうみのそこ……)

 

 

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325 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/09(月) 23:28:08.09 ID:+KF7K+uvo

 

 

 

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―――――――――――――――

――――――――――

 

 

魔王「…………」

 

魔王「…………」

 

魔王「……うん……」

 

魔王「ここは……?」

 

魔王「私は……?何故ここにいるのだっけ」

 

魔王「夜の花畑……一体ここは……」

 

 

タッタッタ……

 

 

   「冥府です」

 

魔王「冥府……?」

 

魔王「君は」

 

鍵守「鍵守といいます。ここ冥府の番人です……」

 

魔王「冥府って……ということは私は死んだのか?」

 

鍵守「はい……がっつりしんでます……」

 

魔王「がっつり死んでしまったのか……」

 

 

鍵守「あなたが――ちゃん……魔王だね」

 

魔王「なぜ……?」

 

鍵守「ずっと前からボクはあなたのこと、しってたんだよ」

 

鍵守「はなしたいことがあります」

 

 

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333 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 22:53:41.84 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

鍵守「創世主の彼によって、このままではセカイはめつぼーの いっとをたどります」

 

鍵守「たすけてほしいんだ」

 

鍵守「このセカイと……彼を」

 

魔王「世界の崩壊を阻止する方法が何かあるのなら、教えてくれ」

 

魔王「……と言っても私はすでに死んでいるのだが、それでも力になれるのなら」

 

鍵守「うん……トビラの先にいってほしいんです」

 

鍵守「カギはボクがもっているから……」

 

魔王「扉なら勇者くんたちがもう開けたぞ」

 

鍵守「そのトビラじゃないよ」

 

鍵守「あのトビラは彼が用意したダミー……」

 

鍵守「ほんものは、ここ冥府にあります。だから彼もそうたくさん干渉できません」

 

鍵守「ここだけはボクのセカイだから」

 

 

鍵守「……トビラをあけてほしい。でもいまのあなたではできません。

   いまはいちじてきに、こころだけここにきて、ボクと話しているだけだから」

 

鍵守「だから、ちゃんと全部ここに来てほしいんです」

 

魔王「……どういうことだ?」

 

鍵守「じつは、あなたが死んでいるというのは、うそです」

 

魔王「えー……?」

 

 

 

 

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334 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 22:56:55.52 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

鍵守「自分が死んだとこころが勘違いしてしまったせいで、あなたはここに来たんです……」

 

鍵守「でも、そのおかげでボクはあなたに話すことができた」

 

魔王「体が透けていく……が」

 

鍵守「あなたが気づいたおかげで、もうまもなくあちらにもどれるとおもいます」

 

鍵守「でもどうかわすれないで。ボクが言ったこと、おぼえててください……」

 

鍵守「かならずまたここにくるって……やくそくしてくれますか?」

 

 

鍵守「……ちなみにおすすめの方法は どく」

 

鍵守「からだはちゃんとのこしておいた方が、いちおう……いいですよ」

 

 

 

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335 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 22:58:47.81 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

* * *

 

 

ビチャッ

 

 

勇者「ぜはあっ……はあはぁ……魔王!!!おいしっかりしろどうした!!」

 

勇者「そんな……入水しただけで気絶するほどカナヅチなのかお前!!」

 

勇者「生きてるか!?……息はしてるな……ふう」

 

魔王「……」

 

 

勇者(……)チラ

 

勇者(影……追ってこないな)

 

勇者(対岸でうろうろしてる。水には入れないのか?なんにせよ、助かった……)

 

勇者「とりあえず……進むか」

 

 

 

 

 

勇者(先代魔王の領地……そういや俺も昔、魔王城探しの旅で、神官と戦士と来たことがあったな)

 

勇者(あいつら……いまどうしてるかな。……生きてるよな)

 

 

勇者(いま改めて見るとなんだか寂しい土地だ。生き物の気配が全然なくて、植物だけ鬱蒼と生えてて)

 

勇者(でも、やっぱり昔はもっと賑やかだったんだろう)

 

勇者(……ここにあった魔族の村は、全部先代の勇者が討ち滅ぼしたんだったよなぁ)

 

勇者(ずいぶん強かったんだろうな……魔法が得意だったそうだが、羨ましい限りだ)

 

勇者(……だけど)

 

魔王「……」

 

勇者(もし戦争に勝ったのが勇者じゃなくて魔王だったなら、こいつも、魔女や竜人も、ほかの魔族も)

 

勇者(辛い目に合わずに生きてこれたんだろうな)

 

勇者(いや……こんな勝手な同情、失礼か。こいつらにも、先代たちにも)

 

 

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336 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:00:30.83 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

勇者「ぐううう、まだか先代の魔王城は? えらい遠いな……」

 

勇者「あ」

 

 

ポッ ポッポツ……

 

  ザアァァァァァァ……

 

 

 

勇者「げっ……まじか。また雨」

 

 

ザアアアァァァァァ!!!

 

 

勇者「……じゃなくて嵐? いたたっ ……さらに雹!?」

 

勇者「……魔王も目を覚まさないし、どっかで雨宿りしないと……」

 

 

 

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337 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:04:04.00 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

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ザアァァァァァァァァ……

 

 

魔王「…………」

 

魔王「…………」

 

魔王「……とびら……」

 

魔王「……」パチ

 

 

魔王「ここは……?」

 

勇者「はあ、はあ、 ……魔王!起きたか!!」

 

勇者「今な……火を起こそうとしてるんだが、どうもうまくいかなくて」

 

勇者「確か石を二つこう……なんか打ち合わせて、息を吹きかけるみたいな感じだったと思うんだが」

 

魔王「……私はいま生きてるか?」

 

勇者「ええっ怖いこと言うなよ。生きてるよ」

 

魔王「……冥府にいってきたんだが、そこで鍵守と名乗る子どもと話をしたんだ。

    もう一度来てほしいと言われた……」

 

魔王「毒がおすすめだって……」

 

勇者「……熱ある?」

 

魔王「ない……」

 

 

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338 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:08:02.14 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

魔王「夢だったのか……?」

 

勇者「……よしんば本当だったとして末恐ろしい子どもだな。

    要するにそれ、死ねってことだろ」

 

勇者「まあ冥府にいる奴なんだから、死神みたいなもんだと思うが」

 

魔王「うーん……」

 

勇者「おい、やめろよ?死ぬなんてやめてくれよな。

   そんなの夢に決まってるだろ。早まるな」

 

魔王「……そうだな」

 

魔王「ところで、ここは……?洞窟?」

 

勇者「ああ、無事大河を渡れたよ。ここは元魔族領だ。

    だが魔王城に辿りつく前にひどい雨が降ってきて」

 

勇者「偶然見つけた洞窟に急きょ避難したってわけだ」

 

魔王「……」

 

魔王「勇者くん腕は?腕を見せてくれないか」

 

勇者「? なんでだよ。別になんともない」

 

魔王「何ともないなら見せられるだろう。

   ……あっ 怪我をしているじゃないかっ」

 

魔王「大丈夫か!? 痛くないか……? いや怪我だし痛いか……。

   やっぱり崖から落ちたときに怪我をしていたんじゃないか!なんで黙っていたんだ」

 

勇者「いや、ただちょっと捻挫かなんかで痣になってるだけだ、こんなん。すぐ治るよ」

 

魔王「いま治癒魔法……。……は使えないのだった。はあ……」

 

魔王「薬草をとってくる。すり潰せば捻挫に効く植物を知っているのだ。

   あと木の実とか果物キノコなど何か食べれるものもついでに獲ってくる」

 

勇者「待て待て!この大雨の中行く気か?俺は本当に平気だから」

 

勇者「お前こそ休んどけよ。さっきまで気絶してたんだぞ。

    食べ物は雨が止んだら一緒に獲りに行こう」

 

魔王「でも……これじゃ私は……」

 

勇者「あーーー、火つかねえ!なんだこれアホか!!石でほんとに火つくのかよ!」

 

 

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339 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:10:32.20 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

勇者「……悪かったな、無理やり引っ張って」

 

勇者「泳げなかったのか」

 

魔王「……そうだ。笑ってもいいぞ。この年で泳げないなんて。

   でも私は水の中でなく陸上で生きる生物なのだから別に水泳なんてできなくとも構わんのだ」

 

魔王「私は陸上で生きる生物だからな別にいいのだ水泳能力などなくても生きていける」

 

勇者「言いたくないなら言わなくていいけど、」

 

勇者「……もしかして……それって、昔なにかあったのか」

 

魔王「……ん?」

 

魔王「ん……どうだろう…… わからん」

 

勇者「……」

 

勇者「ごたごたしててちゃんと謝ってなかったな。ごめん」

 

魔王「え」

 

勇者「魔族みんないい奴で明るいから、つい忘れそうになっちゃうけど

   魔王があの島で村をつくるまで、みんないろいろあったんだよな」

 

勇者「……お前も」

 

勇者「そういうの全然考えないで、あのときは軽率なことを言って悪かった」

 

勇者「確かに俺みたいなやつに、お前の気持ちが全部分かるなんて言われたら腹立つだろうな」

 

 

 

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340 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:12:22.11 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

 

魔王「えっ……」

 

魔王「あ……ああ、あれか。いや、謝るのは私の方だ……」

 

魔王「私も意地を張って悪かった。

   ……人間と魔族の共存を願って、その隔てをなくしたいと思っておいて」

 

魔王「そのくせ一番種族の違いを気にしているのは私だったのかもしれない」

 

魔王「勇者くんは正しいことを忠告してくれたのに、あんなことを言ってごめんなさい……」

 

 

魔王「……それに、魔力をなくして人間になってはじめて分かったのだが、

   魔法が使えないというのはとても怖いな」

 

魔王「敵がいても太刀打ちできない、どうにもならない。

    魔法が使えないと、人とは、こんなにも無力なのだな」

 

魔王「そんな人間のそばに……魔法を使える者がいたら……

    外見も、みんなと違う異形の者がいたら」

 

魔王「怖がって自分たちから遠ざけるのも、分かる」

 

魔王「もし私が生まれたときから人間で……それで近くに魔王の私が住んでいたら

   やっぱり怖がっただろうな」

 

魔王「……分かるよ」

 

 

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341 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:15:33.34 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

 

勇者「……そんなの全員が全員怖がるわけじゃないだろ」

 

勇者「お前がむやみやたらにわざと魔法を使いまくって被害を出す奴だったら、

   まあ……怖いかもしれないが、魔王はそういう奴じゃないだろ」

 

勇者「むしろいつも誰かのことを考えて魔法を使ってるじゃないか。

   つーか攻撃呪文自体それほど好きじゃないみたいだし……」

 

勇者「なんかわけ分からん魔法の研究してたし」

 

勇者「……まあ俺も!初対面でいきなり剣突きつけた俺が言えたことじゃないかもしれないけど!」

 

勇者「でもやっぱり、お前は何も悪くないと思うぞ……うん」

 

魔王「……」

 

勇者「もっと早く会いたかったよ。そしたら、友だちになってさ

   お前がもし困ってたら助けてやるし、誰かにひどいことされてたら俺がそいつ殴ってやったのに」

 

勇者「……魔王が言うように俺はお前の気持ち全部理解することはできないかもしれないけど」

 

勇者「やっぱ理解したいよ。知りたいって思ってるんだ」

 

 

魔王「…………」

 

魔王「……私も……」

 

魔王「私にとって、君は一番大事な友人だ」

 

勇者「へっ!? ……あうんそうだな。俺もお前のこと大事な、友人だって思ってるよ」

 

 

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342 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:17:49.28 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

 

魔王「君ももう察しがついていると思うが、私が泳げないのは昔、水審判にかけられたから」

 

魔王「まだ魔力もうまく操れなかった頃のことで、色々迷惑をかけながら生きていた。

   誰も教えてくれなかったから、呪文も分からなくって……」

 

魔王「感情が高ぶると魔力が勝手に魔法に変わってしまって

   畑を凍らせてしまったり、空き家を燃やしてしまったこともある」

 

魔王「……というかそれは今でも極稀にある」

 

勇者「あんのかよ……」

 

魔王「だから……ひと所にずっといるところはあまりなかったな」

 

魔王「だがこんな私でも、姿を隠して人のフリをしていれば、

   行き倒れているところを助けてくれた親切な人はいたのだ」

 

魔王「あるときそんな風にして老夫婦に拾われた。二人ともすごく優しくて

   そこでしばらく畑の手伝いをしたり家事を手伝ったりして過ごした」

 

魔王「でもやっぱり少し様子が変だったのだろうな」

 

魔王「ある日目が覚めたら、ベッドで寝ていたはずなのに外にいて、

   足に枷がついてて、その先には大きな石がくくりつけられてて」

 

魔王「村のはずれにあったきれいな青い湖が目の前に広がっていた」

 

 

 

 

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343 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:21:48.18 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

 

 

魔王「君が賢者の家で読んでいた本にあったように、

   水審判とは悪魔かどうか疑わしい者を水に沈めて審問するものだ」

 

魔王「石をつけて浮きあがってきたら悪魔、沈んだら人間」

 

勇者「ひどいな……」

 

魔王「神官の姿は見当たらなかったから村人が独断で行ったのだろう。

   私を湖に突き落としたのは、私を拾ってくれた老夫婦の妻の方だった」

 

勇者「……それでどうしたんだ」

 

魔王「湖の中で何とか枷を外そうとしたのだがうまくいかなくて

   それでもがんばっていたら最後に石の方が壊れた……」

 

魔王「……死に物狂いだったので許してほしいのだが、石どころか湖ごと大破したようだ……」

 

魔王「……これは申し訳なく思っている」

 

魔王「その騒ぎを聞きつけて、近くにいた竜人と魔女が私を助けてくれた。

   私は石にヒビが入るのを見た時に既に意識を失っていたから覚えてないのだが」

 

魔王「それから二人と行動するようになったのだ」

 

 

魔王「今でも水に入ると、突き落とされたときの肩の感触とか

   光も音もない水底で、一人で、どんどん息苦しくなっていったこととか思い出して」

 

魔王「だから泳ぐのはどうしてもできない」

 

勇者「……そうか」

 

勇者「…………ほんっと無理やり引っ張って悪かったな……」

 

勇者「…………俺を殴ってくれ!」

 

魔王「い、いい。別にそういうつもりで話したのではない」

 

 

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344 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:23:36.84 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

魔王「それに……あのときあのまま橋や船を探していたら、影に追いつかれていただろう」

 

魔王「腕を怪我しているのに、気を失った私をここまで運んでくれてありがとう……」

 

魔王「……たすけてくれて……」

 

魔王「……ありがとう……。勇者くん」

 

魔王「やっと言えた」

 

勇者「……? 別にいいよ。気にすんな」

 

勇者「話してくれてありがとな」

 

魔王「この話を誰かにしたのは初めてなのだ。

   竜人や魔女にも、誰にも話したことはなかった」

 

勇者「……そんなひどい目にあって……よく人間に対して友好的になれるな。

   俺だったら、どうなるか分からん」

 

魔王「たすけてくれた人がいたからな」

 

魔王「だから……人のことも好きになれた」

 

魔王「人のことが好きになった」

 

魔王「いつもたすけてくれる人のこと……」

 

 

 

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345 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:27:05.02 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

 

魔王「君は私の一番大切な友人だ」

 

魔王「だから、幸せになってほしいな……」

 

勇者「なんだよ……急に」

 

魔王「ずっと君の幸せを願っている」

 

魔王「勇者くんがずっと笑っていられるよう祈ってる」

 

魔王「祈ることは魔力がなくてもできるから」

 

 

魔王「雨があがったな」

 

魔王「進もう。城へ」

 

魔王「私が案内する」

 

 

 

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346 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:28:43.82 ID:ZhIBJlv5o

 

 

魔王城 廃墟

 

 

勇者「ここか……」

 

魔王「君も来たことがあるのではないか?」

 

勇者「魔王の居場所を探す旅の途中でな。誰もいなかったけど」

 

勇者「あのときよりもすごい有様になってるな。木が生い茂って、ツタが壁を這って……

    まあ、魔王城っぽいと言えば魔王城っぽい」

 

 

ガタ……コツ……コツ……

 

 

勇者「中もひどいな。荒れ果ててなきゃそれなりに立派な城だったんだろーが。蜘蛛の巣だらけだ」

 

魔王「うん゛……早く進もう」

 

勇者「……」

 

魔王「何だその目は。魔王が虫など怖がるわけあるか。だんご虫なら平気だ」

 

勇者「そっかぁ……」

 

 

ガコッ

 

 

魔王「この階段の下に隠し通路があるのだ」

 

勇者「おお……けっこうでかいな」

 

魔王「行ってみよう」

 

 

勇者「一度、竜人と魔女とここに来たことがあるって言ってたよな。何しに来たんだ?」

 

魔王「魔王を探しに」

 

勇者「は? ああ、自分探しの旅とかそういう意味か?」

 

魔王「違う。文字通り魔王を探しに来た。ここが一番可能性が高かったから」

 

魔王「ある者から、魔王が存在することを聞いて……彼を探しに来たのだ」

 

 

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347 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:30:38.60 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

* * *

 

 

「ほんとか?」

 

「ほんとにそう言ってたのー?」

 

「いってた……」

 

「魔王がいるって……でもどこに?」

 

「わかんない……」

 

「戦争で殺された魔王が復活したってことか……?」

 

「じゃ、探しにいこーよ!魔王がいるならあたしたちを守ってくれるっしょ。

 これで暮らしもちょっとは楽になるし」

 

「強い魔王がいたら人間たちもギャフンと言わせてやれるって!」

 

「探しに行くか。でも、その魔王がいるっていうのは、だれから聞いたんだ?人間か?」

 

「……人間」

 

 

 

「まあ、定石どおりにいくならまず魔王城に行ってみるか」

 

「人間どもが邪魔してくるかもしれないからしっかり準備しとかないとな」

 

 

 

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348 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:33:46.99 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

 

「チッ……やっぱ手間取ったな。くそ邪魔しやがって人間全員死ね今すぐ死ね殺すぶっ殺す」

 

「うーわ、ここが魔王城かー。ボロッ」

 

 

「ひゃーん蜘蛛の巣いっぱいあってこわいよぉ」

 

「だれに対してやってんだそれ?見苦しいからやめろ」

 

「死ね」

 

「あ。 ――、腕になんかのぼってるよ」

 

「……!? とってとってとってとってとってぇ」

 

「イモリだ。薬の材料に使えるからビンに入れて持ってかえろーっと」ワシッ

 

「なにが蜘蛛の巣こわいだ、イモリ鷲掴みじゃねーかよ」

 

「両生類と昆虫はちがうんですぅー なによイモリの同類のくせして」

 

「竜とイモリをいっしょにするんじゃねえ」

 

「ねえもうかえろうよぉ……ここ、こわいよ……」

 

「魔王を見つけたらな……」

 

「手つないであげる。ほらおいで」

 

 

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349 : ◆TRhdaykzHI [saga]:2014/06/19(木) 23:36:53.84 ID:ZhIBJlv5o

 

 

 

「なんかこの階段の下、怪しくないか。よく調べると魔法の痕跡がある」

 

「向こうにお宝があったり?」

 

「なんとかここ壊せないだろうか」チャキ

 

 

ギイン!

 

 

「……だめだな。どうやら普通に壊そうとしてもできないらしい。魔法がかけられてるんだろう」

 

「あんたの馬鹿力でもだめかー」

 

「火炎魔法…… だめだ。氷魔法、風魔法…… チッ」

 

「この魔法、この城に住んでた魔族が昔かけたものなんだろーけど、ずいぶん魔法が上手だったみたいね」

 

 

「……そうだ、――。この間教えた魔法ちょっとやってみるか?」

 

「――ならあたしたちより魔力強いみたいだしいけるかも」

 

「ていうか強すぎることが心配だけどね。この城崩れたらどうしよ」

 

「落ち着いて、集中するんだ。いいか? 別に魔法は怖いものじゃないから」

 

 

ガコッ……

 

 

「えっ……詠唱なし!? ひええ、すっごいじゃん!才能あるよ!」

 

「まだなにもやってない……」

 

「手を触れただけで魔法が解除された?俺たちがあんなにやってもびくともしなかったのに」

 

「……うーん……もしかして」

 

「……まあとにかく先に進むか。この先に魔王がいるかもしれない」

 

「魔王ってかっこいいかな?イケメンかな?」

 

「100年前に死んだ魔王が復活したってことなら、年くってんじゃねーのか」

 

「オジサマも素敵」

 

「言ってろ」

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